説明

α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物及びその製造方法

【課題】α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品を長期間高純度に保存でき、重合時に着色やゲル化等の問題が生じることを充分に抑制することができる安定化されたα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物を提供し、また、高純度なα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に安全に得ることができるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】特定構造のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに、酸化防止剤を含有する組成物であって、該酸化防止剤の含有量は、該α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物及びその製造方法に関する。より詳しくは、エンジニアリングプラスチック、光学材料、レジスト材料等の様々な分野において、硬化性樹脂組成物、色材分散組成物等の製造原料として好適に用いることができるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環構造を主鎖等に有する重合体(樹脂)は、環構造に起因して耐久性、特に優れた耐熱性を発揮するため、そのような特性が要求される技術分野、例えば、エンジニアリングプラスチック、光学材料、レジスト材料等の様々な分野での利用が期待される有用な材料として注目されている。
【0003】
このような樹脂を得るための従来の方法としては、環構造を有する単量体を重縮合又は付加重合により連結する方法や、環構造を有さない単量体を付加重合と同時に環化させながら重合する方法がある。中でも、付加重合と同時に環化させながら重合して環構造を有する重合体を得る方法は、予め環構造を有する単量体を調製したうえで重合を行う手法とは異なった新たな製法を提供するものであることから、環構造を有する重合体が利用される様々な技術分野において、そのような製法の利用が期待されるところである。なお、いずれの方法においても、付加重合による方法は、二重結合等の不飽和結合を有する単量体を重合することになるが、一般的に分子量調整が容易であり、また温和な条件で様々なビニルモノマーを共重合させることが可能であるため、用途に応じた物性調整や様々な機能の付与がしやすい。そのため、高度でかつ多様な機能を求められる光学材料やレジスト材料等の用途向けの樹脂の合成方法として検討されている。
【0004】
ところで、重合時に環化する単量体は、一般的に付加重合に用いられる単量体とは異なって、特殊な単量体であると認識されている。このような単量体として、1つの分子内にアクリロイル基と不飽和アルコキシ基との2つの不飽和基を有するα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートがあり、例えば不飽和アルコキシ基としてアリルエーテル基を有するα−(アリルオキシメチル)アクリレートが例示される。この特殊な単量体は、アクリロイル基の二重結合における2位の炭素原子に−CH−O−CH−CH=CHが結合した構造を有するが、アクリロイル基とアリルエーテル基との環化反応が重合中に生じ、環構造を有する重合体を生成することになる。このように、α−(アリルオキシメチル)アクリレートやそれに類する構造をもつ単量体、すなわちα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるといえるが、特殊な単量体であるがゆえに、その製法や特性を検討した文献は極僅かであるというのが現状である。
【0005】
そのような中で、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル等とエチルアルコール等とを反応させて対応するα−(エトキシメチル)アクリル酸メチル等のアリルエーテル化合物を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、アクリロイル基の二重結合における2位の炭素原子にエトキシメチル等が結合した構造を有するアリルエーテル化合物を製造することになるが、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを生成することについての言及はない。
【0006】
従来のα−(アリルオキシメチル)アクリレートに代表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製法としては、例えば、特定のジアルキル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート類と、活性水素基含有化合物とを反応させるα位置換アクリレート類の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。活性水素基含有化合物としてヒドロキシル基含有化合物類が記載され、その一つにアリルアルコールが例示されている。これによれば、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを製造することが可能である。また、特定のアクリル酸エステル類と、ヒドロキシル基含有化合物とを反応させるアリルエーテル類の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
なお、環構造を有する重合体を形成する特殊な単量体ではないが、アリルエーテル構造をもつ単量体の製法として、特定のα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンと、特定の脂肪族モノカルボン酸とをエステル化反応させ、アリルエーテルエステル単量体を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。また、ハロメチルアクリレートとアリルアルコールを反応させてα−(アリルオキシメチル)アクリレートを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3943180号明細書(第1、3頁)
【特許文献2】特開2005−239610号公報(第1、3頁)
【特許文献3】特開平8−325200号公報(第2、8頁)
【特許文献4】特開第3610331号明細書(第1、2、15頁)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ロバート・D・トンプソン(Robert D. Thompson)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、(米国)、アメリカン ケミカル ソサイエティー(American Chemical Society)、1992年、第25巻、p.6455−6459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、環化重合という特異的な重合をするα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートが一般的なアクリル系単量体とは違った特殊な単量体であるがゆえに、そのような単量体として有効に利用することがこれまで殆ど検討されていなかったこと、そして一般的なアクリル系単量体とは違った課題があることを新たに見つけ出した。すなわち、上述したように1つの分子内にアクリロイル基と不飽和アルコキシ基(アリルエーテル基等)とを有するα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるといえるが、2つの種類の異なった不飽和基をもつという特殊な構造のため、また、特にα−(アリルオキシメチル)アクリレートは分子中に酸化されやすいアリルエーテル基を有するため、製造時や保存時に過酸化物生成量が多くなる傾向がある。その結果、製品が着色したり、重合時にゲル化したりする等の悪影響を及ぼすという課題があった。
【0010】
またα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、環化重合という特殊な重合をすることから、特に重合時のゲル化については、通常の(メタ)アクリレート等のような(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系単量体と比べて多大な影響を受けることになる。また、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート製品中に製造時の触媒由来の窒素化合物や副生成物である不飽和アルキルエステル(アリルエステル等)が一定量を超えて存在しても、重合体の着色や重合体のゲル化ということが大きな課題を有していることがわかった。
【0011】
このように、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートが特殊な単量体であるがゆえに、その製法や特性を検討した文献は殆ど見当たらないという中で、α−(アリルオキシメチル)アクリレートに代表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを環化重合の原料として有効に利用するためや、高品質な環化重合用化学製品を効率的に工業生産するための検討が待たれるところであった。
【0012】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、α−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品を長期間高純度に保存でき、重合時に着色やゲル化等の問題が生じることを充分に抑制することができる安定化されたα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物を提供し、また、高純度なα−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に安全に得ることができるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートそのものやその製法に関して、上述した課題を解決するための手段を種々検討したところ、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに特定量の酸化防止剤を含有する組成物とすれば、効果的に過酸化物生成量を抑制し、長期間高純度に保存することを可能とし、重合時に着色やゲル化等の問題が生じることが抑制されることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。本発明によれば、安定化された環化重合用原料単量体としてのα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得ることができるという、工業的に技術的意義が大きく、際立って優れた効果を奏することができる。
【0014】
ここで、上述したゲル化する機構としては、次の3つがあると推察される。例えば、上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとして、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを例にして説明すると、(1)未環化反応による分岐、(2)過酸化物でできる分岐、(3)アリルエステル類による分岐によって分岐構造が生じ、これによって架橋等の反応が生じて部分的なゲル化構造、全体的なゲル化が生じるものと推察される。結果としては、分子量が増大する、分子量分布が広くなる、最終的にゲル化するということになる。
上記(1)〜(3)を例示すれば、下記のようになる。なお、下記式において、R、R′は、一価の有機基を表す。
【0015】
【化1】

【0016】
酸化防止剤は、上記(2)過酸化物でできる分岐の抑制に特に有用であると推察される。また、上記(1)未環化反応による分岐は、連鎖移動剤又は極性溶媒中で重合させることにより抑制することができ、上記(3)アリルエステル類による分岐が重合体に生じることは、組成物中のアリルエステル類の含有量を低減することにより抑制される。つまり、酸化防止剤を用いることにより、上記(2)過酸化物でできる分岐が抑制される為、重合におけるゲル化等の問題が解決され、また、長期間高純度に保存することが可能となる。更に組成物中のアリルエステル類の量を低減することにより、重合におけるゲル化等の問題をより充分に解決することができる。
【0017】
これに対して、従来の技術水準を示す文献においては、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物を製造する際の重合を防止するために重合禁止剤を使用することが記載されている。例えば、特許文献1においてp−メトキシフェノール等が記載され、また、特許文献2においても、p−メトキシフェノールやヒドロキノンといった化合物を重合禁止剤として使用してもよいことが記載されている。更に、特許文献4においても、ヒドロキノン、ブチルヒドロキシトルエン、トリフェニルホスファイトといった化合物を用いてもよいことが記載されている。しかしながら、これらの従来の技術水準を示す文献においては、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートという種類の異なった2つの不飽和基をもつ特殊な構造の単量体を製造するということに特定する開示はない。一般的に重合性二重結合を有する単量体を製造する際には重合禁止剤を用いてもよいことが開示されているに過ぎないといえる。
【0018】
例えば、特許文献1や特許文献4には、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートについての言及はなく、したがって、得られる単量体はα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートのように重合時に環化せず、全く異なるものであるといえる。また、特許文献2においても、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを調製し得る原料が1つの例示として挙げられているだけである。更に、一般的な単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル等)であれば、酸化防止剤がなかったとしても、重合時の着色やゲル化に多大な影響はなかったといえる。なお、特許文献1、2、4には、p−メトキシフェノールやヒドロキノンといった重合禁止剤として使用してもよいことが記載されてはいるが、例えば、特許文献2においては、当該文献に記された実施例1において精製工程として水洗が行われ、製造中に用いられた重合禁止剤が実質的に除去されていると考えられる。また、特許文献3においては、当該文献に記された実施例1等において精製工程として洗浄・抽出が行われ、ここでも製造中に用いられた重合禁止剤が実質的に除去されている。
【0019】
すなわち本発明は、下記一般式(I):
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに、酸化防止剤を含有する組成物であって、該酸化防止剤の含有量は、該α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物である。
【0022】
本発明はまた、上記一般式(I)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含有する組成物を製造する方法であって、該製造方法は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、下記一般式(III):
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、R、R及びRは、前記一般式(I)における各記号と同様である。)で表される不飽和アルコールとを、該不飽和アルコールを滴下投入することによって反応させる工程を含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法でもある。
【0025】
本発明は更に、上記一般式(I)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含有する組成物を製造する方法であって、該製造方法は、粗α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートから精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る精製工程後に、精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに酸化防止剤を添加する工程を含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0026】
〔α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物〕
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに酸化防止剤を含有する組成物(単に「組成物」とも称す)である。
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、アリルエーテル基等の不飽和アルコキシ基とアクリロイル基という2種の不飽和基を1分子内に有し、環化重合する化合物として有用であり、通常では、単量体(モノマー)として供給、使用されることになるが、本発明においては、酸化防止剤を含有した単量体の組成物として供給、使用されることになる。すなわち、厳密にいえば単量体そのものではないが、単量体そのものに添加剤等を含み、一般的に「単量体」と呼称されて供給等されるものである。したがって、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物とは、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの単量体に微量の酸化防止剤、必要により他の添加剤を含んだ、いわゆる単量体として供給、使用されるもののことをいうが、他の単量体や化合物等を含んだ組成物として供給、使用されてもよい。当該組成物全体の中で、一部でもα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに酸化防止剤が含まれていれば、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物に該当することになる。
【0027】
<α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート>
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、上記一般式(I)で表される化合物である。すなわち、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子に、不飽和アルコキシアルキル基(−CH−O−CH−C(R)=C(R)(R))が結合した構造を有する化合物である。
なお、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとして、1種のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートだけを含むものであってもよいし、R、R、R及びRのいずれか1以上が異なる複数種のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含むものであってもよい。
【0028】
上記一般式(I)中、Rは、エステル基を構成する基であり、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。中でも、上記Rは、炭素数1〜30の有機基を表すことが好適である。
上記有機基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、環状であってもよい。上記有機基の好ましい炭素数は1〜18であり、より好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜8である。有機基としては、例えば、炭化水素骨格、又は、エーテル結合を含む炭化水素骨格からなる1価の有機基が好ましく、鎖状飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることが好ましい。これらの基は置換基を有していてもよく、すなわち、これらの基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部を置換基で置き換えた置換鎖状飽和炭化水素基、置換脂環式炭化水素基又は置換芳香族炭化水素基であってもよい。中でも置換基を有していてもよい鎖状飽和炭化水素基が好ましい。
上記エーテル結合を含む炭化水素骨格からなる1価の有機基としては、上記鎖状飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を構成する少なくとも1つの炭素−炭素結合に酸素原子が挿入した構造のものが挙げられる。
上記置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、シアノ基、トリメチルシリル基、等が挙げられる。
【0029】
上記鎖状飽和炭化水素基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−アミル、s−アミル、t−アミル、ネオペンチル、n−ヘキシル、s−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、s−オクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシル等の基が好適である。また、鎖状飽和炭化水素基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部を、ヒドロキシ基、ハロゲン原子等で置換したものであってもよく、例えば、ヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基、ハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基等が好適なものとして挙げられる。
【0030】
上記ヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基としては、例えばヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等の基が好適なものとして挙げられる。
上記ハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基としては、ハロゲン原子がフッ素原子又は塩素原子であることが好ましく、例えばフルオロエチル、ジフルオロエチル、クロロエチル、ジクロロエチル、ブロモエチル、ジブロモエチル等の基が好適なものとして挙げられる。
【0031】
上記脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、4−メチルシクロヘキシル、4−t−ブチルシクロヘキシル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル等の基が好適なものとして挙げられる。これについても、構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換脂環式炭化水素基であってもよい。
【0032】
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、4−t−ブチルフェニル、ベンジル、ジフェニルメチル、ジフェニルエチル、トリフェニルメチル、ナフチル、アントラニル等の基が好適なものとして挙げられる。これについても、構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換芳香族炭化水素基であってもよい。
【0033】
上記エーテル結合を含む炭化水素骨格からなる1価の有機基としては、上記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を構成する少なくとも1つの炭素−炭素結合に酸素原子が挿入した構造のものであればよく、特に限定されないが、例えば、メトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、3−メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシエトキシエチル、フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチル等の鎖状エーテル基:シクロペントキシエチル、シクロヘキシルオキシエチル、シクロペントキシエトキシエチル、シクロヘキシルオキシエトキシエチル、ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環式炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基:フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチル等の芳香族炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基:グリシジル、β−メチルグリシジル、β−エチルグリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、2−オキセタンメチル、3−メチル−3−オキセタンメチル、3−エチル−3−オキセタンメチル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロフルフリル、テトラヒドロピラニル、ジオキサゾラニル、ジオキサニル等の環状エーテル基が好適なものとして挙げられる。
【0034】
上記一般式(I)中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表すが、炭素数1〜30の有機基としては、上記Rが表し得る炭素数1〜30の有機基と同様である。中でも、上記R、R及びRは、水素原子であることが好適である。この場合、上記一般式(I)で表される化合物は、アリルオキシアルキル基(−CH−O−CH−CH=CH)で表される構造を有する化合物、すなわちα−(アリルオキシメチル)アクリレートとなる。このように、上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートが、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。これによって、本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。
【0035】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレートとしては、下記一般式(II):
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、Rは、上記一般式(I)におけるRと同様である。)で表される化合物であることが好適である。
なお、本発明の組成物が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとしてα−(アリルオキシメチル)アクリレートを含む場合、該α−(アリルオキシメチル)アクリレートとしては1種のものであってもよいし、Rが異なる複数種のα−(アリルオキシメチル)アクリレートを含むものであってもよい。
【0038】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレートの化合物例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
α−アリルオキシメチルアクリル酸、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸i−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ネオペンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘプチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸カプリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸デシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ウンデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ラウリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ミリスチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ペンタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヘプタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ステアリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノナデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エイコシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メリシル等の鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0039】
α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシプロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジクロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ブロモエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジブロモエチル等のハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0040】
α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペンチルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−メチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリシクロデカニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンテニル等の脂環式炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ナフチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アントラニル等の芳香族炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0041】
α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3−メトキシブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエトキシエチル等の鎖状エーテル基系飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペントキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシルオキシルエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペントキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシルオキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環式炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つα−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエトキシエチル等の芳香族炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つα−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸グリシジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸β−メチルグリシジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸β−エチルグリシジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸2−オキセタンメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3−メチル−3−オキセタンメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3−エチル−3−オキセタンメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフラニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロピラニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジオキサゾラニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジオキサニル等の環状エーテル基系飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0042】
本発明の組成物において、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの含有量としては、該組成物100質量%中に80質量%以上であることが好適である。この形態は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの濃度を高めた形態であり、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート自体を用いる場合に好適である。例えば、過酸化物生成量が少ない純度の高いα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物を、いわゆる単量体として環化重合に用いる場合に好適である。
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの含有量の上限は、99.97質量%以下であることが好ましい。下限として、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。
【0043】
<酸化防止剤>
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物は、酸化防止剤を必須成分とすることになる。ただし、酸化防止剤は、組成物中において酸化防止作用を発揮した後に変化するため、組成物中にいつの時点においても必ずしも酸化防止剤そのものがすべて変化せずに含有されている必要はない。すなわち、酸化防止剤は、酸化防止作用を発揮した後に徐々に減少するものと考えられる。したがって、本発明の組成物は、酸化防止剤が添加された組成物であればよい。時間の経過とともに組成物に対する酸化防止剤の含有量が上記下限値を下回ってしまう場合があるが、そのような態様も酸化防止剤を特定量添加したものである限り、本発明の技術的範囲内である。
【0044】
上記酸化防止剤の添加時期としては、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造中であってもよく、製造後であってもよい。製造中であれば、反応工程や蒸留等の精製工程においても酸化防止剤の作用を発揮させることができるという点において好ましい。例えば、酸化防止剤が製造後に残るように製造中に添加したり、反応工程や精製工程に用いた酸化防止剤が精製工程において完全に取り除かれないように、製造後にも残るように精製工程等を調整したりしてもよい。製造後であれば、反応工程や精製工程の後に添加したり、保存時に添加したりすればよい。好ましくは、後述する本発明の製造方法のように、精製工程の後に所定の濃度になるように添加するのがよく、より好ましくは、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物としての製品の着色や過酸化物生成量を抑制するという観点から、精製工程後の早い時期に酸化防止剤を所定の濃度になるように添加するのがよい。
【0045】
なお、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造するための原料が酸化防止剤を含有する場合や、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物に含有される化合物や単量体等が酸化防止剤を含有する場合に、それらに含有される酸化防止剤を本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物における酸化防止剤とすることができる。そのような場合には、酸化防止剤自体をα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物に添加するという操作をすることにはならないが、これらの場合も酸化防止剤が添加された組成物であることに変わりはない。ただ、好ましくは、後述する本発明の製造方法のように、精製工程の後に所定の濃度になるように酸化防止剤を添加するのがよい。
【0046】
本発明における酸化防止剤は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対する酸化作用を抑制する化合物であって、これによって過酸化物生成量の増加を抑制することになる化合物又は組成物であるが、単量体を用いる技術分野において、当業者にとって酸化防止剤として認識されているものであればよい。一般的に、ラジカル重合禁止剤、ラジカル連鎖禁止剤等と認識されている化合物や組成物も本発明における酸化防止剤として使用することが可能である。ただ、本発明においては、酸化防止剤の種類等によって効果が大きく異なることから、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを用いる用途や保存・使用方法等によって酸化防止剤を選択することが好ましい。またアリルエーテル基等の不飽和アルコキシ基が酸化されやすいことが上記課題を有することの一つの原因であると考えられることから、アリルエーテル基等の不飽和アルコキシ基の酸化に対して効果を発揮するものを選択することが好ましいといえる。酸化防止剤の好ましい態様については、後述する。
【0047】
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物は、酸化防止剤を、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%含むものである。上記のように本発明においては、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対して添加された酸化防止剤がすべて変化せずに残っているのではなく、酸化防止作用を発揮した後に徐々に減少するものと考えられる。したがって、酸化防止剤をα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%含むとは、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対して添加された酸化防止剤の合計量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%であればよい。酸化防止剤の含有量が上記の範囲よりも少ないと、酸化防止剤を添加することによる効果が発揮されないおそれがあり、上記の範囲よりも多いと、酸化防止剤が過剰となり、適切に効果を発揮する範囲を外れるおそれがある。下限値に関しては、0.04質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.05質量%以上である。また、上限値に関しては、0.4質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.3質量%以下であり、更に好ましくは、0.2質量%以下である。特に好ましくは、0.1質量%以下である。
【0048】
上記組成物はまた、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを単量体として利用しようとするものであることから、酸化防止剤の合計量が保存時に上記の範囲で含有されたものであることが好ましい。したがって、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造中に酸化防止剤が添加され、精製工程において取り除かれる場合、保存時のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物における酸化防止剤の合計量には、精製工程において取り除かれた酸化防止剤は含まれない。
【0049】
<組成物のより好ましい形態>
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の好ましい形態としては、(1)酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を含む形態、(2)不飽和アルキルエステル含有量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して1質量%以下である形態、(3)窒素含有量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して100ppm以下である形態(4)過酸化物量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して50ppm以下である形態が挙げられる。これらの好ましい形態(構成要件)は、いずれか一つの構成要件を満たすようにしてもよいし、2つ又はそれ以上の構成要件を組み合わせて満たすようにしてもよい。
以下では、これら好ましい形態について順に説明する。
【0050】
上記(1)酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を含む(必須とする)形態においては、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対する酸化抑制効果、過酸化物の生成量抑制効果が顕著である。特にアリルエーテル基等の不飽和アルコキシ基の酸化抑制に効果的に作用するものと考えられる。製造時と保存時の両方に対して酸化防止剤が効果的であり、製造時に上記酸化防止剤を添加する場合には、保存時においても上記酸化防止剤が存在する状態とすることが好ましい。保存時のみに上記酸化防止剤を添加してもよい。
【0051】
上記フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤は、いずれかの酸化防止剤を用いてもよく、両方の酸化防止剤を用いてもよいが、フェノール系酸化防止剤を用いる形態、特に(1−1)キノン系の酸化防止剤を用いる形態、又は、(1−2)フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを併用する形態が好ましい。(1−2)の場合、フェノール系酸化防止剤を1次酸化防止剤、すなわちラジカル連鎖禁止剤(ラジカル補足剤)とし、リン系酸化防止剤を2次酸化防止剤、すなわち過酸化物生成量を減少させるための過酸化物分解剤として組み合わせることが好適である。これによって、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを単量体として用いて重合する際のゲル化を効果的に抑制することができる。フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを組み合わせる場合の質量割合としては、フェノール系酸化防止剤:リン系酸化防止剤が10〜90:90〜10とすることが好ましい。より好ましくは25〜75:75〜25である。特に好ましくは、実質的に1:1で使用する形態である。
【0052】
ここで、上記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を含む(必須とする)とは、本発明において用いる酸化防止剤の一部又は全部がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤であればよく、好ましくは、フェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を酸化防止剤の主成分とすることであり、より好ましくは、実質的に酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤だけを用いることである。
上記フェノール系酸化防止剤、上記リン系酸化防止剤は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)等のキノン系酸化防止剤;p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェノール)ブタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N−ビス−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルへキサメチレンジアミン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のアルキルフェノール系酸化防止剤が好適である。
【0054】
上記リン系酸化防止剤としては、フェニルホスファイト系化合物や他のリン原子含有化合物を用いることができ、例えば、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト(亜リン酸トリフェニル)、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ及び/又はジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジ(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ペンタエリスリトールジホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフェートジエチルエーテルが好適である。
【0055】
上記(2)不飽和アルキルエステル含有量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して1質量%以下である形態は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造時に通常生成することになる副生成物である不飽和アルキルエステルの、製品中における含有量を抑制することによるものである。これによっても重合体の着色や重合時のゲル化等の本発明における課題を効果的に解決することができる。
【0056】
なお、本明細書中、組成物に含まれ得る不飽和アルキルエステルとは、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの出発原料の一つである、上記一般式(III)で表される不飽和アルコールと、原料、生成物及び/又は副生物のアクリレートとのエステルを意味するものとする。このような不飽和アルキルエステルの含有量(不飽和アルキルエステル含有量)とは、原料又は中間体として使用されるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、上記一般式(III)で表される不飽和アルコールとのエステル、生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートと上記一般式(III)で表される不飽和アルコールとのエステル、及び、副生成物である、α−(アルコキシアルキル)アクリル酸と不飽和アルコールとのエステルの合計量である。例えば、上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートがα−(アリルオキシメチル)アクリレートの場合は、原料又は中間体のα−(ヒドロキシメチル)アクリレートのアリルエステルであるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アリル、生成物のアリルエステルであるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸アリル、及び、副生成物であるα−(アルコキシメチル)アクリル酸アリルの合計量となる。
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートがα−(アリルオキシアルキル)アクリレートの場合、上記不飽和アルキルエステルはアリルエステルに相当する。
【0057】
ここで、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品中における不飽和アルキルエステル含有量についても、それを検討した文献は全く見当たらないが、この値が本発明における課題に深く関わっていることを見つけ出したものである。
そのような形態とするためには、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得るための製造方法を、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、上記一般式(III)で表される不飽和アルコールとを、該不飽和アルコールを滴下投入することによって反応させる工程を含む製法とするか、又は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造における精製工程で不飽和アルキルエステルを充分に取り除けばよい。好ましくはこれらの2つの方法を併用することである。
【0058】
上記不飽和アルキルエステルを低減するための形態のうち、不飽和アルコールを滴下投入する方法では、不飽和アルコールを一括投入するのではなく、滴下投入することによって、不飽和アルキルエステルの生成量をより充分に抑制することができる。これにより、精製工程を簡便にすることができ、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの精製収率を向上することが可能となる。
【0059】
また精製工程で不飽和アルキルエステルを取り除く方法に関し、通常行われる精製工程においては、不飽和アルキルエステル量を制御することは行われないものと考えられることから、この本発明の好ましい形態においては、不飽和アルキルエステル含有量を上記の範囲内(上限値)となるように制御することになる。この不飽和アルキルエステル含有量を達成するために蒸留を行うことが好ましく、特に好ましくは、段数のある蒸留塔を用いて蒸留することである。上限に関して、より好ましくは、0.7質量%以下であり、更に好ましくは、0.5質量%以下である。下限に関しては、実質的に不飽和アルキルエステル含有量が0(ゼロ)となることが好適であるが、上記の範囲内(上限値)であれば、本発明の際立って優れた効果を充分に発揮することができる。
【0060】
上記不飽和アルキルエステル含有量の測定時点については、精製工程を経た製造直後及び/又は製造後の保存時が挙げられるが、通常の保存状態においては、不飽和アルキルエステル量が実質的に増加することはほとんどないと考えられることから、上記のように不飽和アルキルエステル量が制御される場合を除けばいつの時点であってもよい。
【0061】
上記(3)窒素含有量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して100ppm以下である形態は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造時に通常用いられるアミン系触媒(及び該触媒が化学変化する場合は該触媒の窒素原子を有する化合物)の、製品中における含有量を抑制することによるものである。これによって重合体の着色や重合時のゲル化等の本発明における課題を効果的に解決することができる。α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品中における窒素含有量についても、それを検討した文献は全く見当たらないが、この値が本発明における課題に深く関わっていることを見つけ出したものである。そのような形態とするためには、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造における精製工程で、アミン系触媒を充分に取り除けばよい。しかし、通常行われる精製工程では、窒素含有量を制御することは行われないものと考えられることから、この本発明の好ましい形態においては、窒素含有量を上記の範囲内(上限値以下)となるように制御することになる。
【0062】
窒素含有量を上記範囲内(上限値以下)に達成するための特に好適な精製条件は、蒸留精製の前に充分に水洗でアミン系触媒を除去することである。窒素含有量の上限として、より好ましくは80ppm以下、更に好ましくは50ppm以下である。下限としては、実質的に窒素含有量が0(ゼロ)となることが好ましいが、上記の範囲内(上限値以下)であれば、本発明の際立って優れた効果を充分に発揮することができる。
上記窒素含有量の測定時点については、精製工程を経た製造直後及び/又は製造後の保存時が挙げられるが、通常の保存状態においては、窒素含有量が実質的に増加することはほとんどないと考えられることから、上記のように窒素含有量が制御される場合を除けばいつの時点であってもよい。
【0063】
上記(4)過酸化物量が、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して50ppm以下である形態においては、そのように過酸化物生成量が抑制されることによって、重合体の着色や重合時のゲル化等の本発明における課題を効果的に解決することができる。α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品中における過酸化物量については、それを検討した文献は全く見当たらないが、この値が本発明における課題に深く関わっていることを見つけ出したものであり、ここに過酸化物量を特定する技術的意義がある。そのような形態とするための手段がα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対して酸化防止剤を用いることであり、本明細書に記載された好ましい形態とすることである。
【0064】
上記過酸化物量の上限として、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。下限としては、実質的に過酸化物量が0(ゼロ)となることが好ましいが、現実的にはわずかに過酸化物が存在するものと考えられる。上記の範囲内(上限値以下)であれば、本発明の際立って優れた効果を充分に発揮することができる。
上記過酸化物量の測定時点としては、製造時及び/又は製造後の保存時が挙げられるが、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを単量体として使用し、重合体の着色や重合時のゲル化を抑制するとの観点からは、保存状態において過酸化物量の測定を行い、上記の範囲内(上限値以下)となることが好ましい。
本発明の上記好ましい形態において、不飽和アルキルエステル含有量、窒素含有量、過酸化物量の測定については、後述する実施例において用いられる測定方法を用いればよい。
【0065】
上記(2)〜(4)の形態については、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製品における品質や状態を特定するものであるが、これらの数値範囲(上限値)はすべて重合体の着色や重合時のゲル化等に関わってくるものであるため、そのいずれか2以上が組み合わされた形態とすることが好ましい。例えば、上記(2)不飽和アルキルエステル含有量が1質量%以下であり、かつ、上記(3)窒素含有量が100ppm以下である形態が好ましく、更に、上記(4)過酸化物量が50ppm以下であることも満たす形態とすることがより好ましい。このように上記(2)〜(4)のいずれか2つ以上が組み合わされた形態を達成するためには、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対して酸化防止剤を用いて過酸化物量の増加を抑えるとともに、製造時の精製工程においてアミン系触媒等に由来する窒素含有量、副生成物である不飽和アルキルエステル含有量を上記範囲内(上限以下)まで減少させることになる。これによって、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物が、化学製品として、単に高純度化されただけではなく、重合体の着色や重合時のゲル化等を抑制するというこれまでにない特性を発揮することになる。
【0066】
<他の成分>
本発明の組成物は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート及び酸化防止剤以外の化合物等を含有していてもよく、例えば、重合原料とする場合には、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートと重合する他のラジカル重合性単量体(すなわち、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート以外のラジカル重合性二重結合を有する化合物。以下「ラジカル重合性単量体」ともいう。)の1種又は2種以上を含有していてもよい。これらの単量体は、熱又は活性エネルギー線の照射等によって重合するラジカル重合性不飽和基を有する単量体である。他のラジカル重合性単量体の種類、使用量等は、製造する重合体の特性、用途に応じて適宜選択すればよい。また連鎖移動剤等の添加剤の1種又は2種以上を含有してもよい。
【0067】
上記ラジカル重合性単量体としては、種々の単量体を例示することができるが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、不飽和モノカルボン酸類、不飽和多価カルボン酸類、不飽和基とカルボキシル基との間が鎖延長されている不飽和モノカルボン酸類、不飽和酸無水物類、芳香族ビニル類、N置換マレイミド類、マクロモノマー類、共役ジエン類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、N−ビニル化合物類及び不飽和イソシアネート類からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、下記のラジカル重合性単量体が工業的に好適なものとして例示できる。
【0068】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸s−アミル、(メタ)アクリル酸t−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類。
【0069】
N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、ビニル安息香酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和多価カルボン酸類;コハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)等の不飽和基とカルボキシル基との間が鎖延長されている不飽和モノカルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド等のN置換マレイミド類;ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム等の重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルモルフォリン、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニル化合物類;(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、アリルイソシアネート等の不飽和イソシアネート類。
【0070】
上記連鎖移動剤としては、例えば、メルカプト基を有する化合物、ジスルフィド類、ジチオカルバメート類、単量体ダイマー類及びハロゲン化アルキル類からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
中でもメルカプト基を有する化合物が好適であり、例えば、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸類;メルカプト酢酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、3−メルカプトプロピオン酸n−オクチル、3−メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、3−メルカプトプロピオン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等のメルカプトカルボン酸エステル類;エチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、1,2−ジメルカプトエタン等のアルキルメルカプタン類;2−メルカプトエタノール、4−メルカプト−1−ブタノール等のメルカプトアルコール類;ベンゼンチオール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール、2−ナフタレンチオール等の芳香族メルカプタン類;トリス〔(3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル〕イソシアヌレート等のメルカプトイソシアヌレート類等のメルカプタン系連鎖移動剤が好適なものとして挙げられる。
【0071】
〔α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法〕
本発明はまた、上記一般式(I)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含有する組成物を製造する方法であって、該製造方法は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、上記一般式(III)で表される不飽和アルコールとを、該不飽和アルコールを滴下投入することによって反応させる工程を含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法(以下、「製法1」とも称す。)でもある。すなわち、上記不飽和アルコールを一括投入するのではなく、滴下投入することが好ましく、これによって、不飽和アルキルエステルの生成量をより充分に抑制することができる。このように反応工程で不飽和アルキルエステルの生成を抑えることによって、後の精製工程を簡便にし、精製収率をより向上させることが可能となる。なお、例えば蒸留精製において、目的のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートよりも高沸点である不飽和アルキルエステルを多く含む反応液から、高純度のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得ようとすると、還流比を大きくしたり、留出量を少なくする必要があるため、効率がより良いものとすることはできず、また精製収率もより充分なものとはならないおそれがある。
【0072】
ここで、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとを反応させる工程に用いるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートは原料及び/又は中間体であればよく、つまり、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの合成において、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを経由する製法に本発明を適用することになる。α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを経由してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物を得る方法の具体的形態については、後に詳述する。
【0073】
上記製法1において、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとの反応工程では、上記不飽和アルコールを滴下投入することになるが、滴下時間は、原料の使用量等によって適宜設定すればよい。例えば、30分〜8時間とすることが好ましく、より好ましくは1時間〜4時間である。なお、不飽和アルコールを滴下投入した後、熟成工程を行うことが好適である。
上記反応工程において、上記不飽和アルコールの使用量(全量)は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレート1モルに対し、0.1〜10モルとすることが好適である。より好ましくは1〜5モルである。
また、反応温度は、10〜150℃が好適である。
【0074】
上記α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとの反応工程では、アミン系触媒を用いることが好ましい。すなわち、上記製造方法がアミン系触媒の存在下で反応させる工程を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。アミン系触媒の詳細やその使用量の好適範囲等については、後述するとおりである。
【0075】
上記製法1を含む製法で得られるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物として好ましくは、上述した本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物であり、中でも、不飽和アルキルエステル含有量が、上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して1質量%以下であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物であることが好適である。この不飽和アルキルエステル含有量の上限値及び下限値の好適な範囲は、上述したとおりである。
本発明の好適なα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物を得るために、上記製法1の後に水洗でアミン系触媒を除去する工程、蒸留で不飽和アルキルエステル含有量を低減させる工程を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0076】
上記α−(ヒドロキシメチル)アクリレートとしては、例えば、下記一般式(i):
【0077】
【化5】

【0078】
で表されるものであることが好ましい。一般式(i)中、Rの好ましい形態は、上述した一般式(I)中のRの好ましい形態と同様である。
【0079】
上記一般式(III)で表される不飽和アルコールは、上記一般式(III)で表される構造を有するものであれば特に限定されない。また、このような不飽和アルコールを1種又は2種以上を使用することができる。中でも、アリルアルコールを少なくとも用いることが好適である。このように、上記不飽和アルコールがアリルアルコールを含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0080】
本発明は更に、上記一般式(I)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含有する組成物を製造する方法であって、該製造方法は、粗α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートから精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る精製工程後に、精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに酸化防止剤を添加する工程を含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法(以下、「製法2」とも称す。)でもある。このような製造方法で得られるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物として好ましくは、上述した本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物である。
なお、本発明の製造方法として特に好ましくは、上記製法1と製法2とを組み合わせた形態、すなわち、上記α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとの反応工程、精製工程、及び、精製後に酸化防止剤を添加する工程を含む製造方法である。
【0081】
上記製法2においては、後述する方法により粗生成物を得た後、製造に用いた触媒や副生成物を取り除くために精製工程が行われる。後述するように、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの合成においては、アミン系触媒を用いることが有効であるため、精製工程によって、窒素含有量を減少させることができるとともに、副生成物である不飽和アルキルエステル含有量も減少させることができ、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の好ましい形態を達成するために有効である。一方で、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの合成においては、合成反応中における重合性不飽和結合の重合を防止するために重合禁止剤、連鎖禁止剤といったものを添加することが有効であるが、製造後に酸化防止剤として作用するものであっても精製工程において酸化防止剤として有効に作用しない程度まで取り除かれてしまう可能性がある。精製工程を充分に行えば、触媒や副生成物を充分に取り除くことができる一方で、重合禁止剤や連鎖移動剤等が製造中に添加される場合に酸化防止剤として作用するものも充分に取り除かれてしまうことになる。このような精製工程を経て得られた精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートをそのまま保存し、重合原料等として用いた場合、保存中に過酸化物生成量が多くなり、得られる重合体の着色や重合時のゲル化等を抑制することはできない。逆に、重合禁止剤や連鎖禁止剤等が製造中に添加され、これらが酸化防止剤として作用する場合、精製工程を行わないようにするとき、又は、酸化防止剤として作用するものがその作用を充分に発揮する程度に残存するように精製工程を簡略化して行うようにするときは、触媒や副生成物を充分に取り除くことはできない。
【0082】
上記製法2においては、精製工程後に酸化防止剤を添加することによって、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに酸化防止剤を含む組成物が得られることになる。またこのような製造方法は、上述した本発明の組成物の好ましい形態を達成するために有効な手段であるといえる。
【0083】
上記精製工程は、本発明の技術分野において用いることができる精製方法を実施する工程であればよく、例えば、洗浄、抽出、蒸留等の少なくとも1つを行う工程が好適である。精製条件は、粗α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに含まれる触媒や副生成物等の不純物、反応に用いた溶媒の種類や量を考慮し、どの程度取り除いて精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得るかによって適宜設定すればよい。好ましくは、上述した本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の好ましい形態が得られるように、窒素含有量、不飽和アルキルエステル含有量が上記範囲内(上限以下)となるように精製方法、精製条件を適宜設定すればよい。
【0084】
上記精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに酸化防止剤を添加する工程においては、精製工程後、できるだけ早い時期に酸化防止剤を添加した方が、過酸化物量の増加を抑えるうえで好ましい。
なお、酸化防止剤は、上述したように、1種を添加してもよいし、2種以上を添加してもよい。添加方法としては、一括で添加してもよく、逐次的、連続的に添加してもよい。
【0085】
上記製法1及び/又は2において、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得るための好ましい方法の一例として、上述した一般式(II)で表されるα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得る形態について、具体的に説明する。なお、下記反応工程(c)で使用されるアリルアルコールは、上記一般式(III)で表される不飽和アルコールの一種である。下記反応工程(a)〜(c)において適宜原料等を変更することによって、α−(アリルオキシメチル)アクリレート以外のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートをも好適に得ることができる。
【0086】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレートを得る方法としては、例えば、下記(a)、(b)及び(c)の反応工程を行う方法が好適に挙げられる。また、これら反応工程はいずれも後述するアミン系触媒を用いることが好ましい。
(a)アクリル酸エステルとパラホルムアルデヒドとを反応させて、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを得る工程。
(b)α−(ヒドロキシメチル)アクリレートから、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレートを得る工程。
(c)2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレートにアリルアルコールを反応させて、α−(アリルオキシメチル)アクリレートとα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとを生成させる工程。
【0087】
上記反応工程のうち、上記(b)の反応工程と上記(c)の反応工程とを組み合わせて、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートにアリルアルコールを反応させて、α−(アリルオキシメチル)アクリレートとα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとを生成させる工程を行うことも好適である。すなわち上記製造方法(製法2)は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、上記一般式(III)で表される不飽和アルコールとを反応させる工程を含むことが好適である。この場合、上述した製法1と同様に、当該不飽和アルコールを滴下投入することによって、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとを反応させることがより好ましい。このような反応工程の好ましい形態は、上述したとおりである。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレートを得る方法はまた、上記(c)の反応工程だけによることも好ましい。
【0088】
上記(a)〜(c)の反応工程を行う場合や、上記(b)及び(c)の反応工程を行う場合、これらの工程は連続した一連の工程として行ってもよく、それらの工程を別個に行ってもよい。すなわち、各工程において、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートや、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレートを中間体として生成させて反応させてもよく、反応原料として添加して反応させてもよい。このような工程においては、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを原料及び/又は中間体として用いることになり、また、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレートを原料及び/又は中間体として用いることになる。
なお、上記反応工程においては、目的物であるα−(アリルオキシメチル)アクリレートとともにα−(ヒドロキシメチル)アクリレートが生成するが、当該α−(ヒドロキシメチル)アクリレートはα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得るための原料として再利用することができる。
【0089】
上記反応工程においては、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートからα−(ヒドロキシメチル)アクリレートのヒドロキシル基が分子間で脱水縮合した2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレートを生成し、この2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレートとアリルアルコールとを反応させることになるが、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートのヒドロキシル基をアセチル化してα−(アセトキシメチル)アクリレートを生成させ、このα−(アセトキシメチル)アクリレートとアリルアルコールとを反応させる方法も好適である。
【0090】
上記反応工程(a)〜(c)の一例を下記反応式(a)〜(c)に示す。
この反応式は、上記一般式(i)で表されるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとして、Rがメチル基であり、また、後述するアミン系触媒として、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを用いた場合を表している。
【0091】
【化6】

【0092】
上記反応工程(a)〜(c)における反応条件については、これらの工程を一連の工程として実施する場合、これらの工程を別個に実施する場合において、使用原料のモル比、触媒の種類やモル比、反応温度や時間等を適宜設定すればよいが、好ましい反応条件の一例を示すと下記のようになる。
上記反応工程(a)に関して、アクリル酸メチルに対するパラホルムアルデヒドのモル比としては0.05〜20とすることが好適である。反応温度としてはアクリル酸メチルやα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合反応を抑制するために、10〜150℃が好適である。反応時間は、反応の進行速度によって適宜設定すればよい。
上記反応工程(b)に関して、反応温度としては、10〜150℃が好適である。
上記反応工程(c)に関して、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリル酸メチルに対するアリルアルコールの使用量としては、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリル酸メチル/アリルアルコールのモル比を0.05〜20とすることが好適である。反応温度としては、10〜150℃が好適である。
これらの反応工程におけるアミン系触媒の使用量については後述する。
なお、アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリル酸メチル、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの重合を抑制するために、重合禁止剤や分子状酸素を用いることが好ましい。
【0093】
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを生成する方法としてはまた、例えば、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルやα−アリルオキシメチルアクリル酸エチル等のα−アリルオキシメチルアクリル酸の低級エステルからエステル交換反応を利用して製造する方法も好適である。この場合、例えば、上述した製造方法により不飽和アルキルエステル含有量、窒素含有量及び/又は過酸化物量を上述した好ましい範囲まで低減したα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリル酸の低級エステルと、アルコールとを、エステル交換触媒を用いてエステル交換反応を行うことが好ましく、更に必要に応じて精製し、精製後、酸化防止剤を添加すれば、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物を得ることが可能となる。このような形態もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0094】
本発明の製造方法の好ましい態様としては、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物やその好ましい形態を製造する態様であるが、(1)酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を必須とする態様、(2)α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、上記一般式(III)で表される不飽和アルコール(アリルアルコール等)とを反応させる工程を含む態様、(3)アミン系触媒の存在下で反応させる工程を含む態様が特に好ましい態様として挙げられる。
これらの好ましい態様(構成要件)は、いずれか一つの構成要件を満たすようにしてもよいし、2つ又はそれ以上の構成要件を組み合わせて満たすようにしてもよい。
【0095】
上記(1)酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を必須とする態様については、本発明のα−(アリルオキシメチル)アクリレート組成物において説明したフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤に関する好ましい形態となるようにすればよい。
【0096】
上記(2)α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとを反応させる工程を含む態様については、上記反応工程において、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートが反応原料及び/又は反応中間体として用いられ、それと不飽和アルコールとが反応することになればよい。
【0097】
上記(3)アミン系触媒の存在下で反応させる工程を含む態様については、アミン系触媒の存在下で上記反応工程を行うことになる。
上記アミン系触媒としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられるが、上記反応工程のいずれも3級アミン化合物、すなわち、3級アミン触媒を用いることが好ましい。このようなアミン系触媒を用いることにより、副反応を低減し、高純度のα−(アリルオキシメチル)アクリレート組成物を効率よく製造することが可能となる。
【0098】
上記3級アミン触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルn−ブチルアミン等のモノアミン化合物;テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、テトラメチルブチレンジアミン等のジアミン化合物;1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、DBU(商品名、サンアプロ社製)、DBN(商品名、サンアプロ社製)等の環状構造含有アミン化合物;ダイヤイオンWA−10(商品名、三菱化学社製)、ダウエックスMWA−1(商品名、ダウ・ケミカル社製)、アンバーライトIRA−68(商品名、ローム・アンド・ハース社製)等の弱塩基性イオン交換樹脂等が好適なものとして挙げられる。これら触媒は、トリメチルアミン等の沸点が低いものは水や不活性な有機溶媒の溶液として用いてもよく、また一種類のみを用いてもよく、更に二種類以上を適宜混合してもよい。中でも、モノアミン化合物及び/又は環状構造含有アミン化合物が好ましい。より好ましくは、トリメチルアミン及び/又は1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0099】
上記アミン系触媒の使用量としては、例えば、α−(ヒドロキシメチル)アクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好ましい。0.01モル%未満であると、触媒活性が充分発揮されず、反応時間が長くなり過ぎ、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを効率的に製造することができなくなるおそれがある。また、50モル%を超えると、触媒量の増加に比例した、反応時間短縮等の触媒効果のさらなる向上は望めず、添加した触媒の一部が無駄になり、経済的に不利となるおそれがある。より好ましくは、0.5〜20モル%である。
【0100】
上記反応工程(a)〜(c)において、これらの工程を一連の工程として実施する場合には、上記のようにアミン系触媒の使用量を設定すればよいが、これらの各工程を別個に実施する場合におけるアミン系触媒の最適量としては、上記反応工程(a)におけるパラホルムアルデヒド100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。上記反応工程(b)におけるα−(ヒドロキシメチル)アクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。上記反応工程(c)における2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。
【0101】
〔α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の好適な用途等〕
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物、及び、本発明の製造方法によって得られる組成物は、環化重合することによりテトラヒドロフラン環(THF環)等の環構造を主鎖等に有する環構造含有重合体を与えるものである。このような環構造含有重合体は、環構造に起因して耐熱性に優れる一方で、テトラヒドロフラン環の両隣にメチレン基を有することに起因して高い柔軟性を発現し、また、相溶性や溶剤溶解性に優れるという性能を発揮することができるものである。
【0102】
また用途としては、接着剤、粘着剤、歯科材料、光学部材、情報記録材料、光ファイバー用材料、カラーフィルターレジスト、ソルダーレジスト、めっきレジスト、絶縁体、封止剤、インクジェットインク、印刷インク、塗料、注型材料、化粧板、WPC(ウッドプラスチックコンビネーション)、被覆剤、感光性樹脂板、ドライフィルム、ライニング剤、土木建築材料、パテ、補修材、床材、舗装材ゲルコート、オーバーコート、ハンドレイアップ・スプレーアップ、引抜成形・フィラメントワインディング・SMC(シートモールディングコンパウンド)・BMC(バルクモールディングコンパウンド)等の成形材料、高分子固体電解質等が好適に挙げられ、環構造を主鎖等に有する環構造含有重合体を与える単量体組成物として広範囲に利用することができるものである。
【0103】
なお、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物は、上述のように付加重合と同時に環化しながら重合して環構造を主鎖等に有する重合体を与えることができるが、この環化重合については、文献に示されており、例えば、α−(アリルオキシメチル)アクリレート等の1,6−ジエン類をラジカル重合反応により重合し、5員環、6員環構造等を有する重合体を得る方法が示されている。例えば、ツダタカシ(Takashi Tsuda)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、POLYMER、1994年、第35巻、p3317−3328、ロバート・D・トンプソン(Rovert D.Thompson)、ウィリアム・L・ジャレット(William L.Jarrett)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1992年、第25巻、p6455−6459、及び、漆崎美智遠(Michio Urushisaki)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1999年、第32巻、p322−327が挙げられる。これらの文献において、環化重合する単量体の有用性が示されているといえる。
【0104】
上記環化重合に関して、例えば、α−(アリルオキシメチル)アクリレートの場合は、下記反応式(d)で表されるように主鎖等に5員環及び/又は6員環構造を有する重合体(α−(アリルオキシメチル)アクリレート重合体)を与えることになる。下記反応式(d)の括弧内に、当該反応式におけるラジカル重合の機構を例示する。
【0105】
【化7】

【0106】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレート重合体の重量平均分子量(Mw)は、目的、用途に応じて適宜設定すればよいが、ラジカル硬化性樹脂組成物や色材分散組成物等の液状用途に用いる場合は、良好な流動性とするために、100000以下であることが好ましく、より好ましくは、70000以下であり、更に好ましくは、50000以下である。また、重合体としての特性が充分に発揮されるためには、1000以上であることが好ましく、より好ましくは、3000以上である。
【0107】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレート重合体は、分子量分布を表す多分散度(Mw/Mn)が、5.0以下であることが好ましく、より好ましくは、4.0以下であり、更に好ましくは、3.0以下である。本発明の製造方法では、重合体の分岐を抑制することができるため、Mw/Mnを小さくすることができると考えられる。
なお、重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)の測定方法については特に限定されないが、例えば、後述する実施例で使用した測定方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0108】
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物は、α−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品を長期間高純度に保存でき、重合時に着色やゲル化等の問題が生じることが充分に抑制され、安定化されたものである。また、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法によれば、高純度なα−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に安全に得ることができるという際立って優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
また下記の例において、不飽和アルキルエステル含有量、過酸化物量及び窒素含有量は、生成物中に含まれるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル又はα−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチルを100質量%としたときの、それぞれの量(質量%)を意味する。
【0110】
<評価方法>
(反応転化率及び収率)
反応の転化率及び収率は、ガスクロマトグラフ(GC−2010(商品名)、(株)島津製作所製、キャピラリーカラム DB−WAX(商品名);長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm)を使用して測定し、事前に作成した検量線を使用して求めた。
【0111】
(アリルエステル含有量)
アリルエステル(α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アリル、α−(メトキシメチル)アクリル酸アリル及びα−(アリルオキシメチル)アクリル酸アリル)の含有量はガスクロマトグラフ(GC−2010(商品名)、(株)島津製作所製、キャピラリーカラム DB−WAX(商品名);長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm)を使用して測定し、事前に作成した検量線を使用して求めた。
(クロチルエステル含有量)
クロチルエステル(α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸クロチル、α−(メトキシメチル)アクリル酸クロチル及びα−(クロチルオキシメチル)アクリル酸クロチル)の含有量も同様にして求めた。
【0112】
(過酸化物量)
過酸化物量は試料にヨウ化カリウムを作用させて遊離したヨウ素を還元剤であるチオ硫酸ナトリウムで滴定するヨウ素定量方法にて測定した。
【0113】
(窒素含有量)
窒素含有量は、微量全窒素分析装置(三菱化学アナリティック(株)社製 TN−100型(商品名))を用いて測定した。
【0114】
(重合転化率)
重合転化率は、ガスクロマトグラフ(GC−2010(商品名)、(株)島津製作所製、キャピラリーカラム DB−17HT(商品名);長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.15μm)を使用して測定し、事前に作成した検量線を使用して求めた。
【0115】
(重合体の重量平均分子量及び分子量分布)
重合体の重量平均分子量及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー(株)社製)を用いて以下の条件で測定した。
カラム:Super HZM−M 6.0×150(商品名、東ソー(株)社製)×2本、カラム温度:40℃
展開液:クロロホルム、流速:0.6ml/min、試料濃度:1mg/cc、注入量:20μL
検出器:RI、検量線:標準ポリスチレン(東ソー(株)社製)
【0116】
(色相)
ハーゼン色数を指標とした。ハーゼン色数の測定方法は、JIS K0071−01(1998年)記載の方法に従った。
【0117】
実施例1−1
工程1(反応工程)
攪拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管及び油浴を備えた500mlの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル203g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン10g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.20g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.20gを仕込んだ。その後、反応液に空気を吹き込みながら、反応液を100℃に昇温し、4kPaの減圧下、生成する水を留去しながら2時間反応させた。その後、常圧下、2時間かけてアリルアルコール152gと触媒の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン10gを滴下し、さらに12時間反応した。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は90モル%、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し62モル%であった。
【0118】
工程2(触媒除去工程)
反応液を分液漏斗に移し、水50gで3回洗浄し、触媒の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを除去した。有機相の重量は270gであり、有機相中の窒素含有量は50ppmであった。
【0119】
工程3(蒸留工程)
上記反応液を蒸留装置(理論段数13段)に移し、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.27g、2−t−ブチルハイドロキノン0.27g、トリフェニルホスファイト0.27gを添加し、減圧下で蒸留を行った。7kPaで未反応のアリルアルコールを除去した後、2.5kPa、塔頂温度81℃で未反応のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル及びα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの混合液143gを取り出した。得られた混合液の組成はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10.5質量%であり、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル89.5質量%であった。この混合液を分液漏斗に移し、ヘキサン30gで希釈したあと水30gで5回洗浄してα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを除去したあと、ヘキサンを減圧下に除去し、精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル122g(M−1)を得た。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの含有量は99.3質量%、窒素含有量は4ppm、過酸化物量は2ppm、不飽和アルキルエステルに相当するアリルエステルの含有量は0.4質量%であった。また、原料であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し0.2質量%であった。
【0120】
実施例1−2
工程1(反応工程)
実施例1−1と同様の操作を行った。
工程2(触媒除去工程)
触媒除去工程を行わず、蒸留工程を行った。
工程3(蒸留工程)
実施例1−1と同様の操作を行い、精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル98g(M−2)を得た。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの含有量は99.3質量%、窒素含有量は120ppm、過酸化物量は5ppm、アリルエステルの含有量は0.4質量%であった。また、原料であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し0.2質量%であった。
【0121】
実施例1−3
工程1(反応工程)
実施例1−1と同様の操作を行った。
工程2(触媒除去工程)
実施例1−1と同様の操作を行った。
工程3(蒸留工程)
反応液を単蒸留装置に移した以外は実施例1−1と同様の操作を行い、精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル113g(M−3)を得た。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの含有量は97.5質量%、窒素含有量は8ppm、過酸化物量は5ppm、アリルエステルの含有量は2.3質量%であった。また、原料であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し0.2質量%であった。
【0122】
製造例A
工程1(反応工程)
実施例1−1と同様の反応装置を用いて、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル116g、アリルアルコール87g、触媒としてタングストリン酸50g、シクロヘキサン130g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.06g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.06gを仕込んだ。その後、反応液に空気を吹き込みながら、反応液を90℃に昇温し、シクロヘキサンを還流させながら8時間反応した。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は43モル%、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し7モル%であった。
工程2(触媒除去工程)
反応液を分液漏斗に移し、水50gで2回洗浄し、触媒のタングストリン酸を除去した。
工程3(蒸留工程)
実施例1−1と同様の操作を行い、精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル8g(M−4)を得た。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの含有量は99.6質量%、窒素含有量は0ppm、過酸化物量は82ppm、アリルエステルの含有量は0質量%であった。また、原料であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し0.3質量%であった。
【0123】
実施例1−4
工程1(反応工程)
撹拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管、減圧装置を備えた5Lの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2031.3g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン98.5g、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール1.02g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル1.02gを仕込んだ。その後、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8%)を吹き込みながら、10kPaの減圧下、反応液を100℃に昇温し、生成する水を留去しながら2時間反応させた。解圧して、常圧下、100℃でアリルアルコール1543.7gに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン99.4gを溶解させた液を2時間かけて滴下し、更に12時間反応させた。反応後、ガスクロマトグラフィーを用いて測定したところ、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率がα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し62モル%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率が89モル%、アリルエステルの収率はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し2モル%であった。
【0124】
工程2(軽沸分除去工程)
次に残存しているアリルアルコールを減圧下(操作圧力:7kPa)、単蒸留で留出させて、反応液 2766.8gを得た。また、この反応液中にα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは1629.6g含まれており、アリルエステルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し5.4質量%であり、原料であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し12.1質量%であった。
【0125】
工程3(α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル及び触媒除去工程)
得られた反応液に8質量%水酸化ナトリウム溶液 927.9gを加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相を2097.6g得た。更にこの有機相に8質量%水酸化ナトリウム溶液 231.6gを加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相を2011.0g得た。また、この有機相中にα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルは1500.2g含まれており、アリルエステルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し6.5質量%であり、原料であるα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し0.8質量%まで低減していた。引き続き、得られた有機相を5質量%芒硝水溶液で洗浄し油水分離を行った。この操作をもう一度行った後、有機相を1916.7g得た。
【0126】
工程4(蒸留工程)
この有機相に重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル1.92g、2−tert−ブチルハイドロキノン1.92g、亜リン酸トリフェニル1.92gを加え、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を吹き込みながら、ディクソンパッキンを充填した充填塔(理論段数10段相当)を用いて蒸留を行った。10kPaで残存するアリルアルコールを除去した後、2kPa、塔頂温度83℃で純度99.4質量%のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを1329.3g(M−5)を得た。アリルエステルは0.4質量%、含有されており、窒素含有量は分析装置の検出限界以下(0.1ppm未満)、過酸化物量は1ppmであった。また、原料のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは0.1質量%含有されていた。
【0127】
製造例B
(α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル(CH−AMA)の合成)
攪拌装置、温度センサー、ガス導入管、トの字管、冷却管、溜出液受器を付した反応器に実施例1−4で合成したα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−5)74.6g、シクロヘキサノール(CHOH)24.04g、酸化ジブチルすず(IV)(DBTO)6.0g、p−メトキシフェノール 1.5gを仕込み、攪拌しながら、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を通じつつ、反応器内の圧力が27kPaになるまで徐々に減圧した。27kPaに到達してから昇温を開始し、内温が100℃になるように調整し、エステル交換反応により生じたメタノールを溜出させながら6.5時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、CH−AMA、M−5、CHOHの面積比は39:45:12であった。その後、一旦冷却し、800Paまで減圧した後、内温が100℃に到達するまでCHOH及びM−5を留出させた。その後、冷却、解圧した。
反応液をn−ヘキサンで希釈し、更に4%NaOH水溶液を加え、DBTOを析出させ濾過により取り除いた。ろ液を油水分離し、得られた油層を15%NaOH水溶液で洗浄し、油水分離した。この操作を5回繰り返し、残存M−5、p−メトキシフェノールを取り除いた。得られた有機相に、アルカリ吸着剤(キョーワード700SL、協和化学工業社製)を5.0g添加して、1時間室温で攪拌した後、濾過した。濾液を、攪拌装置、温度センサー、ガス導入管、トの字管、冷却管、溜出液受器を付した反応器に仕込み、攪拌しながら、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を通じつつ、内温が25〜30℃になるよう加温しながら、圧力が800Paになるまでゆっくり減圧してn−ヘキサンを除去した。800Paに到達した後、20分間その圧力を維持してから解圧して、精製α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル(CH−AMA)を26.4g得た。α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシルの含有量は98.0質量%、アリルエステルは含まれておらず、窒素含有量も測定装置の検出限界以下であり、過酸化物量は2ppmであった。また、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが0.6質量%含まれていた。
【0128】
製造例C
(α−アリルオキシメチルアクリル酸ネオペンチル(NP−AMA)の合成)
撹拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管を付した反応器に実施例1−4で合成したα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−5) 88.6g、ネオペンチルアルコール(NPOH) 49.5g、チタンテトライソプロポキシド 8.1g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4H−TEMPO) 0.09gを仕込み、撹拌しながら酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を通じつつ、100℃まで昇温し、6時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、NP−AMA、M−5、NPOHの面積比は17:8:7であった。この反応液をn−ヘキサンで希釈し、水を加え、チタン化合物を析出させ濾過により取り除いた。濾液を油水分離した後、攪拌装置、温度センサー、ガス導入管、ビグリュー、トの字管、冷却管、分留器、溜出液受器を付した反応器に有機相と4H−TEMPOを0.46g仕込み、攪拌しながら、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を通じつつ、反応器内の圧力が1333Paになるように減圧し、徐々に昇温行い、n−ヘキサン、残存NPOH、残存Me−AMA、NP−AMAの順に留出させ分離した。得られたNP−AMAは37.1gであり、最終の内温は110℃であった。またNP−AMA留出の際の気相部の温度は106℃であった。得られたNP−AMAにアリルエステルは含有されておらず、窒素含有量も測定装置の検出限界以下であり、過酸化物量は5ppmであった。
【0129】
実施例1−5
攪拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管及び油浴を備えた200mlの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル40.6g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン1.96g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.02g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.02gを仕込んだ。その後、反応液に空気を吹き込みながら、反応液を100℃に昇温し、2時間反応させた。その後、常圧下、2時間かけてクロチルアルコール(東京化成製、シス,トランス混合品)37.9gと触媒の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン1.96gを滴下し、さらに12時間反応した。反応後、ガスクロマトグラフィーを用いて測定したところ、α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率がα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し60モル%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率が90モル%、不飽和アルキルエステルに相当するクロチルエステルの収率はα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し1.9モル%であった。
次に残存しているクロチルアルコールを減圧下(操作圧力:7kPa)、単蒸留で留出させた後、得られた反応液に8質量%水酸化ナトリウム溶液18.4gを加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離した。更にこの有機相に8質量%水酸化ナトリウム溶液4.6gを加え室温で30分撹拌した後30分静置し、油水分離して有機相を得た。引き続き、得られた有機相を5質量%芒硝水溶液で洗浄し油水分離を行った。この操作をもう一度行った後、有機相を53.9g得た。得られた有機相中に原料のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは含有されていなかった。
上記有機相にヒドロキノンモノメチルエーテル0.05g、2−t−ブチルハイドロキノン0.05g、トリフェニルホスファイト0.05gを添加し、減圧下で単蒸留を行った。1.3kPa、塔頂温度93℃で精製α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチルを27.4g(M−6)を得た。α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチルの含有量は97.1質量%、窒素含有量は検出限界以下、過酸化物量は2ppm、不飽和アルキルエステルに相当するクロチルエステルの含有量は0.8質量%であった。
【0130】
実施例2−1
実施例1−1で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−1)に酸化防止剤として2−tert−ブチルヒドロキノンを500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は10未満であった。
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管および油浴を備えた200mlのセパラブルフラスコに、上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物20g、2−ブタノン30gを添加し、窒素雰囲気下80℃に昇温した。反応液の温度が80℃に達してから、アゾビスイソブチロニトリル0.010gを添加し、重合を開始した。重合開始から2時間後に2−ブタノンを16.7g添加し、4時間後に重合を停止した。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は83%であり、得られた重合体の重量平均分子量は31000、分子量分布は2.7であった。重合前と重合後の色相の変化はなかった。この結果を表1に示す。
【0131】
実施例2−2
実施例1−1で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−1)に酸化防止剤としてp−メトキシフェノール500ppm、トリフェニルホスファイト500ppmを添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は10未満であった。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物を用いた以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は83%であり、得られた重合体の分子量は28500、分子量分布は2.8であった。重合前と重合後の色相の変化はなかった。この結果を表1に示す。
【0132】
実施例2−3
実施例1−2で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−2)に酸化防止剤として2−tert−ブチルヒドロキノンを500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は10未満であった。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物を用いた以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は83%であり、得られた重合体の分子量は33000、分子量分布は3.3であった。重合液は薄い黄色に着色し、色相は150であった。この結果を表1に示す。
【0133】
実施例2−4
実施例1−3で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−3)に酸化防止剤として2−tert−ブチルヒドロキノンを500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は10未満であった。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物を用いた以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は80%であり、得られた重合体の分子量は52000、分子量分布は4.8と広く、高分子量側にリーディングしており、一部架橋している重合体が生成した。この結果を表1に示す。
【0134】
実施例2−5
製造例Aで得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−4)に酸化防止剤として2−tert−ブチルヒドロキノンを500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は30であった。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物を用いた以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は72%であり、得られた重合体の分子量は65000、分子量分布は6.1と広く、高分子量側にリーディングしており、一部架橋している重合体が生成した。この結果を表1に示す。
【0135】
実施例2−6
製造例Bで得られた精製α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル(CH−AMA)に酸化防止剤として2−tert−ブチルヒドロキノンを500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は30であった。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシル組成物を用いた以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシルの転化率は82%であり、得られた重合体の分子量は33000、分子量分布は2.6であった。また、重合前と重合後の色相の変化はなかった。この結果を表1に示す。
【0136】
実施例2−7
製造例Cで得られた精製α−アリルオキシメチルアクリル酸ネオペンチル(NP−AMA)に酸化防止剤としてp−メトキシフェノール500ppm、トリフェニルホスファイト500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸ネオペンチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は10未満であった。
上記α−(アリルオキシメチル)アクリル酸ネオペンチル組成物を用い、重合開始から2時間後に2−ブタノンを添加し、その後の重合時間を6時間とした以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(アリルオキシメチル)アクリル酸ネオペンチルの転化率は86%であり、得られた重合体の分子量は21000、分子量分布は2.7であった。また、重合前と重合後の色相の変化はなかった。この結果を表1に示す。
【0137】
実施例2−8
実施例1−5で得られた精製α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−6)に酸化防止剤として2−t−ブチルハイドロキノン500ppmを添加し、α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物のハーゼン色数は10未満であった。
上記α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物を用いた以外は実施例2−1と同様に重合を行った。α−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は80%であり、得られた重合体の分子量は6800、分子量分布は2.6であった。重合前と重合後の色相の変化はなかった。この結果を表1に示す。
【0138】
参考例1
実施例1−1で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−1)を用い、酸化防止剤を添加しなかった以外は実施例2−1と同様に重合を行った。重合後2時間でゲル化した。重合開始時より着色していたが、ゲル化しているためハーゼンは測定できなかった。この結果を表1に示す。
【0139】
【表1】

【0140】
実施例2−9〜2−19、参考例2、3
実施例1−1で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−1)に、表2に示す酸化防止剤を添加した。これら組成物のハーゼン色数は何れも10未満であった。この組成物をガラス瓶に移し、空気を5分間バブリングした後、50℃で保存安定性試験を1週間行った。実施例2−9〜19の組成物は、1週間後もハーゼン色数10未満であった。また、参考例2、3の組成物は、ハーゼン色数20であり、若干、着色が確認された。試験後の組成物を用いて実施例2−1と同様に重合を行った結果(重量平均分子量、分子量分布、色相)を表2に示す。参考例2、3では重合後、重合開始時より更に着色していたが、ゲル化しているためハーゼンは測定できなかった。
【0141】
下記表2において、酸化防止剤の種類の欄に記載した商品名は、それぞれ下記の化合物を意味する。
アンテージDAH(商品名、川口化学工業社製);2,5−ジ−tert−アミルヒドロキノン
アンテージDBH(商品名、川口化学工業社製);2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン
アンテージW−400(商品名、川口化学工業社製);2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)
アデカスタブPEP24G(商品名、ADEKA社製);ジ(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
IRGANOX1222(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフェートジエチルエーテル
【0142】
【表2】

【0143】
実施例2−1〜2−8は、酸化防止剤を添加した後に重合しているが、酸化防止剤を添加しなかった参考例1と比較して、いずれもゲル化が抑制されている。このため、着色もより低減されたものである。
実施例2−9〜2−19は、酸化防止剤の含有量が500ppm(0.05質量%)、1000ppm(0.1質量%)、又は、2000ppm(0.2質量%)であり、これらの実施例では、ゲル化が生じることなく重合体が得られ、重量平均分子量(Mw)が2.8×10〜3.6×10、分子量分布(Mw/Mn)が2.8〜3.4であり、いずれも色相(ハーゼン)に変化がないという結果が得られている。それに対して、酸化防止剤の含有量が本発明の下限値、すなわちα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03質量%を下回る参考例2、3においては、重合後3時間でゲル化が生じる。これらの参考例においては、酸化防止剤の含有量が充分でなく、分岐や架橋を充分に抑制できない結果、ゲル化が生じていると考えられる。上述した実施例では重合時にゲル化等の問題が生じることが抑制され、着色も充分に抑えられているが、参考例はゲル化の課題が生じるものであり、着色も生じる。
なお、酸化防止剤の含有量が本発明の上限値、すなわちα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.5質量%を上回る場合には、酸化防止剤の量が適切な範囲を外れ、それ以上の効果を発揮するということにはならない。
【0144】
実施例3−1、3−2
実施例1−4で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−5)に酸化防止剤として2−tert−ブチルヒドロキノンを500ppm添加し、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル組成物とした。この組成物をガラス又はポリエチレン製の容器に移し、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を5分間バブリングした後、50℃で保存安定性試験を30週間行った。いずれの容器の組成物もGPCで重合物は確認されなかった。また過酸化物量はそれぞれ、2ppm、3ppm、であった。この結果を表3に示す。
【0145】
参考例4、5
実施例1−4で得られた精製α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(M−5)に酸化防止剤を加えず、ガラス又はポリエチレン製の容器に移し、酸素/窒素混合ガス(酸素濃度8体積%)を5分間バブリングした後、50℃で保存安定性試験を行った。いずれの容器も1週間後に重合物が確認された。
【0146】
【表3】

【0147】
実施例3−1、3−2は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに酸化防止剤を添加して長期保存安定性試験を行った例であるが、酸化防止剤を添加することによって、50℃という過酷な条件下で30週間もの長期にわたって保存した場合にも、重合物が生じる事無く長期間高純度に保存できることが示されている。これに対し、参考例4、5は酸化防止剤を添加しなかった例であるが、1週間後に重合物が生じたことが示されている。これらの結果から、酸化防止剤の添加により、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを長期安定的に高純度で保存できることが分かる。
【0148】
実施例4
撹拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管及び油浴を備えた100mLの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル34.8g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン3.4g、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシル0.02gを仕込んだ。その後、撹拌し、反応液に空気を吹き込みながら、95℃まで昇温し、アリルアルコール26.2gを8時間かけて滴下し、更に8時間反応した。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は86モル%、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとアリルエステルの収率は、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し、それぞれ52.2モル%と1.0モル%であった。また、アリルエステルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し2.2質量%であった。
【0149】
参考例6
アリルアルコールを滴下せず最初に仕込み16時間反応させた以外は実施例3−1と同様に行つた。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率は86モル%、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルとアリルエステルの収率は、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し、それぞれ52.4モル%と3.7モル%であった。また、アリルエステルの含有量はα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル100質量%に対し8.2質量%であった。
【0150】
【表4】

【0151】
表4の実施例4と参考例6との比較より、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと不飽和アルコールとを反応させる際に、不飽和アルコールを滴下投入して反応させることによって、アリルエステル含有量を低減することが分かる。なお、上述した実施例1−1〜1−3も、不飽和アルコールを滴下投入した形態であるが、これらの例でも得られた組成物中のアリルエステル含有量は低減されている。このように不飽和アルコールの滴下投入により、重合時のゲル化の原因の一つである不飽和アルキルエステル(アリルエステル等)の含有量が低減されることがわかる。
【0152】
上述した実施例等では、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとして、α−(アリルオキシメチル)アクリレートの一種であるα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル又はα−(クロチルオキシメチル)アクリル酸メチルを調製しているが、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子に、アルコキシアルキル基(−CH−O−CH−C(R)=C(R)(R))が結合した構造を有する化合物である限り、分岐構造が生じることにより重合時にゲル化が生じる機構は同様であると考えられる。特にα−(アリルオキシメチル)アクリレートであれば、分岐構造が生じることにより重合時にゲル化が生じる機構は、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルと同様である。よって、酸化防止剤を特定量含有させて分岐構造の生成を抑えることにより、ゲル化の問題を充分に抑制することができる。また、酸化防止剤により過酸化物生成量を充分に低減することができるため、着色も防止できることとなる。更に、酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を必須とする形態、過酸化物量、窒素含有量、アリルエステル含有量を特定範囲とした形態においては、本発明の効果をより発揮できることが示されている。
【0153】
したがって、上述した実施例等においては、酸化防止剤を、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物であれば、重合時に着色やゲル化等の問題が生じることを充分に抑制することができ、また、そのような組成物の製造方法においては、安定化された、高純度なα−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に安全に得ることができるという有利な効果を発現することが示されているということができる。すなわち、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対して酸化防止剤を用いるということ、更にいえば、該酸化防止剤がα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに対して適切な範囲で添加されて用いられるという本発明における構成と効果との関連性が裏付けられているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとともに、酸化防止剤を含有する組成物であって、
該酸化防止剤の含有量は、該α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して0.03〜0.5質量%であることを特徴とするα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。
【請求項2】
前記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを含むことを特徴とする請求項1に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤を必須とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。
【請求項4】
前記組成物は、不飽和アルキルエステル含有量が、前記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。
【請求項5】
前記組成物は、窒素含有量が、前記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して100ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。
【請求項6】
前記組成物は、過酸化物量が、前記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して50ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物。
【請求項7】
下記一般式(I):
【化2】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含有する組成物を製造する方法であって、
該製造方法は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、下記一般式(III):
【化3】

(式中、R、R及びRは、前記一般式(I)における各記号と同様である。)で表される不飽和アルコールとを、該不飽和アルコールを滴下投入することによって反応させる工程を含むことを特徴とするα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項8】
前記製造方法により得られる組成物は、不飽和アルキルエステル含有量が、前記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート100質量%に対して1質量%以下であることを特徴とする請求項7に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(I):
【化4】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを含有する組成物を製造する方法であって、
該製造方法は、粗α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートから精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る精製工程後に、精製α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに酸化防止剤を添加する工程を含むことを特徴とするα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項10】
前記製造方法は、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、下記一般式(III):
【化5】

(式中、R、R及びRは、前記一般式(I)における各記号と同様である。)で表される不飽和アルコールとを反応させる工程を含むことを特徴とする請求項9に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項11】
前記不飽和アルコールは、アリルアルコールを含むことを特徴とする請求項7、8又は10に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法。
【請求項12】
前記製造方法は、アミン系触媒の存在下で反応させる工程を含むことを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−254685(P2010−254685A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84284(P2010−84284)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】