説明

α−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法

【課題】各種用途に幅広く適用可能なα−(アルコキシアルキル)アクリレートを、高純度で、かつ工業的に容易に得るための製造方法、中でも特に、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造に好適に適用できる製造方法を提供する。
【解決手段】α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であって、該反応により得られた、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを含有するα−(アルコキシアルキル)アクリレート粗製物を、無機アルカリを用いて処理することによって、該α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除く操作を行うα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法に関する。より詳しくは、光学材料や塗料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用原料等の他、様々な用途に有用なα−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−(アルコキシアルキル)アクリレートは、光学材料や塗料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用原料等の他、様々な用途に有用なものである。このようなα−(アルコキシアルキル)アクリレートの中でも、1分子内にアクリロイル基と不飽和アルコキシ基(アリルエーテル基等)との2つの不飽和基を有するα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、重合時に環化する特殊な単量体であると認識されており、これを用いて環構造を主鎖等に有する重合体(樹脂)を製造する方法が近年検討されつつある。
【0003】
環構造を主鎖等に有する重合体(樹脂)は、環構造に起因して耐久性、特に優れた耐熱性を発揮するため、そのような特性が要求される技術分野、例えば、エンジニアリングプラスチック、光学材料、レジスト材料等の様々な分野での利用が期待される有用な材料として注目されており、このような樹脂を得るための従来の方法として、環構造を有する単量体を重縮合又は付加重合により連結する方法や、環構造を有さない単量体を付加重合と同時に環化させながら重合する方法がある。中でも、付加重合と同時に環化させながら重合して環構造を有する重合体を得る方法は、予め環構造を有する単量体を調製したうえで重合を行う手法とは異なった新たな製法を提供するものであることから、環構造を有する重合体が利用される様々な技術分野において、そのような製法の利用が期待されるところである。なお、いずれの方法においても、付加重合による方法は、二重結合等の不飽和結合を有する単量体を重合することになるが、一般的に分子量調整が容易であり、また温和な条件で様々なビニルモノマーを共重合させることが可能であるため、用途に応じた物性調整や様々な機能の付与がしやすい。そのため、高度でかつ多様な機能を求められる光学材料やレジスト材料等の用途向けの樹脂の合成方法として検討されている。
【0004】
このような環構造を主鎖等に有する重合体(樹脂)の製造に使用が検討されているα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、例えば下記構造を有し、重合時に環化反応が進行し、環構造を有する重合体を生成することになる。括弧内に反応式におけるラジカル重合の機構を例示する。
【0005】
【化1】

【0006】
従来のα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法としては、例えば、三級アミンの存在下で、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル等のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステルと、エチルアルコール等のアルコールとを反応させて、α−(エトキシメチル)アクリル酸メチル等のアリルエーテル化合物を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、特定のジアルキル2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレート類と、ヒドロキシ基含有化合物類等の活性水素基含有化合物とを反応させるα位置換アクリレート類の製造方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。また、特定のアクリル酸エステル類と、ヒドロキシ基含有化合物とを反応させるアリルエーテル類の製造方法(例えば、特許文献3参照)や、α−(ハロメチル)アクリレートから製造する方法として、α−(クロロメチル)アクリル酸エチルよりα−(アリルオキシエチル)アクリル酸エチルを製造する方法も開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3943180号明細書
【特許文献2】特開2005−239610号公報
【特許文献3】特開平8−325200号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ロバート・D・トンプソン(Robert D. Thompson)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1992年、第25巻、p.6455−6459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、α−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法が種々検討されている。しかし、従来の技術水準を示す文献においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造するに際して、蒸留等の精製方法を工夫したものは全く見当たらない。なお、例えば、特許文献2においては、実施例1において精製工程として水洗が行われた旨が、特許文献3においては、実施例1等において精製工程として洗浄・抽出が行われた旨が各々記載されている。しかしながら、これらの精製手法は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法において、反応により得られた反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを除くための有効な手法とはならないものと考えられる。つまり、これら特許文献に開示の精製手法は、通常は触媒除去を主な目的に水洗を実施するものであり、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを除去する有効な手段とはなっていない。
【0010】
従来の技術水準を示す文献ではまた、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、1分子内にアクリロイル基及び不飽和アルコキシ基(アリルエーテル基等)という2種類の異なった不飽和基をもつ特殊な構造の単量体であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造するということに特定する開示はない。例えば、特許文献1には、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートについての言及はなく、重合性二重結合を有する単量体の一般的な製法が開示されているに過ぎない。また、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用したものではないが、α位置換アクリレート類の製造方法を開示した特許文献2においても、原料成分の1つの例示として、アリルアルコールが挙げられているだけである。これらのことから、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるが、特殊な単量体であるがゆえに、このような単量体として工業的に有効に利用できるようにするための製造方法や精製方法がこれまで検討されてこなかったといえる。
【0011】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、各種用途に幅広く適用可能なα−(アルコキシアルキル)アクリレートを、高純度で、かつ工業的に容易に得るための製造方法、中でも特に、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造に好適に適用できる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、α−(アルコキシアルキル)アクリレートの製法について種々検討したところ、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを生成させた後、反応により得られた粗製物(すなわち、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを含有するα−(アルコキシアルキル)アクリレート粗製物)を無機アルカリを用いて処理することによって、該粗製物から、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを充分に取り除くことが可能となることを見いだした。そして、このような工程を含む製造方法とすれば、工業的に容易かつ効率的に、高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得ることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。そして、このような製造方法が、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法に特に好適に適用でき、この場合には、工業的に容易に高純度のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造できるという効果がより際立って発揮されることを見いだした。つまり、このような本発明の技術は、特殊な単量体であるがゆえに、これまで検討されてこなかったα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを、通常の工業的精製手法を用いて高純度で効率的かつ容易に得ることができるという、工業的に技術的意義が大きく、際立って優れた効果を奏することができることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0013】
このように本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る方法において、粗製物をアルカリで処理することによって、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除き、高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に容易かつ効率的に得ることを可能にしたものであるが、これは以下のメカニズムによるものと推測される。
【0014】
図1は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの1種であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルと、これを反応に用いて得られる、α−(アルコキシアルキル)アクリレートの1種であるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとの反応性の違いを推測した図である。
α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを反応に用いた場合、反応に使用した当該α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのすべてが目的生成物に転化されるわけではないため、この反応で得られる反応生成物(粗製物)中には、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルと、目的物であるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとが含まれることになる。
【0015】
α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルにおいては、カルボニル基を構成する酸素原子とヒドロキシル基を構成する水素原子とが、水素結合によって配位するため、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル中のカルボニル基を構成する炭素原子(カルボニル炭素)の求電子性が増加し、アルカリとの反応性が向上する。これに対し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルにおいては水素結合は生じず、アルカリとの反応性は特に向上しないため、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが選択的にアルカリと反応して加水分解されることになる。そうすると、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの水への溶解性が高まり、油水分離を行えば水相に移行するため、分離が容易になり、結果として、高純度のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを得ることができるものと考えられる。
なお、上記メカニズムは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る場合に特有の現象といえ、他のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを用いた場合や、他のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る場合にも同様のメカニズムから、高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを容易に得ることができると考えられる。
【0016】
本発明者等はまた、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法において、当該α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートが、α位の二重結合炭素原子に不飽和結合を含む基を有するという構造上の特徴に伴い、その製法に特有の課題があることを見つけ出した。すなわち、1分子内にアクリロイル基とアリルエーテル基等の不飽和アルコキシ基とを有するα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用し、これとヒドロキシ基に不飽和結合を導入するための化合物とを反応させて得ることができるものの、反応後に、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが残存することになる。通常の工業的な製造工程においては、化学製品を製造するために蒸留等の精製工程を行うことになるが、反応溶液(反応後の溶液)中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとを比較すると、ヒドロキシ基を有するアクリレートはその極性により沸点が向上し、蒸留の際には、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとが同じような沸点となることに起因して分離が困難となる。そのため、通常の精製方法を実施しただけでは、純度の低いα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートしか得られないことになる。
【0017】
例えば、下記反応式に示されるように、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを用い、ヒドロキシ基に不飽和結合を導入するための化合物としてアリルアルコールを用いる場合には、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを得ることができ、これは環化重合という特異的な重合において特に有用な単量体である。この反応後のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル収率は、反応前のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対して60モル%である。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル転化率は88モル%であり、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが12モル%残存することになる。そこで、残存したα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを反応により得られた反応溶液から蒸留により除去しようとしても、反応溶液中のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルと、生成物であるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとの沸点が非常に近いため、蒸留精製によって、反応溶液からα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを除去することは非常に困難となる。
【0018】
【化2】

【0019】
ここで、非特許文献1等に記載のα−(ハロメチル)アクリレートから製造する方法においては、α−(ハロメチル)アクリレートと生成物であるα−(アリルオキシメチル)アクリレートとの間に充分な沸点差があり、蒸留精製により分離することができるため、本発明のような課題がなかった。ただ、それにもかかわらず、蒸留後も純度96%とより高純度化することはできなかった。また、ハロゲンを使用するために装置の腐食の問題が生じたり、環境に良好なものとはいえないうえ、高価なα−(ハロメチル)アクリレートを用いるものであった。
【0020】
これらのことから、本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る方法において、組成物をアルカリで処理してα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除くことによって、このような課題の解決を可能にしたものである。また、本発明は、α位に不飽和結合含有有機基をもつα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法や精製方法において特に効果を発揮する。
【0021】
すなわち本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であって、該製造方法は、該反応により得られた、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを含有するα−(アルコキシアルキル)アクリレート粗製物を、無機アルカリを用いて処理することによって、該α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除く操作を行うα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0022】
本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法である。ここで、「α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用」するとは、α−(アルコキシアルキル)アクリレートの合成において、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由することをいい、当該α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由する製法に本発明を適用することになる。α−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造において、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由する方法は工業的に有用であるが、本発明はその際に生じる精製上の課題を解消しようとするものともいえる。
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを合成して製造する方法の具体的態様については、後に詳述する。
【0023】
本発明の製造方法は、言い換えれば、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを、原料及び/又は中間体として、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法である。
上記製造方法においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを原料として合成するか、他の原料を用いてα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを中間体として生成させて合成するか、又は、これらを組み合わせて合成することになる。
【0024】
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートは、アクリレート中のカルボニル基に結合したα位の炭素原子、言い換えると、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子にヒドロキシアルキル基が結合した構造を有する。ヒドロキシアルキル基(−CROH基)を構成するR、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であることが好ましく、置換基を有するものであってもよい。また、アルキル基の構造は直鎖、分岐、環状アルキル基のいずれの構造であってもよい。
【0025】
上記ヒドロキシアルキル基(−CROH基)を構成するR、Rとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−アミル、s−アミル、t−アミル、n−ヘキシル、s−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、s−オクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシル等の直鎖、分岐のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、4−t−ブチルシクロヘキシル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、テトラヒドロフルフリル等の環状アルキル基;フェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、4−t−ブチルフェニル、ベンジル、ジフェニルメチル、ジフェニルエチル、シンナミル、ナフチルアントラニル等のアリール基等があげられる。
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとして好ましくは、R、Rが水素原子であるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートである。
【0026】
また生成物であるα−(アルコキシアルキル)アクリレートは、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子にアルコキシアルキル基が結合した構造を有するが、該アルコキシアルキル基のアルコキシ基としては炭素数1〜10のアルコキシ基が好適であり、アルキル基としては原料であるα−(ヒドロキシアルキル)アクリレートのアルキル基と同様のものが好適である。また、アルコキシ基は各々置換基を有するのもであってもよく、その置換基が環状アルキル基やアリール基であってもよい。アルコキシ基として例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、t−ブトキシ、n−アミルオキシ、s−アミルオキシ、t−アミルオキシ、n−ヘキシルオキシ、s−ヘキシルオキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、s−オクチルオキシ、t−オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、カプリルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等の鎖状飽和アルコキシ基;シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、4−メチルシクロヘキシルオキシ、4−t−ブチルシクロヘキシルオキシ、トリシクロデカニルオキシ、イソボルニルオキシ、アダマンチルオキシ、ジシクロペンタニルオキシ、ジシクロペンテニルオキシ、テトラヒドロフルフリルオキシ等の脂環式環状アルコシキ基;ビニルオキシ、アリルオキシ、メタリルオキシ、クロチルオキシ、プロパルギルオキシ等の不飽和アルコキシ基等が挙げられる。
【0027】
上記α−(アルコキシアルキル)アクリレートとして特に好ましい化合物は、本発明の効果がより発現しやすい観点から、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子に、不飽和結合を持つアルコキシアルキル基が結合した構造を有する、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートである。この場合、反応に使用されるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、生成物たるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差が非常に小さく、通常の蒸留精製では分離することが困難であるが、本発明の製造方法によれば工業的に容易かつ効率的に分離が可能となるため、本発明の効果がより際立って発現されることになる。すなわち上記製造方法は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であることが好適である。不飽和結合を有するアルコキシアルキル基としては、炭素数1〜10の不飽和アルコキシ基及び炭素数1〜10のアルキル基を有するものが好適であり、該アルコキシ基及びアルキル基は、各々置換基を有するものであってもよい。また、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとしてより好ましくは、α−(アリルオキシメチル)アクリレートである。
【0028】
なお、本明細書中、ヒドロキシアルキル基やアルコキシアルキル基等は、ヒドロキシ基やアルコキシ基が2価のアルキレン基に結合した1価の基となっていることから、各々、ヒドロキシアルキレン基、アルコキシアルキレン基等と標記してもよいものである。が、アルキル基にヒドロキシ基やアルコキシ基が結合した形で1価の基になっているとも考えられるため、本明細書中ではヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基等と標記している。また、不飽和結合を有するアルコキシアルキル基を構成するアルコキシ基についても、アルコキシ基に不飽和結合が結合した形で1価の基になっているとも考えられるため、そのように標記している。
【0029】
上記製造方法は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを使用した反応によって得られたα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを含有するα−(アルコキシアルキル)アクリレート粗製物を、無機アルカリを用いて処理することによって、該α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除く操作を行うものである。すなわち上記製造方法は、無機アルカリを必須とするアルカリによる、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの除去工程を含むものである。また、上記製造方法は、言い換えれば、未反応原料及び/又は未反応中間体を無機アルカリを用いて処理する工程を含むものともいえる。本発明はまた、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを原料及び/又は中間体として、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る反応における、未反応原料及び/又は未反応中間体を無機アルカリを用いて処理して取り除く工程を含む精製方法ともいえる。
【0030】
上記α−(アルコキシアルキル)アクリレート粗製物とは、上記反応により得られたα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、目的生成物たるα−(アルコキシアルキル)アクリレートとを含むものを意味する。この粗製物としては、反応により得られた反応溶液、すなわちα−(アルコキシアルキル)アクリレートを合成する反応により得られた溶液であることが好適である。
上記粗製物中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの含有量は特に限定されないが、通常は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、α−(アルコキシアルキル)アクリレートとの合計量100質量%に対し、3質量%以上である。また、本発明が奏する当該効果からすれば、含有量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、30質量%以下が好適である。
【0031】
上記のように、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを合成して製造する場合、反応により得られた反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを、工業的製造工程において完全に転化させることは実質的にはできない。すなわち、反応に使用したα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートのすべてがα−(アルコキシアルキル)アクリレートに転化されるわけではない。そのため、α−(アルコキシアルキル)アクリレートの合成後に得られた反応溶液中に、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが残存することになり、このアクリレートを除去するための精製工程を行うことになる。この精製工程では、通常、触媒や副生成物等の不純物も除去されるように操作することが好適である。
この際、本発明の製造方法においては、反応により得られた粗製物(反応溶液)を無機アルカリを用いて処理することになる。なお、本発明の効果が特に際立って発揮されるのは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとして、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用いる場合である。
【0032】
上記アルカリでの処理工程は、上記粗製物を無機アルカリを用いて処理することによって、粗製物から、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除く操作を行う工程であるが、上記粗製物に無機アルカリを含むアルカリを添加して反応させた後、油水分離を行い、水相部分を除去する工程であることが好適である。上記粗製物中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、α−(アルコキシアルキル)アクリレート(中でも特に、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート)とは、沸点差が殆どなく、通常の精製方法等では分離が困難であるが、アルカリを添加すれば、上述したようにアルカリとの反応性の違いに起因し、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが選択的にアルカリと反応し、加水分解されることになる。そのため、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの水への溶解性が向上し、油水分離を行うと水相に移行するため、油水分離という簡単な操作で、高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得ることが可能になる。
また使用目的に応じて、更に高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得るために、無機アルカリを用いた処理工程を行いα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを除去した後に蒸留精製を行つてもよい。本発明の効果が特に際立って発揮されるのは、原料であるα−(ヒドロキシアルキル)アクリレートと生成物であるα−(アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差が小さい場合であるが、沸点差が大きい場合でも無機アルカリを含むアルカリで処理することにより蒸留精製を簡便化できるため本発明の効果を発揮できる。このようにアルカリ処理後に蒸留精製を行い更に高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る製造方法もまた、本発明の好ましい形態の1つである。
【0033】
上記アルカリは、無機アルカリ(無機化合物のアルカリ)を含むものである。無機アルカリは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとの反応性が高いため、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを充分に除去することが可能である。なお、無機アルカリは1種又は2種以上を使用することができ、また、有機化合物のアルカリ(有機アルカリ)の1種又は2種以上と併用してもよい。ここで、アルカリの総使用量100質量%中、無機アルカリは70質量%以上であることが好適である。より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。なお、上記アルカリは水溶液の状態で用いてもよいが、その濃度は特に限定されるものではない。
【0034】
上記無機アルカリとして具体的には、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属等の金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられ、また、有機アルカリとしては、アンモニア、アミン等が挙げられ、強アルカリから弱アルカリまで好適に用いられる。無機アルカリとしてより好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩である。
なお、本発明では、必要に応じて強アルカリと弱アルカリとを使い分けることも好ましく、これらを併用してもよい。また、アルカリの強度によって添加量を適宜設定したり、処理回数を2回以上としたりすることも好適である。例えば、強アルカリ(金属の水酸化物等)を用いる場合は、添加量が多すぎると、生成されたα−(アルコキシアルキル)アクリレートが分解する可能性があるのに対し、弱アルカリ(金属の炭酸塩や炭酸水素塩、有機アルカリ等)を用いる場合は、添加量が多くても分解しにくいため、これらアルカリの強度に応じて、添加量を設定したり、また分解を抑制しながら効率よく純度を高めるために、強アルカリの添加量を少なくして2回以上処理したり、強アルカリで処理して、ある程度α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの量を低減した後に、弱アルカリで処理する等、強アルカリと弱アルカリとを組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記アルカリの添加量は、上述したようにアルカリの強度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記粗製物中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレート1モルに対し、アルカリの総使用量が0.3〜10モルとなるように設定することが好適である。0.3モル未満では、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを充分に取り除くことができないおそれがあり、10モルを超えると、生成物たるα−(アルコキシアルキル)アクリレートの分解が進むおそれがある。より好ましくは0.5モル以上、更に好ましくは0.6モル以上であり、また、より好ましくは8モル以下、更に好ましくは5モル以下である。
上記アルカリとして強アルカリを用いる場合は特に、処理1回あたりのアルカリ使用量を3モル以下とすることが好適であり、より好ましくは2モル以下である。また、強アルカリを用いる場合には、処理回数を2回以上とし、各処理工程でのアルカリ使用量を少なく設定することが好適である。これによって、生成物の分解を充分に抑制しつつ、より高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得ることが可能になる。
【0036】
またアルカリによる処理工程を2回以上行う場合、使用するアルカリは、各々の処理工程で異なるものを使用してもよいし、同じものを使用してもよいが、少なくとも強アルカリで処理する工程を含むことが好適である。なお、アルカリでの処理回数が多過ぎると、製造工程が煩雑になるため、処理回数の総数は4回以下であることが好適である。
【0037】
上記アルカリによる処理工程においては、上記粗製物をアルカリで反応させた後、油水分離を行い、水相を除去することになるが、その具体的な手法は、通常の工業的製造工程で行われるものと同様であればよく、特に限定されるものではない。このように本発明では、上記粗製物にアルカリを反応させることによって、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが選択的に加水分解され、通常の油水分離という簡単な操作で、当該アクリレートと、生成物たるα−(アルコキシアルキル)アクリレートとを容易に分離できるようになる。
【0038】
以下では、本発明におけるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを合成する反応における、特に好ましい原料や反応条件等について詳述する。
本発明のα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製法としては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとアルコールとを反応させて、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る形態であることが好適である。中でも、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールとを反応させて、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る形態であることがより好ましい。この形態としては、例えば、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとして、下記一般式(1)で表されるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用い、これと、不飽和基含有アルコールとして下記一般式(2)で表されるアリルアルコールとを反応させ、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとして下記一般式(3)で表されるα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得る形態が好ましく挙げられる。
【0039】
【化3】

【0040】
上記一般式(1)及び(3)中、Rは、炭素数1〜30の有機基を表す。このような反応形態においては、反応原料及び/又は反応中間体としてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートが用いられ、それとアリルアルコールとが反応して、α−(アリルオキシメチル)アクリレートが得られることになる。
【0041】
このようなα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法としては、例えば、下記(1)、(2)及び(3)の反応工程を行う方法が好適に挙げられる。
(1)アクリル酸エステルとパラホルムアルデヒドとを反応させて、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを得る工程。
(2)α−(ヒドロキシメチル)アクリレートから、2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートを得る工程。
(3)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートにアルコールを反応させて、α−(アルコキシアルキル)アクリレートとα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとを含む粗製物を得る工程。
【0042】
上記反応工程のうち、上記(2)の反応工程と上記(3)の反応工程とを組み合わせて、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートにアルコールを反応させて、α−(アルコキシアルキル)アクリレートとα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとを含む粗製物を得る工程を行うことも好適である。また、直接的には上記好ましい形態にはならないが、上記(3)の反応工程だけによることも好ましい。
【0043】
上記(1)〜(3)の反応工程を行う場合や、上記(2)及び(3)の反応工程を行う場合、これらの工程は連続した一連の工程として行ってもよく、それらの工程を別個に行ってもよい。すなわち各工程において、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートや、2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートを中間体として生成させて反応させてもよく、反応原料として添加して反応させてもよい。また、上記反応工程においては、目的物であるα−(アルコキシアルキル)アクリレートとともにα−(ヒドロキシメチル)アクリレートが生成するが、当該α−(ヒドロキシメチル)アクリレートは、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを得るための原料として再利用することができる。
【0044】
上記反応工程(1)〜(3)における反応条件については、これらの工程を一連の工程として実施する場合、これらの工程を別個に実施する場合において、使用原料のモル比、触媒の種類やモル比、反応温度や時間等を適宜設定すればよいが、好ましい反応条件の一例を示すと下記のようになる。
上記反応工程(1)に関して、アクリル酸エステルとパラホルムアルデヒドとのモル比(アクリル酸エステル/パラホルムアルデヒド)としては、0.05〜20モルとすることが好適である。反応温度としては、アクリル酸エステルや、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートの重合反応を抑制するために、10〜150℃が好適である。反応時間は、反応の進行速度によって適宜設定すればよい。
上記反応工程(2)に関して、反応温度としては、10〜150℃が好適である。
【0045】
上記反応工程(3)に関して、2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートとアルコールとのモル比(2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート/アルコール)は、0.05〜20とすることが好適である。反応温度としては、10〜150℃が好適である。
なお、反応原料や生成物の重合を抑制するために、重合禁止剤や分子状酸素を用いることが好ましい。
【0046】
上記反応工程(1)〜(3)はまた、いずれも、アミン系触媒の存在下で行われることが好適である。アミン系触媒としては、一級アミン化合物、二級アミン化合物、三級アミン化合物が挙げられるが、上記反応工程のいずれもが三級アミン化合物、すなわち、三級アミン触媒を用いることが好ましい。上記反応工程では、通常は三級アミン触媒を用いることになる。このようなアミン系触媒を用いることにより、副反応を低減し、高純度のα−(アルコキシアルキル)アクリレートを効率よく製造することが可能となる。
【0047】
上記三級アミン触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルn−ブチルアミン等のモノアミン化合物;テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、テトラメチルブチレンジアミン等のジアミン化合物;1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の環状構造含有アミン化合物;DB−U(商品名、サンアプロ社製)、ダイヤイオンWA−10(商品名、三菱化学社製)、ダウエックスMWA−1(商品名、ダウ・ケミカル社製)、アンバーライトIRA−68(商品名、ローム・アンド・ハース社製)等の弱塩基性イオン交換樹脂等が好適なものとして挙げられる。これら触媒は、一種類のみを用いてもよく、また二種類以上を適宜混合してもよい。中でも、モノアミン化合物及び/又は環状構造含有アミン化合物が好ましい。より好ましくは、トリメチルアミン及び/又は1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0048】
上記アミン系触媒の使用量としては、例えば、α−(ヒドロキシメチル)アクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好ましい。0.01モル%未満であると、触媒活性が充分発揮されず、反応時間が長くなり過ぎ、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを効率的に製造することができなくなるおそれがある。また、50モル%を超えると、触媒量の増加に比例した、反応時間短縮等の触媒効果のさらなる向上は望めず、添加した触媒の一部が無駄になり、経済的に不利となるおそれがある。より好ましくは、0.5〜20モル%である。
【0049】
上記反応工程(1)〜(3)において、これらの工程を一連の工程として実施する場合には、上記のようにアミン系触媒の使用量を設定すればよいが、これらの各工程を別個に実施する場合におけるアミン系触媒の最適量としては、上記反応工程(1)におけるパラホルムアルデヒド100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。上記反応工程(2)におけるα−(ヒドロキシメチル)アクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。上記反応工程(3)における2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。
【0050】
上記反応原料に関し、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてのα−(ヒドロキシメチル)アクリレートは、上記一般式(1)で表される化合物であることが好適である。上記一般式(1)中、Rは、エステル基を構成する1価の有機基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、環状であってもよい。好ましい炭素数は1〜18であり、より好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜8である。有機基としては、例えば、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることが好ましい。これらの基は、置換基を有していてもよく、すなわち、これらの基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部を置換基で置き換えた置換鎖状飽和炭化水素基、置換鎖状不飽和炭化水素基、置換脂環式炭化水素基又は置換芳香族炭化水素基であってもよい。中でも、置換基を有していてもよい鎖状飽和炭化水素基が好ましい。
【0051】
上記鎖状飽和炭化水素基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−アミル、s−アミル、t−アミル、n−ヘキシル、s−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、s−オクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシル等の基が好適である。
また鎖状飽和炭化水素基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子等で置換したものであってもよく、例えば、アルコキシ基置換鎖状飽和炭化水素基、ヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基、ハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基等が好適なものとして挙げられる。
【0052】
上記アルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基としては、例えばメトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、3−メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシエトキシエチル、フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチル等の基が好適なものとして挙げられる。上記ヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基としては、例えばヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等の基が好適なものとして挙げられる。上記ハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基としては、ハロゲン原子がフッ素原子又は塩素原子であることが好ましく、例えばフルオロエチル、ジフルオロエチル、クロロエチル、ジクロロエチル、ブロモエチル、ジブロモエチル等の基が好適なものとして挙げられる。
【0053】
上記鎖状不飽和炭化水素基としては、ビニル、アリル、メタリル、クロチル、プロパギル等の基が好適なものとして挙げられる。また鎖状不飽和炭化水素基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換鎖状不飽和炭化水素基であってもよい。
【0054】
上記脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、4−t−ブチルシクロヘキシル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、テトラヒドロフルフリル等の基が好適なものとして挙げられる。これについても、構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換脂環式炭化水素基であってもよい。
【0055】
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、4−t−ブチルフェニル、ベンジル、ジフェニルメチル、ジフェニルエチル、トリフェニルメチル、シンナミル、ナフチル、アントラニル等の基が好適なものとして挙げられる。これについても、構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換芳香族炭化水素基であってもよい。
【0056】
上記アルコールとしては、例えば、飽和アルコールや不飽和基含有アルコール等の1種又は2種以上を使用することができる。飽和アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルキルアルコール類、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール等のシクロアルキルアルコール類等が挙げられ、メタノールが好適である。
【0057】
上記不飽和基含有アルコールは、不飽和基を有するアルコールであって、炭素数が1〜18のアルコールが好適である。不飽和基としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、プロパルギル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基等が挙げられる。上記アルコールの中でも、本発明では不飽和基含有アルコールを用いることが好ましく、不飽和基がアリル基であるアリルアルコールを用いることが特に好ましい。この場合、粗製物中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差が最も小さくなるが、上記アルカリによる処理工程によって分別が可能となり、容易となる。すなわち本発明の効果を最大限に発揮することができる。
【0058】
上記不飽和基含有アルコールとしてアリルアルコールを用いた場合、得られるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、α−(アリルオキシメチル)アクリレートとなるが、この化合物は、上記一般式(3)で表されるものであることが好ましい。一般式(3)におけるRの好ましい形態等は、上述した一般式(1)中のRの好ましい形態と同様である。
【0059】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレートとして具体的には、下記化合物等が好ましく挙げられる。
α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸i−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘプチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸カプリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸デシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ウンデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ラウリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ミリスチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ペンタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヘプタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ステアリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノナデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エイコシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メリシル等の鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0060】
α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3−メトキシブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエトキシエチル等のアルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシプロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジクロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ブロモエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジブロモエチル等のハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0061】
α−アリルオキシメチルアクリル酸ビニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メタリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸プロパギル等の鎖状不飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−メチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリシクロデカニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンテニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリル等の脂環式炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シンナミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ナフチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アントラニル等の芳香族炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
なお、本発明の製造方法で好適に得られるα−(アリルオキシメチル)アクリレートとしては、1種のα−(アリルオキシメチル)アクリレートだけを含むものであってもよく、複数種のα−(アリルオキシメチル)アクリレートを含むものであってもよい。
【0062】
上記反応工程(1)〜(3)の一例を下記反応式(i)〜(iii)に示す。
この反応式は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートとして、Rがメチル基である、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを使用し、また、アルコールとして不飽和基含有アルコールの一種であるアリルアルコールを反応に使用し、α−(アルコキシアルキル)アクリレートとしてα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを得た例である。また、アミン系触媒として、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(本明細書中、ジアザビシクロオクタン、又は、DABCOともいう。)を用いた例である。
【0063】
【化4】

【0064】
なお、上述した反応工程(1)、(2)及び(3)を含む製造方法においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用いてα−(アルコキシメチル)アクリレートを得ており、また、上記好適な形態の例では、アルコールとして不飽和基含有アルコールであるアリルアルコールを用いた例を示しているが、上述したように、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとアルコールとを反応させてα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得る反応においては、未反応原料及び/又は未反応中間体としてα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが残存することから、このような反応によってα−(アルコキシアルキル)アクリレートを得るための製造方法すべてに本発明を適用することができる。
【0065】
本発明の製造方法によって得られるα−(アルコキシアルキル)アクリレートは、光学材料や塗料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用原料等の他、様々な用途に有用なものである。具体的には例えば、接着剤、粘着剤、歯科材料、光学部材、情報記録材料、光ファイバー用材料、カラーフィルターレジスト、ソルダーレジスト、めっきレジスト、絶縁体、封止剤、インクジェットインク、印刷インク、塗料、注型材料、化粧板、WPC(ウッドプラスチックコンビネーション)、被覆剤、感光性樹脂板、ドライフィルム、ライニング剤、土木建築材料、パテ、補修材、床材、舗装材ゲルコート、オーバーコート、ハンドレイアップ・スプレーアップ、引抜成形・フィラメントワインディング・SMC(シートモールディングコンパウンド)・BMC(バルクモールディングコンパウンド)等の成形材料、高分子固体電解質、重合体原料(単量体)等の各種用途に好適に用いることができる。
【0066】
また上記α−(アルコキシアルキル)アクリレートの中でも、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、環化重合することによりテトラヒドロフラン環(THF環)等の環構造を主鎖等に有する環構造含有重合体を与えるものであり、上記各種用途の他、環構造を主鎖等に有する環構造含有重合体を与える単量体組成物として広範囲に利用することができるものである。このような環構造含有重合体は、環構造に起因して耐熱性に優れる一方で、テトラヒドロフラン環の両隣にメチレン基等のアルキレン基を有することに起因して高い柔軟性を発現し、また、相溶性や溶剤溶解性に優れるという性能を発揮することができるものである。
【0067】
なお、上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、上述したように付加重合と同時に環化しながら重合して環構造を主鎖等に有する重合体を与えることができるが、この環化重合については文献に示されている。例えば、α−(アリルオキシメチル)アクリレート等の1,6−ジエン類をラジカル重合反応により重合し、5員環、6員環構造等を有する重合体を得る方法が示されている。文献として具体的には、ツダタカシ(Takashi Tsuda)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、POLYMER、1994年、第35巻、p.3317−3328、ロバート・D・トンプソン(Rovert D.Thompson)、ウィリアム・L・ジャレット(William L.Jarrett)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1992年、第25巻、p.6455−6459、及び、漆崎美智遠(Michio Urushisaki)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1999年、第32巻、p.322−327が挙げられる。これらの文献において環化重合する単量体の有用性が示されているといえる。
上記環化重合の具体的な態様として、例えば、α−(アリルオキシメチル)アクリレートの場合は、下記反応式で表されるように主鎖等に5員環及び/又は6員環構造を有する重合体を与えることになる。
【0068】
【化5】

【発明の効果】
【0069】
本発明のα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法は、上述した構成よりなるので、残存した原料及び/又は中間体であるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートをアルカリで処理することによって、除去が容易になり、高純度なα−(アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に簡便に得ることができるという際立って優れた効果を奏するものである。このような製造方法を用いれば、これまでに検討が殆どなされてこなかった、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを、高純度で効率的に工業生産できるようになるため、工業的に極めて重要な意義を持つ技術といえる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの1種であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルと、これを反応に用いて得られるα−(アルコキシアルキル)アクリレートの1種であるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとの反応性の違いを推測した図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
なお、反応の転化率、収率及び純度については、ガスクロマトグラフ(6890N(商品名)、Agilent Technologies製、キャピラリーカラム DB−WAX(商品名);長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.5μm)を使用して測定し、事前に作成した検量線を使用して求めた。
また下記の例において、「α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合」とは、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとの合計量100質量%に対する、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの割合(質量%)を意味する。
またα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの減少率(質量%)とは、以下の式により計算される値である。
【0072】
【数1】

【0073】
製造例1(反応例)
攪拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管、減圧装置を備えた5Lの4つロフラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2032.1g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン98.9g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル1.02g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル1.02gを仕込んだ。その後、反応液に酸素7vol%(体積%)、窒素93vol%の混合ガスを吹き込みながら、10kPaの減圧下、反応液を100℃に昇温し、生成する水を留去しながら2時間反応させた。解圧して、常圧下、100℃でアリルアルコール1523.0gに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン98.0gを溶解させた液を2時間かけて滴下し、更に12時間反応させた。反応後、ガスクロマトグラフィーを用いて測定したところ、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率がα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し59モル%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率が89モル%であった。次に残存しているアリルアルコールを減圧下(操作圧力7kPa)、単蒸留で留出させて、反応液2778.1gを得た。この反応液にはα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが56.4質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが5.7質量%含まれており、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は9.2質量%であった。
【0074】
実施例1
上記製造例1より得られた反応液300g(α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル:169.2g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:17.2g)に10質量%水酸化ナトリウム水溶液100gを加え室温で30分攪拌した後30分静置し、油水分離して有機相を223.4g得た。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは163.5gであり、96.6質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは1.96gであり減少率は88.6質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は1.1質量%まで低減していた。
【0075】
実施例2
15質量%水酸化ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。油水分離後、得られた有機相は205.84gであり、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが148.8g含まれ(回収率:87.9質量%)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは0.92g(減少率:94.6質量%)であった。
また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は0.6質量%まで低減していた。
【0076】
実施例3
15質量%水酸化ナトリウム水溶液の量を100gから66gに減らしたこと以外は実施例2と同様に行った。油水分離後、得られた有機相は222.69gであり、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが160.1g含まれ(回収率:94.6質量%)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは2.10g(減少率:87.8質量%)であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は1.3質量%まで低減していた。
【0077】
製造例2(反応例)
製造例1と同様の方法でα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを56.1質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを7.6質量%含む反応液を2776.6g得た。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は11.9質量%であった。
【0078】
実施例4
上記製造例2より得られた反応液300g(α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル:168.3g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:22.8g)に12質量%水酸化ナトリウム水溶液100gを加え室温で30分攪拌した後30分静置し、油水分離して有機相を221.8g得た。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは159.5gであり94.8質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは2.30gであり減少率は89.9質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は1.4質量%まで低減していた。
【0079】
実施例5
アルカリの種類と量を10質量%炭酸ナトリウム水溶液193gにしたこと以外は実施例4と同様に行った。油水分離後、得られた有機相は243.4gであり、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは168.3g含まれ(回収率:100質量%)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは10.8g(減少率:52.6質量%)であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は6質量%であった。
【0080】
実施例6
アルカリの種類と量を10質量%水酸化カリウム水溶液141gにしたこと以外は実施例4と同様に行った。油水分離後、得られた有機層は222.8gであり、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは162.5g含まれ(回収率:96.6質量%)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは3.95g(減少率:82.7質量%)であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は2.4質量%であった。
【0081】
実施例7
アルカリの種類と量を10質量%炭酸カリウム水溶液173gにしたこと以外は実施例4と同様に行った。油水分離後、得られた有機層は236.2gであり、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは165.4g含まれ(回収率:98.3質量%)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは13.35g(減少率:41.4質量%)であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は7.5質量%であった。
【0082】
実施例1〜7の結果を下記表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1中、「α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量(※1)」とは、処理前又は処理後における、各々の、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとの合計量100質量%に対する、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの割合(質量%)を意味する。
【0085】
表1の結果より、下記のことが分かった。
実施例1〜7より、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対してα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが9〜12質量%含まれる反応液(粗製物)を各種無機アルカリ水溶液で処理したところ、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを高い回収率で回収でき、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのみが選択的に加水分解され、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対するα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量を充分に低減することができた。結果に若干の差はあるものの、各種の無機アルカリが使用可能であることが分かる。ただし、実施例2より、強アルカリである水酸化ナトリウムを用いた場合には、アルカリの量(モル数)が多いと、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの分解が発生する可能性があることが分かった。また、実施例1と実施例3とは、アルカリの水溶液濃度を変更したこと以外は同じ条件で行った例であるが、この結果はほぼ同等であるともいえるため、実施例2の結果も併せて考慮すると、アルカリの濃度ではなく、アルカリの絶対量が関係していると推測される。
【0086】
実施例8
製造例1と同様の方法でα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを55.9質量%(1552.9g、9.94モル)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを7.1質量%(197.2g、1.70モル)含む反応液を2778.0g得た。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は11.3質量%であった。
この反応液に8質量%水酸化ナトリウム溶液919.5g(水酸化ナトリウム:73.6g、1.84モル)を加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相を2101.3g得た。加えた水酸化ナトリウムのα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル1モルに対するモル数は1.08モルであった。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは1507.9g(9.65モル)であり、97.1質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは38.9g(0.33モル)であり減少率は80.3質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は2.5質量%であった。
更にこの有機相に8質量%水酸化ナトリウム溶液231.3g(水酸化ナトリウム:18.5g、0.46モル)を加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相を2017.7g得た。加えた水酸化ナトリウムのα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル1モルに対するモル数は1.39モルであった。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは1478.5g(9.47モル)であり、98.1質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは13.0g(0.11モル)であり減少率は66.6質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は0.9質量%まで低下していた。
引き続き、得られた有機相を5質量%芒硝水溶液で洗浄し油水分離を行った。この操作をもう一度行った後、得られた有機相は1900.7gであり、有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは1464.6g(9.38モル)であり、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは6.3g(0.05モル)であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は0.4質量%であった。この有機相を2kPaの減圧下、充填塔を用いて蒸留し、純度99.5質量%のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを1337.3g得た。
【0087】
製造例3
撹拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管を備えた1Lの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル406.4g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン39.3g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.41g、t−ブチルヒドロキノン0.41g、亜リン酸トリフェニル0.41gを仕込んだ。反応液に酸素7vol%(体積%)、窒素93vol%の混合ガスを吹き込みながら100℃に昇温し、100℃到達から1時間後、アリルアルコール305.0gを2時間かけて滴下し、更に13時間反応させた。反応後、ガスクロマトグラフィーを用いて測定したところα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対して56モル%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は87モル%であった。次に残存しているアリルアルコールを減圧下(操作圧力7kPa)、単蒸留で留出させて、反応液556.6gを得た。この反応液中にはα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが52.9質量%(294.4g、1.89モル)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが8.8質量%(49.0g、0.42モル)含まれており、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は14.3質量%であった。
【0088】
比較例1
製造例3より得られた反応液279.0g(α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル:147.5g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:24.6g)に蒸留水を38g加え室温で30分撹拌した後、30分静置し、油水分離して有機相を232.5g得た。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは145.7g(0.93モル)であり、98.8質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは18.8g(0.16モル)であり減少率は23.6質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は11.4質量%であった(1回目の水洗)。
更に、得られた有機相に蒸留水38gを加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相223.8gを得た。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは142.0g(0.91モル)であり、97.5質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは16.4g(0.14モル)であり減少率は12.8質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は10.4質量%であった(2回目の水洗)。
同様の水のみによる洗浄を3回行い、合計5回水洗を行った有機相を179.4g得た。得られた有機相中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは122.1g(0.78モル)であり、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは9.4g(0.08モル)あった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は7.1質量%であった。
比較例1での5回洗浄を行った結果を下記表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2中、「α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量(※1)」とは、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとの合計量100質量%に対する、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの割合(質量%)を意味する。
比較例1より、水のみによる洗浄でも、水洗回数が多ければα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対するα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量を僅かに低減することができることが分かる。しかし、5回水洗した後でも、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対するα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量は7.1質量%程度と依然高く、また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの減少率も非常に低い。この結果と実施例1〜8の結果とを比較すると、無機アルカリを用いた処理によって、その処理回数が少なくても、著しく高純度、かつ高収率(高い回収率)でα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを得ることができることが分かる。
【0091】
実施例9
撹拌様、冷却管、温度計、ガス吹き込み管、減圧装置を備えた500mLの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル232.2g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン11.22g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.12g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.12gを仕込んだ。反応液に酸素7vol%、董素93vol%の混合ガスを吹き込みながら90℃に昇温し、90℃到達から1.5時問後、76℃まで冷却した後、メタノール103.6gに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン22.4gを溶解させた液を2時間かけて滴下し、76℃で更に14時問反応させた。反応後、ガスクロマトグラフィーを用いて測定したところα−(メトキシメチル)アクリル酸メチルの収率はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対して72モル%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は87モル%であった。得られた反応液の重量は369.4gで、この反応液中にはα−(メトキシメチル)アクリル酸メチルが50.8質量%(187.6g、1.44モル)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが8.1質量%(29.9g、0.26モル)含まれており、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(メトキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は13.7質量%であった。
次に得られた反応液に10質量%水酸化ナトリウム水溶液176g(水酸化ナトリウム:17.6g、0.44モル)を加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相を253.0g得た。加えた水酸化ナトリウムのα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル1モルに対するモル数は1.7モルであった。得られた有機相中のα−(メトキシメチル)アクリル酸メチルは178.4g(1.37モル)であり、95.1質量%で回収され、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは3.3g(0.03モル)であり減少率は89.0質量%であった。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(メトキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は1.8質量%まで低下していた。
【0092】
なお、上述した実施例1〜9では、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとして、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを反応に使用し、α−(アルコキシアルキル)アクリレートとしてα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル又はα−(メトキシメチル)アクリル酸メチルを調製しているが、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する形態である限り、本発明の製造方法を上述した工程を含むものとすれば、本発明の有利な効果を同様に発現するといえる。また、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造するに際して、反応により得られた粗製物(反応溶液、反応後の溶液)中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと、目的生成物であるα−(アルコキシアルキル)アクリレートとが、蒸留の際に、同じような沸点となるものであれば、これらの分離が困難となるといった課題を生じさせる機構は同様である。したがって、これによって本発明の有利な効果が立証され、また、明細書に記載された本発明の構成によって奏される作用機構を合わせて考えれば、本発明の技術的意義が裏付けられているといえる。
【0093】
比較例2
α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを66.2質量%(290.5g、1.86モル)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを7.7質量%(33.7g、0.29モル)含む粗AMA溶液438.0gを2kPaの減圧下、充填塔を用いて蒸留精製を行った。精製前のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は10.4質量%であった。蒸留後、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが88.5質量%(200.3g、1.28モル)、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが10.1質量%(22.8g、0.20モル)含まれた液を226.4g得た。得られた液のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は10.2質量%であり、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルに対する割合は、蒸留前とほとんど変化がなかった。この比較例2の結果から、蒸留精製では、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとの分離が困難であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であって、
該製造方法は、該反応により得られた、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを含有するα−(アルコキシアルキル)アクリレート粗製物を、無機アルカリを用いて処理することによって、該α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを取り除く操作を行うことを特徴とするα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であることを特徴とする請求項1に記載のα−(アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−73994(P2011−73994A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225264(P2009−225264)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】