説明

α線量率測定方法及びα線量率測定装置

【課題】より高精度にα線量率を測定し得るα線量率測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】試料10から放出されるα線の線量率を固体飛跡検出器12を用いて求めるα線量率測定方法において、互いに対向する磁石20の一方の端部とコイル22の一方の端部との間に試料を配置し、コイルの他方の端部の近傍に固体飛跡検出器12を配置する第1のステップと、磁石とコイルとを用いて磁場を発生させ、試料と固体飛跡検出器とを減圧したチャンバ14内に所定時間放置する第2のステップと、固体飛跡検出器をエッチングすることにより、固体飛跡検出器に入射したα線の飛跡に応じたエッチピットを固体飛跡検出器に形成する第3のステップと、固体飛跡検出器に形成されたエッチピットの数と放置した所定時間とに基づいて、試料から放出されたα線の線量率を求める第4のステップとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α線量率測定方法及びα線量率測定装置に係り、特に、α線量率を高精度に測定し得るα線量率測定方法及びα線量率測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半田材料、配線材料、封止材料等には微量の放射性物質が含まれており、これらの材料からα線が放出される場合がある。これらの材料から放出されたα線は半導体素子の動作に影響を与え、いわゆるソフトエラーが生じてしまうことがあった。近時では、より信頼性の高い半導体装置を提供すべく、ソフトエラーに対する対策が極めて重要となっている。
【0003】
ソフトエラーの生じにくい半導体装置を提供するためには、放出されるα線の量が少ない材料を用いることが極めて重要である。放出されるα線の量が少ない材料を選択するためには、材料から放出されるα線の量を正確に測定することが必要である。
【0004】
従来より、試料から放出されるα線の量を測定する装置として、ガスフロー型比例計数装置が知られている。ガスフロー型比例計数装置を用いれば、検出下限が0.001cph/cm程度の測定を行うことが可能である。なお、cph/cmは、count per hour/cmの略であり、単位面積当たりの線量率を示す単位である。線量率とは、単位時間当たりの放射線の量のことである。cph/cmなる単位は、試料表面1cm当たりにおいて、1時間にいくつのα粒子が放出されるかを示す際に用いられる。
【0005】
しかしながら、ガスフロー型比例計数装置は、上述したように検出下限が0.001cph/cm程度であり、検出下限が必ずしも十分に低いとはいえなかった。よりソフトエラーの起こりにくい半導体装置を提供するためには、放出されるα線の線量率が0.001cph/cmより十分に小さい材料を用いることが要求される。このため、より低い検出下限でα線の線量率を測定し得る技術が待望されていた。
【0006】
α線の線量率の測定精度を向上し得るα線量率測定方法として、固体飛跡検出器(Solid State Track Detector、SSTD)と試料とを重ね合わせた状態で所定時間放置するステップと;固体飛跡検出器をエッチングすることにより、固体飛跡検出器に入射したα線の飛跡に応じたエッチピットを固体飛跡検出器に形成するステップと;固体飛跡検出器に形成された前記エッチピットの数と放置した所定時間とに基づいて、試料から放出されたα線の線量率を求めるステップとを有するα線量率測定方法が、本願発明者等により提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
提案されているα線量率測定方法によれば、試料と固体飛跡検出器とを比較的長時間放置しておき、エッチピットの数を放置時間で除算することによりα線の線量率を求めるため、放置時間を長く設定するほど測定精度を高くすることが可能となる。従って、提案されているα線量率測定方法によれば、α線の線量率の測定精度を向上することが可能となる。
【特許文献1】特開2006−214971号公報
【特許文献2】国際公開第2006/035496号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、試料からは様々な方向にα粒子(α線)が放出される。このため、固体飛跡検出器112に入射されるα粒子の入射角θも様々である。図3は、提案されているα線量率測定方法においてα粒子が様々な方向に入射した場合を示す工程断面図である。α粒子の入射角θが比較的大きい場合、例えば、固体飛跡検出器112の表面に対してほぼ垂直方向にα粒子が入射された場合には、固体飛跡検出器112のうちの深い領域までα粒子が達し、α粒子の飛跡114が固体飛跡検出器112のうちの深い領域まで形成される。一方、α粒子の入射角θが比較的小さい場合には、α粒子は固体飛跡検出器112のうちの深い領域には達せず、α粒子の飛跡114は固体飛跡検出器112のうちの浅い領域にのみ形成される。固体飛跡検出器112を薬液を用いてエッチングすると、α粒子の飛跡114が形成された箇所においては比較的速いレートでエッチングが進行し、α粒子の飛跡114が形成されていない部分においては比較的遅いレートでエッチングが進行する。即ち、α粒子の飛跡114が形成されていない箇所においても、固体飛跡検出器112の表面はある程度エッチング除去される(バルクエッチング)。α粒子が比較的小さい入射角θで入射した箇所においては、固体飛跡検出器112のうちの浅い領域にのみα粒子の飛跡114が形成されるため、α粒子の飛跡の周囲がエッチング除去されてしまい、α粒子の飛跡114に応じたエッチピットが固体飛跡検出器112に残存しない。このため、提案されているα線量率測定方法では、比較的大きい入射角θで固体飛跡検出器112に入射したα粒子についてはエッチピット128を検出し得るものの、比較的小さい入射角θで固体飛跡検出器112に入射したα粒子についてはエッチピットを検出し得なかった。このため、提案されているα線量率測定方法では、必ずしも高精度にα線量率を測定することができなかった。
【0009】
本発明の目的は、より高精度にα線量率を測定し得るα線量率測定方法及びそのα線量率測定方法に用いられるα線量率測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、試料から放出されるα線の線量率を固体飛跡検出器を用いて求めるα線量率測定方法において、互いに対向する磁石の一方の端部とコイルの一方の端部との間に試料を配置し、前記コイルの他方の端部の近傍に固体飛跡検出器を配置する第1のステップと、前記磁石と前記コイルとを用いて磁場を発生させ、前記試料と前記固体飛跡検出器とを減圧した前記チャンバ内に所定時間放置する第2のステップと、前記固体飛跡検出器をエッチングすることにより、前記固体飛跡検出器に入射したα線の飛跡に応じたエッチピットを前記固体飛跡検出器に形成する第3のステップと、前記固体飛跡検出器に形成された前記エッチピットの数と放置した前記所定時間とに基づいて、前記試料から放出されたα線の線量率を求める第4のステップとを有することを特徴とするα線量率測定方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば、チャンバ内に設けられた磁石と、前記チャンバ内に前記磁石から離間して設けられたコイルであって、前記コイルの一方の端部が前記磁石の一方の端部に対向するコイルとを有し、前記磁石の前記一方の端部と前記コイルの前記一方の端部との間に設けられ、試料を支持するための試料支持手段と、前記コイルの他方の端部の近傍に設けられ、固体飛跡検出器を支持するための固体飛跡検出器支持手段とを有することを特徴とするα線量率測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、互いに対向する磁石の一方の端部とコイルの一方の端部との間に試料を配置し、コイルの他方の端部の近傍に固体飛跡検出器を配置し、磁石とコイルとを用いて磁場を発生させ、試料と固体飛跡検出器とを減圧したチャンバ内に所定時間放置する。このため、本発明では、磁力線が、磁石からコイルに向かうに従って広がり、コイルの内部においては均一な状態となる。α粒子は、最終的には磁力線に沿った方向に運動するため、固体飛跡検出器の検出面に対してほぼ垂直な方向にα粒子を入射させることが可能となる。このため、本発明によれば、試料から様々な方向にα粒子が放出されるにもかかわらず、α粒子の飛跡を固体飛跡検出器のうちの深い領域に達するように形成することが可能となり、エッチピットを固体飛跡検出器に確実に形成することが可能となる。このため、本発明によれば、極めて高精度にα線量率を測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[一実施形態]
本発明の一実施形態によるα線量率測定方法及びα線量率測定装置を図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施形態によるα線量率測定装置を示す図である。図2は、エッチピットが形成された固体飛跡検出器を示す平面図である。
【0014】
まず、本実施形態において用いられるα線量率測定装置を図1を用いて説明する。
【0015】
図1に示すように、α線量率測定装置2は、超伝導磁石20と、試料を支持する試料支持手段(図示せず)と、固体飛跡検出器を支持する固体飛跡検出器支持手段(図示せず)と、ソレノイドコイル22と、超電導磁石20及びソレノイドコイル22を収容するチャンバ14と、チャンバ14内を真空状態にするための真空ポンプ18とを有している。
【0016】
超電導磁石20の材料としては、例えばY−Ba−Cu−O系の超伝導材料が用いられている。超電導磁石20のサイズは、例えば、長さ20cm程度とする。超伝導磁石20から発生する磁場の磁束密度は、例えば約15T程度とする。超伝導磁石20の直径は、例えば2cm程度とする。
【0017】
ソレノイドコイル22は、ボビン24と、ボビン24の周囲に巻き付けられた導線26とにより構成されている。ボビンの材料24は、例えば、プラスチックやステンレス304等の非磁性材料とする。導線26の材料は、例えば銅とする。ソレノイドコイル22から発生する磁場の磁束密度は、例えば0.01T程度とする。ソレノイドコイル22から発生する磁場の磁束密度は、導線に流す直流電流の大きさを適宜設定することにより制御し得る。ソレノイドコイル22の直径は、例えば20cm程度とする。即ち、ソレノイドコイル22の直径は、超電導磁石20の直径に対して十分に大きく設定されている。ソレノイドコイル22のZ軸方向の長さは、例えば2m程度とする。なお、Z軸方向は、図1における紙面左右方向である。
【0018】
超電導磁石20とソレノイドコイル22とは互いに離間して設けられている。超電導磁石20の長手方向とソレノイドコイル22の長手方向は、いずれもZ軸方向とする。超電導磁石20の長手方向の中心軸とソレノイドコイル22の長手方向の中心軸とは、互いに一致している。即ち、超電導磁石20は、ソレノイドコイル22の中止軸の延長線上に配されている。超電導磁石20の一方の端部とソレノイドコイル22の一方の端部とは、互いに対向している。超電導磁石20の一方の端部とソレノイドコイル22の一方の端部との間の距離は、例えば40cm程度とする。
【0019】
測定対象となる試料10は、超電導磁石20の一方の端部(磁極)とソレノイドコイル22の一方の端部との間における超電導磁石20の一方の端部の近傍に配される。試料10は、図示しない試料支持手段により支持される。
【0020】
固体飛跡検出器12は、ソレノイドコイル22の他方の端部の近傍に配される。固体飛跡検出器12は、図示しない固体飛跡検出器12により支持される。固体飛跡検出器12の主面の方向は、Z軸方向に対して垂直とする。即ち、固体飛跡検出器12の主面の法線方向は、ソレノイドコイル22の中心軸の方向に一致している。
【0021】
チャンバ14には、配管16を介して真空ポンプ18が接続されている。チャンバ14としては、例えばステンレス製のチャンバを用いる。
【0022】
こうして本実施形態において用いられるα線量率測定装置が構成されている。
【0023】
本実施形態によるα線量率測定装置では、図1のような磁力線28が得られる。即ち、超電導磁石20の一方の端部からソレノイドコイル22の一方の端部に向かうに従って磁力線28が徐々に広がり、ソレノイドコイル22の内部では磁力線28はZ軸方向にほぼ揃った状態となる。
【0024】
試料20からZ軸方向に放出されたα粒子は、磁力線28を横切る方向に運動しないため、磁場によって運動方向が変化させられることなく、Z軸方向に運動し、固体飛跡検出器12の主面に対してほぼ垂直に入射する。
【0025】
一方、Z軸方向に対して垂直な成分の運動量を有するα粒子は、磁力線28を横切る方向に運動するため、ローレンツ力を受けて回転運動を行う。超電導磁石20から離れるに伴って磁場が弱くなるため、α粒子の回転半径は大きくなり、α粒子の回転の角速度は減少し、Z軸方向に垂直な面内における運動エネルギーは減少する。磁場はα粒子にエネルギーを与えないため、試料20から放出された際にα粒子が有していた運動エネルギーの殆どは、Z軸方向の運動エネルギーに変換される。かかるα粒子が固体飛跡検出器12に達する際には、α粒子は磁力線28に沿ってほぼZ軸方向に運動するようになる。
【0026】
即ち、α粒子は試料10から様々な方向に放出されたとしても、最終的には磁力線に沿って運動する。このため、本実施形態によれば、α粒子が試料10から様々な方向に放出されたとしても、固体飛跡検出器12に達する際にはα粒子の運動方向をZ軸方向にすることができ、固体飛跡検出器12の主面に対してほぼ垂直な方向にα粒子を入射させることが可能となる。このため、本実施形態によれば、固体飛跡検出器12のうちの深い領域にα粒子を到達させることが可能となり、α粒子の飛跡に応じたエッチピットを確実に形成することができる。従って、本実施形態によれば、α線の線量率を極めて高精度に測定することが可能となる。
【0027】
次に、本実施形態によるα線量率測定方法を図1及び図2を用いて説明する。
【0028】
まず、測定対象となる試料10と固体飛跡検出器12とを用意する。試料10は、例えば、半田材料、電極材料、配線材料、封止材料等である。試料10のサイズは、例えば30mm×30mm×1mmとする。固体飛跡検出器12としては、例えばアリルジグリコールカーボネート(商標名:CR−39)より成る平板を用いる。固体飛跡検出器12のサイズは、例えば90mm×90mm×1mmとする。
【0029】
α粒子等の重荷電粒子が絶縁性の固体中を通過すると、重荷電粒子の通路に沿って固体中の原子配列に歪みが生じ、荷電粒子の飛跡(放射線損傷)が形成される。飛跡が形成された固体を薬液を用いてエッチングすると、飛跡に沿って比較的速いレートでエッチングが進行し、光学顕微鏡で観測可能な蝕孔(エッチピット、Etch pit)が形成される。固体飛跡検出器とは、このような原理により放射線の量を検出し得る放射線検出器のことである。
【0030】
次に、チャンバ14内に、試料10と固体飛跡検出器12とを配置する。試料10は、図1に示すように、超電導磁石20の一方の端部とソレノイドコイル22の一方の端部との間であって、超電導磁石20の端部の近傍に試料10を配する。また、固体飛跡検出器12は、ソレノイドコイル26の他方の端部の近傍に配する。固体飛跡検出器12の主面の方向は、Z軸方向に対して垂直とする。即ち、固体飛跡検出器の主面の法線方向を、Z軸方向に設定する。固体飛跡検出器12の主面のうちの試料10に対向する側の面は、試料10から放出されるα粒子を検出する検出面として機能する。
【0031】
次に、真空ポンプ18を用いてチャンバ14内の気体を排気し、チャンバ14内を真空状態にする。チャンバ14内の圧力は、例えば1Pa以下とする。
【0032】
また、超電導磁石20とソレノイドコイル22とを用いて磁場を発生させる。超電導磁石20から発生させる磁場の磁束密度は、例えば約15T程度とする。ソレノイドコイル22から発生させる磁場の磁束密度は、例えば0.01T程度とする。これにより、超電導磁石20の端部からZ軸方向に離れるに伴って徐々に弱くなる磁場が、超電導磁石20の一方の端部とソレノイドコイル22の一方の端部との間に形成される。超電導磁石20の一方の端部の近傍に試料10が配されるため、試料10から離れるに伴って徐々に弱くなる磁場が、試料10と固体飛跡検出器12との間に形成されることとなる。図1に示すように、磁力線28は、超伝導磁石20の一方の端部からZ軸方向に離れるに伴って徐々に広がる。ソレノイドコイル22の内部においては、磁場は比較的弱く、磁束密度はほぼ一様である。図1に示すように、ソレノイドコイル22の内部においては、磁力線の方向はZ軸に対してほぼ平行となる。
【0033】
そして、チャンバ14内を真空状態に維持したまま、試料10と固体飛跡検出器12とをチャンバ14内に所定時間放置する。試料10と固体飛跡検出器12とをチャンバ14内に放置する時間は、例えば、数百時間から数千時間、即ち、数週間から数箇月程度とする。
【0034】
本実施形態によるα線量率測定装置では、図1のような磁力線28が得られる。即ち、超電導磁石20の一方の端部からソレノイドコイル22の一方の端部に向かうに従って磁力線28が徐々に広がり、ソレノイドコイル22の内部では磁力線28はZ軸方向にほぼ揃った状態となる。
【0035】
上述したように、α粒子は試料10から様々な方向に放出されたとしても、最終的には磁力線に沿って運動する。このため、本実施形態によれば、α粒子が試料10から様々な方向に放出されたとしても、固体飛跡検出器12に達する際にはα粒子の運動方向をZ軸方向にすることができ、固体飛跡検出器12の主面に対してほぼ垂直な方向にα粒子を入射させることが可能となる。このため、本実施形態によれば、固体飛跡検出器12のうちの深い領域にα粒子を到達させることが可能となり、α粒子の飛跡に応じたエッチピットを確実に形成することができる。従って、本実施形態によれば、α線の線量率を極めて高精度に測定することが可能となる。
【0036】
試料10と固体飛跡検出器12とを重ね合わせる前の段階において、α線等による飛跡が固体飛跡検出器12に数箇所形成されている場合があり得る。このような飛跡は、例えば、空気中に存在するラドン等の放射性物質によって生じると考えられる。また、固体飛跡検出器12自体に微量に含まれている放射性物質によっても、かかる飛跡が生じると考えられる。このように固体飛跡検出器12に予め形成されている飛跡の数は、バックグラウンドと称される。
【0037】
α線の線量率を高精度に測定するためには、バックグラウンドの影響を無視できる程小さくすることが重要である。バックグラウンドの影響を無視できる程小さくするためには、試料10と固体飛跡検出器12とを重ね合わせておく時間、即ち、放置時間を長めに設定すればよい。後述するように、エッチピット28(図2参照)の数を放置時間で除算することによりα線の線量率を求めるためである。
【0038】
本実施形態においてチャンバ14内を真空状態にするのは、以下のような理由によるものである。
【0039】
試料10と固体飛跡検出器12との間に空気が存在している場合には、試料10から放出されたα線の固体飛跡検出器12表面への到達が、空気により妨げられる。そうすると、試料10から放出されるα線の量を正確に測定することが困難となる。本実施形態では、チャンバ14内の空気を排気した状態で、試料10と固体飛跡検出器12とをチャンバ14内に放置するため、試料10から放出されるα線の固体飛跡検出器12への到達が空気により妨げられることがなく、試料10から放出されるα線の線量を正確に測定することが可能となる。
【0040】
また、大気中にはラドン(218Rn、219Rn、220Rn)等の放射性物質が含まれている。このため、試料10と固体飛跡検出器12を大気中で放置した場合には、大気中に存在する放射性物質が固体飛跡検出器12に入射し、空気中に存在する放射性物質によるα線の飛跡が固体飛跡検出器12に形成されてしまい、試料10のみから放出されるα線の量を正確に測定することが困難となる。本実施形態では、チャンバ14内の空気を真空にした状態で試料10と固体飛跡検出器12とを放置するため、空気中に存在する放射性物質の影響を受けることなく、試料10のみから放出されるα線の量を正確に測定することが可能となる。
【0041】
所定時間が経過した後、試料10と固体飛跡検出器12とをチャンバ内14から取り出す。
【0042】
次に、固体飛跡検出器12をエッチング液に浸漬する。エッチング液としては、例えば、NaOH溶液やKOH溶液を用いる。固体飛跡検出器12のうちのα線が入射した箇所(飛跡)においては、固体飛跡検出器12を構成する分子に化学変化が生じているため、α線が入射していない箇所と比較してエッチングが速い速度で進行する。このため、固体飛跡検出器12をエッチング液に浸漬すると、α線の飛跡が拡大され、α線の飛跡に応じたエッチピット(Etch Pit、蝕孔)20が固体飛跡検出器12表面に形成される(図2参照)。エッチピット28の直径は、例えば10μm程度となる。
【0043】
次に、光学顕微鏡等を用い、エッチピット28の数を観測する。
【0044】
次に、エッチピット28の数nと、放置時間tと、検出面の面積Sとに基づいて、単位面積当たりのα線の線量率を求める。単位面積当たりのα線の線量率は、n/t/Sにより求められる。試料10と固体飛跡検出器12とを重ね合わせる前の段階において、固体飛跡検出器12にα線の飛跡が形成されている場合がある。かかるバックグラウンドは、数個から数十個程度と考えられる。α線の線量率はエッチピットの数を放置時間により除算することにより求められるため、放置時間を長く設定するほどバックグラウンドの影響を小さくし得る。
【0045】
こうして、試料10から放出されるα線の線量率が測定される。
【0046】
本実施形態によるα線量率測定方法は、超電導磁石20の一方の端部とソレノイドコイル22の一方の端部とが互いに対向するように超電導磁石20とソレノイドコイル22とを配置し、超電導磁石20の一方の端部とソレノイドコイル22の一方の端部との間に試料10を配置し、ソレノイドコイル22の他方の端部の近傍に固体飛跡検出器12を配置し、超電導磁石20とソレノイドコイル22とを用いて磁場を発生させ、試料10と固体飛跡検出器12とを減圧したチャンバ内に所定時間放置することに主な特徴がある。このため、本実施形態では、磁力線が、超電導磁石20からソレノイドコイル22に向かうに従って広がり、ソレノイドコイル22の内部においては均一な状態となる。α粒子は、最終的には磁力線28に沿った方向に運動するため、固体飛跡検出器12の検出面に対してほぼ垂直な方向にα粒子を入射させることが可能となる。このため、本実施形態によれば、試料10から様々な方向にα粒子が放出されるにもかかわらず、α粒子の飛跡を固体飛跡検出器12のうちの深い領域に達するように形成することが可能となり、エッチピット28を固体飛跡検出器12に確実に形成することが可能となる。このため、本実施形態によれば、極めて高精度にα線量率を測定することが可能となる。
【0047】
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、固体飛跡検出器12の材料としてアリルジグリコールカーボネートを用いる場合を例に説明したが、固体飛跡検出器12の材料はアリルジグリコールカーボネートに限定されるものではない。α線の飛跡に応じたエッチピット28が得られる他のあらゆる樹脂を、固体飛跡検出器12の材料として適宜用いることが可能である。
【0049】
また、上記実施形態では、固体飛跡検出器12の主面がソレノイドコイル22の中心軸に対して垂直になるように固体飛跡検出器12を配置する場合を例に説明したが、固体飛跡検出器12の主面がソレノイドコイル22の中心軸に対して必ずしも垂直である必要はない。固体飛跡検出器12の主面がソレノイドコイル22の中心軸の方向に対して垂直でなくても、固体飛跡検出器12のうちの深い領域にα粒子を到達させることは可能である。ただし、固体飛跡検出器12のうちの十分に深い領域にα粒子を到達させるためには、固体飛跡検出器12の主面の法線とソレノイドコイル22の中心軸との為す角を、小さめに設定することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態によるα線量率測定装置を示す図である。
【図2】エッチピットが形成された固体飛跡検出器を示す平面図である。
【図3】提案されているα線量率測定方法においてα粒子が様々な方向に入射した場合を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0051】
2…α線量率測定装置
10…試料
12…固体飛跡検出器
14…チャンバ
16…配管
18…真空ポンプ
20…超伝導磁石
22…ソレノイドコイル
24…ボビン
26…導線
28…エッチピット
112…固体飛跡検出器
114…飛跡
128…エッチピット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から放出されるα線の線量率を固体飛跡検出器を用いて求めるα線量率測定方法において、
互いに対向する磁石の一方の端部とコイルの一方の端部との間に試料を配置し、前記コイルの他方の端部の近傍に固体飛跡検出器を配置する第1のステップと、
前記磁石と前記コイルとを用いて磁場を発生させ、前記試料と前記固体飛跡検出器とを減圧した前記チャンバ内に所定時間放置する第2のステップと、
前記固体飛跡検出器をエッチングすることにより、前記固体飛跡検出器に入射したα線の飛跡に応じたエッチピットを前記固体飛跡検出器に形成する第3のステップと、
前記固体飛跡検出器に形成された前記エッチピットの数と放置した前記所定時間とに基づいて、前記試料から放出されたα線の線量率を求める第4のステップと
を有することを特徴とするα線量率測定方法。
【請求項2】
請求項1記載のα線量率測定方法において、
前記磁石は、超電導磁石である
ことを特徴とするα線量率測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のα線量率測定方法において、
前記コイルの中心軸の方向に対して前記固体飛跡検出器の主面がほぼ垂直になるように、前記固体飛跡検出器を配置する
ことを特徴とするα線量率測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のα線量率測定方法において、
前記磁石の前記一方の端部の近傍に前記試料を配置する
ことを特徴とするα線量率測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のα線量率測定方法において、
前記固体飛跡検出器は、樹脂より成る
ことを特徴とするα線量率測定方法。
【請求項6】
チャンバ内に設けられた磁石と、
前記チャンバ内に前記磁石から離間して設けられたコイルであって、前記コイルの一方の端部が前記磁石の一方の端部に対向するコイルとを有し、
前記磁石の前記一方の端部と前記コイルの前記一方の端部との間に設けられ、試料を支持するための試料支持手段と、
前記コイルの他方の端部の近傍に設けられ、固体飛跡検出器を支持するための固体飛跡検出器支持手段と
を有することを特徴とするα線量率測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241664(P2008−241664A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86771(P2007−86771)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】