説明

せん断補強部材の定着方法

【課題】 装置の大型化や大量のグラウト材を要することなく、せん断補強部材挿入孔にグラウト材を好適に充満させ、せん断補強部材を十分構造体に定着させることができるせん断補強部材の定着方法を提供する。
【解決手段】 コンクリート構造体1のせん断補強を行うにあたり、コンクリート構造体1に貫通孔であるせん断補強部材挿入孔2を穿孔し、せん断補強部材3を挿入する。次に、せん断補強部材挿入孔2の両開口部のそれぞれの外側に、グラウト材貯留槽4を設置し、せん断補強部材挿入孔2に流動性を有する状態のグラウト材を充填する。その際にせん断補強部材挿入孔2から流出するグラウト材をグラウト材貯留槽4で受ける。それからせん断補強部材挿入孔2をグラウト材で実質的に充満させた後、グラウト材を硬化させることによりせん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2に定着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断補強部材の定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の老朽化や建築基準の見直し等により、既設の構造体に対してせん断補強部材を定着させるせん断補強が行われている。この種のせん断補強は、たとえば次のように行われる。まず、構造体に対してせん断補強部材を挿入するためのせん断補強部材挿入孔を形成する。次に、せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入し、続いて、せん断補強部材挿入孔にグラウト材を充填する。その後、グラウト材を固化させてせん断補強部材挿入孔に挿入されたせん断補強部材を構造体に定着することにより、構造体のせん断補強を行うというものである。
【0003】
このせん断補強を行うにあたり、せん断補強部材挿入孔は、略水平方向に沿って形成されることが構造体の補強の観点から好適であることが多い。ここで、せん断補強部材挿入孔に充填されるグラウト材は、充填時には流動性を有しているものが好適に用いられる。このため、せん断補強部材挿入孔が略水平方向に沿って形成されていると、せん断補強部材挿入孔に充填したグラウト材がその入口から漏れてしまい、せん断補強部材挿入孔にグラウト材を充填することが困難となる問題がある。
【0004】
この問題に対して、せん断補強部材挿入孔の穿孔位置に箱状のグラウト材貯留手段を設置するせん断補強部材の定着方法が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。このせん断補強部材の定着方法では、既設のコンクリート構造体の一面側からせん断補強部材挿入孔を形成する。
【0005】
次に、このせん断補強部材挿入孔の穿孔位置に箱状のグラウト材貯留手段を設置する。続いて、グラウト材貯留手段に形成された開口部をせん断補強部材挿入孔の穿孔位置の外周に密着させて、せん断補強部材挿入孔との間に密閉空間を形成するとともに、密閉空間とせん断補強部材挿入孔とを連通するようにする。
【0006】
それから、せん断補強部材挿入孔に流動性を有するグラウト材を充填し、その際にせん断補強部材挿入孔から流出するグラウト材をグラウト材貯留手段で受ける。その後、せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入する。そして、せん断補強部材挿入孔をグラウト材で実質的に充填させ、グラウト材を硬化させることによって、せん断補強部材を定着させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−13858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1に開示されたせん断補強部材の定着方法では、グラウト材貯留手段を設置し、せん断補強部材挿入孔との間に密閉空間を形成した後、せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入している。このため、せん断補強部材をグラウト材貯留手段にいったん投入する必要があるので、グラウト材貯留手段の長さをせん断補強部材の長さよりも長くしなければならず、装置が大型化してしまうとともに、余分なグラウト材は回収されるものの、大量のグラウト材を用意しなければならないという問題があった。
【0009】
また、グラウト材貯留手段を設置する前にせん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入しておくことも考えられる。しかし、せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入した後にグラウト材をせん断補強部材挿入孔に充填すると、グラウト材がせん断補強部材挿入孔に十分に充満しにくくなるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の課題は、装置の大型化や大量のグラウト材を要することなく、せん断補強部材挿入孔にグラウト材を好適に充満させ、せん断補強部材を十分構造体に定着させることができるせん断補強部材の定着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決した本発明に係るせん断補強部材の定着方法は、既設のコンクリート構造体に貫通孔であるせん断補強部材挿入孔を穿孔し、せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入し、せん断補強部材挿入孔の入側開口部および出側開口部のそれぞれの外側に、グラウト材貯留手段を設置し、せん断補強部材挿入孔に流動性を有する状態のグラウト材を充填し、その際にせん断補強部材挿入孔から流出するグラウト材をグラウト材貯留手段で受け、せん断補強部材挿入孔をグラウト材で実質的に充満させた後、グラウト材を硬化させることによりせん断補強部材をせん断補強部材挿入孔に定着させることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るせん断補強部材の定着方法においては、せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入してから、グラウト材貯留手段を設置し、その後グラウト材を注入するようにしている。このため、装置の大型化や大量のグラウト材を要することがないようにすることができる。また、既設のコンクリート構造体に穿孔されたせん断補強部材挿入孔は貫通孔である。このため、入側開口部から供給したグラウト材を出側開口部から排出することができるので、せん断補強部材挿入孔内におけるグラウト材の滞留を防止することができ、せん断補強部材挿入孔内に行き渡らせることができる。このため、せん断補強部材挿入孔にグラウト材を好適に充満させ、せん断補強部材を十分構造体に定着させることができる。
【0013】
ここで、流動性を有するグラウト材を充填する際、せん断補強部材挿入孔の入側開口部を密栓によって密閉し、密栓に設けられたグラウト材注入部材を介して、グラウト材をせん断補強部材挿入孔に充填する態様とすることができる。
【0014】
このように、せん断補強部材挿入孔の入側開口部を密栓によって密閉し、密栓に設けられたグラウト材注入部材を介して、グラウト材をせん断補強部材挿入孔に充填することにより、グラウトを充填する際の充填圧を高めることができる。そのため、せん断補強部材をコンクリート構造体に対してより好適に定着させることができる。
【0015】
また、グラウト材貯留手段が、せん断補強部材より短くされている態様とすることができる。
【0016】
このように、グラウト材貯留手段が、せん断補強部材より短くされていることにより、装置の大型化やグラウト材の使用量の増加を抑制することができる。特に、最短では、せん断補強部材の端部に定着体を取り付ける場合の定着体が入る長さとしたり、作業するために作業員の手のひらが入る長さとしたりすることができる。
【0017】
さらに、流動性を有するグラウト材を充填する際、せん断補強部材を回転させる態様とすることができる。
【0018】
このように、流動性を有するグラウト材を充填する際、せん断補強部材を回転させることにより、せん断補強部材に付着する空気泡を離脱させ、グラウト材によって排出させることができる。このため、せん断補強部材をより確実に定着させることができる。
【0019】
また、せん断補強部材挿入孔をグラウト材で実質的に充満させた後、グラウト材を硬化させる前に、せん断補強部材の端部に定着体を取り付ける態様とすることができる。
【0020】
このように、せん断補強部材挿入孔をグラウト材で実質的に充満させた後、グラウト材を硬化させる前に、せん断補強部材の端部に定着体を取り付けることにより、定着体におけるせん断補強部材の端部との取付部位における空気の残留を防止することができる。したがって、せん断補強部材を構造体に対してより好適に定着させることができる。
【0021】
そして、せん断補強部材の端部に第1雄ねじ部または第1雌ねじ部が形成され、せん断補強部材の端部に取り付けられる定着体に、第1雄ねじ部にねじ込み可能とされた第2雌ねじ部または第1雌ねじ部がねじ込み可能とされた第2雄ねじ部が形成されている態様とすることができる。
【0022】
このように、せん断補強部材の端部と定着体との互いにねじ込み可能とされた雄ねじ部と雌ねじ部が形成されていることにより、せん断補強部材の端部に定着体を容易に取り付けることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るせん断補強部材の定着方法によれば、装置の大型化や大量のグラウト材を要することなく、せん断補強部材挿入孔にグラウト材を好適に充満させ、せん断補強部材を十分構造体に定着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】補強対象となるコンクリート構造体の正面図である。
【図2】せん断補強部材を定着する工程を示す工程図である。
【図3】コンクリート構造体に箱状容器を固定した状態を示す斜視図である。
【図4】図2に示す工程を示す工程図である。
【図5】定着体の斜視図である。
【図6】(a)〜(d)は、いずれも定着体をせん断補強部材に取り付ける手順を示す説明図である。
【図7】(a)は、定着体をせん断補強部材に取り付ける手順を示す説明図、(b)は(a)の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0026】
図1は、補強対象となるコンクリート構造体の正面図であり、2室のボックスカルバートを例として示す。図1に示すように、コンクリート構造体1は、鉛直外側部材11,12、鉛直内側部材13、天板部材14、および底板部材15を備えている。なお,1室のボックスカルバートであれば、鉛直外側部材11,12、天板部材14、および底板部材15から構成され、開水路であれば一般に鉛直外側部材11,12、および底板部材15から構成されている。
【0027】
本実施形態では、鉛直内側部材13にせん断補強部材挿入孔2を穿孔し、このせん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3を挿入して定着する。せん断補強部材3は、長尺のねじ節鉄筋からなり、全長にわたって雄ねじ部が形成されている。また、説明の便宜上、図2に示すように、せん断補強部材3の両端における雄ねじ部をそれぞれ右雄ねじ部31および左雄ねじ部32という。さらに、右雄ねじ部31および左雄ねじ部32は、いずれもその周方向に4分割した際の対向する2つの面に形成されており、他の対向する2面は平面状とされている。
【0028】
また、せん断補強部材3を定着する際には、せん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3を挿入した後、せん断補強部材挿入孔2に流動性を有する状態のグラウト材を充填する。このグラウト材が固化することによって、せん断補強部材3がコンクリート構造体1に対して定着される。以下、せん断補強部材3を定着する手順について説明する。
【0029】
図2は、せん断補強部材を定着する工程を示す工程図である。せん断補強部材を定着するにあたり、まず、図2(a)に示すように、コンクリート構造体1における鉛直内側部材13に対してせん断補強部材挿入孔2を穿孔する。また、せん断補強部材挿入孔2における両端部には、それぞれ右拡径孔21および左拡径孔22を形成する。
【0030】
せん断補強部材挿入孔2の掘削径は、極力小さいことが施工性、経済性の観点から好適である。せん断補強部材3の径はたとえば19〜25mm程度であり、せん断補強部材挿入孔2とせん断補強部材3との間の隙間はたとえば5mm程度とすることができる。このため、たとえば具体的なせん断補強部材挿入孔2の掘削径は、たとえば29mm〜35mm程度とすることができる。
【0031】
せん断補強部材挿入孔2を穿孔したら、図2(b)に示すように、せん断補強部材挿入孔2に対してせん断補強部材3を挿入する。続いて、図2(c)に示すように、せん断補強部材挿入孔2の両端に、本発明のグラウト材貯留手段であるグラウト材貯留槽4を取り付ける。グラウト材貯留槽4は、グラウト材貯留槽取付け部41に具備された吸盤に真空ポンプを接続し、吸盤の負圧によってせん断補強部材挿入孔2の両端に取り付けられる。あるいは、グラウト材貯留槽4を外力により押し付けてもよい。
【0032】
また、図3に示すように、グラウト材貯留槽4は、たとえば金属製の箱状容器であり、その上面および側面が開口している。また、グラウト材貯留槽4には、図示しないドレンコックが設けられており、ドレンコックを開放することにより、グラウト材貯留槽4に溜まったグラウト材を排出可能とされている。
【0033】
グラウト材貯留槽4を取り付ける際には、グラウト材貯留槽4の側面開口部をコンクリート構造体1の表面に向かい合わせ、グラウト材貯留槽4の側面開口部の周囲部をコンクリート構造体1の表面に当接させる。この状態で図示しない真空吸着装置を用いてグラウト材貯留槽4をコンクリート構造体1の表面に取り付ける。
【0034】
コンクリート構造体1の表面におけるグラウト材貯留槽4が取り付けられている位置の上方には、蓋部材5が設けられている。蓋部材5は、蓋部材本体51と案内部材52を備えている。案内部材52は、グラウト材貯留槽4が設けられている位置の上方から側方にまで延在している。この蓋部材本体51は、グラウト材貯留槽4が設けられている高さ位置にあるせん断補強部材挿入孔2の開口部の上方からその開口部の高さ位置に下降可能とされている。また、蓋部材本体51が下降することにより、蓋部材本体51によって、グラウト材貯留槽4の側面開口部が閉塞される。なお、蓋部材本体51および案内部材52は、グラウト材貯留槽4に対して着脱可能となっている。
【0035】
図2(c)に示すように、グラウト材貯留槽4の取り付けが済んだら、ゴム製であり、弾性を有する本発明の密栓であるゴム栓6によってせん断補強部材挿入孔2の左拡径孔22を閉塞する。また、ゴム栓6は、グラウトホース7に取り付けられており、グラウトホース7の吐出口から、せん断補強部材挿入孔2に対してグラウト材が吐出可能とされている。
【0036】
その後、グラウトホース7からせん断補強部材挿入孔2に対して流動性を有する状態のグラウト材を吐出して充填する。グラウト材は、流動性のあるセメント系材料などを用いることができる。また、グラウト材における流動性とは、たとえばJAロート流下時間が15〜30秒程度となるものである。さらに、グラウト材としては、グラウト材が硬化する際の過程でのせん断補強部材3とグラウト材との一体性を確保するため、グラウト材は、無収縮性とし、その膨張縮率が0.14〜0.23%程度であるものが好適に用いられる。
【0037】
グラウトホース7からグラウト材を充填する際には、せん断補強部材挿入孔2の左拡径孔22にゴム栓6が取り付けられていることから、せん断補強部材挿入孔2内にグラウト材を高い圧力下で充填することができる。また、ゴム栓6を左拡径孔22に取り付ける際には、左拡径孔22を完全に密閉されておらず、多少の漏れがあってもグラウト貯留槽4によってグラウト材を受け止めて溜めておくことができる。したがって、ゴム栓6によって左拡径孔22を完全に密閉しなくとも、グラウト材を圧入してせん断補強部材挿入孔2内に流通することができればよい。
【0038】
また、グラウト材を充填する際、せん断補強部材挿入孔2内では、せん断補強部材3をその長手方向に沿った軸を中心として回転させる。せん断補強部材3を回転させることにより、せん断補強部材3の表面に付着した空気泡を離脱させ、グラウトとともにせん断補強部材挿入孔2の外側に排出させやすくすることができる。
【0039】
こうして、グラウト材の充填を続けていくと、図2(d)に示すように、せん断補強部材挿入孔2内にグラウト材が充填されるとともに、グラウト材貯留槽4にグラウト材が満たされる。このとき、せん断補強部材挿入孔2内には、グラウト材が実質的に充満し、空気がほとんど残っていない状態となる。
【0040】
グラウト材の充填が完了したら、図4(a)に示すように、せん断補強部材3の両端部に定着体8,9をそれぞれ取り付ける。定着体8,9は、同様の構造をなしており、図5に示すように、略ベル型の定着体本体61を備えている。定着体本体61は、平面状の表面62を備えており、表面62の対向位置に雌ねじ部63が形成されている。雌ねじ部63は、せん断補強部材挿入孔2の端部に形成された雄ねじ部31,32に対してねじ込み可能とされている。また、定着体8,9はセラミックス製である。このため、定着体8,9は、防錆性を備えている。
【0041】
せん断補強部材3の両端部にそれぞれ定着体8,9を取り付ける際には、グラウト材貯留槽4にグラウト材が満たされた状態で、グラウト材貯留槽4内に定着体8,9を一旦没入する。次に、グラウト材貯留槽4内で定着体8,9の雌ねじ部63が形成されている側を上側にし、定着体8,9における雌ねじ部63に残っている空気を排出する。あるいは、定着体8,9をグラウト材貯留槽4に没入させる前に、定着体8,9における雌ねじ部63にグラウト材を充填させておき、その後に定着体8,9をグラウト材貯留槽4に没入させることできる。
【0042】
定着体8,9における空気の排出が済んだら、定着体8,9における雌ねじ部63をせん断補強部材3の両端部の雄ねじ部31,32にそれぞれねじ込み、図4(a)に示すように、せん断補強部材3に定着体8,9を固定して取り付ける。せん断補強部材3に取り付けられた定着体8,9は、左拡径孔22および右拡径孔21にそれぞれ収容される。
【0043】
このとき、せん断補強部材3の雄ねじ部31,32と定着体8,9との間にグラウト材が流入することにより、両者の間のがたつきを防止することができる。さらに、定着体8,9の内側にエポキシ樹脂を所定量注入しておくこともできる。エポキシ樹脂を注入しておくことにより、せん断補強部材3の雄ねじ部31,32に定着体8,9の雌ねじ部63をねじ込んだ際に、両者の間のがたつきをより効果的に防止することができる。ただし、エポキシ樹脂を注入しなくともよい。
【0044】
せん断補強部材3に対して、定着体8,9を取り付ける態様としては、以下の方法が考えられる。たとえば、せん断補強部材3の他端側に定着体が取り付けられていないときの一端側に定着体を取り付ける場合、ここでは、せん断補強部材3の右雄ねじ部31に定着体が取り付けられていないときに左雄ねじ部32に左定着体9を取り付ける例について説明する。
【0045】
この場合、せん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3を挿入した後、図6(a)に示すように、せん断補強部材挿入孔2の右拡径孔21においてせん断補強部材3の右雄ねじ部31における対向する平面状の2面をスパナSなどによって保持して、せん断補強部材3の回転を抑止する。この状態で、せん断補強部材3の左雄ねじ部32に左定着体9をねじ込む。このとき、せん断補強部材3の回転が抑止されているので、左定着体9を容易にせん断補強部材3の左雄ねじ部32にねじ込むことができる。また、対向する2つの面が存在しないせん断補強材料である場合には、ペンチなどの挟持するための工具で保持することができる。
【0046】
また、一旦せん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3を挿入した後、図6(b)に示すように、せん断補強部材3を左側に若干ずらし、左拡径孔22においてせん断補強部材3をスパナSなどによって保持して、せん断補強部材3の回転を抑止する。この状態で、せん断補強部材3の左雄ねじ部32に左定着体9をねじ込む。このとき、せん断補強部材3の回転が抑止されているので、左定着体9を容易にせん断補強部材3の左雄ねじ部32にねじ込むことができる。
【0047】
さらに、せん断補強部材3の他端側に定着体が取り付けられているときの一端側に定着体を取り付ける場合、ここでは、せん断補強部材3の左雄ねじ部32に左定着体9が取り付けられているときに右雄ねじ部31に右定着体8を取り付ける例について説明する。この場合、たとえば図6(c)に示すように、左拡径孔22に収容された左定着体9と左拡径孔22との間に楔Wを押し込み、コンクリート構造体1に対する左定着体9の回転を抑止する。この状態で、右雄ねじ部31に対して右定着体8をねじ込むことにより、右定着体8を容易にせん断補強部材3に固定することができる。
【0048】
また、図7(a)に示すように、左拡径孔22に収容された左定着体9を回転抑止具Xによって保持しておくことができる。回転抑止具Xは、図7(b)に示すように、先端に回転抑止爪X1,X1が取り付けられており、左定着体9には、挿入孔64,64が形成されている。回転抑止具Xにおける回転抑止爪X1,X1を左定着体9における挿入孔64,64に挿入して回転抑止具Xを保持しておくことにより、コンクリート構造体1に対する左定着体9の回転を抑止する。この状態で、右雄ねじ部31に対して右定着体8をねじ込むことにより、右定着体8を容易にせん断補強部材3に固定することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、せん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2内に挿入した後、その両側に定着体8,9を取り付けるようにしている。これに対して、せん断補強部材3の一端側に定着体8,9もいずれかを取り付けてせん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2に挿入した後、他方の定着体9,8を取り付けるようにすることもできる。ただし、この場合には、グラウト材を充填する際に定着体8,9も一方が取り付けられている。このため、拡径孔21,22のいずれかに定着体8,9が存在することとなるので、その拡径孔21,22のグラウトの流通性を良好に維持する工夫があると望ましい。そのためには、たとえばグラウトの注入圧力を高めることなどができる。
【0050】
こうして、定着体8,9をせん断補強部材3に取り付けたら、図4(b)に示すように、蓋部材5における蓋部材本体51を下降させて、グラウト材貯留槽4の側面開口部を閉塞する。その後、グラウト材貯留槽4に設けられたドレンコックを開放し、グラウト材貯留槽4に溜まったグラウト材をグラウト材貯留槽4から排出する。排出されたグラウト材は、可使用時間内であり、所定の流動性を維持している場合には、他のせん断補強部材挿入孔2に利用することができる。
【0051】
その後、グラウト材貯留槽4の側面開口部を蓋部材5によって閉塞した状態で、図4(c)に示すように、グラウト材貯留槽4は、蓋部材本体51と案内部材52を残して取り外し、せん断補強部材挿入孔2内におけるグラウトを所定期間養生する。さらに、養生期間が経過した後、蓋部材本体51と案内部材52とを撤去し、適宜コンクリート構造体1の表面を清掃する。こうして、せん断補強部材3の定着が完了する。
【0052】
このように、本実施形態に係るせん断補強部材の定着方法においては、せん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3を挿入してから、グラウト材貯留槽4を設置し、その後グラウト材を注入するようにしている。このため、装置の大型化や大量のグラウト材を要することがないようにすることができる。また、コンクリート構造体1に穿孔されたせん断補強部材挿入孔2は貫通孔である。このため左拡径孔22から供給したグラウト材を右拡径孔21から排出することができるので、せん断補強部材挿入孔2内におけるグラウト材の滞留を防止することができ、グラウト材をせん断補強部材挿入孔2内に行き渡らせることができる。このため、せん断補強部材挿入孔2にグラウト材を好適に充満させ、せん断補強部材3を十分にコンクリート構造体1に定着させることができる。
【0053】
また、本実施形態に係るせん断補強部材の定着方法では、せん断補強部材挿入孔2にグラウト材を充填する際、せん断補強部材挿入孔2の左拡径孔22をゴム栓6によって密閉し、密栓に設けられたグラウト材注入部材を介して、グラウト材をせん断補強部材挿入孔に充填する。このため、グラウトを充填する際の充填圧を高めることができるので、せん断補強部材3をコンクリート構造体1に対してより好適に定着させることができる。
【0054】
さらに、グラウト材貯留槽4は、せん断補強部材よりも短い長さとされている。さらには、少なくとも定着体8,9を収めることができ、作業するために作業員の手のひらが入る大きさとされている。このため、グラウト材貯留槽4の大型化を防止することができるとともに、グラウト材の使用量の増加を抑制することができる。ここで、せん断補強部材挿入孔2にグラウト材貯留槽4を取り付ける前に、せん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3を挿入している。このため、グラウト材貯留槽4が小さい場合でも、せん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2に対して容易に挿入することができる。
【0055】
他方、本実施形態に係るせん断補強部材の定着方法においては、せん断補強部材3の両端に雄ねじ部31,32をそれぞれ形成し、定着体8,9の内側にそれぞれこれらの雄ねじ部31,32に締め付け可能とされた雌ねじ部63が形成されている。このため、定着体8,9をせん断補強部材3に対して相対的に回転させながら前進させることによって定着体8,9を容易にせん断補強部材3に取り付けることができる。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、定着体としてセラミックス製のものを用いているが、金属製の定着体などを用いることもできる。また、その形状についても種々のものとすることができる。たとえば、ねじ節鉄筋に金属製の定着体などを接合したり、鉄筋の端部にねじ棒を摩擦圧接したりして取り付け、ねじ棒に定着体を接合することもできる。あるいは、定着体の形状についても板状の部材や、定着板とナットが一体となったものとすることもできる。金属製の定着体を用いる場合には、防錆のためのかぶり厚が必要となるが、充填したグラウトでかぶり厚を確保することができる。
【0057】
さらに、せん断補強部材挿入孔2に挿入した後、せん断補強部材3の両端に定着体を取り付けているが、せん断補強部材3の一方に定着体を取り付けてからせん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2に挿入する態様とすることもできる。さらに、上記実施形態ではグラウト材貯留槽4を吸盤によって取り付けているが、アンカーボルトなどの他の手段によって取り付ける態様とすることもできる。グラウト材貯留槽4が小さいと、これらの吸盤やアンカーボルトによる保持力を小さく済ませることができる。
【0058】
また、上記実施形態においては、せん断補強部材3の両端部に雄ねじ部31,32を設けるとともに、定着体8,9に雌ねじ部63を形成している。これに対して、せん断補強部材3の両端部に雌ねじ部を形成し、定着体8,9に雄ねじ部を形成する態様とすることもできる。あるいは、せん断補強部材3の両端部に雄ねじ部と雌ねじ部とをそれぞれ形成し、これらに対応する定着体に雌ねじ部と雄ねじ部とをそれぞれ形成する態様とすることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1…コンクリート構造体
2…せん断補強部材挿入孔
3…せん断補強部材
4…グラウト材貯留槽
5…蓋部材
6…ゴム栓
7…グラウトホース
8…右定着体
9…左定着体
11,12…鉛直外側部材
13…鉛直内側部材
14…天板部材
15…底板部材
21…右拡径孔
22…左拡径孔
31…右雄ねじ部
32…左雄ねじ部
41…グラウト材貯留槽取付け部
51…蓋部材本体
52…案内部材
61…定着体本体
62…表面
63…雌ねじ部
64…挿入孔
S…スパナ
W…楔
X…回転抑止具
X1…回転抑止爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のコンクリート構造体に貫通孔であるせん断補強部材挿入孔を穿孔し、
前記せん断補強部材挿入孔にせん断補強部材を挿入し、
前記せん断補強部材挿入孔の入側開口部および出側開口部のそれぞれの外側に、グラウト材貯留手段を設置し、
前記せん断補強部材挿入孔に流動性を有する状態のグラウト材を充填し、その際に前記せん断補強部材挿入孔から流出するグラウト材を前記グラウト材貯留手段で受け、
前記せん断補強部材挿入孔をグラウト材で実質的に充満させた後、前記グラウト材を硬化させることにより前記せん断補強部材を前記せん断補強部材挿入孔に定着させることを特徴とするせん断補強部材の定着方法。
【請求項2】
前記流動性を有するグラウト材を充填する際、前記せん断補強部材挿入孔の入側開口部を密栓によって密閉し、前記密栓に設けられたグラウト材注入部材を介して、前記グラウト材を前記せん断補強部材挿入孔に充填する請求項1に記載のせん断補強部材の定着方法。
【請求項3】
前記グラウト材貯留手段が、前記せん断補強部材より短くされている請求項1または請求項2に記載のせん断補強部材の定着方法。
【請求項4】
前記流動性を有するグラウト材を充填する際、前記せん断補強部材を回転させる請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載のせん断補強部材の定着方法。
【請求項5】
前記せん断補強部材挿入孔をグラウト材で実質的に充満させた後、前記グラウト材を硬化させる前に、前記せん断補強部材の端部に定着体を取り付ける請求項1〜請求項4のうちのいずれか1項に記載のせん断補強部材の定着方法。
【請求項6】
前記せん断補強部材の端部に第1雄ねじ部または第1雌ねじ部が形成され、
前記せん断補強部材の端部に取り付けられる前記定着体に、前記第1雄ねじ部にねじ込み可能とされた第2雌ねじ部または前記第1雌ねじ部がねじ込み可能とされた第2雄ねじ部が形成されている請求項5に記載のせん断補強部材の定着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197571(P2012−197571A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61218(P2011−61218)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(397027787)カジマ・リノベイト株式会社 (9)
【Fターム(参考)】