説明

つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出装置及び方法

【課題】
上記従来の足踏み検査法の欠点を解消しつつ、偏倚を定量化できる回転角を検出する。
【解決手段】
被験者が載る1つの踏み台と、つま先接地法による足踏み前において、被験者が前記踏み台上で静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第1座標として取得する手段と、つま先接地法による足踏み後において、被験者が前記踏み台上で足踏み終了時の立ち位置において静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第2座標として取得する手段と、身体の回転中心を、左右の足の拇指球接地部を結ぶ線上から選択し、前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線との角度を、身体の回転によって生じた回転角として取得する手段と、を備えた、回転角検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
めまいの検査(平衡機能検査)には、大きく分けて、静的平衡機能検査と動的平衡機能検査があり、前者の1つとして重心動揺計による検査が、後者の1つとして足踏み検査が知られている。足踏み検査は代表的な偏倚検査の1つである。
【0003】
従来の足踏み検査は、平坦な硬い床上に半径0.5mと1mの同心円を描き、円内に30度または45度の分度線を設ける。同心円の中心に立ち、両上肢を前方に伸ばし、遮眼または閉眼で大腿を水平まで上げて歩行調(60秒間110歩内外)で100歩または50歩足踏みさせる。これを例えば3回繰り返して行う。終了時の停止位置における身体の回転方向、回転角度、中心からの移行方向、移行角度、移行距離を測定、記録する(足踏み検査については、「日本めまい平衡医学会 イラストめまいの検査」を参照することができる)。なお、従来の足踏み検査を踏襲した足踏検査装置として特許文献1がある。
【0004】
従来の足踏み検査では、歩数以外に規定がなく、歩数も50歩と100歩の場合がある。足の上げ方の規定はあるが、実際には、着衣で大腿を水平まで上げるのは困難な場合(例えば、スカート着衣時)もあり、また、動揺の強い患者や高齢者等では大腿を水平まで上げて50歩以上足踏みすることは困難である。
【0005】
また、足底を完全に上げる足踏みをすることから、実際の回転軸が一定でないという不具合がある。さらに、「移行距離」というパラメータが0cmでなかった場合、足踏みがその場で行われなかったということであり、足踏み検査が短い距離の歩行検査になってしまっている。その場合、純粋な回転を検出することは現実的には不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−22654
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の足踏み検査法の欠点を解消することができるものでありながら、偏倚を定量化できる回転角検出装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が採用した技術手段は、
つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出装置であって、
前記つま先接地法による足踏みは、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするものであり、
前記装置は、
被験者が載る1つの踏み台と、
つま先接地法による足踏み前において、被験者が前記踏み台上で静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第1座標として取得する手段と、
つま先接地法による足踏み後において、被験者が前記踏み台上で足踏み終了時の立ち位置において静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第2座標として取得する手段と、
身体の回転中心を、左右の足の拇指球接地部を結ぶ線上から選択し、前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線との角度を、身体の回転によって生じた回転角として取得する手段と、
を備えた、回転角検出装置、である。
【0009】
1つの態様では、前記身体の回転中心は、回転時の軸足の拇指球接地部である。この場合、軸足の拇指球接地部と前記第1座標とを結ぶ線と軸足の拇指球接地部と前記第2座標とを結ぶ線との角度を求めることになる。
【0010】
1つの態様では、前記回転角を取得する手段は、
前記回転中心の座標を取得する手段と、
前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前後軸との角度αを取得する手段と、
前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線と前後軸との角度βを取得する手段と、
前記角度αと前記角度βの差から回転角を取得する手段と、
からなる。
【0011】
1つの態様では、前記回転中心の座標を取得する手段は、閉足位の左右の拇指球接地部が中心線から所定寸法離間しているとし、前記回転中心のx座標値を、第1座標のx座標値と前記所定寸法を用いて推定する。
1つの態様では、前記所定寸法は、被験者の足のサイズの10分の1である。
【0012】
1つの態様では、前記装置は、さらに、
前記第1座標、前記第2座標から回転方向を推定する手段と、
回転方向から決定した軸足に基づいて回転中心となる拇指球接地部を決定する手段と、
を備えている。
【0013】
1つの態様では、前記身体の回転中心は、左右の拇指球接地部の中点である。この場合、左右の拇指球接地部の中点と前記第1座標とを結ぶ線と左右の拇指球接地部の中点と前記第2座標とを結ぶ線との角度を求めることになる。
【0014】
1つの態様では、前記踏み台上には、拇指球接地部の位置決めの基準となる基準点が設けてあり、基準点の座標を用いて、少なくとも拇指球接地部のy座標値が特定可能である。例えば、踏み台上の起立時に少なくとも基準点のy座標に合わせて閉足位の拇指球接地部を位置させることで、基準点のy座標=拇指球接地部のy座標値とすることができる。
1つの態様では、前記基準点は、左右の拇指球接地部の中点である。すなわち、予め座標値が記憶されている基準点に合わせて閉足位の左右の拇指球接地部の中点を位置させるように踏み台上に起立することで、左右の拇指球接地部の中点の座標を特定することができる。
1つの態様では、閉足位の中心線である被験者の前後軸は、前記第1座標のx座標値上にあるとみなす。例えば、中心線のx座標値、基準座標のx座標値、第1座標のx座標値が同じであるとみなして、回転角度を計算してもよい。
これらの情報は、回転角度を算出する際に、適宜用いられ得ることが当業者に理解される。
【0015】
本発明が採用した他の技術手段は、
つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出方法であって、
前記つま先接地法による足踏みは、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするものであり、
前記方法は、
つま先接地法による足踏み前において、被験者が前記踏み台上で静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第1座標として取得するステップと、
つま先接地法による足踏み後において、被験者が前記踏み台上で足踏み終了時の立ち位置において静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第2座標として取得するステップと、
身体の回転中心を、左右の足の拇指球接地部を結ぶ線上から選択し、前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線との角度を、身体の回転によって生じた回転角として取得するステップと、
を備えた、回転角検出方法、である。
なお、第1座標を求めるステップと、第2座標を求めるステップとの間には、つま先接地法による足踏みステップ、すなわち、被験者に踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みを行わせるステップがある。
このように本発明を方法の発明として規定した場合には、上述の装置の発明の数々の態様における各手段をステップに書き換えることで、方法の発明を規定することができる。
【0016】
本発明は、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするつま先接地法による足踏みを用いる点を特徴としている。本発明で採用するつま先接地法による足踏みは、より詳しくは、閉足位の中心線である被験者の前後軸の方向を踏み台上のY軸方向に一致させるように踏み台に載り、踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするものである。
1つの態様では、つま先接地法による足踏みは、メトロノーム120BPM(一定のテンポ)にあわせて60秒間(所定時間)足踏みする。
1つの態様では、回転角の検出は、開眼で足踏みした場合と閉眼で足踏みした場合とで別個に検出する。
1つの態様では、静止起立時の被験者の動揺中心位置(第1座標、第2座標)は、所定時間(例えば10秒間)起立した時の重心の時系列データの平均値である。被験者の動揺中心位置は、重心動揺計で取得される動揺平均中心変位から取得することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、つま先接地法による足踏みを用いて回転角を検出することで、偏倚を定量化することができる。また、回転角の検出は、つま先接地法による足踏み前後における静止起立時(例えば、10秒静止起立時)の動揺中心位置を記録するだけで行うことができ、簡単な平衡障害の偏倚検査を提供することができる。
【0018】
本発明は、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするつま先接地法を用いて回転角を検出することで、従来の足踏み検査の不具合を解消することができる。
【0019】
具体的には、一定テンポ・所定時間(例えば、メトロノームを用いBPM120で60秒間)の足踏みをすることで、テンポ、時間、歩数を規定することができる。つま先接地法により、被験者の足の動きが拘束されるため足の上げ方の個人差を少なくすることができ、足の上げ方を規定できる。つま先接地法により、回転軸(回転中心)を、左右の足の拇指球接地部を結ぶ線上(例えば、左右いずれかの拇指球接地部や、左右の拇指球接地部の中点)から選択して規定することができる。つま先接地法により歩行が制約されるため身体が移行することを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る回転角検出の流れを示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の考え方を示す概略図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の回転角検出の詳細を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の回転角検出の実験概要を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の回転角検出の実験結果を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の回転角検出の臨床例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の考え方を示す概略図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の回転角検出の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[A]回転角検出装置のハードウェア構成
本発明に係る回転角検出装置のハードウェア構成は、フォースプレート(荷重計測手段を備えた踏み台)と、計測されたデータを用いてデータ処理を行うコンピュータ(データを入力するための入力装置、処理されたデータを出力するための出力装置、主としてCPUから構成される演算装置、ROM、RAM等の記憶装置、これらを接続するバス、を備えている)と、から構成することができる。ここで、既存の重心動揺計は、これらのハードウェア構成を備えている。より具体的には、被験者が載る踏み台と、前記踏み台に力が作用した時の当該踏み台の複数箇所の荷重を計測する荷重計測手段と、荷重計測手段により計測された荷重データに基づいて、被験者の重心位置を取得する手段と、取得された値を用いて各種計算を行う演算手段とを備えている。したがって、本発明に係る回転角検出装置は、重心動揺計から構成することができる。
【0022】
1つの態様では、踏み台は、被験者の両足が載る略四角形状のもので、その四隅部にロードセル(荷重計測手段)が配置されている。ロードセルは、力を電気信号に変換して出力するセンサであり、例えば、ひずみゲージ式のロードセルであれば、踏み台上に荷重が加わるとひずみゲージの抵抗値が変化し、電流値が変化するようになっており、その電流を増幅器により増幅させて荷重の出力として検出する。ロードセルは3分力センサで、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の荷重出力を検出する。ここで、X−Y平面を踏み台の面方向に取り、被験者の正面方向をX軸方向とし、このX軸方向に直交する方向をY軸方向とし、X―Y平面に対して鉛直方向をZ軸方向とする。
【0023】
X−Y座標上の重心位置は、X−Y座標上の4つのロードセルのZ軸方向の荷重から、垂直荷重の作用中心点を求め、これをX−Y座標上での重心位置とみなすことで決定することができる。各ロードセルで取得される荷重情報(z軸方向)を逐次コンピュータに送信し、コンピュータの演算手段で重心位置を逐次(0.5秒、1.0秒等の単位時間毎)求めることで、重心位置(X−Y座標値)の時系列データを取得することができる。重心位置の計算に用いた荷重情報及び得られた重心位置のデータ(X−Y座標値)は、取得時間と共に記憶装置に記憶され、測定開始時から測定終了時までの重心位置の経時的な移動軌跡が得られる。被験者の重心位置の時系列データから、被験者の動揺中心位置を取得することができる。重心位置や移動軌跡は、表示装置上の表示部に表示されてもよいが、本発明の回転角の検出において、重心位置を表示部に表示することは必須ではない。また、本発明の回転角検出装置を構成する重心動揺計は、任意の構成要素としてのプリンタを備えていてもよく、表示装置に表示された内容や他の計算結果等を適宜必要に応じてプリンタから出力してもよい。
【0024】
上述のように、本実施形態のつま先接地法による足踏みを用いた回転角検出装置の基本構成は重心動揺計から構成することができるが、本装置の特徴の1つは、回転角検出に用いる足踏みが、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするつま先接地法である点にある。
【0025】
[B]つま先接地法による足踏みを用いた検査
[B−1]つま先接地法による足踏み
本発明は、従来の足踏みとは異なる特殊な足踏みを採用している。通常の足踏みでは、足裏全体が踏み台上面から離れるのに対して、本発明に係る足踏みでは、つま先を踏み台上面に着けたままで足踏みを行う。より具体的には、重心動揺計の踏み台の中央に、閉足位で、つま先、特に拇指球(拇指の付け根)が常に接地している状態で、踵だけ交互にわずかに(2〜3cm程度)上げるようにして、足踏みを行う。測定時においては、「前方に移動しない」、「リズムがずれないようにすること」が重要である。本明細書ではこのような足踏みを用いた検査を、フランス語Foulage(古典的なワインの製造過程において木樽の中に入り裸足でぶどうを踏んでジュース状にすること)に因んでFoulage Testと呼ぶ。
【0026】
[B−2]検査法
(1)重心動揺計の中心である座標(0,0)より前方5cmの座標(0,5)に基準点(ゼロファイブ)をマーキングする。基準点の座標を基準座標とする。ゼロファイブは基準座標の一例であって、基準座標の取り方はゼロファイブに限定されるものではない。
【0027】
(2)被験者は前後軸がずれないように(被験者の前後軸がY軸上に位置するように)閉足位で、両拇指球(足の親指の付け根)の中点が基準座標に一致するように起立する。
【0028】
(3)10秒間起立し、左右・前後中心平均変位(動揺平均中心変位)を計測し、動揺中心位置を第1座標として記録する。なるべく動揺しないように、軽く肩に指などを触れて安定させて記録する。左右は、ほぼ0cmに、前後は0〜−2cm辺りになり得る(足のサイズなどによる個人差がある)。
【0029】
(4)メトロノームBPM120で開眼によるFoulage testを60秒間行う。
【0030】
(5)足踏み終了時の立ち位置から動かないように注意し、10秒間起立し、検査前同様に肩などに指を触れ安定させて左右・前後中心平均変位(動揺平均中心変位)を計測し、動揺中心位置を第2座標として記録する。
【0031】
閉眼でも、同様のステップで、10秒静止起立時の第1座標の記録、60秒Foulage test、10秒静止起立時の第2座標の記録、を行う。尚、Foulage test前の起立時の第1座標の記録は、立ち位置を記録するために行うため、開眼で行う。
【0032】
なお、動揺が著しく、拇指球がプレートから離れてしまった場合や、前進などにより両拇指球中点がゼロファイブから移行してしまった場合は正確な回転角の検出はできない。
【0033】
[C]回転角の演算方法1[C−1]回転角を求める演算式
本実施形態では、身体の回転中心(回転軸)は、回転時の軸足の拇指球接地部である。この場合、軸足の拇指球接地部と前記第1座標とを結ぶ線と軸足の拇指球接地部と前記第2座標とを結ぶ線との角度を求めることになる。本実施形態では、前記第1座標、前記第2座標から回転方向を推定し、回転方向から決定した軸足に基づいて回転中心となる拇指球接地部を決定している。
【0034】
本実施形態では、軸足の拇指球接地部と前記第1座標とを結ぶ線と前後軸との角度αを取得する手段によって角度αを計算し、軸足の拇指球接地部と前記第2座標とを結ぶ線と前後軸との角度βを取得する手段によって角度βを計算し、前記角度αと前記角度βの差から回転角を取得する手段によって回転角を計算する。
【0035】
本実施形態では、閉足位の左右の拇指球接地部の中心線からの距離が、足のサイズPの約10分の1であるという発明者の知見に基づいて、軸足の拇指球接地部のx座標値を、中心線のx座標値(第1座標のx座標値を用いることができる。)とP/10を用いて推定する。以下、回転角の演算ステップについて図3に基づいて詳細に説明する。
【0036】
(1)足踏み検査前の10秒起立時に測定した座標を(X0,Y0)とする。理想的に正中に起立できていればX0=0となる。
【0037】
(2)足踏み検査後の10秒起立時に測定した座標を(X,Y)とする。
【0038】
(3)被験者の足のサイズをP(cm)とする。回転側(軸足)の拇指球の接地部は、閉足位の中心線から約P/10cmの位置になる。
【0039】
(4)回転軸の座標は右回転の場合(P/10-X0,5)、左回転の場合(-P/10-X0,5)となる。回転の方向は「右回転X0>X」、「左回転X0<X」、から推定できる。推定された回転の方向から軸足を推定して回転中心となる拇指球接地部を決定することができる。
【0040】
(5)回転軸と検査前の重心を結ぶ線と前後軸(Y軸に平行な軸である)による角度をαとすると、
右回転の場合、α=arctangent((P/10-X0)/(5-Y0))
左回転の場合、α=arctangent((-P/10-X0)/(5-Y0))
である。
【0041】
(6)回転軸と検査後の重心を結ぶ線と前後軸(Y軸に平行な軸である)による角度をβとすると、
右回転の場合、β=arctangent((P/10-X)/(5-Y))
左回転の場合、β=arctangent((-P/10-X)/(5-Y))
である。
【0042】
(7)身体の回転によって生じた角度(回転角)はβ-αである。
【0043】
[C−2]検証実験
実際に重心動揺計上でつま先接地法による足踏みで回転し、計算により得られた回転角と実測した角度との比較を行う。
【0044】
<方法>
(1)重心動揺計に図4下図のようにテープで15度、30度、45度、60度の放射線をマーキングする。
(2)右拇指球接地部に一致する点(座標(2.7,5.0)に3mmほどの小さな突起をテープで固定する。(被験者の足のサイズが27cm)。
(3)被験者は、右拇指球が小突起に接地するように、前後軸がずれないように起立する。
(4)プレート左に置いた椅子の背もたれに軽く触れ、10秒間静止して、動揺中心位置の第1座標(X0,Y0)を記録する。
(5)メトロノームBPM120に合わせてつま先接地法で足踏みを開始する。拇指球が常に小突起に接地して位置がずれないように注意しながら、60秒間に右に15度回転する。回転後10秒間静止し、動揺中心位置の第2座標(X,Y)を記録する。
(6)同様に、右回転で30度、45度、60度回転して、回転後の動揺中心位置の第2座標(X,Y)を記録する。
【0045】
<結果>
実験の実測値と計算値を図5に示す。回転角β-αの計算値は実測値とほぼ一致した。
【0046】
[C−3]臨床例の検討
<方法>
2010年8月から11月にFoulage testを施行した被験者のうち、閉眼で10度以上回転した15症例の開眼・閉眼データ計37(複数検査あり)から回転角(β-α)を算出、分度器による実測値との相関を検討、計算値と実測値との差の絶対値を誤差とし、最小、最大、平均、標準偏差を検討した。
【0047】
<結果>
結果を図6に示す。実測値と計算値は強く相関した。R2=0.80である。回帰直線の傾きは1であり、実測値と計算値はよく一致した。実測値と計算値の誤差は、最小値0.11最大値16.21 平均5.27 標準偏差4.24であった。
【0048】
<考察>
誤差の原因として以下が考えられる。
(ア)前進により回転軸がずれてしまう場合
この場合、演算式の分母(5-Y)のYが小さくなり、算出される角度は大きくなる。
(イ)動揺により回転軸がずれてしまう場合
この場合、大きく動揺することで、回転軸となる拇指球が接地面から離れてしまい、軸がずれてしまう。
(ウ)検査前後の立位の重心がずれてしまう場合
検査前後の位置は10秒間の中心平均変位で座標を測定するが、動揺が強い場合に必ずしも正確に測定できない。
(エ)前後軸がずれている場合
被験者の検査前の立ち位置は、必ずしもプレートの中心でなくてもよいが、前後軸だけは一致している必要がある。
【0049】
[D]回転角を求める演算方法2[D−1]回転角を求める演算式
本実施形態では、前記身体の回転中心は、左右の拇指球接地部の中点である。この場合、左右の拇指球接地部の中点と前記第1座標とを結ぶ線と左右の拇指球接地部の中点と前記第2座標とを結ぶ線との角度を求めることになる。
【0050】
本実施形態では、被験者が載る1つの踏み台には、静止起立時及び足踏み時において、被験者の閉足位における両拇指球の中点を位置させる基準座標が設定されている。前記基準座標(左右の拇指球接地部の中点)、前記第1座標、前記第2座標を頂点とする直角三角形を形成して、三角関数を用いて回転角を算出する。1つの態様では、第1座標のx座標値を前記回転中心(左右の拇指球接地部の中点)のx座標値とみなして、前記直角三角形を形成する。以下、回転角の演算ステップについて図7、図8に基づいて詳細に説明する。
【0051】
(1)足踏み検査前の10秒起立時に測定した第1座標を(X0,Y0)とする。理想的に正中に起立できていればX0=0となる。
【0052】
(2)足踏み検査後の10秒起立時に測定した第2座標を(X,Y)とする。
【0053】
(3)足踏みで移動した重心のX軸方向の移動距離は第1座標のx値と第2座標のx値の差であるX0-Xとなる。
【0054】
(4)基準座標であるゼロファイブ(0,5)を頂点とし、移動した重心の座標(X,Y)と前後軸で作られる直角三角形を作図する(図8参照)。
【0055】
(5)直角三角形の底辺は5-Y(cm)、高さはX0-X(cm)となる。
【0056】
(6)直角三角形の頂点の角θが回転角であり、三角関数から tanθ=(X0-X)/(5-Y)、 θ=arctangent(X0-X)/(5-Y)として求められる。
【0057】
つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出について説明した。古典的な足踏み検査は本来回転角を測定するものである。Foulage testが動揺の定量化だけでなく、回転角も測定可能であることの意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出装置であって、
前記つま先接地法による足踏みは、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするものであり、
前記装置は、
被験者が載る1つの踏み台と、
つま先接地法による足踏み前において、被験者が前記踏み台上で静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第1座標として取得する手段と、
つま先接地法による足踏み後において、被験者が前記踏み台上で足踏み終了時の立ち位置において静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第2座標として取得する手段と、
身体の回転中心を、左右の足の拇指球接地部を結ぶ線上から選択し、前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線との角度を、身体の回転によって生じた回転角として取得する手段と、
を備えた、回転角検出装置。
【請求項2】
前記身体の回転中心は、回転時の軸足の拇指球接地部である、請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記回転角を取得する手段は、
前記回転中心の座標を取得する手段と、
前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前後軸との角度αを取得する手段と、
前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線と前後軸との角度βを取得する手段と、
前記角度αと前記角度βの差から回転角を取得する手段と、
からなる、請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記回転中心の座標を取得する手段は、閉足位の左右の拇指球接地部が中心線から所定寸法離間しているとし、前記回転中心のx座標値を、第1座標のx座標値と前記所定寸法を用いて推定する、請求項3に記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記所定寸法は、被験者の足のサイズの10分の1である、請求項4に記載の回転角検出装置。
【請求項6】
前記装置は、さらに、
前記第1座標、前記第2座標から回転方向を推定する手段と、
回転方向から決定した軸足に基づいて回転中心となる拇指球接地部を決定する手段と、
を備えている、請求項2〜5いずれか1項に記載の回転角検出装置。
【請求項7】
前記身体の回転中心は、左右の拇指球接地部の中点である、請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項8】
前記踏み台上には、拇指球接地部の位置決めの基準となる基準点が設けてあり、基準点の座標を用いて、少なくとも拇指球接地部のy座標値が特定可能である、請求項1〜7いずれか1項に記載の回転角検出装置。
【請求項9】
前記基準点は、左右の拇指球接地部の中点である、請求項8に記載の回転角検出装置。
【請求項10】
閉足位の中心線である被験者の前後軸は、前記第1座標のx座標値上にあるとみなす、請求項1〜9いずれか1項に記載の回転角検出装置。
【請求項11】
つま先接地法による足踏みを用いた回転角検出方法であって、
前記つま先接地法による足踏みは、被験者が踏み台上でつま先をつけたまま踵を交互に上げて一定のテンポで所定時間足踏みするものであり、
前記方法は、
つま先接地法による足踏み前において、被験者が前記踏み台上で静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第1座標として取得するステップと、
つま先接地法による足踏み後において、被験者が前記踏み台上で足踏み終了時の立ち位置において静止起立した時の被験者の動揺中心位置を第2座標として取得するステップと、
身体の回転中心を、左右の足の拇指球接地部を結ぶ線上から選択し、前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線との角度を、身体の回転によって生じた回転角として取得するステップと、
を備えた、回転角検出方法。
【請求項12】
前記身体の回転中心は、回転時の軸足の拇指球接地部である、請求項11に記載の回転角検出方法。
【請求項13】
前記回転角を取得するステップは、
前記回転中心の座標を取得するステップと、
前記回転中心と前記第1座標とを結ぶ線と前後軸との角度αを取得するステップと、
前記回転中心と前記第2座標とを結ぶ線と前後軸との角度βを取得するステップと、
前記角度αと前記角度βの差から回転角を取得するステップと、
からなる、請求項12に記載の回転角検出方法。
【請求項14】
前記回転中心の座標を取得するステップは、閉足位の左右の拇指球接地部が中心線から所定寸法離間しているとし、前記回転中心のx座標値を、第1座標のx座標値と前記所定寸法を用いて推定する、請求項13に記載の回転角検出方法。
【請求項15】
前記所定寸法は、被験者の足のサイズの10分の1である、請求項14に記載の回転角検出方法。
【請求項16】
前記装置は、さらに、
前記第1座標、前記第2座標から回転方向を推定するステップと、
回転方向から決定した軸足に基づいて回転中心となる拇指球接地部を決定するステップと、
を備えている、請求項12〜15いずれか1項に記載の回転角検出方法。
【請求項17】
前記身体の回転中心は、左右の拇指球接地部の中点である、請求項11に記載の回転角検出方法。
【請求項18】
前記踏み台上には、拇指球接地部の位置決めの基準となる基準点が設けてあり、基準点の座標を用いて、少なくとも拇指球接地部のy座標値が特定可能である、請求項1〜17いずれか1項に記載の回転角検出方法。
【請求項19】
前記基準点は、左右の拇指球接地部の中点である、請求項18に記載の回転角検出方法。
【請求項20】
閉足位の中心線である被験者の前後軸は、前記第1座標のx座標値上にあるとみなす、請求項11〜19いずれか1項に記載の回転角検出方法。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−100903(P2012−100903A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252447(P2010−252447)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000101558)アニマ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】