説明

α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤並びにこれを含有するヘリコバクターピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤及び飲食品

【課題】 ヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防に有用な組成物を提供する。
【解決手段】 O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進する成分として、一般式〔1〕:R−GlcN、又は、一般式〔2〕:R−GlcNAcで表される、グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤。なお、前記式中、GlcNはグルコサミン残基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を表し、Rは水素原子もしくは重合度1−5の糖鎖を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進する成分として、グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有するα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤並びにこれを含有するヘリコバクター ピロリ菌の感染治療予防剤及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター ピロリ菌(Helicobacter pylori、以下ピロリ菌という。)は、1983年にMarshall、Warrenにより報告された胃内に生息するグラム陰性のらせん状短桿細菌である。日本人のピロリ菌感染率は約50%と推定され、特に中高年では70%以上の人が保菌者である。ピロリ菌は、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの発生や再発の主要因子であることが知られている。
【0003】
ピロリ菌除菌には、抗生物質による除菌療法が保健診療として認可されている。この薬剤とは抗生剤、プロトンポンプインヒビター、ビスマス製剤等を組み合わせたものである。
【0004】
また、食品成分にもピロリ菌の除菌効果を示す成分が見出されている。例えば、下記特許文献1では、海藻等に含有するグルクロン酸含有フコイダンがピロリ菌接着阻害剤として有用であることが記載され、下記特許文献2には、牛乳汁または鶏卵卵白由来のムチンを有効成分とするヘリコバクター・ピロリ定着阻害剤が記載されている。
【0005】
更にまた、下記特許文献3には、ヘリコバクター ピロリに対するレセプター活性を有する多糖を含む組成物であって、更に所望により、ヘリコバクター ピロリに対するオリゴ糖レセプターあるいはその類似体または誘導体および/または胃上皮保護化合物も含む、ヘリコバクター ピロリの存在によって生じる病態の治療または予防に用いる組成物が記載され、多糖としてキトサンを用いることが記載されている。
【0006】
ピロリ菌は感染者の胃粘膜に見出される。胃粘膜は粘液細胞及び粘液細胞から分泌するムチン等を主成分とする粘液からなる表層粘液ゲル層によって構成されており、その表層粘液ゲル層は、表層粘液細胞から分泌される粘液と中〜深層に存在する腺粘液細胞から分泌される粘液とが互いに混じりあうことなく交互に積み重ねられた層状構造をなしている。表層粘液細胞から分泌される粘液が構成する粘液層には、ピロリ菌に親和性を有することが知られているLe(Lewisb 糖鎖抗原)やシアリルLe(シアリルLewis x 糖鎖抗原)を有する糖鎖が存在しており、ピロリ菌はその糖鎖を胃粘膜内への定着の足がかりにすると考えられている。一方、胃粘膜の中〜深層に存在する腺粘液細胞から分泌される粘液が構成する粘液層中にピロリ菌が定着する頻度は少ないが、この粘液層にはコア2分岐型のO−グリカン型糖鎖の非還元末端にGlcNAcα1→4Galβ残基をもつユニークな糖鎖が存在している。このα結合型N−アセチルグルコサミン(αGlcNAc)を非還元末端に有するO−グリカン構造は、糖鎖として非常に珍しい構造であり、その構造を有する糖鎖は胃粘膜の腺粘液細胞と十二指腸粘膜の Brunner 腺以外の正常組織ではほとんど発現していない。
【0007】
最近、本発明者らは、胃粘膜の中〜深層に存在する腺粘液細胞から分泌する粘液中に存在するユニークな糖鎖であって、その非還元末端部にα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖が、ピロリ菌に対し強い抗菌活性を持つことを新たに発見し(下記非特許文献1参照。)、胃粘膜においてこのユニークな糖鎖がピロリ菌感染に対する防御因子として働いていることを報告した。
【特許文献1】特開平10−287571号公報
【特許文献2】特開2000−229865号公報
【特許文献3】特表2004−537538号公報
【非特許文献1】M. Kawakubo et al., Science, Vol. 305, (2004) p1003-1006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗生物質によってピロリ菌を除菌する従来の技術では、耐性菌出現による除菌効果の低下や、薬物投与による副作用の発現等が問題となっている。
【0009】
また、食品素材中の成分を用いる上記特許文献1〜3記載の技術は、安心して服用できる点では優れているが、ピロリ菌を吸着して排出する作用を利用するものであるため、ピロリ菌に親和性を有する上記LeやシアリルLe等の受容体分子構造を介して胃粘膜に定着したピロリ菌を除菌する目的において十分な作用効果を奏するものではなかった。
【0010】
一方、上記非特許文献1記載の、非還元末端部にα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖を用いる技術は、胃粘膜に発現している生体分子を利用するものであり安心して服用できる点では優れているが、それを外来的に投与する方法では、生体に備わった本来的な粘膜防御機構を発揮させる目的において効率的なものではなかった。その上、非還元末端部にα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の量産技術や、非還元末端部にα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖を豊富に含む食品はまだあまり知られていない。
【0011】
従って、本発明の目的は、非還元末端部にα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖のピロリ菌に対する抑制作用作用効果を粘膜組織で効率的に発揮させるため、その産生細胞からの分泌を促進する技術を提供し、人体にとってより安全、かつ高い効果を有するピロリ菌の感染治療予防剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、グルコサミン又はグルコサミン誘導体に、O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進する作用のあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤は、O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進する成分として、下記一般式〔1〕又は〔2〕で表される、グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0014】
R−GlcN …〔1〕
R−GlcNAc …〔2〕
(なお、上記一般式〔1〕又は〔2〕中、GlcNはグルコサミン残基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を表し、Rは水素原子もしくは重合度1−5の糖鎖を表す。)
【0015】
本発明のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤によれば、有効成分である上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体が、α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖を分泌する細胞に作用して、その細胞からの分泌を促進することができる。
【0016】
本発明においては、上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体が、グルコサミン、キトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルキトビオース、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース、ラクトサミン、N−アセチルラクトサミン、ガラクトシルラクトサミン、ガラクトシル−N−アセチルラクトサミンから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
一方、本発明のヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤は、上記α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤を含有する。
【0018】
本発明のヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤によれば、有効成分である上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体の作用により分泌が促進される上記α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖が、ヘリコバクター ピロリ菌に抗菌的に作用して、ヘリコバクタピロリ菌を原因とする病態、例えば、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、又は、それに関連する消化器系やその他の臓器に見られる疾患を治療し又は予防することができる。
【0019】
更に、本発明のもう一つは、下記一般式〔1〕又は〔2〕で表される、グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体から選ばれた少なくとも1種を含有し、O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進するため及び/又はヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態を治療し予防するために用いられるものである旨の表示を付した飲食品を提供する。
【0020】
R−GlcN …〔1〕
R−GlcNAc …〔2〕
(なお、上記式中、GlcNはグルコサミン残基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を表し、Rは水素原子もしくは重合度1−5の糖鎖を表す。)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進して、ヒトに本来的に備わるピロリ菌に対する防御機構を効果的に賦活化することができる。
【0022】
また、本発明に用いられるグルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体は、医薬品・食品素材として大量に供給可能であり、化学的に安定で、かつ、安全性も高いことから、様々な医薬品、食品の剤形、配合に対応でき、様々な形態での抗ピロリ菌製剤の供給が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に用いられるグルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体は、下記一般式〔1〕又は〔2〕で表されるものである。
【0024】
R−GlcN …〔1〕
R−GlcNAc …〔2〕
ここで、上記式中、GlcNはグルコサミン残基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を表し、Rは水素原子もしくは重合度1−5の糖鎖を表す。そして、Rが糖鎖の場合は、グルコサミン残基あるいはN−アセチルグルコサミン残基の結合様式はグリコシド結合をなすものである。
【0025】
本発明に用いられるグルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体は、上記式中のRが糖鎖の場合は、その還元末端にグルコサミン、もしくはN−アセチルグルコサミン構造を有していることが重要であり、一方、その非還元末端側には、他の官能基が結合していてもよく、上記重合度の範囲内で分岐糖鎖を形成していてもよい。
【0026】
このようなグルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えば、グルコサミン、キトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルキトビオース、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース、ラクトサミン、N−アセチルラクトサミン、ガラクトシルラクトサミン、ガラクトシル−N−アセチルラクトサミン等が挙げられる。なお、後述する実施例の結果によれば、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン、N−アセチルキトビオース、N−アセチルラクトサミンを特に好ましく用いることができることが明らかである。
【0027】
本発明に用いられるグルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体は、公知の従来技術に準じて、化学的、酵素的、遺伝子工学的手法により調製すればよい。
【0028】
例えば、上記キトサンオリゴ糖(キトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース)及びキチンオリゴ糖(N−アセチルキトビオース、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース)は、カニ、エビ等の甲殻類の殻等から常法によって調製されるキチンを、化学的又は生化学的に処理することによって得ることができる。その際、特許文献特開2003−212889号公報又は特許文献特開平10−2875726号公報に開示される方法によれば、より好適に製造することができる。
【0029】
本発明においては、上記の方法によって得られるキトサンオリゴ糖及びキチンオリゴ糖を、種々の異なる鎖長のオリゴ糖が混在する組成物をそのまま用いることもできるが、必要に応じてカラムクロマトグラフィーや溶剤分画等の方法によって分画、精製することにより、所望の重合度のものを高濃度に含有する組成物を得て、それを本発明に用いることができる。
【0030】
市販されるキトサンオリゴ糖としては、例えば、「COS−YS」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)は、上記の方法によって得られ、キトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース等を含む組成物であり、本発明に好ましく用いることができる。
【0031】
また、市販されるキチンオリゴ糖としては、例えば、「NA−COS−YS」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)は、上記の方法によって得られ、N−アセチルグルコサミンと、N−アセチルキトビオース、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース等を含む組成物であり、本発明に好ましく用いることができる。
【0032】
更に、N−アセチルラクトサミン、ガラクトシルN−アセチルラクトサミンは、例えば、特許第2819312号公報に記載されているように、ラクトースとN−アセチルグルコサミンを基質とし、β−ガラクトシダーゼを作用させて糖転移反応を行う方法により製造することができる。ラクトサミン、ガラクトシル-ラクトサミンは、ラクトースとグルコサミンを基質とし、β−ガラクトシダーゼを作用させて糖転移反応を行う方法により製造することができる。このとき、特許第2819313号公報に記載されているように塩析剤存在下で反応させてもよい。また、酵素反応液は加熱して酵素を失活させた後、そのままあるいは必要に応じて活性炭カラムクロマトグラフィーや逆浸透膜により分離、精製、濃縮してから本発明に用いることもできる。
【0033】
本発明に用いられるグルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体は、遊離体であってもよく、また、食品、医薬的に許容されるこれらの塩を形成したものであってもよい。塩の種類としては塩酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
【0034】
本発明において、「O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖(以下、α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖とする。)」とは、例えば、上述したような、胃粘膜の腺粘液細胞から分泌される粘液に含有するコア2分岐型α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の非還元末端にα結合型でN−アセチルグルコサミンを有する糖鎖等を意味する。なお、「O−グリカン型糖鎖」とは、糖タンパク質のポリペプチド鎖のセリン/スレオニン残基に結合している糖鎖を意味する。
【0035】
本発明のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤は、有効成分である上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体が、α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖を分泌する細胞に作用して、その分泌を促進することができる。
【0036】
また、上述のとおり、α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖が、ピロリ菌に抗菌的に作用することが明らかにされている(上記非特許文献1参照。)。
【0037】
したがって、本発明のヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤は、それを経口的に摂取することにより、有効成分である上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体が、胃粘膜の粘液細胞又は十二指腸粘膜のBrunner腺に到達し、α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖を分泌する細胞に作用して、その分泌を促進するので、ヘリコバクタピロリ菌を原因とする病態、例えば、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍等を治療し又は予防する目的で好適に用いることができる。
【0038】
本発明において、上記抗ピロリ菌作用効果を有効に得るためには、成人1日あたり上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体として0.01〜15gを、経口的に摂取することが好ましく、0.1〜5gを摂取することがより好ましい。
【0039】
本発明のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤並びにヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤においては、上記作用効果の有効成分として上記グルコサミンおよび/又はグルコサミン誘導体を含有するとともに、賦形剤、安定剤、防腐剤、保存剤、光沢剤、増粘剤、着色剤、ミネラル類、ビタミン類、糖類、香料、油脂、アミノ酸等の添加剤を適宜配合することができる。また、抗ピロリ菌効果を有することがすでに知られている、フコイダン、乳酸菌、カテキン、ココアポリフェノール、ホップポリフェノール、その他ポリフェノール類、ココア遊離脂肪酸、海藻エキス、梅肉エキス、シナモン、クランベリー、ガジュツ、ウコン等の抗ピロリ菌効果を有することがすでに知られている成分と併用することにより、抗ピロリ菌剤としての相乗効果が期待できる。
【0040】
本発明のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌促進剤並びにヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤の製品形態は特に限定されないが、例えば経口投与に適したものとして、錠剤、粉末、顆粒、溶液、カプセル剤等が挙げられる。
【0041】
一方、本発明の飲食品においては、上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体を有効成分として様々な飲食品に配合することができる。例えば、(1)清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料等の飲料類、(2)トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物等の野菜加工品、(3)乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰等の果実加工品、(4)カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉等の香辛料、(5)パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニ等の麺類(生麺、乾燥麺含む)、(6)食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツ等のパン類、(7)アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉等、(8)焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリーム等の菓子類、(9)小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツ等の豆類製品、(10)蜂蜜、ローヤルゼリー加工食品、(11)ハム、ソーセージ、ベーコン等の肉製品、(12)ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリーム等の酪農製品、(13)加工卵製品、(14)干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ等の加工魚や、乾燥わかめ、昆布、佃煮等の加工海藻や、タラコ、数の子、イクラ、からすみ等の加工魚卵、(15)だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌等の調味料や、サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油等の食用油脂、(16)スープ(粉末、液体含む)等の調理、半調理食品や、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)等が挙げられる。
【0042】
上記飲食品への配合量は、飲食品の種類及び上述した有効摂取量に基いて適宜設定すればよい。例えば、飲料類に配合する場合は、通常、上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体として0.01〜30質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体の配合量が少な過ぎると、生理活性が期待できる量の上記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体を摂取するために1回当りの摂取量を大幅に増やす必要があるため、継続的に摂取することが困難となり、多すぎると製品中での結晶化による沈殿発生や過剰摂取による軟便等の症状がでる可能性がある。
【0043】
また、本発明の飲食品において、「表示を付した」とは、製品の容器、袋、箱等の包装材料等に直接表示されたものだけでなく、製品の袋や箱等に同封された印刷物、製品パンフレット、代理店等に対する販促資料、更にはインターネットのホームページ等に記載された製品情報等に表示されたものを含む意味である。
【実施例】
【0044】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
<実施例1>
ヒトα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン転移酵素(α4GnT)のcDNA(α4GnT cDNA;NCBIデータベース照会番号 NM_016161)を、常法に従ってヒト胃ガン由来培養細胞AGSに遺伝子導入し、CMVプロモーターによって、恒常的に発現している遺伝子導入細胞株であるAGS−α4GnTを作成した。
【0046】
この遺伝子導入細胞株(AGS−α4GnT)は、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (Invitrogen 以下DMEMと略す)、10% Fetal Bovine Serum(Equitec Bio)、1% Penicillin-Streptomycin,liquid(Invitrogen)、0.2mg/ml G418(Sigma) からなる細胞培養液中で培養・維持した。
【0047】
また、糖質として、N−D−アセチルグルコサミン、D−グルコサミン塩酸塩、
N−アセチルキトビオース(GlcNAc(β1−4)GlcNAc)、N−アセチルラクトサミン(Gal(β1−4)GlcNAc)(以上の糖質はすべて焼津水産化学工業株式会社製)を濃度400mMになるようにDMEMに溶解し、MILLEX-GV(0.22μm filter Unit)で濾過滅菌し、超純水で10、100、200mMの糖質溶液に調製した。
【0048】
上記AGS−α4GnT細胞を、0.45mlの培養液中に2×10の細胞を含むように細胞濃度を合わせて48ウェルプレート(Falcon 社製)の1ウェル内に播種した。その播種日を0日目として、播種後1日目に上記の各濃度の糖質溶液0.05mlをウェル内に添加し、最終0.5ml量の培養液中の糖質がそれぞれ終濃度1、10、20mMとなるように添加した。また、糖質を含まない対照としてDEMEのみを添加した。
【0049】
細胞播種後1〜5日目の培養液を3ウェルずつ別々のエッペンドルフチューブに回収して、1000rpm×3min、4℃で細胞を遠心分離した後、上清を新しいエッペンドルフチューブに回収した。
【0050】
この培養上清中の分泌ムチン濃度を、「胃腺粘液細胞ムチン測定用ELISAキット」(商品名、関東化学株式会社)及び「ELAST ELISA Amplification Kit」(株式会社パーキンエルマージャパン)を用いて測定した。なお、上記キットに用いられる抗体は、非還元末端部にα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合している糖鎖を特異的に認識する抗体を用いて測定したものであり、また、α4GnTを導入しないAGS細胞から分泌するムチンをほとんど認識しないものであるため、α1,4-GlcNAc含有Α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の濃度であると考えられた。また、測定値は、3ウェルのうち2ウェルの培養液上清に含まれるの濃度の平均値として算出した。
【0051】
図1に、N−D−アセチルグルコサミンがα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン産生に与える影響についての結果を示す。
【0052】
図1からわかるように、N−D−アセチルグルコサミンを1mM添加したときは、播種5日目に対照に比べて約3倍のΑ−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌を促進した。一方、10mM、20mM添加群ではα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌は対照よりも低く、1mM程度の濃度がα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌に有効であることが示唆された。
【0053】
図2にD−グルコサミンがα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン産生に与える影響についての結果を示す。
【0054】
図2からわかるようにD−グルコサミンを1mM、20mM添加するとα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌が促進した。1mM添加のときα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン濃度が最大であった。
【0055】
図3にN−アセチルキトビオースがα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン産生に与える影響についての結果を示す。
【0056】
図3からわかるようにN−アセチルキトビオースを1mM、10mM添加したときは、播種5日目に対照に比べて約4倍のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌を促進した。20mM添加群ではα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌は対照よりも低く、1〜10mM程度の濃度がα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌に有効であることが示唆された。
【0057】
図4にN−アセチルラクトサミンのα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン産生に与える影響についての結果を示す。
【0058】
図4からわかるようにN−アセチルラクトサミンを1、10、20mM添加したときは、播種5日目に対照に比べて約4〜5倍のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン分泌を促進した。すべての添加群でα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン濃度が上昇し、よい促進剤であることが示唆された。
【0059】
以上のとおり、D−グルコサミン塩酸塩、N−D−アセチルグルコサミン、N−アセチルキトビオース(GlcNAc(β1−4)GlcNAc)、N−アセチルラクトサミン(Gal(β1−4)GlcNAc)によって、α−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌が促進されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、ヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】N−D−アセチルグルコサミンがα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌量に与える影響について測定した結果を示す図である。
【図2】D−グルコサミン塩酸塩がα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌量に与える影響について測定した結果を示す図である。
【図3】N−アセチルキトビオースがα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌量に与える影響について測定した結果を示す図である。
【図4】N−アセチルラクトサミンがα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌量に与える影響について測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進する成分として、下記一般式〔1〕又は〔2〕で表される、グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤。
R−GlcN …〔1〕
R−GlcNAc …〔2〕
(上記一般式〔1〕又は〔2〕中、GlcNはグルコサミン残基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を表し、Rは水素原子もしくは重合度1−5の糖鎖を表す。)
【請求項2】
前記グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体が、グルコサミン、キトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルキトビオース、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース、ラクトサミン、N−アセチルラクトサミン、ガラクトシルラクトサミン、ガラクトシル−N−アセチルラクトサミンから選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載のα−1、4結合型N−アセチルグルコサミン含有O−グリカン型糖鎖の分泌促進剤を含有する、ヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態の治療予防剤。
【請求項4】
下記一般式〔1〕又は〔2〕で表される、グルコサミン及び/又はグルコサミン誘導体から選ばれた少なくとも1種を含有し、O−グリカン型糖鎖であって、その非還元末端部にはα−1、4型グリコシド結合によりN−アセチルグルコサミンを結合しているO−グリカン型糖鎖の細胞からの分泌を促進するため及び/又はヘリコバクター ピロリ菌を原因とする病態を治療し予防するために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
R−GlcN …〔1〕
R−GlcNAc …〔2〕
(上記一般式〔1〕又は〔2〕中、GlcNはグルコサミン残基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を表し、Rは水素原子もしくは重合度1−5の糖鎖を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−99668(P2007−99668A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290720(P2005−290720)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】