説明

でんぷんを主原料とする飲料の製造方法

【課題】でんぷんを含有する固形食材を主原料とした飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】でんぷんを含有する固形食材を微粉末に製粉または粉砕粒化、またはペースト状に加工して適量の水を加えて溶液を作り、その溶液を70℃以上に加熱しながら撹拌し、その後前記溶液を60℃以下に冷却して米麹を加えて糖化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
でんぷんを主原料とする飲料の代表的なものはいわゆる甘酒である。甘酒は米麹の酵素の働きによってでんぷんを糖化発酵させて製造する甘味飲料である。米麹は蒸した白米に麹菌を繁殖させたものである。従来甘酒は、白米を粥もしくは米飯に炊飯加工して白米に含まれるでんぷんをアルファー化し、適量の水もしくはお湯を加え、60℃以下に冷却した後適量の米麹を混ぜあわせ、その溶液を5時間以上50〜60℃の温度にほぼ一定に保つことにより製造されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来は精米された白米を主原料とした甘酒が製造されており、米以外のでんぷんを含有する固形食材を主原料とした甘酒は製造されていない。
【0004】
従来白米以外のでんぷんを含有する固形食材を主原料とした甘酒が製造されていない理由について述べる。米を含む穀類は外殻、その下に種皮(甘皮)、そして胚乳、胚芽の順に形成され、でんぷんを多く含有する胚乳は種皮(甘皮)に覆われている。外殼を脱穀しただけではこれら穀類においてでんぷんを多く含有する胚乳は露出しない。米においても、玄米はでんぷんを含有する胚乳を覆うぬか皮膜があり、胚乳のでんぷんが米麹の酵素の働きによって糖化発酵する妨げとなるので、甘酒の主原料として使用されることはなかった。米以外の穀類においては脱穀の後に種皮(甘皮)を取り除くのは困難で糖化発酵するでんぷんを露出することができないので、甘酒の主原料として利用されてこなかった。
【0005】
近年、白米と米以外の穀類と一緒に加熱炊飯した雑穀ご飯や粥を原料としたものを雑穀甘酒としているものが見受けられるが、この雑穀甘酒に利用される米以外の穀類はその外殻を脱穀しただけのものである。この雑穀甘酒では米以外の穀類の胚乳は種皮(あまかわ)に覆われているため、その胚乳に多く含まれるでんぷんを主原料として糖化発酵しているとはいいがたい。この雑穀甘酒は主に白米のでんぷんが糖化発酵しているのであり、米以外の穀類の食感と風味が付加されているものの、米以外の穀類のでんぷんを主原料とした甘酒とは言いがたい。
【0006】
米麹の酵素の働きによる糖化発酵は生のでんぷんでは起こりにくいので、白米を原料とした甘酒は白米を粥もしくは米飯に炊飯加工して白米の胚乳に多く含まれるでんぷんをアルファー化する。白米の米粒の形状では熱が通りにくいので、胚乳全体をアルファー化するのに時間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、でんぷんを主原料とする飲料を製造するのに当たり、でんぷんを含有する固形食材を微粉末に製粉、または粉砕粒化、またはペースト状に加工する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、でんぷんを含有する固形食材を微粉末に製粉、または粉砕粒化、またはペースト状に加工しているので、玄米や、米以外の麦や蕎麦や粟、稗、トウモロコシ、アマランサスといった穀類のでんぷんや、栗や栃の木、樫の木、ブナなどの被子植物の種子のでんぷん、またサツマイモやジャガイモ、カボチャ、レンコン、片栗といった作物のでんぷんを主原料とした飲料を造ることが可能となるので、それら穀類や被子植物の種子、作物が持つ固有の成分の摂取と風味を単独で味わうことができる新規の飲料を造ることができる。また、それら穀類や被子植物の種子、作物のでんぷんを混合しその混合したでんぷんを主原料として糖化発酵した飲料を造ることが可能となるので、それら混合した穀類や被子植物の種子、作物の成分の摂取と風味を味わうことができる新規の飲料を造ることができる。
【0009】
米麹の酵素の働きによる糖化発酵は生のでんぷんでは起こりにくいので、糖化発酵しやすくするためにでんぷんをアルファー化する。本発明によると、でんぷんを含有する固形食材を微粉末に製粉、または粉砕粒化、またはペースト状に加工しているので、その固形食材のでんぷんをアルファー化するための加熱時間が従来よりも短くなり、でんぷんをアルファー化するために要するエネルギーを従来よりも少なくすることができるので、でんぷんを主原料とした飲料の製造コストを安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のでんぷんを主原料とする飲料の製造工程を説明する図である。
【図2】ソバの実の断面図である。
【図3】ソバの実の一般的な成分組成表である。
【図4】穀類の一般的な成分組成表である。
【図5】甘酒の製造工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
本発明のでんぷんを主原料とする飲料の製造工程は、でんぷんを含有する固形食材を原料(1)として、最初に、微粉末に製粉(2)、または粉砕粒化(3)、またはペースト状に加工(ペースト化(4))する。次に適量の加水を行い撹拌する(5)。次に、70℃以上に加熱しながら撹拌し(6)、原料(1)のでんぷん成分をアルファー化する。次にそのでんぷん成分がアルファー化した原料を60℃以下に温度を下げて(7)米麹を投入し撹拌する(8)。次にその米麹を加えたものを5時間以上の間、50℃〜60℃の温度にほぼ一定に保つ(9)。以上の工程によって、原料(1)のでんぷんを含有する固形食材のでんぷんは米麹の酵素の働きにより糖化発酵し、従来作られていなかった固形食材のでんぷんを主原料とする飲料が完成する。
【0012】
原料(1)として穀類のソバの実を採用した場合について説明する。
ソバの実の断面図を第2図に示す。またソバの実の一般的な成分組成を第3図に表にして示す。表中の「糖質」が「でんぷん」である。
第3図に示すようにソバはたんぱく質が12〜16%、油分2〜3%、灰分1.8〜2.9%、繊維分0.7〜1.4%、でんぷん主体の糖質が70%近く含まれる。
【0013】
ソバの実の構造は図2に示したようになっており、外側から殻(果皮)(10)、種皮(11)、胚乳(12)、胚芽(13)の順でできている。食するに当たって殻(10)は取り除かれる(脱穀)。殻(10)の下には薄い種皮(11)に包まれた胚乳(12)と胚芽(13)があり、胚乳(12)はでんぷんを多く含有する。
【0014】
ソバの実を原料として甘酒を作るときに米麹の酵素の働きによって糖化発酵するでんぷんは胚乳(12)に多く含まれるでんぷんである。この胚乳(12)のでんぷんに米麹が持つ酵素が触れなければ糖化発酵が成されない。ソバの実の胚乳(12)を露出させることができればソバの実を原料とした甘酒を作ることが可能なのは明白である。
【0015】
脱穀したソバの実の形状のままでは種皮(11)がでんぷんを多く含有する胚乳(12)を包んでいるため、種皮(11)を取り除かなければならないが困難である。そこで、種皮(11)を取り除くことなくソバの実を砕くことで胚乳(12)に多く含まれるでんぷん成分を露出させる。このようにすることでソバの実の胚乳(12)に多く含まれるでんぷん成分が米麹の酵素に触れるようになるので、ソバの実を原料とする甘酒を作ることができる。
【0016】
ソバの実の胚乳(12)に多く含まれるでんぷん成分を露出させる手段はソバの実を粉砕すること以外に微粉末に製粉しても成されるのは明らかである。微粉末に製粉されたそば粉は70%程度のでんぷんを含んでいる。
【0017】
以上のように粉砕または製粉されたそば粉に適量の水を加え撹拌しながら過熱する。粉砕または製粉されたそば粉は火のとおりも早いので、わずかな加熱時間で胚乳(12)に多く含まれるでんぷんをアルファー化することができる。
【0018】
麹菌は70℃で30分放置すると死滅するので、でんぷんがアルファー化した原料に米麹を加えるに当たり、温度を60℃以下に下げなければならない。温度が60℃以下になったことを確認し、米麹を投入し撹拌して50〜60℃の温度に5時間放置することでアルファー化したでんぷんが米麹の酵素の働きによって糖化発酵し、甘酒が完成する。
【0019】
そば粉を甘酒の原料とするときの具体的な分量は、おおむね、そば粉70g、水1L、米麹150gである。
【0020】
完成した甘酒には米麹の米粒が残留するため、ろ過して米粒状の米麹の残渣を除去すると、固形物がない口当たりの良い甘酒とすることができる。
【0021】
ソバに限らず、米や麦、粟、稗、トウモロコシ、アマランサスといった穀類も多くのでんぷんをその胚乳部分に含有する。代表的な穀類の成分組成を図4に表にして示す。表中の「糖質」が「でんぷん」である。表中にあるように、穀類は70%程度のでんぷんを含有しているので、甘酒の原料に適しているが、そのでんぷんを多く含有している胚乳は硬く甘皮に包まれているので、脱穀しただけではその胚乳に多く含まれるでんぷんは米麹の酵素と反応することは困難である。
【0022】
しかしながら、これらの穀類を原料にした場合も、粉砕や製粉することで胚乳部分に多く含まれるでんぷんを容易に露出することができるので、効率良くそれらでんぷんをアルファー化し糖化発酵するようにすることができる。
【0023】
栗、栃の木、樫の木、ブナ等の被子植物の種子は、その胚乳部分は硬い外殻ならびに甘皮に覆われ、かつ、でんぷんを含有する胚乳部分は硬く大きな塊となっている。そのままでは甘酒の原料とすることはできないので、粉砕粒化する。そのことによりこれら被子植物の種子の胚乳部分が露出し、その胚乳部分に多く含まれるでんぷんがアルファー化しやすくなりそのでんぷんが糖化発酵しやすくなるのは明らかである。ちなみに栗の種子は約40%のでんぷんを含有する。
【0024】
サツマイモ、ジャガイモ、カボチャ、レンコン、片栗等の作物はそれぞれ特有の形状の固形物として収穫される。これら作物の主成分はでんぷんであるが、外皮に覆われていると甘酒の原料とすることはできないので、粉砕粒化する。そのことによりこれら作物のでんぷんがアルファー化しやすくなり糖化発酵しやすくなるのは明らかである。ちなみにサツマイモは約30%のでんぷんを含有する。
【0025】
このように、でんぷんを含有する穀類、被子植物の種子、固形物として収穫される作物はそのでんぷんが露出していないために、今まで甘酒の原料として使われていなかったが、それぞれのでんぷんを含有する主要部分を微粉末に製粉または粉砕粒化、またはペースト状に加工し露出させることによってその固体に含有されるでんぷんが米麹の酵素と反応し糖化発酵することが可能となる。
【0026】
でんぷんを含有する穀類、被子植物の種子、固形物として収穫される作物のそれぞれのでんぷんを含有する主要部分を露出させる手段は、それぞれの食物の特性に合わせた方法で良く、特に特定する必要はない。
【0027】
たとえば、でんぷんの組成を壊さないように加熱しその後にすりつぶすことでも、でんぷんを含有する固形食材を微粉末や粉砕粒化、またはペースト状に加工することはできる。栗やジャガイモやカボチャは蒸したり、茹でたりした後でペースト状に加工することができる。このような場合、でんぷんがアルファー化するほどの熱を与えられておれば、適量の加水をして米麹を投入して撹拌し、50℃〜60℃の温度にほぼ一定に5時間以上保つことで甘酒が造られる。
【0028】
またジャガイモのような水分を多く含む固形食材においては、加熱せずにすりおろすことででんぷん成分を含有するペーストができる。またそのペースト状のものを乾燥させることででんぷん成分を含有する粉末にすることができる。
【0029】
微粉末にする、粉砕粒化する、ペースト状にすることでそれぞれの固形食物のでんぷんを露出することができれば、米麹の酵素と反応しでんぷんは糖化発酵する。したがって、甘酒の原料にしたでんぷんを含有する固形食材固有の成分と風味を摂取することができる甘酒を造ることができる。
【0030】
また、微粉末にする、粉砕粒化する、ペースト状にすることで多様な固形食材から得られるでんぷんを混合することができるので、この多様な固形食材からなるでんぷんを一度に甘酒の原料とすることが可能となるので、多様な固形食材からなる多様な栄養素を一度に摂取することが可能な甘酒を造ることができる。
【0031】
でんぷんが米麹の酵素の働きによって糖化発酵しやすくなるように、でんぷんを加熱しアルファー化しなければならない。食材が固形のときに比べて微粉末や粉砕粒化、ペースト状になったでんぷんは明らかにわずかの熱量でアルファー化することができるので、そのでんぷんをアルファー化するのに費やすエネルギー量は食材が固形のときに比べて少なくなる。したがって、本発明による甘酒を作る製造方法は従来の製造方法よりも安価に甘酒を造ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
でんぷんを含有する固形食材を微粉末に製粉または粉砕粒化、またはペースト状に加工し、前記加工物と麹菌とを混ぜ合わせたでんぷんを主原料とする飲料の製造方法。
【請求項2】
でんぷんを含有する固形食材を微粉末に製粉または粉砕粒化、またはペースト状に加工して適量の水を加えて溶液を作り、その溶液を70℃以上に加熱しながら撹拌し、その後前記溶液を60℃以下に冷却して米麹を加えることを特徴とする請求項1記載の飲料の製造方法。
【請求項3】
請求項1、請求項2記載のでんぷんを含有する固形食材は米、麦、蕎麦、粟、稗、トウモロコシ、アマランス等のいわゆる穀類の実とすることを特徴とする請求項1、請求項2記載の飲料の製造方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2記載のでんぷんを含有する固形食材は栗、栃の木、樫の木、ブナ等の被子植物の種子とすることを特徴とする請求項1、請求項2記載の飲料の製造方法。
【請求項5】
請求項1、請求項2記載のでんぷんを含有する固形食材はサツマイモ、ジャガイモ、カボチャ、レンコン、片栗等の作物とすることを特徴とする請求項1、請求項2記載の飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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