説明

−LIT型合成アルミノシリケート、−LIT型メタロシリケート及びその製造方法

【課題】−LIT型合成アルミノシリケート、−LIT型メタロシリケート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】合成された−LIT型アルミノシリケートであって、SiO/Alモル比が4−7、KO/Alモル比が1−3の組成範囲であり、且つリソサイト(lithosite,−LIT)型構造を有する−LIT型アルミノシリケート、及び前記の−LIT型アルミノシリケートが、合成された−LIT型メタロシリケートであって、少なくともCo及びNiの遷移金属を含有する−LIT型アルミノシリケート、及びそれら製造方法。
【効果】新規組成の−LIT型合成アルミノシリケート及び−LIT型合成メタロシリケートとその新規合成技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、今まで天然物では報告があっても、合成物では報告されたことはなかったゼオライトの一種であるリソサイト(lithosite,−LIT)型アルミノシリケート、−LIT型メタロシリケートおよびその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、アルコール溶媒を使用する以外は、有機構造規定剤を何ら添加すること無く、−LIT型アルミノシリケート及び−LIT型メタロシリケートを多量に製造することを可能とする新規な−LIT型アルミノシリケート及び−LIT型メタロシリケートの製造方法とその新規組成の−LIT型合成ゼオライト及び−LIT型メタロシリケート製品に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、触媒や吸着分離剤等として広く工業的に利用されているハイシリカゼオライトをはじめとする種々の新規合成ゼオライトの技術分野において、しばしば必要とされるような特殊な有機構造規定剤を添加することも無く、比較的短時間に、無撹拌で、多量の、新規組成の−LIT型アルミノシリケート及び−LIT型メタロシリケートを製造できる技術を提供するものであり、本発明は、例えば、分離・吸着剤、有機合成用触媒等に用いることのできる−LIT型アルミノシリケート及び−LIT型メタロシリケートに関する新製品・新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
本発明に係わるリソサイトは、KHAlSi13の化学式で表され、天然では1983年にロシア(旧ソ連)北部のムルマンスク(MURMANSK)で学術調査のために行なわれたコラ半島超深度掘削坑で地殻深部から産出が報告された準長石の一種であるが、天然での産出も合成も外に報告がない。準長石(feldspathoid)は、長石に似ているが、長石に比べてSiOが少ない岩石に含まれ、石英等のSiO鉱物とは共存しない。1986年の構造解析によって、構造中に水分子が入るスペースを有していることが分かり、国際鉱物学連合(IZA)から、ゼオライトの一種として、2005年に、Framework Type Code(FTC)として−LITの3文字コードが付与された。
【0004】
ゼオライトの基本構造は、硅素を中心として4つの酸素が頂点に配位したSiO−4面体と、この硅素の代わりに、アルミニウムを中心としたAlO−4面体とがO/(Si,Al)=2となるように酸素を共有して規則正しく3次元的に配列したものである。この3次元の配列によって、数オングストロームサイズの細孔が生じている。AlO−4面体の負電荷は、この細孔に含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属の陽イオンによって中和されている。
【0005】
リソサイトの構造は、上記のSiO−4面体と、この硅素の代わりにアルミニウムを中心としたAlO−4面体とが規則的な周期でつながった鎖状構造が、更に、シリカとアルミニウムの4面体が向き合う部分でのみ4面体の頂点を共有しており、シリカ4面体同士は、水素を間に挟んで離れている。アルミナは、全て4配位、シリカは、全てQ3の結合を有している。
【0006】
このアルミナの部分を全てシリカで置き換えると、カリウムを層間に挟んだポリシリケートの構造が得られる。これは、KHSiの構造である(非特許文献1)。見方を変えれば、KHSiの鎖状構造のシリカがアルミナに置換されることによって、層間のカリウムを囲むような環状構造が得られることになる。
【0007】
これと類似の構造バリエーションを有するものに、チタン酸カリウムが有る。これは、TiO鎖とカリウムの比で、構造が鎖状、シート状からトンネル状に変化することが知られている(非特許文献2)。また、チタン酸の多形関係で、ブルッカイト構造の形成過程において、NaOH/TiOの比が高いと結晶化初期に層状構造が得られ、水熱合成時間に従って生成物からNaが抜けていき、ブルッカイト構造をとること、更に、反応が進むとアナタース構造の割合が高くなること、また、最初からNaOH濃度が低い条件下では、ブルッカイトが得られないことが分かっている(非特許文献3)。
【0008】
このような、高アルカリ条件下でのゼオライトの合成では、結晶化の反応速度がゆっくりとなり、骨格が1次元、2次元の構造から、3次元構造へと変化する過程で、中間的に様々な環状構造が得られるものと考えられる。ゼオライトのNa−Al−Si系の水熱合成においても、初期にポリシリケートやスメクタイトが得られる条件で、合成反応時間が進むに連れて、細孔径が比較的大きなフォージャサイト(FAU型)やフィリップサイト(PHI型)から孔の小さいアナルサイム(ANA型)、孔のないソーダライト(SOD型)と、得られる結晶相が変化する。
【0009】
ゼオライトを、触媒や吸着分離剤として使用する際には、前述の細孔の内部を利用して、分子の吸着や反応を行うことになる。つまり、この細孔の形状やサイズの種類を変えた新規ゼオライトを得ることによって、異なる触媒能、分離能を得ることが期待される。このため、近年、有機構造規定剤と総称されるアルキルアンモニウム塩等の有機添加物を合成の際に添加し、種々の新規ゼオライトが合成されてきたが、これらの有機構造規定剤は、高価であり、また、合成後のゼオライトの細孔がこれらによって塞がれるため、細孔を利用するために、500−600℃での焼成を長時間行わなければならず、これらの手法は、コスト上の問題から、工業的にはあまり利用されていない。
【0010】
一方、アルコール中でのゼオライト合成は、ソルボサーマル法として研究が盛んであり、通常は、メタノール、エタノール、ペンタノール、ブタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等が溶媒として用いられる。例えば、エチレングリコール溶媒中、Na−Al−Si系の合成で、溶媒中に水の混入量を増していくと、水中のシリカ濃度が上がって石英が晶出するような条件でも、水の混入がわずかであれば、ソーダライトの結晶化がゆっくりと進み、180℃で、3−4週間かけて比較的大型の単結晶が得られることが報告されている(非特許文献4)。
【0011】
このように、ソルボサーマル法の効果としては、溶媒の極性の低さや粘性の高さによって、一旦、結晶化したものの、再結晶化や溶液からの結晶化速度が遅くなり、比較的大きな単結晶が得られるといったことが挙げられている(非特許文献5)。
【0012】
また、既存のゼオライトやポリシリケートの構造を部材(前駆体)としたゼオライト合成も試みられており、フォージャサイトやMFI型ゼオライト、ポリシリケートを出発として、チャバサイト(CHA型)(特許文献1),ZSM−22(MTW型),MCM,CDO型(非特許文献6)等の合成が報告されている。
【0013】
このようにして、これまでに194種のゼオライトの構造が登録され、多くのものが合成で得られてきた。しかし、リソサイトの合成に関しては、これまでに全く報告がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4503024号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Y.A.Malinovskii and N.V.Belov,Dokl.Akad.Nauk SSSR 246(1979)99
【非特許文献2】J.Lee,et.al.,J.Mater.Sci.31(1996)5493−5498
【非特許文献3】T.Nagase,et.al.,Chem.Lett.1999,911−912
【非特許文献4】X.Yang et.al.“Solvothermal synthesis of germanosilicate−sodalite and silica−sodalite:Effects of water,germanium and fluoride”,Micropor.Mesopor.Mater.100(2007)95−102
【非特許文献5】Z.A.D.Lethbridge,et al.“Method for the synthesis of large crystals of silicate zeolites”,Micropor.Mesopor.Mater.79(2005)339−352
【非特許文献6】T.Ikeda,et.al.,Angew.Chem.Int.Ed.,43,(2004)4892−4896
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、−LIT型アルミノシリケートが得られる合成方法について鋭意研究及び検討する過程で、アルコール中で水酸化カリウムからカリウムエトキサイドが形成されること、エトキサイドによってゼオライト骨格が部分的に切断されて、一部がパーツ状に残されること、また、エトキサイドがシリカと反応することによって、Si−CH−Siの結合が生じ、これが新しく形成される構造に取り込まれ、Si−OとAl−O結合長さの違いから生じる構造の非対称性を緩和することなどを見出し、更に、その結果、出発物質となるゼオライトの構造を部材として元来は結晶化させにくく、且つ取り出しにくい中間体的な構造を持った準長石が結晶化しやすいことを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、−LIT型合成ゼオライト及び−LIT型メタロシリケートの製造方法とその新規組成の−LIT型合成ゼオライト及び−LIT型メタロシリケート製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)合成されたアルミノシリケートであって、SiO/Alモル比が4−7、KO/Alモル比が1−3の組成範囲であり、且つリソサイト(lithosite,−LIT)型構造を有することを特徴とする−LIT型アルミノシリケート。
(2)前記(1)に記載の−LIT型アルミノシリケートを合成する方法であって、出発物質のH型もしくはアンモニウム型のフォージャサイト、チャバサイト、又はフィリップサイト構造のゼオライトを水酸化カルシウムと共にアルコール中で加熱処理することにより、上記−LIT型アルミノシリケートを合成することを特徴とする−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
(3)出発物質のH型もしくはアンモニウム型のフォージャサイト、チャバサイト、又はフィリップサイト構造のゼオライトの組成が、モル比で、下記の範囲、SiO/Al=4−7、KO/Al=1−3である、前記(2)に記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
(4)加熱中、無撹拌の条件で合成を行なう、前記(2)又は(3)に記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
(5)合成温度が、170−300℃である、前記(2)−(4)のいずれかに記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
(6)200−250℃、15−120時間の条件下で、所定の高温で短時間の合成を行う、前記(2)−(5)のいずれかに記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
(7)−LIT型アルミノシリケートが、合成された−LIT型メタロシリケートであって、少なくともCo及び/又はNiの遷移金属を含有する、前記(1)に記載の−LIT型アルミノシリケート。
(8)−LIT型アルミノシリケートの製造方法において、出発物質のH型もしくはアンモニウム型のフォージャサイト、チャバサイト、又はフィリップサイト構造のゼオライトを、遷移金属イオンの水溶液中に分散してイオン交換し、濾過乾燥したものを出発物質として用いて−LIT型メタロシリケートを合成する、前記(2)−(6)のいずれかに記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の−LIT型アルミノシリケートの製造方法は、上述のように、一定組成範囲のゼオライト、もしくはシリカ成分、アルミニウム成分からなる均一混合相沈殿物である含水酸化物を、水酸化カリウム溶液とアルコール溶媒中にて混合・加熱合成し、−LIT型アルミノシリケートを得ることを特徴とするものである。以下の表1に、−LIT型アルミノシリケート合成過程における原料の処理条件と生成物の関係を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
本発明の方法において、出発原料としては、SiO/Al比が原子比で4−7のH型もしくはアンモニウム型にイオン交換された合成アルミノシリケートであるフォージャサイト、チャバサイト、フィリップサイト等が用いられる。SiO/Al比がこれよりも高くなると、ポリシリケートのKHSiが得られる。また、SiO/Al比がこれより低くなると、KAlSiOの多形が得られる。未乾燥の含水酸化物ゲルの出発原料では、LTL型ゼオライト等の水熱合成で結晶化しやすいゼオライトが得られ、乾燥ゲルではKOHをフォージャサイトの出発原料の場合とモル比が等しくなるように混入すると、アモルファスに近いカルシライト(kalsilite:KAlSiO)やその多形が得られる。これよりKOHの添加量を減少させると、結晶化にかかる時間が長くなりすぎる。
【0021】
本発明の出発原料として、前述の合成アルミノシリケートを予め遷移金属イオンを含む水溶液中に分散してイオン交換を行ない、その後に乾燥させたものを合成用スラリーの調製に用いると、これらの遷移金属を含有する−LIT型メタロシリケートが合成される。このとき、前述のようにSiO/Al比が適切ではないと、遷移金属を含むKHSiやKAlSiOのように別構造のシリケートが合成される。
【0022】
本発明の出発物質となるスラリーの調製方法としては、水酸化カリウムをアルコール溶媒中に入れて完全に溶かし、前述のフォージャサイト粉末を分散して、1時間以上、好適には3−5時間撹拌して作製する。この撹拌中に原料となるゼオライトの構造が切断され部材化されるため、もとのゼオライトの構造が残っていると混晶になり易い。このときの水酸化カリウム濃度はKO/Al=1−3であり、好適にはKO/Al=1.5−2.5である。これよりもカリウム濃度が高くなると、カルシライトが晶出する。
【0023】
カリウムに替わって、他のアルカリ水酸化物を反応させると、得られる結晶相が異なってしまう。例えば、水酸化ナトリウムを用いて得られるゼオライトは、ソーダライトである。また、セシウムではポルーサイトができる。アルコール溶媒としては、エタノール、メタノール、エチレングリコール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール等が好適に用いられる。
【0024】
合成温度は、170−300℃であり、好適には200−250℃である。合成時間は、15時間から数日間、好適には15−120時間と、合成温度や出発物質の組成によって異なり、SiO/Al比が高い場合は、SiO/Al比が低い場合に比較して、250℃でも7−8時間長くなる。
【0025】
合成は、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス小型反応容器等の密閉型反応容器に入れて、通常のオーブンや恒温槽もしくはオートクレーブ内で、自生圧下にて行うことができる。水熱処理中、全く撹拌の必要はないが、撹拌しても差し支えない。所定時間反応後、固液分離して、−LIT型アルミノシリケートが得られる。
【0026】
天然リソサイトの組成範囲は、Si/Alモル比が2.00−2.08であり、本発明の合成リソサイトの組成範囲は、これと相違している。
【0027】
更に、本発明の−LIT型メタロシリケートは、構造中にコバルト、ニッケルを含有しており、天然リソサイトと全く相違している。本発明による−LIT型アルミノシリケート、及びメタロシリケートの構造は、例えば、X線回折、電子顕微鏡観察によって評価することができる。
【0028】
本発明により、出発物質のH型フォージャサイト粉末を水酸化カルシウムと共にアルコール中で200−250℃、15−120時間の条件下で加熱処理することにより、SiO/Alモル比が4−7、KO/Alモル比が1−3の組成範囲であり、且つ−LIT型構造を有する−LIT型アルミノシリケートを合成し、提供することができる。また、モル%で1%以上の遷移金属元素を構造中に含む−LIT型メタロシリケートを合成し、提供することもできる。本発明の−LIT型合成ゼオライトは、例えば、分離・吸着剤、有機合成用触媒等として有用である。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)短時間に、良好な結晶性を有する−LIT型アルミノシリケート及びメタロシリケートを、有機構造規定剤を何ら添加すること無く製造することができる。
(2)比較的短時間に、無撹拌で、多量の、新規な−LIT型アルミノシリケート及びメタロシリケートを製造することができる。
(3)上記合成−LIT型アルミノシリケート及びメタロシリケートは、分離・吸着剤、有機合成用触媒等として有用である。
(4)SiO/Alモル比が4−7である合成−LIT型アルミノシリケート、メタロシリケート及びその合成方法を提供することができる。
(5)本発明の合成−LIT型アルミノシリケート及びメタロシリケートは、例えば、分離・吸着剤、有機合成用触媒等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1、2、及び5で得られた−LIT型アルミノシリケートの粉末X線回折パターンである。
【図2】実施例1で得られた−LIT型アルミノシリケートの粉末X線回折パターンとリートベルト解析の結果である。
【図3】実施例1、及び5で得られた−LIT型アルミノシリケートの走査型電子顕微鏡写真とEDXスペクトル図である。
【図4】本発明の−LIT型合成ゼオライトの結晶構造モデルである。
【図5】本発明の−LIT型合成ゼオライトのTG−DTA曲線である。
【図6】実施例7、8、9、及び12で得られた−LIT型アルミノシリケートの粉末X線回折パターンである。
【図7】実施例7、及び8で用いられたゼオライト原料と、得られた−LIT型アルミノシリケートの走査型電子顕微鏡写真である。(左上)実施例7の原料(CHA)のチャバサイト粒子、(右上)実施例7の−LIT型アルミノシリケート、(左下)実施例8の原料(PHI)のフィリップサイト粒子、(右下)実施例8の−LIT型アルミノシリケート。
【図8】本発明の−LIT型メタロシリケート(実施例9のコバルトリソサイト)のSEM像及びEDXスペクトルである。
【図9】実施例10の−LIT型CoメタロシリケートのNiイオン交換処理後のSEM像及びEDXスペクトル(左)、及び実施例12の−LIT型メタロシリケートのSEM像及びEDXスペクトル(右)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
エタノール(和光特級99.5%)112.5mLに水酸化カリウム(和光特級85%)6.075g(0.11モル相当分)を溶解した後、更に、H型合成フォージャサイト(東ソー製HSZ320−HOA、SiO/Al=5.5)12.5gを加えて、1時間、室温にて撹拌した。テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器内で、自然圧下、200℃、72時間、恒温槽中で加熱した後、室温まで冷却した。固形物を濾過し、これを65℃の空気中で乾燥した。
【0033】
この生成物は、図1及び図2に示すように、リソサイトの粉末X線回折パターンとリートベルト解析の結果を与えた。電子顕微鏡観察によると、図3に示すように、生成物粒子は、細長い板状の結晶粒子で、その長さは6μm長前後、幅は1.8μm前後であった。図4に、その結晶構造モデル、及びTG−DTA曲線を示す。これらから、このゼオライトの構造は、700℃前後までは安定であることが分かる。SEM−EDXによる組成分析によると、KO:Al:SiOの組成比は、2.4:1:5.4であった。
【実施例2】
【0034】
実施例1において、250℃、15時間、恒温槽中で加熱する他は、実施例1と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。SEM−EDXによる組成分析によると、KO:Al:SiOの組成比は、2.1:1:5.3であった。
【実施例3】
【0035】
実施例2において、エタノールの代わりにメタノール(和光特級)を使用する他は、実施例2と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターン、及び化学組成を示し、−LIT型アルミノシリケートであった。
【実施例4】
【0036】
実施例2において、250℃、22時間恒温槽中で加熱する他は、実施例2と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1−3と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。
【実施例5】
【0037】
実施例4において、用いるフォージャサイトの組成を変えて、SiO/Al=5.5(東ソーHSZ−320HOA)の代わりにSiO/Al=6.3(東ソーHSZ−330HUA)12.5gを使用する他は、実施例4と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1−4と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。
【0038】
電子顕微鏡観察によると、生成物粒子は、細長い板状の結晶粒子で、長さは2−6μm長前後、幅は1μm前後であった。SEM−EDXによる組成分析の結果、KO:Al:SiOの組成比は、2.6:1:6.7であった。
【実施例6】
【0039】
実施例4における試薬添加量を半量にして、エタノール56.25mLに水酸化カリウム3.04gを溶解した後、H型合成フォージャサイト(東ソー製HSZ330−HOA)6.25gを加える他は、実施例4と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1−5と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。
【実施例7】
【0040】
実施例6において、H型合成フォージャサイトの代わりに予め炭酸アンモニウム溶液でイオン交換したアンモニウム型チャバサイト(SiO/Al=5.5)6.25gを加え、200℃、120時間、恒温槽中で加熱する他は、実施例6と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1−6と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。
【実施例8】
【0041】
実施例7において、エタノール36.0mLに水酸化カリウム1.95gを溶解した後、アンモニウム型チャバサイトの代わりに、同様にイオン交換でアンモニウム型にしたフィリップサイト(SiO/Al=5.5)3.98gを加え、室温で5時間撹拌する他は、実施例7と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1−7と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。
【実施例9】
【0042】
硫酸コバルト7水和物(Co SO・7HO)0.7gを蒸留水50mLに溶解し、得られた溶液に5gのH型合成フォージャサイト(Tosoh 320HOA)を分散、一晩撹拌した後、濾過、乾燥して、Coイオン交換を行なった。このCoフォージャサイトは、薄桃色に着色し、Coが二価イオンの形でイオン交換サイトに存在することが示唆された。イオン交換後の組成は、SEM−EDXによる分析では、原子比でNa:Al:Co:Si:O=1.3:8.4:3.1:23.6:63:6であり、質量比で8.6%のCo含有量であった。
【0043】
エタノール40.5mLに水酸化カリウム2.18gを溶解した中に、イオン交換後・乾燥済のCo型フォージャサイト粉末4.48gを加える他は、実施例7と同様の操作を行なって、生成物を得た。この生成物については、実施例1−8と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、Co酸化物やその外の不純物のピークは見つけられなかった。得られた−LIT型Coメタロシリケートは、青色を呈しており、Coが3価の状態で骨格に結合していることが示唆された。SEM−EDXによる組成分析では、Al:SiOの組成比は、原子比で5.7、Co:Alは0.2であった。
【実施例10】
【0044】
硫酸ニッケル6水和物(NiSO・6H0)12.5gを蒸留水25mLに溶解し、得られた溶液に実施例9の−LIT型Coメタロシリケート0.2gを分散し、一晩撹拌した後、濾過、乾燥して、Coがイオン交換されるかを調べた。濾過・乾燥後の試料のSEM−EDXによる組成分析では、Niは検出されず、Co:Alの組成比は、原子比で0.2であり、Co含有比に減少は認められなかった。このため、Coは、イオン交換されない形で−LIT型メタロシリケート中に存在していると考えられた。
【実施例11】
【0045】
硫酸ニッケル6水和物(NiSO・6H0)0.11gを蒸留水100mLに溶解し、得られた溶液に5gのH型合成フォージャサイト(Tosoh 320HOA)を分散し、一晩撹拌した後、濾過、乾燥して、Niイオン交換を行なった。このNiフォージャサイトは、薄緑色に着色し、Niが二価イオンの形でイオン交換サイトに存在することが示唆された。エタノール40.5mLに水酸化カリウム2.18gを溶解した中に、乾燥済Ni型フォージャサイト粉末の回収分全量4.52gを加える他は、実施例7と同様の操作を行なって、生成物を得た。
【0046】
この生成物については、実施例1−10と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。また、Ni酸化物やその外の不純物のピークは見つけられなかった。SEMEDXによる組成分析では、Al:SiOの組成比は、原子比で6.1、NiO:Alの組成比は0.1であった。
【実施例12】
【0047】
硫酸ニッケル6水和物(NiSO・6H0)25gを蒸留水50mLに溶解し、得られた溶液に5gのH型合成フォージャサイト(Tosoh 320HOA)を分散し、一晩撹拌した後、濾過、乾燥して、Niイオン交換を行なった。エタノール32.8mLに水酸化カリウム1.75gを溶解した中に、乾燥済Ni型フォージャサイト粉末3.64gを加える他は、実施例7と同様の操作を行なって、生成物を得た。
【0048】
この生成物については、実施例1−11と同様に、リソサイトの粉末X線回折パターンを示し、−LIT型アルミノシリケートであった。また、Ni酸化物やその外の不純物のピークは見つけられなかった。SEM−EDXによる組成分析では、Al:SiOの組成比は、原子比で6.6、NiO:Alの組成比は2.3であった。
【0049】
比較例1
実施例1において、水酸化カリウムの代わりに、水酸化ナトリウム(和光特級)4.33g(0.11モル相当分)をエタノールに溶かす他は、実施例1と同様に、フォージャサイトと一緒に撹拌し、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器内で、自然圧下、200℃、72時間、恒温槽中で加熱した後、室温まで冷却した。固形物を濾過し、これを、65℃の空気中で乾燥した。この生成物は、ソーダライトの粉末X線回折パターンを与えた。
【0050】
比較例2
実施例1において、水酸化カリウムのみ2倍量になる12.15gをエタノールに溶かす他は、実施例1と同様に、フォージャサイトと一緒に撹拌し、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器内で、自然圧下、200℃、72時間、恒温槽中で加熱した。冷却・濾過し、これを、65℃の空気中で乾燥した。この生成物は、カルシライトの粉末X線回折パターンを与えた。
【0051】
比較例3
実施例1において、自然圧下、200℃で、2時間、恒温槽中で加熱する他は、実施例1と同様の操作を行ない、粉末状の生成物を得た。この生成物は、粉末X線回折パターンによると、アモルファスであった。
【0052】
比較例4
実施例2において、用いるフォージャサイトの組成を変えて、SiO/Al=5.5(東ソ−HSZ−320HOA)の代わりに、SiO/Al=14(東ソ−HSZ−360HUA)12.5gを使用する他は、実施例1と同様に、原料を撹拌し、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器内で、自然圧下、200℃、7日間、恒温槽中で加熱、室温まで冷却し、濾過後に、65℃の空気中で乾燥した。生成物は、粉末X線回折パターンによると、ポリシリケートの一種で、2次元のシート構造を有するKHSiのパターンを与えた。
【0053】
比較例5
塩化アルミニウム6水和物(和光特級)13.5gを(0.056モル分)を水溶液にして撹拌し、コロイダルシリカ(触媒化成製、SI30、NaO 0.38wt%、SiO 30wt%)30.6gを滴下してから、アンモニアを20g滴下して含水酸化物を作製した。アンモニア臭が抜けるまで数回にわたって水洗浄、脱水後、エタノールでも数回洗浄を行なって、ろ過した。
【0054】
これを、未乾燥の状態で、全量、エタノール100gに分散したところ、エタノールを含めて溶液の重量は195gとなった。これを、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器内で、自然圧下、200℃、5日間、恒温槽中で加熱した後、室温まで冷却した。固形物を濾過し、これを、65℃の空気中で乾燥した。この生成物は、LTL型ゼオライトの粉末X線回折パターンを与えた。
【0055】
比較例6
比較例5と同様にして、含水酸化物を作製した。水酸化カルシウム3.04gを溶かしたエタノール56.25gに、乾燥した含水酸化物粉末を半量分散させ、室温にて一晩撹拌してスラリーとした。これを、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器内で、自然圧下、250℃、21時間、恒温槽中で加熱した後、室温まで冷却した。固形物を濾過し、これを、65℃の空気中で乾燥した。この生成物は、カルシライトの粉末X線回折パターンを与えた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上詳述したように、本発明は、合成された−LIT型アルミノシリケート、−LIT型メタロシリケート及びその製造方法とその製品に係るものであり、本発明により、短時間に、良好な結晶性を有するLIT型シリケートを、有機構造規定剤を何ら添加すること無く製造することができる。本発明は、例えば、分離・吸着剤、イオン交換剤、有機合成用触媒等に用いることのできる−LIT型合成ゼオライトを提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成されたアルミノシリケートであって、SiO/Alモル比が4−7、KO/Alモル比が1−3の組成範囲であり、且つリソサイト(lithosite,−LIT)型構造を有することを特徴とする−LIT型アルミノシリケート。
【請求項2】
請求項1に記載の−LIT型アルミノシリケートを合成する方法であって、出発物質のH型もしくはアンモニウム型のフォージャサイト、チャバサイト、又はフィリップサイト構造のゼオライトを水酸化カルシウムと共にアルコール中で加熱処理することにより、上記−LIT型アルミノシリケートを合成することを特徴とする−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
【請求項3】
出発物質のH型もしくはアンモニウム型のフォージャサイト、チャバサイト、又はフィリップサイト構造のゼオライトの組成が、モル比で、下記の範囲、SiO/Al=4−7、KO/Al=1−3である、請求項2に記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
【請求項4】
加熱中、無撹拌の条件で合成を行なう、請求項2又は3に記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
【請求項5】
合成温度が、170−300℃である、請求項2−4のいずれかに記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
【請求項6】
200−250℃、15−120時間の条件下で、所定の高温で短時間の合成を行う、請求項2−5のいずれかに記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。
【請求項7】
−LIT型アルミノシリケートが、合成された−LIT型メタロシリケートであって、少なくともCo及び/又はNiの遷移金属を含有する、請求項1に記載の−LIT型アルミノシリケート。
【請求項8】
−LIT型アルミノシリケートの製造方法において、出発物質のH型もしくはアンモニウム型のフォージャサイト、チャバサイト、又はフィリップサイト構造のゼオライトを、遷移金属イオンの水溶液中に分散してイオン交換し、濾過乾燥したものを出発物質として用いて−LIT型メタロシリケートを合成する、請求項2−6のいずれかに記載の−LIT型アルミノシリケートの製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−12288(P2012−12288A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100089(P2011−100089)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】