説明

なだれ粒子検出器の増倍ギャップを製作する方法

【解決手段】本発明は、2つの平行電極が誘電体スペーサ要素によって間隔を置いて配置された、なだれ粒子検出器の増倍ギャップを製作するための改良された方法に関する。2つの互いに平行な金属電極に挟まれた誘電材料からなるバルク層を含む箔が用意され、金属層の1つにフォトリソグラフィによって孔が形成される。次いで、金属層の1つに形成された孔を通して、バルク材料の注意深く制御されたエッチングにより、バルク層内に増倍ギャップが形成される。本発明は簡単化された製作プロセスを提供するだけでなく、空間分解能およびエネルギー分解能が向上された検出器をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの薄い金属層の間に挟まれた誘電体層をエッチングすることによってなだれ粒子検出器の増倍ギャップを製作するための新規な技法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子検出器は、放射線または粒子を検出、追跡、および/または識別するための装置であり、粒子物理学、生物学、および医学技術の全体にわたる広い用途がある。
【0003】
マイクロメガス検出器は、ガスを含む平行板なだれ検出器であり、電離入射粒子は、微細メッシュのカソード板と電荷収集アノード板の間の強い電界内でイオン−電子対のカスケードを生じる。
【0004】
マイクロメガス検出器は、刊行物のY.Giomataris,P.Rebourgeard,J.P.Robert,G.Charpak,「MICROMEGAS:a high−granularity position−sensitive gaseous detector for high particle−flux environments」,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 376,1996年,p.29−35、および関連する欧州特許第0855086B1号明細書、欧州特許第0872874B1号明細書、国際公開00/30150号パンフレットにより知られており、欧州特許第0872874B1号明細書から引用した図1aに関連して次に簡単に述べる。
【0005】
マイクロメガス検出器は、適当なガス混合物で満たされ、電離入射粒子がイオン−電子対を生成する低電界変換ギャップ(またはドリフト・ギャップ)と、発生された電子がドリフトし、読み出され分析される最終電子電荷を生じる、隣接する高電界増倍ギャップとを備える。収集された電子電荷は、電荷、エネルギー、運動量、移動の方向、および入射粒子の他の属性を示すことができる。
【0006】
マイクロメガス検出器は、たとえばアルゴンとメタンの混合物などの適当なガスを循環する手段が設けられた、ガスチャンバ2を備える。検出器はさらに、第1、第2、および第3の、その順序でガスチャンバ2内に配置され互いに平行に保たれた平面電極8、6、および4を備え、第1の電極8と第2の電極6は増倍ギャップを画定し、第2の電極6と第3の電極4は変換ギャップを画定する。検出器のアノードとなる第1の電極8は、電気絶縁性キャリア基板16上に平行に配置された複数の基本電極14を備えることができる。図1aに示される例では、基本電極14は、電気絶縁性基板16上に規則的な間隔で平行に配置された導電性ストリップからなる。アノードはまた、キャリア基板16の他方の面上に、かつストリップ14と直角に形成された別の1組の平行な導電性ストリップを備えることができる。ストリップ14内に発生された電気パルスが、基板16の他方の面上の直角なストリップの組に誘起されるように、ストリップ14の間には十分な距離が設けられる。マイクロメガス検出器の他の実施形態ではアノード8の基本電極は、基板16上の2次元の格子じま状のネットワークを形成する薄い導電性素子を備えることができる。他の代替のアノードパターンについては以下で述べる。
【0007】
第1の電極8の基本電極14は、基本電極14上で収集された電荷を抽出するように適応された読み出し手段(図示せず)に接続される。読み出し手段は、それ自体を増幅器、および検出器によって収集されたデータを解析するためのデータ取得手段(図示せず)に接続することができる。
【0008】
第2の電極6は、検出器のカソードとして働き、小さな直径の複数の孔18を有する導電性の板からなる。したがってカソード6は格子を形成し、これはその孔18の大きさが小さいことから「微細格子」または「微細メッシュ」と呼ばれることがある。
【0009】
第1の電極8と第2の電極6の間の距離Dは、通常は25から200μmの範囲内である。第2の電極6と第3の電極4の間の距離はずっと長く約3mmに達し得る。第3の電極4の構造は本発明とは直接的に関連せず、たとえば第3の電極4は、第2の電極6の構造と同様な構造を有する格子からなるものとすることができる。
【0010】
マイクロメガス検出器はさらに、第1の電極8の基本電極14を第1の電位に、カソード6を第1の電位より低い第2の電位に、第3の電極4を第2の電位よりさらに低い第3の電位に上昇させる極性形成手段を備える。したがって、第2の電極6と第3の電極4の間の変換ギャップ内に第1の電界が発生され、第1の電極8と第2の電極6の間の増倍ギャップ内に第2の電界が発生される。電圧は増倍ギャップ内に発生される電界が、変換ギャップ内に発生される電界よりもずっと強く、たとえば10倍より強くなるように選ばれる。例として変換ギャップ内に発生される電界の大きさは1kV/cmまでの大きさとすることができ、増倍ギャップ内に発生される電界は40から150kV/cmに選ぶことができる。
【0011】
電離粒子がガスチャンバ2を通過するときは、電離粒子は第2の電極6と第3の電極4の間の変換ギャップ内にあるガスを電離し、そのギャップ内に通常は約10個の一次電子を生成する。図1では入射電離粒子の経路が参照番号12で示され、変換ギャップ内で発生された一次電子の1つの経路が参照番号27で示される。一次電子はカソード6内の孔18を通過し、次いでアノード8に向かって移動する。カソード6を横切るのは、増倍ギャップ内に生成された電界と変換ギャップ内に生成された電界との高い比率によって促進される。カソード6を通過した後に一次電子は、増倍ギャップ内に存在する強い電界によって加速され、増倍ギャップ内部にあるガス分子と衝突したときに二次電子を生じる。次いで二次電子のそれぞれは、それ自体が同じ衝突電離過程によってさらに電子を生じ、以下同様となり、それにより増倍ギャップ内部に電子のなだれが発生される。一次電子に関連する、その経路27に沿ったなだれは参照番号28で示される。
【0012】
衝突電離過程によって生成された正イオンは、カソード6に向かって引き寄せられ、電子は基本アノード14上で収集される。このようにして基本アノード14上で収集された電荷は、次いで読み出され、入射粒子12の属性を推定するために分析される。狭い増倍ギャップと、アノード8とカソード6の間の強い電界との組み合わせにより、マイクロメガス検出器の高い空間分解能と、高い増倍率および迅速な回復時間とが確保される。
【0013】
図1bは、カソード6とアノード・ストリップ14の間の増倍ギャップをさらに詳しく示す。アノード・ストリップ14に向かって伝播する電子なだれ28は図1bでは陰が付けられた三角形によって表され、ドリフト・ギャップおよび増倍ギャップ内の電気力線はそれぞれ点線によって表される。増倍ギャップ内での電気力線の密度の著しい増加は、増倍ギャップ内に生成される電界とドリフト・ギャップ内に生成される電界との高い電界比を示している。
【0014】
欧州特許第0872874B1号明細書、および国際公開00/30150号パンフレットに詳細に述べられている従来の製作技法では、マイクロメガス検出器増倍ギャップは、円筒形の柱状体からなるものとすることができる適当な絶縁スペーサを、光抵抗性膜の従来のリソグラフィによりアノード板の上に印刷し、次いでフレーム上に金属メッシュを延伸し接着し、それをスペーサの上に置くことによって得られる。このようにしてカソード6は、アノード・ストリップまたはパッドの上にメッシュを吊すことによって形成され、スペーサはカソード6とアノード8の間に一定の距離を確保する働きをする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第0855086B1号明細書
【特許文献2】欧州特許第0872874B1号明細書
【特許文献3】国際公開00/30150号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Y.Giomataris,P.Rebourgeard,J.P.Robert,G.Charpak,「MICROMEGAS:a high−granularity position−sensitive gaseous detector for high particle−flux environments」,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 376,1996年,p.29−35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、なだれ粒子検出器の増倍ギャップを形成するための改良された方法を対象とする。最初にアノード板を生成し、次いで前記アノード板上にスペーサ要素を形成し、最後に前記スペーサ要素上にメッシュを吊す代わりに、本発明によれば検出器はまた、バルク構造体を用意することによって単一のプロセスにて作製することができ、バルク構造体では始めにアノード板、誘電材料、およびカソード板が単一の物体を形成し、次いでメッシュおよびスペーサ要素が選択的エッチングによって形成される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一般には本発明は、2つの平行電極が誘電体スペーサ要素によって間隔を置いて配置された、なだれ粒子検出器の増倍ギャップを製作する方法に関し、該方法は、第1の電極層と、前記第1の電極層上の誘電材料を備えるバルク層と、前記バルク層上の前記第1の電極層と平行な第2の電極層とを含む箔を形成するステップを含み、前記第2の電極層は、それを貫通して拡がる複数の孔を備える。本発明による方法はさらに、エッチングにより、前記第2の電極層内の前記複数の孔に対応して、前記バルク層内に複数のギャップを形成するステップを含み、前記ギャップは、前記バルク層をその垂直方向に貫通して、前記第1の電極層まで延び、その水平方向には前記第2の電極層と平行に延び、それにより前記第2の電極層は前記ギャップによって少なくとも部分的に下が削り取られる。
【0019】
検出器の増倍ギャップをいくつかの異なる構成要素から構成する代わりに、増倍ギャップを材料の単一の個片から形成することにより、製造プロセスの精度を著しく向上することができる。具体的には検出器のアノードとカソードがほとんど完全に互いに平行となることが保証され、したがって検出器装置の空間分解能およびエネルギー分解能が向上する。さらに本発明による方法は、柔軟性のある検出器構造体をもたらし、かつ、容易なメッシュ区分化を可能とする。
【0020】
本発明による方法はさらに、孔を形成するステップを含み、前記第2の電極層内の前記複数の孔はフォトリソグラフィによって形成される。フォトリソグラフィは、前記第2の電極層内の正確に規定された位置に、正確に指定された直径を有する孔を生成するための都合のよい柔軟な手段となる。
【0021】
図1aおよび1bを参照して上述したように、互いに絶縁された複数の基本電極を前記第1の電極層内に形成することができる。このような基本電極は、複数の導電性平行ストリップ、および/または複数の導電性パッドを備えることができる。
【0022】
第1の電極層および第2の電極層は銅を含むことが好ましい。
【0023】
バルク層は、ポリイミド、ガラス、またはセラミックの1つを含むことができ、25μmから50μmの間の幅で形成することができる。上述のように、薄い増倍ギャップを形成することによって検出の空間分解能を著しく向上することができる。第1の電極層と第2の電極層の間に一定の距離を確保することによって検出器のエネルギー分解能を大幅に改良することができる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、バルク層内のギャップは液相エッチングによって形成され、好ましくはエチレンジアミンおよび水酸化カリウムの水溶液がプロセス内で用いられる。別法としてバルク層内のギャップは、プラズマ・エッチングによって形成することもできる。
【0025】
さらに、前記複数のギャップを形成するステップはまた、始めに第1のエッチングにより、垂直方向に前記第2の電極層内の前記孔の下にある前記バルク層内に円筒形の開口を形成し、次いで第2のエッチングにより、前記第1の電極層に平行な方向に前記円筒形の開口から横向きにエッチングするステップを含むことができる。
【0026】
好ましい実施形態では、前記第2の電極層を貫通して延びる前記複数の孔は、等距離の位置に形成され、それにより前記孔を通したエッチングによって形成されるギャップも、前記バルク層内に等距離の位置に形成される。孔は等しい直径を有するように形成することができ、任意の2つの隣接する孔の間の距離は、前記複数の孔の直径の2倍とすることができる。たとえば孔は直径が30μmの円形とすることができ、任意の2つの隣接する孔は60μmのピッチで隔てることができる。
【0027】
好ましくはバルク材料のスペーサ要素は、エッチング・プロセスによって2つの隣接するギャップの間に形成される。具体的には任意の2つの隣接するギャップは、1つのスペーサ要素によって隔てられるようにすることができる。これは、化学薬品浴の組成および温度などのエッチング・プロセスのパラメータを適切に調整することによって達成することができる。隣接する孔の間にスペーサ要素が残されるようにエッチング・プロセスを行うことにより、2つの平行電極の間に増倍ギャップを有する、良く知られたマイクロメガス構造体を得ることができる。
【0028】
任意の2つの隣接するギャップがスペーサ要素によって隔てられた場合は、第1の電極層および第2の電極層が完全に平行となる、非常に均質な構造体を達成することができ、したがってエネルギー分解能は大幅に高くなる。
【0029】
別法として前記第2の電極層内の隣接する孔は、変化する相互距離にて形成することができる。具体的には、隣接する孔は、第1の距離、または前記第1の距離より大きな第2の距離を有することができ、前記第1の距離での隣接する孔から形成されたギャップの間では、隣接するギャップの間のバルク材料は完全に除去され、前記第2の距離での隣接する孔から形成されたギャップの間ではエッチングによりバルク材料のスペーサ要素は残されるように、エッチングを行うことができる。やはりこれもエッチング・パラメータを適切に調整することにより、例としてエッチング・プロセスで用いられる化学薬品浴の温度および組成を調整することにより達成することができる。結果としての構造体は上述のものと同様であるが、比較的に少ないスペーサ要素、およびより大きなギャップを有する。したがって増倍ギャップ内の自由空間と、支持バルク材料の比は増加する。したがってカソードとアノードの間の電界の一様性は増加し、放電の危険性は著しく低減される。
【0030】
カソードを支持するスペーサ要素は、基本電極と第2の電極層の間に延びるように配置することができる。別法としてスペーサ要素は、前記基本電極を分離する絶縁材料と、前記第2の電極層との間に延びるようにすることができる。
【0031】
本発明によれば、スペーサ要素は柱状体を備えることができ、前記柱状体は砂時計形の柱状体とすることができる。
【0032】
本発明による方法は、添付の図の説明から、最も良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】上述の従来技術のマイクロメガス検出器の概略斜視図である。
【図1b】上述の従来技術のマイクロメガス検出器の概略斜視図である。
【図2a】本発明による方法の第1の実施形態を示すマイクロメガス検出器の概略側面図である。
【図2b】本発明による方法の第1の実施形態を示すマイクロメガス検出器の概略側面図である。
【図2c】本発明による方法の第1の実施形態を示すマイクロメガス検出器の概略側面図である。
【図3a】本発明による方法の第2の実施形態を示すマイクロメガス検出器の概略側面図である。
【図3b】本発明による方法の第2の実施形態を示すマイクロメガス検出器の概略側面図である。
【図3c】本発明による方法の第2の実施形態を示すマイクロメガス検出器の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上記では図1aおよび図1bを参照してマイクロメガス検出器の構造および動作について述べた。本発明は選択的エッチングによりアノード8とカソード6の間に増倍ギャップを形成するための改良された方法に関し、図2aから2cを参照して以下に述べる。さらに以下に、図3aから3cを参照して代替実施形態について述べる。
【0035】
図2aは、本発明の方法により増倍ギャップを製作するために用いられる箔の概略側面図である。箔はキャリア基板16上に形成され、第1の電極層30と、前記第1の電極層30上に形成されたバルク層32と、前記第1の電極層30と平行に、前記バルク層32上に形成された第2の電極層34とからなる。第1の電極層30は、複数の銅ストリップを備え、銅ストリップはキャリア基板16上に互いに平行に延び、増倍過程において発生される電子を収集するための基本電極として働く。図2aの図面は、このような基本電極の断面である。
【0036】
図2aに示す実施形態では、基本電極は、およそ5μmの幅の銅ストリップからなる。基本電極を形成するためには、他の幅での他の金属も同様に使用することができる。代替実施形態では基本電極は、任意の所望の形状にて作製することができるパッドを備え、小さな金属メッキされた孔を通してキャリア基板16の他方の側上の導電性材料に接続することができる。このような2次元読み出しの変形は、参照により本開示に組み込まれる、A.Bressanら,「Two−dimensional readout of GEM detectors」,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A425,1999年,p.254−261のセクション5に述べられている。別法として個々のパッドは、所望の形状にて第1の電極層内に製造することができ、隣接するパッドの間の相互接続なしで読み出し手段に個々に接続することができる。個々の読み出しは、著しく高い空間およびエネルギー分解能となるが、読み出し手段に非常に高密度の電子回路を必要とする。読み出し層は、箔を用意する時点で、またはその後に、従来のプリント回路基板技術により製造することができる。
【0037】
前記第1の電極層30上に形成されるバルク層32は、誘電材料、たとえば幅が25から50μmの間の薄いポリイミド膜からなる。このようなポリイミド膜は、デュポン社からカプトンの名称で市販されている。別法としてバルク層32は、ガラス、セラミック、またはFR4(flame−retardant4の略称で、プリント回路基板の作製に通常用いられる材料)などの他の誘電材料から形成することもできる。Sheldahl社から市販されているG2300ポリイミド箔を用いて良好な結果が得られているが、同様の製品を用いることもできる。
【0038】
前記バルク層32上に形成された第2の電極層34は、幅が約5μmの銅の薄い箔からなる。第2の電極層34を形成するのに、銅以外の金属も同様に用いることができる。
【0039】
第2の電極層34内に孔18を形成するためには、標準のフォトリソグラフィを用いることができる。第2の電極層34の表面上に薄い光抵抗性の膜を形成することにより、決められた位置および決められた直径の孔を有する所望の表面構造に対応するマスクが生成され、このマスクを形成すべき孔のパターンに従って紫外光に露出し、その後にそれを現像して、用いたフォトレジストのタイプに応じてその露出された部分または露出されていない部分を除去する。その後に、フォトレジストによって保護されない領域内の銅が除去され、所望のパターンの薄いメッシュを生じる。図2bは、前記第2の電極層34内に等距離の位置に形成された円形の孔18を有する、結果としての構造体を示す。分かりやすくするために、孔の1つだけを参照番号で示す。すべての孔18は約30μmの等しい直径を有し、任意の2つの隣接する孔の間の距離は、前記孔18の直径のおよそ2倍である。本発明は円形の孔に限定されない。原理的に孔は、矩形または正方形の孔を含む多様な形状にて製作することができる。しかし円形の孔を使用した電極は、非常に一様な電界および優れたエネルギー分解能をもたらすことが分かっており、したがって好ましい。
【0040】
後続のステップでは、バルク材料内にギャップ36を形成するために、孔18を通したエッチングによって孔18の下のバルク材料が除去される。ポリイミドのエッチングは、水酸化カリウムが加えられたエチレンジアミンの水溶液の静的槽(static bath)を用いて少なくとも25℃(好ましくは65〜70℃)の温度で行われる。65℃にて1リットル当たり少なくとも70gの水酸化カリウムが加えられた、1/3の水と2/3のエチレンジアミンを含んだ溶液を用いて良好な結果が得られる。同様なポリイミド・エッチング・プロセスは、米国特許出願公開第2005/0011856A1号明細書で、高密度プリント回路の製作の関連において述べられている。
【0041】
エッチングを用いて第2の電極層34は、バルク層32内のギャップ36によって部分的に下が削り取られ、それにより任意の2つの隣接するギャップの間に、バルク材料からなる砂時計形の柱状体が残される。結果としての構造体は図2cに示される。柱状体は、第1の電極層30と第2の電極層34を隔て、それらを一定の相互距離に保つスペーサ要素38として働く。エッチングによって柱状体の間に形成された複数のギャップ36は共にマイクロメガス検出器の増倍ギャップを形成する。
【0042】
図2aから2cを参照して述べた実施形態では、第2の電極層34内の孔18の位置は、柱状体38が基本電極14上に形成されるように選ばれる。別法として孔18の位置は、柱状体36が、基本電極を隔てる誘電材料上に形成されるように選ぶことができる。バルク層内で柱状体36が形成される位置は、基本電極14の形および構造に応じて選択される。例として柱状体は、厚さ50μmのポリマー箔の場合の100μmのピッチから、25μmの箔の場合の60μmのピッチまでを有する矩形パターンに形成することができる。この実施形態では、図2および3に示される断面図は、示される装置の一部分に対しては切り口は同じに見えるので、検出器のX方向およびY方向の切り口のいずれをも表し得る。
【0043】
マイクロメガス検出器の増倍ギャップを形成する方法の第2の実施形態は、図3aから3cに示される。この方法は、図2aから2cを参照して述べた前の実施形態の方法とは、主に第2の電極層34内の孔18が等距離の位置に形成されないという点で異なる。図3bに示されるように隣接する孔は、第1の距離d1、またはd1より大きな第2の距離d2だけ隔てられる。次いで前の実施形態に関連して述べたようにポリイミド・エッチングが行われるが、エッチング・パラメータは、小さな距離d1での孔に対応するギャップ36の間のバルク材料は完全に除去され、大きな距離d2だけ隔てられた孔から形成されたギャップ36の間のみにはバルク材料の柱状体38が残されるように選ばれる。図3cに示される結果としての構造体では柱状体38は、直径が約100μmで、約1mmの相互距離を有する。
【0044】
第2の実施形態による方法も結果として、第1の電極層30と第2の電極層34の間に増倍ギャップが形成される。しかし前の実施形態の結果の構造体と比較すると、第2の電極層34は、より少ないが、より太い柱状体38によって支持される。柱状体38の数が少ないことにより結果として、第1の電極層30と第2の電極層34の間の電界は、より一様となり、放電の可能性が低減される。
【0045】
本発明は、2つの薄い金属層の間に挟まれた誘電体層をエッチングすることによってなだれ粒子検出器の増倍ギャップを形成する方法を提供する。上記で詳しく述べたように本発明の方法は、マイクロメガス検出器を形成する従来の方法と比べて数多くの利点を有する。具体的には本発明は、高度の一様性を有する増倍構造体の短時間での製造を可能にし、優れた空間分解能およびエネルギー分解能となる。上記では本技法についてマイクロメガス検出器に関連して述べてきたが、当業者には同じ技法が、他のタイプの検出器または電子増倍装置の製造にも同様の利点を有して適用できることが明らかであろう。実際に本発明は、注意深く制御された距離にて誘電体スペーサ要素によって隔てられた2つの金属板の構造体が必要なときには常に有効である。
【0046】
上述の実施形態および添付の図は、単に本発明による方法を示すためのものであり、本方法に対するいかなる限定を示すものと解釈されるべきではない。本特許の範囲は、専ら添付の特許請求の範囲によって確定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの平行電極(6、8)が誘電体スペーサ要素によって間隔を置いて配置された、なだれ粒子検出器の増倍ギャップを製作する方法であって、
第1の電極層(30)と、前記第1の電極層(30)上の誘電材料を含むバルク層(32)と、前記バルク層(32)上の前記第1の電極層(30)と平行な第2の電極層(34)であって該第2の電極層(34)を貫通して拡がる複数の孔(18)を含む第2の電極層(34)と、を備える箔を形成するステップと、
エッチングにより、前記第2の電極層(34)内の前記複数の孔(18)に対応して、前記バルク層(32)内に複数のギャップ(36)を形成するステップと、
を備え、
前記ギャップ(36)は、前記バルク層(32)をその垂直方向に貫通して前記第1の電極層(30)まで延び、その水平方向には前記第2の電極層(34)と平行に延び、それにより前記第2の電極層(34)は前記ギャップ(36)によって少なくとも部分的に下が削り取られる、
方法。
【請求項2】
孔を形成するステップをさらに含み、前記第2の電極層(34)内の前記複数の孔(18)はフォトリソグラフィによって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の電極層(30)内に複数の基本電極(14)が形成され、
前記基本電極(14)は互いに絶縁される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記基本電極(14)が複数の導電性平行ストリップを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記バルク層(32)が、ポリイミド、ガラス、またはセラミックの1つを含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記バルク層(32)が25μmから50μmの間の幅にて形成される、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ギャップ(36)が液相エッチングによって形成される、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ギャップ(36)が、エチレンジアミンおよび水酸化カリウムの水溶液を用い、好ましくは65℃〜70℃の温度にてエッチングされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数のギャップ(36)を形成する前記ステップは、始めに第1のエッチングにより、前記第2の電極層(34)内の前記孔(18)の下にある前記バルク層(32)内に垂直方向に円筒形の開口を形成し、次いで第2のエッチングにより、前記第1の電極層(30)に平行な方向に前記円筒形の開口から横向きにエッチングするステップを含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記複数の孔(18)が前記第2の電極層(34)内に等距離の位置に形成される、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記複数の孔(18)は等しい直径を有するように形成され、
任意の2つの隣接する孔(18)の間の距離は、前記複数の孔(18)の直径の1.5倍から2.5倍に選択される、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
バルク材料のスペーサ要素(38)が、前記エッチングによって2つの隣接するギャップ(36)の間に形成される、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第2の電極層(34)内の隣接する孔(18)は、変化する相互距離にて形成される、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記第2の電極層内の隣接する孔(18)は、第1の距離(d1)、または前記第1の距離(d1)よりも長い第2の距離(d2)にて形成され、前記第1の距離(d1)での隣接する孔(18)から形成されたギャップ(36)の間では、隣接するギャップ(36)の間のバルク材料はエッチングによって完全に除去され、前記第2の距離(d2)での隣接する孔(18)から形成されたギャップ(36)の間では、バルク材料のスペーサ要素(38)はエッチングによって残される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記スペーサ要素(38)が砂時計形の柱状体を備える、請求項12乃至14のいずれかに記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公表番号】特表2013−509672(P2013−509672A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535644(P2012−535644)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005729
【国際公開番号】WO2011/050884
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(501008912)
【氏名又は名称原語表記】European Organization for Nuclear Research
【住所又は居所原語表記】Geneva 23,Switzerland
【出願人】(512112426)
【氏名又は名称原語表記】CEA
【Fターム(参考)】