説明

たまり醤油醸造用麹の製造方法

【課題】 小麦を用いることなく、雑菌汚染が少なく、粘りや異臭のない、より品質に優れたたまり醤油醸造用麹の提供。
【解決手段】 脱脂大豆の蒸煮処理物と脱脂大豆の膨化処理物を原料として製麹するたまり醤油醸造用麹の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たまり醤油醸造用麹の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、たまり醤油の醸造用麹は、蒸煮処理された大豆(脱脂大豆を含む)を味噌玉又はバラ麹として製麹することによって製造されている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、斯かる方法によるときは、盛込時の水分が過剰になるため、雑菌の増殖、汚染が進み、その結果、粘りや異臭が発生してしまい、良好な麹を得ることは難しいと云う問題があった。
【0003】
そこで、従来は盛込時の水分調節のため、炒り小麦を添加使用することも行われていた(例えば、非特許文献2参照)が、食物アレルギーの問題から、小麦を使用しない醤油が望まれているのも実状である。
【非特許文献1】日本醸造協会誌第64巻 第2号(1969)「最近の”たまりしょう油”の醸造法」
【非特許文献2】調味化学第21巻 第10号(1974)「これからのたまりしょう油技術」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたものであり、小麦を用いることなく、雑菌汚染が少なく、粘りや異臭のない、より品質に優れたたまり醤油醸造用麹を提供することを課題とする。
【0005】
本発明者は、当該課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、製麹原料として脱脂大豆の蒸煮処理物と脱脂大豆の膨化処理物を併用すれば、小麦を用いずとも、盛込時の水分過剰を抑制し、雑菌の増殖、汚染を防止することができることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、脱脂大豆の蒸煮処理物と脱脂大豆の膨化処理物を原料として製麹するたまり醤油醸造用麹の製造方法により、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、盛込時の水分過剰を抑制し、雑菌の増殖、汚染を防止し得るので、粘りや異臭の少ない、品質に優れた麹を得ることができる。しかも、本発明は小麦を用いていないので、小麦アレルギーの問題もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の方法に用いられる、脱脂大豆の蒸煮処理物とは、脱脂大豆を蒸煮処理したもので、例えば、脱脂大豆に散水温度55〜65℃、散水率103〜115%、蒸煮圧力1.70〜1.90kgf/cm2の条件下で蒸煮することによって得られる。また、脱脂大豆の膨化処理物とは、脱脂大豆を膨化処理したもので、例えば、脱脂大豆に適度な水分の共存下、密閉系内で加圧加熱後、急激に常温下に放出することによって得られる。
【0009】
本発明においては、斯かる脱脂大豆の蒸煮処理物と脱脂大豆の膨化処理物を原料とするが、該原料中、脱脂大豆の膨化処理物の含有率としては40〜60質量%、特に50質量%とするのが好ましい。脱脂大豆の膨化処理物の含有率が40質量%未満の場合には、出麹時に粘りや異臭が発生し易く、他方60質量%を超える場合には、得られた麹の酵素活性が低くなり易く、従ってたまり醤油の味、香り等が満足いくものとはなり難い。
【0010】
本発明においては、上記の如き原料を均一に混合した後、種麹を接種、培養してたまり醤油醸造用麹を得る。
製麹の温度・期間は、特に限定されないが、25〜35℃で1〜3日間が好ましく、特に30〜33℃で2〜3日間とするのが好ましい。
【0011】
本発明において用いられる種麹としては、特に限定されないが、例えば、アスペルギルス ソーヤ、アスペルギルス オリゼー等が挙げられる。また種麹は、胞子のみ、培養基を含むもの、更に増量剤を含むもの等いずれの形態でもよい。
【0012】
本発明の方法によって得られたたまり醤油醸造用麹は、これを適当濃度の食塩水に仕込み、醤油醸造の常法に従い、適当期間発酵、熟成を行い、圧搾濾過することにより、たまり醤油が得られる。
【実施例】
【0013】
次に、本発明をさらに具体的に説明するために実施例を掲げるが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0014】
実施例1
脱脂大豆650gを水に一晩水浸漬した後、水切りを行い、高圧蒸煮缶にて、蒸気圧1.8kgf/cm2で7.5分間蒸煮を行い、蒸煮処理大豆を得た。また、脱脂大豆650gを同様に水に浸漬した後、80kgf/cm2の条件下、40秒間エクストルーダー処理して膨化処理大豆を得た。次いで、得られた蒸煮処理大豆と膨化処理大豆を均一に混合して盛込原料を得た。この盛込原料に、種麹菌としてアスペルギルス ソーヤを1×107個/g接種し、製麹室にて室温30℃で44時間培養し、たまり醤油醸造用麹を得た。
【0015】
試験例1
試験区として、脱脂大豆を実施例1と同様にそれぞれ蒸煮処理、膨化処理して蒸煮処理大豆と膨化処理大豆を得、表1記載の配合割合で均一に混合し、実施例1と同様に種麹菌を接種、培養してたまり醤油醸造用麹をそれぞれ得た。
実施例1及び上記各試験区における盛込時水分(%)、出麹水分(%)、出麹一般細菌数(個/g)、全プロテアーゼ活性(単位/g)を測定し、又得られた麹の性状と香りを比較した。その結果は表1のとおりであった。
なお、一般細菌数は、以下の方法で測定した。
A.準備
(1)90ml生理食塩水に界面活性剤を適量入れてオートクレーブし、滅菌水を得る。
(2)試験管に生理食塩水を9ml入れ、アルミキャップをしてオートクレーブする。
(3)培地として真菌抑制剤入り一般細菌用培地を使用。
B.操作
(1)各サンプル10gを無菌的に上記で準備した滅菌水に計り取る。
(2)振とう機にて5〜10分振とうする。
(3)クリーンベンチ内で各懸濁液1mlを上記で準備した試験管に分注(102希釈)し希釈する。
(4)さらに(3)の操作を続けて行い、5乗〜7乗まで希釈する。
(5)シャーレに各希釈液を1ml分注する(各2枚ずつ)。
(6)各シャーレに上記で準備した培地を分注し、固化させる。
(7)30℃で2日間培養後、計数する。
【0016】
【表1】

【0017】
試験例2
実施例1及び各試験区で得られた各たまり醤油醸造用麹に、24.6%食塩水を2.6L加えて仕込み、醤油諸味を調製した。これらの諸味を5L密封瓶にて20℃で常法により発酵、熟成した。1カ月経過後の諸味液汁を採取し、各成分の分析を行った。その結果は表2のとおりであった。
【0018】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦を用いることなく、脱脂大豆の蒸煮処理物と脱脂大豆の膨化処理物を原料として製麹することを特徴とするたまり醤油醸造用麹の製造方法。
【請求項2】
原料中、脱脂大豆の膨化処理物の含有率が60〜40質量%であることを特徴とする請求項1記載のたまり醤油醸造用麹の製造方法。