説明

ちらつき知覚閾値の測定装置、測定方法及び測定プログラム

【課題】短時間にちらつきの知覚閾値を測定可能な測定装置、測定方法及び測定プログラムを提供する。
【解決手段】測定方法は、一定の周波数で、コントラストを開始値Aから傾きcで変化させて点滅刺激を提示するステップと、点滅刺激を提示した状態で、被験者がちらつきを知覚して操作部を操作したときのコントラストの値を仮の閾値Rとして決定する処理を、複数回繰返すステップと、傾きc及び所定時間TBの積に仮の閾値Rを加算した値を、次回の測定期間における開始値Ai+1として決定するステップと、開始値Ai+1及び直前の測定期間において使用された傾きcよりも小さい傾きci+1を使用して点滅刺激を提示するステップと、得られた複数の仮の閾値を用い、被験者のちらつき知覚閾値を決定するステップとを含む。これにより、従来よりも短い時間でちらつきの知覚閾値を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滅する刺激に対して人がちらつきを知覚し始める又は知覚しなくなる閾値(以下、ちらつき知覚閾値ともいう)の測定に関し、特に短時間で閾値を測定することができる、ちらつき知覚閾値の測定装置、測定方法及び測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代はストレス社会と言われており、日常生活の中で使える疲労の客観的計測及び評価方法が強く要求されている。従来、人が点滅する光源を見る際の「ちらつき」(フリッカー)の知覚が疲労度により変化する現象、とくに「ちらつき」を知覚することができる境界の点滅周波数(Critical Flicker Frequency:CFF)が疲労度の増大とともに低下する現象を用いて、疲れの定量的な評価(フリッカー検査)が行なわれている。フリッカー検査では、点滅する光の点滅周波数を時間的に変化(単調に増大又は減少)させて被験者に提示し、点滅が見えない状態から見える状態に変化したとき、又は、点滅が見る状態から見えない状態に変化したときに、被験者にボタン押し等の反応をさせることにより周波数を測定する。フリッカー検査を用いた疲労度の定量的評価は、とくに産業衛生分野で幅広く用いられている。しかし、LED等を装備した専用装置が必要であり、誰もが日常的に手軽に実施することはできなかった。
【0003】
これに対して本願発明者は、フリッカー検査と同じちらつき知覚原理に基づく精神的疲労度検査を、液晶ディスプレイ及びCRT等のリフレッシュレートが固定された画像提示装置を用いて行なうことを可能にする技術を開発した(下記特許文献1参照)。この技術では、従来のフリッカー検査で用いられている点滅光の点滅周波数を変化させる代わりに、点滅光のコントラストを変化させることにより、フリッカー知覚を生じさせる。これにより、携帯電話等の携帯端末装置、パーソナルコンピュータ等を用いて、日常的に簡易に精神的疲労の計測が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−088862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のフリッカー測定装置では、点滅が見えない状態から見える状態に移行する点を閾値として測定する場合、通常、どのような被験者にも対応できるように、固定した同じ開始点から測定を開始する。したがって、複数回(通常5回)計測を行なう場合、計測に長時間を要する問題がる。この点は、上記特許文献1に開示されたコントラスを用いる方法においても同じである。例えば、図1に示すように、明らかに人が点滅を知覚できない固定した周波数fsから測定を開始する。時間t1〜t5において被験者がちらつきを知覚し、そのときの点滅周波数がf1〜f5である。ちらつき知覚閾値は、例えば、得られた測定値f1〜f5の平均値として求められる。
【0006】
また、従来のフリッカー検査では、ちらつきの知覚を被験者の主観的な報告のみに頼っているため、本当にちらつきを知覚していたのかどうか判定することができない。即ち、客観的なちらつき知覚閥値の測定が難しいという問題がある。通常、点滅光の周波数を高周波数から低周波数に向けて一定の割合で変化させて測定するため、数回のフリッカー検査後には、被験者はボタンを押すタイミングを調整し、恣意的に検査結果を操作することが可能であった。また、ちらつき知覚に明確な正答/誤答の基準がなく、被験者の反応のタイミング(ボタン押下のタイミング)が恣意的になりやすいため、検査結果のばらつきが大きかった。さらに、被験者がちらつきを明らかに知覚できない周波数の刺激を長く見続ける傾向があるため、検査時間が長い上、検査結果がより疲労していないことを示す可能性があった。
【0007】
したがって、本発明は、ちらつき知覚閾値を従来よりも短時間に測定できる測定装置、測定方法及び測定プログラムを提供することを目的とする。また、本発明は、測定時間の短縮と共に、ちらつき知覚閾値を客観的且つ正確に測定できる測定装置、測定方法及び測定プログラムを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記によって達成することができる。
【0009】
即ち、本発明に係るちらつき知覚閾値の測定方法は、被験者に点滅刺激を提示してこの被験者のちらつき知覚閾値を測定する方法であって、点滅刺激は、輝度差及び周波数のうちの一方が一定の値であり、他方が変化する刺激であり、他方を、開始値から、単位時間当たりの他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に伴って変化させて、点滅刺激を提示するステップと、点滅刺激を提示した状態で、被験者が点滅刺激によるちらつきを知覚して操作部を操作したときの他方の値を仮の閾値として決定する処理を1回の測定として、測定を複数回繰返すステップと、1回の測定で使用された傾きと所定の時間とを乗算して得られた値に、この測定で決定された仮の閾値を加算して得られた値を、この測定の次の測定における開始値として決定する開始値決定ステップと、複数の測定によって得られた複数の仮の閾値を用い、被験者のちらつき知覚閾値を決定するステップとを含み、1回の測定で使用される傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、この測定の次の測定において使用する。
【0010】
好ましくは、被験者のちらつき知覚閾値を測定する場合、最初の測定期間における他方の開始値として、この被験者に対する前回の測定によって得られたちらつき知覚閾値を、他方の変化が増大である場合には所定の比率で減少させて得られる値を使用し、他方の変化が減少である場合には所定の比率で増大させて得られる値を使用してもよい。
【0011】
より好ましくは、一方は周波数であり、他方は輝度差であり、点滅刺激は、異なる2つの輝度を有する領域を交互に一定の周波数で同じ位置に提示することによって生じる刺激であり、ちらつき知覚閾値の測定方法は、2つの輝度のうちの高い方の輝度を一定にし、低い方の輝度を変化させることによって輝度差を変化させる。
【0012】
さらに好ましくは、異なる2つの輝度を有する領域は、それぞれ2つの画像上の特定領域であり、2つの画像は、同じパターンで複数の領域に区画され、特定領域は、測定毎にランダムに決定された複数の領域のうちの1つの領域であり、被験者による操作部の操作は、複数の領域のうちの1つの領域を特定領域として選択する操作であり、1回の測定における被験者による選択が正しい場合、開始値決定ステップを実行し、且つ、この測定で使用された傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、この測定の次の測定において使用し、1回の測定における被験者による選択が正しくない場合、開始値決定ステップを実行せず、且つ、この測定で使用された開始値及び傾きを、この測定の次の測定において使用する。
【0013】
本発明に係る別のちらつき知覚閾値の測定方法は、被験者に点滅刺激を提示してこの被験者のちらつき知覚閾値を測定する方法であって、点滅刺激は、輝度差及び周波数のうちの一方が一定の値であり、他方が変化する刺激であり、他方を、開始値から、単位時間当たりの他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に伴って変化させて、点滅刺激を提示するステップと、点滅刺激を提示した状態で、被験者が点滅刺激によるちらつきを知覚して操作部を操作したときの他方の値を仮の閾値として決定する処理を1回の測定として、測定を複数回繰返すステップとを含み、開始値は、複数回の測定の前に被験者に対して行なわれた測定によって得られたちらつき知覚閾値を、他方の変化が増大である場合には所定の比率で減少させて得られる値であり、他方の変化が減少である場合には所定の比率で増大させて得られる値である。
【0014】
本発明に係るちらつき知覚閾値の測定装置は、被験者に点滅刺激を表示する表示部と操作部とを備えたちらつき知覚閾値の測定装置であって、点滅刺激は、輝度差及び周波数のうちの一方が一定の値であり、他方が変化する刺激であり、他方を、開始値から、単位時間当たりの他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に応じて変化させて、点滅刺激を表示した状態で、被験者が点滅刺激によるちらつきを知覚して操作部を操作したときの他方の値を仮の閾値として決定する処理を、1回の測定として、測定を複数回繰返し、1回の測定で使用される傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、この測定の次の測定において使用し、1回の測定で使用された傾きと所定の時間とを乗算して得られた値に、この測定で決定された仮の閾値を加算して得られた値を、この測定の次の測定における開始値とし、複数の測定によって得られた複数の仮の閾値を用い、被験者のちらつき知覚閾値を決定する。
【0015】
本発明に係るちらつき知覚閾値の測定プログラムは、操作部及び表示部を備えたコンピュータ又は携帯端末装置に、輝度差及び周波数のうちの一方を一定の値にし、他方を開始値から、単位時間当たりの他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に伴って変化させて、表示部に点滅刺激を表示する機能と、点滅刺激を表示した状態で、被験者が点滅刺激によるちらつきを知覚して操作部を操作したときの他方の値を仮の閾値として決定する処理を1回の測定として、測定を複数回繰返す機能と、1回の測定で使用された傾きと所定の時間とを乗算して得られた値に、この測定で決定された仮の閾値を加算して得られた値を、この測定の次の測定における開始値として決定する機能と、複数の測定によって得られた複数の仮の閾値を用い、被験者のちらつき知覚閾値を決定する機能とを実現させ、1回の測定で使用される傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、この測定の次の測定において使用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繰返し測定において、測定条件(開始点、及び、周波数又はコントラスト変化の傾き)を適応的に設定するので、ちらつき知覚閾値を、従来よりも短時間に且つ精度よく測定することができる。また、正誤を判定できる画像パターンを被験者に提示することによって、測定時間の短縮に加えて、客観的且つ正確にちらつき知覚閾値を測定することができる。
【0017】
また、測定開始点を、被験者の過去の測定結果に応じて設定することによって、ちらつき知覚閾値を従来よりも短時間に測定することができる。
【0018】
実験の結果、従来のフリッカー検査では3〜4分間かかる測定時間を、本発明により測定条件を適応的に設定することによって、約40秒間に短縮することができた。
【0019】
これにより、誰もが日常的に手軽に精神的疲労を測定することができ、測定結果をより客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のちらつき知覚閾値の測定における点滅条件の変化を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態に係るちらつき知覚閾値の測定装置の構成の概要を示すブロック図である。
【図3】ちらつき知覚閾値の測定に使用する2枚の画像を示す図である。
【図4】コントラストを変化させる方法を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に係るちらつき知覚閾値の測定方法における点滅条件の変化を示すグラフである。
【図6】被験者に提示する画像の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るちらつき知覚閾値の測定方法を実現するためのプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図8】ちらつき知覚閾値の測定時間に関する実験結果を示すグラフである。
【図9】本発明のちらつき知覚閾値の測定方法による測定値と、従来のフリッカー検査値との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
図2を参照して、本発明の実施の形態に係るちらつき知覚閾値の測定装置100は、演算処理部(以下、CPUと記す)102、読出専用メモリ(以下、ROMと記す)104、書換可能メモリ(以下、RAMと記す)106、記録部108、タイマ110、インターフェイス部(以下、IF部と記す)112、バス114、表示部116、及び操作部118を備えている。CPU102は、測定装置100全体を制御する。ROM104は不揮発性の記憶装置であり、測定装置100の動作を制御するためのプログラム及びデータが記憶されている。RAM106は、揮発性の記憶装置である。記録部108は、通電が遮断された場合にもデータを保持する不揮発性記憶装置であり、例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等である。CPU102は、バス114を介してROM104からプログラムをRAM106上に読出して、RAM106の一部を作業領域としてプログラムを実行する。CPU102は、プログラムにしたがって測定装置100を構成する各部の制御を行なう。
【0023】
タイマ110は、内部クロックを用いて時刻情報を出力する。IF部112は、CPU102と表示部116及び操作部118とのインターフェイスである。バス114には、CPU102、ROM104、RAM106、記録部108、タイマ110、及びIF部112が接続されている。各部間のデータ(制御情報を含む)交換は、バス114を介して行なわれる。
【0024】
表示部116は、画像を表示するための表示パネル(液晶パネル等)及びそれを駆動するための駆動部を備えている。表示部116は、IF部112を介して伝送される画像データを、所定のリフレッシュレートで表示する。IF部112と表示部116との間で伝送される画像信号の様式(仕様)に応じてIF部112及び駆動部が設計されていれば、画像信号はデジタルであってもアナログであってもよい。操作部118は、キー、パッド等を備えており、被験者は操作部118を操作して測定装置100に対し指示を行なう。
【0025】
測定装置100として、例えば公知のコンピュータや携帯端末装置(携帯電話、PHS、PDA等)を使用することができる。
【0026】
測定装置100の動作の概要を説明すると、次の通りである。CPU102は、2つの画像データを所定の周期で交互に、IF部112を介して表示部116に伝送する。表示部116は、受信した画像データを、所定のリフレッシュレート(例えば60Hz)で表示し、被験者に提示する。
【0027】
2つの画像は、同じパターンにより区画された複数の領域を含み、そのうちの特定領域において相互に輝度が異なり、残りの領域において輝度が同じである多階調の白黒画像である。図3において、第1画像200と第2画像210とは、何れも同じパターン(扇型)で複数の領域に区画されている。相互に対応する領域は、特定領域202、212を除いて同じ輝度である。例えば、第1画像200の特定領域202は高輝度であり、第2画像210の特定領域212は低輝度であり、斜線を引いた扇型領域204〜208、214〜218は、特定領域202、212の輝度値の平均値である。背景領域の輝度値は、例えば0である。第1画像200及び第2画像210の各々は、リフレッシュレートの周期(例えば60Hzの場合、1/60=約16.7msec)の2倍の周期(1/30=約33.3msec)で表示部116に表示される。したがって、CPU102から表示部116に所定のタイミング(点滅周波数)で画像データを伝送すれば、特定領域が点滅する画像を、被験者に提示することができる。この点滅を知覚できるか否かは、点滅周波数及び特定領域の輝度差に依存する。
【0028】
さらに、CPU102は、表示部116に伝送する2つの画像データを時間と共に変化させ、表示部116に表示される画像において、特定領域の輝度差を時間と共に変化させる。例えば、図3に示した第1画像200及び第2画像210における特定領域202、212の輝度差ΔLが、時間と共に一定の比率で増大又は減少する2つの画像データを、上記と同様に表示部116に伝送する。
【0029】
例えば、図4に示したように、第1画像200の特定領域202の輝度を最大輝度(Lon)にしたまま、第2画像210の特定領域212の輝度を、最大輝度Lon(=Lon)から0まで、Loff、・・・、Loff、・・・、Loff=0と、一定の比率で減少させる。図4は、t=0〜T1の期間で、線形にn階調(例えば、n=256)変化させる場合を示す。図4において、時間軸に沿って交互に付した数字“1”及び“2”は、それぞれ第1画像200及び第2画像210が表示されている期間を表す。第1画像200の特定領域202の輝度値が第2画像210の特定領域212の輝度値よりも高いので、画像の点滅表示となる。
【0030】
なお、図4では、T0の間、1つの輝度差ΔLで第1画像200及び第2画像210が繰返して(2回)表示される場合を示しているが、変化が急激な場合には、1つの輝度差ΔLで第1画像200及び第2画像210は1回だけ表示される。また、デジタル画像の場合には輝度は離散的な値(階調)であるので、表示する画像の輝度差も連続する値にならない場合がある。その場合には、第2画像210の特定領域の輝度値には、最も近い整数値(階調値)を用いる。例えば、表示部116のリフレッシュレートが60Hzであり、ΔTが約33ms(1/30)である場合、輝度変化の傾きが、約33msで1階調変化させるときの傾きよりもゆるやかな場合、同じ第2画像210が複数回表示される。また、輝度変化の傾きが、約33msで1階調変化させるときの傾きよりも急な場合、第2画像210の特定領域212の輝度を表す階調値は、連続する整数値にならず、とびとびの値(使用されない階調値がある)になる。
【0031】
被験者は、表示部116の表示画面に提示された画像を観察し、画像の一部の領域にちらつきが生じ始めた又はちらつきが無くなったと知覚したときに、その領域を、操作部118を操作して指定する。例えば、4つの領域に異なる4つのキーを割り当てておき、何れかのキーを被験者に押させる。この操作情報(データ)は、IF部112を介してCPU102に伝送され、CPU102は受信したデータをRAM106又は記録部108に記憶する。CPU102は、被験者の操作の正/誤、即ち被験者が指定した領域が、交互に表示されている2つの画像において輝度差を有する特定領域であるか否かを判定する。
【0032】
被験者が正しく特定領域を指定できなかった場合、条件(特定領域の位置、輝度差の変化の開始値及び傾き)を変更せずに同様の測定を行なう。被験者が正しくちらつき領域を指定できた場合、次の測定は条件を変更して行なう。特定領域の位置を変更し、例えば、図3の第1画像200及び第2画像210において上側の扇型領域204、214を特定領域とした画像データを使用する。特定領域の位置は、ランダムに変更するのが望ましい。さらに、特定領域の測定開始時の輝度差を変更し、且つ、より緩やかな比率で輝度差を変化させる。
【0033】
このように、測定装置100は、被験者に提示する画像の特定領域(輝度差を設ける領域)の位置を不規則に変化させ、特定領域の輝度差を変化させる比率を、被験者がちらつきを正しく知覚できたか否かに応じて適応的に変化させる。
【0034】
図5〜図7を参照して、測定装置100用いたちらつき知覚閾値の測定についてより詳細に説明する。
【0035】
図5を参照して、CPU102は、各測定期間(第1期間〜第i+1期間)において、第2画像210の特定領域のコントラスト(縦軸)を線形に減少させる。ここで、コントラストは、第1画像200の特定領域202の輝度値に対する第2画像210の特定領域212の輝度値の比率(図4を参照すれば、Loff/Lon)である。したがって、第2画像210の特定領域212のコントラストを変化させることは、上記した第2画像210の特定領域212の輝度値Loffを変化させることに相当する。また、Lonが一定であるので、コントラストを変化させることは、輝度差を変化させることに相当する。即ち、輝度差を線形に増大させることは、コントラストを線形に減少させることに等しく、輝度差を線形に減少させることは、コントラストを線形に増大させることに等しい。なお、第1画像200の特定領域202の輝度値が一定の値であるので、このコントラストは正規化されたコントラストと言える。
【0036】
各期間において、最初の第2画像210の特定領域のコントラストA(以下、開始値ともいう)を、時間と共に減少させ、且つ、第2画像210の特定領域のコントラストを変化させる比率c(グラフの傾き)を、時間の経過に伴って減少させる。具体的には、第i+1期間において測定を開始するコントラストAi+1は、Ai+1=R+Δc、Δc=TB×c によって設定される。ここで、Rは、第i期間において被験者が特定領域を指定したとき(例えば所定のキーを押したとき)の第2画像210の特定領域のコントラストである。TBは、次の測定の開始値を定めるための一定の時間である。即ち、常に時間TBだけ戻って開始値を定め、前の測定で使用したコントラストを重複して用いて測定を行なう。重複時間TB及び傾きcは予め設定される。
【0037】
各期間において、表示される2枚の画像における特定領域の位置は、上記したようにランダムに決定される。したがって、例えば、図6に示すように画像が表示される。図6に示した画像は、各期間において、時間経過に伴って左から右に順次表示される。第1期間においては特定領域が右の扇形領域であり、第2期間においては特定領域が左の扇形領域であり、第i期間においては特定領域が上の扇形領域である、というように特定領域が変化する2つの画像データを使用する。
【0038】
以下、ちらつき知覚閾値の測定方法を実現するためのプログラムの制御構造について説明する。以下において、画素の輝度は階調によって表されるとする。例えば、画素が256階調(8bit)で表される場合、最大輝度は階調値“255”で表され、最小輝度は階調値“0”で表される。
【0039】
図7を参照して、ステップ300において、CPU102は初期設定を行なう。具体的には、CPU102は、ROM104又は記録部108に記憶されている第1期間における開始値A、重複時間TB、及び、第1〜第N期間の各期間における傾きc(i=1〜N)を読出す。複数のcはベクトルとして管理される。CPU102は、ROM104又は記録部108に記憶されている、操作部118と画像の区画領域との対応関係の情報(例えば、4つの扇形領域に対応する4つのキーの情報)を読出す。
【0040】
ステップ302において、CPU102は点滅条件を決定する。即ち、CPU102は、第i期間の傾きとして、ステップ300で読出したcを設定し、この値を用いて同じコントラストで画像を表示する時間T0(図4参照)を計算する。ステップ302が最初に実行される場合、Cが使用される。上記したように、デジタル画像を使用する場合、傾きと階調数との関係で、同じ画像を繰返し表示する場合がある。傾きcは単位時間当たりに変化させるコントラストである。コントラスト“1”が階調の最大値Gmaxに対応し、コントラスト“0”が最小値Gmin=0に対応する。したがって、1秒間に変化する階調数は、c×(Gmax−Gmin)=c×Gmax であり、1階調変化させた画像を表示する時間T0は、T0=1/(c×Gmax) となる。
【0041】
ステップ304において、CPU102は乱数を発生させて、コントラストを変化させる特定領域の位置を決定し、この位置情報をRAM106に記憶する。例えば、図3、図6に示す画像の場合、4つの扇形領域から、特定領域を1つ決定する。乱数を発生する方法には、任意の公知技術(ソフトウェアを用いた擬似乱数を発生する方法、熱雑音を用いる方法等)を使用すればよい。また、乱数を4つの扇形領域に対応させる方法も任意である。例えば、整数の乱数を発生させ、その4の剰余(0、1、2、3)を4つの扇形領域に対応させてもよい。
【0042】
ステップ306において、CPU102は、ステップ302及びステップ304で決定された条件、及び、開始値A、重複時間TBを用いて、第i期間において最初に点滅表示する2つの画像データを生成する。また、CPU102は、現在時刻をタイマ110から取得して、RAM106に記憶する。一方の画像(図3の第1画像200に対応)において、特定領域の輝度は最大輝度Lon=Gmaxであり、他方の画像(図3の第2画像210に対応)において、特定領域の輝度は、Lon×A である。他の3つの扇形領域の輝度値は、それらの平均値、即ち、Lon×(1+A)/2 である。
【0043】
ステップ308において、CPU102は、ステップ306において生成した2つの画像データを、IF部112を介して表示部116に伝送する。具体的には、特定領域の輝度値が高い画像を伝送し、ΔT/2 後に特定領域の輝度が低い画像データを伝送し、その後これを繰返す。ΔT/2は、点滅周期の1/2であり、表示部116のリフレッシュ周期(固定されたリフレッシュレートの逆数)以上の時間である。
【0044】
ステップ310において、CPU102は、操作部118が操作されたか否かを判定する。操作されたと判定された場合、受信した操作情報をRAM106に記憶し、ステップ316に移行する。操作されていないと判定された場合、ステップ312に移行する。
【0045】
ステップ312において、CPU102は、タイマ110から現在時刻を取得し、ステップ306でRAM106に記憶した時刻から所定時間T0が経過したか否かを判定する。所定時間が経過したと判定された場合ステップ314に移行する。所定時間が経過していないと判定された場合、ステップ310に戻る。これによって、時間T0の間、同じコントラスト差の2つの画像を交互に表示して、操作部118が操作されるのを待つ。
【0046】
操作部118が操作されない場合、ステップ314において、新たに画像を生成すべきか否かを判定する。上記したように、被験者が操作しなければ、第2画像210の特定領域のコントラストを減少させる。被験者が操作しないまま、その値が0になった場合、それ以上コントラストを減少させることができないので、再度、同じ条件で、ステップ308〜312を繰返す。
【0047】
ステップ316において、CPU102は、次の画像ペアを生成する。具体的には、次に生成する第2画像210の特定領域の輝度を決定する。第i期間においては、第2画像210の特定領域のコントラストは最初の値が開始値Aであり、傾きcで線形に減少するので、各測定期間の開始からt秒後のコントラストは、A−c×t である。ステップ316は、時間T0毎に実行される。第2画像210の特定領域の輝度は、Lon×(A−c×t)となる。この値を用いて、ステップ306と同様に第1画像データ及び第2画像データを生成する。第1画像200においては、特定領域の輝度はLonで変わらないが、それ以外の扇型領域の輝度(中間値)は、Lon×(1+A−c×t)/2 に変更される。第2画像210においては、特定領域の輝度が、Lon×(A−c×t) に変更され、それ以外の扇型領域の輝度は、Lon×(1+A−c×t)/2 に変更される。その後、処理はステップ308に戻り、CPU102は、新たに生成した2つの画像データを表示部116に交互に伝送し、ステップ310〜314の処理が繰返される。
【0048】
ステップ318において、CPU102は、被験者が回答したちらつき領域が正しいか否か、即ち、被験者が操作部118を操作して指定した領域が特定領域であるか否かを判定する。具体的には、ステップ304でRAM106に記憶された位置情報と、ステップ310でRAM106に記憶された操作情報とが一致するか否かを判定する。正しかった場合(一致する場合)、ステップ320に移行する。正しくなかった場合(一致しない場合)、処理はステップ308に戻り、CPU102は再度、同じ2つの画像データを表示部116に伝送し、ステップ310〜314の処理が繰返される。
【0049】
ステップ320において、CPU102は、最後に表示部116に伝送した第2画像210の特定領域のコントラストをRAM106に記憶し、それまでにステップ320が実行されてRAM106に記憶されたコントラストと合わせて、収束したか否かを判定する。収束性の判定は任意の方法で行なえばよい。例えば、CPU102は、連続して複数回(例えば2回)記憶されたコントラストの差が、所定値以下である場合に収束したと判定することができる。収束したと判定された場合、最後にRAM106に記憶したコントラストをちらつき知覚閾値として記録部108に記憶して、処理を終了する。収束していないと判定された場合、ステップ322に移行する。
【0050】
ステップ322において、CPU102は、点滅条件を変更する。具体的には、次に実行する測定期間が第i+1期間である場合、開始値Ai+1を、Ai+1=R+Δc によって計算する。ここで、Rは、直前の測定期間(第i期間)においてステップ320でRAM106に記憶されたコントラスト(第2画像210の特定領域のコントラスト)である。Δcは、重複時間TB、直前の第i期間においてコントラストを線形に変化させるときの傾きciを用いて、Δc=TB×c によって計算される。
【0051】
その後、処理はステップ304に戻り、ステップ322で設定された条件(開始値Ai+1)が使用されて、ステップ302〜320の処理が実行される。
【0052】
以上により、測定条件(特定領域の位置、開始値、及び、周波数又はコントラスト変化の傾き)を適応的に設定し、繰返し測定を行なうことができる。これによって、被験者のちらつき知覚閾値(ちらつきを知覚し始めた時に表示されていた第2画像210の特定領域212のコントラスト)を、各測定期間において同じコントラストから測定を開始し、同じ傾きでコントラストを変化させる場合よりも、短時間で測定することができる。また、被験者の回答の正誤を判定することによって、被験者の恣意性を排除することができ、客観的に且つ正確なちらつき知覚閾値を測定することができる。
【0053】
したがって、予め、被験者が疲労していない状態で、上記したようにちらつき知覚閥値を測定して記録し、その後、同じ被験者について同様に測定して得られたちらつき知覚聞値を、疲労していない状態のちらつき知覚聞値と比較することにより、被験者が精神的に疲労しているか否かを判定することができる。
【0054】
全測定の最初の開始値A、重複時間TB、及び、各期間における傾きcは、表示部116のリフレッシュレート等を考慮して適宜設定することができる。好ましくは、最初の開始値Aは、1であり、重複時間TBは、5〜8s(秒)である。また、好ましくは、傾きcは、0.004〜0.02s−1である。開始値Aは、1より小さい値であってもよい。
【0055】
これらの値は、被験者に応じて設定してもよい。例えば、同じ被験者については、前回の測定結果を用いて決定することができる。
【0056】
上記では、各測定期間においてコントラストを線形に減少させる場合を説明したが、コントラストを線形に増大させてもよい。その場合、各測定期間における開始値Aは、傾きcを負の値に設定して、上記の式を用いて計算すればよい。また、表示する第1画像においては、区画された全領域の輝度を最大輝度に設定する。第2画像においては、特定領域以外の領域の輝度を最小の輝度(最小のコントラスト)に設定し、特定領域の輝度(コントラスト)を最小の輝度(最小のコントラスト)から線形に増大させる。このようにすると、最初、被験者が全領域でちらつきを知覚している状態であり、第2画像の特定領域の輝度が増大すると、被験者は特定領域のちらつきを知覚できない状態になる。このとき、被験者は、特定領域以外の領域ではちらつきを知覚している。したがって、特定領域をランダムに変更すれば、上記と同様に、短時間に、被験者の恣意性を排除して正確にちらつき知覚閾値を測定することができる。
【0057】
また、正誤を判定するために表示する画像は、図3に示した4つの領域に区画された画像に限定されず、少なくとも2つ以上の領域に区画された画像であればよい。例えば、7つの領域に区画されたセブンセグメント(7つの微小領域のON/OFFによって0〜9の数字を表示する)の画像であってもよい。
【0058】
また、正誤を判定するために表示する画像は、複数の領域に区画された画像でなくてもよい。例えば、一様な背景に、1桁の数字(0〜9)又はアルファベット(A〜Z)のうち何れか1つの文字を表示した2つの画像を用いることができる。この場合、第2画像における文字領域を特定領域として輝度を変化させる。輝度差が小さいと、被験者は文字を認識できない。文字領域の輝度差が減少すると、被験者はちらつきを知覚し、文字を認識することができるようになる。被験者が文字を認識し、対応する数字キー又はアルファベットキーを正しく押したか否かを判定することにより、同様に被験者のちらつき知覚閾値を測定することができる。
【0059】
また、上記では、画像データをCPU102がリアルタイムに生成する場合を説明したが、これに限定されない。条件(階調数、開始値A、重複時間TB、傾きc等)の組合せに応じて、可能なパターンの画像データを生成しておき、その一部又は全部を、各画像を特定する情報と対応させて記録部108に記憶しておき、適宜、画像を特定する情報を参照して該当する画像データを読出してもよい。
【0060】
また、2つの画像において、2つの特定領域以外の領域の輝度が、2つの特定領域の平均値である場合を説明したが、これに限定されない。特定領域以外の領域の輝度は、第1画像の特定領域の輝度値と、第2画像の特定領域の輝度値との間の一定値であればよい。
【0061】
上記では、リフレッシュレートが一定に固定された表示装置を用いて、ちらつき知覚閾値を測定する場合に、測定時間を短縮可能な適応的方法を説明したが、本適応的方法は、従来のフリッカー検査と同様に点滅周波数を変化させてCFFを測定する方法にも適用することができる。従来のフリッカー検査においては、図1に示したように、開始点(開始周波数fs)から、時間経過に応じて周波数を減少させ、被験者が点滅を知覚できたときの周波数を閾値として決定する。通常、測定開始周波数fsは、どのような被験者にも対応できるように、余裕を持たせて十分に高い値が設定されている。したがって、複数回(例えば、5回)計測を行なう場合、長い時間を要していた。これに対して、測定時間を短縮するために、点滅周波数を変化させて刺激を提示する場合、例えば、図5において縦軸を周波数に置き換えて、同様に測定すればよい。即ち、各測定期間における開始値Aを測定開始周波数とし、傾きcを単位時間当たりの周波数変化量とし、適宜設定された重複時間TBを用いれば、被験者の恣意性を排除することはできないが、同じ開始周波数及び同じ傾きで測定する場合よりも、短い時間でCFFを測定することができる。
【0062】
上記では、測定時間を短縮するために、各測定期間における測定開始値及び傾きを適応的に決定する場合を説明したが、測定開始値を適切に設定するだけでも測定時間を短縮することができる。上記したように、従来のフリッカー検査においては、測定開始周波数は、どのような被験者にも対応できるように、余裕を持たせて十分に高い値が設定されている。一方、特定の個人に関して測定する場合、必要以上に高い周波数から測定を開始する必要は無く、個人のコンディションにより閾値が変動する振れ幅と、測定自体における閾値の変動の振れ幅とをカバーできる範囲で測定できればよい。一例として、ある被験者の前回の測定値がfであった場合、その値より10%以上変動することはまれである。したがって、過去の測定値結果を記録しておき、開始測定周波数fj+1を、前回の測定値fを用いてfj+1=f+0.1×f と設定する。係数0.1は、測定精度が維持される範囲で、減少させることができる。これによって、測定時間を短縮することができる。
【0063】
同様に、特定の被験者に関してコントラストを変化させて測定する場合に、第1測定期間における開始値Aを、前回の測定結果(ちらつき知覚閾値)Rを用いて、A=R+0.1×R と設定すれば、測定時間をより短くすることができる。
【0064】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々変更して実施することができる。
【実施例1】
【0065】
以下に実験結果を示し、本発明の有効性を示す。
【0066】
本発明のちらつき知覚閾値の測定方法(以下、高速ちらつき知覚閾値検査法ともいう)、即ち、測定条件(開始点、及び、周波数又はコントラスト変化の傾き)を適応的に設定して測定する方法と、測定条件を変更せずに測定する方法とを用いて、同一の被験者に対してちらつき知覚閾値を測定した。何れの方法においても、被験者に、図3に示したような4つの領域に区分された図形を、コントラストを変化させながら提示し、4つの領域から1つの点滅領域(点滅領域の位置は、繰返し測定毎にランダムに変更)を選択させる4択フリッカー検査を行なった。それぞれの方法で10回検査した。それぞれの方法において検査に要した時間(開始から測定値が収束するまでの時間)の平均値を図8に示す。左側の棒グラフは、測定条件を変更せずに測定した場合、右側の棒グラフは、測定条件を適応的に変更して測定した場合の結果である。それぞれ、平均値からのばらつきをエラーバーで示している。検定のp値が0.00016と非常に小さいことから、測定結果は有意である。
【0067】
具体的な平均値は、測定条件を変更しない場合66.5±16.2秒、測定条件を適応的に変更した場合38.4±5.9秒であった。このように、本発明の高速ちらつき知覚閾値検査法によれば、約40秒の短時間でちらつき知覚閾値を測定することができる。
【0068】
従来の周波数を変化させるフリッカー検査では測定に3〜4分間かかる。測定条件を変更しない場合でも、コントラストを変化させる4択フリッカー検査によって、1分間程度に測定時間を短縮できた。日常的な簡易疲労計測方法として実用化するには、より短時間で測定できることが望ましい。この点に関して、さらに短時間で測定することができる本発明の測定方法が有効である。
【実施例2】
【0069】
また、本発明の高速ちらつき知覚閾値検査法で計測されるちらつき知覚閾値が、従来のフリッカー検査値と高い相関を持つことを以下に示す。
【0070】
被験者に第1日目の午後4時(16:00)から第2日目の午前7時(7:00)まで、終夜の事務作業勤務を行なってもらい、その間の被験者の疲労状態を、3時間おきに従来のフリッカー検査法と、本発明の高速ちらつき知覚閾値検査法で計測した。また、被験者が終夜事務作業勤務終了後4時間の睡眠をとった後、被験者の疲労の回復状態を評価するために、第2日目の午後2時(14:00)に両検査法で計測した。図9の上段のグラフは、両検査法により計測された疲労計測値の時間推移を示し、図9の下段のグラフは、両計測法で計測された疲労計測値の間の相関解析結果を示している。
【0071】
図9において、Original Flickerは、従来のフリッカー検査法による計測値を表し、Fast Flickerは、本発明の高速ちらつき知覚閾値検査法による計測値を表す。縦軸は、実験開始時の測定で正規化したちらつき知覚閾値(各回の計測値を、実験開始時の計測値で除算して得られた値)である。
【0072】
図9の上段のグラフから、何れの方法でも、未明から朝にかけて、終夜勤務による精神的疲労が経時的に蓄積し、睡眠によって回復する状況を計測できていることが分かる。また、下段のグラフ(散布図)から、相関係数Rが0.956と1に近い値であり、本発明の高速ちらつき知覚閾値検査法による計測値が、従来広く用いられてきたフリッカー検査値と高い正の相関性を持つことが分かる。図9の下段のグラフの直線は、本発明の高速ちらつき知覚閾値検査法による計測値をy、従来のフリッカー検査法による計測値をxとした場合、y=1.588x−0.589 の直線である。なお、p=0.00075と小さいので、測定結果は有意である。
【符号の説明】
【0073】
100 ちらつき知覚閾値の測定装置
102 演算処理部(CPU)
104 読出専用メモリ(ROM)
106 書換可能メモリ(RAM)
108 記録部
110 タイマ
112 インターフェイス部(IF部)
114 バス
116 表示部
118 操作部
200 第1画像
210 第2画像
202、212 特定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に点滅刺激を提示して該被験者のちらつき知覚閾値を測定する方法であって、
前記点滅刺激は、輝度差及び周波数のうちの一方が一定の値であり、他方が変化する刺激であり、
前記他方を、開始値から、単位時間当たりの前記他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に伴って変化させて、前記点滅刺激を提示するステップと、
前記点滅刺激を提示した状態で、前記被験者が前記点滅刺激によるちらつきを知覚して操作部を操作したときの前記他方の値を仮の閾値として決定する処理を1回の測定として、前記測定を複数回繰返すステップと、
1回の測定で使用された前記傾きと所定の時間とを乗算して得られた値に、該測定で決定された仮の閾値を加算して得られた値を、該測定の次の測定における開始値として決定する開始値決定ステップと、
複数の前記測定によって得られた複数の前記仮の閾値を用い、前記被験者のちらつき知覚閾値を決定するステップとを含み、
1回の前記測定で使用される前記傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、該測定の次の測定において使用することを特徴とするちらつき知覚閾値の測定方法。
【請求項2】
被験者のちらつき知覚閾値を測定する場合、最初の測定期間における前記他方の開始値として、該被験者に対する前回の測定によって得られたちらつき知覚閾値を、前記他方の変化が増大である場合には所定の比率で減少させて得られる値を使用し、前記他方の変化が減少である場合には所定の比率で増大させて得られる値を使用することを特徴とする請求項1に記載のちらつき知覚閾値の測定方法。
【請求項3】
前記一方は周波数であり、
前記他方は輝度差であり、
前記点滅刺激は、異なる2つの輝度を有する領域を交互に一定の周波数で同じ位置に提示することによって生じる刺激であり、
2つの前記輝度のうちの高い方の輝度を一定にし、低い方の輝度を変化させることによって前記輝度差を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載のちらつき知覚閾値の測定方法。
【請求項4】
異なる2つの輝度を有する前記領域は、それぞれ2つの画像上の特定領域であり、
2つの前記画像は、同じパターンで複数の領域に区画され、
前記特定領域は、前記測定毎にランダムに決定された複数の前記領域のうちの1つの領域であり、
前記被験者による前記操作部の操作は、複数の前記領域のうちの1つの領域を前記特定領域として選択する操作であり、
1回の測定における前記被験者による前記選択が正しい場合、前記開始値決定ステップを実行し、且つ、該測定で使用された前記傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、該測定の次の測定において使用し、
1回の測定における前記被験者による前記選択が正しくない場合、前記開始値決定ステップを実行せず、且つ、該測定で使用された開始値及び傾きを、該測定の次の測定において使用することを特徴とする請求項3に記載のちらつき知覚閾値の想定方法。
【請求項5】
被験者に点滅刺激を提示して該被験者のちらつき知覚閾値を測定する方法であって、
前記点滅刺激は、輝度差及び周波数のうちの一方が一定の値であり、他方が変化する刺激であり、
前記他方を、開始値から、単位時間当たりの前記他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に伴って変化させて、前記点滅刺激を提示するステップと、
前記点滅刺激を提示した状態で、前記被験者が前記点滅刺激によるちらつきを知覚して操作部を操作したときの前記他方の値を仮の閾値として決定する処理を1回の測定として、前記測定を複数回繰返すステップとを含み、
前記開始値は、複数回の前記測定の前に前記被験者に対して行なわれた測定によって得られたちらつき知覚閾値を、前記他方の変化が増大である場合には所定の比率で減少させて得られる値であり、前記他方の変化が減少である場合には所定の比率で増大させて得られる値であることを特徴とするちらつき知覚閾値の測定方法。
【請求項6】
被験者に点滅刺激を表示する表示部と操作部とを備えたちらつき知覚閾値の測定装置であって、
前記点滅刺激は、輝度差及び周波数のうちの一方が一定の値であり、他方が変化する刺激であり、
前記他方を、開始値から、単位時間当たりの前記他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に応じて変化させて、前記点滅刺激を表示した状態で、前記被験者が前記点滅刺激によるちらつきを知覚して前記操作部を操作したときの前記他方の値を仮の閾値として決定する処理を、1回の測定として、前記測定を複数回繰返し、
1回の前記測定で使用される前記傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、該測定の次の測定において使用し、
1回の測定で使用された前記傾きと所定の時間とを乗算して得られた値に、該測定で決定された仮の閾値を加算して得られた値を、該測定の次の測定における開始値とし、
複数の前記測定によって得られた複数の前記仮の閾値を用い、前記被験者のちらつき知覚閾値を決定することを特徴とするちらつき知覚閾値の測定装置。
【請求項7】
操作部及び表示部を備えたコンピュータ又は携帯端末装置に、
輝度差及び周波数のうちの一方を一定の値にし、他方を開始値から、単位時間当たりの前記他方の変化量である傾きを一定にして時間の経過に伴って変化させて、前記表示部に点滅刺激を表示する機能と、
前記点滅刺激を表示した状態で、前記被験者が前記点滅刺激によるちらつきを知覚して前記操作部を操作したときの前記他方の値を仮の閾値として決定する処理を1回の測定として、前記測定を複数回繰返す機能と、
1回の測定で使用された前記傾きと所定の時間とを乗算して得られた値に、該測定で決定された仮の閾値を加算して得られた値を、該測定の次の測定における開始値として決定する機能と、
複数の前記測定によって得られた複数の前記仮の閾値を用い、前記被験者のちらつき知覚閾値を決定する機能とを実現させ、
1回の前記測定で使用される前記傾きの絶対値よりも小さい絶対値を有する新たな傾きを、該測定の次の測定において使用することを特徴とするちらつき知覚閾値の測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−187181(P2012−187181A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51418(P2011−51418)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】