説明

α、β−不飽和ラクトン誘導体及びその分子設計の方法

【課題】新規なα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を提供する。また、該化合物を有効成分とする癌の治療剤および予防剤を提供する。さらに、該化合物の分子設計の方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)


(式中、R1がHを表す時、R2とR3はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を表し、R1が炭素数1〜3のアルキル基を表す時、R2とR3はそれぞれ独立してHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表し、R4はメチル基またはエチル基を表し、R5はメチル基、ヒドロキシメチル基、またはカルボキシル基を表し、XはH、OH、またはメトキシ基を表す)で示されるα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物に関する。また、該新規なα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の治療剤および予防剤に関する。さらに、該新規なα、β−不飽和ラクトン誘導体の分子設計の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(II)(R4はメチル基またはエチル基を表し、R6は水素原子またはメチル基を表し、Yは水素原子または水酸基を表し、R7はアルキル基または置換基を有していてもよいアルケニル基を表す)で表される、α、β−不飽和ラクトン骨格に長鎖アルキレン基を有する化合物は、微生物の培養液などからいくつか単離されており、極めて強い抗腫瘍活性を有することが知られている(非特許文献1〜6)。
【0003】
【化1】

【0004】
また、これらの化合物の誘導体の研究については、長鎖アルキレン部分の構造を変換した研究の報告はあるものの(非特許文献7〜9)、抗腫瘍活性発現のために重要な部分であるα、β−不飽和ラクトン部分に関する研究の報告はない。
【0005】
一方、α、β−不飽和ラクトン骨格を有する上記一般式(II)またはその誘導体は、通常は生体の標的蛋白の求核性部位がこのラクトン部分に求核付加することによって活性を発現する。しかしながら、この求核付加は標的蛋白以外の生体成分も引き起こすために、これらの化合物は生体内では非常に不安定であり、in vitro活性に比べてin vivo活性が非常に弱いことが多いという性質を有していた。(非特許文献10)
【非特許文献1】Journal of Antibiotics、第36巻、第646-650頁、1983年
【非特許文献2】Journal of Antibiotics、第38巻、第220-223頁、1985年
【非特許文献3】Journal of Antibiotics、第40巻、第1349-1352頁、1987年
【非特許文献4】Journal of Antibiotics、第46巻、第735-740頁、1993年
【非特許文献5】Journal of Antibiotics、第48巻、第954-961頁、1995年
【非特許文献6】Tetrahedron Letters、第38巻、第2859-2862頁、1997年
【非特許文献7】Applied and Environmental Microbiology、第64巻、第714-720頁、1998年
【非特許文献8】Bioorganic & Medicinal Chemistry、第8巻、第2651-2661頁、2000年
【非特許文献9】Bioorganic & Medicinal Chemistry、第9巻、第57-67頁、2001年
【非特許文献10】Cancer Chemother. Pharmacol.、第16巻、第95-101頁、1986年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物またはその誘導体の該α、β−不飽和ラクトン部分を、その活性を維持した状態で求核付加に対する反応性を落とす構造変換を行い、in vivoでの安定性が高まった、新規なα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を提供することにある。また、該α、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の治療剤および予防剤を提供することにある。さらに、該α、β−不飽和ラクトン誘導体の分子設計の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物またはその誘導体の該α、β−不飽和ラクトン部分の構造変換に関する研究を進めた結果、構造変換の新たな方法論を創出するとともに、実際に強い抗腫瘍活性を有する化合物を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
(1) 下記一般式(I)
【化2】

(式中、R1が水素原子を表す時、R2とR3はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を表し、R1が炭素数1〜3のアルキル基を表す時、R2とR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R4はメチル基またはエチル基を表し、R5はメチル基、ヒドロキシメチル基、またはカルボキシル基を表し、Xは水素原子、水酸基、またはメトキシ基を表す)で示されるα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0009】
(2) 一般式(I)において、R1、R2及びR3の全てがそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基となることはない、(1)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0010】
(3) 一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2とR3が炭素数1〜3のアルキル基である、(1)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0011】
(4) 一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2とR3がメチル基である、(3)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0012】
(5) 一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2とR3がメチル基であり、R4がエチル基であり、R5がカルボキシル基であり、Xが水酸基である、(4)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0013】
(6) 一般式(I)において、R1が炭素数1〜3のアルキル基であり、R2が水素原子
であり、R3が水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である、(1)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0014】
(7) 一般式(I)において、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子またはメチル基である、(6)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0015】
(8) 一般式(I)において、R1がメチル基であり、R2とR3が水素原子であり、R4がエチル基であり、R5がカルボキシル基であり、Xが水酸基である、(7)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0016】
(9) 一般式(I)において、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であり、R4がエチル基であり、R5がカルボキシル基であり、Xが水酸基である、(7)に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【0017】
(10) (1)〜(9)のいずれか1項に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の治療剤。
【0018】
(11) (1)〜(9)のいずれか1項に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の予防剤。
【0019】
(12)α、β−不飽和ラクトン骨格を有する下記一般式(II)またはその誘導体において、前記一般式(II)のα、β−不飽和ラクトン部分を、求核付加に対する反応性を適度に落とす構造変換を行うことにより、in vivoでの安定性が高まったα、β−不飽和ラクトン誘導体を設計する方法。
【0020】
【化3】

(式中、R4はメチル基またはエチル基を表し、R6は水素原子またはメチル基を表し、Yは水素原子または水酸基を表し、R7はアルキル基または置換基を有していてもよいアルケニル基を表す)
【発明の効果】
【0021】
上記一般式(II)またはその誘導体のα、β−不飽和ラクトン部分を、その活性を維持した状態で求核付加に対する反応性を落とす構造変換を行うことにより、in vivoでの安定性が高まった、新規なα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を提供することが可能となった。また、該α、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の治療剤および予防剤を提供することが可能となった。さらに、該α、β−不飽和ラクトン誘導体の新しい分子設計の方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物(以下、本発明の化合物ともいう)>
本発明の化合物は、α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物またはその誘導体のα、β−不飽和ラクトン部分を、その活性を維持した状態で求核付加に対する反応性を落とす構造変換を行うことにより、in vivoでの安定性が高まった化合物であれば、特に限定はされない。以下、本発明の化合物を具体的に例示し、説明を加えるがこれらに限定されない。
【0023】
本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体は下記一般式(I)
【化4】

(式中、R1が水素原子を表す時、R2とR3はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を表し、R1が炭素数1〜3のアルキル基を表す時、R2とR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R4はメチル基またはエチル基を表し、R5はメチル基、ヒドロキシメチル基、またはカルボキシル基を表し、Xは水素原子、水酸基、またはメトキシ基を表す)で示される。
【0024】
上記一般式(I)において、R1、R2およびR3の定義における「炭素数1〜3のアルキル基」は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のような炭素数1乃至3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、好ましくはメチル基である。
【0025】
さらに、本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体の具体的な例としては、上記一般式(I)において、例えば、
1)R1が水素原子を表し、R2とR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(以下、本発明の化合物1ともいう)。
【0026】
2)R1がメチル基を表し、R2が水素原子を表し、R3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(以下、本発明の化合物2ともいう)。
【0027】
3)R1、R2、及びR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(以下、本発明の化合物3ともいう)。
【0028】
4)R1がメチル基を表し、R2とR3が水素原子を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(以下、本発明の化合物4ともいう)が挙げられる。
【0029】
本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体は上記一般式(I)において、上記構造式で定義した部分以外の不斉炭素の立体化学は(R)体、(S)体、あるいは(RS)体のいずれのものでも好ましく利用できる。
【0030】
本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体は、薬学的に許容される塩を形成することがで
きる。かかる塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機物の塩、あるいはリジン塩、ヒスチジン塩、アルギニン塩、エタノ−ルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩等の有機塩基の塩が挙げられる。また、本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体は、その薬学的に許容される溶媒和物もしくは水和物として存在することもできる。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸を例示することができる。
【0031】
<本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物(本発明の化合物)の製造方法>
次に本発明の化合物の製造方法について説明する。
【0032】
上記一般式(I)で表される本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体は、例えば、Organic Letters、第6巻、第2845-2848頁、2004年(以下、文献Aともいう)記載の方法を応用して製造することが可能である。
【0033】
【化5】

【0034】
例えば、Tetrahedron Letters、第27巻、第679-682頁、1986年(以下、文献Bともいう)に記載の化合物6は上記文献Aに記載の化合物21に相当するので、該文献Bに記載の化合物6を上記文献Aに記載の化合物21の代わりに用いて文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより、上記一般式(I)において、R1が水素原子を表し、R2とR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物1)を製造することができる。
【0035】
【化6】

【0036】
例えば、上記文献Aに記載の化合物23に、R12CuLi(R1は炭素数1〜3のアルキル基である)等のアルキル化剤を反応させると、上記<反応2>に示した化合物24-aが得られる。この<反応2>に示した化合物24-aは文献Aに記載の化合物24に相当するので、以下、<反応2>に示した化合物24-aを文献Aに記載の化合物24の代わりに用いて、文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより、上記一般式(I)においてR1がアルキル基を表し、R2が水素原子を表し、R3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカ
ルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物を製造することができる。
さらに、例えば、R12CuLiのR1をメチル基とすることで、上記一般式(I)において、R1がメチル基を表し、R2が水素原子を表し、R3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物2)を製造することができる。
【0037】
【化7】

【0038】
文献Bに記載の化合物6または化合物13を出発原料として、一級アルコールをアルデヒドに酸化し、このアルデヒドにアルキル基R1を付加させて得られた2級アルコールを酸化すると、ケトン体である上記<反応3>に記載の化合物10が得られる。次いで<反応3>に記載の化合物10に酸を作用させてアセタール基をはずし、平衡状態で存在する一級アルコールをtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基で保護すると、上記<反応3>に記載の化合物11が得られる。この<反応3>に記載の化合物11の2級アルコール部分にブロモアセチルブロミドを反応させ、ハロゲン部分を金属塩に変えて環化してから脱水すると、文献Aに記載の化合物25に相当する上記<反応3>に記載の化合物25-bが得られる。以下、上記<反応3>に記載の化合物25-bを文献Aに記載の化合物25の代わりに用いて、文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより、一般式(I)においてR1がアルキル基を表し、R2及びR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物を製造することができる。さらに、例えば、上記アルキル基R1のR1をメチル基とすることで、一般式(I)においてR1がメチル基を表し、R2及びR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物3)を製造することができる。
【0039】
【化8】

【0040】
市販されている上記<反応4>に記載の化合物15((R)−(+)−リンゴ酸)のカルボン酸を還元して上記<反応4>に記載の化合物16へ導き、1、2−ジオール部分をアセタールで保護すると、文献Aに記載の化合物21に相当する上記<反応4>に記載の化合物21-cが得られる。以下、上記<反応4>に記載の化合物21-cを文献Aに記載の化合物21の代わりに用いて、文献Aに記載された方法と同様の変換により文献Aに記載の化合物23に相当する上記<反応4>に記載の化合物23-cに導き、上記<反応2>と同様の方法によりR1基を導入することにより、上記<反応4>に記載の化合物24-cが得られる。以下、上記<反応4>に記載の化合物24-cを文献Aに記載の化合物24の代わりに用いて、文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより、一般式(I)においてR1がアルキル基を表し、R2及びR3が水素原子を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物を製造することができる。さらに、例えば、R12CuLiのR1をメチル基とすることで、一般式(I)においてR1がメチル基を表し、R2及びR3が水素原子を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物4)を製造することができる。
【0041】
また、上記一般式(I)において、R2及びR3にメチル基以外の炭素数1〜3のアルキル基を導入する方法、R4にメチル基を導入する方法、R5にメチル基またはヒドロキシメチル基を導入する方法、Xに水素またはメトキシ基を導入する方法も公知の方法によって可能である。
【0042】
さらに、上記一般式(I)で表されるα、β−不飽和ラクトン誘導体の薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物は、公知の方法によって製造することができる。
【0043】
<本発明の癌の予防剤および治療剤(以下、本発明の薬剤ともいう)>
本発明の癌の予防剤は、本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする。
【0044】
また、本発明の癌の治療剤は、本発明のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする。
【0045】
本発明の癌の治療剤および癌の予防剤のいずれにおいても臨床に応用するに際し、治療上および予防上のいずれも上記有効成分の担体成分に対する割合は、1質量%から99質量%の間で変動されうる。例えば本発明の薬剤は顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の剤形にして経口投与してもよいし、注射剤として静脈内投与、筋肉内投与又は皮下投与してもよい。また、坐剤として用いることもできる。また、注射用の粉末にして用事調製して使用してもよい。
【0046】
本発明の癌の治療剤および癌の予防剤のいずれにおいても、上記有効成分の他に、経口、経腸、非経口に適した、薬理学的及び製剤学的に許容される有機又は無機の、固体又は液体の添加物を、本発明の薬剤を調製するために用いることができる。
【0047】
例えば、上記添加物としては、賦形剤、増量剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、防腐剤、乳化剤、安定化剤等が挙げられる。賦形剤又は増量剤としては、例えば、デンプン類、ラクトース、ショ糖、マンニトール、および珪酸が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、寒天、炭酸カルシウム、バレイショもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、特定の複合珪酸塩が挙げられる。結合剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖およびアラビアゴムが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール類、ラウリル硫酸ナトリウム、又はその混合物が挙げられる。希釈剤としては、例えば、乳糖、トウモロコシデンプンが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸、リン酸、酒石酸、乳酸等の有機酸、塩酸等の無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン類が挙げられる。防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウムが挙げられる。乳化剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の陽イオン性界面活性剤、モノステアリン酸グリセリル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。安定化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エデト酸が挙げられる。
【0048】
特に、注射あるいは点滴用添加物としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤 を構成しうる溶解剤 又は溶解補助剤 ;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤 ;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤 が挙げられる。
【0049】
本発明の薬剤の臨床投与量は、経口投与により用いられる場合には、成人に対し本発明の化合物の質量として、一般には一日量0.01〜1000 mg、好ましくは0.1〜100 mgであるが、年令、病態、症状により適宜増減することがさらに好ましい。上記一日量の本発明の薬剤は、一日に一回、又は適当な間隔をおいて一日に2もしくは3回に分けて投与してもよいし、間欠投与してもよい。
【0050】
また、注射剤として用いる場合には、成人に対し本発明の化合物として、一日量0.001〜100 mg、好ましくは0.01〜10 mgを連続投与又は間欠投与することが望ましい。
これら、用量範囲および最適用量は、当業者にとって容易に決定することが可能である。
【0051】
また、本発明の薬剤は、癌及び/又は腫瘍の発症に先立って予防的に投与しておくこともできる。また、癌及び/又は腫瘍を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、本発明の薬剤を該患者に投与することができる。
【0052】
本発明の薬剤は癌及び/又は腫瘍の抑制のために広く使用することができる。癌及び/又は腫瘍の抑制とはより具体的には、癌及び/又は腫瘍発生の防止、癌及び/又は腫瘍増大の抑制、及び癌及び/又は腫瘍の退縮などが含まれ、臨床的には癌及び/又は腫瘍の予
防及び/又は治療の全てを包含することを意味する。
【0053】
本発明の薬剤を用いる際に対象となる癌または腫瘍は、その種類は特には限定されないが、例えば、膵臓癌または乳癌が挙げられる。
【0054】
以下本発明について詳細に説明するが、これらの記載に限定されない。
<α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物またはその誘導体の該α、β−不飽和ラクトン部分の構造変換理論>
【0055】
<α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物およびその誘導体>
α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物は、下記一般式(II)(R4はメチル基またはエチル基を表し、R6は水素原子またはメチル基を表し、Yは水素原子または水酸基を表し、R7はアルキル基または置換基を有していてもよいアルケニル基を表す)で表すことが可能であり、また、該下記一般式(II)で表される、α、β−不飽和ラクトン骨格に長鎖アルキレン基を有する化合物は、微生物の培養液などからいくつか単離されており、レプトマイシン、カズサマイシン、アンギノマイシン、レプトスタチン、カリスタチンを例示することが可能である(Journal of Antibiotics、第36巻、第646-650頁、1983年;第38巻、第220-223頁、1985年;第40巻、第1349-1352頁、1987年;第46巻、第735-740頁、1993年;第48巻、第954-961頁、1995年:Tetrahedron Letters、第38巻、第2859-2862頁、1997年)。
【0056】
【化9】

【0057】
また、これらα、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物の誘導体としては、長鎖アルキレン部分の構造が変換された化合物として、Applied and Environmental Microbiology、第64巻、第714-720頁、1998年、Bioorganic & Medicinal Chemistry、第8巻、第2651-2661頁、2000年、Bioorganic & Medicinal Chemistry、第9巻、第57-67頁、2001年の文献に記載された化合物などを例示することが可能である。
【0058】
α、β−不飽和ラクトン骨格を有する天然物またはその誘導体、例えば、α、β−不飽和ラクトン骨格を有する上記一般式(II)またはその誘導体は、通常、生体の標的蛋白の求核性部位がこのラクトン部分に求核付加することによって活性を発現する。しかしながら、この求核付加は標的蛋白以外の生体成分も引き起こすために、これらの化合物は生体内では非常に不安定であり、in vitro活性に比べてin vivo活性が非常に弱いことが多いという欠点を有する。この欠点を改良するためには、α、β−不飽和ラクトンの反応性を適度に調節し、一般的な求核性の生体成分とはほとんど反応せず、標的蛋白と結合した時だけに求核付加が起きるようにすれば良いと考察した。
【0059】
該α、β−不飽和ラクトンの反応性を落とすためには、例えば、β位近辺の立体障害を大きくして標的蛋白以外の蛋白が近づきにくくする方法、α位またはβ位に電子供与性の置換基を導入して電子を非局在化させる方法が考えられる。本発明においては、上述いずれか一方、または、両方の方法を用いて構造変換を行い、新規α、β−不飽和ラクトン誘
導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を創製した。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び試験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
上記一般式(I)において、R1が水素原子を表し、R2とR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物1:下記式(III))の製造。
【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
「Tetrahedron Letters、第27巻、第679-682頁、1986年(文献B)」に記載の「化合物6」は「Organic Letters、第6巻、第2845-2848頁、2004年(文献A)」に記載の「化合物21」に相当するので、該文献Bに記載の「化合物6」を該文献Aに記載の「化合物21」の代わりに用いて文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより製造した。
【0065】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 0.78 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.98 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.05
(t, J = 7.3 Hz, 3H), 1.07 (s, 3H), 1.09 (s, 3H), 1.19 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 1.73-1.78 (m, 1H), 1.86 (s, 3H), 1.93 (dd, J = 13.3, 9.2 Hz, 1H), 2.05-2.15 (m, 5H),
2.19-2.23 (m, 3H), 2.62-2.69 (m, 1H), 2.77-2.82 (m, 1H), 3.58-3.64 (m, 2H), 3.85-3.90 (m, 2H), 4.61 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 5.05 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 5.23 (d, J =
9.6 Hz, 1H), 5.61-5.72 (m, 3H), 5.92 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 6.00 (d, J = 15.6 Hz,
1H), 6.59 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.69 (d, J = 9.6 Hz, 1H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) 12.96, 13.31, 18.37, 24.54, 26.61, 32.12, 33.46, 35.60,
40.77, 45.29, 48.58, 54.15, 60.39, 62.14, 72.06, 86.98, 118.54, 121.27, 122.06,
128.63, 131.77, 135.05, 135.57, 136.94, 139.26, 156.97, 164.46, 172.52, 178.50,
215.26.
【0066】
<実施例2>
上記一般式(I)において、R1がメチル基を表し、R2が水素原子を表し、R3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合
物(本発明の化合物2:下記式(IV))の製造。
【0067】
【化12】

【0068】
【化13】

【0069】
ヨウ化銅(I)(197.6 mg、1.04 mmol)のTHF懸濁液(2 ml)に、0℃でメチルリチウムのエーテル溶液(1.02 M、2.0 ml)を加え、1時間撹拌した。その溶液を-78℃に冷却し、文献Aに記載の「化合物23」(103.6 mg、 0.488 mmol)のTHF溶液(1 ml)を加え、7時間撹拌した。飽和塩化アンモウニウム水溶液を加え反応を停止し、酢酸エチルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することで得た粗生成物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製することにより、上記<反応2>に示した「化合物24-a」においてR1がメチル基の化合物を得た(102.1 mg、0.447 mmol、収率92%)。
【0070】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 1.15 (3H, d, J = 6.4 Hz), 1.36 (3H, s), 1.44 (3H, s), 1.84 3H, d, J = 1.4 Hz), 3.65-3.68 (4H, m), 3.94 (1H, dd, J = 8.2, 6.4 Hz), 4.01-4.09 (2H, m), 5.67 (1H, d, J = 1.4 Hz).
【0071】
得られた上記<反応2>に示した「化合物24-a」においてR1がメチル基の化合物は文献Aに記載の「化合物24」に相当するので、以下、<反応2>に示した「化合物24-a」においてR1がメチル基の化合物を文献Aに記載の「化合物24」の代わりに用いて、文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより、上記一般式(I)において、R1がメチル基を表し、R2が水素原子を表し、R3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物を得た。
【0072】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 0.79 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.98 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.06
(t, J = 7.3 Hz, 3H), 1.18 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 1.74-1.79 (m, 1H), 1.86 (d, J = 0.9 Hz, 3H), 1.93 (dd, J = 13.3, 9.2 Hz, 1H), 2.02 (d, J = 1.4 Hz, 3H), 2.08 (m,
1H), 2.13 (s, 3H), 2.22-2.27 (m, 4H), 2.65-2.71 (m, 1H), 2.77-2.83 (m, 1H), 3.57-3.63 (m, 2H), 3.84-3.90 (m, 2H), 4.94 (dd, J = 7.8 Hz, 1H), 5.05 (d, J = 10.1 Hz, 1H), 5.22 (d, J = 10.1 Hz, 1H), 5.62-5.73 (m, 3H), 5.79 (br s, 1H), 6.00 (d,
J = 15.6 Hz, 1H), 6.65 (d, J = 15.6 Hz, 1H).
【0073】
<実施例3>
上記一般式(I)において、R1、R2、及びR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物3:下記式(V))の製造。
【0074】
【化14】

【0075】
文献B(Tetrahedron Letters、27巻、679-682頁、1986年)記載の「化合物13」 (1.18
g、5.83 mmol)とトリエチルアミン(5.0 ml、36 mmol)のDMSO溶液(10 ml)に、0℃で三酸化硫黄ピリジン錯体(2.77 g、17.4 mmol)を加え、室温で45分間撹拌した。冷水を加え反応を停止し、エーテルで抽出、有機層を水、次いで飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することで得た粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:1)で精製することにより、アルデヒドを得た(1.13 g、5.64 mmol、収率97%)。
【0076】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 0.88 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.90 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.11
(6H, s), 1.56-1.69 (4H, m), 3.66 (1H, t, J = 8.2 Hz), 4.02 (1H, dd, J = 8.2, 6.4 Hz), 4.14 (1H, dd, J = 8.2, 6.4 Hz), 9.63 (1H, s).
【0077】
臭化メチルマグネシウムのTHF溶液(18 ml、17 mmol)に、上記で得られたアルデヒド(1.13 g、5.64 mmol)のTHF溶液(5 ml)を0℃で滴下して加え、室温で40分間撹拌した。0℃で飽和塩化アンモウニウム水溶液を加え反応を停止し、酢酸エチルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することで二級アルコールを得た(1.12 g、5.18 mmol、収率92%)。
【0078】
この二級アルコールとトリエチルアミン(3.0 ml、22 mmol)のDMSO溶液(7 ml)に、0℃で三酸化硫黄ピリジン錯体(1.68 g、10.6 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。冷水を加え反応を停止し、エーテルで抽出、有機層を1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することでケトンを得た(約1 g)。
【0079】
このケトンをTHF(6 ml)に溶解し、0℃で6M塩酸を加え、0℃で15分間、室温で45分間撹拌した。固体の炭酸水素ナトリウムを発泡が収まるまで加え、さらに飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することでヘミアセタールを得た(0.82 g)。
【0080】
このヘミアセタールのジクロロメタン溶液(15 ml)に、0℃でtert-ブチルジフェニルシリルクロリド(TBDPSCl)(2.0 ml、7.7 ml) 、トリエチルアミン(1.1 ml、7.9 mmol) 、及びN,N-ジメチルアミノピリジン(29.1 mg、0.24 mmol)を加え、0℃で1時間、室温で3
0時間撹拌した。水を加え反応を停止し、酢酸エチルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することで得た粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、ヒドロキシケトン(本明細書段落番号第0037<反応3>に示した「化合物11」において、 R1がメチル基の化合物)を得た(561.1 mg、1.46 mmol、 アルデヒドからの収率26%)。
【0081】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 1.04 (3H, s), 1.06 (9H, s), 1.08 (3H, s), 2.13 (3H, s), 2.90 (1H, d, J = 3.2 Hz), 3.57 (1H, dd, J = 10.5, 8.2 Hz), 3.69 (1H, dd, J = 10.5, 3.2 Hz), 3.83-3.86 (1H, m), 7.38-7.46 (6H, m), 7.64-7.67 (4H, m).
【0082】
上記のヒドロキシケトン(466.0 mg、1.21 mmol)とピリジン(170 μl、2.10 mmol)のジクロロメタン溶液(5 ml)に、0℃で臭化ブロモアセチル(394.3 mg、1.95 mmol)を滴下して加え、0℃で2時間撹拌した。冷水を加え反応を停止し、エーテルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することで得た粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製することにより、ブロモエステルを得た(597.0 mg、1.18 mmol、収率98%)。
【0083】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 1.01 (9H, s), 1.10 (3H, s), 1.10(3H, s), 2.11 (3H, s), 3.64-3.71 (2H, m), 3.77 (1H, d, J = 12 Hz), 3.81 (1H, d, J = 12 Hz), 5.40 (1H, dd, J = 7.3, 4.1 Hz), 7.38-7.46 (6H, m), 7.62-7.67 (4H, m).
【0084】
ヨウ化サマリウム(II)のTHF溶液(0.1M THF溶液26 ml + THF 25 ml)に、上記で得られたブロモエステル (596.1 mg、1.18 mmol)のTHF溶液(10 ml)を-78℃で滴下して加え、-78℃で2時間撹拌した。pH7リン酸緩衝液を加え反応を停止し、酢酸エチルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することでヒドロキシラクトンを得た(565.6 mg)。
【0085】
このヒドロキシラクトンのピリジン溶液(5 ml)に、0℃で塩化チオニル(1.0 ml、14 mmol)を滴下して加え、1.5時間撹拌した。氷と冷水を加え反応を停止し、酢酸エチルで抽出、有機層を1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後、溶液を濃縮することで得た粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1→3:1)で精製することにより、ラクトン(本明細書段落番号第0037<反応3>に示した「化合物25-b」において、R1がメチル基の化合物)を得た(416.8 mg、1.02 mmol、ブロモエステルからの収率86%)。
【0086】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 1.01 (3H, s), 1.05 (9H, s), 1.11 (3H, s), 1.89 (1H, d, J
= 1.4 Hz), 3.85-3.92 (2H, m), 4.17 (1H,m), 5.73 (1H, d, J =1.4 Hz), 7.38-7.45 (6H, m), 7.67-7.68 (4H, m).
【0087】
このラクトン(本明細書段落番号第0037<反応3>に示した「化合物25-b」において、R1がメチル基の化合物)は文献Aに記載の「化合物25」に相当するので、以下、<反応3>に示した「化合物25-b」において、R1がメチル基の化合物を文献Aに記載の「化合物25」の代わりに用いて、文献Aに記載された方法と同様の変換を行うことにより、上記一般式(I)において、R1、R2、及びR3がメチル基を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物3)を得た。
【0088】
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) 0.78 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.99 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.05
(t, J = 7.3 Hz, 3H), 1.06 (s, 3H), 1.08 (s, 3H), 1.19 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.74
-1.79 (m, 1H), 1.86 (d, J = 0.9 Hz, 3H), 1.91-1.97 (m, 4H), 2.02-2.15 (m, 5H), 2.18-2.24 (m, 3H), 2.62-2.68 (m, 1H), 2.78-2.83 (m, 1H), 3.58-3.64 (m, 2H), 3.84-3.90 (m, 2H), 4.55 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 5.05 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 5.22 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 5.60-5.66 (m, 1H), 5.70 (br s, 1H), 5.72 (dd, J = 15.6, 8.2 Hz, 1H),
5.78 (br s, 1H), 6.00 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.59 (d, J = 15.6 Hz, 1H).
【0089】
<実施例4>
上記一般式(I)において、R1がメチル基を表し、R2とR3が水素原子を表し、R4がエチル基を表し、R5がカルボキシル基を表し、Xが水酸基を表す化合物(本発明の化合物4:下記式(VI))の製造。
(R)−(+)−リンゴ酸を出発原料として、実施例1及び実施例2と同様の方法で合成した。
【0090】
【化15】

【0091】
1HNMR (500 MHz,CDCl3) 0.74 (d,J = 5.5 Hz,3H), 0.96 (d,J = 6.4 Hz, 3H),
1.03 (t,J = 7.3 Hz,3H), 1.16 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.63 (m, 1H), 1.86 (s, 3H), 1.96-2.09 (m, 10H), 2.15-2.20 (m, 2H), 2.31 (dd, J = 17.9, 4.1 Hz, 1H), 2.45 (dd, J = 17.9, 11.0 Hz, 1H), 2.62-2.68 (m, 1H), 2.77-2.80 (m, 1H), 3.49-3.52 (m,
1H), 3.62-3.68 (m, 1H), 3.85-3.87 (d, 2H), 4.91-4.94 (m, 1H), 4.96-5.00 (m, 1H), 5.22 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 5.62 (dd, J = 15.6, 7.8 Hz, 1H), 5.68 (s, 1H), 5.73 (dd, J = 15.6, 6.9 Hz, 1H), 5.98 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.60 (d, J = 15.6 Hz, 1H).
【0092】
<試験例1> 抗腫瘍活性の測定
10%ウシ胎児血清(No. 2916754、ICN社製)を含むD-MEM/F12(No. D6421、SIGMA社製)で調製したヒト膵臓癌細胞株HPAC(ATCC NO. CRL-2119)を96ウェルプレート(旭テクノグラス株式会社製)に1ウェル当たり2000個、0.05 mLの割合で播種した。翌日、被験物質(本発明の化合物1、化合物2、化合物3及び化合物4、並びに比較対照としてのカズサマイシンA及びタキソール)のDMSO溶解液を、10%ウシ胎児血清を含むD-MEM/F12で最終濃度の2倍に希釈し、前日播種した細胞に1ウェル当たり0.05 mLの割合で添加した。3日後Cell Counting Kit試薬(No.345-06463,株式会社同仁化学研究所)を1ウェル当たり0.01 mLの割合で添加した。3時間培養した後、プレートリーダー(TECAN、和光純薬株式会社製)を用いて吸光度(測定波長405 nm、参照波長620 nm)を測定した。被験物質を添加しないウェルの吸光度の値を100%、細胞を播種せずCell Counting Kit試薬を添加したウェルの値を0%として増殖抑制率を求めた。
【0093】
本発明の化合物1、化合物2、化合物3及び化合物4、並びに比較対照としてのカズサマイシンA及びタキソールの50%阻害濃度(IC50)の計算結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
<試験例2> マウスでの簡易毒性試験
被験物質をDMSOに溶解した後、生理食塩水で希釈して、8週齢、雌性ヌードマウスに1日1回、4日間、腹腔内に投与した。5日目にジエチルエーテル麻酔下で開腹し、後大静脈よりEDTA存在下で採血した。被験物質としては、カズサマイシンA、化合物1、化合物2及び化合物4を用い、1群3例として0.125、0.25、0.5 mg/kgの3用量で試験を行った。
その結果、カズサマイシンAの0.5 mg/kg投与群は5日目の開腹前に全例死亡したのに対して、化合物1、化合物2及び化合物4は、すべての群で死亡例はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1が水素原子を表す時、R2とR3はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を表し、R1が炭素数1〜3のアルキル基を表す時、R2とR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R4はメチル基またはエチル基を表し、R5はメチル基、ヒドロキシメチル基、またはカルボキシル基を表し、Xは水素原子、水酸基、またはメトキシ基を表す)で示されるα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項2】
前記一般式(I)において、R1、R2及びR3の全てがそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基となることはない、請求項1に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2とR3が炭素数1〜3のアルキル基である、請求項1に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項4】
前記一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2とR3がメチル基である、請求項3に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項5】
前記一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2とR3がメチル基であり、R4がエチル基であり、R5がカルボキシル基であり、Xが水酸基である、請求項4に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項6】
前記一般式(I)において、R1が炭素数1〜3のアルキル基であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である、請求項1に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項7】
前記一般式(I)において、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子またはメチル基である、請求項6に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項8】
前記一般式(I)において、R1がメチル基であり、R2とR3が水素原子であり、R4がエチル基であり、R5がカルボキシル基であり、Xが水酸基である、請求項7に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項9】
前記一般式(I)において、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチ
ル基であり、R4がエチル基であり、R5がカルボキシル基であり、Xが水酸基である、請求項7に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の治療剤。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のα、β−不飽和ラクトン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩、水和物、または溶媒和物を有効成分とする癌の予防剤。
【請求項12】
α、β−不飽和ラクトン骨格を有する下記一般式(II)またはその誘導体において、前記一般式(II)のα、β−不飽和ラクトン部分を、求核付加に対する反応性を適度に落とす構造変換を行うことにより、in vivoでの安定性が高まったα、β−不飽和ラクトン誘導体を設計する方法。
【化2】

(式中、R4はメチル基またはエチル基を表し、R6は水素原子またはメチル基を表し、Yは水素原子または水酸基を表し、R7はアルキル基または置換基を有していてもよいアルケニル基を表す)

【公開番号】特開2006−143713(P2006−143713A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307450(P2005−307450)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(390027214)社団法人北里研究所 (20)
【Fターム(参考)】