説明

γ−アミノ酪酸富化米と富化玄米粉及びそれらの製造方法

【課題】 本発明は、加水工程(水浸漬や加湿風による加水)や乾燥工程を必要とすることなく、極めて簡便な操作のみで、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させる方法を提供することを技術的課題とする。
【解決手段】 酸素透過度10000ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)以下の材質からなる密閉可能な容器中において、水分含量10〜17%の玄米(もしくは玄米粉)を、40〜150℃の温度で加熱保存することを特徴とする、γ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法、;前記製造方法によって製造されたγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米(もしくは玄米粉)、;を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法、並びに、玄米粉の製造方法に関する。また、本発明は、前記方法によって製造される玄米および玄米粉に関し、さらには、当該玄米を精米して得られる分搗き米、胚芽米、白米、もしくは無洗米に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遊離アミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸(GABA)は、血圧上昇抑制や、不眠、いらいら等の自律神経障害の改善等に効果があることが報告されており、γ−アミノ酪酸を富化させることによる栄養の改善は健康増進に多大な貢献があると考えられる。
【0003】
γ−アミノ酪酸は米にも含まれ、玄米を発芽させることでγ−アミノ酪酸を増加させることができる。
この場合、米を水に浸漬して玄米の水分を高めて発芽させるため、その後乾燥する工程が必要となる(例えば、特許文献1参照)。製造途中に水浸漬や乾燥工程があることで経費がかさむという問題点があるだけでなく、長時間水浸漬することで細菌の繁殖や腐敗、悪臭の発生が起こる危険性もある(例えば、特許文献2参照)。
一方、加湿風により玄米水分を16.0〜18.5%に微増させて発芽はさせないでγ−アミノ酪酸を増加させる方法もあるが、この場合も乾燥工程は必要である(特許文献3、4参照)。
また、水分23%以上の未発芽籾や玄米を加熱処理することでγ−アミノ酪酸を増加させる方法も乾燥工程が必要となる(特許文献5参照)。
【0004】
以上で述べてきたように、これまで玄米に含まれるγ−アミノ酪酸を増加させるためには玄米水分を高めることが必須であると考えられてきた。また、そのため加水や乾燥工程が必要となり製造設備が大がかりで経費がかかるものとなっていた。
さらに、これらの方法によって得られた玄米は、吸水と乾燥によって表面がざらついたり米粒に亀裂が入ったりし、食感の劣化や栄養分の流出等の問題を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−168444号公報
【特許文献2】特許第2502905号公報
【特許文献3】特開2007−215504号公報
【特許文献4】特開2008−307045号公報
【特許文献5】特許第4317258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑み、加水工程(水浸漬や加湿風による加水)や乾燥工程を必要とすることなく、極めて簡便な操作のみで、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させる方法を提供することを技術的課題とする。
また、本発明は、米粒表面のざらつきや米粒に亀裂を生じさせることなく、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させる方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、気体を透過しにくい容器中で玄米を特定温度で加熱保存することによって、加水工程や乾燥工程を行うことなく、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加できることを見出した。さらに、本発明者は、玄米粉についても、同様に加熱保存することによって、玄米粉中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加できることを見出した。
また、本発明者は、当該方法によって得られた玄米は、米粒表面のざらつきや米粒に亀裂が生じないことを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、請求項1に係る本発明は、酸素透過度10000ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)以下の材質からなる密閉可能な容器中において、水分含量10〜17%の玄米を、40〜150℃の温度で加熱保存することを特徴とする、γ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法に関する。
また、請求項2に係る本発明は、前記加熱保存が、前記玄米を玄米粉の状態にしてから行うものである、請求項1に記載のγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法に関する。
また、請求項3に係る本発明は、前記容器が、玄米の真の容積に対して20倍以下の内容積のものである、請求項1又は2に記載のγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法に関する。
また、請求項4に係る本発明は、前記加熱保存が、60〜100℃で行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載のγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法に関する。
また、請求項5に係る本発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造された、γ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米に関する。
また、請求項6に係る本発明は、請求項5に記載の玄米を精米して得られる、γ−アミノ酪酸含量を増加させた分搗き米、胚芽米、白米もしくは無洗米に関する。
また、請求項7に係る本発明は、請求項5に記載の玄米、及び/又は、請求項6に記載の分搗き米、胚芽米、白米および無洗米のいずれか1以上、を使用して得られる米加工品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加水工程や乾燥工程を必要とすることなく、極めて簡便な操作のみで、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させることを可能とする。また、玄米粉についても同様の操作のみで、γ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させることを可能とする。
従って、本発明によれば、これらの工程を省くことにより、大幅な経費の削減が可能となる。また、加水時の細菌による腐敗の危険が除去されるため、殺菌設備や工程を省略することもできる。
【0010】
また、本発明によれば、γ−アミノ酪酸含量が顕著に増加しているにも関わらず、米粒表面のざらつきや米粒に亀裂が生じていない玄米を提供することを可能とする。
これにより、γ−アミノ酪酸含量が顕著に増加しているにも関わらず、食感の悪化や栄養分の流出の少ない玄米を提供することができる。
【0011】
また、本発明によれば、当該玄米を精米することによって、γ−アミノ酪酸含量が顕著に増加した白米等を通常の米飯として食することができる。また、当該玄米や白米等を通常の玄米や白米に例えば30%混ぜたりもでき、さらにはそれらをレトルト米飯や無菌米飯等に加工することもできる。
さらに、本発明の玄米や白米等は、団子等の米加工食品に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、気体を通しにくい容器中において、玄米を特定温度で加熱保存することによって、加水工程や乾燥工程を行うことなく、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させる方法に関するものである。
また、玄米粉についても同様の操作のみで、γ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させる方法に関するものである。
【0013】
〔原料玄米〕
本発明に用いることができる玄米は、秋田県における通常の流通時における水分含量である10〜16%に加えて16〜17%のもの(即ち10〜17%の範囲のもの)であれば如何なるものも用いることができる。なお、好ましくは、水分含量の下限値として13%以上のものが好適である。また、上限値としては16%以下のものが好適である。
水分含量が少なすぎる場合、後述する加熱保存時においてγ−アミノ酪酸含量の増加がおこりにくくなるため、本発明に用いるには好ましくない。また、水分が多すぎる場合、加熱保存後に乾燥工程を要するようになり、本発明に用いるには好ましくない。
また、加水や乾燥などの処理を行って、水分含量が一度上記所定範囲を外れたものとなった場合であっても、加熱保存処理時に水分含量が当該所定範囲に調製されたものであれば、本発明に用いることができる。
【0014】
ここで、‘玄米’とは、イネ種子から籾すりによって籾殻を除いたものである。本発明に用いることができる玄米の種類としては、例えば、あきたこまち、コシヒカリ等の一般飯用米、恋あずさなどの巨大胚米、ミルキークイーン、スノーパールなどの低アミロース米、山田錦などの酒造好適米、朝紫などの有色素米、春陽などの低グルテリン米のほか、いかなる品種や系統のものでもよい。
【0015】
本発明においては、水分含量が上記所定範囲であれば、如何なる玄米の形態のものであっても行うことができる。例えば、籾殻を取り除いた通常の玄米に対してだけでなく、籾殻に包まれた籾(もみ)の状態に対しても行うことができる。
また、前記玄米を‘玄米粉’の状態にしたものに対しても行うことができる。ここで、玄米粉としては、前記玄米を粉砕機、精米機、ミル、石臼などによって、常法により粉状、粒状、砕片状にしたものを指す。
【0016】
〔加熱保存に用いる容器〕
本発明では、前記玄米を、気体を通しにくい容器中で加熱保存することによって、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させるものである。
本発明に用いることができる‘気体を通しにくい容器’とは、材質の酸素透過度が所定範囲にあり、密封可能な形状のものであれば、如何なるものも用いることができる。
【0017】
容器の材質としては、酸素透過度が、25℃100%RHの雰囲気下で、10000ml/m2/24hrs/atm以下、好ましくは6000ml/m2/24hrs/atm以下、さらに好ましくは5000ml/m2/24hrs/atm以下、のものであれば如何なるものも用いることができる。加熱保存の時間を長くとる(例えば数日以上とる)場合には、さらに酸素透過度の低い材質のものを用いることが好ましく、例えば、1.0ml/m2/24hrs/atm以下のものを用いることが望ましい。
なお、本発明においては、当該材質の酸素透過度は低ければ低いほど好ましい。
【0018】
容器の内容積としては、中に入れる玄米の真の容積(空隙や隙間を除いた容積)に対して、内容積が20倍以下、好ましくは5倍以下、であることが好ましい。内容積が大きすぎる場合、玄米中の水分が失われγ−アミノ酪酸含量の増加がおこりにくくなるため、本発明に用いるには好ましくない。
なお、当該容器の内容積は、中に入れる玄米の真の容積に近いほど望ましい。言い換えるなら、当該容器中の玄米は隙間が小さく梱包されているほど好ましい。
【0019】
容器の形状としては、密封可能なものであればよく、例えば、袋状、コンテナ状、箱状など、如何なるものも用いることができる。
また、加熱保存時の熱伝導率の点から、体積に対して表面積が大きくなる形状であることが好ましい。また、玄米の容積に対する内容積を小さく調節しやすいものであることが好ましい。これらの点を考慮すると、袋状のもの(特に封筒型)を用いることが好適である。
【0020】
容器の具体例としては、例えば、アルミ箔やポリエステルや二軸延伸ナイロンや無延伸ポリプロピレンなどを層状の構造にして貼り合わせたアルミニウムパウチ(アルミパウチ)の他、ポリエステルや二軸延伸ナイロンや無延伸ポリプロピレンを層状の構造にして貼り合わせたレトルトパウチ、ポリエチレン袋などの密閉可能な袋状のもの、プラスチック樹脂、ペット樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、金属、木などの材質からなる密封可能なコンテナ容器や箱状容器、などを用いることができる。
なお、これらの具体的な容器の酸素透過度は、材質、厚さ、形状などによって大きく異なるが、例えば、25℃100%RHの雰囲気下において、ステンレスや厚い合成樹脂の容器の場合はほぼ0ml/m2/24hrs/atm、;アルミニウムパウチの場合は0.05ml/m2/24hrs/atm程度、;レトルトパウチの場合は1.0ml/m2/24hrs/atm程度、;厚さ40μmのポリエチレン袋の場合は5000 ml/m2/24hrs/atm程度、;である。
これらのうち、酸素透過度の点から見ると、ステンレスや樹脂の容器を用いることが好適であるが、前記したような容積比率の調節や扱いやすさを合わせて判断すると、本発明においてはアルミニウムパウチ、レトルトパウチ、ポリエチレン袋、が好適である。
【0021】
なお、容器(特に酸素透過度の低い容器)に玄米を入れる際には、容器内を窒素ガス等に置換してガス貯蔵を行い玄米の酸化を抑制してもよい。特に玄米粉の酸化を防ぐ際には有効である。
【0022】
〔加熱保存条件〕
本発明における加熱保存の温度としては、40〜150℃であれば行うことが可能である。
なお、40℃で加熱保存した場合、玄米中のγ−アミノ酪酸含量を十分に増加させるために、長い時間(少なくとも1 日以上)が必要となる。
そこで、保存時間を短縮させるためには、下限温度としては、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは65℃以上、最も好ましくは70℃以上、で行うことが好適である。
また、温度の上限としては、具体的に実施可能な温度として好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下、を挙げることができる。
【0023】
加熱保存時間としては、温度によってγ−アミノ酪酸の生成速度が大きくことなるため、一概に決めることができない。さらには、玄米の容積や容器の形態によって品温に達するまでの時間が異なる。
そこで、具体的な例を挙げると、アルミニウムパウチに玄米を入れて恒温室に置いた場合、40℃で保存した場合には1日以上(好ましくは数日以上、さらに好ましくは10日以上)必要である。また、70℃で保存した場合には1時間以上(上限として好ましくは、生成量が頭打ちになる24時間以内)行うことが望ましい。また、85℃で保存した場合には15分以上(上限として好ましくは、生成量が頭打ちになる6時間以内)行うことが望ましい。
【0024】
加熱保存を行う方法としては、前記所定の温度環境の設定可能な場所や装置内に静置すればよい。例えば、恒温室、温浴槽、インキュベーターなどに静置することで行うことができる。また、ホットプレート上で容器に入れた玄米を容器ごと加熱し、品温は上記所定温度を維持する等の方法でも達成することができる。
【0025】
〔メカニズムの考察〕
なお、前記容器を用いないで、加熱保存(恒温室での静置)を行った場合、水分含量が大幅に減少し、γ−アミノ酪酸の増加もおこらない。
このことから、本発明における加熱保存では、玄米(もしくは玄米粉)中の水分含量が維持されるため、プロテアーゼやグルタミン酸脱炭酸酵素が働いて遊離アミノ酸が増加し、同時に、γ−アミノ酪酸への合成経路が活発に機能することによって、γ−アミノ酪酸が蓄積されるものと考えられる。
【0026】
〔製造された玄米〕
上記工程を経て得られた本発明の玄米は、γ−アミノ酪酸含量が無処理の通常の玄米と比較して、顕著に増加したものとなる。また、当該玄米は、米粒表面にざらつきや米粒に亀裂が生じていないため、食感の悪化や栄養分の流出の少ないものとなる。
また、本発明によって得られた玄米を精米することによって、γ−アミノ酪酸含量を顕著に増加させた分搗き米、胚芽米、白米、無洗米を得ることもできる。
【0027】
上記工程を経て得られた本発明の玄米や白米等は、米加工食品の原料に使用することができる。具体的には、無菌米飯、レトルト米飯等に使用することができる。これらは、全量でなく一部が当該玄米等に置き換わっているものであってもかまわない。例えば使用する米の全量に対して、30%を混ぜて使用することができる。
【0028】
さらに、上記工程を経て得られた本発明の玄米や白米等は、玄米粉や米粉の状態にして、米加工食品に使用することができる。また、上記工程を経て得られた本発明の‘玄米粉’の場合は、そのまま米加工食品の原料に使用することができる。
具体的には、団子、パン、麺、菓子等に使用することができる。これらは、全量でなく一部が当該玄米等に置き換わっているものであってもかまわない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕 (気体を透過しにくい容器中での加熱保存によるγ−アミノ酪酸の富化)
水分15.6%のあきたこまち玄米100gを、厚さ40μmのポリエチレン袋〔酸素透過度:5000ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕、または、アルミニウムパウチ〔酸素透過度:0.05ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、85℃で60分間保存(加熱保存)した(試料1-1,1-2)。また、‘袋に入れずにそのまま同様に加熱保存した玄米’を比較例(比較1-1)とした。
その後、各玄米を室温に静置して、各玄米に含まれるγ−アミノ酪酸含量を定量した。また、各試料の水分含量の測定も行った。なお、対照として無処理の玄米の値も測定した。結果を表1に示す。
【0031】
その結果、ポリエチレン袋入りの玄米(試料1-1)とアルミニウムパウチ入りの玄米(試料1-2)は、無処理の玄米(対照)に比べて、それぞれ4.9倍と5.8倍のγ−アミノ酪酸を有するものとなった。また、水分含量は14.8%と15.6%で、無処理の玄米(対照)とほとんど変化が見られなかった。
それに対して、袋に入れない玄米(比較1-1)は、γ−アミノ酪酸がほとんど増加せず、85℃に保存されて乾燥が進んだため水分が9.2%に減少していた。
以上のことから、玄米を水蒸気等の気体を透過しにくい容器中に入れて高温で保存することでγ−アミノ酪酸含量が顕著に増加することが示された。
【0032】
【表1】


【0033】
〔実施例2〕 (加熱温度の検討)
水分15.5%のあきたこまち玄米1kgを、アルミニウムパウチ〔酸素透過度:0.05ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、85℃、100℃のいずれかの温度で24時間保存(加熱保存)した(試料2-1〜2-7)。
その後、各玄米を室温に静置して、各玄米に含まれるγ−アミノ酪酸を定量した。なお、対照として無処理の玄米の値も測定した。結果を表2に示す。
【0034】
その結果、このようにして得られた玄米は、無処理品(対照)に比べて、30℃保存品で1.3倍(試料2-1)、40℃保存品で1.7倍(試料2-2)、50℃保存品で1.9倍(試料2-3)、60℃保存品で2.4倍(試料2-4)、70℃保存品で5.9倍(試料2-5)、85℃保存品で4.7倍(試料2-6)、100℃保存品で3.2倍(試料2-7)となった。
γ−アミノ酪酸含量の増加量が30℃では少ないことから、40℃以上で保存することが好ましいことが示された。
【0035】
【表2】


【0036】
〔実施例3〕 (70℃加熱における保存時間の検討)
水分15.5%のあきたこまち玄米1kgを、アルミニウムパウチ〔酸素透過度:0.05ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、70℃で1時間から48時間保存(加熱保存)した(試料3-1〜3-7)。
その後、各玄米を室温に静置して、各玄米に含まれるγ−アミノ酪酸を定量した。なお、対照として無処理の玄米の値も測定した。結果を表3に示す。
【0037】
その結果、このようにして得られた玄米は、無処理品(対照)に比べて、1時間保存品で2.3倍(試料3-1)、2時間保存品で2.9倍(試料3-2)、4時間保存品で4.1倍(試料3-3)、6時間保存品で4.3倍(試料3-4)、14時間保存品で4.6倍(試料3-5)、24時間保存品で5.9倍(試料3-6)、48時間保存品で5.5倍(試料3-7)となった。
γ−アミノ酪酸含量から判断して、加熱処理時間は短い方が経済的なことから、70℃に保存する場合は24時間以内が好ましいことが示された。
なお、表中には結果を示さないが、70℃24時間保存玄米(試料3-6)を精米した白米は、13.4mg/100g米のγ−アミノ酪酸を有していた。これは通常の白米に含まれる量の13.4倍に当たる含量であった。
【0038】
【表3】


【0039】
〔実施例4〕 (85℃加熱における保存時間の検討)
水分15.5%のあきたこまち玄米100gを、アルミニウムパウチ〔酸素透過度:0.05ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、85℃で15分から24時間保存(加熱保存)した(試料4-1〜4-6)。
その後、各玄米を室温に静置して、各玄米に含まれるγ−アミノ酪酸を定量した。なお、対照として無処理の玄米の値も測定した。結果を表4に示す。
【0040】
その結果、このようにして得られた玄米は、無処理品(対照)に比べて、15分保存品で2.5倍(試料4-1)、30分保存品で3.4倍(試料4-2)、1時間保存品で4.1倍(試料4-3)、1時間30分保存品で4.1倍(試料4-4)、6時間保存品で4.9倍(試料4-5)、24時間保存品で4.7倍(試料4-6)となった。
γ−アミノ酪酸含量から判断して、加熱処理時間は短い方が経済的なことから、85℃に保存する場合は6時間以内が好ましいことが示された。
なお、表中には結果を示さないが、85℃6時間保存玄米(試料4-5)を精米した白米は、10.1mg/100g米のγ−アミノ酪酸を有していた。これは通常の白米に含まれる量の10.1倍に当たる含量であった。
【0041】
【表4】


【0042】
〔実施例5〕 (40℃加熱における保存時間の検討)
水分15.5%のあきたこまち玄米1kgを、アルミニウムパウチ〔酸素透過度:0.05ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、40℃で1日から60日保存(加熱保存)した(試料5-1〜5-6)。
その後、各玄米を室温に静置して、各玄米に含まれるγ−アミノ酪酸を定量した。なお、対照として無処理の玄米の値も測定した。結果を表5に示す。
【0043】
その結果、このようにして得られた玄米は、無処理品(対照)に比べて、1日保存品で1.7倍(試料5-1)、2日保存品で1.9倍(試料5-2)、5日保存品で2.3倍(試料5-3)、10日保存品で2.6倍(試料5-4)、30日保存品で3.8倍(試料5-5)、60日保存品で4.0倍(試料5-6)となった。
γ−アミノ酪酸含量から判断して、40℃に保存する場合は少なくとも60日までは時間が長いほど好ましいことが示された。
なお、表中には結果を示さないが、40℃30日保存玄米(試料5-5)を精米した白米は、8.4mg/100g米のγ−アミノ酪酸を有していた。これは通常の白米に含まれる量の8.4倍に当たる含量であった。
【0044】
【表5】


【0045】
〔実施例6〕 (玄米水分16%以上での検討)
水分16.2%のあきたこまち玄米100gを、レトルトパウチ〔酸素透過度:1.1ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、80℃で1時間保存(加熱保存)した(試料6-1)。
その後、玄米を室温に静置して、玄米に含まれるγ−アミノ酪酸を定量した。なお、対照として無処理の玄米の値も測定した。結果を表6に示す。
【0046】
その結果、このようにして得られた玄米は、無処理品に比べて、4.8倍となった。また、加熱保存後の玄米の水分量は15.8%となり、秋田県産玄米の規格である水分量16.0%以下を満たし、乾燥する必要がない玄米となった。
【0047】
【表6】


【0048】
〔実施例7〕 (玄米粉での検討)
水分15.6%のあきたこまちの‘玄米粉’1kgを、アルミニウムパウチ〔酸素透過度:0.05ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)〕に入れて、60℃に24時間保存(加熱保存)した(試料7-1)。
その後、玄米粉を室温に静置して、玄米粉に含まれるγ−アミノ酪酸を定量した。なお、対照として無処理の玄米粉の値も測定した。結果を表7に示す。
【0049】
その結果、無処理の玄米粉(対照)のγ−アミノ酪酸含量は3.2mg/100g米であったのに対して、アルミニウムパウチに入れて60℃保存した玄米粉(試料7-1)では7.0mg/100g米のγ−アミノ酪酸を含有していた。
このことから、玄米だけでなく‘玄米粉’についても、水蒸気等の気体を透過しにくい容器中に入れて高温で保存することで、γ−アミノ酪酸含量が顕著に増加することが示された。
【0050】
【表7】


【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、γ−アミノ酪酸含量が顕著に増加した玄米を製造するにあたり、大幅な工程や設備の省略が可能となり、経費の削減が可能となる。
これにより本発明は、γ−アミノ酪酸含量を顕著に増加した玄米や精米した白米、米加工食品等の供給に貢献し、米利用の拡大と健康促進に貢献することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素透過度10000ml/m2/24hrs/atm(25℃,100%RH)以下の材質からなる密閉可能な容器中において、水分含量10〜17%の玄米を、40〜150℃の温度で加熱保存することを特徴とする、γ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法。
【請求項2】
前記加熱保存が、前記玄米を玄米粉の状態にしてから行うものである、請求項1に記載のγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法。
【請求項3】
前記容器が、玄米の真の容積に対して20倍以下の内容積のものである、請求項1又は2に記載のγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法。
【請求項4】
前記加熱保存が、60〜100℃で行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載のγ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造された、γ−アミノ酪酸含量を増加させた玄米。
【請求項6】
請求項5に記載の玄米を精米して得られる、γ−アミノ酪酸含量を増加させた分搗き米、胚芽米、白米もしくは無洗米。
【請求項7】
請求項5に記載の玄米、及び/又は、請求項6に記載の分搗き米、胚芽米、白米および無洗米のいずれか1以上、を使用して得られる米加工品。

【公開番号】特開2011−160747(P2011−160747A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28704(P2010−28704)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】