説明

すべり軸受

【課題】 圧入時に削られる被覆層の圧入滓が軸受装置、潤滑油路、軸受摺動面に混入し難いすべり軸受を提供する。
【解決手段】 鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状すべり軸受1において、鋼裏金の外側背面にBi又はBi基合金の被覆層2を形成する。Bi又はBi基合金は軟質であるため圧入時の摩擦を低減し圧入性を高める点でSn、Pb又はSn、Pbを基とする合金と共通する効果を有するが、延性が非常に低く塑性流動しにくい性質のため、軸受ハウジング4の端部で削られると脆性破壊されるため発生する圧入滓は非常に細かく、また、軸受ハウジング4の端部に付着して残ることもないので、軸受装置、軸受潤滑油路、軸受摺動面に混入し難いという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層を設けた円筒形状すべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼裏金とすべり軸受合金層からなる複層摺動材料をプレス成形した薄肉の円筒形状すべり軸受において、例えば、特表2002−513890号公報に示されるように、軸受合金層が形成される内周面と反対側の鋼裏金の外側背面及び側辺を覆うように、フラッシュめっき層(「被覆層」ともいう。)が被着されていた。このフラッシュめっき層は、鋼裏金の腐食を防止し、鋼裏金に光輝ある魅力的な外観を与えるために施されるものである。そして、フラッシュめっき層としては、厚さ約1μm以下のSn又はPb−Snのめっき層が用いられている。
【特許文献1】特表2002−513890(段落[0016])
【0003】
また、図1及び図2に示すように、上記した薄肉の円筒形状すべり軸受1は、軸受ハウジング4に圧入治具3を用いて圧入して使用されるが、締め代で軸受半径方向の圧力を発生させ固定すると同時に、プレス形成により製造した円筒形状すべり軸受1の外径形状は自由状態では真円ではないため、ハウジング内径形状になじませる必要がある。そして、このような外径形状が真円でない円筒形状すべり軸受1を軸受ハウジング4に圧入する際に、図2(A)、(B)に示すように、圧入初期には円筒形状すべり軸受1が軸受ハウジング4の内径に傾斜して圧入され易いため、かじり等の不具合が発生し易いという不都合もある。このような不都合に対し、上記したSn、Pb−Snのフラッシュめっき層2を施すと、圧入時にSn、Pb−Snめっき層2が圧入時の円筒形すべり軸受1の背面と軸受ハウジング4の内周面間の摩擦を緩和するためにかじりを防止することができるという利点もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フラッシュめっき層がSn、Pb又はSn、Pbを基とする合金の場合には、軟質で延性が高く塑性流動するため、圧入時に図2(C)及び図3に示すように、大きな圧入滓5が軸受ハウジング4と円筒状すべり軸受1の上面の境目(軸受ハウジングのエッジ部分)に発生し、この部分に付着したまま残ってしまう。この大きな圧入滓5が軸受装置、潤滑油路に混入したり、軸受を圧入した軸受ハウジング4に軸を挿入する工程で軸受摺動面に混入する不具合が起こる場合がある。本発明は、上記した不具合を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、圧入時に削られるフラッシュめっき層の圧入滓が軸受装置、潤滑油路、軸受摺動面に混入し難いすべり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状すべり軸受において、前記鋼裏金の外側背面にBi又はBi基合金の被覆層を形成したことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、前記Bi基合金の被覆層は、Biと1〜30質量%以下のSn,Pb,In,Ag,Cuの1種以上とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明においては、Bi又はBi基合金は、軟質であるため圧入時の摩擦を低減し圧入性を高める点でSn、Pb又はSn、Pb基合金と共通する効果を有するが、延性が非常に低く塑性流動しにくい性質のため、軸受ハウジングの端部で削られると脆性破壊されて圧入滓は非常に細かく、また、軸受ハウジングの端部に付着して残ることもないので、軸受装置、軸受潤滑油路、軸受摺動面に混入し難いという利点がある。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、Biは円筒形すべり軸受が製造され軸受ハウジングに圧入されるまでの間に発生する円筒形すべり軸受背面の鋼を防錆する効果も有するが、BiにSn、Pb、In、Ag、Cuの1種以上を1〜30質量%以下含ませて合金化することにより防錆の効果がさらに高まる。これらBi基合金の結晶構造は、Biの結晶構造と同じであるので、延性が非常に低く塑性流動しにくい性質のため、軸受ハウジング端部で削られると脆性破壊されるため発生する圧入滓は非常に細かく、また、ハウジング端部に付着して残ることもないので、軸受装置、軸受潤滑油路、軸受内面に混入しにくい。なお、1質量%未満では、防錆効果のさらなる向上を図ることができず、30質量%を超える場合には、合金化成分であるSn、Pb、In、Agの延性が高く塑性流動しやすいという性質によりBiの延性が非常に低く塑性流動しにくく脆性破壊しやすいという性質が緩和され、特に50質量%を超えると、その性質はほとんど失われてしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。鋼裏金と軸受合金からなる平板形状の複層の軸受材料をプレス成形し、前述した図1及び図2に示す円筒形状すべり軸受1と同様に、鋼裏金が外周面となるように円筒形状すべり軸受1を製造した後、電気めっき法等によりBi又はBi基合金の被覆層2を円筒形状すべり軸受1の鋼裏金の背面に形成する。円筒形すべり軸受1の背面にBi又はBi基合金の被覆層2を形成する方法は電気めっき法に限定されず、投射法、溶射法等の他の一般的な被膜形成方法により形成することもでき、また、鋼裏金の背面とBi又はBi基合金の被覆層2との接合強度を高めるため、脱脂処理、粗面化処理等の一般的な予備処理を鋼裏金の背面に施した後Bi又はBi基合金の被覆層2を形成したり、鋼裏金の背面にAg、Cu等の金属や合金からなる中間層を形成した後Bi又はBi基合金の被覆層2を形成してもよい。なお、被覆層2は、円筒形状すべり軸受1の内側摺動面を除いて鋼裏金の外側背面にのみに形成することが好ましいが、生産性を考慮して摺動面にも同時に形成しても良い。
【0010】
圧入時の円筒形すべり軸受1の背面と軸受ハウジング4の内周面間の摩擦を緩和して圧入性を高めるためにBi又はBi基合金の被覆層2の厚さは0.5〜10μmが好ましい。Biは、円筒形すべり軸受1の鋼裏金の防錆の効果も有するがSn、Pb、In、Ag、Cuの1種以上を1〜30質量%以下含ませると合金化することにより防錆の効果をさらに高めることができる。
【実施例】
【0011】
次に、上記のようにして製造した円筒形状すべり軸受1の圧入性比較試験の試験結果について表1を参照して説明する。
【表1】

【0012】
表1において、実施例1、2は、鋼裏金とAl系軸受合金からなる複層材料をプレス成形し、鋼裏金が外周面となるように外径30mm、内径27mm、幅20mmの円筒形状とし、次に、その幅方向の両端面の外径面には長さ0.8mm、角度20°の面取を切削加工により形成し円筒形状すべり軸受1を製造した。次いで、電気めっき法により円筒形状すべり軸受1の背面および面取部の鋼裏金面に表1に示す組成のBi又はBi基合金(Bi−2質量%Sn)を厚さが1μmとなるように被覆層2を形成した。
【0013】
比較例1〜3は、実施例1、2と同じ条件で製造した円筒形状すべり軸受1に、比較例1はPb層を、比較例2はSn層を電気めっき法により円筒形状すべり軸受1の背面及び面取部の鋼裏金面に厚さが1μmとなるように被覆層2を形成し、比較例3は、被覆層2を形成しない円筒形状すべり軸受1をそのまま用いた。なお、実施例1、2、及び比較例1〜3ともに圧入性比較試験に用いる軸受ハウジング4の内径に対し、すべり軸受固定のための締め代分だけ円筒形状すべり軸受1の外径寸法を僅かに大きくしてある。
【0014】
一方、上記の実施例1、2及び比較例1〜3の円筒形状すべり軸受1を圧入すべき軸受ハウジング4として、内径30mmの円筒形すべり軸受1の圧入部を有するFe合金製の軸受ハウジング4に圧入治具3を介し押圧し、円筒形状すべり軸受1を軸受ハウジング4に圧入し、圧入により発生した圧入滓5の大きさ及び圧入した後、再度、円筒形すべり軸受1を軸受ハウジング4から抜き出し、かじりによる線状傷の有無を目視により観察し、その観察した結果を表1に示す。なお、軸受ハウジング4には、円筒形すべり軸受1を圧入する側の内径部にC0.5の面取りを形成した。
【0015】
しかして、比較例1、2はPb、Snの被覆層2が軸受ハウジング4の圧入部のエッジで削られるが、Sn、Pbは延性が高いために塑性流動し、最大圧入滓5の大きさが5mmという大きな圧入滓5が発生し、また、その圧入滓5が軸受ハウジング4の圧入部のエッジに付着するように残る。なお、比較例1、2の表1に示す最大圧入滓長さは、軸受ハウジング4の圧入部のエッジに付着して残るものをノギスにて測定した値である。また、比較例1、2は、圧入時にSn、Pbの被覆層2が円筒形すべり軸受1の背面と軸受ハウジング4の内周面間の摩擦を緩和するため、かじりの発生はなかった。また、比較例3は、被覆層2のない円筒形状すべり軸受1であるため、当然のことながら、圧入滓5は発生しないものの、圧入時におけるかじりの発生が確認された。
【0016】
一方、実施例1のBi層は、軸受ハウジング4の圧入部のエッジで削られるが、延性が低いため脆性破壊され細かく剪断されるので圧入滓5は、最大でも0.1mmと非常に小さく、また軸受ハウジング4の圧入部のエッジに圧入滓5が付着し残るようなこともなかった。また、実施例2のBi基合金も実施例1と同様な効果があることが確認された。これは、Biを基とする合金の結晶構造がBiの結晶構造と同じであり、Biの延性が低いという性質を有するので、軸受ハウジング4の圧入部のエッジで削られ脆性破壊され細かく剪断されるからである。なお、実施例1、2の表1に示す最大圧入滓長さは、圧入滓5が小さいため、実体顕微鏡で観察して求めた値である。更に、実施例1、2は、圧入時にBi又はBi基合金(Bi−2質量%Sn)の被覆層2が円筒形すべり軸受1の背面と軸受ハウジング4の内周面間の摩擦を緩和するため、かじりの発生はなかった。なお、圧入試験を行なったBi基合金について実施例2のみ示しているが、本発明者はBiと1〜30質量%以下のSn,Pb,In,Ag,Cuの1種以上とからなる他のBi基合金も、延性が非常に低く塑性流動しにくいため脆性破壊され細かく剪断されるというBiと共通の性質を有することを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る円筒形状すべり軸受を圧入治具を用いて軸受ハウジングに圧入する場合の概略断面図である。
【図2】円筒形状すべり軸受を軸受ハウジングに圧入する際に圧入滓が形成される様子を示す概略図である。
【図3】円筒形状すべり軸受を軸受ハウジングに圧入した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
1 円筒形状すべり軸受
2 被覆層
3 圧入治具
4 軸受ハウジング
5 圧入滓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状すべり軸受において、
前記鋼裏金の外側背面にBi又はBi基合金の被覆層を形成したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記Bi基合金の被覆層は、Biと1〜30質量%以下のSn,Pb,In,Ag,Cuの1種以上とからなることを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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