説明

たん白加水分解物加工品

【課題】たん白加水分解物特有の臭気をマスキングまたは低減したたん白加水分解物加工品を提供すること。
【解決手段】たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液を100〜140℃で加熱して得ることを特徴とするたん白加水分解物加工品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たん白加水分解物特有の臭気がマスキングまたは低減された、たん白加水分解物加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、たん白加水分解物は、うまみの付与を目的として加工食品などに用いられている。しかし、たん白加水分解物には特有の臭気があり、用途や使用量を制約する要因となっている。
【0003】
たん白加水分解物特有の臭気のマスキングまたは低減する従来技術としては、プロテアーゼを用いて、酸性下で蛋白質原料を加水分解した後、酵母及び/又は酒粕を加え熟成することを特徴とする呈味性蛋白加水分解物の製造法(特許文献1参照)、甲殻類、及び/又はその処理物、貝類、及び/又はその処理物、及び酒類及び/又は酒精含有発酵調味液を含有し、pHが3.0〜7.0の範囲に調整され、かつ、加熱処理が施されていることを特徴とする調味料(特許文献2参照)などが開示されている。
しかし上記技術では、一長一短がありさらに改善された、たん白加水分解物加工品が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−266228号公報
【特許文献2】特開平10−042823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、たん白加水分解物特有の臭気をマスキングまたは低減した、たん白加水分解物加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液を加熱することにより上記課題を解決することを見出し、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液を100〜140℃で加熱して得ることを特徴とするたん白加水分解物加工品、
(2)前記溶液にさらに還元糖を含有することを特徴とする上記(1)に記載のたん白加水分解物加工品、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のたん白加水分解物加工品は、たん白加水分解物特有の臭気をマスキングまたは低減し、さらに従来たん白加水分解物が持つ旨味の他にコク味があり、味の持続性を長く感じることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるたん白加水分解物とは、たん白を含む食品、例えば魚類、家畜、穀類および豆類、あるいは該食品の加工副産物、例えば、端肉類、煮汁、おからおよび脱脂大豆、などを加水分解することによって得られる、ペプチド、アミノ酸を含むものである。
【0009】
本発明で用いられる酒粕は、清酒の製造工程で酒もろみを搾った後の副産物として得られる酒粕であればよく、清酒の醸造法による酒粕の種類、例えば純米粕や吟醸粕などの醸造法は特に限定されない。酒粕の形態は特に制限されず、例えば、板状の板粕や破砕した粕、または乾燥した酒粕であっても良い。
【0010】
本発明で用いられる還元糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、マントース、ラクトースなどが挙げられ、好ましくはグルコース、キシロース、フルクトースである。上記した還元糖は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明のたん白加水分解物加工品は、たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液を加熱することにより得られる。
【0012】
たん白加水分解物および酒粕の配合量としては、たん白加水分解物および酒粕の濃度によっても異なるが、たん白加水分解物100質量部に対し、酒粕は約5〜25質量部が好ましく、さらに好ましくは約7〜20質量部である。また、還元糖を用いる場合は、たん白加水分解物100質量部に対し、還元糖は約0.05〜5.0質量部が好ましく、さらに好ましくは約0.1〜2.5質量部である。
【0013】
たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液は、公知の混合機を用いて均一に混合すれば良い。所望により水を用いて溶液を希釈して液状またはペースト状にすることもできる。上記溶液の固形分濃度としては、約3.0〜8.0%、好ましくは約5.0〜7.0%である。なお、上記固形分濃度は、手持屈折計(型式:N−1E;アタゴ社製)での測定値である。
【0014】
上記溶液を加熱する方法としては、公知の加熱機を用いて溶液を均一に加熱すればよく、例えば、撹拌機付の加圧ニーダー、撹拌機付の加圧反応釜などの装置を用いることができる。加熱する条件としては、加熱温度は約100〜140℃であり、好ましくは約100〜130℃である。加熱時間は、約5〜360分間、好ましくは約10〜240分間である。
【0015】
たん白加水分解物加工品は、使用目的に応じ、さらに濃縮工程あるいは乾燥工程を行うことにより固体状や粉末状のたん白加水分解物加工品にして用いることができる。
上記濃縮工程としては、真空濃縮、加熱濃縮など公知の濃縮方法を行うことができる。上記乾燥工程としては、液状またはペースト状のたん白加水分解物加工品に賦形剤を加えた後に公知の乾燥法、例えば常圧ドラム乾燥法、真空ドラム乾燥法、スプレー乾燥法、棚式乾燥法などを行うことができる。
【0016】
また、本発明のたん白加水分解物加工品には、本発明の効果を阻害しない範囲で、甘味料、着色料、増粘安定剤、酸味料、酸化防止剤、酸味料、調味料、乳化剤、製造用剤等の食品添加物や食塩、糖類などを配合することができる。
【0017】
かくして得られた、たん白加水分解物加工品は、旨味およびコク味の付与などを目的として飲食品に添加して用いることができる。
【0018】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0019】
<たん白加水分解物(魚肉たん白加水分解物)の作製>
かつお落とし身(かつお節製造工程の生きり工程から発生する胸びれ周辺部の身)を100℃の熱湯に投入し、再沸騰後引き上げた後、フードプロセッサー(形式:MK−K80P;パナソニック社製)を用いてミンチ状かつお肉とした。2Lステンレス製ジョッキにミンチ状かつお肉300gと水1200gの混合物(pH6.0)を加え、50℃まで加熱してからプロテアーゼ(商品名:ニュートラーゼ;ノボザイムズ社製)1.5g添加し、50℃・1時間反応させた。次いで、プロテアーゼ/ペプチダーゼ混合製剤(フレーバーザイム1000L;ノボザイムズ社製)0.75gを添加し、50℃で22時間を保持して加水分解を行った。さらに90℃で30分間加熱を行い酵素失活し、50℃に冷却してから吸引ろ過(No2ろ紙)にて固液分離し、さらに、遠心分離機(形式:05PR−22;日立工機社製)を用いて3000rpm、20分間処理した後、分離した油分を除いて魚肉たん白加水分解物(試作品)1300gを得た。
【0020】
<たん白加水分解物加工品(魚肉たん白加水分解物加工品)の作製>
(1)原材料
魚肉たん白加水分解物(試作品)
酒粕(商品名:酒粕 生;一の蔵社製)
無水ドウ糖(商品名:無水ブドウ糖TDA−S;キリン協和フーズ社製)
キシロース(商品名:D−キシロース;岡村製油社製)
【0021】
(2)配合組成
上記原材料を用いて作製した魚肉たん白加水分解物加工品の配合組成を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
(3)魚肉たん白加水分解物加工品の作製
[実施例1〜4]
上記表1に記載する量の原材料を三角フラスコに加えスパチュラで混合した後、アルミホイルで蓋をしてからオートクレーブ(型式:ASV−2402;サクラ精機社製)で121℃10分間の条件で加熱処理を行った。加熱処理した後、処理物を50℃まで冷却してから吸引ろ過(No2ろ紙)を用いて固液分離し魚肉たん白加水分解物加工品(実施例品1〜4)各約90gを得た。
【0024】
[実施例5]
実施例1〜4の作製において、121℃10分間の加熱処理条件を105℃10分間に替えた以外は同等の処理を行い魚肉たん白加水分解物加工品(実施例品5)90gを得た。
【0025】
[実施例6]
実施例1〜4の作製において、121℃10分間の加熱処理条件を125℃10分間に替えた以外は同等の処理を行い魚肉たん白加水分解物加工品(実施例品6)89gを得た。
【0026】
[比較例1、2]
実施例1〜4の作製と同等の処理を行い魚肉たん白加水分解物加工品(比較例品1、2)各約90gを得た。
【0027】
[比較例3]
実施例1〜4の作製において、121℃10分間の加熱処理条件を90℃10分間に替えた以外は同等の処理を行い魚肉たん白加水分解物加工品(比較例品3)90gを得た。
【0028】
[比較例4、5]
上記表1に記載する量の原材料を三角フラスコに加えスパチュラで混合した後、混合液が常温の状態で吸引ろ過(No2ろ紙)を用いて固液分離し魚肉たん白加水分解物加工品(比較例品4、5)各約90gを得た。
【0029】
<たん白加水分解物加工品(魚肉たん白加水分解物加工品)の評価>
評価方法
200mlビーカーに、魚肉たん白加水分解物加工品(実施例品1〜6、比較例品1〜5)各50gに90℃の湯50gを加え、香り、コク味、味の持続性について官能評価を行った。官能評価は、10名のパネラーで下記評価基準で評価した。評価点の平均値を下記基準で記号化した。結果および魚肉たん白加水分解物加工品作製時の加熱条件を表3に示す。

記号化
◎ :評価点の平均値 3.5以上
○ :評価点の平均値 2.5以上から3.5未満
△ :評価点の平均値 1.5以上から2.5未満
× :評価点の平均値 1.5未満
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

結果より、実施例品の香りは魚肉たん白加水分解物特有の魚臭をマスキングまたは低減することができ、魚肉たん白加水分解物の持つ旨味に加えコク味を感じ、味の持続性も長く感じて良い評価であった。
一方、比較例品の香りは魚肉たん白加水分解物特有の魚臭をマスキングまたは低減することができず、魚肉たん白加水分解物の持つ旨味は感じるがコク味を感じず、味の持続性も短く感じて良い評価ではなかった。
【0032】
<たん白加水分解物(大豆たん白加水分解物)の作製>
2Lステンレス製ジョッキにおから(商品名:おからパウダー;フードケミファ社製)150gと水1650gを加え90℃30分間加熱して殺菌を行った後に50℃まで冷却した。次いで水酸化ナトリウムを加えpH6.0になるように調整し、そこにプロテアーゼ(商品名:ニュートラーゼ;ノボザイムズ社製)0.45g、プロテアーゼ/ペプチダーゼ混合製剤(フレーバーザイム1000L;ノボザイムズ社製)0.57g、カルボヒドラーゼ複合製剤(商品名:ヴィスコザイムL;ノボザイムズ社製)0.15g、ペクチナーゼ(商品名:ペクチネックス ウルトラ SP−L;ノボザイムズ社製)0.75gを添加し、50℃で22時間を保持して加水分解を行った。さらに90℃で30分間加熱を行い酵素失活し、40℃まで冷却してから吸引ろ過(No2ろ紙)にて固液分離して大豆たん白加水分解物(試作品)1440gを得た。
【0033】
<たん白加水分解物加工品(大豆たん白加水分解物加工品)の作製>
(1)原材料
大豆たん白加水分解物(試作品)
酒粕(商品名:酒粕 生;一の蔵社製)
無水ブドウ糖(商品名:無水ブドウ糖TDA−S;キリン協和フーズ社製、還元糖)
キシロース(商品名:D−キシロース;岡村製油社製、還元糖)
ショ糖(商品名:HBSビートグラニュ−糖;ホクレン農業共同組合連合会社製、非還元糖)
【0034】
(2)配合組成
上記原材料を用いて作製した大豆たん白加水分解物加工品の配合組成を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
(3)大豆たん白加水分解物加工品の作製
[実施例7〜10]
上記表4に記載する量の原材料を三角フラスコに加えスパチュラで混合した後、アルミホイルで蓋をしてからオートクレーブ(型式:ASV−2402;サクラ精機社製)で121℃10分間の条件で加熱処理を行った。加熱処理した後、処理物を約40℃まで冷却してから吸引ろ過(No2ろ紙)により固液分離して大豆たん白加水分解物加工品(実施例品7〜10)各約90gを得た。
【0037】
[実施例11]
実施例7〜10の作製において、121℃10分間の加熱処理条件を105℃10分間に替えた以外は同等の処理を行い大豆たん白加水分解物加工品(実施例品11)90gを得た。
【0038】
[実施例12]
実施例7〜10の作製において、121℃10分間の加熱処理条件を125℃10分間に替えた以外は同等の処理を行い大豆たん白加水分解物加工品(実施例品12)89gを得た。
【0039】
[比較例6〜8]
実施例7〜10の作製と同等の処理を行い大豆たん白加水分解物加工品(比較例品6〜8)各約90gを得た。
【0040】
[比較例9]
実施例7〜10の作製において、121℃10分間の加熱処理条件を90℃10分間に替えた以外は同等の処理を行い大豆たん白加水分解物加工品(比較例品9)90gを得た。
【0041】
[比較例10]
上記表4に記載する量の原材料を三角フラスコに加えスパチュラで混合した後、混合液を常温の状態で吸引ろ過(No2ろ紙)により固液分離して大豆たん白加水分解物加工品(比較例品10)90gを得た。
【0042】
<たん白加水分解物加工品(大豆たん白加水分解物加工品)の評価>
(1)評価方法
200mlビーカーに、大豆たん白加水分解物加工品(実施例品7〜12、比較例品6〜10)各50gに90℃の湯50gを加え、香り、コク味、味の持続性について官能評価を行った。官能評価は、10名のパネラーで下記評価基準で評価した。評価点の平均値を下記基準で記号化した。結果および大豆たん白加水分解物加工品作製時の加熱条件を表6に示す。
◎ :評価点の平均値 3.5以上
○ :評価点の平均値 2.5以上から3.5未満
△ :評価点の平均値 1.5以上から2.5未満
× :評価点の平均値 1.5未満
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
結果より、実施例品の香りは大豆たん白加水分解物特有の豆臭をマスキングまたは低減することができ、大豆たん白加水分解物の持つ旨味に加えコク味を感じ、味の持続性も長く感じて良い評価であった。
一方、比較例品の香りは大豆たん白加水分解物特有の豆臭をマスキングまたは低減することができず、大豆たん白加水分解物の持つ旨味は感じるがコク味を感じず、味の持続性も短く感じて良い評価ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液を100〜140℃で加熱して得ることを特徴とするたん白加水分解物加工品。
【請求項2】
前記溶液にさらに還元糖を含有することを特徴とする請求項1に記載のたん白加水分解物加工品。

【公開番号】特開2012−213356(P2012−213356A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80806(P2011−80806)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)