説明

がん感受性についてのバイオマーカー及びその用途

ここに開示されているのは、抗がん効力及び感受性を評価するためのバイオマーカー及びその使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本願は、2006年10月23日に出願された米国特許出願番号60/862,527に基づく優先権を主張するものであり、この出願は参照によりその全体がここに取り込まれる。
【0002】
(連邦の後援を受けた研究に関する陳述)
本発明は、米国国立衛生研究所(the National Institutes of Health)により与えられた助成金番号P50 CA83591号、P5089019号及びP20 CA101955号の下に、政府の支持を受けてなされた。政府は、本発明に関し、一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
血清腫瘍関連タンパク質のプロフィールは、早期でのがんの検出、疾患の進行の監視、及び治療応答の決定におけるバイオマーカーとして有用である。薬剤応答性バイオマーカーは、薬剤効力が期待される患者の選択のために特に重要である。現在、DR5媒介性アポトーシス中の初期の腫瘍細胞応答の評価のために利用可能な血清バイオマーカーはない。
【0004】
抗がん療法の多くの場合において、バイオマーカーは、個々の被験体のための治療法の効力を予測するために重要である。バイオマーカーは、治療前に効力を予測するために用いることができ、また、治療開始後早々に治療的応答を予測するために監視することができる。これらのバイオマーカーは、その治療法に適切な被験体を選択し、その治療法が何ら臨床的利益をもたらしそうもないその他の被験体を不要な副作用及び費用から救うために有用である。したがって、抗がん剤開発のための予測的バイオマーカーを見出すことは、必須となっている。それにもかかわらず、多くの有効ながん治療法が開発されているけれども、治療を決定するために利用可能なわずか2、3のバイオマーカーしか存在しない。例えば、乳がんにおけるエストロゲンレセプター及び/又はプロゲステロンレセプターの発現は、タモキシフェン(tamoxifen)に対する治療応答を予測することができる。HER2/neuErbB2)プロトオンコジーンの過剰発現を伴う乳がんは、ヒト化抗HER2モノクローナル抗体トラツズマブ(trastuzumab)(ハーセプチン;Herceptin)に対して応答する可能性が高い。
【0005】
腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)は、Apo2Lとも呼ばれ、TNFスーパーファミリーの一員であり、種々のトランスフォームした細胞株においてアポトーシスを引き起こす能力を有する。TRAILのための5つのレセプターが同定されている:すなわち、アポトーシスシグナルを伝達する2つのデスレセプター、DR4(TRAIL−R1)及びDR5(TRAIL−R2)、及び、TRAIL誘導性アポトーシスを阻害する3つのデコイレセプター、DcR1(TRAIL−R3)、DcR2(TRAIL−R4)、及びオステオプロテグリン(osteoprotegrin)、である。DR4及びDR5は、アポトーシスの誘導に必須の細胞質デスドメインを含む。DR4及び/又はDR5へのTRAILの結合の後、これらのレセプターは、アダプターFas関連デスドメイン及びイニシエーター、カスパーゼ−8の動員を通じてアポトーシスを開始し、死誘導性シグナル複合体を形成して、それが、エフェクターカスパーゼカスケードの活性化及び最終的な細胞死をもたらす。
【0006】
TRAIL mRNAは多くのヒト正常組織において構成的に発現されているが、TRAILは、腫瘍原性又はトランスフォームした細胞においてのみアポトーシスを誘導し、正常細胞においては誘導しない。TRAILによって誘導されるアポトーシスから正常細胞を保護する何らかのメカニズムが存在する可能性があることが示唆されている。マウス及び非ヒト霊長類における前臨床試験により、組換え可溶性TRAILは種々のヒト腫瘍異種移植片モデルにおいて抗腫瘍効力を有し、正常組織に対する有意な毒性を有さないことが示されている。しかし、いくつかの形態の組換え可溶性TRAILはインビトロにおいて正常ヒト肝細胞にアポトーシスを誘導することもまた報告されており、これは組換え可溶性TRAILの形態によって引き起こされている可能性があるものの、ヒトにおける潜在的な肝毒性が示唆されている。抗ヒトDR5モノクローナル抗体TRA−8及びTRA−8のヒト化バージョン(ヒト化抗体)は、肝細胞毒性なしに生体外(インビトロ)及び生体内(インビボ)の両方でがん細胞にアポトーシスを誘導する。しかし、がん細胞間で種々の程度の感受性が観察されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の概要)
本明細書において、具体化され、広範に記載されているように、この開示は、抗がん療法又は治療の効力を評価するためのバイオマーカーに関する。さらに、バイオマーカーは、DR5媒介性アポトーシスの間の腫瘍細胞の応答の評価のために提供される。提供されているのは、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、フルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼA(ALDOA)、ペルオキシレドキシン1(PRDX1)、コフィリン−1(COF1)及びヒストンH4(H4)のようなバイオマーカーを検出することによって、治療剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法、治療剤の効力を予測する方法、及び治療剤の有効用量を決定する方法である。
【0008】
開示されている方法及び組成物のさらなる利点は、以下の記載にあり、一部はその記載から理解され、あるいは、開示された方法及び組成物の実施により看取することができる。開示された方法及び組成物の利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘されている要素及び組合わせの手段によって理解され、会得される。先の一般的な記載及び以下の詳細な記載は、いずれも例示的かつ説明目的のものにすぎず、制限的なものではないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、COLO205細胞に対するTRA−8の効果を示す。COLO205細胞を、何もなし(A)、あるいは最終濃度10(B)、100(C)又は1000ng/ml(D)のTRA−8で、無血清条件下で処理した。培養上清を、二次元ゲル電気泳動及びその後のSYPRO(登録商標)Ruby(Molecular Probes, Carlsbad, California)による染色によって解析した。分子量マーカーの位置は、各図の左に示されている。等電点の範囲は、各図の上に示されている。円は解析されたタンパク質を表す。
【図2】図2は、結腸がん細胞の培養上清における候補バイオマーカーに対するTRA−8の効果を示す。図2Aは、何もなし、あるいは最終濃度1、10、100又は1000ng/mlのTRA−8で、37℃で24時間処理したCOLO205、WiDr、及びHT−29細胞を示す。細胞生存率は、細胞ATPレベルの測定によって評価し、コントロールとして使用した未処理の細胞の発光値に対するパーセンテージとして決定した。各点及びバーは、それぞれ、三連の実験での細胞生存率の平均及び標準誤差を表す。図2Bは、何もなし、あるいは最終濃度1、10、100又は1000ng/mlのTRA−8で、37℃で24時間処理したCOLO205、WiDr、及びHT−29細胞を示す。培養上清は、SDS−PAGE、及びその後の、抗ALDOA、抗COF1、抗ヒストンH4、抗PGK1、又は抗PRDX1抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。細胞生存率は、下に示されている。
【図3】図3は、乳がん細胞の培養上清における候補バイオマーカーに対するTRA−8の効果を示す。図3Aは、何もなし、あるいは最終濃度1、10、100又は1000ng/mlのTRA−8で、37℃で24時間処理した2LMP及びBT−474細胞を示す。細胞生存率は、図2Aにおいて記載したとおりに決定した。図3Bは、何もなし、あるいは最終濃度1、10、100又は1000ng/mlのTRA−8で、37℃で24時間処理した細胞を示す。培養上清は、図2Bにおいて記載したとおりに分析した。細胞生存率は下に示されている。
【図4】図4は、肺がん細胞の培養上清における候補バイオマーカーに対するTRA−8の効果を示す。図4Aは、何もなし、あるいは最終濃度1、10、100又は1000ng/mlのTRA−8で、37℃で24時間処理したNCI−H2122及びA−427細胞を示す。細胞生存率は、図2Aにおいて記載したとおりに決定した。図4Bは、何もなし、あるいは最終濃度1、10、100又は1000ng/mlのTRA−8で、37℃で24時間処理した細胞を示す。培養上清は、図2Bにおいて記載したとおりに分析した。細胞生存率は下に示されている。
【図5】図5は、TRA−8処理の際の培養上清における候補バイオマーカーの経時変化を示す。図5Aは、TRA−8なし又は最終濃度1μg/mlのTRA−8で、37℃で0、1、2、4、8又は24時間処理した、COLO205(ひし形)、WiDr(四角)、2LMP(三角)及びNCI−H2122細胞(×)を示す。細胞生存率は、図2Aにおいて記載したとおりに決定した。図5Bは、無血清条件下で37℃で、0時間(レーン1、7、13及び19)、1時間(レーン2、8、14及び20)、2時間(レーン3、9、15及び21)、4時間(レーン4、10、16及び22)、8時間(レーン5、11、17及び23)及び24時間(レーン6、12、18及び24)、最終濃度1μg/mlのTRA−8とともにインキュベートした、COLO205細胞(レーン1〜6)、WiDr細胞(レーン7〜12)、2LMP細胞(レーン13〜18)及びNCI−H2122細胞(レーン19〜24)を示す。培養上清は、SDS−PAGE、及びその後のALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1、又はPRDX1に対する抗体を用いたイムノブロッティングによって解析した。
【図6】図6は、がん細胞の培養上清における候補バイオマーカーに対する化学療法剤の効果を示す。図6Aは、無血清条件下で、37℃で24時間(白バー)及び48時間(黒バー)、培地単独(条件1)、50μM CPT−11(条件2)、50μM オキサリプラチン(条件3)、又は1μM パクリタキセル(条件4)で処理した、COLO 205、WiDr及びhT−29細胞を示す。細胞生存率は、図2Aにおいて記載したとおりに決定した。細胞生存率分析は、ATPLite(登録商標)アッセイ(PerkinElmer, Inc., Waltham, MA)を用いて実施した。各カラム及びバーは、それぞれ、三連の実験のデータの平均及び標準誤差を表す。図6Bは、無血清条件下で37℃で、24時間(レーン1〜12)及び48時間(レーン13〜24)、培地単独(レーン1、5、9、13、17及び21)、50μM CPT−11(レーン2、6、10、14、18及び22)、50μM オキサリプラチン(レーン3、7、11、15、19及び23)、又は1μM パクリタキセル(レーン4、8、12、16、20及び24)とともにインキュベートした、COLO 205細胞(レーン1〜4及び13〜16)、WiDr細胞(レーン5〜8及び17〜20)及びHT−29細胞(レーン9〜12及び21〜24)を示す。培養上清は、図2Bにおいて記載したとおりに、SDS−PAGE、及びその後のALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1、又はPRDX1に対する抗体を用いたイムノブロッティングによって解析した。
【図7】図7は、ヒトがん細胞株及び組織におけるPRDX1及びPGK1の発現を示す。図7Aは、がん細胞におけるPRDX1発現のウェスタンブロット解析を示し、図7Bは、がん細胞におけるPGK1発現のウェスタンブロット解析を示す: 13種のヒトがん細胞株由来の総細胞ライセートのタンパク質を、SDS−PAGEにおいて分離し、そのブロットを、ヒトPRDX1及びPGK1に対する特異的モノクローナル抗体を用いて探索した。図7A及び7Bに示すレーンは、以下の細胞株に相当する。レーン1、MDA231; レーン2、UL−3A; レーン3、UL−3C; レーン4、COLO205; レーン5、HT29; レーン6、SW480; レーン7、SW620; レーン8、SW116; レーン9、WiDR; レーン10、2−LMP; レーン11、BT474; レーン12、H2122; レーン13、A427。図7Cは、ヒト卵巣がん組織におけるPGK1の免疫組織学的染色を示す。ヒト卵巣がん組織のパラフィン切片を、抗PGK1モノクローナル抗体で染色した。
【図8】図8は、異種移植片モデルにおけるTRA−8及びCPT−11処理COLO205腫瘍からの候補バイオマーカーの放出を示す。図8Aは、COLO205腫瘍を担持する無胸腺ヌードマウスに対するTRA−8及びCPT−11処理の効果を示す。TRA−8(10mg/kg)は、第16日及び20日にマウスに投与した。CPT−11(33mg/kg)は、第17日及び21日にマウスに投与した。各点及びバーは、それぞれ、何もなし(ひし形)、TRA−8(四角)、CPT−11(三角)又はTRA−8とCPT−11との組合わせ(円)で処理した各群の腫瘍サイズデータの平均及び標準誤差を表す。図8Bは、第20日に、何もなし(カラム1)、TRA−8(カラム2)、CPT−11(カラム3)又はTRA−8とCPT−11との組合わせ(カラム4)で処理した腫瘍担持マウスから得られた血清中に検出された候補バイオマーカーを示す。血清中のPRDX1レベルは、ELISAを用いてA450値として決定した。各カラム及びバーは、それぞれ、データの平均及び標準誤差を表す。
【0010】
(発明の詳細な説明)
治療的応答を予測するバイオマーカーは、抗がん療法の開発に必須である。本明細書において記載されているように、抗がん薬効果の監視(モニタリング)は、治療的応答の予測をもたらす。二次元ゲル電気泳動(2−DE)及び質量分析法(MS)は、がん療法の効果を監視及び予測するタンパク質を同定するために用いられた。本明細書において記載されているように、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、フルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼA(ALDOA)、ペルオキシレドキシン1(PRDX1)、コフィリン−1(COF1)及びヒストンH4(H4)は、治療剤に応答してがん細胞から放出される。これらの候補バイオマーカーの放出を、CPT−11、オキサリプラチン及びパクリタキセルのような化学療法剤の細胞毒性効果と相関させた。さらに、DR5アゴニスト及びCPT−11を腫瘍担持マウスに2回投与した場合、血清中のPRDX1レベルは、単独の又はCPT−11との組合わせのDR5アゴニストによって増大した。本明細書において記載され、同定されたタンパク質のセットは、抗がん薬の効力を監視し予測するのに有用なバイオマーカーを含む。
【0011】
ここに開示されているのは、バイオマーカー、及びこれらのバイオマーカーを同定し用いるための方法である。バイオマーカーは、ある状態(例えば腫瘍又は他のがん、又はそれらの欠如)又はある被験対象もしくは試料中のその状態のための療法を、同定し、予測し又は監視するのに使用される任意のアッセイ可能な特徴又は組成物を意味する。バイオマーカーは、例えば、その存在、欠如又は相対的な量が被験対象又は試料中の状態のステータス又は状態を同定するために使用される、タンパク質又はタンパク質の組合わせである。一つの特定の例において、バイオマーカーは、被験対象又は試料中でのその相対的な濃度がある治療剤に対するがん細胞の感受性の特徴である、タンパク質又はタンパク質の組合わせである。ここで同定されたバイオマーカーは、レベル、発現、活性を決定するために、又は変異体を検出するために、測定される。変異体は、アミノ酸又は核酸変異体あるいは翻訳後修飾された変異体を含む。
【0012】
ここに開示されているのは、抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーとしてのフルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼA(ALDOA)の用途である。アルドラーゼ酵素は、フルクトース代謝の中間体であるフルクトース−1−ホスフェート(F−1−P)を含む、構造的に関連する糖ホスフェート類の切断を触媒する。この酵素の3種のアイソフォーム、具体的にはアルドラーゼA(筋肉から単離された)、アルドラーゼB(肝臓から単離された)及びアルドラーゼC(脳から単離された)が、同定されている。アルドラーゼA(フルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼ(筋タイプアルドラーゼ))は、普遍的な糖分解酵素であり、フルクトース1,6−ビスホスフェートからグリセルアルデヒド3−ホスフェート及びジヒドロキシアセトンホスフェートへの可逆的な切断を触媒する。アルドラーゼは、膵臓がん細胞において低酸素誘導因子1(hypoxia inducible factor-1(HIF−1))によって転写により誘導される。アルドラーゼAは、発生中の胚において見出され、成体の筋においてそれより大量に産生される。アルドラーゼA発現は、成体の肝臓、腎臓及び腸においては抑制され、脳及び他の神経組織におけるアルドラーゼCレベルと同等である。この遺伝子のオルタナティブスプライシングは、同じタンパク質をコードする複数の転写物の変異体をもたらす。嫌気性代謝関連遺伝子であるGlut1及びアルドラーゼAは、HIF−1αの構成的発現を有する腫瘍細胞において高度に発現され、これらの細胞を低酸素及びグルコース欠乏によって誘導されるアポトーシスに対して耐性にする。がん細胞は、低酸素に応答して嫌気的にATPを産生するための糖分解酵素を用いる。低酸素下のGlut−1及びアルドラーゼA mRNAの強化された発現は、ドミナントネガティブなHIF−1α(dnHIF−1α)トランスフェクタントによって排除され、膵臓がん細胞を低酸素又はグルコース欠乏によって誘導される成長阻害及びアポトーシスに対して感受性にする。ALDOAは、正常組織と比較して肺がん及び肝細胞がんにおいて過剰発現され、がん患者の血清中に検出される。
【0013】
ここに開示されているのは、抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーとしてのホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)の用途である。ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)は、ATP:3−ホスホグリセリン酸1−ホスホトランスフェラーゼ(ATP:3-phosphoglycerate 1-phosphotransferase)としても知られ、1,3−ジホスホグリセリン酸の3−ホスホグリセリン酸への可逆的な変換を触媒し、1分子のATPを生成する。分泌されたタンパク質中のジスルフィド結合は、細胞外環境の酸化的性質のため、不活性であると考えられている。この規則の一つの例外は、セリンプロテアーゼであるプラスミンのジスルフィド結合を還元する、腫瘍細胞によって分泌されるレダクターゼである。プラスミンの還元は、クリングル5ドメイン中のタンパク分解的切断及び腫瘍血管阻害剤アンジオスタチンの放出を開始させる。新規の血管形成又は脈管形成は、腫瘍の拡大及び転移に重要である。線維肉腫細胞のコンディションド(馴化)培地から単離されたプラスミンレダクターゼは、糖分解酵素ホスホグリセリン酸キナーゼである。組換えホスホグリセリン酸キナーゼは、線維肉腫由来タンパクと同じ比活性を有していた。線維肉腫腫瘍を担持するマウスの血漿は、腫瘍を持たないマウスと比較して数倍多いホスホグリセリン酸キナーゼを含有していた。腫瘍担持マウスに対するホスホグリセリン酸キナーゼの投与は、アンジオスタチンの血漿レベルの増大、及び腫瘍成長率及び腫瘍血管分布状態の低減を引き起こした。ホスホグリセリン酸キナーゼは、解糖において機能するだけでなく、腫瘍細胞から分泌され、ジスルフィドレダクターゼとして脈管形成プロセスにも関与している。しかし、Dalyらによれば、ホスホグリセリン酸キナーゼの血中レベルは、腫瘍の存在又は範囲と相関するとは考えられていない(Daly EB et al., Int. J. Biol. Markers 19(2):170-2 2004)。PGK1は、HIF−1により、転写により活性化される。PGK1の増大したレベルは、患者対比した(patient-matched)正常腎臓皮質と比較して腎細胞がんに見出された。PGK1は、種々の培養がん細胞から分泌され、HT1080線維肉腫腫瘍を担持するマウスの血漿は、腫瘍を持たないマウスよりも数倍多いPGK1を含有していた。
【0014】
開示されているのは、抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーとしてのペルオキシレドキシン1(PRDX1)の用途である。ペルオキシレドキシン1(PRDX1)は、細胞内において過酸化水素のようなオキシダントを非反応性種に還元する抗酸化剤酵素のペルオキシレドキシンファミリーのメンバーである。PRDX1によってコードされるタンパク質は、その抗酸化的性質及びT細胞抗ウイルス活性における役割の両方によって示されるように、細胞内において保護的役割を果たすと考えられている。しかし、PRDX1は、がん増殖を助ける可能性もある。口腔の扁平上皮がんにおける腫瘍の進行ステージと発現レベルとの間には相関があり、ろ胞甲状腺腫瘍においては高発現し、しかし、甲状腺の乳頭状がんにおいてはそうではない。PRDX1は、酸化ストレスによって誘導され、ほとんどのヒト細胞において構成的に発現しており、非トランスフォーム及びトランスフォーム細胞における血清刺激に際してより高いレベルに誘導される。上昇したレベルのPRDX1は、甲状腺がん、乳がん、肺がん、悪性中皮腫及び非小肺がん(non-small lung cancer)患者において観察された。
【0015】
開示されているのは、抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーとしてのコフィリン1(COF1)の用途である。コフィリンは、広く分布している細胞内アクチン調節タンパク質(actin-modulating protein)であり、フィラメント状F−アクチンに結合し脱重合させ、pH依存性の様式で単量体G−アクチンの重合を阻害する。それは、細胞質から核へのアクチン−コフィリン複合体の移動に関与している。COF1は、アクチンの重合及び脱重合を調節しアクチンフィラメントを切断する小さいアクチン結合タンパクであるアクチン脱重合因子/コフィリン類の、非筋肉アイソフォームである。COF1は、種々の組織に広く分布している。コフィリン活性は、リン酸化を含む多様なメカニズムを通じて調節される。コフィリンの増大したレベルは、患者対比した正常腎臓切片と比較して、コフィリンを発現する浸潤性Tリンパ球による腎細胞がんにおいて観察された。
【0016】
開示されているのは、抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーとしてのヒストンH4の用途である。ヒストンは、真核生物の染色体ファイバーのヌクレオソーム構造に関与する塩基性核タンパク質である。ヌクレオソームは、4種のコアヒストン(H2A、H2B、H3、及びH4)の各々の対から構成されるヒストン8量体を取り巻く約146塩基対のDNAからなる。クロマチンファイバーは、リンカーヒストン、すなわちH1の、ヌクレオソーム間のDNAとの相互作用を通じてさらに圧縮され、高次のクロマチン構造が形成される。細胞死が起こると、ヌクレオソームは、循環中に放出され、血清又は血漿中に上昇した量で検出される。上昇したレベルの循環ヌクレオソームは、健常者と比較して種々の固形腫瘍を有する患者の血清又は血漿中に検出された。さらに、化学療法又は放射線療法の後に循環ヌクレオソームの一時性の増大が観察された。化学療法中の進行した非小細胞肺がん患者における循環ヌクレオソームの変化は、治療応答を予測することができる。Ono et al., J. Exp. Clin. Cancer Res. 21(3):377-82 (2002)によって明らかにされたように、アセチル化されたヒストンH4発現のレベルは、非新生物性粘膜と比較して胃がんにおいて低減する。アセチル化ヒストンH4は、非新生物性上皮及びストローマ細胞の両方の核に検出されるが、一方、アセチル化ヒストンH4のレベルは、胃がん及び胃腺腫において低減する。アセチル化ヒストンH4の低減した発現は、がんに隣接する腸形成異常のいくつかの領域においても観察されている。アセチル化ヒストンH4の発現の低減は、進行したステージ、腫瘍侵入の深さ及びリンパ節転移と有意に相関している。したがって、ヒストンアセチル化の低いレベルは、胃がんの発症及び進行に、おそらくは遺伝子発現の変化を通じて、密接に関連している。
【0017】
ここに提供されているのは、有効量の抗がん剤とがん細胞とを接触させる工程及び細胞によるここで開示されたバイオマーカーの一つ以上の放出を評価する工程を含む、抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法である。がん細胞は、インビトロ又はインビボで接触させる。
【0018】
コントロール細胞と比較した、接触させた細胞によるここで提供されるバイオマーカーの放出の増大は、そのがん細胞がその薬剤に対して感受性であることを示す。増大した放出は、ネイティブ又はコントロールレベルと比較して細胞の外側での検出可能なバイオマーカーの量の任意の放出を意味する。したがって、増大は、約1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、又は中間的な又はネイティブもしくはコントロールレベルと比較してより高い、任意の量の増大である。
【0019】
例えば、被験体の生検由来のもののようながん細胞(単数又は複数)を、培地中の抗がん剤とインビトロで接触させる。ここに開示されたバイオマーカーの存在又は不存在を、培地中で測定する。この測定値を、他のコントロールがん及び非がん細胞の結果及び他の抗がん剤を用いた結果と比較する。
【0020】
バイオマーカーの放出は、場合により異種移植片モデルにおいて評価される。例えば、ヒト組織を、免疫不全マウスに移植する。ここで開示されているバイオマーカーの存在又は不存在を、抗がん剤での治療の前及び/又は後の体液で測定する。
【0021】
バイオマーカーの放出は、場合により被験体又は被験体由来の試料において評価される。ここで開示されているバイオマーカーの存在又は不存在を、組織(例えば生検)又は体液で測定する。ここで開示されているバイオマーカーの存在又は不存在を評価するのに使用される体液としては、制限なしに、血液、尿、血清、涙液、リンパ、胆汁、脳脊髄液、間質液、水性又は硝子体液、初乳、喀痰、羊水、唾液、肛門及び膣分泌物、汗、精液、ろ出液、滲出液、及び滑液が挙げられる。例えば、バイオマーカーのレベルを、被験体における治療の前後に血液又は生検において測定する。
【0022】
生検は、診断の目的のために組織の試料を除去したものを指す。例えば、生検は、がん又は腫瘍に由来し、腫瘍全体又は異常な領域からの組織試料を含む。異なるタイプのがんの非制限的なリストは、リンパ腫、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、菌状息肉症、ホジキン病、骨髄性白血病、膀胱がん、脳がん、神経系がん、頭頚部(head and neck)がん、腎臓がん、肺がん(小細胞肺がん及び非小細胞肺がんなど)、脳がん(神経芽細胞腫及びグリア芽細胞腫など)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、肝臓がん、メラノーマ、扁平上皮がん、頚管がん(cervical carcinoma)、乳がん、腎がん、尿生殖器がん、食道がん、造血系がん、精巣がん、又は結腸及び直腸がんを含む。
【0023】
ここで用いる場合、被験体は、脊椎動物、より具体的には哺乳類(例えばヒト、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、非ヒト霊長類、ウシ、ネコ、モルモット又はげっ歯類)、魚、鳥又はは虫類又は両生類である。この用語は、特定の年齢又は性別を示さない。したがって、成体及び新生児(仔)の被験体、ならびに胎児は、雄性であるか雌性であるかにかかわらず、包含されることが意図される。ここで用いる場合、患者又は被験体は、互換的に用いられ、疾患又は不調を有する個体を指す。患者又は被験体という用語は、ヒト及び獣医学的対象を含む。
【0024】
開示されている方法は、がん細胞からの開示されたバイオマーカーの放出を、コントロール試料中の同じバイオマーカーの放出に対して比較することを包含する。コントロール試料は、同時に実行される非がん細胞、又は1以上の非がん細胞をアッセイし、バイオマーカーデータを収集することにより創出された標準であることが理解される。したがって、コントロール試料は、場合によっては、創出され継続的に使用される標準である。この標準としては、例えば、非がん細胞又は任意の他のコントロール群によるバイオマーカーの放出の平均レベルが挙げられる。がん細胞は、場合によっては、バイオマーカーの検出前に抗がん剤と接触させる。したがって、コントロール試料は、抗がん剤と接触させていないがん細胞又は抗がん剤と接触させる前のがん細胞である。
【0025】
さらにまた提供されるのは、被験体における抗がん剤の効力を予測又は監視する方法である。この方法は、被験体に薬剤を投与した後の被験体から、組織又は体液のような生物学的試料を得ることを含む。例えば、組織又は体液は、被験体に薬剤を投与した後、1〜60分、数時間、数日、又は数週間の被験体から収集される。この方法は、さらに生物学的試料中の、ALDOA、PGK1、PRDX1、COF1、及びヒストンH4からなる群から選択される1以上のバイオマーカーのレベルを検出することを含む。1以上のバイオマーカーのレベルの増大は、治療効力の証拠である。したがって、この増大又は時間の低下は、低減する効力の証拠である。したがって、生物学的試料は、バイオマーカーレベルの変化を監視するために経時的に系統的に取得することが好ましい。
【0026】
またさらに提供されるのは、抗がん剤について有効用量を決定する方法である。この方法は、1以上のがん細胞を複数の用量の抗がん剤と接触させることを含む。開示された方法の条件は、好ましくは、ここに開示された1以上のバイオマーカーの細胞による放出を可能にする。この方法は、さらに、各用量での開示された1以上のバイオマーカーの放出を検出することを含む。ここに開示されているように、より高いバイオマーカー放出率は、有効用量を示す。少なくとも一つの細胞を2以上の用量と接触させるか、又は、各細胞を唯一の用量と接触させる。
【0027】
開示されたこれらの方法の抗がん剤は、例えば、デスレセプターアゴニストを含む。デスレセプターは、リガンドにより結合されると細胞のアポトーシスを誘導するレセプターを意味する。デスレセプターとしては、例えば、デスドメインを有する腫瘍壊死因子(TNF)レセプタースーパーファミリーメンバー(例えば、TNFRI、Fas、DR3、4、5、6)、及びデスドメインを有さないTNFレセプタースーパーファミリーメンバー、LTβR、CD40、CD27、HVEMが挙げられる。したがって、デスレセプターアゴニストは、DR5抗体、DR4抗体、Fasリガンド、TNF、及びTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)からなる群から選択される。DR5抗体は、場合によっては、TRA−8又はTRA−8と同じエピトープ特異性を有する抗体である。DR5抗体は、場合によっては、TRA−8のヒト化バージョンである。
【0028】
例えばDR5を通じてのシグナル伝達は、DR5媒介性アポトーシスの制御における鍵となるメカニズムである。TNFRスーパーファミリーのデスレセプターの共通の特徴は、それらが全てその細胞質テールに保存されたデスドメインを有することである(Zhou, T., et al. 2002. Immunol Res 26:323-336)。DR5媒介性アポトーシスがデスドメインで開始されることは十分に確立されている。TRAIL又はアゴニスト性抗DR5抗体による細胞表面でのDR5の架橋は、DR5のオリゴマー化をもたらし、その後直ちにDR5のデスドメインへのFADDの動員が続く(Bodmer, J.L., et al. 2000. Nat Cell Biol 2:241-243; Chaudhary, P.M., et al. 1997. Immunity 7:821-830; Kuang, A.A., et al. 2000. J Biol Chem 275:25065-25068; Schneider, P., et al. 1997. Immunity 7:831-836; Sprick, M.R., et al. 2000. Immunity 12:599-609)。デスドメインによって束縛されたFADDは、さらに、イニシエーター プロカスパーゼ8及び/又はプロカスパーゼ10を動員し、特異親和性の(homophilic)DD相互作用を通じてDISCを形成する(Krammer, P.H. 2000. Nature 407:789-795)。活性化されたカスパーゼ8及び10は、カスパーゼ3を直接活性化することができ、あるいはBH3含有タンパク質Bidを切断してチトクロームCの放出及びカスパーゼ9活性化を通じてミトコンドリア依存性アポトーシス経路を活性化することができる(Desagher, S., and J.C. Martinou. 2000. Trends Cell Biol 10:369-377; Scaffidi, C., et al. 1998. Embo J 17:1675-1687)。デスドメイン複合体の形成に続いて、カスパーゼ、NF−κB、及びJNK/p38のような数個のシグナル伝達経路が活性化される。これらのシグナル経路の活性化は、タンパク質のBcl−2及びIAPファミリーを通じてデスレセプター媒介性アポトーシスの調節をもたらす。
【0029】
アゴニストは、細胞上でレセプター(例えばデスレセプター)と一緒になることができ、内在性リガンドの結合により典型的に生成される同じ反応又は活性(例えばアポトーシス)を開始することができる、物質(分子、薬剤、タンパク質など)を意味する。本発明の方法のアゴニストは、例えば、TNF、Fasリガンド、又はTRAILのようなデスレセプターリガンドである。アゴニストは、そのフラグメントがデスレセプターを結合し活性化することができるようにデスレセプター結合ドメインを含む、これらのリガンドのフラグメントを含む。アゴニストは、その融合タンパクがデスレセプターを結合し活性化することができるようにデスレセプター結合ドメインを含む、融合タンパクを含む。アゴニストは、そのホモログがデスレセプターを結合し活性化することができるようにTNF、Fas又はTRAILに対して少なくとも85〜99%の相同性(例えば、90%、95%及び99%相同性を含む)を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0030】
アゴニストは、デスレセプターに結合するアポトーシス誘導性抗体を含む。この抗体は、場合によってはモノクローナル、ポリクローナル、キメラ、単鎖、ヒト化、完全ヒト抗体、又はそれらの任意のFabもしくはF(ab’)フラグメントである。アポトーシス誘導性抗体は、ここで提供される方法を用いる活性化の前又は後にプログラムされた細胞死を引き起こす抗体を意味する。したがって、本発明の方法のアゴニストは、その抗体がデスレセプターを活性化するように、Fas、TNFR1又はTRAILデスレセプターに対して特異的な抗体を含む。アゴニストは、DR4又はDR5に対して特異的な抗体を含む。例えば、アゴニストは、ATCC受託番号PTA−1428(例えばTRA−8抗体)、ATCC受託番号PTA−1741(例えばTRA−1抗体)、ATCC受託番号PTA−1742(例えばTRA−10抗体)を有するマウス−マウスハイブリドーマによって分泌される、又はそれらと同じエピトープ特異性を有する、DR5抗体である。アゴニストは、場合によっては、ATCC受託番号PTA−3798(例えば2E12抗体)を有するハイブリドーマによって分泌される、又はそれと同じエピトープ特異性を有する抗体である。
【0031】
この抗体は、場合によっては、大腸菌(E. coli)JM109/pHA15 (ヒト化TRA−8のH1タイプ重鎖をコードするcDNAを担持するプラスミドを含む)、E. coli JM109/pHB14(ヒト化TRA−8の重鎖をコードするcDNAを担持するプラスミドを含む)、E. coli JM109/pHC10(ヒト化TRA−8のH3タイプ重鎖をコードするcDNAを担持するプラスミドを含む)、E. coli JM109/pHD21(ヒト化TRA−8のH4タイプ重鎖をコードするcDNAを担持するプラスミドを含む)、及びE. coli JM109/pM11(キメラTRA−8の重鎖をコードするcDNAを担持するプラスミドを含む)、E. coli DH5□/pHSG/M1−2−2(ヒトIg□ 鎖の定常領域及びヒト化LM1 TRA−8軽鎖の可変領域の融合フラグメントをコードするcDNAを担持するプラスミドを含む)、と名付けられた形質転換体E. coli株を用いて誘導される。これらの株は、微生物の寄託に関するブダペスト条約にしたがって、郵便番号305−5466、日本国茨城県つくば市東1丁目1−1、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)に2001年4月20日に寄託され、それぞれ受託番号FERM BP−7555、FERM BP−7556、FERM BP−7557、FERM BP−7558、FERM BP−7559、及びFERM BP−7562を与えられた。
【0032】
本発明の方法の抗体により標的とされるTRAILレセプターは、DR4又はDR5を含む。このようなレセプターは、公開された特許出願WO99/03992、WO98/35986、WO98/41629、WO98/32856、WO00/66156、WO98/46642、WO98/5173、WO99/02653、WO99/09165、WO99/11791、WO99/12963及び公開された米国特許第6,313,269号に記載されており、これらは全てそこに教示されたレセプターについてその全体が参照によりここに取り込まれる。これらのレセプターに対して特異的なモノクローナル抗体は、当該技術分野において公知の方法を用いて生成される。例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495-497 (1975)及びEur. J. Immunol. 6:511-519 (1976)を参照されたい。これらの両方は、これらの方法についてその全体が参照によりここに取り込まれる。また、公開された特許出願WO01/83560において教示された方法も参照されたい。これはその全体が参照によりここに取り込まれる。
【0033】
開示された方法の抗がん剤は、場合によっては、化学療法薬のような抗がん化合物である。一般に、抗がん化合物は、異常に成長する細胞の成長を阻害又は停止するのに有効な化合物又は組成物である。抗がん化合物の説明的な例としては、ブレオマイシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、コルヒチン、CPT−11、シクロフォスファミド、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ジエチルスチルベストロール、ドキソルビシン、エトポシド、5−フルオロウラシル、フロクスウリジン、メルファラン、メトトレキセート、マイトマイシン、6−メルカプトプリン、オキサリプラチン、パクリタキセル、テニポシド、6−チオグアニン、ビンクリスチン及びビンブラスチンが挙げられる。抗がん化合物及び治療剤のさらなる例は、「The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 18th Ed., Beers et al., eds., 2006, Whitehouse Station, N.J.」及び「Sladek et al. Metabolism and Action of Anti-Cancer Drugs, 1987, Powis et al. eds., Taylor and Francis, New York, N.Y.」に見出される。
【0034】
米国がん学会(the American Cancer Society)によれば、化学療法薬の5つの主要なカテゴリーがある。それらは、アルキル化剤、ニトロソ尿素、代謝拮抗物質、抗腫瘍性抗生物質(antitumor antibiotics)、及び核分裂阻止因子(mitotic inhibitors)である。アルキル化剤は、がん細胞のDNAに直接働き、その複製を防止する。ブスルファン、シクロフォスファミド及びメルファランは、アルキル化剤の例である。ニトロソ尿素は、DNA修復に必要とされるがん細胞の酵素を阻害する。カルムスチン及びロムスチンは、ニトロソ尿素の例である。代謝拮抗物質は、がん細胞のDNA及びRNAの両方に干渉する。5−フルオロウラシル、メトトレキセート及びフルダラビンは、代謝拮抗物質の例である。抗腫瘍性抗生物質もまた、がん細胞のDNAに干渉するうえ、保護コーティングの外層−細胞膜を変化させる。ブレオマイシン、ドキソルビシン及びイダルビシンは、抗腫瘍性抗生物質の例である。核分裂阻止因子は、がん細胞のタンパク合成に必要とされる酵素を阻害する植物アルカロイドである。ドセタキセル、エトポシド及びビノレルビンは、核分裂阻止因子の例である。
【0035】
ここに開示されるある種の方法は、被験体から生物学的試料を集めることを包含する。生物学的試料の収集は、標準的な方法により行う。典型的には、いったん試料が収集されると、そのバイオマーカーが検出され、測定される。開示されたバイオマーカーは、任意の好適な方法を用いて検出される。さらに、バイオマーカーに対する抗体のような、開示されたバイオマーカーと相互作用又は結合する分子は、公知の技術を用いて検出される。多くの好適な技術、例えば一般にタンパク質、ペプチド及びその他の分析対象物及び抗原の検出について公知の技術が知られており、それらのいくつかは、以下に記載されている。一般に、これらの技術は、直接画像化(例えば顕微鏡術)、イムノアッセイ、又は機能的決定を包含する。機能的決定は、ある所定のバイオマーカー、例えばある機能を有するタンパク質は、その機能の検出によって検出される。例えば、酵素は、その基質に対する活性を評価することによって検出される。
【0036】
免疫検出法は、開示されたバイオマーカーを含む種々の分子を検出、結合、精製、除去及び定量するために用いられる。さらに、開示されたバイオマーカーに対するリガンド及び抗体が検出される。例えば、開示されたバイオマーカーは、それらと反応性を有する抗体を検出するために用いられる。標準的な免疫学的技術は、例えば、「Hertzenberg, et al., Weir’s Handbook of Experimental Immunology, vols. 1-4 (1996)」「Coligan, Current Protocols in Immunology (1991)」「Methods in Enzymology, vols. 70, 73, 74, 84, 92, 93, 108, 116, 121, 132, 150, 162, 及び 163」及び「Paul, Fundamental Immunology (3d ed. 1993)」に記載されており、これらの各々は、特に免疫検出法に関する技術についてその全体が参照によりここに取り込まれる。
【0037】
種々の有用な免疫検出法の工程は、例えば、「Maggio et al., Enzyme-Immunoassay, (1987)」及び「Nakamura, et al., Enzyme Immunoassays: Heterogeneous and Homogeneous Systems, Handbook of Experimental Immunology, Vol. 1: Immunochemistry, 27.1-27.20 (1986)」のような科学文献に記載されており、これらの各々は、特に免疫検出法に関する技術についての教示に関し、その全体が参照によりここに取り込まれる。イムノアッセイは、その最も単純かつ直接の意味において、抗体及び抗原間の結合を包含する結合アッセイである。多くのタイプ及びフォーマットのイムノアッセイが公知であり、全てが、開示されたバイオマーカーを検出するのに適している。イムノアッセイの例は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、放射免疫沈降アッセイ(RIPA)、イムノビーズ捕獲アッセイ(immunobead capture assays)、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、ゲルシフトアッセイ、フローサイトメトリー、タンパク質アッセイ、マルチプルビーズアレイ(multiplexed bead arrays)、磁気捕獲、インビボイメージング、蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer;FRET)、及び蛍光退色後回復/局在測定(fluorescence recovery/localization after photobleaching;FRAP/FLAP)である。
【0038】
一般に、イムノアッセイは、免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で、場合にしたがって、目的の分子(例えば開示されたバイオマーカー)を含有することが疑われる試料を、目的の分子に対する抗体に接触させること、又は目的の分子に対する抗体(例えば開示されたバイオマーカーに対する抗体)を、その抗体により結合される分子と接触させることを含む。目的の分子に対する抗体又は目的の分子に対する抗体によって結合される分子と試料とを、免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに十分な時間及び有効な条件下で接触させる工程は、その分子又は抗体と試料とを単に接触させ、その混合物を、その抗体にとってその抗体が結合し得る任意の存在する分子(例えば抗原)との、すなわちそれに結合する、免疫複合体を形成するのに十分に長い時間インキュベートすることである。多くの形態のイムノアッセイにおいて、試料−抗体組成物、例えば組織切片、ELISAプレート、ドットブロット又はウェスタンブロットを、洗浄して非特異的に結合した抗体種を除去し、一次免疫複合体内で特異的に結合したものだけが検出されることを可能にする。
【0039】
イムノアッセイは、試料中の目的分子(例えば開示されたバイオマーカー又はその抗体)の検出又は定量のための方法を含み、これらの方法は、一般に、結合プロセス中に形成された任意の免疫複合体の検出又は定量を包含する。一般に、免疫複合体形成の検出は、多数のアプローチの適用を通じて達成される。これらの方法は、一般に、放射性、蛍光、生物学的又は酵素的タグあるいは任意の他の公知の標識のような、標識又はマーカーの検出に基づいている。例えば、米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号及び第4,366,241号を参照されたい。これらの各々は、特に免疫検出法及び標識に関する教示について、参照によりその全体がここに取り込まれる。
【0040】
ここで使用する場合、標識は、蛍光染料、結合対のメンバー、例えばビオチン/ストレプトアビジン、金属(例えば金)、又はエピトープタグなどを含み、これらは、例えば着色基質又は蛍光を生成することにより、検出されるべき分子と特異的に相互作用する。検出可能なようにタンパク質を標識するのに適する物質としては、蛍光染料(蛍光色素及び蛍光団としても知られる)及び発色物質と反応する酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)が挙げられる。蛍光染料の利用は、一般に、それらは非常に少量で検出されるので本発明の実施において用いられる。蛍光団は、発光する化合物又は分子である。典型的には、蛍光団は、ひとつの波長で電磁エネルギーを吸収し、第二の波長で電磁エネルギーを放出する。複数の抗原を単一のアレイと反応させる場合においては、各抗原を、同時検出のために異なる蛍光化合物で標識する。アレイ上の標識されたスポットは、蛍光計を用いて検出され、シグナルの存在は特異的抗体に抗原が結合したことを示す。
【0041】
標識は、直接でも間接でもよい。直接標識においては、検出抗体(目的の分子のための抗体)又は検出分子(目的の分子に対する抗体によって結合される分子)が標識を有する。標識の検出は、検出抗体又は検出分子の存在を示し、それが今度は、それぞれ、目的の分子又は目的の分子に対する抗体の存在を示す。間接標識においては、付加的な分子又は部分を、免疫複合体と接触させ、又は免疫複合体の部位で生成させる。例えば、酵素のようなシグナル生成分子又は部分を、検出抗体又は検出分子に付着又は関連させる。シグナル生成分子は、次に、免疫複合体の部位で検出可能なシグナルを生成する。例えば、酵素は、好適な基質を供給された場合、免疫複合体の部位で視認可能又は検出可能な生成物を生成する。ELISAは、このタイプの間接標識を用いる。
【0042】
間接標識の別の例としては、目的分子又は目的分子に対する抗体(一次抗体)のいずれかに結合し得る付加的な分子(結合剤と呼ばれる)、例えば一次抗体に対する二次抗体を、免疫複合体と接触させる。この付加的な分子は、場合によっては標識又はシグナル生成分子もしくは部分を有する。この付加的な分子は、例えば抗体であって、それは二次抗体と名付けられている。一次抗体に対する二次抗体の結合は、第一の(又は一次)抗体及び目的分子とともにいわゆるサンドイッチを形成する。免疫複合体は、二次的免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で十分な時間、標識された二次抗体と接触させられた。この二次的免疫複合体は、一般に、あらゆる非特異的に結合した標識二次抗体を除去するために洗浄され、二次的免疫複合体に残っている標識を、続いて検出することができる。この付加的分子は、ビオチン/アビジン対のように、互いに結合し得る一対の分子又は部分の一つを含む。このモードにおいて、検出抗体又は検出分子は、その対の他のメンバーを含む。
【0043】
他のモードの間接標識は、二工程のアプローチによる一次免疫複合体の検出を含む。例えば、目的分子又は相当する抗体に対して結合親和性を有する、抗体のような分子(これは第一の結合剤と呼ばれる)を、上述のように二次免疫複合体を形成するために用いる。洗浄後、二次免疫複合体を、第一の結合剤に対して結合親和性を有する別の分子(これは第二の結合剤と呼ばれる)と、ここでも免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で十分な時間、接触させる(こうして、三次免疫複合体が形成される)。第二の結合剤は、検出可能な標識又はシグナル生成分子もしくは部分と連結されており、このようにして形成された三次免疫複合体の検出を可能にする。この系は、シグナルの増幅を提供する。
【0044】
タンパク質又は特異的タンパクに対する抗体のような物質の検出に関与するイムノアッセイとしては、無標識アッセイ、タンパク分離法(すなわち電気泳動)、固体支持体捕獲アッセイ(solid support capture assays)、又はインビボ検出が挙げられる。無標識アッセイは、一般に、試料中の、特異的タンパク質又は特異的タンパク質に対する抗体の存在又は不存在を決定する、診断手段である。タンパク分離法は、大きさ(サイズ)又は正味電荷のような、タンパク質の物理的特性を評価するために付加的に有用である。捕獲アッセイは、一般に、試料中の、特異的タンパク質又は特異的タンパク質に対する抗体の濃度を定量的に評価するために、より有用である。最後に、インビボ検出は、物質の空間的発現パターン、すなわちその物質が被験体、組織又は細胞に見出される場所を評価するために有用である。
【0045】
濃度が十分であるとの条件で、抗体−抗原相互作用によって生成された分子の複合体([Ab-Ag]n)は、肉眼で視認可能であるが、より少ない量もまた、光のビームを散乱させるそれらの能力により検出又は測定することができる。複合体の形成は、両方の反応物が存在することを示し、免疫沈降アッセイにおいては、定常的な濃度の試薬抗体が特異的抗原を測定するために用いられ([Ab-Ag]n)、試薬抗原は、特異的抗体を検出するために用いられる([Ab-Ag]n)。もし試薬種が細胞(赤血球凝集アッセイにおけるように)又は非常に小さい粒子(ラテックス凝集アッセイにおけるように)上に先にコーティングされている場合、コーティングされた粒子の塊は、はるかに低濃度で視認可能である。これらの基本的な原理に基づく種々のアッセイが共通に用いられており、それらとしては、オクタロニー免疫拡散アッセイ(Ouchterlony immunodiffusion assay)、ロケット免疫電気泳動、及び免疫濁度測定及び比濁アッセイが挙げられる。このようなアッセイの限界は、標識を用いるアッセイと比較して限られた感度(より低い検出限界)、及び、いくつかの場合には、非常に高濃度の分析対象物は実際に複合体形成を阻害し得るという事実であり、手順をより複雑にするセーフガードが必要となる。これらのグループ1アッセイのいくつかは、抗体の発見にまで遡るものであり、それらのどれもが実際の標識を有していない(例えばAg−enz)。他の種類の無標識のイムノアッセイは、イムノセンサーに依存するものであり、抗体−抗原相互作用を直接検出することができる多様な機器が現在では商業的に入手可能である。ほとんどは、固定化されたリガンドを有するセンサー表面の消失性の波の生成に依存するものであり、これらはリガンドへの結合を連続的に監視することを可能にする。イムノセンサーは、動力学的相互作用の容易な研究を可能にし、専門化された機器の出現と共に、免疫分析に広い応用を提供する。
【0046】
特異的タンパク質の検出のためのイムノアッセイの使用は、例えば、電気泳動によるタンパク質の分離を含む。電気泳動は、電場に応答しての溶液中の荷電分子の移動である。その移動速度は、場の強度、正味電荷、分子の大きさ及び形に依存し、また、イオン強度、分子が移動する媒体の粘度及び温度にも依存する。分析ツールとして、電気泳動は単純、迅速、かつ非常に高感度である。それは、単一の荷電種の特性を研究するために、及び分離技術として、分析的に用いられる。
【0047】
一般に、試料は、紙、酢酸セルロース、スターチゲル、アガロース又はポリアクリルアミドゲルのような支持体マトリックス中を流される。マトリックスは、加熱により引き起こされる対流混合を阻害し、電気泳動実行(ラン)の記録を提供する: ランの最後に、マトリックスは、例えば、染色され、スキャンニング、オートラジオグラフィ又は保存に用いられる。さらに、最も普通に使用される支持体マトリックスであるアガロース及びポリアクリルアミドは、それらが多孔性のゲルであることにおいて、大きさにより分子を分離する手段を提供する。多孔性のゲルは、小さい分子が自由に移動することを可能にする一方、大きな巨大分子の動きを遅延させることにより、又はいくつかの場合には完全に妨害することにより、篩いとして作用する。気薄なアガロースゲルは、一般に同じ濃度のポリアクリルアミドよりも堅く、取扱いが容易であるので、アガロースは、核酸、大きいタンパク質及びタンパク複合体のような大きい巨大分子を分離するために使用される。ポリアクリルアミドは、取扱い及び高濃度での作製が容易であり、遅延のために小さい孔サイズを必要とするほとんどのタンパク質及び小さいオリゴヌクレオチドを分離するために用いられる。
【0048】
タンパク質は、両性の化合物である:したがって、それらの正味の電荷は、それらが懸濁されている媒体のpHによって決定される。その等電点を超えるpHを有する溶液中においては、タンパク質は、正味の負の電荷を有し、電場において陽極に向かって移動する。その等電点より低い場合、タンパク質は、正に荷電し、陰極に向かって移動する。タンパク質が担持する正味の電荷は、さらに、その大きさとは独立である。すなわち、分子の単位質量(又は、タンパク質及び核酸が線状の巨大分子であるとして、長さ)あたりの担持されている電荷は、タンパク質ごとに異なる。したがって、所定のpHで、非変性条件下で、タンパク質の電気泳動による分離は、分子の大きさ及び電荷の両方によって決定される。
【0049】
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、アニオン性界面活性剤であり、ポリペプチド骨格を包み込むことによりタンパク質を変性し、SDSが質量比1.4:1で非常に特異的にタンパク質と結合する。そうすることにおいて、SDSは、ポリペプチドにその長さに比例した負電荷を付与する。さらに、通常、大きさによる分離に必要なランダムコイル立体配置をとる前に、タンパク質中のジスルフィド架橋を還元(変性)することが必要である。これは、2−メルカプトエタノール又はジチオスレイトール(DTT)を用いて行われる。したがって、変性SDS−PAGE分離においては、移動は、ポリペプチドの内在的な電荷によってではなく、分子量によって決定される。
【0050】
分子量の決定は、特徴づけすべきタンパク質と共に、既知の分子量のタンパク質を用いるSDS−PAGEによって行われる。SDS変性ポリペプチド又はネイティブな核酸の分子量(MW)の対数と、そのRfとの間に、直線的な関係が存在する。Rfは、マーカー色素フロントが移動した距離に対するその分子が移動した距離の比として算出される。電気泳動による相対的な分子量(Mr)の簡単な決定方法は、移動距離対既知のサンプルについてのlog10MWの標準曲線をプロットし、同じゲル上で移動距離を測定した後のサンプルのlogMrを読み取ることである。
【0051】
二次元電気泳動においては、タンパク質は、最初は一つの物理的特徴に基づいて分画され、第二の工程において、別の特徴に基づいて分画される。例えば、等電点電気泳動(isoelectric focusing)が、第一次元目のために用いられ、これは慣用的にチューブゲルにおいて行われ、スラブゲルにおけるSDS電気泳動が、第二次元目に用いられる。手順の一例は、「O’Farrell, P.H., High Resolution Two-dimensional Electrophoresis of Proteins, J. Biol. Chem. 250:4007-4021 (1975)」によるものであり、これは、二次元電気泳動法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれる。他の例としては、「Anderson, L and Anderson, NG, High resolution two-dimensional electrophoresis of human plasma proteins, Proc. Natl. Acad. Sci. 74:5421-5425 (1977)」、及び「Ornstein, L., Disc electrophoresis, L. Ann. N.Y. Acad. Sci. 121:321349 (1964)」に記載されているものが挙げられ、これらは、電気泳動法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれるが、これらに限らない。
【0052】
「Laemmli, U.K., Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4, Nature 227:680 (1970)」は、電気泳動法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれるが、これは、SDSを用いて変性されたタンパク質を解像するための不連続系を開示している。このレムリ(Laemmli)緩衝液系におけるリーディングイオンは塩化イオンであり、トレーリングイオンはグリシンである。したがって、解像ゲル及びスタッキングゲルは、(異なる濃度及びpHの)Tris−HCl緩衝液中で作製され、一方、タンク緩衝液はTris−グリシンである。すべての緩衝液は、0.1% SDSを含有する。
【0053】
本方法で企図される電気泳動を用いるイムノアッセイの一例は、ウェスタンブロット解析である。ウェスタンブロッティング又はイムノブロッティングは、タンパク質の分子量の決定及び異なる試料中に存在するタンパク質の相対量の測定を可能にする。検出方法としては、化学発光及び色素磁気(chromagenic)検出が挙げられる。ウェスタンブロット解析の標準的な方法は、例えば、「D.M. Bollag et al., Protein Methods (2d edition 1996)及びE. Harlow & D. Lane, Antibodies, a Laboratory Manual (1988)」、ならびに米国特許第4,452,901号に見出され、これらの各々は、ウェスタンブロット法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれる。一般に、タンパク質を、ゲル電気泳動(通常はSDS−PAGE)によって分離する。タンパク質を、特別のブロッティングペーパー(しかし、他のタイプの紙又は膜も使用される)、例えばニトロセルロースのシートに転写する。タンパク質は、ゲル上におけるのと同じ分離パターンを保持する。ブロットを、(乳タンパクのような)一般的なタンパク質とともにインキュベートし、ニトロセルロース上の残存するあらゆる付着場所に結合させる。次に、その特異的タンパク質に結合することができる抗体をその溶液に添加する。
【0054】
固定化された特異的抗原に対する特異的抗体の付着は、間接酵素イムノアッセイ技術により、通常は発色基質(例えばアルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又は化学発光基質を用いて、容易に可視化される。探索のための他の可能性としては、蛍光又は放射性同位元素標識(例えば、フルオレセイン、125I)の使用が挙げられる。抗体結合の検出のためのプローブは、例えば、抗免疫グロブリン、コンジュゲート化スタフィロコッカスプロテインA(これはIgGと結合する)、又はビオチン化一次抗体に対するプローブ(例えばコンジュゲート化アビジン/ストレプトアビジン)とコンジュゲート化される。
【0055】
この技術のパワーは、その抗原性の手段による特異的タンパク及びその分子量の同時検出にある。タンパク質は、最初にSDS−PAGEにおいて質量により分離され、次に、イムノアッセイ工程において特異的に検出される。したがって、例えば、タンパク質標準(ラダー)は、不均一試料中の目的タンパクの分子量を概算するために、同時に試験される。
【0056】
ゲルシフトアッセイ又は電気泳動移動度シフトアッセイ(electrophoretic mobility shift アッセイ(EMSA))は、DNA結合タンパクとそのコグネート(同種)DNA認識配列との間の相互作用を、定性的及び定量的の両方で検出するために用いられる。例示的な技術は、「Ornstein L., Disc electrophoresis - I: Background and theory, Ann. NY Acad. Sci. 121:321-349 (1964)」、及び「Matsudiara, PT and DR Burgess, SDS microslab linear gradient polyacrylamide gel electrophoresis, Anal. Biochem. 87:386-396 (1987)」に記載されており、これらの各々は、ゲルシフトアッセイに関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれる。
【0057】
一般的なゲルシフトアッセイにおいては、精製タンパク又は粗細胞抽出物を、標識された(例えば32P放射性標識された)DNA又はRNAプローブとともにインキュベートし、続いて、非変性ポリアクリルアミドゲルを通じての遊離プローブからの複合体の分離を行う。複合体は、結合していないプローブよりも遅くゲルを移動する。結合タンパクの活性に応じて、標識プローブは、二本鎖又は一本鎖のいずれかである。転写因子のようなDNA結合タンパクの検出のためには、精製又は部分精製されたタンパク質、又は核細胞抽出物が用いられる。RNA結合タンパク質の検出のためには、精製又は部分精製されたタンパク質、又は核もしくは細胞質細胞抽出物が用いられる。推定結合部位に対するDNA又はRNA結合タンパク質の特異性は、目的のタンパクに対する結合部位を含有するDNAもしくはRNAフラグメント又はオリゴヌクレオチド、又は他の無関係の配列を用いる競合実験により確立される。特異的及び非特異的競合剤の存在下で形成された複合体の性質及び強度の相違は、特異的相互作用の同定を可能にする。http://www.promega.com/faq/gelshfaq.htmlにおいて入手可能な「Promega, Gel Shift Assay FAQ」(最終訪問2005年3月25日)を参照されたい。これは、ゲルシフト法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれる。
【0058】
ゲルシフト法は、例えば、ポリアクリルアミド電気泳動ゲルのようなゲル中のタンパク質を検出するためにコロイド形態のCOOMASSIE (Imperial Chemicals Industries, Ltd)ブルー染色を用いることを含む。このような方法は、例えば、「Neuhoff et al., Electrophoresis 6:427-448 (1985)」、及び「Neuhoff et al., electrophoresis 9:255-262 (1988)」に記載されており、これらの各々は、ゲルシフト法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれる。上述の従来のタンパクアッセイ法に加えて、組合せクリーニング及びタンパク質染色組成物(a combination cleaning and protein staining composition)が米国特許第5,424,000号に記載されており、これは、ゲルシフト法に関する教示についてその全体が参照によりここに取り込まれる。溶液は、リン酸、硫酸、及び硝酸、及びバイオレット染料を含む。
【0059】
放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)は、血清中の特異的抗体を検出するために放射能標識された抗原を用いる高感度のアッセイである。抗原を、血清と反応させ、次いで例えばプロテインAセファロースビーズのような特異的試薬を用いて沈降させる。結合した放射能標識免疫沈降物を、次に、一般にゲル電気泳動によって分析する。放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)は、HIV抗体の存在を診断するための確認試験としてしばしば用いられる。RIPA はまた、当該技術分野においてFarrアッセイ、沈降素アッセイ、放射性免疫沈降素アッセイ; 放射性免疫沈降分析; 放射性免疫沈降分析、及び放射性免疫沈降解析とも呼ばれる。
【0060】
上述の、目的の特異的タンパク質を分離及び検出するために電気泳動を利用するイムノアッセイが、タンパク質の大きさの評価を可能にする一方、それらはタンパク質濃度の評価についてはさほど高感度ではない。しかし、同様に企図されているのは、タンパク質又はタンパク質に対して特異的な抗体が固相支持体(例えばチューブ、ウェル、ビーズ、又は細胞)に結合されて試料中からそれぞれ抗体又は目的のタンパク質を捕獲し、その支持体上でタンパク質又はそのタンパク質に対して特異的な抗体を検出する方法と組み合わされているイムノアッセイである。このようなイムノアッセイの例としては、放射性イムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、タンパク質アッセイ、マルチプルビーズアッセイ(multiplexed bead assay)及び磁気捕獲(magnetic capture)が挙げられる。
【0061】
放射性イムノアッセイ(RIA)は、直接又は間接的に放射性標識された物質(放射性リガンド)を用いて特異的抗体又は他のレセプター系に対する非標識物質の結合を測定する、抗原−抗体反応の検出のための古典的な定量的アッセイである。放射性イムノアッセイは、例えば、バイオアッセイすることなしに血液中のホルモンレベルを試験するために用いられる。非免疫原性物質(例えば、ハプテン)もまた、抗体形成を誘導することができるより大きいキャリアタンパク(例えば、ウシγグロブリン又はヒト血清アルブミン)に結合されている場合には、測定される。RIAは、放射性抗原(タンパク質においてチロシン残基にヨウ素原子を導入する容易さのため、放射性同位元素125I又は131Iがしばしば使われる)をその抗原に対する抗体と混合することを包含する。抗体は、一般にカラム又はビーズのような固体支持体に連結されている。次に、非標識又はコールド抗原を、既知の量で添加し、置き換えられた標識抗原の量を測定する。当初は、放射性抗原は抗体に結合する。コールド抗原が添加されると、その2種は抗体結合部位について競合する。コールド抗原の濃度が高いほど、より多くが抗体に結合し、放射性変異種と置き換わる。結合した抗原は、溶液中の未結合のものから分離され、各々の放射能が結合曲線をプロットするのに使われる。この技術は、極めて高感度かつ特異的である。
【0062】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、又はより総称的にはEIA(酵素イムノアッセイ)は、タンパク質に対して特異的な抗体を検出し得るイムノアッセイである。これらのアッセイにおいては、抗体結合又は抗原結合試薬のいずれかに結合した検出可能な標識は、酵素である。その基質に曝された場合、この酵素は、例えば分光測定、蛍光測定又は視覚的手段により検出される、化学部分を生成するような方式で反応する。検出に有用な試薬を検出可能なように標識するのに使用される酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、アスパラギナーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられるが、これらに限らない。ELISA手順の記載については、「Voller, A. et al., J. Clin. Pathol. 31:507-520 (1978)」;「Butler, J. E., Meth. Enzymol. 73:482-523 (1981)」;「Maggio, E. (ed.), Enzyme Immunoassay, CRC Press, Boca Raton, 1980」;「Butler, J. E., In: Structure of Antigens, Vol. 1 (Van Regenmortel, M., CRC Press, Boca Raton, 1992, pp. 209-259)」;「Butler, J. E., In: van Oss, C. J. et al., (eds), Immunochemistry, Marcel Dekker, Inc., New York, 1994, pp. 759-803」;「Butler, J. E. (ed.), Immunochemistry of Solid-Phase Immunoassay, CRC Press, Boca Raton, 1991)」;「Crowther, “ELISA: Theory and Practice,” In: Methods in Molecule Biology, Vol. 42, Humana Press; New Jersey, 1995」;米国特許第4,376,110号を参照されたい。これらの各々は、特にELISA法に関する教示について、その全体が参照によりここに取り込まれる。
【0063】
ELISA技術の種々の改変法は、当業者には公知である。一つの改変法においては、タンパク質に結合する抗体を、ポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルのような、タンパク親和性を呈する選択された表面上に固定化する。次いで、マーカー抗原を含有することが疑われる試験組成物をウェルに添加する。結合工程及び非特異的結合した免疫複合体を除去するための洗浄工程の後、結合した抗原を検出する。検出は、例えば、検出可能な標識を連結させた、標的タンパクに対して特異的な第二抗体の添加により達成される。このタイプのELISAは、簡便なサンドイッチELISAである。検出は、第二抗体の添加、続いて第二抗体に対して結合親和性を有し、検出可能な標識を連結された第三抗体の添加によっても達成される。
【0064】
別の改変法は、競合ELISAである。競合ELISAにおいては、試験試料は、既知の量の標識抗原又は抗体との結合について競合する。試料中の反応性種の量は、コーティングされたウェルとのインキュベーションの前又はその間に、試料を既知の標識種と混合することにより決定される。試料中の反応性種の存在は、ウェルへの結合に利用可能な標識種の量を低減し、したがって最終的なシグナルを低減するように作用する。
【0065】
用いられるフォーマットに関わらず、ELISAは、コーティング、インキュベーション又は結合、非特異的結合種を除去するための洗浄、及び結合した免疫複合体の検出のような、一定の特徴を共有する。抗原又は抗体は、プレート、ビーズ、ディップスティック、膜又はカラムマトリックスのような固体支持体に連結され、分析されるべき試料は、固定化された抗原又は抗体に適用される。抗原又は抗体のいずれかでプレートをコーティングする際、一般に、プレートのウェルを抗原又は抗体の溶液とともに、一晩又は所定の時間、インキュベートする。プレートのウェルを、次に、不完全に吸着された物質を除去するために洗浄する。ウェルの残存する利用可能な表面を、試験血清に関して抗原的に中立の非特異的タンパクでコーティングする。これらとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン及び粉乳の溶液が挙げられる。コーティングにより、固定化表面の非特異的吸着部位のブロッキングが可能になり、したがって、表面への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを低減することが可能になる。
【0066】
ELISAにおいては、場合によっては、直接的な手順よりむしろ二次又は三次検出手段が使用される。したがって、ウェルへのタンパク質又は抗体の結合、バックグラウンドを低減するための非反応性物質でのコーティング、及び非結合物質を除去するための洗浄の後、固定化表面を、免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下で、コントロール臨床又は試験すべき生物学的試料と接触させる。すると、免疫複合体の検出は、標識された二次結合剤又は二次結合剤及び標識された第三結合剤を必要とする。
【0067】
免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能にするのに有効な条件下とは、それらの条件が、非特異的結合を低減させ、適正なシグナル対ノイズ比を助長するように、抗原及び抗体を、BSA、ウシγグロブリン(BGG)及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenのような溶液で希釈することを含むことを意味する。
【0068】
好適な条件とは、インキュベーションが、有効な結合を可能にするのに十分な温度及び時間であることを意味する。インキュベーション工程は、典型的には、約20℃〜30℃の温度で約1分〜12時間、又は約0℃〜約10℃で一晩である。
【0069】
ELISAにおけるすべてのインキュベーション工程に続いて、接触させた表面を、複合体化していない物質を除去するように洗浄する。洗浄手順は、PBS/Tween又はホウ酸緩衝液のような溶液での洗浄を含む。試験試料及び最初に結合した物質間での特異的免疫複合体の形成に続いて、かつ、その後の洗浄の後に、少量であっても免疫複合体の出現を決定する。
【0070】
検出手段を提供するために、第二又は第三抗体は、例えば、上述したような、検出を可能にするための結合標識を有する。これは、場合によっては適切な発色性基質とのインキュベーションにより発色を生じる酵素である。したがって、例えば、第一又は第二の免疫複合体を標識抗体と、さらなる免疫複合体形成の発生に有利な条件下である一定の時間接触させ、インキュベートする(例えば、PBS−TweenのようなPBS含有溶液中で室温で2時間のインキュベーション)。
【0071】
標識抗体とのインキュベーション後に、かつ未結合物質を除去するための洗浄後に、場合によっては、例えば、酵素標識としてペルオキシダーゼを使用する場合は2,2’−アジド−ジ−(3−エチル−ベンズチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS)及びH又はブロモクレゾールパープル(bromocresol purple)及び尿素のような発色性基質とのインキュベーションにより、標識の量を定量する。定量は、発色の程度を、例えば可視的スペクトル分光光度計を用いて測定することにより達成される。
【0072】
タンパク質アレイは、固相リガンド結合アッセイ系であり、ガラス、膜、マイクロタイターウェル、質量分析計プレート、及びビーズ又は他の粒子を含む表面上に固定化されたタンパク質を用いる。これらのアッセイは、非常に並列的(複合的)であり、しばしば微小化されている(マイクロアレイ、タンパクチップ)。それらの利点は、迅速で自動化可能であり、高感度、試薬が経済的、かつ単一の実験で豊富なデータを与えることを含む。バイオインフォマティクス支持体は、重要である;データのハンドリングは、洗練されたソフトウェア及びデータ比較分析を要求する。しかし、ソフトウェアは、ハードウェア及び検出系の多くがそうであるように、DNAアレイについて使用されるものから採用される。
【0073】
主要なフォーマットの一つは、捕獲アレイであり、ここでは、リガンド結合試薬(これは通常抗体であるが、代替的なタンパク質スキャフォールド、ペプチド、又は核酸アプタマーであることもできる)が血漿又は組織抽出物のような混合物中の標的分子の検出に使用される。診断においては、捕獲アレイは、例えば個々の血清中のいくつかの分析対象物についての試験及び多数の血清試料の同時試験の両方について、複数のイムノアッセイを並行して実施するために用いられる。プロテオミクスにおいては、捕獲アレイは、健常及び疾患状態の異なる試料中のタンパク質レベルを定量及び比較するために、すなわちタンパク発現プロファイリングに用いられる。特異的リガンド結合剤以外のタンパク質は、タンパク−タンパク、タンパク−DNA、タンパク−薬剤、レセプター−リガンド、酵素−基質などのインビトロ機能的相互作用スクリーニングのためにアレイフォーマットで用いられる。捕獲試薬それ自体は、場合によっては、複数のタンパク標的に対する複合アレイフォーマットで、多くのタンパク質に対して選択され、スクリーニングされる。
【0074】
アレイの構築について、タンパク質の供給源としては、組換えタンパクについての細胞ベースの発現系、天然供給源からの精製、無細胞転写系によるインビトロでの生産、及びペプチド合成法が挙げられる。これらの方法の多くが、ハイスループット生産のために自動化されている。捕獲アレイ及びタンパク機能解析のために、タンパク質が正しくフォールディングされており、機能的であることが重要である;例えば、組換えタンパク質は変性条件下で細菌から抽出される場合、これは常にそうとは限らない。それにもかかわらず、変性タンパク質のアレイは、交差反応性についての抗体のスクリーニング、自己抗体の同定及びリガンド結合タンパク質の選択に有用である。
【0075】
タンパク質アレイは、ELISA及びドットブロッティングのようなよく知られたイムノアッセイ法の小型化として設計されており、しばしば蛍光リードアウトを利用し、複数のアッセイを並行して行うことを可能にするハイスループット検出系及びロボット工学により容易化されている。物理的支持体としては、スライドグラス、シリコン、マイクロウェル、ニトロセルロース又はPVDF膜、及び磁気もしくは他のマイクロビーズが挙げられる。平面の表面に置かれたタンパク質のマイクロドロップは、最もよく知られたフォーマットである一方、代替的な構造としては、微小流体工学(microfluidics)の発展に基づくCD遠心機(Gyros, Monmouth Junction, NJ)及びプレート中の工学化マイクロチャンネルのような特別のチップデザイン(例えば、The Living Chip(商標)、Biotrove, Woburn, MA)及びシリコン表面上の微小な3Dポスト(Zyomyx, Hayward CA))が挙げられる。懸濁液中の粒子もまた、それらが同定のためにコード化されていれば、アレイの基礎として用いられる;系としては、マイクロビーズのためのカラーコード化(Luminex, Austin, TX; Bio-Rad Laboratories)、半導体ナノクリスタル(例えば、QDOTS(商標)、Quantum Dot, Hayward, CA)、ビーズのためのバーコード化(ULTRAPLEX(商標) ビーズ、SmartBead Technologies Ltd, Babraham, Cambridge, UK)及び複数金属のマイクロロッド(multimetal microrods)(例えば、 NANOBARCODES(商標)粒子、Nanoplex Technologies, Mountain View, CA)が挙げられる。ビーズは、場合によっては半導体チップ上のプラナーアレイ(planer arrays)に組み立てられる(LEAPS(商標)テクノロジー、Bio Array Solutions, Warren, NJ)。
【0076】
タンパク質の固定化は、カップリング試薬及びカップリングされる表面の性質の両方に関連する。良好なタンパクアレイ支持体表面は、カップリング手順の前後で化学的に安定であり、良好なスポット形態を可能にし、最小限の非特異的結合を示し、検出系においてバックグラウンドを与えず、異なる検出系とも適合性である。用いられる固定化法は、再現性があり、異なる特性(大きさ、親水性、疎水性)のタンパク質に適用可能であり、ハイスループット及び自動化に順応し、十分に機能的なタンパク活性の保持と両立できるものである。表面結合したタンパク質の配向は、活性状態でのリガンド又は基質にそれを呈示する際の重要な因子として認識される;捕獲アレイについては、最も効率的な結合結果は、配向された捕獲試薬を用いて得られ、これは一般にタンパク質の部位特異的標識化を必要とする。
【0077】
タンパク質の固定化の共有結合的及び非共有結合的な方法の両方が用いられ、種々の賛否両論を有する。表面への受動吸着は、方法論的に簡便であるが、定量的又は配向的な制御はほとんどできない。これは、タンパク質の機能的特性を変化させるかもしれず、させないかもしれないのであり、再現性及び効率は変動的である。共有結合カップリング法は、安定な連結を提供し、ある範囲のタンパク質に適用され、良好な再現性を有する。しかし、配向性は変動的である。さらに、化学的誘導体化は、タンパク質の機能を変化させる可能性があり、安定な相互作用性表面を必要とする。タンパク質上のタグを利用する生物学的捕獲法は、安定な連結を提供し、再現性のある配向性でタンパク質を特異的に結合するが、生物学的試薬は、まず最初に適切に固定化されなければならず、アレイは特別な取扱いを必要とし、変動的な安定性を有する可能性がある。
【0078】
いくつかの固定化化学及びタグが、タンパク質アレイの製作のために記載されている。共有結合性の付着のための基材としては、アミノ又はアルデヒド含有シラン試薬でコーティングされたスライドグラスが挙げられる。「VERSALINX」(商標)系(Prolinx, Bothell, WA)においては、可逆的な共有結合カップリングが、フェニルジボロン酸(phenyldiboronic acid)で誘導体化されたタンパク質と支持体表面上に固定化されたサリチルヒドロキサム酸(salicylhydroxamic acid)との相互作用により達成される。これは、低バックグラウンドの結合及び低内在性蛍光をも有し、固定化されたタンパク質が機能を保持することを可能にする。未修飾タンパク質の非共有結合は、三次元ポリアクリルアミドゲルに基づく「HYDROGEL」(商標)(PerkinElmer, Wellesley, MA)のような多孔性構造内で起こる;この基材は、グラスマイクロアレイ上で特に低いバックグラウンドを与え、高キャパシティ及びタンパク機能の保持を有することが報告されている。広く用いられている生物学的カップリング法は、ビオチン/ストレプトアビジン又はヘキサヒスチジン/Ni相互作用を通じたものであり、タンパク質は適切に修飾されている。ビオチンは、二酸化チタン(Zyomyx, Inc., Hayward, CA)又は五酸化タンタル(Zeptosens, Witterswil, Switzerland)のような表面上に固定化されたポリリジン骨格にコンジュゲート化することができる。
【0079】
アレイの製造法としては、ロボット接触印刷法(robotic contact printing)、インクジェット法、圧電性スポット法(piezoelectric spotting)及びフォトリソグラフィが挙げられる。多数の商業的アレイ作製者(例えば、Packard Biosciences, Affymetrix Inc. 及びGenetix)ならびにマニュアル装置(例えば、 V & P Scientific)が利用可能である。細菌のコロニーは、インサイチュでのタンパク発現の誘導のために、場合によってはロボットによりPVDF膜上にグリッド化される。
【0080】
スポットサイズ及び密度の限界にはナノアレイがあり、ナノメーターの空間的スケールのスポットを有し、1mm角より小さい単一のチップ上で数千もの反応が行われるのを可能にする。例えば、BioForce Nanosciences Inc. 及びNanolink Inc.は、商業的に利用可能なナノアレイを開発した。
【0081】
蛍光標識及び検出の方法は、広く用いられている。DNAマイクロアレイの読取りに用いられるのと同じ装置が、タンパク質アレイに適用可能である。差次的なディスプレイのためには、捕獲(例えば、抗体)アレイを、二つの異なる細胞状態からの蛍光標識されたタンパク質で探索するが、ここで、細胞ライセートは異なる蛍光団(例えばCy−3、Cy−5)と直接コンジュゲート化され、標的の豊富さの変化のリードアウトとして色が作用するように混合される。蛍光リードアウト感受性は、チラミドシグナル増幅 (TSA)(PerkinElmer Lifesciences)によって10〜100倍増幅される。プラナー・ウェーブガイド・テクノロジー(Planar waveguide technology)(Zeptosens)は、超高感度の蛍光検出を可能にし、さらに、中間的な洗浄手順がないという利点も有する。高感度は、懸濁ビーズ及び粒子を用い、標識としてフィコエリトリン(Luminex)又は半導体ナノクリスタル(Quantum Dot)の性質を用いて、達成される。多数の新規な代替的なリードアウトが、特に商業的バイオテクの分野で開発されている。これらとしては、表面プラズモン共鳴法(HTS Biosystems, Intrinsic Bioprobes, Tempe, AZ)、ローリングサークルDNA増幅(Molecular Staging, New Haven, CT)、質量分析法(Intrinsic Bioprobes; Ciphergen, Fremont, CA)、共鳴光散乱法(Genicon Sciences, San Diego, CA)及び)及び原子間力顕微鏡法[BioForce Laboratories]の適合が挙げられる。
【0082】
捕獲アレイは、発現プロファイリングのための診断チップ及びアレイの基礎を形成する。それらは、従来の抗体、単ドメイン、設計された骨格(スキャフォールド)、ペプチド又は核酸アプタマーのような高親和性捕獲試薬を利用して、ハイスループットで特異的標的リガンドを結合し、検出する。
【0083】
抗体アレイは、特異性及び許容可能なバックグラウンドの必要とされる特性を有し、いくつかのものは商業的に入手可能である(BD Biosciences, San Jose, CA; Clontech, Mountain View, CA; BioRad; Sigma, St. Louis, MO)。捕獲アレイのための抗体は、従来の免疫法(ポリクローナル血清及びハイブリドーマ)によって、又はファージもしくはリボソームディスプレイライブラリーからの選択後の、通常は大腸菌において発現される組換えフラグメントによって作製される(Cambridge Antibody Technology, Cambridge, UK; BioInvent, Lund, Sweden; Affitech, Walnut Creek, CA; Biosite, San Diego, CA)。従来の抗体に加えて、さらに、Fab及びscFvフラグメント、ラクダ科(camelids)又は設計されたヒト等価物由来の単鎖Vドメインが、場合によっては、アレイにおいて有用である。
【0084】
スキャフォールドという用語は、タンパク質のリガンド結合ドメインを指し、これは、特異性及び親和性の抗体様の特性を有する多様な標的分子と結合することができる複数の変異体へと設計される。これらの変異体は、遺伝子ライブラリーフォーマットで作製され、ファージ、細菌又はリボソームディスプレイにより個々の標的に対して選択される。このようなリガンド結合スキャフォールド又はフレームワークとしては、S. aureusのプロテインAに基づくアティボディーズ(Affibodies)(Affibody, Bromma, Sweden)、フィブロネクチンに基づくトリネクチン(Trinectins)(Phylos, Lexington, MA)及びリポカリン構造に基づくアンチカリン(Anticalins)(Pieris Proteolab, Freising-Weihenstephan, Germany)が挙げられる。これらは、抗体と同様の方法で捕獲アレイ上で用いられ、作製の容易さ及び丈夫さの利点を有している。
る。
【0085】
非タンパク質捕獲分子、特に高い特異性及び親和性でリガンドに結合する単鎖核酸アプタマーもまた、アレイにおいて用いられる(SomaLogic, Boulder, CO)。アプタマーは、Selex(商標)手順(SomaLogic, Boulder, CO)によりヌクレオチドのライブラリーから選択され、それらとタンパク質との相互作用は、共有結合的な付着により、臭化デオキシウリジンの取り込み及び紫外線活性化架橋を通じて強化される(フォトアプタマー)。リガンドへの光架橋は、特異的立体的要件によるアプタマーの交差反応性を低減する。アプタマーは、自動化されたオリゴヌクレオチド合成による製造の容易さならびにDNAの安定性及び丈夫さの利点を有する。フォトアプタマーアレイ上では、ユニバーサル蛍光タンパク染色が結合の検出に用いられる。
【0086】
抗体アレイに対するタンパク分析対象物の結合は、直接又は間接的に、例えば二次抗体を介して、検出される。直接標識法は、異なる色を有する異なる試料の比較に用いられる。同じタンパク質リガンドに向けられた抗体の対が利用可能である場合、サンドイッチイムノアッセイは、高い特異性及び感度を提供し、したがって、サイトカインのような低含有量のタンパク質のために選択される方法である。これらはまた、タンパク修飾の検出の可能性をも与える。無標識検出法は、質量分析法、表面プラズモン共鳴法及び原子間力顕微鏡法を含み、リガンドの変更を回避する。あらゆる方法に必要とされるのは、最適な感度及び特異性、及び高いシグナル対ノイズ比を与えるための低いバックグラウンドである。分析対象物の濃度は広い範囲をカバーするため、感度は、適当にあつらえなければならない。異なる親和性の抗体の使用又は試料の連続希釈は、この問題に対する解決法である。目的のタンパク質は、しばしば体液又は抽出物中で低濃度のものであり、サイトカイン又は細胞中での低発現生成物のようにpg(ピコグラム)以下の範囲での検出を必要とする。
【0087】
捕獲分子のアレイの一つの代替法は、分子インプリンティング技術を通じて作製され、ここではペプチド(例えば、タンパク質のC末端領域由来のもの)を鋳型として用いて、重合可能なマトリックス中に構造的に相補的な配列特異的な空洞を生成する。この空洞は、次に、適切な一次アミノ酸配列を有する(変性した)タンパク質を特異的に捕獲することができる(ProteinPrint(商標)、Aspira Biosystems, Burlingame, CA)。
【0088】
診断的に及び発現プロファイリングにおいて有用な別の方法論は、ProteinChip(登録商標)アレイ(Ciphergen, Fremont, CA)であり、これは、固相クロマトグラフィ表面が、血漿又は腫瘍抽出物のような混合物由来の同様の電荷又は疎水性の特徴を有するタンパク質を結合し、SELDI−TOF質量分析法を用いて保持されたタンパク質を検出するものである。
【0089】
大量機能チップは、多数の精製タンパク質を固定化することにより構築されてきたものであり、他のタンパク質とのタンパク相互作用、薬剤−標的相互作用、酵素−基質などのような広範囲の生化学的機能をアッセイするために用いられる。一般に、それらは、大腸菌、酵母などにクローニングされ、そこから発現されたタンパク質が例えばHisタグを介して精製され固定化される、発現ライブラリーを必要とする。無細胞タンパク質転写/翻訳は、細菌又はその他のインビボ系においてうまく発現しないタンパク質の合成のための現実的な代替法である。
【0090】
タンパク−タンパク相互作用の検出について、タンパク質アレイは、細胞ベースの酵母二ハイブリッド系のインビトロの代替法であり、分泌タンパク質又はジスルフィド架橋を有するタンパク質が関与する相互作用のように、後者が欠損している場合に有用である。アレイ上での生化学的活性のハイスループット分析は、酵母タンパク質キナーゼ及び酵母プロテオームの種々の機能(タンパク−タンパク及びタンパク−脂質相互作用)に関して記載されており、ここではすべての酵母オープンリーディングフレームの大部分がマイクロアレイ上に発現され固定化された。大量プロテオームチップもまた、機能的相互作用の同定、薬剤スクリーニングなどにおいて有用である(Proteometrix, Branford, CT)。
【0091】
個々の要素の二次元ディスプレイとして、タンパク質アレイは、抗体、合成スキャフォールド、ペプチド及びアプタマーを含む特異的結合パートナーを選択するために、ファージ又はリボソームディスプレイライブラリーをスクリーニングするために用いられる。このようにして、ライブラリー対ライブラリーのスクリーニングが行われる。コンビナトリアル化学ライブラリーにおける薬剤候補対ゲノムプロジェクトから同定されたタンパク標的のアレイのスクリーニングは、このアプローチの別の適用である。
【0092】
マルチプルビーズアッセイ(Multiplexed bead assays)は、可溶性分析対象物を捕獲し定量するために用いられる一連のスペクトル的に別個の粒子を使用する。分析対象物は、次に、蛍光ベースの発光の検出及びフローサイトメトリー分析によって測定される。マルチプルビーズアッセイは、ELISAベースのアッセイと匹敵するデータを生成するが、複合的又は同時の形式でこれを行う。未知のものの濃度は、任意のサンドイッチフォーマットのアッセイの場合のように、すなわち既知の標準物の使用を通じて未知のものを標準曲線に対してプロットすることにより、サイトメトリックビーズアレイについて計算される。さらに、マルチプルビーズアッセイは、試料容量の限界のため以前は決して考えられなかった試料中の可溶性分析対象物の定量を可能にする。定量的データに加えて、強力な視覚的イメージが生成され、一目で付加的な情報をユーザーに提供する独特のプロファイル又はシグネチャーが明らかにされる。
【0093】
開示された方法のいくつかの例においては、バイオマーカーの発現レベルを評価する場合、そのレベルは、参照(リファレンス)標準におけるそのバイオマーカーの発現レベルと比較する。参照標準とは、がんを持たない、選択されたがんのステージの、又は治療剤のような特定の変数の不在下の、試料又は被験体由来の特定のバイオマーカーの発現レベルを意味する。あるいは、参照標準は、既知量のバイオマーカーを含む。このような既知量は、がんを持たない、選択されたがんのステージの、又は治療剤のような特定の変数の不在下の、被験体の平均的レベルと相関する。参照標準はまた、ここで記載される1又は2以上の選択された試料又は被験体由来の1又は2以上のバイオマーカーの発現レベルを含む。例えば、参照標準は、がんを持たない、がんの選択された進行ステージにある、又はがんの治療を受けていない、被験体由来の試料中の1又は2以上のバイオマーカーの発現レベルの評価を含む。別の例示的な参照標準は、がんを持たない、がんの選択された進行ステージにある、又はがんの治療を受けていない、複数の被験体から採取された試料中の1又は2以上のバイオマーカーの発現レベルの評価を含む。
【0094】
参照標準が治療剤の不在下の試料中又は被験体の1又は2以上のバイオマーカーの発現レベルを含む場合、コントロール試料又は被験体は、場合によっては、ある治療剤での治療の前後の同じ試料又は被験体であるか、又はその治療剤の不在下の選択された試料又は被験体である。あるいは、参照標準は、特定のがんを有さない多数の被験体から算出された平均的発現レベルである。参照標準はまた、当該技術分野において公知のコントロールレベル又は値を含む。ここで開示された方法の一つの側面において、参照標準をがんを有すると診断された被験体と年齢についてマッチングさせることが望ましい。
【0095】
2つの異なる試料(例えば、がんを有すると診断された被験体由来の試料と参照標準)からのタンパク発現レベルを比較するための一つの技術においては、各試料を別々に2Dゲル電気泳動に供する。あるいは、各試料を、異なるように標識化し、両試料を同じ2Dゲルに供する。例えば、「Unlu et al. Electrophoresis, 1997;18:2071-2077」を参照されたい。これは、少なくともタンパク発現のレベルの評価及び比較の方法の教示に関して、参照によりここに包含される。各試料中の同じタンパク質又は一群のタンパク質を、2D電気泳動によって解像されたタンパク質パターン内での相対的な位置により同定する。第一の試料中の1又は2以上のタンパク質の発現レベルを、次に、第二の試料中の同じタンパク質の発現レベルと比較し、それによって、その二つの試料間で異なって発現されるタンパク質又は一群のタンパク質(例えば、バイオマーカー)の同定を可能にする。この比較は、被験体について、がんを有する疑いを持たれる前後、治療的養生法を開始する前後、及びその治療的養生法のコースの間中、行われる。
【0096】
別の技術において、1又は2以上のタンパク質の発現レベルは、総発現タンパク質のパーセンテージとしての、単一試料中のものである。この評価された発現レベルを、予め存在する参照標準と比較し、それによって、参照標準に関して試料中で異なって発現されるタンパク質の同定を可能にする。
【0097】
Genbankで開示されているバイオマーカーならびにここで開示された任意の他のタンパク質に関連する種々の配列があり、これらの配列及びその他のものは、参照によりその全体が、そこに含まれる個々のサブ配列と同様、ここに包含される。したがって、種々の配列がここで提供され、これら及びその他のものは、http://www.ncbi.nih.gov/entrez/query.fcgiのGenbankにおいて見出される。当業者は、いかにして配列の不一致及び相違を解決するか、及び特定の配列に関する組成物及び方法を他の関連配列に適合させるかを理解する。プライマー及び/又はプローブは、ここに開示される情報及び当該技術分野で公知の情報が与えられれば、任意の配列について設計される。例えば、ヒトALDOAの遺伝子配列は、GenBank受託番号NM_000034に見出される。ヒトPGK1の遺伝子配列は、GenBank受託番号NM_000291に見出される。ヒトPRDX1の遺伝子配列は、GenBank受託番号NM_002574に見出される。ヒトCOF1の遺伝子配列は、GenBank受託番号NM_005507に見出される。ヒトヒストンH4の遺伝子配列は、GenBank受託番号NM_175054に見出される。
【0098】
同様に提供されるのは、ALDOA、PGK1、PRDX1、COF1及びヒストンH4の2以上について特異的な抗体を含む検出キットである。場合によっては、検出キットは、ALDOA、PGK1、及びPRDX1に対して特異的な抗体を含む。場合によっては、検出キットは、アッセイ系において、ALDOA、PGK1、PRDX1、COF1、及びヒストンH4の2以上に対して特異的な抗体を含む。キットは、例えば、ここで記載された方法を実施するための指示をさらに含む。このようなキットは、場合によっては、標識手段及び/又は治療剤を含む。同様に提供されるのは、試料中のALDOA、PGK1、PRDX1、COF1、及びヒストンH4の2以上のレベルを決定するための固体支持体及び検出手段を含むマルチプルアッセイ系である。検出手段は、ALDOA、PGK1、及びPRDX1のレベルを決定するための任意の既知又は新規に見出された組成物又は系である。例えば、検出手段は、抗体又はその他のバイオマーカー特異的リガンドを含む。固体支持体としては、薄いフィルム又は膜、ビーズ、ボトル、ディッシュ、ファイバー、光学ファイバー、織布、チップ、コンパクトディスク、形成ポリマー(shaped polymers)、粒子及び微粒子のような、任意の有用な形態が挙げられる。チップは、長方形又は正方形の小さい材料片である。固体状態の基材のための好ましい形態は、薄いフィルム、ビーズ又はチップである。
【実施例】
【0099】
(実施例)
(実施例1)
材料及び方法
抗体: アゴニスト性抗ヒトDR5抗体、TRA−8は、Ichikawaら(Ichikawa et al., Nat. Med. 7:954-60 2001)により記載されたとおりに調製した。抗ALDOA、抗COF1、及び抗PGK1抗体は、Santa Cruz Biotechnology, Inc. (Santa Cruz, CA)から購入した。抗ヒストンH4及び抗PRDX1抗体は、Upstate Group, Inc. (Charlottesville, VA)から購入した。カンプトテシン誘導体であるCPT−11(Pfizer Inc., New York, NY)及び白金化合物オキサリプラチン(Sanofi-Aventis, Bridgewater, NJ)は、アラバマ大学バーミンガム校病院薬局(the University of Alabama at Birmingham Hospital Pharmacy)(Birmingham, AL)から入手した。タキソイドのパクリタキセルは、Sigma-Aldrich Co. (St. Louis, MO)から購入した。
【0100】
細胞: COLO205ヒト結腸がん細胞及びNCI−H2122ヒト肺がん細胞は、4.5g/l グルコース、10mM HEPES、1mM ピルビン酸ナトリウム、及び10%熱非働化ウシ胎児血清(FBS; HyClone Laboratories, Logan, UT)を添加したRPMI−1640培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で維持した。WiDrヒト結腸がん細胞及びA−427ヒト肺がん細胞は、0.1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸ナトリウム、及び10% FBSを添加した最少必須培地(Invitrogen)中で培養した。HT−29ヒト結腸がん細胞は、10mM HEPES、1mM ピルビン酸ナトリウム、及び10% FBSを添加したRPMI−1640培地中で成育させた。ヒト乳がん細胞株MDA−MB−231の2LMPサブクローンは、10% FBSを含有するダルベッコ(Dulbecco)改変イーグル培地(Invitrogen)中で維持した。BT−474ヒト乳がん細胞は、10mg/ml インスリン、4.5g/l グルコース、10mM HEPES、1mM ピルビン酸ナトリウム、及び10% FBSを添加したRPMI−1640培地中で培養した。すべての細胞株は、5% COの加湿雰囲気中で37℃で成育させた。
【0101】
培養上清の試料調製: 2−DEのために、COLO 205細胞(2×10 細胞)をリン酸緩衝生理食塩水調製DPBS(Mediatech, Herndon, VA)で洗浄し、血清欠乏条件下で37℃で24時間インキュベートした。無血清培地での洗浄後、細胞を、10mlの無血清培地中でTRA−8の存在下又は不存在下で37℃で24時間処理した。培養上清は、10,000×gで4℃、30分の遠心分離により回収し、Centriplus(Millipore, Billerica, MA)により濃縮して、アセトンで沈殿させた。沈殿物を、READYPREP(商標)再水和/試料緩衝液(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)に再溶解した。イムノブロッティング分析のためには、細胞(1×10細胞)をプレートに播き、完全培地中で37℃で24時間培養した。細胞を無血清培地で洗浄し、5mlの無血清培地中でTRA−8又は化学治療剤の存在下又は不存在下で37℃で24時間処理した。培養上清を、遠心分離によって回収し、濃縮し、アセトンで沈殿させた。沈殿物を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)試料緩衝液(62.5mM Tris−HCl、pH6.8、5%2−メルカプトエタノール、2%SDS、10%グリセロール、及び0.002% ブロモフェノールブルー)に再溶解した。
【0102】
二次元ゲル電気泳動: 培養上清試料を、一晩の受動的再水和によりREADYSTRIP(商標)IPGストリップ、pH3−10(Bio-Rad Laboratories)に供した。等電点電気泳動(IEF)を、PROTEAN(登録商標)IEFセル(Bio-Rad Laboratories)を用いて行った。IEF電圧は、以下のパラダイムにしたがって適用した: 250Vで20分、8000Vで2.5時間、及び8000Vで20kVhに達するまで。IEFの後、ストリップを、READYPREP(商標)平衡化緩衝液I(Bio-Rad Laboratories)中で室温で10分間平衡化し、次いで、READYPREP(商標)平衡化緩衝液II(Bio-Rad Laboratories, Inc.)中で室温で10分間インキュベートした。第二次元目の電気泳動は、CRITERION(登録商標)Tris−HClゲル、8−16%(Bio-Rad Laboratories)を用いて行った。ゲルを、SYPRO(登録商標)(Molecular Probes, Carlsbad, California) Ruby タンパク質ゲル染色(Bio-Rad Laboratories) を用いて製造者の指示書にしたがって染色した。
【0103】
タンパク質スポットの解析及び同定: PDQUEST(登録商標)2−D解析ソフトウェア(Bio-Rad Laboratories)を用いてスポット検出及びゲル間のマッチングを行った。選択されたスポットを、ゲルから切り出し、50% CHCNを含有する20mM NHHCOを用いて脱色し、CHCNを用いて脱水し、乾燥した。ゲル片を再水和し、10ng/mlのシークエンシング等級改変トリプシン(Promega Co., Madison, WI)を含有する10μlの20mM NHHCO、p 8.0を用いて37℃で12時間消化した。得られたペプチドを、0.05%蟻酸で1回及びCHCN中0.05%の蟻酸で2回、抽出した。プールした試料を2〜3μlまで蒸発させ、10μlの0.05%蟻酸を添加し、タンデムMSを装備した液体クロマトグラフィ(LC−MS/MS)により解析した。
【0104】
LC−MS/MS実験は、DiNa(KYA Technologies Co., Tokyo, Japan)を装備したQ−Tof Ultima API質量分析機(Waters Co., Milford, MA)を使用して、Develosil ODS−HG(3μm、Nomura Chemical Co., Ltd., Aichi, Japan)を充填した自家製ESIチップカラムを用いて実施した。ペプチドの溶出は、流速200nl/minで35分間にわたる0〜35% CHCN線状グラジエントを用いて実施した。試料容量は5μlであった。これらのMS/MSスペクトルを、Mascot(Matrix Science Inc., Boston, MA)を用いてGenBank非重複性タンパク質データベースに対して検索した。
【0105】
イムノブロッティング解析: 培養上清試料を、SDS−ポリアクリルアミドゲル(PAGE)及びその後のイムノブロッティングにおいて解像した。ALDOA、COF1、又はPGK1は、ヤギ抗ALDOA、抗COF1又は抗PGK1抗体及びペルオキシダーゼコンジュゲート化ウサギ抗ヤギIgG(Southern Biotechnology Associates, Birmingham, AL)をそれぞれ一次抗体及び二次抗体として用いて検出した。ヒストンH4又はPRDX1は、抗ヒストンH4又は抗PRDX1抗体及びペルオキシダーゼコンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG、マウス/ヒトads−HRP(Southern Biotechnology Associates)をそれぞれ一次抗体及び二次抗体として用いて検出した。ECLウェスタンブロッティング検出試薬(GE Healthcare, Chalfont St. Giles, UK)を、製造者の指示書にしたがって用いた。
【0106】
フローサイトメトリー解析: 細胞表面上のDR5の発現を検出するために、細胞(1×10個)を、5%FBSを含有するPBSで洗浄し、5μg/ml TRA−8又はアイソタイプ特異的マウスIgG1(Southern Biotechnology Associates, Inc., Birmingham, Alabama)を用いて4℃で30分間インキュベートした。5%FBS含有PBSで洗浄した後、細胞を、5μg/mlフィコエリトリン(PE)コンジュゲート化ヤギ抗マウスIgG1(Southern Biotechnology Associates, Inc.)を用いて4℃で30分間処理した。次に、細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで固定し、FACScanフローサイトメーター及びCellQuest ソフトウェア(BD, Franklin Lakes, NJ)で解析した。
【0107】
細胞生存度の解析: 血清の影響を調べるために、細胞(2×10個)を96ウェルマイクロプレートのウェルに播き、完全培地中で37℃で24時間培養し、無血清培地で洗浄し、さらに100μlの完全培地又は無血清培地中で、示した時間、37℃でインキュベートした。細胞生存率は、ATPlite(商標)−M発光アッセイシステム(PerkinElmer, Inc., Waltham, MA)を製造者の指示書にしたがって使用した細胞ATPレベルの測定により評価し、コントロールとして用いた、完全培地中で培養された細胞の発光値に対するパーセンテージとして決定した。細胞生存率のアッセイは、三連の実験で繰返した。データは、スチューデントtテストにより統計的に解析した。スチューデントtテストの場合、等質性(homogeneity)の分散が拒絶されれば(Fテストにより、P<0.05)、ウェルチテストが適用された。確率値(P値)0.05未満は、統計的に有意であると考えられた。すべてのP値は小数点以下4桁で四捨五入された。
【0108】
無血清条件下でのTRA−8の影響を調べるために、細胞を上述のとおりに培養し、無血清培地で洗浄し、100μlの無血清培地中でTRA−8又は化学治療剤の存在下又は不存在下で、37℃で、示した時間、培養した。細胞生存率は、ATPLite(商標)アッセイ(PerkinElmer, Inc., Waltham, MA)を用いて評価し、コントロールとして用いた未処理の細胞の発光値に対するパーセンテージとして決定した。細胞生存率のアッセイは、三連の実験で繰返した。
【0109】
腫瘍担持マウスからの血清の調製: COLO 205細胞(1×10個)を第0日目に無胸腺ヌードマウスに皮下接種した。マウスをランダムにグループ分けした。各群は3匹のマウスから成っていた。TRA−8(10mg/kg)は、第16日及び20日にマウスに腹腔内投与した。CPT−11(33mg/kg)は、第17日及び21日にマウスに静脈内投与した。固形腫瘍の長さ及び幅を週に2回測定した。腫瘍体積(mm)は、a×b/2(ここで、a及びbは、それぞれ腫瘍の長さ及び幅(mm)である)として算出した。腫瘍の大きさは、第16日の腫瘍体積に対するパーセンテージとして決定した。血清は、第23日に腫瘍担持マウスから入手した。
【0110】
ELISAの確立: 雌のBALB/cマウスを、組換えPRDX1で免疫した。局所リンパ節からのリンパ球を、NS−1ミエローマ細胞と融合させた。陽性のハイブリドーマを、ELISAにより組換えPRDX1に対してスクリーニングした。いくつかの抗体を得た後、ELISAプレートを捕獲抗体でコーティングし、PBS中3%BSAでブロッキングした。各タンパク質は、ビオチンコンジュゲート化抗体及びその後にペルオキシダーゼコンジュゲート化ストレプトアビジンを用いて検出した。450nmでの吸光度(A450)を、マイクロプレートリーダーを用いて測定した。血清中の各タンパクレベルは、A450値として決定した。
【0111】
結果
抗DR5モノクローナル抗体TRA−8は、架橋剤又は表面接着の不在下で内在的なアゴニスト活性を有し、インビトロで種々のがん細胞にアポトーシスを誘導する。さらに、TRA−8は、単独で、及び化学療法及び/又は放射線療法との組合せで、種々のヒト腫瘍異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を有する。しかし、DR5が細胞上に発現されていても、異なる程度のTRA−8感受性ががん細胞間で観察されてきた。現在、TRA−8効果の予測のためのバイオマーカーは存在しない。
【0112】
タンパク質は、アポトーシスの間にがん細胞から放出又は分泌されることができ、結果としてのこれらのタンパク質の変化したレベルは、治療剤に対するがん細胞の応答を反映する可能性がある。これらのタンパク質を、例えばTRA−8のような、治療剤の効果を監視及び予測するためのバイオマーカーとして用いることが可能である。このようなタンパク質を見出すために、MSとカップリングさせた2−DEを、相対的に豊富なタンパク質に照準を合わせるためにいくつかのプロテオミクス技術から選択した。ヒト結腸がん細胞株COLO 205は表面にDR5を発現し、TRA−8に対して最も感受性の高い細胞株の一つであることが決定されたので、この細胞株を、TRA−8感受性細胞から放出されるタンパク質を見出すために用いた。放出された又は分泌されたタンパク質は、容易にアクセス可能な試料である患者の血清又は血漿中に検出されるため、潜在的なバイオマーカーとして価値がある。TRA−8処理したCOLO 205細胞の培養上清を2−DEで解像し、続いてSYPRO Rubyで染色した後、培養上清のプロテオミクスのプロファイルを、PDQUEST(登録商標)2−D解析ソフトウェアを用いたゲル間の比較に基づいて得た(図1)。本発明者らは、6種のタンパク質スポットがTRA−8処理によって培養上清に出現することを見出した。これらのタンパク質は、MSによってPGK1、ALDOA、プロテアソーム・サブユニット・ベータ・タイプ1(PSB1)、PRDX1、COF1、及びヒストンH4と同定された(表2)。これらのデータは、TRA−8処理に際してCOLO 205細胞から培養上清中に放出されたこれらのタンパク質が、この抗体の細胞毒性効果を監視するためのバイオマーカーであることを示唆する。
【0113】
抗がん薬に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーの発見の目的のために、抗DR5抗体(TRA−8)を抗がん薬として用いた。15種のヒト結腸がん細胞株のパネルを、TRA−8媒介性アポトーシスに対するインビトロ感受性についてスクリーニングした(表1)。TRA−8媒介性アポトーシス中の放出されたタンパク質のプロファイルを決定するために、TRA−8処理に対して感受性が非常に高いことからCOLO 205細胞を最初のスクリーニングについて選択した。COLO 205ヒト結腸がん細胞をTRA−8の存在下及び不存在下で処理した後、培養上清を、二次元ゲル電気泳動で解像し、コントロール及びTRA−8処理COLO 205細胞から放出された差次的に発現されたタンパク質を、PDQuest 2−D解析ソフトウェアを用いて決定した(図1)。非処理の細胞の場合と比較して、TRA−8処理の用量の増大に伴って放出タンパク質の増大が存在した(図1、丸)。質量分析法での解析は、TRA−8処理されたCOLO205細胞の培養上清中のこれらの新たに放出されたタンパク質が、フルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼA(ALDOA)、 コフィリン1(COF1)、ヒストンH4、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、及びペルオキシレドキシン1(PRDX1)であることを示した(表2)。これらのタンパク質の増大した発現レベルは、特異的抗体を用いたウェスタンブロッティングによってさらに確認された。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
COLO205細胞の培養中のこれらの同定されたタンパク質が、腫瘍細胞のTRA−8感受性と相関しているかどうかを決定するために、3種のヒト結腸細胞株、COLO205、WiDr及びHT29(これらはTRA−8媒介性アポトーシスに対する異なる感受性を代表する)を選択した。これらの細胞は、血清欠乏条件においてTRA−8で処理したので、細胞生存率に対する血清欠乏の影響を調べた。血清欠乏は、3種の細胞株の細胞生存率にほとんど又は全く影響せず、この3種の細胞間でのTRA−8感受性のパターンは変化しなかった(図2A)。放出されたタンパク質の基底レベルは、3種の細胞株間で有意に異なっており、それは、腫瘍細胞のTRA−8媒介性アポトーシスに対する感受性と相関しているようであった。非常に感受性の高いCOLO205細胞は最も高い基底(ベースライン)レベルのALDOA、COF1、PGK1及びPRDX1を放出した。TRA−8に対して中程度に感受性の細胞であるWiDrは、基底レベルの2種のタンパク質、PGK1及びPRDX1を放出し、一方、TRA−8抵抗性細胞であるHT29は、検出可能な基底レベルのこれらのタンパク質のいずれも放出しなかった(図2B)。異なる用量のTRA−8での処理に際して、培養上清中へのCOLO205細胞からのこれらの5種のすべてのタンパク質の放出は、非常に低用量(10ng/ml)のTRA−8とのインキュベーションによって増大した。これらのタンパク質の有意な増大は、より高い用量(>100ng/ml)でのTRA−8処理に際してWiDr細胞において観察された。これに対し、TRA−8抵抗性HT29細胞は、低用量のTRA−8処理で有意なレベルのこれらのタンパク質(PGK1を除く)を放出せず、高用量(1μg/ml)でのTRA−8はCOF1及びPRDX1の放出のために必要であった。これらの結果は、これらのタンパク質の基底レベル及びTRA−8誘導レベルの両方が、TRA−8媒介性アポトーシスに対する腫瘍細胞の感受性と相関している可能性があることを示唆する。
【0117】
これらの同定されたタンパク質が、他のタイプのヒトがん細胞についても普遍的であるかどうかを決定するために、これらのタンパク質の変更を、2LMP及びBT−474ヒト乳がん細胞株において試験した。血清欠乏は、2LMP(96%)及びBT−474(87%)の細胞生存率にほとんど影響しなかった。この条件下で、TRA−8は、2LMP細胞に対し有意な細胞毒性効果を有していたが、BT−474細胞には有していなかった(図3A)。TRA−8での2LMP細胞の処理に際して、培養上清中へのALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1、及びPRDX1の放出は、有意に増大した(図3B)。BT−474細胞がTRA−8で処理された場合、ALDOA及びPRDX1の増大が検出された。高濃度(1μg/ml)のTRA−8での処理に際してのみ、培養上清中のCOF1及びヒストンH4の増大が示された。PGK1は、培養上清中で最小限の増大を示した。これらのデータは、ALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1及びPRDX1の放出がヒト乳がん細胞に対する抗DR5抗体の細胞毒性効力と関連していることを明らかにする。
【0118】
次に、ヒト肺がん細胞株NCI−H2122及びA−427を用いた。ヒト結腸及び乳がん細胞を用いた場合と同様に、血清欠乏は、NCI−H2122(87%)及びA−427(82%)の細胞生存率にほとんど影響しなかった。図4Aに示すように、TRA−8は、この条件下でNCI−H2122細胞に対して有意な細胞毒性効果を示したが、A−427細胞に対しては示さなかった。TRA−8処理に際し、培養上清中へのALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1、及びPRDX1の放出は、NCI−H2122細胞から増大した(図4B)。A−427細胞がTRA−8で処理された場合、PRDX1の増大が検出された。最終濃度1μg/mlのTRA−8処理に際してのみ、培養上清中のALDOA、COF1、及びヒストンH4の増大が示された。PGK1は、培養上清中でわずかに増大した。これらの結果は、ALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1及びPRDX1の放出がヒト肺がん細胞に対する抗DR5抗体の細胞毒性効力と相関していることを示す。
【0119】
TRA−8処理後の培養上清中の候補バイオマーカーの経時変化を分析した場合、これらのバイオマーカーは、TRA−8の効力を予測するのに十分に感受性であった(図5)。ALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1及びPRDX1は、種々の程度のTRA−8感受性が観察されるヒトがん細胞を用いてTRA−8の効果を監視するための潜在的バイオマーカーとして同定された。TRA−8処理に際してこれらの放出された分子がいかに早く検出され得るかを試験するために、TRA−8感受性細胞株COLO205、WiDr、2LMP、及びNCI−H2122を使用した。図5Aに示すように、TRA−8は、時間依存性の様式でこれらの細胞株に対して有意な細胞毒性効果を有していた。NCI−H2122細胞の成育は他の細胞より遅いため、NCI−H2122細胞に対するTRA−8の効果は、他のTRA−8感受性細胞に対する効果よりも弱く見えることが示された。TRA−8媒介性アポトーシスの間に、すべての候補バイオマーカーは時間依存性の様式で細胞から放出されたが、放出されたバイオマーカーの程度は細胞間で様々であった(図5B)。放出されたALDOA及びPRDX1の増大は、TRA−8処理の1又は2時間後に観察された一方、TRA−8はこれらの時点では細胞生存率に対して有意な効果を示さなかった。他の分子もまたTRA−8処理に際して増大したが、COF1及びH4の放出されたレベルは、初期の時点では低く、放出されたPGK1の変化は小さかった。これらの結果は、ALDOA及びPRDX1は候補バイオマーカーのなかでTRA−8の細胞毒性効果を予測するためのより高感度で検出可能なバイオマーカーであることを示唆する。
【0120】
次に、候補バイオマーカーに対する化学療法剤の効果を評価した。いくつかの化学療法剤は、細胞に対して細胞毒性効果を達成するために長期間のインキュベーションを必要とする。24時間の血清欠乏は、COLO 205、WiDr、及びHT−29の細胞生存率に対して最小限の効果しか有さなかった。これに対し、48時間の血清欠乏は、細胞に対して影響を与えた。この条件下で、CPT−11、オキサリプラチン、及びパクリタキセルを、化学療法剤として用いた。細胞を化学療法剤で24時間処理した場合、オキサリプラチンは、WiDr細胞に対して有意な効果を有していた(図6A)。CPT−11は71%のCOLO 205細胞を殺し、オキサリプラチンは41%のCOLO 205細胞及び99%のWiDr細胞を殺し、そしてパクリタキセルは62%のCOLO 205細胞及び72%のWiDr細胞を殺した。イムノブロッティングにより、培養上清中へのALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1及びPRDX1の放出はオキサリプラチンでの処理に際して増大したことが示された(図6B)。化学療法剤との48時間のインキュベーションで、オキサリプラチン及びパクリタキセルは、COLO 205細胞及びWiDr細胞の細胞生存率に影響し、CPT−11はCOLO 205細胞に対して有意な影響を有していた(図6C)。この条件下で、培養上清中に検出されたALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1及びPRDX1のレベルは、化学療法剤の細胞毒性効果に依存していた(図6D)。細胞から放出されたバイオマーカーの増大は、化学療法剤の細胞毒性効果と相関していた。これらのデータは、ALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1及びPRDX1はヒトがん細胞に対する化学療法剤の細胞毒性効力を予測するためのバイオマーカーとして有用であることを明らかにする。
【0121】
がん細胞及び組織が高レベルのPRDX1及びPGK1を発現したかどうかを決定するために、これらのタンパク質に対するモノクローナル抗体のパネルを開発した。ヒトがん細胞株のパネルを用いたウェスタンブロット解析により、試験したすべてのヒトがん細胞が、高レベルのPRDX1(図7A)及びPGK1(図7B)を発現したことが明らかになった。ヒト卵巣がん組織のパネルの免疫組織学的染色により、がん細胞が選択的に高レベルのPGK1を発現したことが示される(図7C)。PGK1発現レベル及び他のアポトーシスタンパク質と、腹水由来がん細胞のTRA−8媒介性アポトーシス及び患者の化学療法応答との相関を、表3にまとめて示す。
【0122】
【表3】

【0123】
インビボでの薬剤の効力を監視及び予測するためにバイオマーカーが有用かどうかを決定するために、COLO 205腫瘍担持マウスを用いて、インビボでCOLO 205腫瘍に対する抗がん薬の効力を候補バイオマーカーが予測できるかどうかを試験した。TRA−8及び/又はCPT−11を、わずか1週間、COLO 205腫瘍担持マウスに週2回投与した後、血清をマウスから回収し、ELISAによって解析した。TRA−8又はTRA−8及びCPT−11は、わずかな抗腫瘍効力を有していた一方、CPT−11単独では、抗腫瘍効果を示さなかった(図8A)。血清中のALDOA、PGK1、及びPRDX1の量は、TRA−8又はTRA−8及びCPT−11の同時投与により増大した(図8B)。したがって、ALDOA、COF1、ヒストンH4、PGK1、PRDX1、又はそれらの組合わせは、抗がん薬に対するがん細胞の感受性を予測するためのバイオマーカーとして有用である。
【0124】
開示されているのは、開示された方法及び組成物に使用される、それらと共に使用される、それらの調製に使用される、又はそれらの生産物である、材料、組成物、及び成分である。これらの及び他の材料は、ここで開示されており、これらの材料の組合わせ、サブセット、相互作用、群などは開示されていること、これらの化合物の各々の種々の個別的及び集合的組合わせ及び順列の具体的参照は明示的に開示されていないこともある一方、各々は、具体的に企図され、ここに記載されていることが理解される。例えば、バイオマーカーが開示され論じられ、バイオマーカーを含む多数の分子になされうる多数の改変が論じられている場合、バイオマーカーの各々の、かつすべての組合わせ及び順列ならびに可能な改変は、そうでないことが具体的に示されていない限り、具体的に企図されている。したがって、あるクラスの分子A、B、及びCが、あるクラスの分子D、E、及びFと同様に開示されており、組合わせ分子A−Dの例が開示されている場合、各々は個別に言及されていなかったとしても、各々が個別にかつ集合的に企図されている。したがって、この例は、A−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−E、及びC−Fの組合わせの各々は、具体的に企図されており、A、B、及びC;D、E,及びF;及びA−Dの組合わせ例の開示から、開示されたものと考えられるべきである。このように、これらの任意のサブセット又は組合わせも、具体的に企図され、開示されている。したがって、例えば、A−E、B−F、及びC−Eのサブグループは、具体的に企図されており、A、B、及びC;D、E、及びF;及びA−Dの組合わせ例の開示から、開示されたものと考えられるべきである。このコンセプトは、開示された組成物の製造及び使用の方法の工程を含むが、それに限らない、この出願のすべての側面に当てはまる。したがって、行うことができる種々の付加的な工程がある場合、これらの付加的な工程の各々は開示された方法の任意の具体的な態様又は態様の組合わせとともに行うことができること、及びこのような組合わせの各々が具体的に企図され、開示されたものと考えられるべきであることが理解される。
【0125】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形(一つの、ある、及び、この)は、文脈が明らかにそうでないことを記載していない限り、複数への言及も含むことは留意されなければならない。したがって、例えば、一つのバイオマーカーへの言及は、複数のこのようなバイオマーカーを含み、そのバイオマーカーへの言及は1又は2以上のバイオマーカー及び当業者に公知のそれらの等価物の言及である、といった具合である。
【0126】
場合による、又は場合によっては、は、それに続いて記載された事象、状況、又は物質が、発生又は存在してもしなくてもよいこと、及びその記載が、その事象、状況、又は物質が発生又は存在するときと発生又は存在しないときとを含むことを意味する。
【0127】
別途定義されていない限り、ここで使用されるすべての技術的及び科学的用語は、開示された方法及び組成物が属する技術分野の当業者により共通に理解されているとおりの意味を有する。ここで引用されている刊行物及びそのためにそれらが引用されている対象は、参照により具体的にここに取り込まれる。いかなる参考文献も先行技術を構成することは許可されない。参考文献の論述は、それらの著者が主張することを記載するものであり、出願人は、引用された文献の正確性及び適切性を攻撃する権利を保有する。多数の刊行物がここで言及されているが、このような参考文献は、これらの文献のいかなるものも当該技術分野の一般知識の一部を形成するという容認を構成しないことは、明確に理解されるであろう。
【0128】
本明細書の記載及び特許請求の範囲全体を通じて、含む(comprise)という単語、及び含んでいる(comprising)及び含む(comprises)のようなこの単語の変形は、例えば、他の添加物、成分、整数又は工程を含むがこれらに限らず、これらを除外することを意図しないことを意味する。
【0129】
当業者は、ルーチンの実験を超えるものを用いることなく、ここで記載された方法及び組成物の具体的態様の多くの等価物を、認識する又は確かめることができるであろう。このような等価物は、特許請求の範囲によって包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の抗がん剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法であって、
(a)がん細胞を有効量の抗がん剤と接触させる工程、及び
(b)フルクトースビスホスフェートアルドラーゼA(ALDOA)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、ペルオキシレドキシン1(PRDX1)、コルフィリン1(colfilin 1;COF1)、及びヒストンH4からなる群から選択される1以上のバイオマーカーの細胞による放出を評価する工程
を含み、コントロール細胞と比較しての接触させた細胞による放出の増大は、そのがん細胞がその抗がん剤に対して感受性であることを示すことを特徴とする、方法。
【請求項2】
がん細胞を、生体内(インビボ)で接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
がん細胞を、生体外(インビトロ)で接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
抗がん剤が、デスレセプターアゴニストを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
アゴニストが、DR5抗体、DR4抗体、Fasリガンド、TNF、及びTNF関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)からなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
DR5抗体が、TRA−8又はTRA−8と同じエピトープ特異性を有する抗体である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
DR5抗体が、TRA−8のヒト化抗体である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
抗がん剤の効力を予測又は監視する方法であって、
(a) 被検体に抗がん剤を投与する工程;
(b) 被検体から生物学的試料を得る工程;及び
(c) ALDOA、PGK1、PRDX1、COF1、及びヒストンH4からなる群から選択される1以上のバイオマーカーのレベルを検出する工程
を含み、基底レベルと比較してのレベルの増大は、効力を示すことを特徴とする、方法。
【請求項9】
抗がん剤が、デスレセプターアゴニストを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
アゴニストが、DR5抗体、DR4抗体、Fasリガンド、TNF、及びTNF関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)からなる群から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
DR5抗体が、TRA−8又はTRA−8と同じエピトープ特異性を有する抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
DR5抗体が、TRA−8のヒト化抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
ALDOA、PGK1、PRDX1、COF1、及びヒストンH4の2以上に対して特異的なリガンドを含む、検出キット。
【請求項14】
ALDOA、PGK1、及びPRDX1に対して特異的なリガンドを含む、請求項13記載の検出キット。
【請求項15】
リガンドが抗体である、請求項13記載の検出キット。
【請求項16】
リガンドが抗体である、請求項14記載の検出キット。
【請求項17】
試料中のALDOA、PGK1、PRDX1、COF1、及びヒストンH4の2以上のレベルを決定するための検出手段及び固体支持体を含む、マルチプルアッセイ系。
【請求項18】
検出手段が、ALDOA、PGK1、及びPRDX1のレベルを決定する、請求項17記載のマルチプルアッセイ。
【請求項19】
抗がん剤の有効用量を決定する方法であって、
(a) 1以上のがん細胞を、フルクトースビスホスフェートアルドラーゼA(ALDOA)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、ペルオキシレドキシン1(PRDX1)、コルフィリン1(COF1)、及びヒストンH4からなる群から選択される1以上のバイオマーカーの細胞放出を可能にする条件下で、複数の用量の抗がん剤と接触させる工程;及び
(b) 各用量での放出を検出する工程
を含み、より高い放出率が有効用量を示すことを特徴とする、方法。
【請求項20】
抗がん剤が、デスレセプターアゴニストを含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
アゴニストが、DR5抗体、DR4抗体、Fasリガンド、TNF、及びTNF関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)からなる群から選択される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
DR5抗体が、TRA−8又はTRA−8と同じエピトープ特異性を有する抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
DR5抗体が、TRA−8のヒト化抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
少なくとも一つの細胞を2以上の用量と接触させる、請求項19〜23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
各細胞を唯一の用量と接触させる、請求項19〜23のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−507809(P2010−507809A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534814(P2009−534814)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/082228
【国際公開番号】WO2008/073581
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504168260)ザ ユーエービー リサーチ ファウンデーション (12)
【Fターム(参考)】