説明

π系が直接結合したポルフィリン−フタロシアニン二量体及び四量体並びにそれらの製造方法

次の式(A−1)で表されるポルフィリン/フタロシアニン二量体及び式(A−2)で表される四量体{式中、R、R及びRは互いに同じでも異なっていてもよく,H,アルキル基又はアルキルオキシ基を表し;M及びMは互いに同じでも異なっていてもよく,プロトン二個又は2価若しくは3価の金属イオンを表し;Xは単結合又はアルキレン基を表し;Xは−O−,−S−,>NR101(ここで、R101はHまたはアルキル基を表わす。),CH又は単結合を表し;Yは2H,=O又は=Sを表し;mは0ないし4の整数を表し;Zは5員又は6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基を表わす。ただし、複数の同一文字により表される置換基は、同じであっても異なっていてもよい。}
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はπ系が直接結合したポルフィリン−フタロシアニン二量体及び四量体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルフィリン及びフタロシアニン類は大きなモル吸光係数をもち光電子物性に優れるため、様々な光学材料としての応用が研究されている。一般的にフタロシアニンはポルフィリンに比べて低いエネルギー順位を有するため、理論的には両者を組み合わせることによってポルフィリンからフタロシアニンへのエネルギー移動や電子移動がおこると考えられる。これまでに、その両者を1つ以上の原子を介して結合した二量体もしくは多量体の合成と光物性が報告されているが、エネルギー移動効率や電子移動効率の点で十分満足できるものではなかった(例えば、非特許文献1〜8参照)。また、これらの文献に記載される二量体等においては、その末端に様々な二量体分子を導入することにより、機能性末端分子として用いることは開示されていない。
【0003】
また、本発明者らは、イミダゾリル基を有するポルフィリン二量体を構成単位とする多量体の末端に、様々な機能性分子を導入する方法を開発している(例えば、非特許文献9及び特許文献1参照)。さらに、本発明者らはこれまでにビスイミダゾリルポルフィリンを構成単位とするポルフィリンの自己組織化法を用いて光電変換素子(例えば、非特許文献10及び特許文献2参照)や三次の光学非線形材料(例えば、非特許文献10及び特許文献3参照)への応用を示してきた。
【非特許文献1】H.Tian,Q.Zhou,S.Shen,H.Xu,J.Photochem.Photobiol.A:Chem.1993,72,163−168.
【非特許文献2】H.Tian,Q.Zhou,S.Shen,H.Xu,Chin.J.Chem.1996,14,412−420.
【非特許文献3】X.Li,Q.Zhou,H.Tian,H.Xu,Chin.J.Chem.1998,16,97−108.
【非特許文献4】L.Li,S.Shen,Q.Yu,Q.Zhou,H.Xu.J.Chem.Soc.Chem.Commun.1991,619−620.
【非特許文献5】S.Gaspard,C.Giannotti,P.Maillard,C.Schaeffer,T.Tran−Thi,J.Chem.Soc.Chem.Commun.1986,1239−1340..
【非特許文献6】J.M.Sutton,R.W.Boyle,Chem.Commun.2001,2014−2015.
【非特許文献7】J.Li,J.R.Diers,J.Seth,S.I.Yang,D.F.Bocian,D.Holten,J.S.Lindsey,J.Org.Chem.1999,64,9090−9100.
【非特許文献8】S.I.Yang,J.Li,H.S Cho,D.Kim,D.F.Bocian,D.Holten,J.S.Lindsey,J.Mater.Chem.2000,10,283−296.
【非特許文献9】K.Ogawa and Y.Kobuke,Angew.Chem.Int.Ed..2000,39,4070−4073.
【特許文献1】特開2001−213883号公報
【非特許文献10】(a)A.Nomoto,Y.Kobuke,Chem.Commun.2002,1104−1105.(b)A.Nomoto,H.Mitsuoka,H.Ozeki,Y.Kobuke,Chem.Commun.2003,1074−1075.
【特許文献2】特開2001−253883号公報
【非特許文献11】K.Ogawa,T.Zhang,K.Yoshihara and Y.Kobuke,J.Am.Chem.Soc.2002,124,22−23.
【特許文献3】特開2003−231688号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、効率の良いエネルギー移動や電子移動が進行するような分子及びそのような分子の製造方法を提供することである。
【0005】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定のフタロシアニンとポルフィリンとの二量体が、ポルフィリンからフタロシアニンへの高効率のエネルギー移動及び電子移動が起こること、さらに、この二量体において、ポルフィリン部位に配位可能な金属を導入すると、金属−イミダゾール間で相補的な配位結合を形成し四量体ができ、この四量体もまた、高効率のエネルギー移動及び電子移動が起こること、そして、上記二量体残基を分子末端基として使用したポルフィリン多量体もまた、高効率のエネルギー移動及び電子移動が可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の二量体及び四量体を提供する。
【0007】
(1)次の式(A−1)で表されるポルフィリン/フタロシアニン二量体。
【化1】

【0008】
式中、R、R及びRは、互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基又はアルキルオキシ基を表し;M及びMは、互いに同じでも異なっていてもよく、プロトン二個又は2価若しくは3価の金属イオンを表し;Xは、単結合又はアルキレン基を表し;Xは、−O−、−S−、>NR101(ここで、R101は、Hまたはアルキル基を表わす。)、CHまたは単結合を表し;Yは、2H、=O又は=Sを表し;mは、0ないし4の整数を表し;Zは、5員若しくは6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基を表わす。ただし、複数の同一文字により表される置換基は、同じであっても異なっていてもよい。
【0009】
(2)次の式(A−2)で表されるポルフィリン/フタロシアニン四量体。
【化2】

【0010】
式中、R、R、R、M、M、X、X、Y、Z及びmは、上記(1)の式(A−1)において規定したとおり。ただし、Mは、二個のプロトンではない。
【0011】
また、本発明は、上記二量体及び四量体の製造方法も提供する。
【0012】
(3)次の式(A−5)
【化3】

【0013】
(式中、各置換基は、上記(1)の式(A−1)で規定したとおり。)で表されるフタロシアニンアルデヒドを有機溶媒存在下に、次の式(A−6)
【化4】

【0014】
(式中、各置換基は、上記(1)の式(A−1)で規定した通り。)で表されるジピロール化合物と反応させた後に、Z−CHO(Zは、上記(1)の式(A−1)で規定したとおり。)で表されるアルデヒドと反応させた後、Mが二個のプロトン以外の金属イオンの場合には、ポルリフィン環の中心金属として、Mを導入することを特徴とする、上記(1)に記載の式(A−1)
【化5】

【0015】
(各置換基は、上記(1)で規定したとおり。)で表されるフタロシアニン/ポルフィリン二量体の製造方法。
【0016】
(4)式(A−1)(各置換基は、上記(1)の式(A−1)で規定したとおり。ただし、Mは、二個のプロトンではない。)で表されるフタロシアニン/ポルフィリン二量体を非極性溶媒中で自己組織化させることを特徴とする上記(2)に記載の式(A−2)で表されるポルフィリン/フタロシアニン四量体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、8−dimerのクロロホルム中の吸収スペクトルを表す。
【図2】図2(a)は、6−dimerと10−dimerのトルエン(toluene)中の吸収スペクトルを表し;図2(b)は、6−dimerと10−dimerのトルエン中の蛍光スペクトルを表す。励起波長はそれぞれ414、412nm。
【図3】図3(a)は、6−dimerと10−dimerの塩化メチレン(CHCl)中の吸収スペクトルを表し;図3(b)は、6−dimerと10−dimerの塩化メチレン中の蛍光スペクトルを表す。励起波長はそれぞれ412、413nm。
【図4】図4は、本発明の8(ZnPc−ZnPor)の二量体(本発明のポルフィリン/フタロシアニン四量体)のZ−scan曲線の実測例を表す。点は実測で、実線はガウシアン型の式でフィッティングしたカーブである。レーザーパワーは33mWで波長は830nm。
【図5】図5は、本発明の8(ZnPc−ZnPor)の二量体(本発明のポルフィリン/フタロシアニン四量体)と参照化合物(Zn−tetra−t−bu−PC)の二光子吸収スペクトルを表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書において、アルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状の1価の脂肪族基をいう(以下、他の置換基がアルキル基である場合や、アルキルオキシ基のようにアルキル部分を含む基についても同じ)。
【0019】
さらに、以下に説明する基は、本発明各化合物が本発明の所望の効果を奏することを条件として、置換基を有していてもよい。
【0020】
(1)式(A−1)で表されるポルフィリン/フタロシアニン二量体
式(A−1)において、R、R及びRは、互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基又はアルキルオキシ基を表す。R、R及びRで表されるアルキル基の炭素数に特に制限はないが、通常、炭素数1〜20程度のもの(好ましくは、3〜5)を使用することができる。R、R及びRで表されるアルキル基又はアルキルオキシ基は、特に、フタロシアニン同士のπ−πスタッキングを防ぐ目的としてかさ高いもの(例えば、t−ブチルのような第三級アルキル基)が好ましい。
【0021】
及びMは、互いに同じでも異なっていてもよく、プロトン二個又は2価若しくは3価の金属イオンを表わす。
【0022】
及びMで表される2価又は3価の金属イオンには、中心金属となり得る典型金属及び遷移金属から選択される金属のイオンが含まれる。ここで、典型金属とは、長周期表において、1A、2A、2B、3B〜7B及び0族の金属をいい、具体的には、Mg、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi等を挙げることができる。遷移金属とは、3A〜7A、8及び1B族の金属をいい、具体的には、Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au等を挙げることができる。
【0023】
及びMは、式(A−1)の二量体におけるエネルギー移動や電子移動などの目的に応じて適宜選択することができる。また、金属を適宜選択することにより、式(A−1)の二量体におけるエネルギー順位や酸化還元電位を変えることができる。
【0024】
は、単結合又はアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数に特に制限はないが、通常、1ないし6程度のもの(好ましくは、2(原料化合物の合成の容易性、生成物に期待される機能等から)を使用することができる。
【0025】
Xは、−O−、−S−、>NR101(ここで、R101は、Hまたはアルキル基を表わす。)、CHまたは単結合を表わす。
【0026】
101により表わされるアルキル基の炭素原子数は特に制限はないが、1〜4程度が好ましい。
【0027】
Xは、原料化合物の合成の容易性、生成物に期待される機能等を考慮すると、−O−が好ましい。
【0028】
Yは、=O、=Sまたは2Hを表わす。ここで、Yが2Hであるとは、Yが結合する炭素原子に2つの水素原子が単結合により結合した状態を意味する。
【0029】
Yは、原料化合物の合成の容易性、生成物に期待される機能等を考慮すると、=Oが好ましい。
【0030】
mは、0〜4の整数を表わす。mは、原料化合物の合成の容易性、生成物に期待される機能等を考慮すると、1が好ましい。
【0031】
一般式(1)において、Zは、5若しくは6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基を表わす。ここで、5若しくは6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基とは、窒素原子を少なくとも1個有する5若しくは6員のヘテロ環であって、芳香族性を有するものであれば特に制限はない。窒素以外のヘテロ原子として、酸素、硫黄等を有することができる。含窒素配位性ヘテロ芳香族環基に構造異性体が存在する場合は、それらの構造異性体が含まれる。
【0032】
5員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基及び6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基には、次のイミダゾリル基、オキサゾリル基及びチアゾリル基、並びにピリジル基が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【化6】

【0033】
上記イミダゾリル基において、R12で表わされるアルキル基は、原料化合物の合成の容易性、生成物に期待される機能等を考慮すると、通常、炭素原子数1〜10にすることができ、1程度が好ましい。
【0034】
Zは、ポルフィリン金属錯体の中心金属との結合の強さ等を考慮すると、イミダリル基が好ましい。
【0035】
なお、式(A−1)では、複数の同一文字が使用されているが、これらは、同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
上記式(A−1)の各置換基の規定は、別段の断りがない限り、式(A−2)その他の式における各置換基と同義である。
【0037】
以上説明した本発明の式(A−1)で表される二量体は、ポルリフィンとフタロシアニンとのπ系が直接結合しているので、ポルフィリンからフタロシアニンへの高効率のエネルギー移動及び電子移動が可能である(後述する測定例2〜4を参照されたい。)
また、式(A−1)で表される二量体は、M及びMを適宜選択することにより、式(A−1)の分子におけるエネルギー順位や酸化還元電位を変えることができる。例えば、M及びMは、エネルギー移動、電子移動の観点からはH、Zn及びMgなどが好ましい。また、三次の非線形材料等の観点からは分極率向上が期待されるAl(III)、Ga(III)など3価の金属が好ましい。特に蛍光プローブとして用いる観点からはM1およびM2が水素、Zn,Mgなどが好ましいが、同じである必要はない。ポルフィリンの配位組織化を行なうには、M2はZn,Mg,Co,Feなどイミダゾールと配位する金属ならなんでもよい。非線形光学材料として用いる際は、ポルフィリンとフタロシアニンの分極率を自由に制御できるように金属を適宜選択できる。ポルフィリン(M2)に2価の金属を用いた場合には、フタロシンニン(M1)にはそれより高原子価の3価の典型金属(例えばAl(III),Ga(III),等)を用いると分極率が上がり、高い効果が期待できる。
【0038】
さらに、式(A−1)の二量体を溶解する溶媒を変化させることによって、エネルギー移動及び電子移動の割合を制御することができる。例えば、溶媒として誘電率の低いトルエン等を用いることにより、エネルギー移動の比率を向上することができる。また、逆に誘電率の高い塩化メチレン等を用いると電子移動の比率を向上することができる。
【0039】
(2)式(A−2)で表されるポルフィリン/フタロシアニン四量体
式(A−2)において、R、R、R、M、M、X、X、Y、Z及びmは、上記式(A−1)において規定したとおりであり、その好ましいものも式(A−1)で述べたものと同じである。ただし、Mは、二個のプロトンではない。
【0040】
本発明の式(A−2)で表される四量体は、本発明の式(A−1)で表される二量体において、ポルフィリン部位に配位可能な金属を導入することにより、当該金属とZ(5員又は6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族基)との間で相補的な配位結合を形成している。
【0041】
本発明の式(A−2)で表される四量体は、それ自体においてポルフィリンからフタロシアニンへの効率の良いエネルギー移動及び電子移動が起こる。後述する<測定例1>を参照されたい。
【0042】
上記式(A−1)の二量体と同様に、本発明の式(A−2)で表される四量体もまた、これを溶解する溶媒を変化させることによって、エネルギー移動及び電子移動の割合を制御することができる。
【0043】
(3)本発明の式(A−1)で表される二量体の製造方法
式(A−1)で表される二量体は、次の式(A−5)
【化7】

【0044】
(式中、各置換基は、上記(1)の式(A−1)で規定したとおり。)で表されるフタロシアニンアルデヒドを有機溶媒存在下に、次の式(A−6)
【化8】

【0045】
(式中、各置換基は、上記(1)の式(A−1)で規定した通り。)で表されるジピロール化合物と反応させた後に、Z−CHO(Zは、上記(1)の式(A−1)で規定したとおり。)で表されるアルデヒドと反応させた後、Mが二個のプロトン以外の金属イオンの場合には、ポルリフィン環の中心金属として、Mを導入することにより製造することができる。
【0046】
式(A−5)で表されるフタロシアニンアルデヒド及び式(A−6)で表されるジピロール化合物は、文献等を参照することにより合成することが可能である。
【0047】
上記式(A−5)で表されるフタロシアニンアルデヒドと、式(A−6)で表されるジピロール化合物との反応に使用し得る有機溶媒は、クロロホルム、塩化メチレン等がある。溶媒は、式(A−5)のフタロシアニンアルデヒドが1〜2mM程度になるような量を使用することができる。
【0048】
式(A−5)のフタロシアニンアルデヒドに対する式(A−6)のジピロールの量は、の2〜10当量使用することができる。
【0049】
これらの化合物の反応は、通常、不活性雰囲気下(例えば、アルゴン、窒素)で、5時間程度、常圧にて行うことができる。
【0050】
上記反応で得られた反応生成物は、精製することなく次のZ−CHOとの反応に使用することができる。
【0051】
Z−CHOは、商業的に入手することも、文献等を参照することにより合成することも可能である。
【0052】
上記反応生成物と、Z−CHOで表されるアルデヒドとの反応に使用し得る有機溶媒は、クロロホルム、塩化メチレン等がある。溶媒は、Z−CHOが1〜2mM程度になるような量を使用することができる。
【0053】
Z−CHOは、式(A−5)のアルデヒドと式(A−6)のジピロールとの反応生成物の2〜10当量使用することができる。
【0054】
これらの化合物の反応は、通常、不活性雰囲気下(例えば、アルゴン、窒素)で、5時間程度、常圧にて行うことができる。
【0055】
式(A−1)において、Mが二個のプロトン以外の金属イオンである二量体を得る場合には、ポルリフィン環の中心金属として、Mを導入する。中心金属Mの導入それ自体は既知の反応である。一例を挙げると、クロロホルム等の溶液に溶解した上記反応生成物と、例えばメタノール等の有機溶媒に溶解した金属Mの酢酸塩、塩酸塩その他の塩とを反応させることにより行うことができる。添加する金属塩の量は、式(A−1)の二量体に対して、5〜20倍モル量使用することができる。
【0056】
(4)本発明の式(A−2)で表される四量体の製造方法
本発明の式(A−2)で表される四量体は、本発明の式(A−1)で表されるフタロシアニン/ポルフィリン二量体を非極性溶媒中で自己組織化させることにより製造することができる。
【0057】
使用し得る非極性溶媒には、クロロホルム、ベンゼン、トルエン等が含まれるが、これに限定されない。その他、自己組織化反応条件は、先行技術文献として挙げた特開2001−213883(特許文献1)、特開2001−213883(特許文献2)、特開2003−231688(特許文献3)等を参照することができる。概略を述べると、非極性溶媒は、通常、化合物重量に対し100〜200倍量用い、室温付近で、1〜3時間撹拌し、得られた反応溶液を水等の水性溶媒で洗浄した後、有機層を蒸発させることにより、式(A−2)で表される四量体の粗生成物が得られる。得られた粗生成物は、サイズ排除クロマトグラフィー{溶出液:クロロホルム等;カラム:日本分析工業 JAIGEL−2.5H等}により精製することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1:HPC−HPorの合成>
i)4−tert−butyldiiminoisoindoline 1
【化9】

【0060】
Dry MeOH(300mL)に4−tert−butylphthalonitrile(1.5g,8.14mmol)を加え、溶けるまで攪拌した。完全に溶解したのを確認してから、NHガスを15分間吹き込んだ。10mLのDryMeOHに懸濁したNaOMe(34mg,0.63mmol)を反応溶液に加え、反応溶液を加熱還流しながら、NHガスを20分毎に10分吹き込んだ。反応開始から6h後、原料の消失をTLCにて確認、反応溶液を室温へと冷却し、MeOHを留去した。残った薄い青色の粉状化合物を冷水で洗うことにより、無色固体が得られた。収量:1.34g 収率:82%
参照文献: Leznoff,Clifford C.;Greenberg,Shafrira;Tetrahedron Lett.1989,30,5555−5558.
Leznoff,Clifford C.;Svirskaya,Polina I.;Khouw,Ben;Cerny,Ronald L..;J.Org.Chem.1991,56,82−90.
ii)4−cyanodiiminoisoindoline 2
【化10】

【0061】
tri−cyanobenzene 1.2g(7.83mmol)を200mLのDryMeOHに溶かし、NHガスを15分間吹き込んだ。10mLのDryMeOHに懸濁したNaOMe(34mg,0.63mmol)を反応溶液に加え、反応溶液を加熱還流しながら、NHガスを20分毎に10分吹き込んだ。反応開始から8h後、原料の消失をTLCにて確認し、反応溶液を室温へと冷却後、MeOHを留去した。残った黄色の粉状化合物を冷水で洗うことにより、薄黄色の固体が得られた。収量1.13g収率:85%
TLC:Rf=原点部(メタノール)
IR(KBr):ν=3436nm(NH),2230nm(CN)
HNMR(DMSO−d,270MHz,)
8.10−8.13 ppm [m,1.1H(1H)]
8.22−8.25 ppm [m,1.2H(1H)]
8.51 ppm [s,1.0H(1H)] ( )内は理論値
(iii)Cyanophthalocyanine 3H
【化11】

【0062】
4−cyanodiiminoisoindoline 2 40mg(0.24mmol),4−tert−butyldiiminoisoindoline 1 180mg(0.89mmol)をN,N−dimethylaminoethanol(DMAE)50mLに溶かし(難溶)、加熱還流した。12h後、TLCにて二原料の消失を確認した後、溶媒を減圧蒸留にて留去、残渣をクロロホルムに溶かし、水で洗った。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(benzene:hexane=1:3→benzene:EtN=10:1)で精製し、緑色の化合物3Hを得た。
【0063】
収量:28mg,収率:17%
TLC:Rf=0.5(benzene:EtN=10:1)
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:695.5nm(1.11),666.5nm(1.14),639.0nm
(0.61),341.5nm(0.93)
IR(KBr):ν=2963cm−1,2232cm−1(CN),1598cm−1
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:(M+H)708.7(Calc.C4542:707.35)
(iv)Formylphthalocyanine 4H
【化12】

【0064】
室温下、cyanophthalocyanine 3H170mg(0.24mmol)をdry benzene30mLに溶かし、アルゴン置換した。そこにDIBAH(1M/hexane)1.2mL(1.2×10−3mol)をbenzene2mLに溶かしたものを加えた。6.0h後、MALDI−TOF MASSにて原料の消失及び、目的物の生成を確認した後、10%の硫酸水溶液に反応溶液をあけ、有機層をbenzeneで抽出した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(benzene:AcOEt=10:1)にて目的のアルデヒド体4Hを単離した。収量:105mg(62%)
TLC:Rf=0.7 benzene:AcOEt=10:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:691.0nm(0.2143),619.0nm(0.0491),345.0nm
(0.1018)
IR(KBr):ν=3418cm−1,2923cm−1,1693cm−1
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:M710.7(Calc.C4542O:710.35)
(v)meso−(メトキシカルボニルエチル)ジピロメタン(9)
文献(Y.Tomohiro,A.Satake,Y.Kobuke,J.Org.Chem.2001,66,8442−8446)と同様な方法を用いて、メトキシカルボニルプロパナール(11.6g,0.1mol)とピロール(280mL,4mol)をトリフルオロ酢酸(1.4mL,10mmol)存在下、攪拌することによって合成した。シリカゲルクロマトグラフィー(hexane/EtOAc5/1)によって精製しmeso−(メトキシカルボニルエチル)ジピロメタン9を17g(73%)得た。
【0065】
H NMR(600MHz,CDCl)δ2.22−2.26(m,2H),2.29−2.33(m,2H),3.63(s,3H),3.99(t,J=7.2Hz,1H),6.05−6.07(m,2H,pyH4),6.12−6.14(m,2H,pyH5),6.58−6.62(m,2H,pyH2),7.78(br,2H,NH);13C NMR(150MHz,CDCl)δ29.5,31.9,36.9,51.6,105.8,108.1,117.3,132.4,174.0.
(vi)5(HPc−HPor)
【化13】

【0066】
formylphthalocyanine 4H(36mg,0.05mmol)とMeSo−(2−methoxycarbonylethyl)dipyromethane 9(117mg,0.5mmol)をアルゴンバブリングしたCHCl(50mL)に溶かし、TFA(9μL,0.125mmol)を加え、室温下8.5h攪拌した。次に、イミダゾールアルデヒド(50mg,0.45mmol)を加え、室温にて攪拌した。12h後、DDQ(170mg,0.75mmol)を加え、室温にてさらに6h攪拌した。反応溶液を分液漏斗に移し、飽和重曹水を加えて洗浄し、次いで有機層中の不溶物を極少量のセライトにて濾過した。有機層を飽和重曹水と蒸留水にて洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去した。残さをシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl:Pyridine=10:1)で生成し、暗緑色の化合物5(HPc−HPor)(5.3mg,9%)を得た。
【0067】
TLC:Rf=0.5 CHCl:Py=10:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:697.00nm(0.1085),671.5nm(0.1069),645.50nm
(0.0481),619.00nm(0.0308),517.50nm(0.0134),
416.50nm(0.2169),345.00nm(0.0742)
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:(M+H)1243.5(Calc.C767014:1242.57)
<実施例2:6(HPc−ZnPor)>
【化14】

【0068】
5(HPc−HPor)2.4mg(1.93μmol)をCHCl(5mL)に溶かし、飽和酢酸亜鉛MeOH溶液を3滴加え、室温にて30分攪拌した。反応溶液を30mLの蒸留水で洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去した。緑色の化合物が得られた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて、溶出液にCHCl:Py=10:1を用いて、Rf=0.6のバンドを単離した。
【0069】
収量:2.1mg 収率 83%
TLC:Rf=0.6 CHCl:Py=10:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:699.50nm(0.0860),675.50nm(0.0733),
609.00nm(0.0222),571.00nm(0.0122),
437.50nm(0.0983),413.00nm(0.0888),
342.00nm(0.0576)
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z(M+H)1306.08(Calc.C766614Zn:1304.48)
<実施例3:ZnPc−HPor>
(i)3Zn(ZnPc)
【化15】

【0070】
4−cyanophthalonitrile(416mg,2.72mmol)と4−tert−butylphthalonitrile(2.0g,11mmol)、Zn(OAc)・2HO(4g,18.15mmol)を乳鉢にて擂り合わせ、ナスフラスコ中、ソルトバスを用いて230℃に加熱した。60分後、ガスの発生が収まったことを確認して加熱を終了した。室温に冷却後、MeOH,水の順に洗浄し、減圧乾燥した。得られた青色化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ベンゼン→ベンゼン:酢酸エチル=7:1)にて精製し3Zn(594mg,28%)を得た。
【0071】
TLC:Rf=0.7、benzene:AcOEt=7:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:692.0nm(0.44),669.0nm(0.37),636.0nm
(0.14),342.0nm(0.30)
IR(KBr):ν=2958cm−1,2224cm−1(CN)
HNMR(DMSO−d,270MHz,)
1.31−1.41 ppm [m,26.1H(27H),tert−butyl]
7.68−7.69 ppm [m,3.2H(3H),H
7.92 ppm [m,2.0H(2H),(H,H)]
8.06−8.12 ppm [m,6.0H(6H),(H,H)]
9.11 ppm [m,1.2H(1H),H] ( )内は理論値
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:M769.49(Calc.C4539Zn:769.26)
(ii)4Zn
【化16】

【0072】
3(ZnPc) 141mg/0.183mmol
DIBAL(1 M hexane solution) 3eq
Dry benzene 13mL+2mL
処方
室温下、3ZnをDryベンゼン(13mL)に溶かし、アルゴン置換した後、DIBAH(1M/hexane)0.55mL(0.55mmol)をbenzene 2mLに溶かしたものをゆっくりと加えた。滴下後5h攪拌し、反応溶液を10%希硫酸で洗い、ベンゼン層を分離した。次いで水層をCHClで抽出し、有機層を合わせ、濃縮乾燥によって青色の化合物が得られた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて、溶出液にbenzene:AcOEt=5:1を用いてRf=0.6を単離した。
【0073】
収量:108mg 収率:76%
TLC:Rf=0.6、benzene:AcOEt=5:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:693.5nm(0.2612),674.0nm(0.2586),614.5nm
(0.0577),352.5nm(0.1599)
IR(KBr):ν=2958cm−1,1643cm−1(C=O)
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:M769.49(Calc.C4539Zn:769.26)
(iii)7(ZnPc−HPor)
【化17】

【0074】
4Zn(15mg,0.019mmol)とMeso−(2−methoxycarbonylethyl)dipyrromethane9(26mg,0.057mmol)をアルゴンバブリングしたCHCl(10mL)に溶かし、室温で攪拌しながらTFA(4.2μL,0.057mmol)を加えた。4.5h後、Im−CHO 10(10.5mg,0.095mmol)とTFA(10μL,0.133mmol)を溶かしたCHCl(2.0mL)溶液を加え、更に攪拌を続けた。1.5h後、DDQ(38mg,0.171mmol)を加え、4h攪拌した。飽和重曹水に反応溶液をあけ、分液ロート中蒸留水で洗った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Py:CHCl=15:1)にて精製することで、RF0.5の成分である7(ZnPc−H2Por)を鮮やかな緑色固体として得た。
【0075】
収量:3.1mg 収率:13%
TLC:Rf=0.5 Py:CHCl=15:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:693.00nm(0.2648),623.50nm(0.0575),
519.00nm(0.0233),422.50nm(0.2823),
352.00nm(0.1716)
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:(M+H)1305.49(Calc.C766814Zn:1304.48)
【化18】

【0076】
HNMR(Pyridine−d,600MHz,)
−2.9−−2.3 ppm [g 0.96H(2H),Por−inner H]
1.2−1.5 ppm [a 28.0H(27H),tert−butyl]
2.7−3.7 ppm [b,c,d,13.0H(13H),OMe−,CH−,Imi−Me]
5.1−5.7 ppm [e,4.0H(4H),Por−CH2−]
7.3−8.3 ppm [f,α’,β’,9.0H(9H),Imi,Pc−ArH,]
8.5−10.0 ppm [β,α’,β’,13.2H(13H),Por−β,Pc−ArH]
( )内は理論値
<実施例4:8(ZnPc−ZnPor)>
【化19】

【0077】
tri−tert−butylphthalocyanato Zn(II)potphyrin(8.2mg/6.3mmmol)をCHCl(4.0mL)に溶かし、飽和酢酸亜鉛二水和物MeOH溶液をパスツールで2〜3滴反応溶液に落とし、0.5h室温で攪拌した。MALDI−TOFMASSスペクトル測定にて亜鉛導入を確認し、反応溶液を蒸留水にあけ、蒸留水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去、鮮やかな緑色の化合物が得られた。
【0078】
収量6.3mg 収率73%
TLC Rf=0.5、CHCl:Py=15:1
UV−vis λmax/nm(吸光度)CHCl:687.50(0.6682),618.00(0.1418),569.00(0.0569)
433.00(0.4909),414.50(0.4305),349.50(0.3469)
MALDI−TOFMASS(マトリックス:dithranol)
m/z:M1366.70(Calc.C766614Zn:1366.40),Dimer(2740.25)
【化20】

【0079】
HNMR(Pyridine−d,600MHz,)
1.2−1.5ppm [a 27H(27H),tert−butyl]
3.0−3.5ppm [b,c,d,13.3H(13H),OMe−CH−,Imi−Me]
5.1−5.4ppm [e,2.4H(4H),Por−CH−]
6.9−8.1ppm [f,α’,β’,12H(12H),Imi,Pc−ArH,]
8.8−9.8ppm [β,α’,β’,Por−β,Pc−ArH,10H(10H)]
( )内は理論値
<実施例5及び6:相補的な配位結合による6(HPc−ZnPor)、8(ZnPc−ZnPor)の二量体(本発明の四量体)形成>
【化21】

【化22】

【0080】
メソ連結亜鉛錯体8はイミダゾリルポルフィリン構造を持つので,従来のイミダゾリルポルフィリンと同様,非極性溶媒中で相補的な自己組織化を行い,8の二量体(8−dimer)を形成する。イミダゾリルポルフィリン亜鉛錯体の自己組織化反応の平衡定数は非常に大きく,クロロホルム中では1010−1におよぶ.クロロホルム中の吸収スペクトルを図1に示す。ソレー帯が413,433nmと2本に分裂しブロード化しているのは,イミダゾリルポルフィリン亜鉛錯体が自己組織化し二量体を形成する際に示す特徴的な吸収である。(文献参照:Kobuke,Y.;Miyaji,H.J.Am.Chem.Soc.1994,116,4111−4112.)この特徴あるピークの存在から、メソ連結亜鉛錯体8がクロロホルム中で自己組織化し,8の二量体(8−dimer)を形成していることを示している。全く同様に、化合物6もクロロホルム中で8−dimerと同様な二量体構造を形成することが吸収スペクトルより確認された。
【0081】
<測定例1:ポルフィリンからフタロシアニンへ高効率のエネルギー移動及び電子移動>
(i)化合物6(HPc−ZnPor)と参照化合物10との比較
【化23】

【0082】
(測定方法)
化合物6−dimerのエネルギー移動および電子移動特性を調べるために、参照化合物としてフタロシアニン部位を持たない化合物10−dimerを合成し、トルエン中と塩化メチレン中での蛍光スペクトルを比較した。図2、図3に各溶媒におけるそれぞれの吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。蛍光スペクトルは、ほぼポルフィリンの吸収しかない波長である414nm付近を励起することによって測定した。参照化合物の濃度は同波長の吸光度が同じになるように調整した。
【0083】
(結果)
トルエン中では、6−dimerはポルフィリンからの発光がほぼ消失しフタロシアニンからの発光のみが見られる。このことから、ポルフィリンからフタロシアニンへの効率のよいエネルギー移動が起こっていることがわかる。一方、塩化メチレン中ではポルフィリン及びフタロシアニンの発光が共にほぼ消失しており、これらはポルフィリンからフタロシアニンへの効率のよい光励起電子移動が起こっていることを示している。さらに、トルエンと塩化メチレンの中間の誘電率を有するクロロホルム中で同様の測定を行なうと、フタロシアニンから中程度の発光が観測された。この結果は、励起されたポルフィリン種から、一部はフタロシアニンへのエネルギー移動がおこり、残りは電子移動が起こったと考えられる。これらの結果から、6−dimerは溶媒の誘電率に応じてエネルギー移動と電子移動が競争的に起こることが示された。
【0084】
<測定例2〜4>
上記測定例1と同様の方法でポルフィリンからフタロシアニンへ高効率のエネルギー移動及び電子移動を測定したところ、測定例1と同様な「溶媒変化と蛍光強度の関係」が他の化合物5,7,8にも見られた。
【0085】
<測定例5>
二光子吸収断面積の測定
二光子吸収断面積の測定はオープンZ−スキャン法によって行った(下記参考文献)。溶媒はトルエン(toluene)を用い、試料濃度は8(ZnPc−ZnPor)の二量体(本発明のポルフィリン/フタロシアニン四量体)が0.47mM、参照化合物の亜鉛テトラ−t−ブチルフタロシアニン(Zn−tetra−t−bu−PC)が18mMである。測定には1mmセルを用いた。5ナノ秒のパルス幅を持つQ−スイッチNd:YAGパルスレーザーを用い(入射光は35mW以下、繰り返しは10Hz)、焦点(レンズの焦点距離は100mm)の前後を40mmスキャンして行った。測定間隔は1mmとした。波長は光学パラメトリックオシレーター(OPO)により780nmから1300nmまで変化させた。二光子吸収断面σ(2)は次式から得た。
【0086】
σ(2)=hνβ/N (1)
ここでhνは光子エネルギー、Nは分子数密度、σ(2)は二光子吸収係数であり以下の関係がある。
【0087】
q=βIL (2)
ここでパタメーターqは二光子吸光度に対応しオープンZ−スキャンカーブをガウシアン型の式でフィッティングすることにより得られ、Iは入射光強度である(測定方法と解析方法は下記の文献を参考とする)。
【0088】
(IEEE.J.Quant.Electron.26,760,(1990),Handbook of Nonlinear Optics,Marcel Dekker,New York(1996).)
図4に上記方法で測定した8(ZnPc−ZnPor)の二量体の典型的なZ−scan曲線を示す。点が実測で実線がガウシアン型の式でフィッティングした曲線である。レーザーパワーは33mWで波長は830nmである。
【0089】
図5に上記方法で測定した8(ZnPc−ZnPor)の二量体の二光子吸収スペクトルを示した。図5の挿入図は同様に測定した比較化合物Zn−tetra−t−bu−PCの二光子吸収スペクトルである。
【0090】
スペクトルの縦軸は二光子吸収断面積、σ(2)でその単位1GMは1x10−50cmsphoton−1に相当する。二光子吸収断面積の最大は8の二量体では36800GM(820nm)であったのに対してZn−tetra−t−bu−PCでは288GM(840nm)であり約128倍もの増大が見られた。フタロシアニンとポルフィリンを直接連結することで分子全体の分極が大きくなり二光子吸収の遷移確率が向上したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の式(A−1)で表される二量体及び式(A−2)で表される四量体は、光電変換素子(非特許文献10及び特許文献2参照)、及び三次の非線形光学材料への応用が期待される(非特許文献11及び特許文献3参照)。より具体的には、本発明の式(A−1)で表される二量体及び式(A−2)で表される四量体は、特許文献4(特開2004−266100)と特許文献5(特開2004−137273)に記載されるとおり、ポリマー末端分子として利用可能である。また、本発明の二量体及び四量体は、上記測定例1に記載されるとおり、ポルフィリンを励起してフタロシアニンからの発光が観測されることを利用して、蛍光プローブとして利用可能であり、この効率は、非特許文献6に述べられている化合物よりも高い。加えて、本発明の二量体及び四量体は、特許文献4(特開2004−266100)で述べた方法を用いてポルフィリン多量体の末端に導入すると、電子移動が可能になるため、光電変換材料として利用可能である。更に、本発明の二量体及び四量体は、上記測定例5に記載されるとおり、二光子吸収断面積の大きい材料であるため、二光子吸収材料(非線形光学特性の1つ)として利用可能であり、これは、腫瘍の光線力学療法、3次元メモリー、光スイッチなどに応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)次の式(A−1)で表されるポルフィリン/フタロシアニン二量体。
【化24】

式中、R、R及びRは、互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基又はアルキルオキシ基を表し;M及びMは、互いに同じでも異なっていてもよく、プロトン二個又は2価若しくは3価の金属イオンを表し;Xは、単結合又はアルキレン基を表し;Xは、−O−、−S−、>NR101(ここで、R101は、Hまたはアルキル基を表わす。)、CHまたは単結合を表し;Yは、2H、=O又は=Sを表し;mは、0ないし4の整数を表し;Zは、5員若しくは6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基を表わす。ただし、複数の同一文字により表される置換基は、同じであっても異なっていてもよい。
【請求項2】
、R及びRで表されるアルキル基又はアルキルオキシ基の炭素数が1〜20であり;M及びMで表される2価又は3価の金属イオンが、典型金属又は遷移金属であり;Xで表されるアルキレン基の炭素数が、1〜6であり;Zで表される5員若しくは6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基が、アルキル置換若しくは無置換のイミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基又はピリジル基である請求項1に記載のポルフィリン/フタロシアニン二量体。
【請求項3】
前記典型金属が、Mg、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb及びBiからなる群から選択され、前記遷移金属が、Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される、請求項2に記載のポルフィリン/フタロシアニン二量体。
【請求項4】
次の式(A−2)で表されるポルフィリン/フタロシアニン四量体。
【化25】

式中、R、R、R、M、M、X、X、Y、Z及びmは、上記(1)の式(A−1)において規定したとおり。ただし、Mは、二個のプロトンではない。
【請求項5】
、R及びRで表されるアルキル基又はアルキルオキシ基の炭素数が1〜20であり;M及びMで表される2価又は3価の金属イオンが、典型金属又は遷移金属であり;Xで表されるアルキレン基の炭素数が、1〜6であり;Zで表される5員若しくは6員の含窒素配位性ヘテロ芳香族環基が、アルキル置換若しくは無置換のイミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基又はピリジル基である請求項4に記載のポルフィリン/フタロシアニン四量体。
【請求項6】
前記典型金属が、Mg、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb及びBiからなる群から選択され、前記遷移金属が、Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される請求項5に記載のポルフィリン/フタロシアニン四量体。
【請求項7】
次の式(A−5)
【化26】

(式中、各置換基は、請求項1の式(A−1)で規定したとおり。)で表されるフタロシアニンアルデヒドを有機溶媒存在下に、次の式(A−6)
【化27】

(式中、各置換基は、請求項1の式(A−1)で規定した通り。)で表されるジピロール化合物と反応させた後に、Z−CHO(Zは、請求項1の式(A−1)で規定したとおり。)で表されるアルデヒドと反応させた後、Mが二個のプロトン以外の金属イオンの場合には、ポルリフィン環の中心金属として、Mを導入することを特徴とする、請求項1に記載の式(A−1)で表されるフタロシアニン/ポルフィリン二量体の製造方法。
【請求項8】
式(A−1)(各置換基は、請求項1の式(A−1)で規定したとおり。ただし、Mは、二個のプロトンではない。)で表されるフタロシアニン/ポルフィリン二量体を非極性溶媒中で自己組織化させることを特徴とする請求項4に記載の式(A−2)で表されるポルフィリン/フタロシアニン四量体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/054248
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515944(P2005−515944)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017865
【国際出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】