説明

ねじ部品締結機

【課題】歯付きクラッチによる伝達系の切り替えを円滑に行うことができるねじ部品締結機を提供する。
【解決手段】本発明のねじ部品締結機1は、ドライバビットを先端に有する出力軸11と、モータ3に連結して高速低トルク駆動を出力軸11へ伝達する高速低トルク伝達系と、モータ3に減速機12を介して連結して低速高トルク駆動を出力軸11へ伝達する低速高トルク伝達系と、歯部141a,142aが形成された入力部141および出力部142を有し、これらに前記伝達系をそれぞれ連結して歯部141a,142aの噛合いによって伝達系を切り替え可能に構成された歯付きクラッチ14と、この歯付きクラッチ14を回転自在に支持するクロスローラベアリング10a,10bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ部品を高速低トルクで仮締めした後、低速高トルクで本締めするねじ部品締結機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上記技術分野に属するねじ締め機としては、特許文献1に示すものがある。このねじ締め機は、高速低トルク駆動用モータによる高速低トルク伝達系と、低速高トルク駆動用モータによる低速高トルク伝達系とを成しており、これら伝達系を歯付きクラッチで切り替えて、ねじ部品を締め付けるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−006560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ねじ締め機では、ねじ締め付け過程で各伝達系にはラジアル荷重が作用するため、歯付きクラッチの噛み合いが阻害され、伝達系の切り替えに不具合が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑みて本発明のねじ部品締結機は、ねじ部品の頭部に係合するドライバビットを先端に有する出力軸と、回転駆動源に連結して高速低トルク駆動を出力軸へ伝達する高速低トルク伝達系と、回転駆動源に減速手段を介して連結して低速高トルク駆動を出力軸へ伝達する低速高トルク伝達系と、歯部が形成された入力部および出力部を有し、これら入力部および出力部に前記伝達系をそれぞれ連結して当該歯部の噛合いによって伝達系を切り替え可能に構成された歯付きクラッチと、この歯付きクラッチの入力部および出力部を回転自在に支持するクロスローラベアリングとを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明のねじ部品締結機によれば、歯付きクラッチが、高剛性のクロスローラベアリングによって支持されているので、伝達系の切り替え時に、当該クラッチ手段の噛み合いが、出力軸あるいは伝達系に作用するラジアル荷重によって阻害されない。そのため、伝達系が確実に切り替えられ、伝達系の切り替え不具合によるねじ部品の締め付け不良が発生しなくなる。しかも、クロスローラベアリングは1個で2個の円筒ころ軸受けを配置したものと同等の剛性を得られるので、部品点数が少なくなり、小型のねじ部品締結機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のねじ部品締結機を示す断面図である。
【図2】高速低トルク伝達系に薄塗りを施した図である。
【図3】低速高トルク伝達系に薄塗りを施した図である。
【図4】本発明のねじ部品締結機の駆動制御を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1において、1はねじ、ボルト、ナットなどのねじ部品を締結または緩めるためのねじ部品締結機であり、ケース2に取付けられた回転駆動源の一例であるACサーボモータ3(以下、単にモータ3という)を有している。このモータ3にはレゾルバ3bが組み付けられており、当該モータ3の駆動軸3aの回転角を検出可能に構成されている。
【0009】
前記モータ3の駆動軸3aには主動歯付きプーリ4(以下、単に主動プーリ4という)が一体に回転可能に連結されている。このモータ3の横位置には、駆動軸3aと軸線平行方向に延びて中空円筒状の第1入力軸5が回転可能に支持して設けられており、この第1入力軸5には、その上部に従動歯付きプーリ6(以下、単に従動プーリ6という)が一体に連結されている。この従動プーリ6と前記主動プーリ4とには、無端の歯付きベルト7が巻回されて噛合しており、モータ3の駆動を第1入力軸5に伝達できるよう構成されている。また、従動プーリ6の上部には、クラッチ手段の一例として電磁クラッチ8が設けられており、この電磁クラッチ8には前記第1入力軸5を挿通し、かつ第1入力軸5に対して回転可能に設けられた中実の第2入力軸9が連結されている。前記主動プーリ4と従動プーリ6との歯数が異なり、減速比は1/2.4である。これは、出力トルクの低いモータであっても十分なトルクを得るべく予備的に設定されたものであり、同一の歯数にして増減速しない構成でも何ら問題ない。
【0010】
前記電磁クラッチ8は、従動プーリ6に一体に回転可能に連結された入力部81と、第2入力軸9に一体に回転可能に連結された出力部82と、コイル部83とを有している。コイル部83は通電により電磁石となり、これにより出力軸82に入力部81を磁力結合させることが可能に構成されている。常時は、コイル部83に通電がなされず、入力部81と出力部82とが分離して第2入力軸9にモータの駆動を伝達できない状態にあるが、コイル部83に通電されて入力部81と出力部82とが結合すると、第2入力軸9にモータ3の駆動を伝達可能な状態となる。
【0011】
前記第2入力軸9は、第1入力軸5内を挿通して延び、その先端には出力軸11が連結されている。この出力軸11は、第2入力軸9に連結された伝達軸部111と、この伝達軸部111先端のスプライン穴部111aにスプライン軸部112aを挿入・噛合させることによって伝達軸部111と一体に回転可能に連結された本体軸部112とから構成されている。この出力軸11の本体軸部112先端には、ねじ部品の頭部に係合してこれに回転伝達を行うためのドライバビット、ソケット等のねじ締め工具(図示せず)が直接又は各種継ぎ手を介して連結されている。
【0012】
また、前記第1入力軸5の先端は、減速機12に連結されている。この減速機12は、一般にハーモニックドライブ(登録商標)として知られるものであり、第1入力軸5は、これらのウェーブジェネレータ121に連結されている。この減速機12は、サーキュラスプライン122を本ねじ部品締結機1のケース2に固定し、ウェーブジェネレータ121によって入力された回転をフレクスプライン123により減速・逆転させて出力する、いわゆるハーモニックドライブ(登録商標)減速機としての一般的な使用構造を採用している。その減速比は、1/30である。
【0013】
前記減速機12のフレクスプライン123は、ケース2内に回転可能に配置されたカップリング13に連結されている。このカップリング13は、歯付きクラッチ14に連結されている。
【0014】
この歯付きクラッチ14は、前記カップリング13に一体に回転可能に連結された入力部141と、前記出力軸11の伝達軸111に一体に回転可能に連結された出力部142と、この出力部142と入力部141とを常時分離するように付勢する付勢手段(図示せず)と、ケース2に固定されたコイル部143とを有して成る電磁クラッチである。入力部141と出力部142とは、互いの対向面を環状の円盤面に成し、その周縁部に歯部141a,142aが形成された構成であり、前記コイル部143への通電で発生する電磁力により歯部141a,142aを噛合させて結合するように構成されている。この歯付きクラッチ14は、常時、コイル部143に通電がなされずに入力部141と出力部142とが分離しており、出力軸11に減速機12の出力回転を伝達不可能な状態となっているが、コイル部143に通電されて入力部141と出力部142とが結合すると、出力軸11に減速機12の出力回転を伝達可能な状態となる。
【0015】
また、前記カップリング13および前記伝達軸11は、それぞれクロスローラベアリング10a,10bによって回転自在に支持されている。すなわち、これらと一体に回転可能に連結されている前記歯付きクラッチ14の入力部141および出力部142は、公知のクロスローラベアリング10A,10Bによって回転自在に支持されている。
【0016】
前記クロスローラベアリング10a,10bは、剛性に優れているので、伝達系の切り替え時に、前記歯付きクラッチ14の噛み合いが、出力軸11あるいは各伝達系に作用するラジアル荷重によって阻害されない。そのため、伝達系が確実に切り替えられ、伝達系の切り替え不具合によるねじ部品の締め付け不良が発生しなくなる。しかも、クロスローラベアリング10a,10bは1個で2個の円筒ころ軸受けを配置したものと同等の剛性を得られるので、部品点数が少なくなり、小型のねじ部品締結機1を提供できる。
【0017】
前記ケース2の下部には中空円筒状の起歪体15が一体に連結されている。この起歪体15には、ブリッジ接続された歪みゲージ16が貼付されており、出力軸11に作用する回転負荷に応じて歪む起歪体15の歪み量に応じた電気信号をアナログ信号として検出するよう構成されている。これら起歪管15および歪みゲージ16によってトルク検出手段が構成されている。また、歪みゲージ16のリード線16aは回路基板16bに接続されおり、この回路基板16b上でアナログ信号がデジタル変換されてトルク検出部18fに出力されるよう構成されている。そして、このトルク検出部18fが内蔵のCPUで当該デジタル信号を受信して演算処理することにより、出力軸11に作用する回転負荷トルクを電気的に算出するよう構成されている。
【0018】
また、前記起歪体15の下部には、ねじ締めロボットのアーム(図示せず)や機台(図示せず)等に固定可能な取付フランジ17が一体に固定されている。
【0019】
18は制御ユニットであり、制御部18aと、この制御部18aからの指令を受けて前記モータ3を駆動制御するモータ駆動部18cと、前記レゾルバ3bに励磁電圧を印加しするとともに、その出力電圧から回転角度を割り出すレゾルバ駆動部18dと、制御部18aからの指令を受けて前記電磁クラッチ8を通電制御するクラッチ制御部18bと、同じく制御部18aからの指令を受けて前記歯付きクラッチ14を通電制御するクラッチ制御部18eと、モータ3の駆動制御に必要な各種プログラム・パラメータ等を記憶した記憶部18iと、各種情報の入力を行う操作部18gと、各種情報を表示する表示部18hとを備えて成る。
【0020】
本ねじ部品締結機1は、ねじ込み開始から着座までねじ部品を高速・低トルクで締め付ける仮締め工程、着座したねじ部品を締め付け完了まで低速・高トルクで締め付ける本締め工程を行う。
【0021】
仮締め工程では、制御ユニット18は各クラッチ制御部18b、18eを通電制御して電磁クラッチ8をON、ツースクラッチ14をOFFに設定する。これにより、駆動系が高速低トルク駆動伝達系に切り替えられる。この高速低トルク駆動伝達系は、図2に薄塗りを施した部位であり、主動プーリ4と、従動プーリ6と、電磁クラッチ8と、第2入力軸9と、出力軸11とから成る。この順でモータ3の回転駆動が減速機12を介することなく出力軸11へ伝達される。なお、仮締め工程では、従動プーリ6の回転に伴い、第1入力軸5およびこれに連結された減速機12も回転するが、前記ツースクラッチ14がOFFの状態では、回転駆動が出力軸11へ伝達されないように構成されている。
【0022】
一方、本締め工程では、制御ユニット18は前記電磁クラッチ8をOFF、歯付きクラッチ14をONに通電制御する。これにより、駆動系が高速低トルク伝達系から低速高トルク駆動伝達系へ切り替えられる。この低速高トルク伝達系は、図3に薄塗りを施した部位であり、主動プーリ4と、従動プーリ6と、第1入力軸5と、減速機12と、カップリング13と、歯付きクラッチ14と、出力軸11とから成り、この順でモータ3の回転駆動が減速機12を介して出力軸11へ伝達される。
【0023】
ところで、前記減速機12の一例であるハーモニックドライブは、前述のとおり、入力・出力が逆回転となる。したがって、低速高トルク伝達系による本締め工程では、制御ユニット18がモータ3を逆転駆動させることにより、出力軸11が正転方向に回転するように構成されている。
【0024】
図4は、本ねじ部品締結装置1の制御ユニット18による駆動制御を示すものであり、仮締め工程および本締め工程における出力軸11の回転数およびトルクを示すグラフである。なお、ねじ込み開始から着座までは仮締め工程、着座から締め付け完了までは本締め工程を示す。
【0025】
仮締め工程では、ねじ込み開始時、制御ユニット18は、出力軸11が最高回転数の2000rpmで回転するようモータ3を駆動制御する。そして、ねじ部品が所定の巻数までねじ込まれると、出力軸11の回転速度を所定の回転速度に減速するよう回転駆動源を制御する。
【0026】
具体的には、制御ユニット18の記憶部18iには、ねじ部品の巻数が予め設定されている。そして、レゾルバ駆動部18dで回転軸11の回転角を監視し、ねじ込み開始から着座までに要する巻数から2巻分を減じた位置、すなわち着座直前までねじ部品がねじ込まれると、出力軸11の回転数を減じるようモータ3を駆動制御する。減速時の出力軸11の回転数は400rpmに設定されている。
【0027】
続いて、仮締め工程において400rpmに減速後、残りの2巻分ねじ部品がねじ込まれて着座すると、その際衝撃トルクが生じる。この衝撃トルクを前記トルク検出手段が検出すると、制御ユニット18は各クラッチ制御部18b、18eを通電制御して電磁クラッチ8をOFF、歯付きクラッチ14をONに設定するとともに、前記ハーモニックドライブの特性上、モータ3を逆転駆動させる。これにより、駆動系が低速高トルク伝達系に切り替えられ、本締め工程に移行する。
【0028】
本締め工程では、制御ユニット18の記憶部18iには出力軸11に作用する回転負荷トルクに対応する閾値が設定されている。この閾値は、大小2個設定されており、回転負荷トルク値の低い第1閾値は目標の締め付けトルクの25%程度に設定する一方、回転負荷トルク値の高い第2閾値は目標の締め付けトルクの75%程度に設定する。そして、回転負荷トルクがこれら閾値に到達する毎に、制御ユニット18は出力軸11の回転速度を減じるようモータ3を駆動制御する。そして、前記トルク検出手段による検出値が締め付け完了トルクに到達すると、モータ3の駆動を停止して締め付けを完了する。
【0029】
本発明のねじ部品締結機1には、低速高トルク伝達系に減速機12の一例であるハーモニックドライブが組み込まれている。このハーモニックドライブのフレクスプライン123は薄肉のカップ状であり、変形を伴う構成である。そのため、芯ずれが発生する。しかも、減速機12のウェーブジェネレータ121に支持されている前記第1入力軸5は、従動プーリ6を介して歯付きベルト7を支持しているため、当該歯付きバルト7に引張られる。これによっても芯ずれが発生する。これでは、フレクスプライン123に連結されている歯付きクラッチ14の噛み合いが阻害されるため、所望のタイミングで伝達系を切り替えることができなくなる。
【0030】
また、歯付きクラッチの出力部142には、出力軸11が連結されている。この出力軸11には,ねじ部品のねじ込み過程において倒れ方向に外力が作用するため、芯ずれが発生する。
【0031】
そこで、本発明のねじ部品締結機1によれば、歯付きクラッチ14の入力部141および出力部142がクロスローラベアリング10a,10bによって回転自在に支持されているので、芯ずれが発生しない。そのため、歯付きクラッチ14の噛み合いが阻害されるないので、伝達系の切り替え不具合を防止できる。したがって、所望のタイミングで伝達系を切り替えることができ、ねじ部品の締め付け不良が発生しなくなる。
【0032】
1 ねじ部品締結機
2 ケース
3 モータ
3a 駆動軸
4 主動プーリ
5 第1入力軸
6 従動プーリ
7 歯付きベルト
8 電磁クラッチ
9 第2入力軸
10a,10b クロスローラベアリング
11 出力軸
12 減速機
13 カップリング
14 歯付きクラッチ
15 起歪体
16 歪みゲージ
17 取付フランジ
18 制御ユニット
18a 制御部
18b クラッチ制御部
18c モータ駆動部
18d レゾルバ駆動部
18e クラッチ制御部
18f トルク検出部
18g 操作部
18h 表示部
18i 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部品の頭部に係合するドライバビットを先端に有する出力軸と、
回転駆動源に連結して高速低トルク駆動を出力軸へ伝達する高速低トルク伝達系と、
回転駆動源に減速手段を介して連結して低速高トルク駆動を出力軸へ伝達する低速高トルク伝達系と、
歯部が形成された入力部および出力部を有し、これら入力部および出力部に前記伝達系をそれぞれ連結して当該歯部の噛合いによって伝達系を切り替え可能に構成された歯付きクラッチと、
この歯付きクラッチの入力部および出力部を回転自在に支持するクロスローラベアリングと、
を備えることを特徴とするねじ部品締結機。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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