説明

かしめ固定スタッドピン及びスタッドピン付きプレート部材の製造方法

【課題】多数本のスタッドピンをプレート部材にかしめ付けによって植設するにおいて、かしめ工程のトラブルを回避して生産性を向上させる。
【手段】スタッドピン1は、プレート部材の取付け穴に嵌まる嵌入部4と、その一端に設けたフランジ部5と、嵌入部4の他端に設けた突出軸6とを備えており、フランジ部5と嵌入部4とを軸方向に挟圧することにより、スタッドピン1はプレート部材2にかしめ固定される。スタッドピン1の中空穴8と受け部材10の位置決めピン12とに形成したテーパプレート部材8a,12bとを嵌め合わせることにより、スタッドピン1は位置決めピン12と同心に保持され、このため、プレート部材をスタッドピン1に正確に嵌め込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主として板材同士を平行な姿勢に保持することに使用されるかしめ固定式スタッドピン、及び、このスタッドピンが固定されたプレート部材(板状のワーク)の製造方法に関するものである。スタッドピンが取り付くプレート部材の一例としては、例えばプラズマディスプレイパネルのようなフラットディスプレイパネルの金属製裏蓋が挙げられ、これに支持される他の板材として回路基板が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
この種のスタッドピンの従来技術の一例として、特許文献1に記載されていると共に本願の図面の図8に記載したものが挙げられる。すなわち、図8のうち(A)はスタッドピン21の正面図、(B)は使用状態での断面図であり、このスタッドピン21は、軸22とその一端に設けたフランジ部(頭)23とを備えており、軸22の首下部に環状溝24を形成している。フランジ部23の外周は軸方向から見て多数の凹凸を有する非円形に形成されており、また、内部には両端面に開口した中空穴25が空いており、中空穴25には雌ねじを形成している。
【0003】
スタッドピン21をプレート部材26に取り付けるに当たっては、軸22とプレート部材26の取付け穴27とを嵌め合わせてから、プレート部材26の内周部とスタッドピン21のフランジ部23とを軸方向に挟圧するかしめ工程を経ることにより、フランジ部23をプレート部材26の肉厚部内にめり込ませると共に、プレート部材26の内周部の一部をスタッドピン21の環状溝24に入り込ませる。これにより、スタッドピン21は回転不能でかつ抜け不能に保持される。板状部材28はビス29でスタッドピン21に固定される。
【特許文献1】特開2003−322128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタッドピン21をプレート部材26に取り付ける方法(製法)には2つの基本方法が考えられる。その1つは、(C)に示すように、まず、水平状に配置したプレート部材26の取付け穴27にスタッドピン21の軸22を上方から嵌め入れ、次いで、軸22を筒状の受け部材26に嵌め入れ、次いで、プレート部材26を受け部材30の上面で支持した状態でフランジ部23を上方からパンチ31で叩打するものである。
【0005】
他の1つは、(D)に示すように、受け部材30に位置決めピン31を設けてこれにフランジ23を下にした姿勢でスタッドピン21を嵌め入れ、次いで、スタッドピン21の軸22にプレート部材26を嵌め込み、次いで、スタッドピン21の軸22に嵌まる筒状のパンチ32で上方から強圧するものである。
【0006】
一般に、プレート部材26には多数本(数十本、或いは100本以上)のスタッドピン21が取り付けられており、すべてのスタッドピン21のかしめを一度で行うようになっている。従って、スタッドピン21を正確に位置決めすることは組み立て工程の能率を確保する上で極めて重要である。
【0007】
そして、(C)のようにスタッドピン21を下向きにしてプレート部材26に嵌め込んでおく方法では、スタッドピン21の位置や姿勢に僅かでも誤差があると、受け部材30への嵌め込み工程において、スタッドピン21の下端が受け部材26の内周縁に当たってスタッドピン21がプレート部材26から抜け出てしまうことがあった。
【0008】
他方、(D)のように先にスタッドピン21を受け部材30に取り付けておく方法では、スタッドピン21が受け部材30から抜け出る不具合は生じず、また、位置決めピン31の先端を尖らせておくことにより、スタッドピン21を位置決めピン21に確実に嵌め込みできる利点がある。
【0009】
しかし、この(D)の方法では、スタッドピン21が芯ずれしてプレート部材26を各スタッドピン21に嵌め入れできなくなることが多いという問題があった。つまり、中空穴25に雌ねじを形成すると加工誤差によって内径にバラツキが生じるため、位置決めピン31は最も小径の雌ねじ取付け穴に合わせた寸法に設定しておかねばならず、すると、スタッドピン21が芯ずれしてプレート部材26が嵌め込み不能になるのであった。
【0010】
本願発明は、図8(D)のようにスタッドピンを受け部材に取付けておく方法の利点を確保しつつ、その欠点を解消することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、スタッドピンに関する発明と、スタッドピン付きプレート部材の製造方法の発明とを含んでいる。
【0012】
請求項1の発明はスタッドピンに係るものであり、この発明では、プレート部材に空けられた取付け穴に嵌まる嵌入部と、前記嵌入部に一体に連続していると共にプレート部材の一方の面に重なるフランジ部と、前記嵌入部と同心の状態でプレート部材の他方の面から突出する突出軸とを備えており、かしめ作用によってフランジ部と嵌入部とがプレート部材に固定されるスタッドピンにおいて、前記突出軸と同心の中空穴が少なくともフランジ部の端面に開口するように形成されており、この中空穴に、フランジ部の端面に向けて内径が大きくなるテーパ部を形成している。
【0013】
請求項2の発明はスタッドピンを突設したプレート部材の製法に係るものであり、まず、前提の構成として、スタッドピンは、プレート部材の取付け穴に嵌まる嵌入部と、嵌入部の一端に連続していてプレートの一方の面に重なるフランジ部と、嵌入部の他端に連続していてプレートの他方の面から突出する突出軸と、少なくともフランジ部の端面に開口した中空穴とを有している。
【0014】
そして、基本的な方法として、スタッドピンを、フランジ部を下にした鉛直姿勢にて受け部材に保持する工程と、受け部材に保持されたスタッドピンにプレート部材を嵌め込む工程と、スタッドピンの突出軸に嵌まる筒状のパンチと前記受け部材とで少なくともスタッドピンのフランジ部とプレート部材とを挟圧するかしめ工程と備えており、特徴として、前記受け部材に、前記スタッドピンの中空穴に嵌まる位置決めピンを上向きに突設しておき、受け部材の位置決めピンとスタッドピンの中空穴とに、きっちり嵌まり合うガイド部を形成しておくことにより、スタッドピンを位置決めピンと同心に保持した状態で前記かしめ工程を行うものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1のように構成すると、かしめ工程で使用する受け部材に設けた位置決めピンに芯合わせ手段として例えばテーパ部を形成しておいて、位置決めピンのテーパ部とスタッドピンにおける中空穴のテーパ部とをきっちり嵌め合わせることにより、スタッドピンを位置決めピンと同心状に保持できる。このため、多数本のスタッドピンがある場合でも、予め受け部材で上向きに保持したスタッドピンにプレート部材を正確に嵌め込むことができ、その結果、かしめ工程を能率良く行うことができる。
【0016】
請求項2の発明も請求項1と同じ効果を発揮する。この場合、スタッドピンにおける中空穴のガイド部と位置決めピンにおけるガイド部との具体的態様には、請求項1のようなテーパ部に限らず、様々な形態を採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
(1).第1実施形態(図1〜図4)
図1〜図5では第1実施形態を示している。このうち図1(A)はスタッドピン1の正面図、図1(B)は図1(A)の底面図、(C)は縦断面図、図3〜4はスタッドピン1の取付け工程を示す図である。
【0019】
スタッドピン1はアルミや鋼等の金属丸棒(又は金属管)を素材として製造されており、プレート部材2の取付け穴3に嵌まる嵌入部4と、嵌入部4に一体に連続していると共にプレート部材1の一方の面に重なるフランジ部5と、嵌入部4よりも小径の突出軸6とを備えており、嵌入部4のうちフランジ部5と反対側の部位にはかしめ部4aを形成している。フランジ部5は軸方向からみて円周方向に山形の凹凸が連続した花びら形に形成されている。
【0020】
かしめ部4aの内側には、フランジ部5に近づくほど溝幅が小さくなる断面三角形状の環状凹所7が形成されている。逆にいうと、嵌入部4の端面に環状凹所7を形成することによってかしめ部4aと成している。このため、かしめ部4aは、フランジ部5から遠ざかるほど半径方向の厚さが薄くなる断面三角形状(直角三角形状)に形成されている。環状凹所6の内周径は突出軸6の外径と略同じになっている(相違していても良い)。
【0021】
嵌入部4はプレート部材2の板厚と略同じ程度の長さに設定されている(勿論、相違していても良い)。なお、スタッドピン1は切削加工によって製造することも可能であるが、製造能率の点からは、ヘッダー又はダイスを用いたフォーミング加工で製造するのが好適である。
【0022】
スタッドピン1には、両端面に開口した中空穴8が空いている。中空穴8はスタッドピン1の軸心回りに形成されており、中空穴8のうちおおむねフランジ部5と嵌入部4の箇所に位置した部分は、フランジ部5の端面に向けて内径が拡大するテーパ部8aになっており、その他の部分は雌ねじ部8bになっている。テーパ部8aは請求項2では係合部の一環を成している。なお、テーパ部8aの深さは任意に設定できる。
【0023】
スタッドピン1はプレート部材2に取付けられるが、取付け工程では、図2に示すように、スタッドピン1はフランジ部5を下にした鉛直姿勢で受け部材10に保持され、次いで、各スタッドピンの突出軸6にプレート部材2が嵌め込まれる。受け部材10はベース板11に固定されている。
【0024】
受け部材10の詳細は図3に表示している。すなわち、受け部材10には、スタッドピン1の中空穴8に嵌まる位置決めピン12が上向きに突出している。位置決めピン12の上端部(先端部)12aは先窄まりに尖っており、このため、スタッドピン1の誘い込みが確実ならしめられる。また、位置決めピン12には、スタッドピン1における中空穴8のテーパ部8aときっちり嵌まり合うテーパ部12bになっている。
【0025】
スタッドピン1を製造するに当たっては、まず、テーパ部8aを有する下穴を形成して、それからタップ立て等によって雌ねじを加工するが、下穴の加工は精密に行えるのに対して、雌ねじを形成するに際してはタップのずれ等によって加工誤差が生じる。
【0026】
しかし、中空穴8のうちテーパ部8aは精密な寸法に仕上がったままである一方、位置決めピン12は当初から精密に加工できるため、スタッドピン1と位置決めピン12とのテーパ部8a,12bがきっちり重なり合うことにより、スタッドピン1は位置決めピン12と同心の状態に正確に保持される。このため、各スタッドピン1と各取付け穴3とを正確に位置決めした状態で、プレート部材2をスタッドピン1の群に確実に嵌め込むことができる。なお、プレート部材2の取付け穴3はスタッドピン1の嵌入部4よりも僅かながら大径に設定している。
【0027】
図4ではかしめ工程を示している。すなわち、スタッドピン1を受け部材10で支持した状態で、スタッドピン1の嵌入部4に嵌まる筒状のパンチ(ダイ)13でプレート部材2の内周部とスタッドピン1のかしめ部4aとを上方から押圧する。すると、図4(B)に示すように、スタッドピン1のフランジ部5がプレート部材の肉厚部内にめり込むと共に、スタッドピン1のかしめ部4aが潰されながら半径外向きに広がり変形し、これにより、スタッドピン1は回転不能及びいずれの方向にも抜け不能の状態でプレート部材にかしめ固定される。
【0028】
この場合、パンチ13とスタッドピン1の突出軸6との間には若干の隙間があるため、嵌入部4の端面がフラットであると、かしめ工程において嵌入部4の内周部の一部が隙間に入り込み、このためパンチ13が抜けなくなったり最終製品の品質に影響したりする虞があるが、本実施形態のように環状凹所7を形成すると、かしめ部4aがパンチ13とスタッドピン1との間の隙間に流れ込むことはないため、バリが発生することはない。
【0029】
(2).他の実施形態(図5〜図7)
図5〜図7では他の実施形態を示している。この点を次に説明する。
【0030】
図5のうち(A)で示す第2実施形態及び(B)で示す第3実施形態では、位置決め手段(芯合わせ手段)を構成する係合部として、スタッドピン1の中空穴8と位置決めピン12とに、テーパ部8a,12bに加えてストレート部8c,12cを形成している。(A)ではストレート部8c,12cをテーパ部8a,12bの下方に形成し、(B)ではストレート部8c,12cをテーパ部8a,12bの上方に形成している。
【0031】
図5(C)に示す第4実施形態では、芯合わせ手段としてスタッドピン1および位置決めピン12にテーパ部8a,12bを形成した場合において、位置決めピン12を若干の寸法だけ上下スライドするように受け部材10に装着し、かつ、ばね14で上向きに付勢している。位置決めピン12はストッパー15によって抜け不能に保持されている。このように位置決めピン12をスライド式にすることと他の実施形態とを組み合わせることも可能である。
【0032】
図6(A)に示す第5実施形態では、芯合わせ手段として、スタッドピン1の中空穴8にはテーパ部8aを形成する一方、位置決めピン12には、半球状部12dを形成している。この場合も、半球状部12dが線接触の状態でテーパ部8aに接触することにより、スタッドピン1は位置決めピン12と同心に保持される。
【0033】
図6(B)に示す第6実施形態では、特許文献1のように首下に環状溝16を形成したタイプのスタッドピン1に適用しており、芯合わせ手段(係合手段)としては、スタッドピン1および位置決めピン12にテーパ部8a,12bを形成している。また、この実施形態では、突出軸6よりも大径でフランジ部5よりも小径の嵌入部4に環状溝16を形成している。このため、パンチ13の押圧によってプレート部材2の内周部にバリが出ることはない。
【0034】
なお、プレート部材にスタッドピン1の群を介して他の板材(例えばプリント基板)を取り付ける場合、全てのスタッドピン1にビスをねじ込む訳ではなく、多数のスタッドピン1の群のうち大多数はスペーサとしての機能しかもたない場合が多いと言える。
【0035】
上述の実施形態は中空穴8に雌ねじが形成されていたが、スタッドピンにねじ取付け穴が空いていない場合もある。このタイプへの適用例を図7で示している。すなわち、図7のうち(A)で示す第7実施形態では、プリント基板等の板状材17がスタッドピン1の突出軸6に嵌まってずれ不能に保持されるようになっており、また、(B)で示す第8実施形態では、突出軸6の先端に、板状材17の取付け穴に嵌まる小径軸6aを形成している。
【0036】
そして、いずれにおいても、中空穴8はフランジ部5の端面のみに開口しており、これにテーパ部8aを形成している。このように雌ねじを形成しない場合は、中空穴はストレートであっても精密に加工できるので、芯合わせ手段(請求項2の係合手段)としてスタッドピン1の中空穴8と位置決めピン12とをストレートに形成してもよい。
【0037】
(3).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、スタッドピンのフランジ部は必ずしもプレート部材の肉厚部にめり込ませる必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】スタッドピンの構造を示す図である。
【図2】スタッドピンにプレート状部材の取付け工程を示す図である。
【図3】スタッドピンにプレート状部材を取り付ける工程の部分拡大図である。
【図4】かしめ工程を示す図である。
【図5】第2〜第4実施形態を示す図である。
【図6】第5〜第6実施形態を示す図である。
【図7】第7〜第8実施形態を示す図である。
【図8】従来技術を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 スタッドピン
2 プレート部材
3 プレート部材の取付け穴(取付け取付け穴)
4 嵌入部
5 フランジ部
6 突出軸
7 環状凹所
8 中空穴
8a 中空穴のテーパ部
8b 雌ねじ部
10 受け部材
12 位置決めピン
12b 位置決めピンのテーパ部
13 パンチ(ダイ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート部材に空けられた取付け穴に嵌まる嵌入部と、前記嵌入部に一体に連続していると共にプレート部材の一方の面に重なるフランジ部と、前記嵌入部と同心の状態でプレート部材の他方の面から突出する突出軸とを備えており、かしめ作用によってフランジ部と嵌入部とがプレート部材に固定されるスタッドピンであって、
前記突出軸と同心の中空穴が少なくともフランジ部の端面に開口するように形成されており、この中空穴に、フランジ部の端面に向けて内径が大きくなるテーパ部を形成している、
かしめ固定式スタッドピン。
【請求項2】
スタッドピンを突設したプレート部材の製造方法であって、
前記スタッドピンは、プレート部材の取付け穴に嵌まる嵌入部と、嵌入部の一端に連続していてプレートの一方の面に重なるフランジ部と、嵌入部の他端に連続していてプレートの他方の面から突出する突出軸と、少なくともフランジ部の端面に開口した中空穴とを有しており、
スタッドピンを、フランジ部を下にした鉛直姿勢にて受け部材に保持する工程と、受け部材に保持されたスタッドピンにプレート部材を嵌め込む工程と、スタッドピンの突出軸に嵌まる筒状のパンチと前記受け部材とで少なくともスタッドピンのフランジ部とプレート部材とを挟圧するかしめ工程と備えており、
前記受け部材に、前記スタッドピンの中空穴に嵌まる位置決めピンを上向きに突設しておき、受け部材の位置決めピンとスタッドピンの中空穴とに、きっちり嵌まり合うガイド部を形成しておくことにより、スタッドピンを位置決めピンと同心に保持した状態で前記かしめ工程を行うことを特徴とする、
スタッドピン付きプレート部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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