説明

β−アミロイド除去システム

【課題】血中Aβ量を効率的に除去できるシステムを提供すること。
【解決手段】本発明は、β−アミロイドを吸着させて、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備える、β−アミロイド除去システム、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−アミロイド除去システムに関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年7月8日出願の米国仮出願(61/344,376号)に基づくものであり、その内容及びそこで引用する文献の内容及び本願明細書に記載される文献の内容はここに参照として取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は脳内の神経細胞が変性することにより認知症になっていくと考えられている疾患である。その発症機構については、β−アミロイド(以下、「Aβ」と略称する場合がある。)が脳に蓄積することを発端とする「アミロイド仮説」が最も有力であり、可溶性Aβが記憶の長期増強を強く阻害し、また、凝集沈着したAβがフィブリルを形成することで神経細胞死に至ると考えられている。
【0004】
Aβに対する抗体である抗Aβ抗体の投与やAβワクチンの投与により、認知症症状の改善とともに脳のAβ沈着が消失することが報告され(非特許文献1)、アルツハイマー病を治療できる可能性が示唆されている。
しかしながら、数多くの研究グループによって、治療効果に優れた抗Aβ抗体の開発が進められているものの、抗Aβ抗体による治療は高価であり且つ長期間に亘ることから、患者の負担が大きい。また、抗Aβ抗体治療の効果は比較的短く、繰返し投与が必要になるという問題も抱えている。
また、Aβワクチンの投与で副作用死が発生して治験が中止となるなど(非特許文献2)、アルツハイマー病の治療法確立への道乗りは長い。
【0005】
アルツハイマー病のモデルマウスを用いた実験により、脳内Aβが減少する際に血中Aβ量が有意に増加すること(非特許文献3)、免疫賦活機能を有さないAβ結合物質(GelsolinやGM1ガングリオシド)の末梢投与により脳内Aβ量が減少すること(非特許文献4、5)、免疫賦活機能を持たない抗Aβ抗体Fab断片を血中投与すると脳内Aβ量が減少すること(非特許文献6)などが示され、血中Aβ量の減少に伴い脳内Aβが血中に引き抜かれるという「引き抜き」仮説が提唱されている。また、この仮説に関連し、人工透析によって血中Aβ量が低下するとの報告がなされている(非特許文献7、8)。
また、血液の体外循環を行い、血中のAβを除去する、Aβ除去材に関連する報告がなされている(特許文献1-3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/073580号パンフレット
【特許文献2】特表2005−537254号公報
【特許文献3】特表2008−506665号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bayer, A. et al., Neurology, 2005, 64, 94-101
【非特許文献2】Holmes, C. et al., Lancet, 2008, 372(9634), 216-23
【非特許文献3】Lemere, C. A. et al., Nuerobiol. Dis., 2003, 14, 10-18
【非特許文献4】Matsuoka, Y. et al., J. Neurosci., 2003, 23, 29-33
【非特許文献5】Bergamaschini, L. et al., J. Neurosci., 2004, 24, 4148-4186
【非特許文献6】Levites, Y. et al., J. Neurosci., 2006, 26, 11923-11928
【非特許文献7】京都医学界雑誌,第53巻,第1号,平成18年6月,113-120頁
【非特許文献8】Isabel, R. et al., Journal of Alzheimer's Disease, 2006, 10, 439-443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、「引き抜き」仮説に鑑みて、AD患者の血中Aβ量を効率的に除去することが、アルツハイマー病の治療又は予防に有効な手段になると考えた。
そこで、本発明においては、血中Aβ量を効率的に除去できる方法及びそのシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、Aβが中空糸膜に吸着されることにより、血液中β−アミロイド濃度が低下し、血液中Aβ量を効率的に除去することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法及びそのシステムを提供する。
[1]
血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法であって、
血液を体外に脱血する工程
脱血した血液を、中空糸膜に通液する工程
通液した血液を体内に返血する工程、を含有し
β−アミロイド−アルブミン複合体を含有する血液を中空糸膜に通液して、β−アミロイドを中空糸膜に吸着させて、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる、方法。
[2]
β−アミロイド−アルブミン複合体から、β−アミロイドが中空糸膜に吸着し、アルブミンが血液中に遊離する、[1]に記載の方法。
[3]
血液の流速が5〜200mL/minである、[1]に記載の方法。
[4]
血液の流速が10〜30mL/minである、[1]に記載の方法。
[5]
血液が中空糸内腔を通液される、[1]に記載の方法。
[6]
中空糸内腔の血液の線速度が200cm/min以下である、[1]に記載の方法。
[7]
中空糸内腔の血液の線速度が5cm/min以下である、[1]に記載の方法。
[8]
中空糸外面に気体又は液体が存在する、[1]に記載の方法。
[9]
透析液が中空糸外面を通液される、[1]に記載の方法。
[10]
透析液中のβ−アミロイド濃度が実質的に増加しない、[9]に記載の方法。
[11]
血液が中空糸外面を通液される、[1]に記載の方法。
[12]
中空糸内腔に気体又は液体が存在する、[11]に記載の方法。
[13]
中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルローストリアセテート(CTA)、改質セルロース(BEM)、及びエチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)からなる群から選択される高分子を含有する、[1]に記載の方法。
[14]
中空糸膜が、ポリビニルピロリドンをさらに含有する、[11]に記載の方法。
[15]
中空糸膜が、血液の注入口と、排出口を供えるハウジング内に収容されている、[1]に記載の方法。
[16]
中空糸膜がハウジング内に収納され、注入口と排出口においてシールされている、[13]に記載の方法。
[17]
中空糸膜が収納されたハウジングが、血液透析用カラムである、[14]に記載の方法。
[18]
中空糸膜断片がハウジング内に収容されている、[13]に記載の方法。
[19]
血液中のβ−アミロイド濃度を低下させることにより、アルツハイマー病を治療又は予防する方法であって、
アルツハイマー病患者の血液を体外に脱血する工程、
脱血した血液を、中空糸膜に通液する工程、
通液した血液を該患者の体内に返血する工程、を含有し、
β−アミロイド−アルブミン複合体を含有する血液を中空糸膜に通液して、β−アミロイドを中空糸膜に吸着させて、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる、方法。
[20]
中空糸外面の血液の線速度が200cm/min以下に相当する速度である、[1]に記載の方法。
[21]
中空糸外面の血液の線速度が5cm/min以下に相当する速度である、[1]に記載の方法。
【0011】
また、本発明は、以下のβ−アミロイド除去システムを提供する。
[22]
β−アミロイドを吸着させて、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備える、β−アミロイド除去システム。
[23]
β−アミロイド−アルブミン複合体から、β−アミロイドが中空糸膜に吸着し、アルブミンが血液中に遊離する、[22]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[24]
血液の流速が5〜200mL/minである、[22]又は[23]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[25]
血液の流速が10〜30mL/minである、[22]〜[24]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[26]
血液が中空糸内腔を通液される、[22]〜[25]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[27]
中空糸内腔の血液の線速度が200cm/min以下である、[22]〜[26]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[28]
中空糸内腔の血液の線速度が5cm/min以下である、[22]〜[27]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[29]
中空糸外面に気体又は液体が存在する、[22]〜[28]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[30]
透析液が中空糸外面を通液される、[22]〜[29]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[31]
透析液中のβ−アミロイド濃度が実質的に増加しない、[30]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[32]
血液が中空糸外面を通液される、[22]〜[25]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[33]
中空糸内腔に気体又は液体が存在する、[32]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[34]
中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルローストリアセテート(CTA)、改質セルロース(BEM)、及びエチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)からなる群から選択される高分子を含有する、[22]〜[33]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[35]
中空糸膜が、ポリビニルピロリドンをさらに含有する、[34]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[36]
中空糸膜が、血液の注入口と、排出口を供えるハウジング内に収容されている、[22]〜[35]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[37]
中空糸膜がハウジング内に収納され、注入口と排出口においてシールされている、[36]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[38]
中空糸膜が収納されたハウジングが、血液透析用カラムである、[36]又は[37]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[39]
中空糸膜断片がハウジング内に収容されている、[36]に記載のβ−アミロイド除去システム。
[40]
中空糸外面の血液の線速度が200cm/min以下に相当する速度である、[22]〜[25]及び[32]〜[39]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
[41]
中空糸外面の血液の線速度が5cm/min以下に相当する速度である、[22]〜[25]及び[32]〜[40]のいずれかに記載のβ−アミロイド除去システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、血中Aβ量を効率的に除去できる方法及びそのシステムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について以下詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、
血液を体外に脱血する工程
脱血した血液を、中空糸膜に通液する工程
通液した血液を体内に返血する工程、を含有し、
β−アミロイド−アルブミン複合体を含有する血液を中空糸膜に通液して、β−アミロイドを中空糸膜に吸着させて、血液中のβアミロイド濃度を低下させる、方法である。
【0015】
血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、血液を体外に脱血し、脱血した血液を中空糸膜に通液し、通液した血液を体内に返血する体外循環を行うことにより実施することができる。
かかる一連の工程は、いわゆる人工透析や血液ろ過などの血液浄化技術に類似する方法として実施することができるが、一例を挙げれば、患者の血液を体外循環させるべく可撓性チューブから成る血液回路が使用される。
体外循環を行うための血液回路は、一般に、患者から血液を採取する動脈側穿刺針が先端に取り付けられた動脈側血液回路と、患者に血液を戻す静脈側穿刺針が先端に取り付けられた静脈側血液回路と、動脈側血液回路と静脈側血液回路との間に中空糸膜とを備える。
動脈側血液回路、中空糸膜、及び静脈側血液回路は、可撓性チューブで連結されており、患者から脱血された血液は、可撓性チューブ内を通液され、中空糸膜と接触させられる。
すなわち、血液は、動脈側血液回路より、患者体内より体外へ脱血されて、血液回路内に導入され、血液回路内の可撓性チューブを通り、中空糸膜へ通液される。
中空糸膜へ通液された血液中のβ−アミロイド−アルブミン複合体は中空糸膜と接することにより、β−アミロイドが中空糸膜に吸着され、中空糸膜を通液後の血液中のβ−アミロイド濃度が低下する。また、アルブミンと結合していないβ−アミロイドも中空糸膜に吸着除去される。
中空糸膜より通液されて出てきた血液は、血液中β−アミロイド濃度が低下した血液として、静脈側血液回路より、患者体外から体内へ返血される。
【0016】
本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、アルツハイマー病患者に適用されることにより、アルツハイマー病患者における血液中のβ−アミロイド濃度を低下させることができる。
アルツハイマー病患者としては、体外循環を行うことができる患者であれば、特に限定されるものではない。また、本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、アルツハイマー病を未発症の患者に適用することにより、アルツハイマー病の発症を予防する方法として用いることもできる。
【0017】
本実施形態における「β−アミロイド」とは、36−43アミノ酸からなるペプチドであり、β−及びγ−セクレターゼの働きにより前駆体タンパク質(APP: amyloid β protein precursor)から切り出されてくるアミロイドタンパク質を意味する。本実施形態においては、β−アミロイドとは、好適には、40アミノ酸からなるβ−アミロイドタンパク質、42アミノ酸からなるβ−アミロイドタンパク質、43アミノ酸からなるβ−アミロイドタンパク質をいい、Aβ1-40、Aβ1-42又はAβ1-43とも略称される。
本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法においては、具体的には、血液中のAβ1-42又はAβ1-40を中空糸膜に吸着させることにより、体循環する血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる。本実施形態においては、Aβ1-43を中空糸膜に吸着させることにより、体循環する血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法であってもよい。
【0018】
本実施形態における「β−アミロイド−アルブミン複合体」とは、β−アミロイドが、アルブミンと静電的結合により結合して形成される複合体をいう。β−アミロイドは、血液中において、遊離のβ−アミロイドとして存在することもできるが、多くは、アルブミンに結合して複合体として存在している。
本実施形態においては、β−アミロイドは、アルブミンとの複合体として、中空糸膜に吸着されるのではなく、下記実施例に記載するように、アルブミンとの複合体から解離して、中空糸膜にβ−アミロイドが直接吸着していると考えられる。
β−アミロイドは、約4kDaの分子量を有するタンパク質であることから、本実施形態の一態様として、中空糸膜を含むダイアライザー等に通液して人工透析を行った場合、透析液側にろ過され滲出してくると考えられていたが、本発明者らの検討により、β−アミロイドは、透析液側には出てこず、吸着されることにより、除去されることが見出された。本発明者らは、中空糸によるβ−アミロイドの主な除去機構について鋭意検討したところ、通常は血液を流すダイアライザーの血液側を封入し、通常は透析液を流す透析液側、つまり、ダイアライザーの中空糸外面にβ−アミロイドを含有する液を流しても、β−アミロイドが効率よく除去できること、さらに、中空糸を細断してマカロニ状にしたものと、β−アミロイド含有液とを接触させてもβ−アミロイドが効率よく除去できることなどからも、中空糸によるβ−アミロイドの主な除去機構は、ろ過ではなく吸着であることを見出した。
【0019】
本実施形態において、β−アミロイドは中空糸膜に吸着されることにより、血液中のβ−アミロイド濃度が低下するが、「β−アミロイドが中空糸膜に吸着される」とは、中空糸膜表面と、β−アミロイドが静電的結合及び/又は疎水結合している状態をいい、その際に、β−アミロイドは、アルブミンから解離していると考えられる。
中空糸膜が、多孔膜であり、細孔を有する場合には、β−アミロイドは、物理的に細孔に補足されていてもよいが、多くの吸着したβ−アミロイドは、中空糸膜表面に静電的結合及び/又は疎水結合していると考えられる。
【0020】
本実施形態において、中空糸膜に患者の血液を通液することにより、β−アミロイドは、血液中の形態としてのβ−アミロイド−アルブミン複合体から解離し中空糸膜に吸着するが、複合体の一方のアルブミンは、血液中に遊離して存在する。
【0021】
本実施形態で用いられる中空糸膜は、血液を通液することができる中空糸膜であれば、特に限定されるものではないが、例えば、人工透析、血液濾過、及び血漿分離などにおいて用いられる中空糸膜が挙げられる。
中空糸膜としては、例えば、セルロースアセテート、改質セルロース、銅アンモニアセルロース等のセルロース系中空糸膜や、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマーアロイ、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニルエーテル、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合体等の合成高分子系中空糸膜などが挙げられる。中でも、静電的結合及び/又は疎水結合を利用しているため、疎水性の高分子を用いることが好適であり、ポリスルホン、ポリメチルメタアクリレート、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリルなどの高分子から形成される中空糸膜が好ましい。
【0022】
中空糸膜の材料としては、血液適合性を含めて、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリハイドロキシエチルメタクリレートなどをさらに含有していることが好ましく、ポリスルホンとポリビニルピロリドンからなる高分子混合物から製造される中空糸膜が挙げられる。
また、上記ポリビニルピロリドンなどは、ポリスルホンなどの高分子と、混合して紡糸してもよいが、ポリスルホンなどの高分子を用いて紡糸して得られる中空糸膜にコーティングするために用いてもよい。本実施形態においては、中空糸膜として、中空糸ではなく、多孔質の糸や平膜を用いることもできる。
【0023】
本実施形態において用いられる中空糸膜は、公知の方法により製造することができるが、中空糸膜の膜構造として、膜の外表面に短径0.5μm以上の粗い細孔部を多数有する構造のストロー状の中空糸膜が好ましい。また、中空糸膜の太さは、好ましくは、0.01−1mmである。
【0024】
本実施形態において、中空糸膜は、ハウジング内に収納された中空糸膜型モジュールとして用いることが好適である。
中空糸膜は、通液される血液と接触することができれば、ハウジング内での形状は特に限定されるものではないが、中空糸膜としてハウジング内に備え付けられていてもよく、中空糸膜の断片としてハウジング内に備えられていてもよい。
【0025】
中空糸膜がハウジング内に備えられている場合には、中空糸膜カラム様の中空糸膜型モジュールとして、筒型のハウジング内に多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束として収納されていてもよい。
この場合、中空糸膜束の両端が、ポリウレタン等の樹脂組成物を充填して形成する封止部としての樹脂層部により接着固定(シール)されていてもよい。また、ハウジングには、ハウジング内に血液を通液させ、排出させるための、血液の注入口と、排出口を供えていることが好ましい。
さらに、ハウジングには、中空糸膜外側を通液させるための液注入口と、排出口が設けられていてもよく、中空糸膜が中空糸膜内に血液を通過させるカラムとして用いられる場合には、中空糸の内部空間である中空糸内腔と、中空糸外面の空間とに分けられ、血液は中空糸内腔を通り、中空糸内腔表面および中空糸の厚み部分(中空糸膜の内表面と外表面の間の多孔質部分)に吸着される。また、中空糸膜が中空糸膜外面に血液を通過させるカラムとして用いられる場合には、血液は中空糸外面を通り、中空糸外表面および中空糸の厚み部分(内表面と外表面の間の多孔質部分)に吸着される。
【0026】
このような中空糸膜を備えるモジュールとしては、いわゆるダイアライザーとして用いられるモジュール(透析カラム)や、特開2005−52716号、国際公開第2006/024902号パンフレット、国際公開第2004/094047号パンフレットなどに記載されているモジュールが挙げられ、本実施形態の中空糸膜として好適に用いることができる。
【0027】
本実施形態においては、中空糸膜カラムを用いて中空糸内腔表面に血液を接触させる場合、中空糸外面には、気体が存在していてもよく、液体が存在していてもよい。中空糸外面は密閉されていてもよく、あるいは、密閉されていない場合の中空糸外面の圧力は大気圧開放、または、血液圧よりも低い圧力が好ましい。
中空糸外面に気体や液体が存在する場合には、流体として存在していてもよい。
気体としては、不活性なガスや、空気などが挙げられる。また、液体としては、透析液として用いられる溶液を通液することが好ましい。
血液が中空糸内腔を通液され、透析液が中空糸外面に通液される場合には、本実施形態の方法においては、β−アミロイドは、実質的に中空糸外面に滲出してこないので、透析液中のβ−アミロイド濃度は、実質的に増加しないことが好ましい。
本実施形態において、中空糸膜カラムを用いて中空糸外面に血液を接触させる場合、中空糸内腔には、気体が存在していてもよく、液体が存在していてもよい。中空糸内腔は密閉されていてもよく、あるいは、密閉されていない場合の中空糸内腔の圧力は大気圧開放、または、血液圧よりも低い圧力が好ましい。
本実施形態において、「実質的に増加しない」とは、通常、透析を行った際に、透析液側に滲出してくる低分子化合物のような濃度上昇を示さないことをいい、本実施形態においては、通液された血液中の除去されるβ−アミロイドの5%以下の量、好ましくは、1%以下の量が透析液側に滲出して除去されていることを意味する。
また、この場合、中空糸の膜厚方向(中空糸の外表面と内表面に挟まれる部分)でのAβ吸着を増加させるためには、正の濾過量、さらには、逆濾過が起こりにくい構造であることが好適であり、斯かる構造としては、例えば、中空糸の充填率を下げる、中空糸を太短の形状とする、ことなどが挙げられる。
【0028】
本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、好ましくは、前記血液中には、アルブミンと結合したβ−アミロイド−アルブミン複合体を含有し、前記方法は、血液を体外に脱血する工程、脱液した血液を少なくとも入口と出口を有するハウジングに、透析用中空糸膜を有する中空糸膜に通液する工程、通液した血液を体内に返血する工程、を含有し、体外の血液の流速は、5−200mL/minであって、前記通液する工程は、β−アミロイド−アルブミン複合体から、β−アミロイドを中空糸膜に吸着させて、アルブミンを遊離させることにより、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる、血液中のβアミロイドを低下させる方法として実施される。
【0029】
本実施形態においては、β−アミロイド除去システムをも提供する。本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、β−アミロイド除去システムにより実施することができる。
本実施形態におけるβ−アミロイド除去システムは、
β−アミロイドを吸着させて、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを含むシステムである。
【0030】
β−アミロイド除去システムの、中空糸膜としては、上述の中空糸膜型モジュールとして用いることができるが、脱血するための血液回路から送液されてくる血液は、中空糸膜型モジュールの中空糸内腔に通液されることが好ましく、血液の流速は、中空糸膜と接触する血液の流速として、好ましくは1−500mL/minでり、より好ましくは5−200mL/minである。さらには、10−30mL/minがより好ましい。実際のモジュール設計においては、Aβ除去率、および、単位時間当たりの血液処理量を勘案することが必要となる。
また、中空糸膜へのβ−アミロイドの吸着に要する時間が必要なため、中空糸膜と接触する血液の線速度の好ましい実施態様は、特に限定されるものではないが、中空糸内腔に血液を通液される場合を例示として、以下に示す。
例えば、血液の流速が200mL/minの場合、1モジュールあたりの中空糸を約10,000本とすると、内径200μmの中空糸では、中空糸内腔の血液の線速度はおよそ64cm/minとなる。
中空糸内腔の血液の線速度は、好ましくは200cm/min以下であり、より好ましくは70cm/min以下であり、さらに好ましくは10cm/min以下であり、よりさらに好ましくは5cm/min以下である。
【0031】
さらに具体的に例示すれば、実施例で用いたダイアライザーの中空糸は、内径200μmで、中空糸内腔の体積は75mLであり、これを基にしたβ−アミロイド溶液(血液相当)の中空糸内の滞留時間を求めると以下のようになる。血液流量が200mL/minの場合(実施例3の空気を封入した場合の吸着・通過実験でのβ−アミロイド除去率は74.4%)では滞留時間は0.4分であり、中空糸内腔の血液の線速度は67.3cm/minとなる。血液流量が50mL/minの場合(実施例4の空気を封入した場合の吸着・通過実験でのβ−アミロイド除去率は46.2%)では滞留時間は1.5分であり、中空糸内腔の血液の線速度は15.0cm/minとなる。血液流量が15mL/minの場合(実施例5の空気を封入した場合の吸着・通過実験でのβ−アミロイド除去率は94.5%)では滞留時間は5分であり、中空糸内腔の血液の線速度は4.8cm/minとなる。。
一方、表6から、β−アミロイド除去のための、血液と中空糸膜の接触時間は5分ではやや不十分で、15分でβ−アミロイド吸着がほぼ完了することがわかる。つまり、中空糸膜とAβとの接触時間が現行のダイアライザー(吸着部分の中空糸の有効長は24cm程度)では、ほぼ5分以上あればβ−アミロイド除去率が十分に高い、ということになる。これを線速度でしめすと、24cm/5分、つまり、内径200μmの中空糸では、5cm/分程度以下の線速度が好ましいとかんがえられる。
なお、中空糸外面に血液を通液する場合には、好適な線速度の範囲と同様の速度で血液を通液すればよい。
【0032】
斯かる血液の流速や線速度を維持するデバイスとして、血液ポンプがβ−アミロイド除去システムに備えられていてもよい。
血液ポンプは、中空糸膜に血液を連続的に供給することができれば特に限定されないが、例えば、血液浄化装置用のポンプや人工透析用のポンプ、ペリスタポンプ(ローラーポンプ)などが挙げられる。
また、通常、血液は、中心膜型モジュール等に通液される場合、血液凝固を防ぐために、血液中に抗凝固剤を含有させて通液させるため、抗凝固剤を血液と混合するチャンバーが設けられていてもよい。
さらに、通液される血液の圧力を測定するための、圧モニターや、返血される血液中の気泡を確認するためのモニターが設けられていてもよく、血液をサンプリングできるようになっていてもよい。
【0033】
また、血液ろ過に準じて、本実施形態の血液中のβ−アミロイド濃度の低下させる方法が実施される場合には、補液を供給する補液ポンプや、補液を貯蔵する補液タンクなどが設けられていてもよい。
【0034】
本実施形態のβ−アミロイド除去システムにおいては、β−アミロイドを、中空糸膜表面に吸着させて除去するため、β−アミロイドの除去率を上げるためにも、血液を中空糸内腔、膜厚内部へ効率よく接触させるために、部分的であっても逆ろ過を防止することが好ましい。
ダイアライザー型の中空糸膜を用いた場合においては、透析液側の圧力を低く設定することにより、逆ろ過を防止することができるので、透析液側の流量が、特に限定されるものではないが、100mL/min以下であることが好ましい。
また、血液側と反対側の中空糸面が気体で満たされていることが好ましい。血液側と反対側の中空糸面の気体は、空気であってもよく、血液側と反対側の中空糸膜側を通液させるための液注入口と、排出口が開けられて、大気と連通していてもよい。
この場合、血液側と反対側の中空糸面に、通液される血液の血漿成分の一部が滲出してくる場合があるが、適宜、モニタリングすることにより、血液の滲出を調整することもできる。
【0035】
中空糸外面に透析液を通液する場合の逆ろ過を防止するためには、血液側から透析液側へのろ過流量が0mL/min以上の正の値に制御することが好ましい。。
血液側から透析液側へのろ過流量は、好ましくは5mL/min以上であり、より好ましくは12.5mL/4min以上である。
【0036】
このような逆ろ過を防止する方法としては、中空糸の充填率を、血液透析用のダイアライザーより低くすることや、有効中空糸部分の容器の長さLと直径Dの比L/Dを、血液透析用のダイアライザーより低くする、つまり太短くすることが挙げられる。
【0037】
ダイアライザーとして用いられている中空糸膜型モジュールを用いてもよいが、中空糸膜が断片として、ハウジング内に収納されていてもよく、その場合、中空糸膜断片の太さは、断片化する前の中空糸膜と同程度であるが、0.01−1mmであることが好ましく、中空糸膜の長さは、好ましくは0.2−200mmであり、より好ましくは0.5−10mmである。
本実施形態においては、中空糸膜断片は、紡糸して得られる中空糸膜を所望の大きさに切断することにより得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
以下の実施例及び比較例において、Aβとしては、和光純薬工業社製のヒトAβ1-40又はヒトAβ1-42の、塩酸塩を用いた。Aβ1-40又はAβ1-42は、100μg/mLのAβのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液として冷凍保存し、保存液を使用直前に解凍して用いた。
【0040】
<実施例1> 中空糸ミニモジュールを用いた検討(吸着・通過実験)
市販のダイアライザーである、ポリスルホン(PSf)製ダイアライザー(APS13E 旭化成クラレメディカル社製、IV型:ポアサイズ大)、改質セルロース(BEM)製ダイアライザー(AMBC-13F 旭化成クラレメディカル社製、II型:ポアサイズ小)、及びエチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)製ダイアライザー(kf-m12 旭化成クラレメディカル社製、II型:ポアサイズ小)を超音波カッターで切り開き、中空糸を取り出して、カルシウム不含リン酸緩衝食塩水(PBS)(pH7.2)にて洗浄した後、風乾した。
中空糸内腔の膜面積が65cm2(1.3m2製品の約1/200)、中空糸の有効長が10cmとなるように、ポリエチレンチューブとエポキシ樹脂にて中空糸束端を固めてマウント(ヘッダーに相当する)を作成し、接続にはシリコンチューブを用いて、中空糸ミニモジュールを作成した。
中空糸ミニモジュールに、ペリスタポンプ(SJ-1211 ATTO社製)を用いてPBSを流量15mL/hr(1.3m2製品換算で50mL/min)で20分間通過させ、さらに、10mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)(和光純薬工業社製、グロブリン不含生化学用)を含むPBS溶液を流量15mL/hr(1.3m2製品換算で50mL/min)で4分間通過させてプライミングした。
プライミング後の中空糸ミニモジュールに、10mg/mL BSAのPBS溶液に400ng/mL(約100nM)となるようにAβを添加したAβ1-42/BSA/PBS溶液(以下、「400ng/mL Aβ1-42/BSA/PBS溶液」と略称する場合がある。)をA側(中空糸ミニモジュール前)からV側(中空糸ミニモジュール後)に向かって流量15mL/hr(1.3m2製品換算で50mL/min)で通過させ、中空糸ミニモジュールを通過して出てきたAβ溶液を通過開始後0時間(吸着開始直後)、1時間、4時間に採取した。
採取したサンプル液中のAβ1-42濃度を、Human βAmyloid(1-42) ELISA Kit, High-Sensitive(和光純薬工業社製)を用いて、iMark Microplate Reader(Bio-Rad Laboratories社製)にて測定波長450nm、参照波長620nmの条件で測定して、Aβ除去率を中空糸ミニモジュール前後のAβ濃度比から下記式に基づいて求めた。
式:
Aβ除去率=100x{1−(中空糸ミニモジュール後Aβ濃度/中空糸ミニモジュール前Aβ濃度)}
結果を表1に示す。4時間にわたり、素材、ポアサイズによらず通過液のAβはほとんど除去された。
【0041】
表1:中空糸ミニモジュールによるAβ除去率(吸着・通過実験)
【表1】

【0042】
<実施例2> 中空糸ミニモジュールを用いた検討(全濾過)
実施例1と同様にして、中空糸ミニモジュール及びペリスタポンプを用いて、PBSを流量15mL/hr(1.3m2製品換算で50mL/min)で20分間通過させ、さらに、10mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)(和光純薬工業。グロブリン不含生化学用)を含むPBS溶液を流量15mL/hr(1.3m2製品換算で50mL/min)で4分間通過させてプライミングした。
プライミング後の中空糸ミニモジュールのV側を完全閉塞させ、400ng/mL Aβ1-42/BSA/PBS溶液をA側(中空糸ミニモジュール前)からV側(中空糸ミニモジュール後)に向かって流量15mL/hrで通過させ、中空糸ミニモジュールから濾過されて外面から滴下してくるAβ溶液を、Aβ液が中空糸ミニモジュールに行き渡って全濾過開始後0分(全濾過開始直後)、30分、60分に採取した。
採取したサンプル液中のAβ1-42濃度を実施例1と同様にして測定して、Aβ除去率を求めた。
結果を表2に示す。ポアサイズの小さなEVAL及びBEMでは濾液中にAβがある程度出てくるのに対し、ポアサイズの大きなPSfの濾液中のAβ濃度は全濾過開始直後ではほとんど検出されず、濾過の進行(圧上昇)に伴い増加した。
実施例1及び実施例2の結果から吸着が主なAβ除去機構と推察された。
【0043】
表2:中空糸ミニモジュールによるAβ除去率(全濾過)
【表2】

【0044】
<実施例3> ダイアライザーを用いた検討(吸着・通過実験)
市販のダイアライザーである、旭化成クラレメディカル社製ダイアライザー(APS-13S)と透析用血液回路(AP-53B Gambro社製)にて実験用回路を構築し、持続緩徐式血液浄化装置(ACH-10 旭化成クラレメディカル社製)を用いた。
PBS 500mLで、ダイアライザーの血液側・透析液側を流量200mL/minにてプライミングし、次いで、血液側のみ5mg/mL BSA/PBS溶液を流量200mL/minで30分間通過させてプライミングした。
透析液側の液を廃棄した後にA側、D側の両ポートに栓をはめて、透析液側に空気を封入し完全に閉塞させた後、プライミング時に充填されたBSA/PBS溶液をA側(血液回路ダイアライザー前)より、5mg/mL BSA/PBS溶液に4ng/mL Aβ1-40となるようにAβを添加した4ng/mL Aβ1-40/BSA/PBS溶液200mLで置換した後、流量200mL/minにて4ng/mL Aβ1-40/BSA/PBS溶液をA側からV側(血液回路ダイアライザー後)へ4分間流し、ダイアライザーを通過させた。実験開始直前のAβ1-40溶液と開始後4分のダイアライザー前後をサンプリングし、さらに、透析液側(D側)に僅かに漏出した溶液、及び、ダイアライザーを通過してV側出口から出てきた液を4分間貯留した液を各々撹拌して均一にし、その一部を採取してサンプル液とした。この場合の中空糸内腔の血液の線速度は63.7cm/minであった。
採取したサンプル液中のAβ1-40濃度を、Human β Amyloid (1-40) ELISA Kit II(和光純薬工業社製)を用いて、iMark Microplate Reader(Bio-Rad Laboratories社製)にて測定波長450nm、参照波長620nmの条件で測定した。
ダイアライザーに注入した液量とAβ濃度の積から、インプットしたAβの絶対量を求め、また、V側、D側から出てきた液量とAβ濃度の積から、アウトプットしたAβの絶対量を求め、絶対量からのAβ除去率として、
Aβ除去率=100x{1−(ダイアライザーV側から出てきたAβの絶対量/ダイアライザーA側に入れたAβの絶対量)}、
絶対量からのD側へのAβの漏れ出し率として、
漏れ出し率=100x{1−(D側から出てきたAβの絶対量/ダイアライザーA側に入れたAβの絶対量)}
とした。結果を表3に示す。
【0045】
<実施例4> ダイアライザーを用いた検討(吸着・通過実験)
4ng/mL Aβ1-40/BSA/PBS溶液の流量を50mL/minとした以外は、実施例3と同様にして吸着・透過実験を行った。この場合の中空糸内腔の血液の線速度は15.0cm/minであった。結果を表3に示す。
【0046】
<実施例5> ダイアライザーを用いた検討(吸着・通過実験)
4ng/mL Aβ1-40/BSA/PBS溶液の流量を15mL/minとした以外は、実施例3と同様にして吸着・透過実験を行った。この場合の中空糸内腔の血液の線速度は4.8cm/minであった。結果を表3に示す。
【0047】
<実施例6> ダイアライザーを用いた検討(吸着・通過実験)
透析液側に液体(純水)を封入した以外は、実施例3と同様にして吸着・透過実験を行った。結果を表3に示す。
【0048】
<実施例7> ダイアライザーを用いた検討(吸着・通過実験)
実施例3と同様にして、プライミングを行った後、血液側の液を廃棄した後にA側、V側の両ポートに栓をはめて、血液側(中空糸内腔)に空気を封入し完全に閉塞させた。プライミング時に充填された透析液側(中空糸外面)のBSA/PBS溶液をDポート入口より4ng/mL Aβ1-40/BSA/PBS溶液200mLで置換した後、流量200mL/minにて4ng/mL Aβ1-40/BSA/PBS溶液を、透析液側Dポート入口からDポート出口へ4分間流し、ダイアライザーを通過させ、中空糸外面での吸着・透過実験を行った。結果を表3に示す。
【0049】
表3:ダイアライザーによるAβ除去率(吸着・通過実験)
【表3】

【0050】
<実施例8> ダイアライザーを用いた検討(透析実験)
実施例3の吸着・追加実験終了後、ダイアライザー前後の血液回路を閉塞し、透析液側回路をPBSにて流量80mL/minで5分間(計400mL)洗浄した。その後、ダイアライザーの透析液側は、模擬透析液としてPBS200mLで透析液側流量(QD)83mL/minにて4分間循環させた(この透析液流量は、通常の透析患者の血液透析に比して6分の1)。この間、血液側流量(QB)200mL/minにて4ng/mL Aβ1-40溶液をA側からV側へ4分間流し、ダイアライザーを通過させた。
実験開始直前のAβ1-40溶液と開始後4分時点でのダイアライザー前後をサンプリングし、さらに、透析液として用いたPBS、及び、ダイアライザーを通過してV側出口から出てきた液を4分間貯留した液を、各々撹拌して均一にしてその一部を各々採取しサンプル液とした。実施例3と同様の計算式にて、Aβ除去率を求めた。結果を表4に示す。
【0051】
<実施例9> ダイアライザーを用いた検討(透析実験)
大型ローラーポンプを用いて、透析液側流量を500mL/minとした以外は、実施例8と同様にして透析実験を行った。
結果を表4に示す。表4には、透析液側流量を0mL/minとした(液封した)実施例6の結果も示す。
【0052】
表4:ダイアライザーによるAβ除去率(透析実験)
【表4】

【0053】
<実施例10> ダイアライザーを用いた検討(全濾過実験)
実施例8の透析実験終了後、ダイアライザー前後の血液回路を閉塞して透析液側に貯留した溶液を廃棄した。続いてダイアライザー前の血液回路を開けて、透析液側ポートの上側は閉塞した。この後、V側を閉塞し、流量200mL/minにて4ng/mL Aβ1-40溶液をA側から4分間流し、ダイアライザーの膜厚方向に通過させた。実験開始直前のAβ1-40溶液、及び、濾過されて透析液側ポート下側から出てきた液を4分間貯留した液を撹拌して均一にしたもの、からその一部を各々採取しサンプル液とした。実施例3と同様の計算式にて、Aβ除去率を求めた。結果を表5に示す。
【0054】
表5:ダイアライザーによるAβ除去率(全濾過実験)
【表5】

【0055】
透析実験では、Aβ除去率は70%前後であり、透析液側にはほとんどAβが移行しなかった。また、全濾過実験でも、濾液中にはAβは0.1%しか移行せず、Aβの除去はダイアライザーの中空糸膜に吸着されたと考えられる。
Aβモノマーは分子量が4kDa程度の小分子ではあるが、透析実験及び全濾過実験の結果から、中空糸の中から外への移行はわずかであり、中空糸膜への吸着が主たるAβ除去機構であると考えられる。
【0056】
<実施例11> 中空糸膜断片を用いた検討
市販のポリスルホン製ダイアライザー(APS-15SA 旭化成クラレメディカル社製)について、超音波カッターで切り開き、中空糸を取り出してPBSにて洗浄後、風乾した。
19cm長に切りそろえた乾燥した中空糸350本を1cm長の断片に切り、PP製の15mL遠心管に詰め、10mg/mL BSA/PBS溶液で40ng/mLに調整したAβ1-40/BSA/PBS溶液を10mL加え、振盪しながら、15、30、60分、4、16時間後にサンプリングして、Aβ除去率を、対照とのAβ1-40濃度比から求めた。対照としては、中空糸膜断片を入れずに、PP製遠心管にAβ1-40/BSA/PBS溶液を入れて同様に振盪したものから、15、30、60分、4、16時間後にサンプリングしたものを用いた。
中空糸の使用本数を6本、60本及び240本の場合についても同様に、5、15、30、60分、4時間後にサンプリングして、Aβ除去率を測定した。
中空糸内腔の表面積は、350本の場合:418cm2、240本のバイ:286cm2、60本の場合:71.4cm2、6本の場合:7.1cm2となる。測定結果を表6に示す。
【0057】
表6:中空糸膜断片によるAβ除去率
【表6】

【0058】
<実施例12> Aβとアルブミン比によるAβ除去率の検討(PBSのみでプライミング)
市販のポリスルホン製ダイアライザー(APS-15SA 旭化成クラレメディカル社製)について、超音波カッターで切り開き、中空糸を取り出してPBSでよく洗浄後、風乾した。
19cm長に切りそろえた乾燥した中空糸350本を1cm長の断片に切り、ポリプロピレン(PP)製の15mL遠心管に詰め、BSAを含まないPBSで15分間プライミングしたのち、プライミング液を廃棄し、ついで、様々な濃度のBSAが入ったPBSに溶解した4ng/mLのAβ1-40/BSA/PBS溶液を10mL加え、振盪しながら、15、30分間後にサンプリングした。Aβ1-40濃度の測定は実施例11と同様にして行った。
1-40の仕込み設定濃度は4ng/mLと一定にしたが、Aβ:BSAのモル比としては、1:74000(5mg/mL BSA)、1:10、1:1、1:0.1、1:0(BSA無し)の5水準を用いた。Aβ除去率は同条件、同時刻の対照(中空糸膜断片無し)のAβ濃度に対する、中空糸膜断片有りの残存Aβ濃度の比から求めた。結果を表7に示す。
【0059】
表7:Aβ1-40とアルブミンのモル比によるAβ除去の違い(PBSのみでプライミング)
【表7】

【0060】
<実施例13> Aβとアルブミン比によるAβ除去率の検討(アルブミン含有PBSでプライミングした場合)
プライミング時の液を、5mg/mLのBSA入りPBSとした以外は、実施例12と同様にして、Aβ1-40濃度の測定を行って、Aβ除去率を求めた。結果を表8に示す。
【0061】
表8:Aβ1-40とアルブミンのモル比によるAβ除去の違い(アルブミン入りPBSでプライミング)
【表8】

【0062】
実施例12及び13において、中空糸によるAβ除去が、Aβ−アルブミン複合体の吸着・濾過によるものか、Aβ−アルブミン複合体から解離したAβを吸着しているのかを検討した。
AβはPP製の遠心管の管壁にも吸着するので、中空糸断片無しの場合においてもAβ濃度が減少している。15分と30分におけるAβ濃度の値はほぼ同じであることから、15分時点ですでに管壁へのAβの吸着は完了している。
実施例12では、中空糸断片有りの場合に、Aβ:BSAのモル比に関わらず、15分間の接触で残存Aβ濃度はほぼゼロ(仕込み設計濃度4000pg/mLの1%程度以下)になったことから、Aβ−アルブミン複合体から解離したAβが中空糸膜に吸着されたと考えられる。したがって、中空糸膜表面には、アルブミンの吸着座席のほかにAβの吸着座席も数多く存在し、Aβ−アルブミン複合体から解離したAβを効率よく除去できると考えられる。
また、実際の血液には50mg/mL程度の大量のアルブミンが含まれている。実施例13では、それを模して高濃度のアルブミン(BSA)でプライミングしたにもかかわらず、中空糸によるAβ除去はほとんど阻害されておらず、また、実施例12と同様に、Aβ:BSAのモル比に関わらず、15分間の接触で残存Aβ濃度はほぼ仕込み設計濃度4000pg/mLの1%程度以下になり、効率的なAβ除去が行われた。本実験においても、事前に行ったアルブミンコート(アルブミン入りのPBSでプライミング)の影響をあまり受けずに、Aβを効率的に吸着することから、中空糸膜表面には、アルブミンの吸着座席のほかにAβの吸着座席も数多く存在し、Aβ−アルブミン複合体から解離したAβを効率よく除去できることが示唆された。
一方、中空糸無しの場合の残留Aβ1-40濃度については、実施例13でアルブミン入りのPBSを用いてプライミングしても、実施例12のアルブミン無しのPBSでプライミングした時と同様に、アルブミン:Aβ比に依存して残留Aβ濃度は減少した。これは、事前にアルブミンでプライミングしてPP管壁の吸着座席をブロックした場合でも、実施例12(アルブミン無しPBSでプライミング)と同様に、アルブミン:Aβのモル比の大小によって、Aβ1-40の吸着率が変化する事を意味する。すなわち、PP管壁のアルブミン吸着座席の残存量に関わらず、溶液中のアルブミンがAβを結合してしまい、AβがPP管壁へ吸着するのを阻害している(溶液中のアルブミンが、PP管壁に吸着しようとするAβを溶液側に引っ張る)事を意味する。つまり、PP管壁のAβ吸着は、溶液中のAβ−アルブミン複合体のために阻害されるといえる。しかるに、中空糸断片有りの場合は、溶液中のアルブミン:Aβのモル比が高く(アルブミン濃度が高い)、Aβ−アルブミン複合体が形成されていても、Aβ除去率は98%程度と高い。つまり、中空糸断片は、その複合体からAβを引っ張り出して吸着させる能力があると考えられる。
【0063】
<実施例14>中空糸膜断片を用いた検討(in vitro)
市販のダイアライザー3種:ポリスルホン(PSf)製ダイアライザー(APS-15SA 旭化成クラレメディカル社製)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)製ダイアライザー(BG-1.3PQ 東レメディカル社製)、セルローストリアセテート(CTA)製ダイアライザー(FB-150Uβ ニプロ社製)について、それぞれ超音波カッターで切り開き、中空糸を取り出してPBSでよく洗浄して風乾した。PMMA製ダイアライザーに含まれているスペーサーヤーンはピンセットで除去した。
19cm長に切りそろえた乾燥した中空糸240本を、1cm長の断片に切り、PP製15mL遠心管に詰めた。
10mg/mL BSA溶液で40ng/mLに調整したAβ1-42/BSA/PBS溶液を10mL加え振盪しながら、30分、1、2、4時間後にサンプリングした。
1-42用の高感度ELISA(和光純薬)で、Aβ1-42濃度を測定した。Aβ除去率は、対照とのAβ1-42用濃度比から求めた。対照としては、中空糸膜断片を入れずに、PP製遠心管にAβ1-42/BSA/PBS溶液を入れて同様に振盪したものから、30分、1、2、4時間後にサンプリングしたものを用いた。結果を表9に示す。
【0064】
表9:中空糸膜断片によるAβ除去率
【表9】

【0065】
<実施例15> ダイアライザーを用いた検討(in vivo)
透析患者群として、59〜75歳(平均68.9±4.1歳)の非糖尿病患者37名(男性16名、女性21名。透析歴は2-35年(平均11.5±8.0年))であった。血流量200mL/min、透析液流量400-500mL/minで4時間の透析を週3回継続した。抗凝固剤はへパリンを使用した。
ポリスルホン(PSf)製ダイアライザー(APS-15SA、APS-18SA、APS-21SA、APS-18MD 旭化成クラレメディカル社製)31例、セルローストリアセテート(CTA)製ダイアライザー(FB-150Uβ ニプロ社製)3例、ポリメチルメタクリレート(PMMA)製ダイアライザー(BG-1.3PQ 東レメディカル社製)2例、ポリビニルピロリドンでコートしたポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)製ダイアライザー(FDY-210GW 日機装社製)2例とした。1例については、ダイアライザーの素材を変えて計2回測定した。
透析開始後1時間時点で、ダイアライザー入口の検体、および、ダイアライザー出口の検体を血液回路から採取し、ダイアライザーによるカラム前後のAβ除去率を求めた。
中空糸素材別の透析開始1時間後のダイアライザー前後のAβ1-40除去率の平均値は、ポリスルホンが68.9%、CTAが51.4%、PMMAが60.8%、PEPAが60.7%であり、透析開始1時間後のダイアライザー前後のAβ1-42除去率の平均値は、ポリスルホンが53.5%、CTAが40.0%、PMMAが48.6%、PEPAが42.7%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−アミロイドを吸着させて、血液中のβ−アミロイド濃度を低下させる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備える、β−アミロイド除去システム。
【請求項2】
β−アミロイド−アルブミン複合体から、β−アミロイドが中空糸膜に吸着し、アルブミンが血液中に遊離する、請求項1に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項3】
血液の流速が5〜200mL/minである、請求項1又は2に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項4】
血液の流速が10〜30mL/minである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項5】
血液が中空糸内腔を通液される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項6】
中空糸内腔の血液の線速度が200cm/min以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項7】
中空糸内腔の血液の線速度が5cm/min以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項8】
中空糸外面に気体又は液体が存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項9】
透析液が中空糸外面を通液される、請求項1〜8のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項10】
透析液中のβ−アミロイド濃度が実質的に増加しない、請求項9に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項11】
血液が中空糸外面を通液される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項12】
中空糸内腔に気体又は液体が存在する、請求項11に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項13】
中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルローストリアセテート(CTA)、改質セルロース(BEM)、及びエチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)からなる群から選択される高分子を含有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項14】
中空糸膜が、ポリビニルピロリドンをさらに含有する、請求項13に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項15】
中空糸膜が、血液の注入口と、排出口を供えるハウジング内に収容されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項16】
中空糸膜がハウジング内に収納され、注入口と排出口においてシールされている、請求項15に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項17】
中空糸膜が収納されたハウジングが、血液透析用カラムである、請求項15又は16に記載のβ−アミロイド除去システム。
【請求項18】
中空糸膜断片がハウジング内に収容されている、請求項15に記載のβ−アミロイド除去システム。

【公開番号】特開2012−16595(P2012−16595A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152366(P2011−152366)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【出願人】(000125381)学校法人藤田学園 (19)
【Fターム(参考)】