説明

おから入りパン類の製造法

【課題】
本発明はおからを比較的多量に含み、かつもちもちとした食感の良い、弾力のあるパン類を提供することを目的とした。
【解決手段】
本発明はおから入りパン類を製造する工程において小麦粉原料に強力粉と最強力粉を併用することを特徴とするパン類の製造法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おからを比較的多量に含みながらも、もちもちとした食感を持ち、弾力に富むおから入りパン類を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者は食品に対してより健康志向を求める傾向にあり、パンの分野でもその傾向は顕著である。
そういった背景から、パンに入れる食材として食物繊維を多量に含み、高栄養価の食材として認知されているおからが以前より注目されていた。
一方で健康志向を求めながらも消費者は広範な嗜好性(例えば、もちもちとした食感を持ち、弾力に富むパン類)を要望するため、おからをパンに入れた場合に顕実化しやすい、食感が悪い、ボリュームがでない、風味を損ねるなどの問題を克服するために様々な検討がなされている。
【0003】
近年の消費者は食品に対してより健康志向を求める傾向にあり、パンの分野でもその傾向は顕著である。そういった背景から、パンに入れる食材として食物繊維を多量に含み、高栄養価の食材として認知されているおからが以前より注目されていた。一方で健康志向を求めながらも消費者は広範な嗜好性(例えば、もちもちとした食感を持ち、弾力に富むパン類)を要望するため、おからをパンに入れた場合に顕実化しやすい、食感が悪い、ボリュームがでない、風味を損ねるなどの問題を克服するために様々な検討がなされている。
【0004】
以前よりよく用いられるおから入りパンの製造方法としては、おからを乾燥粉末化させ、使用する方法が主流であった。しかし乾燥粉末を使用すると、おからを中心にした塊を生じ、食感は劣るものになりがちである。
【0005】
近年、消費者の嗜好性拡大の背景を受け、おからを乾燥させずに使用する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、生のおからを湿式粉砕し、75%以上が42メッシュの篩を通過できる粒度にし、対粉100%についておから20〜80重量%を含むおからパンの製造方法が提案されている。しかし、おから側からだけの食感の改良には限界があり、おからを大量にパンに入れると発生する悪食感の克服については不完全であった。
【0006】
また、本出願人は特許文献2に、大豆の「呉」に類する豆乳とおから一体化物を用いるパン類の製造方法を提案した。しかし、たしかにパンに呉を組み合わせたることでソフトな食感が得られるとあるものの、呉としての配合量は小麦粉100重量部に対して2〜25重量部(おからとしての最大配合量はその75重量%であるため18.75重量%)にとどまり、食感はともかく、おからのより高配合の実現という点ではやや劣るものであった。
【0007】
さらに、特許文献3には、濃縮豆乳を用いてパン生地を生成する方法が開示されている。その添加方法は、まず小麦粉に濃縮豆乳を入れて一次混合して一次混合パン生地を生成し、その後一次混合パン生地におからを混ぜて二次混合して、二次混合パン生地を生成するものである。しかし、豆乳の添加と混合方法といった工程上の工夫を組み合わせてはいるものの、おからの配合量は小麦粉100重量部に対して5〜20重量部にとどまり、おからのより高配合の実現という点ではやや劣るものであった。
【0008】
他にも、乾燥した粉末おからではなく、生のおからをパンに多量用いるにはおからを100μm以下、好ましくは30μm程度まで微細化する方法があるが、豆腐製造工程などで得られる生おからは800〜1000ミクロン、細かくても500ミクロン以下のものはないので、この生おからをパンに多量用いることは困難であった。
【0009】
本発明はかかる消費者のニーズを満たすべく、小麦粉に着目し、強力粉、最強力粉を併用することによりかかるおから入りパン類の製造に成功したのである。
【0010】
(参考文献)
【特許文献1】特開平11−318322号公報
【特許文献2】特開平11−266774号公報
【特許文献3】特開2005−269971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的はおからを比較的多量に含み、かつもちもちとした食感の良い、弾力のあるパン類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、小麦粉の一部に最強力粉を使用することにより目的のおから入りパン類を得ることができる知見を得て本発明を完成するに至った。
即ち、本発明はおから入りパン類を製造する工程において小麦粉原料に強力粉と最強力粉を併用することを特徴とするパン類の製造法である。小麦粉原料100重量部中最強力粉が40〜90重量部が好ましい。おからは生おからで添加することが適当である。パン類の製造工程においておから以外の材料で生地を作りミキシング後半におからを混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、おからを多量に含み、弾力があり、食感に優れたパン類を得るためのパン生地及びパン類を提供することが可能になったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
まず本発明の製造法は、おから入りパン類を製造する工程において小麦粉原料に強力粉と最強力粉を併用することを特徴とする。
従来のパン類は主に強力粉を主原料とする生地を調製し発酵し焼成して得るものであった。ところが、従来のように強力粉だけでは本願の目的とするもちもちした食感のおから入りパン類を得ることは困難である。即ち、強力粉だけを使用するとパン類が硬くなり、強力粉と最強力粉を併用することによりもちもちした食感のおから入りパン類を得ることが出来るのである。
【0016】
小麦粉原料100重量部中、最強力粉は40〜90重量部が適当である。換言すれば、強力粉:最強力粉(重量比)が60:40〜10:90、好ましくは50:50〜20:80が適当である。また、強力粉の蛋白質含量は通常10.5重量%以上13重量%未満である。最強力粉の蛋白質含量は通常13重量%以上であり、好ましくは13〜16重量%である。
市販品では、最強力粉は例えば「スーパーキング」(日清製粉(株)製、蛋白質13.8%)、「ゴールデンキング」(日清製粉(株)製、蛋白質14.5%)、「ゴールデンヨット」(日本製粉(株)製、蛋白質13.5%)、「クオリテ」(昭和産業(株)製、蛋白質13.1%)、「スーパージェット」(昭和産業(株)製、蛋白質13.0%)、「はまなす」(鳥越製粉(株)製、13.9%)、「特うたまろ」(鳥越製粉(株)製、15.2%)、「ゴールデンオーク」(奥本製粉(株)製、13.5%)などが挙げられる。
また強力粉は例えば「イーグル」(日本製粉(株)製、蛋白質12.0%)、「カメリヤ」(日清製粉(製)、蛋白質11.8%)、「スーパーカメリヤ」(日清製粉(製)、蛋白質11.5%)、「レジャンデール」(日清製粉(製)、蛋白質12.2%)、「ハルユタカ」(北海道産小麦粉)、「リスドオル」(日清製粉(製)、蛋白質10.7%)、「ビリオン」(日清製粉(株)製、蛋白質12.8%)などが挙げられる。
【0017】
従って本願発明に用いる強力粉に最強力粉を併用した小麦粉のグルテンまたは加水によりグルテンになる成分(グルテニン、グリアジン)を主蛋白質とする蛋白質含量は12.7〜13.6重量%、好ましくは12.9〜13.4重量%が適当であると云うことができる。
【0018】
最強力粉の割合が少ないと、おからによってグルテン膜が切られるので、焼成後のパンとした時におからの食感が異質なものに感じられる。(弾力不足、ばさばさ感など)ことがある。また、最強力粉100重量%であるとグルテンが形成されるが、おから入りのパンであるために膨化しづらく、硬い食感のパンになることがある。
【0019】
本発明のおから入りパン類に用いるおからは特に限定されないが、乾燥したおから粉ではなく豆腐製造工程などで得られる生おから(乾燥固形分約18〜21重量%、約800〜1000ミクロン、乾燥固形分あたりの粗蛋白質約25〜35重量%、乾燥固形分あたりの油分約20%前後)を利用することが好ましい。分離大豆蛋白製造工程などで得られる乾燥粉末おからを用いても本発明の目的とするもちもち感を出しにくくなる傾向にある。
【0020】
従来技術の項で述べたような生の微細おから(乾燥固形分約12〜15重量%、約20〜50ミクロン、乾燥固形分あたりの粗蛋白質約35〜45重量%、乾燥固形分中の油分約20%前後)の生おからであれば対粉100重量%以上用いることもできるが、豆腐製造工程などで得られる800〜1000ミクロン、最小でも500ミクロン以上の粒子径の生おからであれば、パン類の製造工程において、おからを対粉20重量%〜40重量%用いることが適当であり、好ましくは20重量%〜35重量%用いることが適当である。本発明の方法によれば粒子径が小さいほど生おからを多量用いても目的とするもちもちとした食感の良い、弾力のあるパン類を得ることができる。
【0021】
また、パン類の製造工程においておから以外の材料で生地を作りミキシング後半におからを混合することが好ましい。
換言すれば、パン類の製造工程においておからを一般的な中種法の本捏ミキシングの際に混合する方法やストレート法に混合する方法の何れも採用することができるが、好ましくはおから以外の材料で十分に生地を作り、しっかりとグルテンを形成させた後に、ミキシングの後半におからを混合することが適当である。通常ミキシングは低速で2〜4分混合するのが好ましい。
他の原料と同時に混合するとおから中心に塊が出来、食感の劣るパンになることがあり好ましくない。
【0022】
本発明でいうパン類は小麦粉原料から得られる生地を焼成して得られるものを指す。
小麦粉原料から得られる生地は小麦粉及び水を主原料とする食パン生地、食卓パン(テーブルロール)生地、菓子パン生地、調理パン生地、ペストリー(デニッシュ、クロワッサン)生地、蒸しパン生地(肉まん、あんまん等)、ドーナツ生地をいい、この場合原料の一部として小麦粉以外の澱粉、例えば米粉、コーンフラワー、そば粉、ライ麦粉、馬鈴薯、タピオカ等を使用する場合も包含される。
本発明における「対粉」とは、配合中の小麦粉を含めたこれらの粉の合計量を重量基準で100部とした場合の割合をいう。
【0023】
本発明のパン類生地に必要に応じ豆乳を配合することができる。本発明のおから入りパン類中のおから含量にもよるが、おからの割合が多くなるにつれて豆乳を併用することが好ましい。例えば、おからを対粉35重量部含む場合、豆乳は対粉15〜40重量部、好ましくは20〜30重量部添加するのが適当である。
【0024】
一般にパン生地中のおからの量が増えるにつれてボソボソした食感になる傾向が見られる。ところが、、豆乳を添加することにより、しっとりした食感が付与され、もちもちとした食感のおから入りパンを得ることができるのである。
【0025】
その他の原料としては、目的とするパン類にあわせて適宜定法に従った配合を用いることができ、一部の配合以外は特に限定はされないが、一例としては小麦粉(強力粉と最強力粉以外のもの)、水性素材(水・牛乳など)、油性素材(ショートニング・マーガリンなど)、イースト、乳化剤・安定剤などを用いることができる。
【0026】
以上のように本発明により、平易な方法にておから及び必要により豆乳を比較的多量に含み栄養価に優れ、かつもちもちとした食感を持ち、弾力に富むパン類を製造することができるようになったものである。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
【0028】
■実施例1
強力粉(蛋白質12.0%)(製品名:イーグル、日本製粉株式会社製)30部、最強力粉(蛋白質13.8%)(製品名:スーパーキング、日清製粉株式会社製)70部、上白糖8部、食塩1.6部、全卵10部、豆乳(固形分11.4%)(製品名:濃厚豆乳、不二製油株式会社製)30部、イースト(製品名:オリエンタルイースト(レギュラー)、オリエンタル酵母工業株式会社製)4部、水38部をあわせ、横型ミキサーにて低速3分、中速3分、中高速6分にて混合した後に、油脂(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)10部を添加し、低速2分、中速2分の混合を行った。
その後に生おから(製品名:冷凍おからパックRO1000、不二製油株式会社製、水分81.1%、平均粒子径約900ミクロン)35部を添加し、さらに低速3分ミキシングし、捏ね上げ温度26℃の生地を作製した。
ミキシングを終えた生地は、60分間醗酵を行い(醗酵室温度・湿度:28℃・80%)、70gに分割を行い、20分のベンチタイムをとった後、成型(丸め直し)を行い、ついで温度38℃、湿度82%にて50分間ホイロをとった。
最後に210℃、15分焼成を行い、パンを調製し、1日後に焼成後のパンの評価を行った。評価の結果は配合と共に表1に示した。
【0029】
■比較例1・比較例2
比較例1は小麦粉をすべて強力粉に、比較例2は小麦粉をすべて最強力粉する以外は実施例1と同様の配合・工程にてパンを調製し、同様に評価を行った。
【0030】
(表1)配合および評価

【0031】
(パン類の評価)
加熱後のパン類のもちもち感、ボソボソ感な、ソフト感、風味について官能検査を行った。評価の基準は極めて優れたものを◎、優れたものを○、やや劣るものを△、明らかに劣るものを×にて評価した。なお、△以上の評価のものは商品価値が存在する。
強力粉と最強力粉を配合した実施例1では、おからを35%添加してもグルテンがおからにより破壊されず、加熱後のパン類は程よい弾力とソフト感を併せ持ち、モチモチ感に富んでいた。
これに対して、強力粉100%の比較例1では、おからを35%添加するとグルテンがおからにより破壊され、加熱後のパン類は実施例1と比較してややぼそぼそし、弾力に欠けていた。
また、最強力粉100%の比較例2では、実施例1と比較して食感が硬く、パン類として劣るものとなった。
【0032】
■実施例2、実施例3
実施例2は実施例1の豆乳抜きでおからの添加量を低くした(豆乳を添加しない代わりに水の添加量を上げた。)。
実施例3は実施例1の豆乳抜きでおからの添加量は実施例1と同様である(豆乳を添加しない代わりに水の添加量を上げた。)。
実施例2、実施例3はそれ以外の配合および工程は実施例1と同様にパンを調整し同様に評価を行った。
【0033】
(表2)配合および評価

【0034】
豆乳添加なしでおからの添加量の少ない実施例2では、風味、食感ともに良好であった。豆乳添加なしで比較的おからの添加量の多い実施例3では、豆乳添加有の実施例1と比較すると、しっとり感、もちもち感がやや少なかった。
【0035】
■実施例4
おからの添加量を30%にする以外は実施例1と同様の配合・工程にてパンを調整し同様に評価を行った。
【0036】
■実施例5
おからの添加を初発の原料(強力粉、最強力粉、上白糖、食塩、全卵、豆乳、イースト、水)に加える以外は実施例1と同様の配合・工程にてパンを調整し同様に評価を行った(実施例1でおからを加えた後に行うミキシングはおからを加えずに同様の速度・時間で行った。)。
【0037】
(表3)配合および評価

【0038】
おから35%添加の実施例1、おから30%添加の実施例4ではボリューム、風味ともに良好なものであったが、おから35%添加の実施例1では実施例4よりも、よりもちもち感に富んでいた。
おからの添加時期が異なる実施例5はもちもち感やソフト感がやや劣り、特にぼそぼそ感がやや顕実化してはいるものの商品価値を有するものではあった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、おからを多量に含み、弾力があり、食感に優れたパン類を得るためのパン生地及びパン類を提供することが可能になったものである。従って生おからを冷凍した凍結状態で流通すればパンの原料として利用できるようになったものであり、またかかるおから入りパン生地を冷凍ドウの状態で流通することにより店頭で焼成してフレッシュなおから入りパンを提供できるものである。
そして、近年幼児から高齢者まで食物繊維の摂取量が減少しているなかでかかるパンにより食物繊維を補給できるものである。
そして、おからの利用と同時に食物繊維が豊富であるにもかかわらずモチモチした食感のパンを楽しむことが出来るようになったものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
おから入りパン類を製造する工程において、小麦粉原料に強力粉と最強力粉を併用することを特徴とするおから入りパン類の製造法。
【請求項2】
小麦粉原料100重量部中最強力粉が40〜90重量部である請求項1のパン類の製造法。
【請求項3】
おからを生おからで添加する請求項1のパン類の製造法。
【請求項4】
パン類の製造工程において、おから以外の材料で生地を作りミキシング後半におからを混合する請求項1のパン類の製造法。