くん液生成装置及びくん液並びにくん液による生鮮魚介類加工法
【課題】生鮮魚介類の肉片中への溶解COの浸透性を向上させること。
【解決手段】溶媒としての処理水を供給する処理水供給部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、これらの供給部から供給された処理水とくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備えている。気液混合処理部は、処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となす。
【解決手段】溶媒としての処理水を供給する処理水供給部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、これらの供給部から供給された処理水とくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備えている。気液混合処理部は、処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮魚介類、特にマグロ肉のメト化を抑制するとともに鮮度を保持するくん液を生成する装置と、その装置によって生成されるくん液と、そのくん液により生鮮魚介類を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生鮮魚介類を加工する方法の一形態として、特許文献1に開示されたものがある。かかる特許文献1には、必要添加物を溶解させた水溶液にくん煙を常圧若しくは加圧状態により接触又はミキサーにより撹拌接触させて、水溶液にくん煙成分を溶解させてくん液を作成し、このくん液を魚類に付与してくん製品を製造する魚類加工方法が開示されている。
【0003】
そして、かかる特許文献1には、その効果として、くん煙成分を液体化してくん液となし、このくん液に魚類の可食部分を漬け込むことでくん煙処理に近い保存性のある製品を製造することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−33014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した魚類加工方法では、未だ十分なくん液処理効果が得られていない。すなわち、かかる魚類加工方法としてのくん液へさく状のマグロ肉を漬け込む方法では、マグロ肉中へのくん液(溶解CO)の拡散はきわめて遅い(分子拡散)ので、漬け込み時間として少なくとも数時間を要する。
【0006】
商品化を前提とすれば、くん液への漬け込み時間は短く(例えば,2〜3分以内)する必要があるが、この魚類加工方法の場合、漬け込み時間を3分以内にすると、溶解COの拡散距離はわずかである。したがって、くん液処理効果は十分ではなく、保存性の付与も不十分である。したがって,マグロ肉中へのくん液(すなわち溶解したCO:一酸化炭素)の拡散の観点から言えば、肉中の拡散はきわめて遅いので、さしみのように薄い肉片を対象にする必要があるが、生産性から非現実的である。
【0007】
また、上記した魚類加工方法のように漬け込み時間が長いと、経過時間のほぼ1/2乗に比例してマグロ肉へ水が移行する。その結果、マグロ肉の肉質が水っぽくなって、肉片の自然の風味を減じてしまうので、商品価値が低下する。そのため、マグロ肉へ移行した水の除去を効果的に行い、残留する水を極力抑えることで商品価値を保持する必要性があるが、これは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、生鮮魚介類の肉片の自然の風味を減じることなく、肉片中への溶解COの浸透性(浸透距離)が向上し、それだけ保存性の付与が増大するくん液を生成するくん液生成装置及びその生成装置によって生成されたくん液並びにそのくん液による生鮮魚介類加工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明に係るくん液生成装置は、溶媒としての処理水を供給する処理水供給部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、これらの供給部から供給された処理水とくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、気液混合処理部は、処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすことを特徴とする。ここで、クラスターは平均44個の水分子から形成されているといわれている。
【0010】
かかるくん液生成装置では、くん煙を処理水に溶解してくん液(溶解CO)となすものであるが、溶媒である処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となしている。しかも、かかるくん液は、くん煙を溶解させているだけでなく、くん煙を超微細な気泡となして、溶媒である処理水との接触面積を大となしているため、くん煙成分の処理水への溶解(くん液生成)速度を高速化することができる。
【0011】
改質処理水にくん煙を溶解させてなるくん液は、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が高い。したがって、くん液の生鮮魚介類肉片中への浸透(拡散)距離が長く(深く)なり、それだけ生鮮魚介類肉片の保存性の付与も大きくなる。
【0012】
つまり、気液混合処理部により作成したくん液(溶解CO)は、溶媒である処理水の改質を伴っているので、生鮮魚介類肉片中への溶解COの浸透性が向上し,3分程度の漬け込み時間で浸透距離が深くなり、それだけ保存性の付与が増大する。そして、かかるくん液は、特にミオグロビンと反応しやすいものであることから、生鮮魚介類肉片のメト化(褐変)を抑制することができる。また、かかるくん液生成装置によれば、くん煙を超微細気泡となすことができて、超微細化したくん煙気泡が処理水に溶解され易くなる。そのため、くん液生成速度を高速化することができて、短時間に大量にくん液を生成することができる。その結果、くん液生成装置の小型化を実現することができる。
【0013】
ここで、処理水としては、水、海水、塩水(かん水等を適量だけ付加した塩分濃度を有する水溶液を含む)を適用することができる。そして、塩分濃度は、数%、例えば、2%〜6%とすることができる。
【0014】
請求項2記載の発明に係るくん液生成装置は、溶媒としての処理水を供給する処理水供給部と、処理水供給部から供給される処理水を改質処理水となす改質処理部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、改質処理部から供給された改質処理水とくん煙供給部から供給されたくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、改質処理部は、溶媒としての処理水を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となし、気液混合処理部は、改質処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすとともに、生鮮魚介類肉片中への浸透力が増大すべくくん液をさらに改質処理することを特徴とする。
【0015】
かかるくん液生成装置では、あらかじめ改質処理部により溶媒である処理水を改質処理して改質処理水となした後に、改質処理水とくん煙とを気液混合処理部により混合して改質処理水にくん煙を溶解させている。したがって、くん液生成装置によれば、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が高いくん液を効率良く生成することができる。
【0016】
請求項3記載の発明に係るくん液は、請求項1又は2記載のくん液生成装置により生成したことを特徴とする。
【0017】
かかるくん液は、生鮮魚介類、特に、筋肉中に色素蛋白であるミオグロビンが分散している赤身魚(例えば、マグロ)の切り身の肉に浸透させて、くん液に溶解させたくん煙成分をミオグロビンと反応させることで、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、かかるくん液により加工した魚介類は、その保存性を十分に確保することができる。
【0018】
請求項4記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、シート状の吸収材に、請求項3記載のくん液を吸収させ、くん液を吸収している吸収材により生鮮魚介類の肉片を被覆して、吸収材により被覆された生鮮魚類肉片をくん煙で満たした容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とする。ここで、吸収材としては、布やペーパータオルを使用することができる。保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は12時間〜24時間とすることができる。
【0019】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の肉片、特に、さくと呼ばれる長方形断面の板状の肉片ないしはそれよりも小さめの肉片に好適なものであり、かかる肉片に吸収材を介してくん液を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。すなわち、吸収材に吸収されているくん液が生鮮魚介類の肉片(含水肉片)に浸透されると、容器内を満たしているくん煙が吸収材に吸収されているくん液中に溶解して、吸収材に吸収されたくん液の定常状態が保持される。そのため、肉厚状の「さく」と呼ばれる肉片であっても肉片全体にわたってくん液が堅実に浸透される。その結果、生鮮魚介類の肉片の自然の風味を減じることなく、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0020】
請求項5記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、浸漬容器内に、請求項3記載のくん液を収容し、その中に生鮮魚介類の肉片を一定時間だけ浸漬して、その肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とする。保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は12時間〜24時間とすることができる。
【0021】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の肉片、特に、すしねた用の薄片及び鉄心と呼ばれる棒状の肉片に好適なものであり、かかる肉片をくん液に浸漬することで肉片にくん液を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0022】
請求項6記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片の上面と下面に、請求項3記載のくん液を噴霧して、その薄肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とする。保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は12時間〜24時間とすることができる。
【0023】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片、特に、すしねた用の薄片及び棒状の肉片よりも小さい肉片に好適なものであり、その薄肉片の両面(肉厚方向において対をなす幅広面)にそれぞれくん液を噴霧することで、薄肉片にくん液を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0024】
請求項7記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、請求項4〜6記載の保蔵した肉片は、脱水容器内に収容して、脱水容器内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器内を減圧し、肉片から余分な液の内の数%を除去することを特徴とする。ここで、吸引する一定時間は、数分間、例えば、3分間とすることができる。一定吸引圧は、0.98Kg/cm2までとすることができる。除去する液の重量割合は、肉片の重量の1.5%〜4%とすることができる。
【0025】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法では、生鮮魚介類の肉片にくん液を浸透(吸収)させた結果、肉片には余分な液が生起される。この余分な液があると、肉片を水っぽくし、肉片の自然の風味を減じてしまう。したがって、かかる余分な液を除去することで、肉片が水っぽくなるのを解消して、肉片の自然の風味(商品価値)を保持させることができる。また、湿った条件では細菌が繁殖する傾向があるが、肉片から液を除去することで、本質的に細菌の繁殖する可能性が減少するので、細菌を減らすことができる。その結果、生食製品である生鮮魚介類加工品の自然の陳列期間を延長することができるという付加的な効果もある。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、次のような効果を奏する。すなわち、本発明では、くん煙を溶解してくん液(溶解CO)となす溶媒である処理水が、高せん断力を受けて改質されているため、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が向上する。そのため、くん液の生鮮魚介類肉片中への浸透(拡散)距離が長く(深く)なり、それだけくん液による生鮮魚介類肉片への保存性の付与も大きくなる。
【0027】
つまり、気液混合処理部により作成したくん液(溶解CO)は、溶媒である処理水の改質を伴っているので、生鮮魚介類肉片中への溶解COの浸透性が向上し,3分程度の漬け込み時間で浸透距離が深くなり,それだけ保存性の付与が増大する。
【0028】
特に、くん液で加工したマグロ肉は、次の特徴を有する。1)自然のマグロ肉の色と変わらない。2)家庭用冷蔵庫の冷凍室の温度である−18℃で冷凍中は約3ヶ月間変色しない。3)解凍すると無処理マグロと同様に1週間程度でメト化し、食品価値を失う。したがって、消費者が鮮度を見誤る虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る第1実施形態としてのくん液生成装置の概念的説明図。
【図2】本発明に係る第2実施形態としてのくん液生成装置の概念的説明図。
【図3】第1実施形態としての生鮮魚介類加工法の説明図。
【図4】第2実施形態としての生鮮魚介類加工法の説明図。
【図5】第3実施形態としての生鮮魚介類加工法の説明図。
【図6】第1実施形態としての気液混合処理部の正面説明図。
【図7】図6のI-I線矢視底面図。
【図8】図6のII-II線矢視平面図。
【図9】第1実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図10】混合流路形成パターン面の説明図。
【図11】第1実施形態としての気液混合処理部の混合流路の説明図。
【図12】第2実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図13】第3実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図14】第3実施形態としての気液混合処理部の混合流路の説明図。
【図15】第4実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図16】第4実施形態としての気液混合処理部の混合流路の説明図。
【図17】第5実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0031】
[第1実施形態としてのくん液生成装置の説明]
図1に示すAは本発明に係る第1実施形態としてのくん液生成装置である。かかるくん液生成装置Aは、処理水Wを収容したタンクTの底部に循環パイプJの基端部を連結し、循環パイプJの先端部をタンクT内の処理水W中に上面から挿入して循環流路Rを形成している。
【0032】
処理水Wは、後述するくん煙を溶解させてくん液となす溶媒であり、処理水Wとしては、例えば、3.5%前後の塩分濃度を有する塩水を適用することができる。
【0033】
循環パイプJの中途部には圧送ポンプPを取り付け、その圧送ポンプPの吸入口近傍(直上流側)に位置する循環パイプJの中途部にはくん煙供給部Kを連結している。
【0034】
くん煙供給部Kから処理水W中に供給されるくん煙は、圧送ポンプPの吸入側からエジェクタ効果により圧送ポンプP内に吸入されるようにすることができる。この際、くん煙の吸入量は、循環パイプJ中を流れる処理水Wの循環流量の約3%(STP;0℃、1気圧)に設定することができる。
【0035】
くん煙供給部Kの下流側に位置する循環パイプJの中途部には、流体混合部としての気液混合処理部Mを設けている。気液混合処理部Mは、処理水Wとくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水Wに高せん断力を作用させて、処理水Wのクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすようにしている。
【0036】
図1中、Sは処理水供給部であり、処理水供給部SはタンクT内に溶媒である処理水Wを随時供給可能としている。Vは循環パイプJの先端部に取り付けた圧力調整弁である。Hは気液混合処理部Mの下流側に位置させて循環パイプJに配設した熱交換器であり、熱交換器Hにより気液混合処理部Mで生成されたくん液を所定の低温度(例えば、4℃〜5℃)となして、その下流側に配置した回収部Gにて所定低温度のくん液を回収するようにしている。Vaは熱交換器Hの下流側に位置させて循環パイプJに配設した三方切替弁であり、三方切替弁Vaの切換操作によりくん液を循環パイプJを通して循環流路R内で所定回数だけ循環させることも、また、回収パイプJbを通して回収部Gに送ることも可能となしている。
【0037】
なお、くん煙供給部Kから供給されるくん煙は、既存のくん煙発生装置により生成することができる。すなわち、くん煙は,くん煙発生装置の中で450℃以下の温度において有機物で食品グレードのくん材を燃やすことで生成するとともに、くん煙の気相から粒子状物質や味を付与する成分を除去するフィルターを通して処理することで生成することができる。くん煙の主要な成分は、窒素,酸素,一酸化炭素,二酸化炭素およびメタンであり、このくん煙はきわめて微量のフェノール類や炭化水素類を含む。ここで、450℃以下という燃焼温度は、くん煙中の有害成分の生成を減じるためである。
【0038】
このようにして、くん液生成装置Aでは、処理水Wにくん煙供給部Kからくん煙を供給して、これらを中途部に圧送ポンプPと気液混合処理部Mを設けた循環パイプJとタンクTとで形成される循環流路Rを通して循環させることができる。
【0039】
この際、気液混合処理部Mは、くん煙を処理水Wに溶解してくん液(溶解CO)となすものであるが、溶媒である処理水Wに高せん断力を作用させて、処理水Wのクラスターの大きさがより小さい改質処理水となしている。すなわち、処理水Wを構成している水は、通常、単一の分子で存在しているのではなく、いくつかの水分子からなるクラスターを形成しているところ、気液混合処理部Mで水が処理されると、クラスターの大きさがより小さい改質処理水を得ることができる。クラスターの大きさがより小さい改質処理水は、くん煙を溶解させ易い。しかも、気液混合処理部Mは、くん煙を直径がナノレベル(1μm以下)の超微細な気泡となして、溶媒である処理水Wとの接触面積を大となすため、くん煙成分の改質処理水への溶解(くん液生成)速度を高速化する。
【0040】
かかる改質処理水にくん煙を溶解させてなるくん液は、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が高い。したがって、くん液の生鮮魚介類肉片中への浸透(拡散)距離が長く(深く)なり、それだけ生鮮魚介類肉片の保存性の付与も大きくなる。
【0041】
つまり、気液混合処理部Mにより作成したくん液(溶解CO)は、溶媒である処理水の改質を伴っているので、生鮮魚介類肉片中への溶解COの浸透性が向上し,3分程度の漬け込み時間で浸透距離が深くなり、それだけ保存性の付与が増大する。そして、かかるくん液は、特にミオグロビンと反応しやすいものであることから、生鮮魚介類肉片のメト化(褐変)を抑制することができる。
【0042】
かかる第1実施形態では、前記したように気液混合処理部Mにより処理水Wにくん煙を溶解させてくん液となすことができるが、循環流路R中にて処理水Wを所定時間ないしは所定回数以上循環を繰り返すことにより、改質度合いを高めることができるようにしている。ここで、改質度合いとは、水分子間の水素結合によっていくつかの水分子が互いに結合して形成しているクラスター(会合体で(H2O)nの状態;n≒4.4)を小さくする、つまり、任意の水分子の周辺にある隣接水分子の数をできるだけ小さくするように改質処理する度合いをいう。
【0043】
その結果、処理水Wのクラスターを堅実に小さくすることができるとともに、くん煙の溶解濃度を増大させることができる。しかも、気液混合処理部Mによれば、くん煙をナノレベルの超微細気泡となすことができて、超微細化したくん煙気泡が処理水に溶解され易くなる。そのため、くん液生成速度を高速化することができて、短時間に大量にくん液を生成することができる。その結果、くん液生成装置の小型化を実現することができる。
【0044】
[第2実施形態としてのくん液生成装置の説明]
図2は、本発明に係る第2実施形態としてのくん液生成装置Aの概念図である。かかるくん液生成装置Aは、図2に示すように、改質処理部としての気液混合処理部Mによりあらかじめ処理水Wを改質処理して改質処理水となし(改質処理工程)、その改質処理水を第1実施形態としてのくん液生成装置AのタンクTに供給するようにしている。つまり、処理水Wを単独で改質処理した後に、改質処理水を再度改質処理(二段階に改質処理)するとともにくん煙と気液混合処理して、改質処理水にくん煙を溶解させ易くしている。
【0045】
処理水供給部Sに第1連通パイプ1を介して改質処理部としての気液混合処理部Mの流入側を接続し、気液混合処理部Mの流出側に第2連通パイプ2の基端部を接続して、第2連通パイプ2の先端部をタンクT内に配置している。つまり、気液混合処理部Mにより改質処理した改質処理水をタンクT内に供給可能としている。
【0046】
そして、改質処理部としての気液混合処理部Mよりも上流側に位置する第1連通パイプ1の中途部分と、同改質処理部としての気液混合処理部Mよりも下流側に位置する第2連通パイプ2の中途部分との間に、第1・第2三方弁3,4を介して戻り管5を介設して、戻り管5を通して改質水を適宜循環可能としている。すなわち、必要に応じて、両第1・第2三方弁3,4を切替操作することで、第2連通パイプ2の中途部に設けた圧送ポンプPにより、改質水を循環的に気液混合処理部Mに送り込んで改質処理を所定回数(例えば10回)ないしは所定時間(例えば15分間)だけ繰り返すことにより、改質度合いを高めることができるようにしている。6は第2連通パイプ2の先端部に設けた開閉弁である。
【0047】
このように構成して、第2実施形態としてのくん液生成装置Aでは、改質処理工程において、あらかじめ溶媒としての処理水Wを、改質処理部としての気液混合処理部Mにより改質処理することにより、任意の水分子の周辺にある隣接水分子の数が小さくかつ微細化された水の粒子が均一化された改質処理水となすようにしている。
【0048】
次に、前記した第1・第2実施形態に係るくん液生成装置Aにより生成したくん液により生鮮魚介類を加工する方法(第1〜第3実施形態としての生鮮魚介類加工法)について説明する。
【0049】
[第1実施形態としての生鮮魚介類加工法]
第1実施形態としての生鮮魚介類加工法は、いわゆる「さく」と呼ばれている生鮮魚類の肉片を加工する場合に好適なものである。すなわち、第1実施形態としての生鮮魚介類加工法は、図3に示すように、肉片被覆工程(a)と肉片浸漬工程(b)と密封工程(c)と保蔵工程(d)と脱水工程(e)を有する。
【0050】
肉片被覆工程(a)では、シート状の吸収材10により生鮮魚介類の肉片11を、どの部分も露出しないように完全に包み込んで被覆する。ここで、吸収材10としては、布やペーパータオルを使用することができる。生鮮魚介類の肉片11は、2.5cmを越えない厚みで、例えば、2.5cm×5.0×16.0cmの大きさの魚肉ブロックである。
【0051】
肉片浸漬工程(b)では、上面が開口した浸漬容器12内にくん液13を満たし、その中に上記した吸収材10により被覆された生鮮魚介類の肉片11を浸漬する。そうすることで、吸収材10にくん液13を吸収させることができる。なお、本実施形態では、肉片被覆工程(a)と肉片浸漬工程(b)において、吸収材10により被覆された生鮮魚介類の肉片11を浸漬するようにしているが、くん液13を吸収した吸収材10で肉片11を被覆することもできる。
【0052】
密封工程(c)では、くん液13を吸収した吸収材10により被覆された肉片11を、くん煙19が充填された容器14内に密封状態に収容する。この際、容器14内には、あらかじめ吸収材10により被覆された肉片11を収容して、空気を取り除いた後に容器14を真空封印(バキュームシール)し、その後、容器14内に前記したくん煙供給部Kから供給されるくん煙19を注入して、容器14内を満たすことができる。ここで、くん煙19は、厳密にはくん煙と空気の混合ガスであり、その混合ガス中の正味のくん煙の量の割合をくん煙濃度としているが、例えば、くん煙濃度30%〜40%のものを、600gの肉片11あたり約1gだけ充填する。容器14内におけるくん煙19の圧力は外気圧と同じ1気圧とすることができる。また、容器14としては、プラスティック製の袋(プラスティックバック)を使用することができる。
【0053】
保蔵工程(d)では、容器14を冷蔵庫15内に一定温度にて一定時間保蔵する。ここで、保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は肉片11の鮮度に応じて12時間〜24時間とすることができる。つまり、鮮度が良い程保蔵時間を短くすることができる。
【0054】
脱水工程(e)では、一定時間だけ保蔵した後の肉片11を乾いた吸収材16で包みなおした後に、脱水容器17内に収容する。そして、脱水容器17内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器17内を減圧し、肉片11から余分な液を肉片重量の数%だけ除去する。VPは真空ポンプ、18は一端を真空ポンプVPに接続した吸引ホースであり、吸引ホース18の他端を脱水容器17に接続している。
【0055】
ここで、脱水容器17としては、プラスティックバックを使用することができる。吸引する一定時間は、数分間、例えば、「さく」がマグロの肉片11では3分間に、一定吸引圧は、0.98Kg/cm2までとすることができる。つまり、真空ポンプVPを3分間作動させる。その間、真空ポンプVPはマグロの肉片11に0.98Kg/cm2までの吸引圧を及ぼす。かかる脱水工程(e)において、肉片11の重量の1.5%〜4%の液を除去する。除去液量が充分でない場合には、脱水工程(e)を繰り返すか、又は一度に3分間以上の脱水を行うことにより、除去液量を確保することができる。なお、肉片11を乾いた吸収材16で包みなおすことなく、肉片11をそのまま脱水容器17に収容して脱水処理することもできる。
【0056】
上記のように構成した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の肉片11、特に、「さく」と呼ばれる肉片11ないしはそれよりも小さめの肉片11に好適なものであり、かかる肉片11に吸収材10を介してくん液13を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。すなわち、吸収材10に吸収されているくん液13が生鮮魚介類の肉片(含水肉片)11に浸透されると、容器14内に充填されているくん煙19が吸収材10に吸収されているくん液13中に溶解して、吸収材10に吸収されたくん液13の定常状態が保持される。そのため、厚肉状のさくと呼ばれる肉片11であっても肉片11全体にくん液13が堅実に浸透される。その結果、生鮮魚介類の肉片11の自然の風味を減じることなく、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0057】
そして、第1実施形態としての生鮮魚介類加工法では、生鮮魚介類の肉片11にくん液13を浸透(吸収)させた結果、肉片11には余分な液が生起される。この余分な液があると、肉片11を水っぽくし、肉片11の自然の風味を減じてしまう。したがって、かかる余分な液を除去することで、肉片11が水っぽくなるのを解消して、肉片11の自然の風味(商品価値)を保持させることができる。また、湿った条件では細菌が繁殖する傾向があるが、肉片11から液を除去することで、本質的に細菌の繁殖する面積が減少するので、細菌を減らすことができる。その結果、生製品である生鮮魚介類加工品の自然の陳列期間を延長することができるという付加的な効果もある。
【0058】
また、上記のようにくん液13で加工処理した製品としての肉片11は、−18℃の普通の冷凍室温度で冷凍する限り、その色調や鮮度は保持される。
【0059】
[第2実施形態としての生鮮魚介類加工法]
第2実施形態としての生鮮魚介類加工法は、すしスライスのように薄肉の肉片(薄肉片)を加工する場合に好適なものであり、この場合、前記した吸収材10は使用しない。すなわち、第2実施形態としての生鮮魚介類加工法は、図4に示すように、薄肉片整置工程(a)と薄肉片浸漬工程(b)と密封工程(c)と保蔵工程(d)と脱水工程(e)を有する。
【0060】
薄肉片整置工程(a)では、所定個数の薄肉片20をそれに応じた大きさの吸収パッド(水分を吸収する受け皿)21の上に整列させて載置する。
【0061】
薄肉片浸漬工程(b)では、浸漬容器22内にくん液23を収容し、その中に生鮮魚介類の薄肉片20を吸収パッド21上に整置したまま一定時間浸漬する。ここで、薄肉片20を浸漬する時間は、2〜5秒間が好ましい。
【0062】
密封工程(c)では、浸漬容器22内のくん液23から吸収パッド21とともに薄肉片20を取り出し、そのまま容器24内に密封状態に収容する。ここで、容器24としては、前記した容器14と同様にプラスティック製の袋(プラスティックバッグ)を使用することができる。
【0063】
保蔵工程(d)では、容器24を冷蔵庫25内に一定温度にて一定時間保蔵する。ここで、保蔵する一定温度と時間は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法と同様とすることができる。
【0064】
脱水工程(e)では、一定時間だけ保蔵した後の薄肉片20を新しい乾いた吸収パッド26上に整置した後に、脱水容器27内に収容する。そして、脱水容器27内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器27内を減圧し、薄肉片20から余分な液を肉片重量の数%だけ除去する。ここで、吸引時間や吸引圧は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法の脱水工程と同様とすることができる。
【0065】
上記のように構成した第2実施形態としての生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片20、特に、すしねた用の薄片、例えば、0.35cm×3.5cm×6.5cmのすしスライスや鉄心と呼ばれる棒状の肉片に好適なものであり、かかる薄肉片20をくん液23に浸漬することで、肉片20にくん液23を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0066】
[第3実施形態としての生鮮魚介類加工法]
第3実施形態としての生鮮魚介類加工法は、すしスライスのように薄肉の肉片を加工する場合に好適なものであり、この場合も、前記した吸収材10は使用しない。すなわち、第3実施形態としての生鮮魚介類加工法は、図5に示すように、薄肉片整置工程(a)とくん液噴霧工程(b)と密封工程(c)と保蔵工程(d)と脱水工程(e)を有する。
【0067】
薄肉片整置工程(a)では、所定個数の生鮮魚介類の薄肉片30をそれに応じた大きさの吸収パッド(水分を吸収する受け皿)31の上に整列させて載置する。ここで、薄肉片30は、第2実施形態としての生鮮魚介類加工法が加工対象としている薄肉片20と同様の大きさないしはそれよりも薄肉の肉片である。
【0068】
くん液噴霧工程(b)では、吸収パッド31の上に整置した薄肉片30の上面と下面に、それぞれスプレー容器32に収容したくん液33を噴霧する。
【0069】
密封工程(c)では、くん液33が噴霧された薄肉片30を、吸収パッド31とともに容器34内に密封状態に収容する。ここで、容器34としては、前記した容器14と同様にプラスティック製の袋を使用することができる。
【0070】
保蔵工程(d)では、容器34を冷蔵庫35内に一定温度にて一定時間保蔵する。ここで、保蔵する一定温度と時間は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法と同様とすることができる。
【0071】
脱水工程(e)では、一定時間だけ保蔵した後の薄肉片30を新しい乾いた吸収パッド36上に整置した後に、脱水容器37内に収容する。そして、脱水容器37内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器37内を減圧し、薄肉片30から余分な液を肉片重量の数%だけ除去する。ここで、吸引時間や吸引圧は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法の脱水工程と同様とすることができる。
【0072】
上記のように構成した第3実施形態としての生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片30、特に、すし片及び棒状の肉片よりも小さい肉片に好適なものであり、その薄肉片30にくん液33を噴霧することで、薄肉片30にくん液33を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0073】
次に、気液混合処理部Mの構成を、図面を参照しながら具体的に説明する。
[第1実施形態としての気液混合処理部M]
第1実施形態としての気液混合処理部Mは、図6〜図9に示すように、一方向(本実施形態では左右方向)に伸延する上下一対の横長四角形板状の混合エレメント210,220を重合状態に対面させて、両混合エレメント210,220間にその伸延方向に伸延する混合流路230を形成している。
【0074】
そして、混合エレメント210の左側端部には流入側接続部211を形成している。流入側接続部211は一端を混合エレメント210の左側端面に開口させるとともに、他端を混合エレメント210の左側端部下面に開口させている。流入側接続部211の一端に形成した流入孔212には循環パイプJの流入側を着脱自在に接続している。流入側接続部211の他端には始端側一時滞留空間240を介して混合流路230の始端部を連通させている。
【0075】
また、混合エレメント210の右側端部には流出側接続部213を形成している。流出側接続部213は一端を混合エレメント210の右側端面に開口させるとともに、他端を混合エレメント210の右側端部下面に開口させている。流出側接続部213の一端に形成した流出孔214には循環パイプJの流出側を着脱自在に接続している。流出側接続部213の他端には終端側一時滞留空間250を介して混合流路230の終端部を連通させている。
【0076】
混合流路230は、混合エレメント210の下面に多数形成した凹部215からなる混合流路形成パターン面Paと、混合エレメント220の上面に多数形成した凹部225からなる混合流路形成パターン面Pbとを対向させて形成している。各混合流路形成パターン面Pa,Pbは、凹部215,225を開口形状が正六角形で隙間のない状態に多数形成することで、いわゆるハニカム状に形成している。しかも、凹部215,225は、同形同大の六角開口形状に形成して、図10に示すような配置で対向させることで、混合流路230に流入孔212から流入した流体を混合流路230の伸延方向に流動させて分流させる複数の分流部と、分流部で分流された流体を混合流路230の伸延方向に流動させて合流させる複数の合流部とが形成されるようにしている。
【0077】
すなわち、混合流路形成パターン面Paは、図10に一点鎖線で示すように、混合エレメント210の凹部215を幅方向に五列かつ左右伸延方向に多数個千鳥状に配置して形成している。また、混合流路形成パターン面Pbは、図7に実線で示すように、混合エレメント220の凹部225を幅方向に六列かつ左右伸延方向に多数個千鳥状に配置して形成している。そして、混合エレメント210の凹部215の中心位置に、混合エレメント220の凹部225の角部226が位置する状態で当接している。このような状態で当接させると、相互に位置ずれした混合エレメント210の凹部215と混合エレメント220の凹部225との間で流体(処理水Wと窒素ガス)を流動させることができる。角部226は3つの凹部225の角部が集まっている位置である。また、混合エレメント220の凹部225の中心位置にも、混合エレメント210の凹部215の角部216が位置する。角部216は3つの凹部215の角部が集まっている位置である。この場合は、混合エレメント210の角部216が上述した分流部や合流部として機能する。
【0078】
したがって、例えば、混合エレメント210の凹部215側から混合エレメント220の凹部225側に流体が流れる場合を考えると、流体は二つの流路に分流されることになる。つまり、混合エレメント210の凹部215の中央位置に位置された混合エレメント220の角部226は、流体を分流する分流部として機能する。逆に、混合エレメント220側から混合エレメント210側に流体が流れる場合を考えると、二方から流れてきた流体が1つの凹部215に流れ込むことで合流することになる。この場合、混合エレメント220の中央位置に位置された角部226は、合流部として機能する。
【0079】
混合流路230の始端部と混合エレメント210の左側部に形成した流入側接続部211との間には始端側一時滞留空間240を形成している。始端側一時滞留空間240は、混合エレメント210の左側部下面に形成した凹状の空間形成部241と、混合エレメント220の左側部上面に形成した凹状の空間形成部242とを、上下方向に対面させて形成している。しかも、図10に示すように、両空間形成部241,242とで形成される始端側一時滞留空間240の前後方向の幅W1は、混合流路230の始端部の前後方向の幅W2と略同一幅に形成して、始端側一時滞留空間240の略全幅にわたって混合流路230の始端部と連通させている。
【0080】
また、混合流路230の終端部と混合エレメント210の他側部に形成した流出側接続部213との間には終端側一時滞留空間250を形成している。終端側一時滞留空間250は、混合エレメント210の右側部下面に形成した凹状の空間形成部251と、混合エレメント220の右側部上面に形成した凹状の空間形成部252とを、上下方向に対面させて形成している。しかも、両空間形成部251,252とで形成される終端側一時滞留空間250の前後方向の幅W3は、混合流路230の終端部の前後方向の幅W4と略同一幅に形成して、終端側一時滞留空間250の略全幅にわたって混合流路230の終端部と連通させている。
【0081】
260は上側の混合エレメント210の周囲に間隔を開けて多数形成した上側ビス孔、261は下側の混合エレメント220の周囲に間隔を開けて多数形成した下側ビス孔である。各ビス孔260,261は上下方向に軸線を向けて形成して、上下に符合する上・下側ビス孔260,261中にビス262を螺着することで、両混合エレメント210,220を重合状態に簡単かつ堅実に連結することができる。また、ビスを取り外すことで、両混合エレメント210,220の連結を簡単に解除して、凹部215,225等の洗浄作業をすることができる。270は混合エレメント220の上面において多数の凹部225と空間形成部242,252の周囲を囲むように形成したOリング配置溝である。271はOリング配置溝270に配置したOリングである。Oリング271により混合エレメント210,220の密閉性を確保することができる。
【0082】
このように、相互に対向状態に対面配置された両混合エレメント210,220の間には、流入側接続部211と始端側一時滞留空間240と混合流路230と終端側一時滞留空間250と流出側接続部213とが直列状に連通される。そして、図11にも示すように、流入側接続部211の流入孔212から供給された流体は始端側一時滞留空間240内に流入し、始端側一時滞留空間240から幅方向に略均等に混合流路230に流入して、混合流路230内を流動した後、終端側一時滞留空間250を通して流出側接続部213の流出孔214から流出される。この際、混合流路230では流体が分流と合流(分散と混合)を繰り返しながら両混合エレメント210,220の伸延方向に蛇行状態にて流動する。したがって、流体として、例えば、液体と気体を混合流路230に流入させると、気体は気泡径がサブミクロンレベル(ナノレベル)に超微細化かつ均一化されるとともに、液体中に均一分散化される。
【0083】
[第2実施形態としての気液混合処理部M]
第2実施形態としての気液混合処理部Mは、第1実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図12に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント280を一枚介在させて、これらの混合エレメント210,220,280を積層状態となしている点で異なる。
【0084】
すなわち、中間混合エレメント280は、混合エレメント210の混合流路形成パターン面Paと対面する上面に混合流路形成パターン面Pbを形成する一方、混合エレメント220の混合流路形成パターン面Pbと対面する下面に混合流路形成パターン面Paを形成している。ここで、中間混合エレメント280の混合流路形成パターン面Paは、凹部215と同形状の凹部281を多数対向状態に配置して形成し、また、中間混合エレメント280の混合流路形成パターン面Pbは、凹部225と同形状の凹部282を多数対向状態に配置して形成している。
【0085】
中間混合エレメント280の左側部には空間形成部243を形成しており、空間形成部243は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部241,242と整合して、これら空間形成部241〜243により始端側一時滞留空間240を形成している。中間混合エレメント280の右側部には空間形成部253を形成しており、空間形成部253は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部251,252と整合して、これら空間形成部251〜253により終端側一時滞留空間250を形成している。283はOリング配置溝、284はOリングである。中間混合エレメント280の周縁部にも混合エレメント210,220のビス孔260,261と符合するビス孔(図示せず)を形成して、これらのビス孔中にビス262を貫通状に螺着するようにしている。
【0086】
このように、本実施形態の気液混合処理部Mでは、混合エレメント210と中間混合エレメント280との間、及び、中間混合エレメント280と混合エレメント220との間にそれぞれ混合流路230が形成されて、上下に平行する混合流路230が二流路配置される。そして、流入側接続部211の流入孔212から供給された流体は始端側一時滞留空間240内に流入し、始端側一時滞留空間240から幅方向に略均等に各混合流路230に並列的に流入する。その結果、混合流路230による流体の超微細化かつ均一化が並列的に効率良く行われる。また、中間混合エレメント280を所要複数枚積層することで、所要数の混合流路230を配置することができて、流体の超微細化かつ均一化作業をより一層効率化させることができる。
【0087】
[第3実施形態としての気液混合処理部M]
第3実施形態としての気液混合処理部Mは、第1実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図13に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント290,291を二枚介在させて、これらの混合エレメント210,220,290,291を積層状態となしている点で異なる。
【0088】
すなわち、中間混合エレメント290は、その肉厚方向に貫通する多数の貫通孔292を形成しており、貫通孔292は凹部225と平面視同形状の六角柱状空間に形成するとともに多数配置して、平面形状が混合流路形成パターン面Pbと整合する混合流路形成パターン面Pcを形成している。そうすることで、中間混合エレメント290の上下面には混合エレメント210の混合流路形成パターン面Paと対面して混合流路230を形成する混合流路形成パターン面Pcを形成している。また、中間混合エレメント291は、その肉厚方向に貫通する多数の貫通孔293を形成しており、貫通孔293は凹部215と平面視同形状の六角柱状空間に形成するとともに多数配置して、平面形状が混合流路形成パターン面Paと整合する混合流路形成パターン面Pdを形成している。そうすることで、中間混合エレメント291の上下面には混合エレメント220の混合流路形成パターン面Pbと対面して混合流路230を形成する混合流路形成パターン面Pdを形成している。
【0089】
中間混合エレメント290,291の左側部にはそれぞれ相互に整合する空間形成部244,245を形成しており、空間形成部244,245は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部241,242とも整合して、これら空間形成部241,242,244,245により始端側一時滞留空間240を形成している。中間混合エレメント290,291の右側部にはそれぞれ相互に整合する空間形成部254,255を形成しており、空間形成部254,255は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部251,252とも整合して、これら空間形成部251,252,254,255により終端側一時滞留空間250を形成している。294,295はOリング配置溝、296,297はOリングである。中間混合エレメント290,291の周縁部にも混合エレメント210,220のビス孔260,261と符合するビス孔(図示せず)を形成して、これらのビス孔中にビスを貫通状に螺着するようにしている。
【0090】
このように、本実施形態の気液混合処理部Mでは、図14に示すように、混合エレメント210と中間混合エレメント290との間、中間混合エレメント290,291同士の間、中間混合エレメント291と混合エレメント220、及び、中間混合エレメント290,291を通した混合エレメント210,220同士の間にそれぞれ混合流路230が形成される。そして、かかる混合流路230は流体がどのエレメント間を流動するのか不明な不規則蛇行流路となる。その結果、かかる混合流路230を流動する流体は錯流・脈流となって蛇行する。ここで、錯流とは流体が各混合エレメント210,220,290,291の凹部215,225ないしは貫通孔292,293の面を擦りながら流動する流れである。また、脈流は流路断面積が周期的ないしは不定期的に変化する流れである。
【0091】
したがって、例えば、液体と気体を流体として混合流路230に流入させた際に、錯流・脈流が繰り返し形成されると、流体中に、局所的高圧部分や局所的低圧部分が生じる。このような流体中では、局所的に低圧部分(例えば真空部分などの負圧部分)が生じるときに、いわゆる発泡現象が生じて液体中に気体が生じたり、微小な気泡が膨張(破裂)したり、生じた気体(気泡)が崩壊(消滅)したりするといったいわゆるキャビテーションと称される現象が生ずる。このようなキャビテーションが起こるときに生ずる力によって、気体の微細化が行われ、流体混合が促進される。その結果、流体の超微細化かつ均一化作業をより一層効率化させることができる。
【0092】
[第4実施形態としての気液混合処理部M]
第4実施形態としての気液混合処理部Mは、第1実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図15に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント290を一枚介在させて、これらの混合エレメント210,220,290を積層状態となしている点で異なる。ここで、混合エレメント220の上面には混合流路形成パターン面Pbに代えて混合流路形成パターン面Paを形成している。
【0093】
すなわち、混合流路形成パターン面Paを有する混合エレメント210と、混合流路形成パターン面Paを有する混合エレメント220との間に、混合流路形成パターン面Pcを上下面に有する中間混合エレメント290を介在させて、混合流路形成パターン面Paと混合流路形成パターン面Pcとを対面させている。
【0094】
このように、本実施形態の気液混合処理部Mでは、図16に示すように、混合エレメント210と中間混合エレメント290との間、中間混合エレメント290と混合エレメント220との間、及び、中間混合エレメント290を通した混合エレメント210,220同士の間にそれぞれ混合流路230が形成される。そして、かかる混合流路230は流体がどのエレメント間を流動するのか不明な不規則蛇行流路となる。その結果、かかる混合流路230を流動する流体は錯流・脈流となって蛇行する。そして、流入側接続部211の流入孔212から供給された流体は始端側一時滞留空間240内に流入し、始端側一時滞留空間240から幅方向に略均等に各混合流路230に並列的に流入する。その結果、混合流路230による流体の超微細化かつ均一化が並列的に効率良く行われる。
【0095】
[第5実施形態としての気液混合処理部M]
第5実施形態としての気液混合処理部Mは、第3実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図17に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント280,290,291を介在させて、これらの混合エレメント210,220,280,290,291を積層状態となしている点で異なる。
【0096】
すなわち、本実施形態に係る気液混合処理部Mは、混合流路形成パターン面Paを有する混合エレメント210と、混合流路形成パターン面Pcを有する中間混合エレメント290と、混合流路形成パターン面Pdを有する中間混合エレメント291と、上下面に混合流路形成パターン面Pb,Paを有する中間混合エレメント280と、混合流路形成パターン面Pcを有する中間混合エレメント290と、混合流路形成パターン面Pdを有する中間混合エレメント291と、混合流路形成パターン面Pbを有する混合エレメント220とを積層して構成している。始端側一時滞留空間240は空間形成部241,244,245,243,244,245,242によりを形成している。終端側一時滞留空間250は空間形成部251,254,255,253,254,255,252によりを形成している。
【0097】
このように構成することで、第3実施形態としての気液混合処理部Mの混合流路230の形態を並列的に二流路形成することができる。また、必要に応じて、混合エレメント210,220間に介在させる中間混合エレメント280,290,291の数を増加させることにより、多数の流路を並列的に形成することができる。その結果、混合流路230による流体の超微細化かつ均一化が並列的に効率良く行われる。
【0098】
以上に述べてきた第1実施形態〜第5実施形態における気液混合処理部Mは、始端側一時滞留空間240と終端側一時滞留空間250との間に混合流路30を単数ないしは並列的に複数形成して、各混合流路230に流体を略均等に流入させることができるため、圧力損失を低減させることができる。また、変形例として、上記した第2実施形態〜第5実施形態における中間混合エレメント280,290,291の肉厚と貫通孔292,293の径を、適宜異ならせることもできる。その場合、流体の超微細化かつ均一化効率に変化をもたせることができる。
【0099】
一対の混合エレメント210,220同士の連結手段としては、本実施形態のビスに限られるものではなく、その変形例も適宜適用することができる。例えば、クランプバンドのようなエレメント挟持体(図示せず)により両混合エレメント210,220を挟持することで混合流路230の周囲を密封することも、また、両混合エレメント210,220を挟持解除することで混合流路230を開放することもできる。また、混合エレメント210と混合エレメント220の一方の長手側縁部同士を観音開き状に枢着して、他方の長手側縁部同士を連結・解除自在に連結することもできる。これら変形例としての連結手段によれば、混合エレメント210,220を重合状態に連結するための連結作業を堅実に行うことができるとともに、混合エレメント210,220を開放状態となすための連結解除作業を簡単に行うことができる。そのため、混合流路230の洗浄作業を頻繁に行う必要性がある場合には好適である。
【符号の説明】
【0100】
A くん液生成装置
J 循環パイプ
K くん煙供給部
M 気液混合処理部
P 圧送ポンプ
R 循環流路
S 処理水供給部
T タンク
V 圧力調整弁
W 処理水
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮魚介類、特にマグロ肉のメト化を抑制するとともに鮮度を保持するくん液を生成する装置と、その装置によって生成されるくん液と、そのくん液により生鮮魚介類を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生鮮魚介類を加工する方法の一形態として、特許文献1に開示されたものがある。かかる特許文献1には、必要添加物を溶解させた水溶液にくん煙を常圧若しくは加圧状態により接触又はミキサーにより撹拌接触させて、水溶液にくん煙成分を溶解させてくん液を作成し、このくん液を魚類に付与してくん製品を製造する魚類加工方法が開示されている。
【0003】
そして、かかる特許文献1には、その効果として、くん煙成分を液体化してくん液となし、このくん液に魚類の可食部分を漬け込むことでくん煙処理に近い保存性のある製品を製造することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−33014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した魚類加工方法では、未だ十分なくん液処理効果が得られていない。すなわち、かかる魚類加工方法としてのくん液へさく状のマグロ肉を漬け込む方法では、マグロ肉中へのくん液(溶解CO)の拡散はきわめて遅い(分子拡散)ので、漬け込み時間として少なくとも数時間を要する。
【0006】
商品化を前提とすれば、くん液への漬け込み時間は短く(例えば,2〜3分以内)する必要があるが、この魚類加工方法の場合、漬け込み時間を3分以内にすると、溶解COの拡散距離はわずかである。したがって、くん液処理効果は十分ではなく、保存性の付与も不十分である。したがって,マグロ肉中へのくん液(すなわち溶解したCO:一酸化炭素)の拡散の観点から言えば、肉中の拡散はきわめて遅いので、さしみのように薄い肉片を対象にする必要があるが、生産性から非現実的である。
【0007】
また、上記した魚類加工方法のように漬け込み時間が長いと、経過時間のほぼ1/2乗に比例してマグロ肉へ水が移行する。その結果、マグロ肉の肉質が水っぽくなって、肉片の自然の風味を減じてしまうので、商品価値が低下する。そのため、マグロ肉へ移行した水の除去を効果的に行い、残留する水を極力抑えることで商品価値を保持する必要性があるが、これは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、生鮮魚介類の肉片の自然の風味を減じることなく、肉片中への溶解COの浸透性(浸透距離)が向上し、それだけ保存性の付与が増大するくん液を生成するくん液生成装置及びその生成装置によって生成されたくん液並びにそのくん液による生鮮魚介類加工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明に係るくん液生成装置は、溶媒としての処理水を供給する処理水供給部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、これらの供給部から供給された処理水とくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、気液混合処理部は、処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすことを特徴とする。ここで、クラスターは平均44個の水分子から形成されているといわれている。
【0010】
かかるくん液生成装置では、くん煙を処理水に溶解してくん液(溶解CO)となすものであるが、溶媒である処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となしている。しかも、かかるくん液は、くん煙を溶解させているだけでなく、くん煙を超微細な気泡となして、溶媒である処理水との接触面積を大となしているため、くん煙成分の処理水への溶解(くん液生成)速度を高速化することができる。
【0011】
改質処理水にくん煙を溶解させてなるくん液は、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が高い。したがって、くん液の生鮮魚介類肉片中への浸透(拡散)距離が長く(深く)なり、それだけ生鮮魚介類肉片の保存性の付与も大きくなる。
【0012】
つまり、気液混合処理部により作成したくん液(溶解CO)は、溶媒である処理水の改質を伴っているので、生鮮魚介類肉片中への溶解COの浸透性が向上し,3分程度の漬け込み時間で浸透距離が深くなり、それだけ保存性の付与が増大する。そして、かかるくん液は、特にミオグロビンと反応しやすいものであることから、生鮮魚介類肉片のメト化(褐変)を抑制することができる。また、かかるくん液生成装置によれば、くん煙を超微細気泡となすことができて、超微細化したくん煙気泡が処理水に溶解され易くなる。そのため、くん液生成速度を高速化することができて、短時間に大量にくん液を生成することができる。その結果、くん液生成装置の小型化を実現することができる。
【0013】
ここで、処理水としては、水、海水、塩水(かん水等を適量だけ付加した塩分濃度を有する水溶液を含む)を適用することができる。そして、塩分濃度は、数%、例えば、2%〜6%とすることができる。
【0014】
請求項2記載の発明に係るくん液生成装置は、溶媒としての処理水を供給する処理水供給部と、処理水供給部から供給される処理水を改質処理水となす改質処理部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、改質処理部から供給された改質処理水とくん煙供給部から供給されたくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、改質処理部は、溶媒としての処理水を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水に高せん断力を作用させて、処理水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となし、気液混合処理部は、改質処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすとともに、生鮮魚介類肉片中への浸透力が増大すべくくん液をさらに改質処理することを特徴とする。
【0015】
かかるくん液生成装置では、あらかじめ改質処理部により溶媒である処理水を改質処理して改質処理水となした後に、改質処理水とくん煙とを気液混合処理部により混合して改質処理水にくん煙を溶解させている。したがって、くん液生成装置によれば、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が高いくん液を効率良く生成することができる。
【0016】
請求項3記載の発明に係るくん液は、請求項1又は2記載のくん液生成装置により生成したことを特徴とする。
【0017】
かかるくん液は、生鮮魚介類、特に、筋肉中に色素蛋白であるミオグロビンが分散している赤身魚(例えば、マグロ)の切り身の肉に浸透させて、くん液に溶解させたくん煙成分をミオグロビンと反応させることで、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、かかるくん液により加工した魚介類は、その保存性を十分に確保することができる。
【0018】
請求項4記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、シート状の吸収材に、請求項3記載のくん液を吸収させ、くん液を吸収している吸収材により生鮮魚介類の肉片を被覆して、吸収材により被覆された生鮮魚類肉片をくん煙で満たした容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とする。ここで、吸収材としては、布やペーパータオルを使用することができる。保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は12時間〜24時間とすることができる。
【0019】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の肉片、特に、さくと呼ばれる長方形断面の板状の肉片ないしはそれよりも小さめの肉片に好適なものであり、かかる肉片に吸収材を介してくん液を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。すなわち、吸収材に吸収されているくん液が生鮮魚介類の肉片(含水肉片)に浸透されると、容器内を満たしているくん煙が吸収材に吸収されているくん液中に溶解して、吸収材に吸収されたくん液の定常状態が保持される。そのため、肉厚状の「さく」と呼ばれる肉片であっても肉片全体にわたってくん液が堅実に浸透される。その結果、生鮮魚介類の肉片の自然の風味を減じることなく、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0020】
請求項5記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、浸漬容器内に、請求項3記載のくん液を収容し、その中に生鮮魚介類の肉片を一定時間だけ浸漬して、その肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とする。保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は12時間〜24時間とすることができる。
【0021】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の肉片、特に、すしねた用の薄片及び鉄心と呼ばれる棒状の肉片に好適なものであり、かかる肉片をくん液に浸漬することで肉片にくん液を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0022】
請求項6記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片の上面と下面に、請求項3記載のくん液を噴霧して、その薄肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とする。保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は12時間〜24時間とすることができる。
【0023】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片、特に、すしねた用の薄片及び棒状の肉片よりも小さい肉片に好適なものであり、その薄肉片の両面(肉厚方向において対をなす幅広面)にそれぞれくん液を噴霧することで、薄肉片にくん液を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0024】
請求項7記載の発明に係るくん液による生鮮魚介類加工法は、請求項4〜6記載の保蔵した肉片は、脱水容器内に収容して、脱水容器内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器内を減圧し、肉片から余分な液の内の数%を除去することを特徴とする。ここで、吸引する一定時間は、数分間、例えば、3分間とすることができる。一定吸引圧は、0.98Kg/cm2までとすることができる。除去する液の重量割合は、肉片の重量の1.5%〜4%とすることができる。
【0025】
かかるくん液による生鮮魚介類加工法では、生鮮魚介類の肉片にくん液を浸透(吸収)させた結果、肉片には余分な液が生起される。この余分な液があると、肉片を水っぽくし、肉片の自然の風味を減じてしまう。したがって、かかる余分な液を除去することで、肉片が水っぽくなるのを解消して、肉片の自然の風味(商品価値)を保持させることができる。また、湿った条件では細菌が繁殖する傾向があるが、肉片から液を除去することで、本質的に細菌の繁殖する可能性が減少するので、細菌を減らすことができる。その結果、生食製品である生鮮魚介類加工品の自然の陳列期間を延長することができるという付加的な効果もある。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、次のような効果を奏する。すなわち、本発明では、くん煙を溶解してくん液(溶解CO)となす溶媒である処理水が、高せん断力を受けて改質されているため、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が向上する。そのため、くん液の生鮮魚介類肉片中への浸透(拡散)距離が長く(深く)なり、それだけくん液による生鮮魚介類肉片への保存性の付与も大きくなる。
【0027】
つまり、気液混合処理部により作成したくん液(溶解CO)は、溶媒である処理水の改質を伴っているので、生鮮魚介類肉片中への溶解COの浸透性が向上し,3分程度の漬け込み時間で浸透距離が深くなり,それだけ保存性の付与が増大する。
【0028】
特に、くん液で加工したマグロ肉は、次の特徴を有する。1)自然のマグロ肉の色と変わらない。2)家庭用冷蔵庫の冷凍室の温度である−18℃で冷凍中は約3ヶ月間変色しない。3)解凍すると無処理マグロと同様に1週間程度でメト化し、食品価値を失う。したがって、消費者が鮮度を見誤る虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る第1実施形態としてのくん液生成装置の概念的説明図。
【図2】本発明に係る第2実施形態としてのくん液生成装置の概念的説明図。
【図3】第1実施形態としての生鮮魚介類加工法の説明図。
【図4】第2実施形態としての生鮮魚介類加工法の説明図。
【図5】第3実施形態としての生鮮魚介類加工法の説明図。
【図6】第1実施形態としての気液混合処理部の正面説明図。
【図7】図6のI-I線矢視底面図。
【図8】図6のII-II線矢視平面図。
【図9】第1実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図10】混合流路形成パターン面の説明図。
【図11】第1実施形態としての気液混合処理部の混合流路の説明図。
【図12】第2実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図13】第3実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図14】第3実施形態としての気液混合処理部の混合流路の説明図。
【図15】第4実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【図16】第4実施形態としての気液混合処理部の混合流路の説明図。
【図17】第5実施形態としての気液混合処理部の断面正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0031】
[第1実施形態としてのくん液生成装置の説明]
図1に示すAは本発明に係る第1実施形態としてのくん液生成装置である。かかるくん液生成装置Aは、処理水Wを収容したタンクTの底部に循環パイプJの基端部を連結し、循環パイプJの先端部をタンクT内の処理水W中に上面から挿入して循環流路Rを形成している。
【0032】
処理水Wは、後述するくん煙を溶解させてくん液となす溶媒であり、処理水Wとしては、例えば、3.5%前後の塩分濃度を有する塩水を適用することができる。
【0033】
循環パイプJの中途部には圧送ポンプPを取り付け、その圧送ポンプPの吸入口近傍(直上流側)に位置する循環パイプJの中途部にはくん煙供給部Kを連結している。
【0034】
くん煙供給部Kから処理水W中に供給されるくん煙は、圧送ポンプPの吸入側からエジェクタ効果により圧送ポンプP内に吸入されるようにすることができる。この際、くん煙の吸入量は、循環パイプJ中を流れる処理水Wの循環流量の約3%(STP;0℃、1気圧)に設定することができる。
【0035】
くん煙供給部Kの下流側に位置する循環パイプJの中途部には、流体混合部としての気液混合処理部Mを設けている。気液混合処理部Mは、処理水Wとくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している処理水Wに高せん断力を作用させて、処理水Wのクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相に高せん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすようにしている。
【0036】
図1中、Sは処理水供給部であり、処理水供給部SはタンクT内に溶媒である処理水Wを随時供給可能としている。Vは循環パイプJの先端部に取り付けた圧力調整弁である。Hは気液混合処理部Mの下流側に位置させて循環パイプJに配設した熱交換器であり、熱交換器Hにより気液混合処理部Mで生成されたくん液を所定の低温度(例えば、4℃〜5℃)となして、その下流側に配置した回収部Gにて所定低温度のくん液を回収するようにしている。Vaは熱交換器Hの下流側に位置させて循環パイプJに配設した三方切替弁であり、三方切替弁Vaの切換操作によりくん液を循環パイプJを通して循環流路R内で所定回数だけ循環させることも、また、回収パイプJbを通して回収部Gに送ることも可能となしている。
【0037】
なお、くん煙供給部Kから供給されるくん煙は、既存のくん煙発生装置により生成することができる。すなわち、くん煙は,くん煙発生装置の中で450℃以下の温度において有機物で食品グレードのくん材を燃やすことで生成するとともに、くん煙の気相から粒子状物質や味を付与する成分を除去するフィルターを通して処理することで生成することができる。くん煙の主要な成分は、窒素,酸素,一酸化炭素,二酸化炭素およびメタンであり、このくん煙はきわめて微量のフェノール類や炭化水素類を含む。ここで、450℃以下という燃焼温度は、くん煙中の有害成分の生成を減じるためである。
【0038】
このようにして、くん液生成装置Aでは、処理水Wにくん煙供給部Kからくん煙を供給して、これらを中途部に圧送ポンプPと気液混合処理部Mを設けた循環パイプJとタンクTとで形成される循環流路Rを通して循環させることができる。
【0039】
この際、気液混合処理部Mは、くん煙を処理水Wに溶解してくん液(溶解CO)となすものであるが、溶媒である処理水Wに高せん断力を作用させて、処理水Wのクラスターの大きさがより小さい改質処理水となしている。すなわち、処理水Wを構成している水は、通常、単一の分子で存在しているのではなく、いくつかの水分子からなるクラスターを形成しているところ、気液混合処理部Mで水が処理されると、クラスターの大きさがより小さい改質処理水を得ることができる。クラスターの大きさがより小さい改質処理水は、くん煙を溶解させ易い。しかも、気液混合処理部Mは、くん煙を直径がナノレベル(1μm以下)の超微細な気泡となして、溶媒である処理水Wとの接触面積を大となすため、くん煙成分の改質処理水への溶解(くん液生成)速度を高速化する。
【0040】
かかる改質処理水にくん煙を溶解させてなるくん液は、生鮮魚介類の肉片中への浸透力が高い。したがって、くん液の生鮮魚介類肉片中への浸透(拡散)距離が長く(深く)なり、それだけ生鮮魚介類肉片の保存性の付与も大きくなる。
【0041】
つまり、気液混合処理部Mにより作成したくん液(溶解CO)は、溶媒である処理水の改質を伴っているので、生鮮魚介類肉片中への溶解COの浸透性が向上し,3分程度の漬け込み時間で浸透距離が深くなり、それだけ保存性の付与が増大する。そして、かかるくん液は、特にミオグロビンと反応しやすいものであることから、生鮮魚介類肉片のメト化(褐変)を抑制することができる。
【0042】
かかる第1実施形態では、前記したように気液混合処理部Mにより処理水Wにくん煙を溶解させてくん液となすことができるが、循環流路R中にて処理水Wを所定時間ないしは所定回数以上循環を繰り返すことにより、改質度合いを高めることができるようにしている。ここで、改質度合いとは、水分子間の水素結合によっていくつかの水分子が互いに結合して形成しているクラスター(会合体で(H2O)nの状態;n≒4.4)を小さくする、つまり、任意の水分子の周辺にある隣接水分子の数をできるだけ小さくするように改質処理する度合いをいう。
【0043】
その結果、処理水Wのクラスターを堅実に小さくすることができるとともに、くん煙の溶解濃度を増大させることができる。しかも、気液混合処理部Mによれば、くん煙をナノレベルの超微細気泡となすことができて、超微細化したくん煙気泡が処理水に溶解され易くなる。そのため、くん液生成速度を高速化することができて、短時間に大量にくん液を生成することができる。その結果、くん液生成装置の小型化を実現することができる。
【0044】
[第2実施形態としてのくん液生成装置の説明]
図2は、本発明に係る第2実施形態としてのくん液生成装置Aの概念図である。かかるくん液生成装置Aは、図2に示すように、改質処理部としての気液混合処理部Mによりあらかじめ処理水Wを改質処理して改質処理水となし(改質処理工程)、その改質処理水を第1実施形態としてのくん液生成装置AのタンクTに供給するようにしている。つまり、処理水Wを単独で改質処理した後に、改質処理水を再度改質処理(二段階に改質処理)するとともにくん煙と気液混合処理して、改質処理水にくん煙を溶解させ易くしている。
【0045】
処理水供給部Sに第1連通パイプ1を介して改質処理部としての気液混合処理部Mの流入側を接続し、気液混合処理部Mの流出側に第2連通パイプ2の基端部を接続して、第2連通パイプ2の先端部をタンクT内に配置している。つまり、気液混合処理部Mにより改質処理した改質処理水をタンクT内に供給可能としている。
【0046】
そして、改質処理部としての気液混合処理部Mよりも上流側に位置する第1連通パイプ1の中途部分と、同改質処理部としての気液混合処理部Mよりも下流側に位置する第2連通パイプ2の中途部分との間に、第1・第2三方弁3,4を介して戻り管5を介設して、戻り管5を通して改質水を適宜循環可能としている。すなわち、必要に応じて、両第1・第2三方弁3,4を切替操作することで、第2連通パイプ2の中途部に設けた圧送ポンプPにより、改質水を循環的に気液混合処理部Mに送り込んで改質処理を所定回数(例えば10回)ないしは所定時間(例えば15分間)だけ繰り返すことにより、改質度合いを高めることができるようにしている。6は第2連通パイプ2の先端部に設けた開閉弁である。
【0047】
このように構成して、第2実施形態としてのくん液生成装置Aでは、改質処理工程において、あらかじめ溶媒としての処理水Wを、改質処理部としての気液混合処理部Mにより改質処理することにより、任意の水分子の周辺にある隣接水分子の数が小さくかつ微細化された水の粒子が均一化された改質処理水となすようにしている。
【0048】
次に、前記した第1・第2実施形態に係るくん液生成装置Aにより生成したくん液により生鮮魚介類を加工する方法(第1〜第3実施形態としての生鮮魚介類加工法)について説明する。
【0049】
[第1実施形態としての生鮮魚介類加工法]
第1実施形態としての生鮮魚介類加工法は、いわゆる「さく」と呼ばれている生鮮魚類の肉片を加工する場合に好適なものである。すなわち、第1実施形態としての生鮮魚介類加工法は、図3に示すように、肉片被覆工程(a)と肉片浸漬工程(b)と密封工程(c)と保蔵工程(d)と脱水工程(e)を有する。
【0050】
肉片被覆工程(a)では、シート状の吸収材10により生鮮魚介類の肉片11を、どの部分も露出しないように完全に包み込んで被覆する。ここで、吸収材10としては、布やペーパータオルを使用することができる。生鮮魚介類の肉片11は、2.5cmを越えない厚みで、例えば、2.5cm×5.0×16.0cmの大きさの魚肉ブロックである。
【0051】
肉片浸漬工程(b)では、上面が開口した浸漬容器12内にくん液13を満たし、その中に上記した吸収材10により被覆された生鮮魚介類の肉片11を浸漬する。そうすることで、吸収材10にくん液13を吸収させることができる。なお、本実施形態では、肉片被覆工程(a)と肉片浸漬工程(b)において、吸収材10により被覆された生鮮魚介類の肉片11を浸漬するようにしているが、くん液13を吸収した吸収材10で肉片11を被覆することもできる。
【0052】
密封工程(c)では、くん液13を吸収した吸収材10により被覆された肉片11を、くん煙19が充填された容器14内に密封状態に収容する。この際、容器14内には、あらかじめ吸収材10により被覆された肉片11を収容して、空気を取り除いた後に容器14を真空封印(バキュームシール)し、その後、容器14内に前記したくん煙供給部Kから供給されるくん煙19を注入して、容器14内を満たすことができる。ここで、くん煙19は、厳密にはくん煙と空気の混合ガスであり、その混合ガス中の正味のくん煙の量の割合をくん煙濃度としているが、例えば、くん煙濃度30%〜40%のものを、600gの肉片11あたり約1gだけ充填する。容器14内におけるくん煙19の圧力は外気圧と同じ1気圧とすることができる。また、容器14としては、プラスティック製の袋(プラスティックバック)を使用することができる。
【0053】
保蔵工程(d)では、容器14を冷蔵庫15内に一定温度にて一定時間保蔵する。ここで、保蔵する一定温度は、肉片の氷点以上で環境温度以下の温度であればよく、望ましくは、0℃〜4℃の間の温度である。保蔵する時間は肉片11の鮮度に応じて12時間〜24時間とすることができる。つまり、鮮度が良い程保蔵時間を短くすることができる。
【0054】
脱水工程(e)では、一定時間だけ保蔵した後の肉片11を乾いた吸収材16で包みなおした後に、脱水容器17内に収容する。そして、脱水容器17内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器17内を減圧し、肉片11から余分な液を肉片重量の数%だけ除去する。VPは真空ポンプ、18は一端を真空ポンプVPに接続した吸引ホースであり、吸引ホース18の他端を脱水容器17に接続している。
【0055】
ここで、脱水容器17としては、プラスティックバックを使用することができる。吸引する一定時間は、数分間、例えば、「さく」がマグロの肉片11では3分間に、一定吸引圧は、0.98Kg/cm2までとすることができる。つまり、真空ポンプVPを3分間作動させる。その間、真空ポンプVPはマグロの肉片11に0.98Kg/cm2までの吸引圧を及ぼす。かかる脱水工程(e)において、肉片11の重量の1.5%〜4%の液を除去する。除去液量が充分でない場合には、脱水工程(e)を繰り返すか、又は一度に3分間以上の脱水を行うことにより、除去液量を確保することができる。なお、肉片11を乾いた吸収材16で包みなおすことなく、肉片11をそのまま脱水容器17に収容して脱水処理することもできる。
【0056】
上記のように構成した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の肉片11、特に、「さく」と呼ばれる肉片11ないしはそれよりも小さめの肉片11に好適なものであり、かかる肉片11に吸収材10を介してくん液13を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。すなわち、吸収材10に吸収されているくん液13が生鮮魚介類の肉片(含水肉片)11に浸透されると、容器14内に充填されているくん煙19が吸収材10に吸収されているくん液13中に溶解して、吸収材10に吸収されたくん液13の定常状態が保持される。そのため、厚肉状のさくと呼ばれる肉片11であっても肉片11全体にくん液13が堅実に浸透される。その結果、生鮮魚介類の肉片11の自然の風味を減じることなく、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0057】
そして、第1実施形態としての生鮮魚介類加工法では、生鮮魚介類の肉片11にくん液13を浸透(吸収)させた結果、肉片11には余分な液が生起される。この余分な液があると、肉片11を水っぽくし、肉片11の自然の風味を減じてしまう。したがって、かかる余分な液を除去することで、肉片11が水っぽくなるのを解消して、肉片11の自然の風味(商品価値)を保持させることができる。また、湿った条件では細菌が繁殖する傾向があるが、肉片11から液を除去することで、本質的に細菌の繁殖する面積が減少するので、細菌を減らすことができる。その結果、生製品である生鮮魚介類加工品の自然の陳列期間を延長することができるという付加的な効果もある。
【0058】
また、上記のようにくん液13で加工処理した製品としての肉片11は、−18℃の普通の冷凍室温度で冷凍する限り、その色調や鮮度は保持される。
【0059】
[第2実施形態としての生鮮魚介類加工法]
第2実施形態としての生鮮魚介類加工法は、すしスライスのように薄肉の肉片(薄肉片)を加工する場合に好適なものであり、この場合、前記した吸収材10は使用しない。すなわち、第2実施形態としての生鮮魚介類加工法は、図4に示すように、薄肉片整置工程(a)と薄肉片浸漬工程(b)と密封工程(c)と保蔵工程(d)と脱水工程(e)を有する。
【0060】
薄肉片整置工程(a)では、所定個数の薄肉片20をそれに応じた大きさの吸収パッド(水分を吸収する受け皿)21の上に整列させて載置する。
【0061】
薄肉片浸漬工程(b)では、浸漬容器22内にくん液23を収容し、その中に生鮮魚介類の薄肉片20を吸収パッド21上に整置したまま一定時間浸漬する。ここで、薄肉片20を浸漬する時間は、2〜5秒間が好ましい。
【0062】
密封工程(c)では、浸漬容器22内のくん液23から吸収パッド21とともに薄肉片20を取り出し、そのまま容器24内に密封状態に収容する。ここで、容器24としては、前記した容器14と同様にプラスティック製の袋(プラスティックバッグ)を使用することができる。
【0063】
保蔵工程(d)では、容器24を冷蔵庫25内に一定温度にて一定時間保蔵する。ここで、保蔵する一定温度と時間は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法と同様とすることができる。
【0064】
脱水工程(e)では、一定時間だけ保蔵した後の薄肉片20を新しい乾いた吸収パッド26上に整置した後に、脱水容器27内に収容する。そして、脱水容器27内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器27内を減圧し、薄肉片20から余分な液を肉片重量の数%だけ除去する。ここで、吸引時間や吸引圧は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法の脱水工程と同様とすることができる。
【0065】
上記のように構成した第2実施形態としての生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片20、特に、すしねた用の薄片、例えば、0.35cm×3.5cm×6.5cmのすしスライスや鉄心と呼ばれる棒状の肉片に好適なものであり、かかる薄肉片20をくん液23に浸漬することで、肉片20にくん液23を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0066】
[第3実施形態としての生鮮魚介類加工法]
第3実施形態としての生鮮魚介類加工法は、すしスライスのように薄肉の肉片を加工する場合に好適なものであり、この場合も、前記した吸収材10は使用しない。すなわち、第3実施形態としての生鮮魚介類加工法は、図5に示すように、薄肉片整置工程(a)とくん液噴霧工程(b)と密封工程(c)と保蔵工程(d)と脱水工程(e)を有する。
【0067】
薄肉片整置工程(a)では、所定個数の生鮮魚介類の薄肉片30をそれに応じた大きさの吸収パッド(水分を吸収する受け皿)31の上に整列させて載置する。ここで、薄肉片30は、第2実施形態としての生鮮魚介類加工法が加工対象としている薄肉片20と同様の大きさないしはそれよりも薄肉の肉片である。
【0068】
くん液噴霧工程(b)では、吸収パッド31の上に整置した薄肉片30の上面と下面に、それぞれスプレー容器32に収容したくん液33を噴霧する。
【0069】
密封工程(c)では、くん液33が噴霧された薄肉片30を、吸収パッド31とともに容器34内に密封状態に収容する。ここで、容器34としては、前記した容器14と同様にプラスティック製の袋を使用することができる。
【0070】
保蔵工程(d)では、容器34を冷蔵庫35内に一定温度にて一定時間保蔵する。ここで、保蔵する一定温度と時間は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法と同様とすることができる。
【0071】
脱水工程(e)では、一定時間だけ保蔵した後の薄肉片30を新しい乾いた吸収パッド36上に整置した後に、脱水容器37内に収容する。そして、脱水容器37内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器37内を減圧し、薄肉片30から余分な液を肉片重量の数%だけ除去する。ここで、吸引時間や吸引圧は、前記した第1実施形態としての生鮮魚介類加工法の脱水工程と同様とすることができる。
【0072】
上記のように構成した第3実施形態としての生鮮魚介類加工法は、生鮮魚介類の薄肉片30、特に、すし片及び棒状の肉片よりも小さい肉片に好適なものであり、その薄肉片30にくん液33を噴霧することで、薄肉片30にくん液33を堅実に浸透させることができて、メト化(褐変)を抑制することができる。その結果、保存性が向上した生鮮魚介類に加工することができる。
【0073】
次に、気液混合処理部Mの構成を、図面を参照しながら具体的に説明する。
[第1実施形態としての気液混合処理部M]
第1実施形態としての気液混合処理部Mは、図6〜図9に示すように、一方向(本実施形態では左右方向)に伸延する上下一対の横長四角形板状の混合エレメント210,220を重合状態に対面させて、両混合エレメント210,220間にその伸延方向に伸延する混合流路230を形成している。
【0074】
そして、混合エレメント210の左側端部には流入側接続部211を形成している。流入側接続部211は一端を混合エレメント210の左側端面に開口させるとともに、他端を混合エレメント210の左側端部下面に開口させている。流入側接続部211の一端に形成した流入孔212には循環パイプJの流入側を着脱自在に接続している。流入側接続部211の他端には始端側一時滞留空間240を介して混合流路230の始端部を連通させている。
【0075】
また、混合エレメント210の右側端部には流出側接続部213を形成している。流出側接続部213は一端を混合エレメント210の右側端面に開口させるとともに、他端を混合エレメント210の右側端部下面に開口させている。流出側接続部213の一端に形成した流出孔214には循環パイプJの流出側を着脱自在に接続している。流出側接続部213の他端には終端側一時滞留空間250を介して混合流路230の終端部を連通させている。
【0076】
混合流路230は、混合エレメント210の下面に多数形成した凹部215からなる混合流路形成パターン面Paと、混合エレメント220の上面に多数形成した凹部225からなる混合流路形成パターン面Pbとを対向させて形成している。各混合流路形成パターン面Pa,Pbは、凹部215,225を開口形状が正六角形で隙間のない状態に多数形成することで、いわゆるハニカム状に形成している。しかも、凹部215,225は、同形同大の六角開口形状に形成して、図10に示すような配置で対向させることで、混合流路230に流入孔212から流入した流体を混合流路230の伸延方向に流動させて分流させる複数の分流部と、分流部で分流された流体を混合流路230の伸延方向に流動させて合流させる複数の合流部とが形成されるようにしている。
【0077】
すなわち、混合流路形成パターン面Paは、図10に一点鎖線で示すように、混合エレメント210の凹部215を幅方向に五列かつ左右伸延方向に多数個千鳥状に配置して形成している。また、混合流路形成パターン面Pbは、図7に実線で示すように、混合エレメント220の凹部225を幅方向に六列かつ左右伸延方向に多数個千鳥状に配置して形成している。そして、混合エレメント210の凹部215の中心位置に、混合エレメント220の凹部225の角部226が位置する状態で当接している。このような状態で当接させると、相互に位置ずれした混合エレメント210の凹部215と混合エレメント220の凹部225との間で流体(処理水Wと窒素ガス)を流動させることができる。角部226は3つの凹部225の角部が集まっている位置である。また、混合エレメント220の凹部225の中心位置にも、混合エレメント210の凹部215の角部216が位置する。角部216は3つの凹部215の角部が集まっている位置である。この場合は、混合エレメント210の角部216が上述した分流部や合流部として機能する。
【0078】
したがって、例えば、混合エレメント210の凹部215側から混合エレメント220の凹部225側に流体が流れる場合を考えると、流体は二つの流路に分流されることになる。つまり、混合エレメント210の凹部215の中央位置に位置された混合エレメント220の角部226は、流体を分流する分流部として機能する。逆に、混合エレメント220側から混合エレメント210側に流体が流れる場合を考えると、二方から流れてきた流体が1つの凹部215に流れ込むことで合流することになる。この場合、混合エレメント220の中央位置に位置された角部226は、合流部として機能する。
【0079】
混合流路230の始端部と混合エレメント210の左側部に形成した流入側接続部211との間には始端側一時滞留空間240を形成している。始端側一時滞留空間240は、混合エレメント210の左側部下面に形成した凹状の空間形成部241と、混合エレメント220の左側部上面に形成した凹状の空間形成部242とを、上下方向に対面させて形成している。しかも、図10に示すように、両空間形成部241,242とで形成される始端側一時滞留空間240の前後方向の幅W1は、混合流路230の始端部の前後方向の幅W2と略同一幅に形成して、始端側一時滞留空間240の略全幅にわたって混合流路230の始端部と連通させている。
【0080】
また、混合流路230の終端部と混合エレメント210の他側部に形成した流出側接続部213との間には終端側一時滞留空間250を形成している。終端側一時滞留空間250は、混合エレメント210の右側部下面に形成した凹状の空間形成部251と、混合エレメント220の右側部上面に形成した凹状の空間形成部252とを、上下方向に対面させて形成している。しかも、両空間形成部251,252とで形成される終端側一時滞留空間250の前後方向の幅W3は、混合流路230の終端部の前後方向の幅W4と略同一幅に形成して、終端側一時滞留空間250の略全幅にわたって混合流路230の終端部と連通させている。
【0081】
260は上側の混合エレメント210の周囲に間隔を開けて多数形成した上側ビス孔、261は下側の混合エレメント220の周囲に間隔を開けて多数形成した下側ビス孔である。各ビス孔260,261は上下方向に軸線を向けて形成して、上下に符合する上・下側ビス孔260,261中にビス262を螺着することで、両混合エレメント210,220を重合状態に簡単かつ堅実に連結することができる。また、ビスを取り外すことで、両混合エレメント210,220の連結を簡単に解除して、凹部215,225等の洗浄作業をすることができる。270は混合エレメント220の上面において多数の凹部225と空間形成部242,252の周囲を囲むように形成したOリング配置溝である。271はOリング配置溝270に配置したOリングである。Oリング271により混合エレメント210,220の密閉性を確保することができる。
【0082】
このように、相互に対向状態に対面配置された両混合エレメント210,220の間には、流入側接続部211と始端側一時滞留空間240と混合流路230と終端側一時滞留空間250と流出側接続部213とが直列状に連通される。そして、図11にも示すように、流入側接続部211の流入孔212から供給された流体は始端側一時滞留空間240内に流入し、始端側一時滞留空間240から幅方向に略均等に混合流路230に流入して、混合流路230内を流動した後、終端側一時滞留空間250を通して流出側接続部213の流出孔214から流出される。この際、混合流路230では流体が分流と合流(分散と混合)を繰り返しながら両混合エレメント210,220の伸延方向に蛇行状態にて流動する。したがって、流体として、例えば、液体と気体を混合流路230に流入させると、気体は気泡径がサブミクロンレベル(ナノレベル)に超微細化かつ均一化されるとともに、液体中に均一分散化される。
【0083】
[第2実施形態としての気液混合処理部M]
第2実施形態としての気液混合処理部Mは、第1実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図12に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント280を一枚介在させて、これらの混合エレメント210,220,280を積層状態となしている点で異なる。
【0084】
すなわち、中間混合エレメント280は、混合エレメント210の混合流路形成パターン面Paと対面する上面に混合流路形成パターン面Pbを形成する一方、混合エレメント220の混合流路形成パターン面Pbと対面する下面に混合流路形成パターン面Paを形成している。ここで、中間混合エレメント280の混合流路形成パターン面Paは、凹部215と同形状の凹部281を多数対向状態に配置して形成し、また、中間混合エレメント280の混合流路形成パターン面Pbは、凹部225と同形状の凹部282を多数対向状態に配置して形成している。
【0085】
中間混合エレメント280の左側部には空間形成部243を形成しており、空間形成部243は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部241,242と整合して、これら空間形成部241〜243により始端側一時滞留空間240を形成している。中間混合エレメント280の右側部には空間形成部253を形成しており、空間形成部253は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部251,252と整合して、これら空間形成部251〜253により終端側一時滞留空間250を形成している。283はOリング配置溝、284はOリングである。中間混合エレメント280の周縁部にも混合エレメント210,220のビス孔260,261と符合するビス孔(図示せず)を形成して、これらのビス孔中にビス262を貫通状に螺着するようにしている。
【0086】
このように、本実施形態の気液混合処理部Mでは、混合エレメント210と中間混合エレメント280との間、及び、中間混合エレメント280と混合エレメント220との間にそれぞれ混合流路230が形成されて、上下に平行する混合流路230が二流路配置される。そして、流入側接続部211の流入孔212から供給された流体は始端側一時滞留空間240内に流入し、始端側一時滞留空間240から幅方向に略均等に各混合流路230に並列的に流入する。その結果、混合流路230による流体の超微細化かつ均一化が並列的に効率良く行われる。また、中間混合エレメント280を所要複数枚積層することで、所要数の混合流路230を配置することができて、流体の超微細化かつ均一化作業をより一層効率化させることができる。
【0087】
[第3実施形態としての気液混合処理部M]
第3実施形態としての気液混合処理部Mは、第1実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図13に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント290,291を二枚介在させて、これらの混合エレメント210,220,290,291を積層状態となしている点で異なる。
【0088】
すなわち、中間混合エレメント290は、その肉厚方向に貫通する多数の貫通孔292を形成しており、貫通孔292は凹部225と平面視同形状の六角柱状空間に形成するとともに多数配置して、平面形状が混合流路形成パターン面Pbと整合する混合流路形成パターン面Pcを形成している。そうすることで、中間混合エレメント290の上下面には混合エレメント210の混合流路形成パターン面Paと対面して混合流路230を形成する混合流路形成パターン面Pcを形成している。また、中間混合エレメント291は、その肉厚方向に貫通する多数の貫通孔293を形成しており、貫通孔293は凹部215と平面視同形状の六角柱状空間に形成するとともに多数配置して、平面形状が混合流路形成パターン面Paと整合する混合流路形成パターン面Pdを形成している。そうすることで、中間混合エレメント291の上下面には混合エレメント220の混合流路形成パターン面Pbと対面して混合流路230を形成する混合流路形成パターン面Pdを形成している。
【0089】
中間混合エレメント290,291の左側部にはそれぞれ相互に整合する空間形成部244,245を形成しており、空間形成部244,245は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部241,242とも整合して、これら空間形成部241,242,244,245により始端側一時滞留空間240を形成している。中間混合エレメント290,291の右側部にはそれぞれ相互に整合する空間形成部254,255を形成しており、空間形成部254,255は上下方向(肉厚方向)に貫通するとともに、混合エレメント210,220の空間形成部251,252とも整合して、これら空間形成部251,252,254,255により終端側一時滞留空間250を形成している。294,295はOリング配置溝、296,297はOリングである。中間混合エレメント290,291の周縁部にも混合エレメント210,220のビス孔260,261と符合するビス孔(図示せず)を形成して、これらのビス孔中にビスを貫通状に螺着するようにしている。
【0090】
このように、本実施形態の気液混合処理部Mでは、図14に示すように、混合エレメント210と中間混合エレメント290との間、中間混合エレメント290,291同士の間、中間混合エレメント291と混合エレメント220、及び、中間混合エレメント290,291を通した混合エレメント210,220同士の間にそれぞれ混合流路230が形成される。そして、かかる混合流路230は流体がどのエレメント間を流動するのか不明な不規則蛇行流路となる。その結果、かかる混合流路230を流動する流体は錯流・脈流となって蛇行する。ここで、錯流とは流体が各混合エレメント210,220,290,291の凹部215,225ないしは貫通孔292,293の面を擦りながら流動する流れである。また、脈流は流路断面積が周期的ないしは不定期的に変化する流れである。
【0091】
したがって、例えば、液体と気体を流体として混合流路230に流入させた際に、錯流・脈流が繰り返し形成されると、流体中に、局所的高圧部分や局所的低圧部分が生じる。このような流体中では、局所的に低圧部分(例えば真空部分などの負圧部分)が生じるときに、いわゆる発泡現象が生じて液体中に気体が生じたり、微小な気泡が膨張(破裂)したり、生じた気体(気泡)が崩壊(消滅)したりするといったいわゆるキャビテーションと称される現象が生ずる。このようなキャビテーションが起こるときに生ずる力によって、気体の微細化が行われ、流体混合が促進される。その結果、流体の超微細化かつ均一化作業をより一層効率化させることができる。
【0092】
[第4実施形態としての気液混合処理部M]
第4実施形態としての気液混合処理部Mは、第1実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図15に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント290を一枚介在させて、これらの混合エレメント210,220,290を積層状態となしている点で異なる。ここで、混合エレメント220の上面には混合流路形成パターン面Pbに代えて混合流路形成パターン面Paを形成している。
【0093】
すなわち、混合流路形成パターン面Paを有する混合エレメント210と、混合流路形成パターン面Paを有する混合エレメント220との間に、混合流路形成パターン面Pcを上下面に有する中間混合エレメント290を介在させて、混合流路形成パターン面Paと混合流路形成パターン面Pcとを対面させている。
【0094】
このように、本実施形態の気液混合処理部Mでは、図16に示すように、混合エレメント210と中間混合エレメント290との間、中間混合エレメント290と混合エレメント220との間、及び、中間混合エレメント290を通した混合エレメント210,220同士の間にそれぞれ混合流路230が形成される。そして、かかる混合流路230は流体がどのエレメント間を流動するのか不明な不規則蛇行流路となる。その結果、かかる混合流路230を流動する流体は錯流・脈流となって蛇行する。そして、流入側接続部211の流入孔212から供給された流体は始端側一時滞留空間240内に流入し、始端側一時滞留空間240から幅方向に略均等に各混合流路230に並列的に流入する。その結果、混合流路230による流体の超微細化かつ均一化が並列的に効率良く行われる。
【0095】
[第5実施形態としての気液混合処理部M]
第5実施形態としての気液混合処理部Mは、第3実施形態としての気液混合処理部Mと基本的構造を同じくするが、図17に示すように、上下一対の混合エレメント210,220間に、これら混合エレメント210,220よりも薄肉板状の中間混合エレメント280,290,291を介在させて、これらの混合エレメント210,220,280,290,291を積層状態となしている点で異なる。
【0096】
すなわち、本実施形態に係る気液混合処理部Mは、混合流路形成パターン面Paを有する混合エレメント210と、混合流路形成パターン面Pcを有する中間混合エレメント290と、混合流路形成パターン面Pdを有する中間混合エレメント291と、上下面に混合流路形成パターン面Pb,Paを有する中間混合エレメント280と、混合流路形成パターン面Pcを有する中間混合エレメント290と、混合流路形成パターン面Pdを有する中間混合エレメント291と、混合流路形成パターン面Pbを有する混合エレメント220とを積層して構成している。始端側一時滞留空間240は空間形成部241,244,245,243,244,245,242によりを形成している。終端側一時滞留空間250は空間形成部251,254,255,253,254,255,252によりを形成している。
【0097】
このように構成することで、第3実施形態としての気液混合処理部Mの混合流路230の形態を並列的に二流路形成することができる。また、必要に応じて、混合エレメント210,220間に介在させる中間混合エレメント280,290,291の数を増加させることにより、多数の流路を並列的に形成することができる。その結果、混合流路230による流体の超微細化かつ均一化が並列的に効率良く行われる。
【0098】
以上に述べてきた第1実施形態〜第5実施形態における気液混合処理部Mは、始端側一時滞留空間240と終端側一時滞留空間250との間に混合流路30を単数ないしは並列的に複数形成して、各混合流路230に流体を略均等に流入させることができるため、圧力損失を低減させることができる。また、変形例として、上記した第2実施形態〜第5実施形態における中間混合エレメント280,290,291の肉厚と貫通孔292,293の径を、適宜異ならせることもできる。その場合、流体の超微細化かつ均一化効率に変化をもたせることができる。
【0099】
一対の混合エレメント210,220同士の連結手段としては、本実施形態のビスに限られるものではなく、その変形例も適宜適用することができる。例えば、クランプバンドのようなエレメント挟持体(図示せず)により両混合エレメント210,220を挟持することで混合流路230の周囲を密封することも、また、両混合エレメント210,220を挟持解除することで混合流路230を開放することもできる。また、混合エレメント210と混合エレメント220の一方の長手側縁部同士を観音開き状に枢着して、他方の長手側縁部同士を連結・解除自在に連結することもできる。これら変形例としての連結手段によれば、混合エレメント210,220を重合状態に連結するための連結作業を堅実に行うことができるとともに、混合エレメント210,220を開放状態となすための連結解除作業を簡単に行うことができる。そのため、混合流路230の洗浄作業を頻繁に行う必要性がある場合には好適である。
【符号の説明】
【0100】
A くん液生成装置
J 循環パイプ
K くん煙供給部
M 気液混合処理部
P 圧送ポンプ
R 循環流路
S 処理水供給部
T タンク
V 圧力調整弁
W 処理水
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒としての水を供給する水供給部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、これらの供給部から供給された水とくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、
気液混合処理部は、水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している水にせん断力を作用させて、水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相にせん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすことを特徴とするくん液生成装置。
【請求項2】
溶媒としての水を供給する水供給部と、水供給部から供給される水を改質処理水となす改質処理部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、改質処理部から供給された改質処理水とくん煙供給部から供給されたくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、
改質処理部は、溶媒としての水を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している水にせん断力を作用させて、水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となし、
気液混合処理部は、改質処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで気液混相にせん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすとともに、生鮮魚類肉片中への浸透力が増大すべくくん液をさらに改質処理することを特徴とするくん液生成装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のくん液生成装置により生成したことを特徴とするくん液。
【請求項4】
シート状の吸収材に、請求項3記載のくん液を吸収させ、くん液を吸収している吸収材により生鮮魚類肉片を被覆して、吸収材により被覆された生鮮魚類肉片をくん煙で満たした容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項5】
浸漬容器内に、請求項3記載のくん液を収容し、その中に生鮮魚類の肉片を一定時間だけ浸漬して、その肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項6】
生鮮魚類の薄肉片の上面と下面に、請求項3記載のくん液を噴霧して、その肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項7】
請求項4〜6記載の保蔵した肉片は、脱水容器内に収容して、脱水容器内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器内を減圧し、肉片から余分な液の内の数%を除去することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項1】
溶媒としての水を供給する水供給部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、これらの供給部から供給された水とくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、
気液混合処理部は、水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している水にせん断力を作用させて、水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となすとともに、改質処理水とくん煙との気液混相にせん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすことを特徴とするくん液生成装置。
【請求項2】
溶媒としての水を供給する水供給部と、水供給部から供給される水を改質処理水となす改質処理部と、くん煙を供給するくん煙供給部と、改質処理部から供給された改質処理水とくん煙供給部から供給されたくん煙を混合処理する気液混合処理部とを備え、
改質処理部は、溶媒としての水を蛇行流路中に流動させることで、いくつかの水分子からなるクラスターを形成している水にせん断力を作用させて、水のクラスターの大きさがより小さい改質処理水となし、
気液混合処理部は、改質処理水とくん煙の気液混相を蛇行流路中に流動させることで気液混相にせん断力を作用させて、溶媒である改質処理水にくん煙を溶解させたくん液となすとともに、生鮮魚類肉片中への浸透力が増大すべくくん液をさらに改質処理することを特徴とするくん液生成装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のくん液生成装置により生成したことを特徴とするくん液。
【請求項4】
シート状の吸収材に、請求項3記載のくん液を吸収させ、くん液を吸収している吸収材により生鮮魚類肉片を被覆して、吸収材により被覆された生鮮魚類肉片をくん煙で満たした容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項5】
浸漬容器内に、請求項3記載のくん液を収容し、その中に生鮮魚類の肉片を一定時間だけ浸漬して、その肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項6】
生鮮魚類の薄肉片の上面と下面に、請求項3記載のくん液を噴霧して、その肉片を容器内に密封状態に収容し、その容器を冷蔵庫内に一定温度にて一定時間保蔵することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【請求項7】
請求項4〜6記載の保蔵した肉片は、脱水容器内に収容して、脱水容器内に一定時間だけ一定吸引圧を及ぼすことで脱水容器内を減圧し、肉片から余分な液の内の数%を除去することを特徴とするくん液による生鮮魚類加工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−161304(P2012−161304A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26364(P2011−26364)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(504244173)株式会社MGグローアップ (15)
【出願人】(392024518)丸福水産株式会社 (16)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(504244173)株式会社MGグローアップ (15)
【出願人】(392024518)丸福水産株式会社 (16)
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