説明

すだれ状構造電極を用いたディスコティック液晶に基づく電子素子

本発明は、ディスコティック液晶材料に基づく電子素子、このような電子素子の製造方法及びその使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスコティック液晶材料(discotic liquid crystalline material)に基づく電子素子、このような電子素子の製造方法及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジが進歩し、新素材が利用可能となったことで、近年、特に電界効果トランジスタ、光起電力セル、発光ダイオード(light emitting diode:以下、LEDという。)等の電子素子の製造が盛んになっている。これらのうち、異なる2つの電極物質間に有機物層を挟み込んだ標準的な幾何構造を有する有機光起電力(photovoltaic:PV)セル(又は有機太陽電池)は、安価に製造でき、堆積面積が広く、柔軟なプラスチック基板との適合性を有する等の考えられる利点を有するので、科学的に注目されている。様々な文献において、導電性高分子材料、高分子化合物の混合物、有機分子(C.J. Brabec, N.S., Saracifici, J.C. Hummelen, Adv.Funct.Mater.11, 15-26 (2001))、有機分子(C.W. Tang, Appl.Phys.Lett.48(2), 183-185 (1986); D. Wohrle, D. Meissner, Adv.Mater.3, 129-138 (1991); T.J. Schaatsma, Solar Energy Materials and Solar Cells, 38, 349-351, (1995))、及び液晶(B.A. Gregg, M.A. Fox, A.L.J. Bard, J. Phys.Chem., 94, 1586-1598, (1990); K. Petritsch, R.H. Friend, A. Lux, G. Rozenberg, S.C. Moralti, A. B. Holmes, Synth.Met., 102, 1776-7(1999); L. Schmidt-Mende, A. Fechtenkotter, K. Mullen, E. Moons, R. H. Friend, J.D. MacKenzie, Science, 293, 1119-22 (2001))を用いて製造された光起電力セルの多くの具体例が報告されている。
【0003】
例えば、電界効果トランジスタ(field effect transistor:以下、FETという。)の製造分野において、有機化合物の一種であるディスコティック液晶材料(discotic liquid crystalline material)が注目されている。ディスコティック液晶材料が注目される理由は、円盤状分子(discotic molecule)によって発現される導電性の挙動のためである。円盤状分子(円盤形状)は、通常、長さ、この場合円盤の高さと、幅、すなわち直径との間には大きな差がある。円盤状分子は、通常、堅くて平坦なコアユニットと、このコアユニットを取り囲む柔軟な側鎖とを有している。コアユニットは、必ずではないが、殆どの場合、例えばトリフェニレン又はフタロシアニン等の芳香族である。分子の幾何学的形状を確実に円盤形状とするためには、コアユニットは、多くの場合、対称性を有し、適切な数の側鎖が用いられる。コアユニット及び/又は側鎖を変えることによって、物性を広範囲に亘って変化させることができる。また、円盤状分子は、異方性も有し、したがって、潜在的にメソゲン(mesogen)、すなわち液晶相を形成する能力を有する。ディスコティック液晶材料は、π−π相互作用により、大きな異方性の必要条件を満たす唯一の種類の液晶である。円盤状分子における円盤間積層相互作用(interdisc stacking interaction)は、カラム間相互作用(intercolumnar interaction)より数桁大きい。この特徴は、ファンデルワールス相互作用が他のいずれの相互作用よりも大幅に弱い柔軟な側鎖によって引き起こされる相分離によって満たされる。したがって、伸展された芳香族コアを有する円盤状分子は、π−π相互作用に基づいて、溶液中で超分子高分子の集合(supramolecular polymeric assemblies)を形成する最良の設計要素である(L. Brunsveld, B.J.B. Folmer, E.W. Meier, MRS Bulletin, 49-53, (2000))。
【0004】
1994年、アダム(Adam)他は、上述した円盤状分子の導電性に関して、飛行時間(time of flight:TOF)測定値に基づいて、円盤状分子(ヘクサ−ヘクシリチオトリフェニレン(hexa-hexylthio tripheny-lene):HTTP)の液晶相における電荷キャリア(正孔)の高い移動度を報告している(D. Adam, P. Schuhmacher, J. Simmerer, L. Haeussling, K. Siemensmeyer, K. H. Etzbach, H. Ringsdorf and D. Haarer Nature 371, 141-143 (1994))。液相から六角形のディスコティック相(hexagonal discotic phase)への遷移により、HTTPの移動度は10倍に高まり、更に、より高次のディスコティック相では、移動度は2桁高くなっている。有機単結晶を除いて、HTTPの光誘起電荷キャリアの報告された移動度(0.1cm−1)は、当時報告されていた他の如何なる有機系の移動度より高かった(N. Karl and J. Ziegler, Chem.Phys.Lett.32, 438-442 (1975))。カラム内の隣接した円盤間の距離は、3.6Åであり、カラム間の距離は、21.7Åであった。
【0005】
この結果、励起種(excited species)が飽和炭化水素のマントル(saturated hydrocarbon mantle、絶縁性の側鎖)を通してトンネルを掘らなければならないので、電荷(及び励起子)の輸送は、むしろカラムに沿って起こり、カラム軸に垂直な方向の移動度は1/500以下にできると予想している(N. Boden, R.C. Borner, R.J. Bushby and J. Clements, J. Am.Chem.Soc.116, 10807-8 (1994))。このようなカラムは、キャリアだけではなく、励起子及びイオンを効率的に輸送するためにも用いることができる(C.F. van Nostrum Adv.Mat.8, 1027-1030 (1996))。
【0006】
円盤状分子を電子素子の半導体として応用するためのキーパラメータは、図1に示すような、円盤状分子の基板に対する相対配向である。
【0007】
これは、積層された円盤のカラムに沿った一次元的導電機構(unidimensional conduction mechanism)のためである。そして、これらのカラムを有効に電極に接続することが重要である。ここで、2つの極端なケース、すなわち円盤状分子をホメオトロピック(homeotropically、すなわち「フェイス−オン(face-on)」)に配向する場合と、ホモジニアス(homeogeneously、すなわち「フェイス−オン(face-on)」)に配向する場合のいずれかが考えられる。適切な配向は、目的とする素子の構造に依存する。一般的に、図2に示すように、ホメオトロピック配向は、FETに適し、ホモジニアス配向は、光起電力素子に適している。
【0008】
1999年には、太陽電池におけるディスコティック液晶材料の使用に関して、ディスコティック液晶の活性半導体層を用いた二層光起電力素子(double layer photovoltaic device)が提案されている(K. Petritsch, R.H. Friend, A. Lux, G. Rozenberg, S.C. Moratti, A.B. Holmes., Synth.Met.102, 1779-7(1999))。このような素子は、略0.5%の量子効率で、紫外線から近赤外線までの光を取り入れることができる。
【0009】
シュミット・メンデ(Schmidt-Mende)等は、ヘキサベンゾコロン(HBC−PhC12)のヘキサフェニル置換体を電子供与体とし、ペリレンジカルボン酸ジイミド誘導体を電子受容体とした二層の液晶をセルの活性層に用いた、自己組織化液晶有機太陽電池を報告しており、この報告では、外部量子効率(external quantum efficiency:EQE)は、490nmにおいて34%以上と高い(L. Schmidt-Mende, A. Fechtenkotter, K. Mullen, E. Moons, R.H. Friend, J.D. MacKenzie, Science, 293, 1119-22 (2001))。HBC−PhC12は、円盤状の構造を有し、室温において液晶相、すなわち分子が柱状構造に自己組織化したディスコティック液晶を発現する。この構造は、平坦な形状の分子を形成し、各分子の平面から分子のπ軌道が突き出し、グラファイト構造と同様に、隣接する層の分子間の安定した結合を実現する。
【0010】
これらの提案されている素子では、いずれも、円盤状分子の配向を特別に最適化しておらず、また、このようなディスコティック液晶に基づく電子素子、例えば大規模な太陽電池を製造する可能性が検討されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の目的は、ディスコティック液晶材料の好ましい配向に適合した電極の幾何構造を有する電子素子を提供することである。更に、本発明の目的は、容易に製造できる電子素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの課題を解決するために、本発明に係る電子素子は、表面を有する基板と、基板の表面上に、その要素がすだれ状に及び/又は曲折して及び/又は平行に配列された電極アレーと、基板の表面上に配置され、それぞれが長軸を有する少なくとも1つのカラムを形成し、カラムの長軸が表面に平行であり、電極アレーの要素がカラムによって互いに導電的に接続され、電気伝導が主にカラムの長軸に沿って起こる、少なくとも1つのディスコティック液晶材料の少なくとも1つの層とを備える。
【0013】
カラムは、好ましくは、平行又は略平行に配列されたその長軸と一軸的に配列される。
【0014】
一実施形態においては、電極アレーの要素は、電極指であり、電極アレーは、少なくとも2つの電極指を備え、より好ましくは3つの電極指を備え、最も好ましくは、更に多くの電極指を備える。
【0015】
一実施形態においては、複数の電極指は、少なくとも1つの櫛形構造を形成し、ここで、好ましくは、複数の電極指は、互いに咬み合う2つの櫛形構造を形成し、又は複数の電極指は、互いに咬み合う1つの櫛形構造と、1つの曲折構造とを形成する。
【0016】
一実施形態においては、2つの櫛形構造は、各櫛形構造の電極指が互いに対向するように、互いに逆向きに配置されている。
【0017】
一実施形態においては、電極アレーは、少なくとも1つの金属酸化物製である。
【0018】
一実施形態においては、電極アレーは、少なくとも1つの金属製である。
【0019】
一実施形態においては、電極アレーは、少なくとも1つの金属酸化物製及び/又は少なくとも1つの金属製である。
【0020】
一実施形態においては、電極アレーは、少なくとも2つの金属から作られている。
【0021】
好ましくは、少なくとも1つの金属酸化物及び/又は少なくとも1つの金属は、電子素子の仕事関数に適合するように選択される。
【0022】
一実施形態においては、金属又は金属酸化物は、金、銀、アルミニウム、イオン、銅、プラチナ、亜鉛、スズ、カルシウム、マグネシウム、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ドープ酸化亜鉛(ZnO)、無ドープ酸化亜鉛(ZnO)からなるグループから選択される。
【0023】
一実施形態においては、電極指は、少なくとも1つの金属及び/又は少なくとも1つの金属酸化物、好ましくは、上に定義されている2つの金属及び/又は2つの金属酸化物から作られている。
【0024】
一実施形態においては、隣接する2つの電極指間の平均距離は、1μm〜100μm、好ましくは2μm〜30μm、最も好ましくは3μm〜10μmである。
【0025】
電子素子は、好ましくは、2層以上の同じ又は異なるディスコティック液晶材料の層を備え、一方のディスコティック液晶材料の層が、他方のディスコティック液晶材料の層上に形成されている。
【0026】
基板は、好ましくは、ガラス、石英、フレキシブル基板(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ステンレススチールを含む)及びシリコンからなるグループから選択される。
【0027】
一実施形態においては、基板は、表面が修飾される。好ましくは、基板は、一軸配向を実現するように表面が修飾される。この修飾は、例えば、修飾されていない基板のラビング(rubbing)、フッ素樹脂又はポリイミドによるコーティング及びその後の任意のラビング、シャーリング(shearing)、電極構造上又は電極構造下での小分子によるコーティング(シラン化、ラングミュア−ブロジェット法及びラングミュア−シェーファー法(Langmuir-Schafer-technique)、自己組織化)等によって行うことができる。
【0028】
好ましくは、平行に配列された軸によるカラムの一軸配向は、ドクターブレード法、シャーリング、ラビング、レーザ照射によるゾーンキャスティング及び/又は配向、磁界をかけることによる配向(exposition to magnetic field)、ドロップキャスティング(drop casting)、スピンコーティング、ラングミュア−ブロジェット法、ラングミュア−シェーファー法、又は修飾されていない及び/又は修飾された基板の又は基板における自己組織化によって実現される。
【0029】
本発明の更なる目的は、本発明に基づく電子素子を太陽電池、電界効果トランジスタ、センサ及び/又は発光ダイオードとして使用する使用方法によって達成される。
【0030】
更に、本発明の目的は、(a)表面を有する基板を準備する工程と、(b)表面上に少なくとも1つのディスコティック液晶材料の層を堆積させる工程と、(c)表面上に、その要素がすだれ状に及び/又は曲折して及び/又は平行に配列されるように電極アレーを堆積させる工程とを有する電子素子の製造方法によって達成される。
【0031】
工程(b)と工程(c)は、逆の順序で行ってもよい。
【0032】
一実施形態においては、ディスコティック液晶材料の少なくとも1つの層は、ディスコティック液晶材料の各カラムが一軸的に配列された長軸を有するように配列され、カラムの長軸は、好ましくは、基板の表面に平行であり、より好ましくは、カラムの長軸は、電極アレー、特に電極アレーによって形成された電極指に垂直である。
【0033】
一実施形態においては、電極アレーの要素は、カラムによって互いに導電的に接続され、電気伝導は、主にカラムの長軸に沿って起こる。
【0034】
一実施形態においては、一軸配向は、工程(d)として実現され、好ましくは、ディスコティック液晶材料の一軸配向は、ドクターブレード法、シャーリング、ラビング、レーザ照射によるゾーンキャスティング及び/又は配向、磁界をかけることによる配向、ドロップキャスティング、スピンコーティング、ラングミュア−ブロジェット法、ラングミュア−シェーファー法、修飾されていない及び/又は修飾された基板の又は基板における自己組織化からなるグループから選択される手法によって実現される。
【0035】
一軸配向(工程(d))は、ディスコティック液晶材料の堆積(工程(b))の後に又は同時に実行され、好ましくは、基板は、修飾されておらず又は予め配向されている。
【0036】
更に、本発明の目的は、本発明に係る電子素子の製造方法によって製造された電子素子によって達成される。
【0037】
更に、本発明の目的は、本発明に係る電子素子の製造方法によって製造された電子素子を太陽電池、電界効果トランジスタ、センサ及び/又は発光ダイオードとして使用する使用方法によって達成される。
【0038】
発明者らは、ディスコティック液晶材料は、基板に適用されると、基板表面に対する前処理又は液晶材料に対して用いられる適用技術(application technique)の如何に関わらず、ホモジニアス配向になりやすいことを見出した。したがって、本発明に基づいて提案された電極の幾何学的形状は、従来用いられていた電極の幾何学的形状よりも、このディスコティック液晶のカラムの選択的な配向に遙かに良好に適合する。本発明に基づく電子素子では、ディスコティックカラムをホモジニアス配向からホメオトロピック配向に変換する困難な変換を必要としないので、より簡単に製造できる。更に、本発明に基づく電子素子は、例えば光起電力セルとして用いた場合、照射光を遮らないので、透明基板又は透明電極を必要としない。
【0039】
ここに用いる用語「すだれ状(interdigitating fashion)」とは、互いに係合(engage)する(互いに咬み合う(interdigitate))突出部を有する2つ以上の構成要素の配置を意味する。用語「曲折(meandering)」とは、電極アレーが、左右に交互に曲がる経路に沿って配置されることを意味する。「電極アレーの要素(part)がカラムによって互いに導電的に接続される」という語句は、電極アレーの要素間のカラムを介した接続により、電気伝導(電子、正孔、イオン及び/又は励起子の輸送を意味する。)が可能であることを意味する。電気伝導は、好ましくは、普通の方法によって測定できる。励起子とは、伝導帯の励起された電子と、価電子帯の残りの正孔(又は、欠乏)とからなる2つの素粒子の状態である。ディスコティック液晶材料のカラムの「長軸(longitudinal axis)」とは、カラムに沿った軸である。ここでは、長軸の向きの差が10°未満、好ましくは5°未満である場合、長軸は、「平行又は略平行に配列」されていると表現する。ここで用いる用語「電極指(electrode finger)」とは、電極アレーの基体部から突き出している要素である。「櫛形構造(comb-like structure)」とは、櫛の歯に類似した電極指の配置を意味する。例えば、電極指が2つの櫛形構造を形成している場合、各櫛の歯は、互いに咬み合っている。同様に、櫛形構造は、曲折構造に咬み合うこともできる。また、電極指又は幾つかの電極指を曲げ、屈曲構造(curved structure)を形成できることは、当業者には明らかである。更に、このような屈曲構造を互いに咬み合わせることもできる。本発明に基づく電極アレーによって形成できる他のパターンとして、「グリークキー(Greek key)」モチーフ、すなわち古代ギリシャの陶器で見つかったパターンがある。このようなパターンは、例えば「T. Creighton "Proteins", W.H. Freeman, 2nd edition, 1993, pages 227-228」に記載されている。本発明の目的を達成するために、ディスコティック液晶カラムが電極アレーの電極指を導電的に接続する限り、全ての種類の電極の幾何学的形状を用いることができる。ここで用いる、電気伝導が「主にカラムの長軸に沿って起こる」という表現は、長軸に沿った電気伝導が、長軸に対して垂直な方向の電気伝導より、少なくとも1桁(すなわち10倍)大きいことを意味する。
【0040】
また、ここで用いるディスコティック液晶材料の「ホモジニアス配向(homogeneous orientation)」とは、液晶材料によって形成されるカラムの長軸が基板/表面に平行な向きに向けられた状態を意味する。一方、ディスコティック液晶材料の「ホメオトロピック配向(homeotropic orientation)」とは、液晶材料によって形成されるカラムの長軸が基板/表面に垂直な向きに向けられた状態を意味する。
【0041】
上述の様々な種類の幾何学的形状(すだれ状、曲折、平行及びこれらの任意の組合せ)のいずれも本発明の条件を満たすことは、当業者には明らかである。本発明に基づくこのような幾何学的形状の1つの具体例を4図に示す。更に、電極アレーは、例えば層構造において、1又は複数の電極又は電極指が互いの上にあるという意味合いで、基板上にサンドイッチ構造を形成しないという事実によって特徴付けられる。これに代えて、本発明に基づく電極アレーの全ての電極又は電極指は、基板表面に平行である、基板の1つの平面/層上に配設されている。
【0042】
本発明に基づく電子素子に用いられるディスコティック液晶材料の種類は、上述のディスコティック挙動を示し、カラムを形成し、上述のようにカラムの長軸に沿った電気伝導を有するものであれば、如何なる材料であってもよい。有用なディスコティック液晶材料の具体例としては、ヘキサアルコキシトリフェニレン(hexaalkoxytriphenylene)、マルチイン(multiine)、トルクセン(truxene)、フェナントレン(phenanthrene)、アントラセン(antracene)、ペリレン(perylene)、アルキル化ヘキサベンゾコロンエネスフタロシアニン(alkylated hexabenzocoronenesphthalocyanines)、ポリフィリン(porphyrin)及びジキノキサリノフェナジン(diquinoxalino phenazine:HATNA)及びこれらの誘導体等がある。
【0043】
有用な液晶材料は、当業者に周知であり、実験を行う手間を掛けるまでもなく、特定することができる。同様に基板の性質は、ディスコティック液晶材料のカラムの長軸が基板表面に平行になるようにディスコティック液晶材料の少なくとも1つの層が堆積できる基板である限り、如何なるものであってもよい。有用な基板の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラス、石英、フレキシブル基板(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ステンレススチール)及びシリコン等がある。もちろん、当業者に周知の任意の技術を用いて、基板表面を修飾してもよい。このような表面修飾技術の具体例としては、以下に限定されるものではないが、修飾されていない基板のラビング(rubbing)、フッ素樹脂又はポリイミドによるコーティング及びその後の任意のラビング、シャーリング(shearing)、電極構造上又は電極構造下での小分子によるコーティング(シラン化、ラングミュア−ブロジェット法及びラングミュア−シェーファー法(Langmuir-Schafer-technique)、自己組織化)等がある。
【0044】
ディスコティック液晶材料のカラムの向きを揃えて配向させるためには、当業者が知っている電池の全ての技術を用いることができる。このような技術としては、例えば、ラングミュア−ブロジェット法及びラングミュア−シェーファー法(N.C. Maliszewskyi, O.Y. Mindyuk, P.A. Heiney, J.Y. Josefowicz, P. Schumacher, H. Ringsdorf, Liquid Crystal, 26, 31-36 (1999))、修飾されていない及び/又は修飾された基板におけるディスコティック液晶材料の自己組織化(H. Schonherr, F.J.B. Kremer, J.A. Rego, H. Wolf, H. Ringsdorf, M. Jaschke, H.J. Butt, E. Bamberg J. Am.Chem.Soc., 118, 13051-13057 (1996))、磁界をかけることによる配向(M.B. Boamfa, P.C.M. Christianen, J.C. Maan, H. Engelkamp, R.J.M. Nolte, Physica B, 294-295, 343-346 (2001))、特定の表面を用いることによるホメオトロピック配向、すなわちフェイス−オン(face-on)配向及びホモジニアス配向、すなわちエッジ−オン(edge-on)配向(C. Vauchier, A. Zann, P. Le Barny, J.C. Dubois, J. Billard, Mol.Cryst.Liq.Cryst., 66, 103-114 (1981))、ディスコティック液晶の表面に補助された配向光制御(surface-assisted orientational photocontrol)(S. Furumi, K. Ichimura, H. Sata, Y. Nishiura, Appl.Phys.Lett., 77, 2689-2691 (2000))、ドロップキャスティング、スピンコーティング、ラビング、布によるラビング及び偏光共焦点ラマン分光法(polarised confocal Raman spectroscopy)等がある。好ましい技術としては、参照により援用される文献「J. Burda, A. Tracz, T. Pakula, J. Ulanski, M. Kryszewski, J. Phys.D., 16, 1737, (1983); Patent PRL 131 986 (1981.05.15)」に開示されているゾーンキャスティング(zone casting)がある。
【0045】
ここで用いる「電子素子の仕事関数に適合する」という表現は、電極のエネルギがディスコティック液晶材料のエネルギ準位に適合し、電子と正孔を分離して、外部回路に注入できることを意味する。
【0046】
例えば、本発明に基づく電子素子を光起電力セルとして用いる場合、特許請求の範囲及び明細書に開示されている構成は、電極及び液晶材料層を環境から保護する1又は複数の更なる層を備える必要があることは当業者にとって明らかである。光起電力セルの場合、このような層は、透明である必要があり、また、恐らく密閉性が必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、特定の実施例を用いて本発明を説明するが、これらは、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0048】
以下の実験では、図5(a)に示す液晶2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(ペントキシル)トリフェニレン(トリフェニレンHT5)を用いた。
【0049】
この材料の温度遷移は以下の通りである。
【0050】
K−>Dp89℃(結晶相−>液晶相)
Dp−>I122℃(液晶相−>等方性液相)
少量のこの材料を100℃まで加熱し、図4(b)に示すすだれ状構造の上に、あるの圧力で薄いカバーガラスを移動させて、この材料を塗布することにより、配向させた。すだれ状構造は、金でできており、電極指間の距離は5μmである。ここでは、カラムの長軸の方向が、基板表面と平行となるとともに、すだれ状構造の電極指に垂直になるように材料を塗布した。これを図6に示す。
【0051】
図7は、すだれ状構造の電圧電流特性を測定した結果を示している。
【0052】
算出される抵抗は、71Ωであり、これは、この幾何学的形状の材料が良好な導電率を有していることを示している。
【実施例2】
【0053】
図5(a)に示す液晶2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(ペントキシル)トリフェニレン(1)及び図5(b)に示すCu(II)1,4,8,11,15,18,22,25オクタブトキシ29H,31Hフタロシアニン(2)の混合物を用いた。
【0054】
酸化インジウム−スズ(ITO)及びアルミニウム(Al)から作られたヘテロすだれ状電極(hetero-interdigit electrode)を有するガラス基板にこの混合物を堆積させた。電極指は、幅5μm、長さ5mm、高さ50nm及び100nmであり、2つのITO−Al電極指間の距離は、5μmである。この構造を図8(a)及び図8(b)に示す。
【0055】
液晶(1)と液晶(2)(図5参照)のモル比が1:1であり、10mg/mlのクロロホルム溶液を準備した。配向されたディスコティック液晶層を得るために、浸漬鋳造装置(dip casting apparatus)を用いた。この装置を図9に示す。
【0056】
ガラスの疎水性を制御するために、ディスコティック液晶によるコーティングの前に、プロピルトリメトキシシランにより基板をシラン化した。
【0057】
浸漬方向は、カラムが電極指に垂直になり、且つガラス表面と同面になるように設定した。
【0058】
浸漬器(dipper)は、ソフトウェアによって制御され、最も良い膜は、ガラス基板を1mm/sの速度で取り出した場合に得られた。
【0059】
この手法及び条件を用いて得られる配向は、完全ではないが、図10(a)、(b)に示すように、かなりの程度の配向を実現できた。
【0060】
太陽模擬装置(オリエル・インストルメント社(Oriel Instruments)製1600W Sun Simulator)を用いてシミュレートされた太陽放射(AM1.5、100mW/cmの標準的な照射光)により、上述の手法で製造したすだれ状太陽電池を評価した。図11は、この電圧電流特性を示している。
【0061】
測定間の絶縁が不十分なため、信号対雑音比は、非常に低い。表1に示すように、この太陽電池の特徴を示すパラメータは、適合度(fit)から引き出すことができる。
【0062】
【表1】

【0063】
これらの値は、ディスコティック液晶材料に関する文献(例えば、「Petritsch et al., Solar Energy Materials & Solar Cells, 61 (2000), 63」参照)に報告されている特性に匹敵する。なお、ここでは、パラメータは、まだ最適化されておらず、信号を高くできることが期待される。
【0064】
明細書、特許請求の範囲及び/又は図面に開示されている本発明の特徴を、それぞれ個別に及び任意に組み合わせることによって、本発明を様々な形式で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】薄膜における基板表面に対する円盤状分子の可能な配向であるホメオトロピック(すなわち「フェイス−オン」)配向又はホモジニアス(すなわち「エッジ−オン」)配向を示す図である。
【図2】ホモジニアス配向を有するディスコティック液晶材料により形成された電界効果トランジスタ(FET)(図2(a))及びホメオトロピック配向を有するディスコティック液晶材料により形成された光起電力素子(図2(b))を示す図である。
【図3】2つの異なる種類のディスコティック液晶材料(異なる影が付されている。)からなる、有機物層でコーティングされた本発明に基づくすだれ状構造を示す図である。
【図4】本発明に基づくすだれ状構造の略図(図4(a))及び写真(図4(b))を示す図である。
【図5】図5(a)は、液晶材料2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(ペントキシル)トリフェニレンの構造を示し、図5(b)は、液晶材料Cu(II)1,4,8,11,15,18,22,25オクタブトキシ29H,31Hフタロシアニンの構造を示す図である。
【図6】電極指間に液晶材料を有する図4(b)のすだれ状構造を示す図である。
【図7】図6に示すすだれ状構造の電圧電流特性を示すグラフ図である。
【図8】実施例2に開示される太陽電池を製造するために用いられるヘテロすだれ状電極を有するガラス基板の構造(図8(a))及び基板平面に垂直な電極の高さを示す「100nm×」の印とともに、電極の寸法(図8(b))を示す図である。
【図9】配向されたディスコティック液晶層を得るための浸漬鋳造装置を示す図である。
【図10】シラン化されたガラス上(図10(a))及びヘテロすだれ状構造を有するシラン化された基板上(図10(b))に、図9に示す浸漬鋳造装置を用いて準備された図5に示す液晶材料の混合物の配向膜を示す図である。
【図11】実施例2に基づいて準備された太陽電池の電圧電流特性を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する基板と、
上記基板の表面上に、その要素がすだれ状に及び/又は曲折して及び/又は平行に配列された電極アレーと、
上記基板の表面上に配置され、それぞれが長軸を有する少なくとも1つのカラムを形成し、該カラムの長軸が該表面に平行であり、上記電極アレーの要素が該カラムによって互いに導電的に接続され、電気伝導が主に該カラムの長軸に沿って起こる、少なくとも1つのディスコティック液晶材料の少なくとも1つの層とを備える電子素子。
【請求項2】
上記カラムは、平行又は略平行に配列されたその長軸と一軸的に配列されることを特徴とする請求項1記載の電子素子。
【請求項3】
上記電極アレーの要素は、電極指であることを特徴とする請求項1又は2記載の電子素子。
【請求項4】
上記電極アレーは、少なくとも2つの電極指を備えることを特徴とする請求項3記載の電子素子。
【請求項5】
上記電極アレーは、少なくとも3つの電極指を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の電子素子。
【請求項6】
上記電極アレーは、複数の電極指を備えることを特徴とする請求項3乃至5いずれか1項記載の電子素子。
【請求項7】
上記複数の電極指は、少なくとも1つの櫛形構造を形成することを特徴とする請求項3乃至6いずれか1項記載の電子素子。
【請求項8】
上記複数の電極指は、互いに咬み合う2つの櫛形構造を形成し、あるいは互いに咬み合う1つの櫛形構造と、1つの曲折構造とを形成することを特徴とする請求項7記載の電子素子。
【請求項9】
上記2つの櫛形構造は、各櫛形構造の電極指が互いに対向するように、互いに逆向きに配置されていることを特徴とする請求項8記載の電子素子。
【請求項10】
上記電極アレーは、少なくとも1つの金属酸化物製であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか1項記載の電子素子。
【請求項11】
上記電極アレーは、少なくとも1つの金属製であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか1項記載の電子素子。
【請求項12】
上記電極アレーは、少なくとも1つの金属酸化物製及び/又は少なくとも1つの金属製であることを特徴とする請求項1乃至11いずれか1項記載の電子素子。
【請求項13】
上記電極アレーは、少なくとも2つの金属から作られていることを特徴とする請求項1乃至12いずれか1項記載の電子素子。
【請求項14】
上記少なくとも1つの金属酸化物及び/又は少なくとも1つの金属は、当該電子素子の仕事関数に適合するように選択されることを特徴とする請求項10乃至13いずれか1項記載の電子素子。
【請求項15】
上記金属又は金属酸化物は、金、銀、アルミニウム、イオン、銅、プラチナ、亜鉛、スズ、カルシウム、マグネシウム、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ドープ酸化亜鉛(ZnO)、無ドープ酸化亜鉛(ZnO)からなるグループから選択されることを特徴とする請求項10乃至14いずれか1項記載の電子素子。
【請求項16】
上記電極指は、請求項10乃至15いずれか1項に定義されている2つの金属及び/又は2つの金属酸化物から作られ、あるいは少なくとも1つの金属製及び/又は少なくとも1つの金属酸化物製であることを特徴とする請求項3乃至9いずれか1項記載の電子素子。
【請求項17】
隣接する2つの電極指間の平均距離は、1μm〜100μm、好ましくは2μm〜30μm、最も好ましくは3μm〜10μmであることを特徴とする請求項3乃至16いずれか1項記載の電子素子。
【請求項18】
2層以上の同じ又は異なるディスコティック液晶材料の層を備え、一方のディスコティック液晶材料の層が、他方のディスコティック液晶材料の層上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至17いずれか1項記載の電子素子。
【請求項19】
上記基板は、ガラス、石英、フレキシブル基板(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ステンレススチールを含む)及びシリコンからなるグループから選択されることを特徴とする請求項1乃至18いずれか1項記載の電子素子。
【請求項20】
上記基板は、表面が修飾されていることを特徴とする請求項19記載の電子素子。
【請求項21】
上記基板は、一軸配向を実現するように表面が修飾されていることを特徴とする請求項20記載の電子素子。
【請求項22】
上記平行に配列された軸によるカラムの一軸配向は、ドクターブレード法、シャーリング、ラビング、レーザ照射によるゾーンキャスティング及び/又は配向、磁界をかけることによる配向、ドロップキャスティング、スピンコーティング、ラングミュア−ブロジェット法、ラングミュア−シェーファー法、又は修飾されていない及び/又は修飾された基板の又は基板における自己組織化によって実現されることを特徴とする請求項2乃至21いずれか1項記載の電子素子。
【請求項23】
請求項1乃至22いずれか1項記載の電子素子を太陽電池、電界効果トランジスタ、センサ及び/又は発光ダイオードとして使用する使用方法。
【請求項24】
(a)表面を有する基板を準備する工程と、
(b)上記基板の表面上に少なくとも1つのディスコティック液晶材料の層を堆積させる工程と、
(c)上記基板の表面上に、その要素がすだれ状に及び/又は曲折して及び/又は平行に配列されるように電極アレーを堆積させる工程とを有する電子素子の製造方法。
【請求項25】
上記工程(b)と上記工程(c)を逆の順序で行うことを特徴とする請求項24記載の電子素子の製造方法。
【請求項26】
上記ディスコティック液晶材料の少なくとも1つの層は、該ディスコティック液晶材料の各カラムが一軸的に配列された長軸を有するように配列されることを特徴とする請求項23乃至25いずれか1項記載の電子素子の製造方法。
【請求項27】
上記カラムの長軸は、上記基板の表面に平行であることを特徴とする請求項26記載の電子素子の製造方法。
【請求項28】
上記電極アレーの要素は、上記カラムによって互いに導電的に接続され、電気伝導は、主に該カラムの長軸に沿って起こることを特徴とする請求項26又は27記載の電子素子の製造方法。
【請求項29】
上記一軸配向は、上記工程(d)として実現されることを特徴とする請求項26乃至28いずれか1項記載の電子素子の製造方法。
【請求項30】
上記工程(d)は、上記工程(b)の後に又は該工程(b)と同時に実行されることを特徴とする請求項29記載の電子素子の製造方法。
【請求項31】
上記ディスコティック液晶材料の一軸配向は、ドクターブレード法、シャーリング、ラビング、レーザ照射によるゾーンキャスティング及び/又は配向、磁界をかけることによる配向、ドロップキャスティング、スピンコーティング、ラングミュア−ブロジェット法、ラングミュア−シェーファー法、修飾されていない及び/又は修飾された基板の又は基板における自己組織化からなるグループから選択される手法によって実現されることを特徴とする請求項30記載の電子素子の製造方法。
【請求項32】
請求項24乃至31いずれか1項記載の電子素子の製造方法によって製造された電子素子。
【請求項33】
上記請求項32記載の電子素子を太陽電池、電界効果トランジスタ、センサ及び/又は発光ダイオードとして使用する使用方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−525814(P2007−525814A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501941(P2006−501941)
【出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001819
【国際公開番号】WO2004/075314
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(397051508)ソニー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (140)
【Fターム(参考)】