説明

−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物の重水素化方法

【課題】 ベンジル基をアミノ基の保護基として導入した−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物を効率的且つ工業的に重水素化する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物を、パラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体及び水素の共存下、重水素源と反応させることを特徴とする、当該化合物の重水素化方法、の発明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物を重水素化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重水素化(ジュウテリウム化及びトリチウム化)された化合物は、種々の目的に有用であるとされている。例えば、ジュウテリウム化された化合物は、反応機構及び物質代謝などの解明に非常に有用であり、標識化合物として広く利用されており、更に該化合物は、その同位体効果によって化合物自体の安定性や性質が変化することから、医薬品、農薬品、有機EL材料等としても有用であるとされている。また、医薬品等の吸収、分布、血中濃度、排泄、代謝等を動物実験等で調査する際の標識化合物として有用であるとされている。そのため、近年、これらの分野に於いても重水素化(ジュウテリウム化及びトリチウム化)された化合物を用いた研究が盛んに行われている。
【0003】
一方、食品分析では、分析対象物と似た性質をもつ化合物(サロゲート)を用いた分析方法が用いられている。具体的には、例えばサロゲートの既知量を予め試料に添加し、前処理操作を行った後に得られたサロゲートの回収率からそれと同じだけの分析対象物が回収されたと判断する分析方法等である。この場合のサロゲートとしても、重水素化物が用いられる。
【0004】
例えばベンジルアミノプリン等の−N−ベンジル基を有するアデニン化合物は、アスパラガス、柑橘類等の農作物に影響を及ぼす食物成長調整剤として知られており、これらを分析する際にも、対応する重水素化物がサロゲートとして有用である。
【0005】
しかしながら、−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物の重水素化方法については、例えば基質の−N−ベンジル位が脱ベンジル化する、基質の重水素化率が低い等の問題から、効率的な重水素化方法は未だ見出されていなかった。
【0006】
また、本発明者等は、パラジウムカーボンを触媒として重水中、少量の水素ガス共存下、常温常圧下でベンジル位が選択的に重水素標識化されることを報告している(非特許文献1)。しかしながら、この反応を、還元性官能基である−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物(基質)に用いて当該基質の重水素化に利用した場合、ヘテロ環上の水素原子を重水素化することはできなかった。また、反応温度を上げた場合、パラジウムカーボンの高い水素化触媒活性により、−N−ベンジル基の水素化分解(脱ベンジル化)を併発するため、目的の重水素化物を生成することはできなかった。
【0007】
更に、本発明者等は、−O−ベンジル基を有する化合物の重水素化方法として、パラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体及び水素ガスの存在下、重水と反応させることにより、脱ベンジル化することなく、−O−ベンジル基のベンジル位を選択的に重水素化する方法を報告している(特許文献1)。しかしながら、この方法では、基質中のベンジル位水素以外の水素原子を重水素化することはできなかった。
【0008】
更にまた、本発明者等は、複素環の重水素化方法として、活性化させた、パラジウム触媒、白金触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、ニッケル触媒及びコバルト触媒より選ばれる触媒の存在下で複素環を重水と反応させることにより当該複素環を効率的に重水素化する方法を報告している(特許文献2)。しかしながら、当該複素環の具体例として−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物については開示はされていない。また、活性化させた触媒として具体的に開示されているのは、パラジウムカーボン及び白金カーボンである。
【0009】
このような状況下、−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物中の当該−N−ベンジル基が脱ベンジル化することなく、当該化合物を効率的に重水素化する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO2007/100080号公報
【特許文献2】国際公開第WO2004/046066号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Synlett 2002,1149-1151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した如き状況に鑑みなされたもので、アミノ基にベンジル基が導入された−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物を効率的且つ工業的に重水素化する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物を、パラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体及び水素の共存下、重水素源と反応させることを特徴とする、当該化合物の重水素化方法の発明である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の重水素化方法を利用して、還元性官能基である−N−ベンジル基が導入されたヘテロ環化合物の重水素化を行えば、触媒としてパラジウムカーボンを用いる従来法が有していた問題点、即ち、パラジウムカーボンの高い水素化触媒活性による−N−ベンジル基の水素化分解を併発するという問題点を有することなく、当該−N−ベンジル基が脱ベンジル化することなく当該化合物を効率よく重水素化することができる。
【0015】
また、本発明の重水素化方法では、即ち、触媒としてパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体を用いて水素ガスの存在下、基質と重水を反応させる場合には、基質が−O−ベンジル基を有する化合物である場合には、当該−O−ベンジル基のベンジル位のみが選択的に重水素化されるのに対して、基質が本発明に係る−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物である場合には、当該−N−ベンジル基のベンジル位だけでなく本発明に係る−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物中のヘテロ環上の水素原子も効率的に重水素化される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に於いて、重水素原子とはジュウテリウム(D)原子及び/又はトリチウム(T)原子のことを意味し、重水素化とはジュウテリウム化及び/又はトリチウム化のことを意味する。また、本明細書に於いて重水素化率とは、化合物中の全水素原子のうち重水素原子に置換された比率のことを意味する。
【0017】
本発明の重水素化方法に於いて、−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物とは、無置換又はモノ置換アミノ基を有するヘテロ環化合物(以下、「本発明に係るアミノ基含有ヘテロ環化合物」と略記する場合がある。)の当該アミノ基にベンジル基を導入することにより得られるものである。
【0018】
当該無置換又はモノ置換アミノ基を有するヘテロ環化合物のモノ置換アミノ基としては、アミノ基の1つの水素原子が、例えばN,N-ジメチルアミノエチル基、炭素数1〜3のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)、アリール基(例えばフェニル基、4-メトキシフェニル基等)等で置換されたものが挙げられる。
【0019】
本発明に係るアミノ基含有ヘテロ環の具体例としては、ヘテロ環上の少なくとも1つの炭素原子に無置換又はモノ置換アミノ基が結合される化合物が挙げられ、具体的には、例えばアデニン(6-アミノプリン)、2-アミノアデニン(2,6-ジアミノプリン)、2-メチルアデニン(2-メチル-6-アミノプリン)等のアデニン誘導体、例えばグアニン(2-アミノ-6-ヒドロキシプリン)、シトシン(4-アミノ-2-ヒドロキシピリミジン)、イソグアニン(2-ヒドロキシ-6-アミノプリン)、N,N-ジメチル-N'-2-ピリジニル-1,2-エタンジアミン(トリペレンアミンの脱ベンジル体)等が挙げられる。
【0020】
−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物としては、当該アミノ基含有ヘテロ環のアミノ基にベンジル基が導入されたものが挙げられ、具体的には、例えば6-ベンジルアミノプリン、2,6-ジベンジルアミノプリン、2-メチル-6-ベンジルアミノプリン等のアデニン誘導体、例えば2-ベンジルアミノ-6-ヒドロキシプリン(N−ベンジルグアニン)、4-ベンジルアミノ-2-ヒドロキシピリミジン(N−ベンジルシトシン)、2-ヒドロキシ-6-ベンジルアミノプリン(N−ベンジルイソグアニン)、トリペレンアミン等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物は、市販品を用いても常法により適宜合成されたものを用いてもよい。また、上記の如き無置換又はモノ置換アミノ基を有するヘテロ環化合物のアミノ基にベンジル基を導入することにより得られるものを使用してもよい。
【0022】
本発明の重水素化方法に於いて、使用される重水素源としては、例えば重水素化された溶媒等が挙げられ、具体的には、重水素がジュウテリウムである場合には、例えば重水(DO)、例えば重メタノール、重エタノール、重イソプロパノール、重ブタノール、重tert-ブタノール、重ペンタノール、重ヘキサノール、重ヘプタノール、重オクタノール、重ノナノール、重デカノール、重ウンデカノール、重ドデカノール等の重アルコール類、例えば重ギ酸、重酢酸、重プロピオン酸、重酪酸、重イソ酪酸、重吉草酸、重イソ吉草酸、重ピバル酸等の重カルボン酸類、例えば重アセトン、重メチルエチルケトン、重メチルイソブチルケトン、重ジエチルケトン、重ジプロピルケトン、重ジイソプロピルケトン、重ジブチルケトン等の重ケトン類、重ジメチルスルホキシド等の有機溶媒等が挙げられ、中でも重水、重アルコール類が好ましく、具体的には、重水、重メタノールが特に好ましいものとして挙げられる。尚、環境面や作業性を考慮すれば重水が好ましい。また、重水素がトリチウムの場合の重水素化された溶媒としては、例えば重水(TO)等が挙げられる。これらは単独で用いても、2つ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0023】
重水素化された溶媒は、分子中の一つ以上の水素原子が重水素化されているものであればよく、例えば重アルコール類ではヒドロキシル基の水素原子、重カルボン酸類ではカルボキシル基の水素原子が重水素化されていれば本発明の重水素化方法に使用し得るが、分子中の水素原子全てが重水素化されたものが特に好ましい。
【0024】
重水素源の使用量は、多い程本発明の重水素化が進みやすくなるが、経済的な面を考慮すると、重水素源に含まれる重水素原子の量が、本発明に係る−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物の重水素化可能な水素原子に対して、下限として順に好ましく、等モル、10倍モル、20倍モル、30倍モル、40倍モル、60倍モル、80倍モル、上限として順に好ましく、500倍モル、350倍モル、250倍モル、150倍モル、100倍モルとなるような量である。
【0025】
本発明の重水素化方法に於いては、必要に応じて反応溶媒を使用してもよく、当該反応溶媒としては、本発明の重水素化が反応系に於いて懸濁状態でもよいことから、基質を溶解し難いものも使用可能であるが、基質を溶解し易いものがより好ましい。
【0026】
必要に応じて用いられる反応溶媒の具体例としては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、オキシラン、1,4-ジオキサン、ジヒドロピラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール等のアルコール類、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸等のカルボン酸類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン等のケトン類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0027】
本発明の重水素化方法を実施する際、重水素化の反応容器の気層部分は、反応に必要な水素ガス(軽水素ガスでも重水素ガスでも何れも可能。以下同じ。)で置換することが望ましいが、水素ガスと例えば窒素、アルゴン等の不活性ガスとの混合気体で置換されていてもよい。
【0028】
本発明の重水素化方法に於いて用いられる水素ガスの使用量は、反応の基質として用いられる本発明に係る−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物に対して、下限として順に好ましく、等モル、10倍モル、20倍モル、30倍モル、上限として順に好ましく、100倍モル、40倍モルとなるような量である。
【0029】
尚、本発明の重水素化方法に於いては、反応容器を水素ガスが散逸しないように密封状態或いはそれに近い状態となるようにすることが好ましい。密封に近い状態とは、例えば所謂連続反応のように、反応基質が連続的に反応容器に投入され、連続的に生成物が取り出されるような場合等を含む。
【0030】
本発明の重水素化方法に於いて、触媒として使用されるパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体(以下、「Pd/C(en)」と略記する場合がある。)の使用量は、多い場合は目的物を高い重水素化率で得ることができるが、同時に副生成物の副生率も高くなるため、高い重水素化率を有し且つ副生成物の副成を抑制し得る量を適宜選択すればよく、基質の種類或いは基質中の該−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物の種類によって異なるが、該−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物(基質)に対して、通常所謂触媒量、次いで順に好ましく0.01〜200重量%、0.01〜150重量%、0.01〜100重量%、0.01〜50重量%、0.01〜20重量%、0.1〜20重量%、1〜20重量%、10〜20重量%となる量であり、また、該触媒全体に含まれる触媒金属量の上限が、順に好ましく20重量%、15重量%、10重量%、5重量%、2重量%であり、下限が、順に好ましく0.0005重量%、0.005重量%、0.05重量%、0.5重量%となる量である。
【0031】
当該パラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体は、本発明者等が開発したものであり、公知の方法(J. Org. Chem. 1998, 63, 7990-7992)により合成したものを用いてもよいし、市販されているもの(例えば和光純薬工業(株)製)を適宜用いてもよい。
【0032】
本発明の重水素化方法に於いて、反応系に、更に本発明に係るパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体(Pd/C(en))の触媒作用に対する被毒化剤(一般的に触媒毒物質ともいう。)を、通常は不要だが必要に応じて適宜添加してもよい。
【0033】
本発明の重水素化方法の反応温度は、下限が通常10℃から、順により好ましく20℃、40℃、50℃であり、上限が通常200℃から、順により好ましく180℃、100℃、60℃である。
【0034】
本発明の重水素化方法の反応時間は、通常30分〜120時間、好ましくは1〜100時間、より好ましくは10〜80時間、更に好ましくは12〜60時間である。
【0035】
本発明の重水素化方法について、以下に詳細に説明する。
【0036】
即ち、例えば、本発明に係る−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物(基質)1モル及び該基質に対して0.01〜200重量%のPd/C(en)を、該基質の重水素化可能な水素原子に対して1〜500倍モルの重水素原子が含まれるような量の重水素化された溶媒(例えば重水)に加え、密封した反応容器の気層部分を、基質に対して1〜40倍モル含有するよう水素ガスで置換した後、10〜200℃で約12〜60時間撹拌反応させることにより目的とする本発明に係る−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物の重水素化物が得られる。
【0037】
反応終了後、得られた生成物が重水素化された溶媒に可溶な場合は、反応液を濾過して触媒を除き、濾液を濃縮後、生成物を単離して例えば1H-NMR、2H-NMR、Massスペクトル等の測定をして構造解析を行う。また、生成物が重水素化された溶媒に難溶である場合は、反応液から生成物を単離してから例えば1H-NMR、2H-NMR、Massスペクトル等を測定して構造解析を行う。
【0038】
尚、生成物の反応液からの単離が困難な場合は、適当な内標準物質を用いて濾液をそのまま1H-NMRで測定し、生成物の構造解析を行えばよい。生成物が重水素化された溶媒に難溶な場合に、反応液から生成物を単離するには、例えば生成物が溶解する有機溶媒等により反応液から生成物を抽出し、更に濾過により触媒を除くといった公知の精製方法に従って精製を行えばよい。
【0039】
本発明の重水素化方法によれば、本発明に係る−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物中の当該−N−ベンジル基が水素化分解されることなく、当該−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物中の水素原子を高い重水素化率で効率的に重水素化させることができる。
【0040】
本発明により得られる−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物の重水素化物は、例えば対応する軽水素化物の農作物中の微量分析をする際のサロゲートとしても有用である。
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下の実施例で用いたPd/C(en)は、市販品(和光純薬工業(株)製;Pd含量5w/w%、エチレンジアミン含量5w/w%)であり、Pd/Cは、市販品(アルドリッチ社製;Pd含量10%)のものである。
【0043】
また、以下の実施例及び比較例に於ける重水素化率は以下のようにして求めている。
即ち、所定の反応終了後、反応液をエーテルで抽出して触媒を濾過し、濾液を減圧濃縮した後、1H-NMR、2H-NMR及びMassスペクトルを測定して構造解析を行い、反応基質が有する水素原子の重水素化率を求めた。尚、各表に於いて、各重水素化率は、各反応基質の構造式に付記された数字の位置にある水素原子の重水素化率を示す。
【0044】
実施例1〜2.6−ベンジルアミノプリンの重水素化

【0045】
※Bn=ベンジル位の(重)水素原子、Ph=ベンゼン環上の(重)水素原子
6−ベンジルアミノプリン(基質)0.5mmol及びこれに対して20wt%のPd/C(en)(本発明に係るパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体)(触媒)を重水1〜2mLに懸濁させ、系内を脱気した後バルーンを用いて反応液に軽水素ガス 60mL(封管の容量)を接触させ、系内を閉じた後、反応液を表1に示す所定の温度で24時間撹拌反応させた。反応終了後、得られた反応液にメタノール 3mLを添加し、メンブランフィルターを用いて触媒を濾去し、更に容器とフィルターをメタノール(3mL×2)で洗浄した。濾液を合わせて減圧濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロフィルム/メタノール=20/1)で精製し、これを1H-NMR及びMassスペクトル測定に用いて生成物の構造解析を行ったところ、目的とした重水素化物が得られた。その結果を表1に示す。
【0046】
比較例1〜5.
触媒として、実施例1で用いたパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体の代わりに、下記表1に記載した触媒を用いて、表1記載の所定の温度で行う以外は、実施例1と同様の反応を同様の操作で行った。その際の反応条件及び結果を表1に併せて示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から明らかな如く、触媒として本発明に係るパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体を用いて基質を重水素化した場合は、従来の触媒を用いた場合よりも基質を効率的に重水素化できることが判った(実施例1〜2)。特に反応温度180℃で行った場合は、基質中のヘテロ環上の水素原子及び基質中の−N−ベンジル基のベンジル位の水素原子を高い重水素化率で重水素化し得ることが判った。
【0049】
一方、比較例1〜2の結果から明らかなように、触媒としてパラジウムカーボンを用いた場合は、室温で反応を行った場合は基質のヘテロ環上の水素原子を重水素化することができず(比較例1)、110℃で反応を行った場合は−N−ベンジル基が脱ベンジル化してしまい、目的の重水素化物が得られない(比較例2)ことが判った。
【0050】
また、実施例1〜2及び比較例3〜5の結果から明らかなように、触媒として白金カーボンを用いた場合は、反応温度を上げると基質の重水素化率も上がるが(比較例3〜5)、本発明の重水素化方法、即ち触媒としてパラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体を用いた場合に比べると、重水素化率が低いことが判った(実施例1と比較例4、実施例2と比較例5)。
【0051】
以上のことから明らかな如く、本発明の重水素化方法によれば、−N−ベンジル基を有するヘテロ環化合物を脱ベンジル化させずに、効率的に重水素化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物を、パラジウムカーボン・エチレンジアミン複合体及び水素の共存下、重水素源と反応させることを特徴とする、当該化合物の重水素化方法。
【請求項2】
−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物が、無置換又はモノ置換アミノ基を有するヘテロ環化合物の該アミノ基がベンジル基で保護されたものである、請求項1に記載の重水素化方法。
【請求項3】
当該アミノ基を有するヘテロ環化合物が、アデニン、2-アミノアデニン、2-メチルアデニン、グアニン、シトシン、イソグアニン又はN,N-ジメチル-N'-2-ピリジニル-1,2-エタンジアミンである、請求項2に記載の重水素化方法。
【請求項4】
−N−ベンジル基含有ヘテロ環化合物が、6-ベンジルアミノプリン、2,6-ジベンジルアミノプリン、2-メチル-6-ベンジルアミノプリン、2-ベンジルアミノ-6-ヒドロキシプリン、4-ベンジルアミノ-2-ヒドロキシピリミジン、2-ヒドロキシ-6-ベンジルアミノプリン又はトリペレンアミンである、請求項1に記載の重水素化方法。
【請求項5】
重水素源が、重水素化された溶媒である、請求項1に記載の重水素化方法。
【請求項6】
重水素化された溶媒が、重水(DO)である、請求項5に記載の重水素化方法。

【公開番号】特開2011−16745(P2011−16745A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161315(P2009−161315)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】