説明

γ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法、及びγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材、及びこの食品素材を添加したγ−アミノ酪酸強化食品

【課題】バナナを用いたγ−アミノ酪酸(GABA)高含有量の食品素材を製造する方法、及びGABAを多量に含有させる目的で、この食品素材或いはその原料を添加した食品を提供すること。
【解決手段】 下記の(1)及び(2)、又はこれらに(3)を混合して得られるスラリーを一定時間保持して、L−グルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換させるγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法において、前記スラリーの保持温度を20℃以下とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
(1)バナナ(Musa acuminata)の可食部又はその誘導物であって、生のバナナの酵素活性を有するもの
(2)L−グルタミン酸又はL−グルタミン酸ナトリウム
(3)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性アミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法、及びγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材、及びγ−アミノ酪酸を多量に含有させる目的でこの食品素材を添加したγ−アミノ酪酸強化食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(以下、GABAと略す。)は、抑制性神経伝達物質として知られている。その作用効果として血圧低下作用、脳代謝促進作用、精神安定作用、成長ホルモン分泌促進作用等が認められ、この物質を富化した食品の開発が活発化している。
【0003】
食品素材のGABAを富化したものとしては、茶葉を嫌気的条件に晒すことにより製造したギャバロン茶(農林水産省野菜・茶業試験場)、乳酸菌発酵により製造したプレティオ(ヤクルト本社)、発酵大麦エキス(大麦発酵研究所)、テンペ菌発酵により製造したGABA発酵大豆(池田糖化工業)、食品素材が持つ酵素によりL-グルタミン酸をGABAに変換させたパンプキンギャバ(ロッテ電子工業)等が既に商品化されている。また、米胚芽にGABAが多く含まれることが知られ、GABA高含有量を謳った発芽玄米関連製品が幾つか発売されている。更に、発酵法で純度の高いGABAが製造・販売されており(協和ウェルネス、ファーマフーズ、山口化研)、それらを添加したチョコレート(江崎グリコ)等がある。
【0004】
ギャバロン茶や発芽玄米は、その素材が持つL−グルタミン酸をGABAに変換させることでGABAが富化するが、その含有量はギャバロン茶で乾物100g当たり250mg(例えば、非特許文献1参照)、発芽玄米でもコシヒカリの場合、最適条件下、8時間の処理で胚芽100g当たり400mgである(例えば、特許文献1参照)。これら食品素材のGABA含有量は100g当たり1%以下であるため、前項記載の諸効果を期待するには多量の摂取を必要とし、食品素材や健康食品原料としては利用し難い等の問題点がある。
【0005】
GABAを多量に作る方法として発酵法がある。乳酸菌発酵による方法(例えば、特許文献2〜4参照)、酵母による発酵法(例えば、特許文献5参照)、麹菌を培養する方法(例えば、特許文献6参照)、テンペ菌により大豆を発酵させる方法(例えば、特許文献7参照)等である。しかしながら、発酵による生産は雑菌の混入を防ぐための殺菌機能を持つジャーファメンター等の特別な装置が必要であり、しかもGABAの濃度は容易には増加せず、数十〜数百ミリグラム/100g(または100ml)のGABAを得るのに数日〜数週間程度の時間を要する等の問題がある。
【0006】
GABAは、グルタミン酸脱炭酸酵素によりL−グルタミン酸から炭酸が除去されて生成する。グルタミン酸脱炭酸酵素の活性の強い微生物や食品素材を選抜し、多量のグルタミン酸あるいはグルタミン酸ナトリウムをGABAに変換させる方法も開発されている。キノコの一種であるAgaricusblazei Murillやシイタケを用いる方法(例えば、特許文献8参照)、カボチャを用いる方法(例えば、特許文献9参照)等である。さらに、活性型ビタミンBであるピリドキサルリン酸を米胚芽懸濁液に添加することでグルタミン酸脱炭酸酵素の活性を高め、多量のGABAを得る方法も開発されている(例えば、特許文献10参照)。
【0007】
又、グルタミン酸脱炭酸酵素の活性の強い果物としてバナナを見出し、多量のグルタミン酸あるいはグルタミン酸ナトリウムをGABAに変換させる方法が開示されている(例えば、特許文献11参照)。
【0008】
GABAの有効摂取量は精神安定作用においては26.7〜70mg/日(例えば、非特許文献2、3参照)、血圧低下作用においては10mg〜3g/日(例えば、非特許文献4、5参照)、成長ホルモン分泌促進作用においては3〜18g/日(例えば、非特許文献6、7参照)と報告されている。これらの報告の中で、問題となるような副作用は報告されていない。
【特許文献1】特開平7−213252
【特許文献2】特開平6−45141
【特許文献3】特開2000−210075
【特許文献4】特開2001−120179
【特許文献5】特開平9−238650
【特許文献6】特開平10−165191
【特許文献7】WO01/093696
【特許文献8】特開2002−247966
【特許文献9】特開2001−252091
【特許文献10】特開2000−201651
【特許文献11】特開2007−143487
【非特許文献1】Agric.Biol.Chem.,51,2865−2871,1987
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌 47,596−603,2000
【非特許文献3】Food Style21,7,64−68,2003
【非特許文献4】薬理と治療 30,963−972,2002
【非特許文献5】日本食品科学工学会誌 49,409−415,2001.
【非特許文献6】Medicine & Science in Sports & Excercise 35,Suppliment1,S271,2003
【非特許文献7】Journal of Clinical Endocrinology & Metabolizm,51,789−792,1980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バナナはグルタミン酸脱炭酸酵素の活性が非常に強く、市場に流通している熟度のバナナを用いた場合37℃、4時間の反応で乾燥重量100g当たり3.5%、熟度がさらに進んだ所謂シュガースポットの出ているバナナを用いた場合、同様の反応で乾燥重量100g当たり7.0〜7.5%のGABAを生産することができるとされる(特許文献11参照)。しかしながら、現在の市場動向においてGABA供給業者は高濃度含有商品を次々と投入している。バナナを用いたGABA商品は後発であるため、市場参入に際してはできるだけGABA含有量が高いことが望ましい。
【0010】
グルタミン酸脱炭酸酵素は、活性型ビタミンBであるピリドキサルリン酸を補酵素として要求する。この酵素によるグルタミン酸のGABAへの変換は、ピリドキサルリン酸の含有量が律速となる。バナナの場合、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適温度付近(35〜40℃)でGABAを生産させると、ピリドキサルリン酸をすぐに使い切ってしまい上記の含有量以上のGABAを生産することは困難である。
【0011】
本発明は、バナナを用いたグルタミン酸のGABAへの変換反応を低温で行うことにより、至適温度で反応させた場合よりも高濃度のGABAが生産できることを見出し、乾燥重量100g当たり10%以上のGABAを含有する食品素材を製造する方法、及びこの食品素材を添加したGABA高含有量食品を提供することを目的とするものである。
特許文献11によれば、シュガースポットが出ているバナナを用いるとGABA含有量が乾燥重量100g当たり7%以上になるが、シュガースポットが出るまで追熟させたバナナの流通はほとんど無く、しかもシュガースポットの出たバナナは腐敗の危険性が高い。 特許文献11によれば、シュガースポットの出ていないバナナではGABA含有量が乾燥重量100g当たり3.5%となっているが、本発明は、シュガースポットの出ていないバナナを用いて、乾燥重量100g当たり10%以上のGABA含有量を達成できる。また、バナナは非常に褐変し易く、バナナピューレや凍結乾燥バナナ粉末等は褐変すると商品価値が大きく低下する。本発明では、反応にほとんど影響せずに褐変を防止する方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、グルタミン酸脱炭酸酵素活性の強いバナナにL−グルタミン酸もしくはL−グルタミン酸ナトリウムを添加して20℃以下で保温すると、至適温度(40℃付近)で保温するよりも多量のGABAが生成することを見出した。また、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適pHは5.5付近であるが、pH調整剤兼褐変防止剤としてL−アスコルビン酸が非常に有効な物質であることを見出した。さらに、適度に加水することで、加水しない場合に比べてGABA生成時間が大幅に短縮できることを見出した。
【0013】
従って、本発明は以下のように構成されている。
<請求項1>
下記の(1)及び(2)、又はこれらに(3)を混合して得られるスラリーを一定時間保持して、L−グルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換させるγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法において、前記スラリーの保持温度を20℃以下とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
(1)バナナ(Musa acuminata)の可食部又はその誘導物であって、生のバナナの酵素活性を有するもの
(2)L−グルタミン酸又はL−グルタミン酸ナトリウム
(3)水
<請求項2>
スラリーの保持温度が5〜20℃である請求項1に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
<請求項3>
スラリーの保持時間が0〜48時間、好ましくは6〜24時間である請求項1、又は請求項2に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
<請求項4>
L−グルタミン酸又はL−グルタミン酸ナトリウムの使用量が、バナナの可食部、又はその誘導物を生のバナナの果肉に換算した重量の0.5%〜10%である請求項1〜請求項3に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
<請求項5>
水の添加量が、バナナの可食部、又はその誘導物を生のバナナの果肉に換算した重量の0〜2.0倍、好ましくは0.5〜1.0倍である請求項1〜請求項4に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
<請求項6>
スラリーに、L−アスコルビン酸を添加する請求項1〜請求項5に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
<請求項7>
L−アスコルビン酸の添加量が、0.3〜2.5重量%である請求項1〜請求項6に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
<請求項8>
請求項1〜請求項7に記載する製造方法により製造されるγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材、又はこの食品素材を添加したγ−アミノ酪酸強化食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バナナとL−グルタミン酸又はL−グルタミン酸ナトリウムを20℃以下で反応させることにより、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適温度付近で反応を行わせるよりも多量のGABAを生産することができる。本発明の食品素材は、乾燥させて粉末化した場合、従来の乾燥バナナ粉末と同様に使用できるが、特許文献11に示された食品素材よりも少量の添加量で多くの食品に精神安定効果や血圧降下作用等の機能性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いられるバナナは、酵素類の活性が維持されている状態のものであればいかなるものでも良い。具体的には、生の果実、生の果実を冷凍したもの、生の果実を凍結乾燥したもの、生の果実を天日乾燥或いは酵素類が失活し難い温度で乾燥させた物等である。
【0016】
これらのバナナを、0〜20℃(例えば10℃)の恒温室に入れて保温しておく。保温したバナナを、そのまま或いはバナナと同様に保温した適量の水や緩衝液、及びL−グルタミン酸もしくはL−グルタミン酸ナトリウムを加えて、ジューサーあるいはミルまたはこれらと同等以上に粉砕可能な装置を用いてピューレ状になるまで粉砕する。バナナは固形分が多いので、反応を効率良く行わせるため水や緩衝液をある程度加えた方が良い。好ましくは生のバナナの果肉に換算した重量の0.5〜1.0倍である。
【0017】
バナナは酸化して褐変しやすいので、同時にL−アスコルビン酸(ビタミンC)を酸化防止剤として添加する。L−グルタミン酸ナトリウムは粉砕物のpHをアルカリ側にシフトさせるが、L−アスコルビン酸はそのシフトを抑えるpH調整剤としても機能する。添加量がバナナの1%重量以下であれば、グルタミン酸脱炭酸酵素の働きにほとんど影響しない。
【0018】
以上のようにして得られたピューレを、バナナを予め保温(〔0016〕)しておいたのと同様の温度で0〜48時間、より好ましくは6〜24時間保温し、バナナのグルタミン酸脱炭酸酵素を働かせて添加したL−グルタミン酸をGABAに変換させる。
なお、L−グルタミン酸もしくはL−グルタミン酸ナトリウムに代えて、グルタミン酸の塩類(L−グルタミン酸カリウム、L−グルタミン酸マグネシウム、L−グルタミン酸カルシウム等)を使用することができる。


【実施例1】
【0019】
スーパーマーケット等で普通に購入可能なフィリピン産バナナ、台湾産バナナ、エクアドル産バナナ、モラード、オリートの果肉100gに0.5gのL−アスコルビン酸を加え、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。このホモジネートを20.0gずつ50ml遠心チューブに分注し、3本のチューブにL−グルタミン酸ナトリウムをそれぞれホモジネート重量の1%(0.2g)、2%(0.4g)、3%(0.6g)加えて良く攪拌した後、40℃、4時間反応させた。反応後ホモジネートを80℃の水浴に10分間浸して酵素を失活させ、純水を各チューブに20ml加えて良く攪拌した。攪拌後、遠心機(CN−1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心し、各チューブから上清を回収した。この操作を4回繰り返した後、回収した上清を純水で100mlに定容して各ホモジネートの水抽出液とした。これらの抽出液を一部採ってポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をアミノ酸分析用サンプル希釈液(クエン酸リチウム緩衝液:6.9g/L クエン酸リチウム(4HO)、1.3g/L 塩化リチウム、8.8g/L クエン酸、4.0ml/L 塩酸、40.0ml/L エタノール、3.1ml/L BRIJ−35(20%)、2.5ml/L チオジグリコール、0.1ml/L n−カプリル酸(日本電子株式会社で販売))で適宜希釈してアミノ酸分析用サンプル溶液とした。サンプル溶液を全自動アミノ酸分析機(JLC−500/V、日本電子株式会社)用のバイアル瓶に入れてセットし、50μlを注入して分析を行った。装置の操作は付属の操作マニュアルに従った。生成したGABA含有量を表1、残存したL−グルタミン酸の含有量を表2に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表1及び表2に示されるように、フィリピン産バナナ、台湾産バナナ、エクアドル産バナナ、モラードは、果肉重量の2%のL−グルタミン酸ナトリウムを90〜100%消費し、添加したL−グルタミン酸ナトリウムの36.5〜81.4%をGABAに変換した。オリートは他のバナナに比べて残存したL−グルタミン酸が多かったが、生成したGABAはエクアドル産よりも多かった。バナナはL−グルタミン酸をGABAに変換する能力が非常に高く、特にフィリピン産バナナの能力が高いことがわかる。
【実施例2】
【0023】
フィリピン産バナナの果肉150gに3g(2%重量)のL−グルタミン酸ナトリウムを加え、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。50ml遠心チューブ7本に20.0gずつ分注後、そのうちの6本にそれぞれホモジネート重量の0.3%(0.06g)、0.4%(0.08g)、0.5%(0.1g)、1%(0.2g)、1.5%(0.3g)、2.0%(0.4g)のL−アスコルビン酸を加えてよく攪拌し、L−アスコルビン酸無添加のホモジネートと共に40℃、4時間反応させた。反応後実施例1の場合と同様に酵素の失活操作、水抽出、アミノ酸分析用サンプルの調製及びアミノ酸分析を行った。表3に各ホモジネートのGABAとL−グルタミン酸(Glu)の含有量を示す。
【0024】
【表3】

【0025】
表3に示されるように、L−アスコルビン酸を0.5〜1.0%添加量した場合、GABAの生成量はほとんど変わらないことが判明した。1.5%以上では生成量が減少したが、特に2.0%の添加ではGABA生産量が明らかに低下し、残存するL−グルタミン酸も多かった。L−アスコルビン酸は、バナナピューレを製造する際の酸化防止剤(褐変防止剤)としてごく一般的に使用される有機酸である。上記の結果は、少なくとも1%程度までは、GABA生成反応を阻害することなく、酸化防止剤としてL−アスコルビン酸を使用することが可能であることを示している。
【実施例3】
【0026】
フィリピン産バナナの果肉500gに5gのL−アスコルビン酸と30gのL−グルタミン酸ナトリウムを加え、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。このホモジネートを80gずつ5つのビーカーに分け、それぞれ5℃(冷蔵庫、GR−201AA、株式会社東芝)10℃、20℃(恒温室)、30℃(卓上型ふ卵器、栄研機材株式会社)、40℃(乾熱滅菌気、SH42ヤマト科学株式会社)で保温し、ホモジネート作製時(経過時間0)、6時間、12時間、24時間経過時に10gずつサンプリングした。サンプルは80℃の水浴で10分間過熱して酵素を失活させた後凍結し、真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で乾燥した。各ホモジネートの乾燥物は砕いて粉末化し、1.00gを丸底フラスコに採取した。純水を20ml加えて80℃、20分間保温後、遠心機(CN−1050、アズワン株式会社)を用い、約3000×gで遠心して上清を回収した。沈殿物は丸底フラスコに回収し、再度純水を加えて80℃、20分間保温した。上記と同様に遠心分離を行い、上清を回収して先の上清と合わせた。沈殿物は純水を加えて良く懸濁した後、約3000×gで遠心して上清を回収した。この操作を3回繰り返し、全ての上清をナスフラスコに集めてロータリーエバポレーター(RE400、ヤマト科学株式会社)で減圧濃縮した。濃縮液をメスフラスコに移し、純水にて100mlに定容してホモジネート凍結乾燥粉末の熱水抽出液とした。これらの抽出液を一部採って実施例1の場合と同様にフィルター濾過、アミノ酸分析用サンプルの調製及びアミノ酸分析を行った。各ホモジネート凍結乾燥粉末のGABA及びL−グルタミン酸の含有量の経時変化を図1に示す。
【0027】
図1に示されるように、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適温度と言われる40℃よりも低い温度での反応において、GABAの生成量は大きく増加した。24時間経過時点では30℃保温においてもGABA生成量は40℃保温の場合(4.11g/100g)の約1.5倍(6.11g/100g)に達したが、特に20℃以下では2倍を超え、10℃保温において最高の生成量(9.23g/100g)となることがわかる。
【実施例4】
【0028】
フィリピン産バナナの果肉にL−アスコルビン酸(V.C)、L−グルタミン酸ナトリウム(M.S.G.)、純水を以下の表4のように添加し、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。
【0029】
【表4】

【0030】
各ホモジネートをホモジナイズ直後(0時間後)、40℃に保温して1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後に10〜20gずつサンプリングし、80℃の水浴で10分間過熱して酵素を失活させた。その後、実施例3の場合と同様に凍結乾燥、熱水抽出、減圧濃縮、フィルター濾過、アミノ酸分析用サンプルの調製及びアミノ酸分析を行った。各ホモジネート凍結乾燥粉末のGABA及びL−グルタミン酸の含有量の経時変化を図2に示す。
【0031】
図2に示されるように、40℃におけるL−グルタミン酸のGABAへの変換反応は非常に速く、各ホモジネートは2時間でGABA含有量が最大値に達した。また、ホモジナイズする際に水を添加するとGABAの生成量が格段に上昇し、最も生成量が高かったのはホモジネート2であった。2時間経過時点での各ホモジネートのGABA含有量はホモジネート1:4.30g/100g、ホモジネート2:7.07g/100g、ホモジネート3:6.58g/100g、ホモジネート4:6.75g/100gで、ホモジネート2のGABA含有量はホモジネート1の約1.64倍であった。バナナは固形分が多いため(水分含量75.4%、五訂食品成分表)、ホモジネート1ではL−グルタミン酸と酵素の接触や生成したGABAの酵素からの離脱がスムーズに行かず、生成量が少なかったと考えられる。また、ホモジネート3、4では、水分が多すぎて固形分と水分が均一に混ざった状態を長時間維持できなかったため、ホモジネート2に比べて反応効率が低下したと考えられる(実際、ホモジネート3、4では、固形分が浮いて水分との解離が見られた)。この結果は、GABA生成反応においては水の添加が重要であり、バナナ果肉の半分重量程度の添加量が最も生成効率が高くなることを示している。
【実施例5】
【0032】
10℃に設定した恒温室にフィリピン産バナナと水を入れ、一晩保温した。これらのバナナと水を用いて実施例4と同様にホモジネート1〜4を作り、各ホモジネートをホモジナイズ直後(0時間後)、10℃に保温して6時間後、12時間後、24時間後に20gずつサンプリングし、80℃の水浴で10分間過熱して酵素を失活させた。その後、実施例3の場合と同様に凍結乾燥、熱水抽出、減圧濃縮、フィルター濾過、アミノ酸分析用サンプルの調製及びアミノ酸分析を行った。各ホモジネート凍結乾燥粉末のGABA及びL−グルタミン酸の含有量の経時変化を図3に示す。
【0033】
図3に示されるように、ホモジネート1の場合、GABA含有量は6時間経過時点まで急速に増加し、以後24時間経過時点まで緩やかに増加した。GABA含有量は、24時間経過時点で最高値の8.90g/100gであった。ホモジネート2では12時間経過時点でGABA含有量が最高となり、10.36g/100gであった。ホモジネート3及び4はホモジネート1と同様の経時変化を示し、含有量の最高値も24時間経過時点で各々8.06g/100g、8.92g/100gであった。この結果から、10℃保温でもバナナ果肉の半分重量の水添加が最も反応効率が高いことがわかる。しかも、他のホモジネートは24時間経過時点がGABA含有量の最高値であったのに対し、ホモジネート2は12時間経過時点で最高値となり、最高値に達する時間が大幅に短くなった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】5℃、10℃、20℃、30℃、40℃でバナナのGABA富化反応を行った場合のGABA生成量及びL−グルタミン酸残存量の経時変化を示すグラフである。
【図2】40℃でのバナナのGABA富化反応において、バナナホモジネートを作る際に水の添加量を変えた場合のGABA生成量及びL−グルタミン酸残存量の経時変化を示すグラフである。
【図3】10℃でのバナナのGABA富化反応において、バナナホモジネートを作る際に水の添加量を変えた場合のGABA生成量及びL−グルタミン酸残存量の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)及び(2)、又はこれらに(3)を混合して得られるスラリーを一定時間保持して、L−グルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換させるγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法において、前記スラリーの保持温度を20℃以下とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
(1)バナナ(Musa acuminata)の可食部又はその誘導物であって、生のバナナの酵素活性を有するもの
(2)L−グルタミン酸又はL−グルタミン酸ナトリウム
(3)水
【請求項2】
スラリーの保持温度が5〜20℃である請求項1に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
【請求項3】
スラリーの保持時間が0〜48時間、好ましくは6〜24時間である請求項1、又は請求項2に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
【請求項4】
L−グルタミン酸又はL−グルタミン酸ナトリウムの使用量が、バナナの可食部、又はその誘導物を生のバナナの果肉に換算した重量の0.5%〜10%である請求項1〜請求項3に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
【請求項5】
水の添加量が、バナナの可食部、又はその誘導物を生のバナナの果肉に換算した重量の0〜2.0倍、好ましくは0.5〜1.0倍である請求項1〜請求項4に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
【請求項6】
スラリーに、L−アスコルビン酸を添加する請求項1〜請求項5に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
【請求項7】
L−アスコルビン酸の添加量が、0.3〜2.5重量%である請求項1〜請求項6に記載するγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7に記載する製造方法により製造されるγ−アミノ酪酸を多量に含有する食品素材、又はこの食品素材を添加したγ−アミノ酪酸強化食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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