説明

ねじ部材用ポリアミド樹脂組成物

【課題】機械的強度、ねじ引き抜き強度、締め込み強度及び締め込み性に優れ、かつ、雰囲気の湿度変化による強度低下が少ないねじ部材用ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂30〜65重量%、(B)繊維状強化材35〜70重量%を含有するポリアミド樹脂組成物であって、(A)ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有し、(B)繊維状強化材は、繊維長さ方向に垂直な断面の形状が扁平である場合にはその断面の短径が、断面の形状が円形である場合にはその断面の直径が3〜8.5μmであることを特徴とする、ねじ部材用ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はねじ部材用ポリアミド樹脂組成物に関するものである。詳しくは、機械的強度、ねじ引き抜き強度、締め込み強度及び締め込み性に優れ、かつ、雰囲気の湿度変化による強度低下が少ないねじ部材用ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄や鋼等の金属から構成されているボルトやナット等のねじ構造を有するねじ部材は、多湿雰囲気下に長期間放置すると表面に錆が発生してボルトやナットが円滑に回転せず作業性が低下したり、金属製で重いため作業性が低下するという欠点を有している。使用環境下での腐蝕により錆が発生した場合は、強度が低下したり、また、ボルト等の製作では、切削工程や溶接工程等多くの加工工程が必要であるため生産性が悪く、コスト高になるという欠点も有している。上記のような金属製ボルトが有する欠点を解消するため、ポリアミド樹脂やポリプロピレン樹脂等を用いプラスチック製にしたものが提案されている。しかし、このような従来のプラスチック製ボルトやナット等のねじ部材は、錆の発生や重量の問題は解消するものの、特に大きな荷重がかかる用途に使用した場合には、歪みによって強度が低下したり、変形等により回動操作の円滑性が損なわれる等、耐久性という面では必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】
例えば、ポリアミド樹脂製のねじ部材の場合は、多湿下に長期間放置すると吸水により強度や弾性率が低下し、またポリプロピレン樹脂製のねじ部材の場合には、単に機械的強度が不足するだけでなく、防蟻剤等の薬品により劣化しやすいという問題があった。
【0004】
ポリアミド樹脂製のねじ部材の場合に起こる吸水による強度や弾性率の低下を防止し、さらなる向上を目的として、例えば、ガラス繊維、無機質フィラーで強化した熱可塑性ポリマー製の埋込栓が提案されている(特許文献1)。しかし、該熱可塑ポリマー製埋込栓には大きな荷重がかかるため、歪みによる変形や破損等が発生する場合があり、更に強度の高いポリアミド樹脂組成物が求められている。
また、樹脂の補強目的で一般に使用されているガラス繊維に関しては、成形品中の繊維長を長くすること及びガラス繊維と樹脂との接着性を強くすることにより、引張強度やシャルピー衝撃強度等の機械的物性が向上することが知られている。一般的には、ガラス繊維の生産性ならびに樹脂に配合した際の特性から、直径9〜15μmの円形断面形状のガラス繊維が使用されている。また、ガラス繊維断面形状を扁平にすることにより、比表面積が増大し、マトリックス樹脂との接着効果が向上し、さらには、成形品中の繊維長も長くなるため、補強効果が向上することが確認されている(特許文献2)。しかし、上記のような機械的物性が高い樹脂組成物からなる部材が、必ずしもねじ部材に要求される、引き抜き強度、締め込み強度及び締め込み性に優れているとは言えない。
【0005】
【特許文献1】特開2000−345501号公報
【特許文献2】特開昭62−268612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、機械的強度、ねじ引き抜き強度、締め込み強度及び締め込み性に優れ、かつ、雰囲気の湿度変化によるこれらの強度変化が少ないねじ部材用ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、機械的強度の向上及び吸水による強度低下を抑制するために芳香環を有するポリアミド樹脂を使用し、さらに、特定形状の繊維状強化材を配合することにより、ねじ部材に要求される上記特性の改善が可能であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
本発明の第一の要旨は、
(1)(A)ポリアミド樹脂30〜65重量%、(B)繊維状強化材35〜70重量%を含有するポリアミド樹脂組成物であって、(A)ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有し、(B)繊維状強化材は、繊維長さ方向に垂直な断面の形状が扁平である場合にはその断面の短径が、断面の形状が円形である場合にはその断面の直径が3〜8.5μmであることを特徴とする、ねじ部材用ポリアミド樹脂組成物に存する。
【0009】
次に、第二の要旨は、
(2)上記(1)に記載のねじ部材用ポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とするねじ部材に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、機械的強度、ねじの引き抜き強度、締め込み強度及び締め込み性に優れ、かつ、雰囲気の湿度変化による上記特性の低下が少ないポリアミド樹脂組成物を得ることができる。このようなポリアミド樹脂組成物は、屋外雰囲気下に長期間放置される場所でのねじ部材としての使用に好適であり、例えば、埋込栓、特に、荷重負荷が大きいレール締結用埋込栓用の雌ねじ等、広範囲での使用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0012】
(A)ポリアミド樹脂
本発明における(A)ポリアミド樹脂とは、その主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を含み加熱溶融できる重合体であり、ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有するポリアミド樹脂(以下「芳香環含有ポリアミド樹脂」と略記することがある。)である。このようなポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂の吸水率が低いため吸水時の物性を保持することができる。上記の芳香環を含有するモノマーとしては、芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。芳香環を含有するものモノマー以外のモノマーとしては、ラクタム、脂肪族及び脂環式ジアミン、脂肪族及び脂環式ジカルボン酸、並びにω−アミノカルボン酸が挙げられる。なお、本発明においては、芳香環を含有するモノマーを重縮合してなる単独重合体、それらの共重合体又はブレンド物であってもよいし、芳香環含有ポリアミド樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂とのブレンド物であってもよい。
【0013】
芳香族ジアミンとは、次式で示される化合物である。
【0014】
【化1】

(式中、Xは、アミノ基に直接結合した炭素数6〜30の2価の有機基であり、その構造の一部に芳香環を有するものであり、他に脂肪族、脂環式の有機基、エーテル基、その他の有機基を含んでいてもよい。)
【0015】
その具体例としては、例えば、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジメチルジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン及び2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられ、2種以上併用してもよい。中でも、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンが好ましい。
【0016】
芳香族ジカルボン酸とは、次式で示される化合物である。
【0017】
【化2】

(式中、Yは、カルボキシル基に直接結合した炭素数6〜30の2価の有機基であり、その構造の一部に芳香環を有するものであり、他に脂肪族、脂環式の有機基、エーテル基、その他の有機基を含んでいてもよい。)
【0018】
その具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられ、2種以上併用してもよい。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0019】
芳香族アミノカルボン酸とは、次式で示される化合物である。
【0020】
【化3】

(式中、Zは、アミノ基及びカルボキシル基に直接結合した炭素数6〜30の2価の有機基であり、その構造の一部に芳香環を有するものであり、他に脂肪族、脂環式の有機基、エーテル基、その他の有機基を含んでいてもよい。)
【0021】
その具体例としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸、7−アミノ−2−ナフトエ酸、4−アミノ−1−ナフトエ酸、4−アミノ−4’−ビフェニルカルボン酸、3−アミノ−4’−ビフェニルカルボン酸、及びこれらのアルキル置換体、フェニル置換体、ハロゲン置換体等が挙げられ、2種以上併用してもよい。中でも、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸が好ましい。
【0022】
ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
脂肪族及び脂環式ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、ノナンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等が挙げられ、2種以上併用してもよい。中でも、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、ノナンジアミン好ましい。
【0023】
脂肪族及び脂環式ジカルボン酸としては、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、等が挙げられ、2種以上併用してもよい。中でもアジピン酸、セバシン酸が好ましい。
ω−アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられ、2種以上併用してもよい。中でも、6−アミノカプロン酸が好ましい。
【0024】
上記のモノマーを重縮合して得られる芳香環を有するポリアミド樹脂としては、例えば、α,ω−直鎖脂肪族二塩基酸とキシリレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂、具体的には、アジピン酸とメタキシリレンジアミン及び/又はパラキシリレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂や、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とノナンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とドデカメチレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とアジピン酸とメタキシリレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド樹脂、共重合成分として1,3−フェニレンジオキシジ酢酸を含む共重合ポリアミド樹脂等が挙げられる。重合方法は、一般的なポリアミド樹脂の重合方法であれば特に限定しない。モノマーもしくはモノマー水溶液を加熱し、水分を除去しながら重合を進める溶融重合は工業的に汎用されている。ここで、重合度コントロール剤として、アミンや酸を添加することは周知のことである。中でも、特にアジピン酸等のα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸とキシリレンジアミンとから得られるポリアミド樹脂が、優れた耐熱性や剛性を示す点で好適である。もちろん、他の脂肪族又は脂環式のモノマーとさらに共重合しても良いし、脂肪族ポリアミド樹脂との混合物であってもよい。
【0025】
本発明において好適に使用されるα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸とキシリレンジアミンとから得られるポリアミド樹脂(以下「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」と略記することがある。)について詳しく説明する。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料であるα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸としては、炭素数6〜20のα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸、具体的には、例えば、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸等が好適に使用できる。これらの中でも、成形性、機械的性能等のバランスを考慮すると、アジピン酸が特に好適である。
【0026】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のもうひとつの原料であるキシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンが好適に使用できる。メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを併用する場合は、好ましくはメタキシリレンジアミン:パラキシリレンジアミン=55:45〜90:10、より好ましくはメタキシリレンジアミン:パラキシリレンジアミン=60:40〜85:15の割合で使用することが好ましい。パラキシリレンジアミンが10モル%未満では、必要な結晶化速度が得られない場合があり、45モル%を超えると得られるポリアミド樹脂の融点が高くなり、ポリアミド樹脂重合時、成形加工時に樹脂の分解、変色等の不具合を生ずる可能性がある。パラキシリレンジアミン量が10モル%未満の場合は、成形時の結晶化速度を向上させるために、上記のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100重量部に対して、脂肪族ポリアミド樹脂を、好ましくは1〜150重量部、より好ましくは3〜50重量部、更に好ましくは5〜25重量部配合して使用するのが好ましい。脂肪族ポリアミド樹脂としては、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂(ポリアミド66)、ε−カプロラクタムを重縮合して得られるポリアミド樹脂(ポリアミド6)等の結晶化速度の高いものが好ましい。
【0027】
好ましいキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂としては、メタキシリレンジアミンとα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸を重縮合してなるポリアミド樹脂(ポリアミドMX)、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合ジアミンとα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸を重縮合してなるポリアミド樹脂(ポリアミドMP)が挙げられ、中でも、メタキシリレンジアミンとアジピン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂(ポリアミドMXD6)、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合ジアミンとアジピン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂(ポリアミドMP6)が特に好ましい。
【0028】
上記の芳香環含有ポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂をブレンドして用いることが好ましい。好適な脂肪族ポリアミド樹脂の代表例としては、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカノラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカノラクタム(ポリアミド12)、ポリアミド66/6、66/610、66/612、66/6T、66/6I、66/6T/6I等が挙げられ、2種以上ブレンドして用いてもよい。ここで6Tとは、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸、6Iとはヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸を原料とする重縮合物を示す。これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド66/6が、耐熱性、及び芳香環含有ポリアミド樹脂との相溶性の点からより好ましい。
【0029】
本発明においては(A)ポリアミド樹脂中の40重量%以上がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が40重量%未満であると、ポリアミド樹脂の吸水率が大きくなり、実使用時の強度維持が困難になる場合がある。
【0030】
(A)ポリアミド樹脂の相対粘度は、通常2.0〜4.0、好ましくは2.0〜2.7の範囲である。相対粘度が低すぎる場合は樹脂組成物が脆くなる傾向にあり、一方、高すぎる場合は樹脂組成物の成形時の流動性が不足する傾向にある。なお、本明細書において、相対粘度は、溶媒として96%硫酸を使用して調製した樹脂濃度1g/100mlの溶液を使用し、温度23℃の条件で測定した粘度を意味する。
【0031】
(A)ポリアミド樹脂のアミノ基末端濃度は、分子量の観点から、好ましくは10〜140meq/kg、より好ましくは30〜100meq/kgである。また、ポリアミド樹脂のカルボキシル基末端濃度は、分子量の観点から、好ましくは10〜140meq/kg、より好ましくは30〜100meq/kgである。このような末端濃度とすることにより、成形時の溶融粘度を良好に保つことができる。
【0032】
(B)繊維状強化材
本発明における(B)繊維状強化材とは、繊維長さ方向に垂直な断面の形状が扁平である場合にはその断面の短径が、断面の形状が円形である場合にはその断面の直径が3〜8.5μmである強化材である。このような繊維状強化材を含む樹脂組成物を用いて、ねじ構造を有する成形体を成形した場合、ねじ引き抜き強度、締め込み強度が特に優れる。その理由としては、(1)同じ配合量において、従来の繊維状強化材を配合した場合に比べ繊維状強化材の表面積が大きくなるため、樹脂との密着性が向上し、強度、特にねじを引き抜く際に発生する剪断応力に対する強度が向上する、(2)繊維状強化材はねじ山に対して水平に配向していると考えられ、特に断面形状が扁平である場合は、ねじを引き抜く際に発生する剪断応力に対する強度が高い、(3)従来の繊維状強化材を配合した場合に比べ、ねじ山の先端部までより多数の繊維状強化材が存在しているため、ねじを引き抜く際に発生する剪断応力に対する強度が高い、等が考えられる。
材質は特に限定されず有機物でも無機物でもよく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維等の繊維状無機強化材が好ましく、特に、耐衝撃性、入手のしやすさ、種類が豊富な点でガラス繊維が好ましい。また、繊維状強化材は、一般にロービング又はチョップドストランドといわれる形態のものが好ましい。取り扱いの容易さから1〜15mmの長さのチョップドストランドが好ましい。
【0033】
ここで、断面の形状が扁平である場合、扁平断面としては、例えば、図1に示すような(1)楕円形、(2)長円形(長方形を含む)、(3)繭形等が挙げられる。なお、本発明において長円形とは、図1(2)に示すような、繊維断面において長方形の短辺が円弧状となった形状を言う。本発明においては、図1に示すように、断面外周の最大径を長径(D2)、長径に直交する最長径を短径(D1)とする。このような扁平断面を有するガラス繊維は、例えば、特開平7−18186号公報に記載されている。本発明においては、上述の短径が3〜8.5μmであることが必要であり、好ましくは5〜8μm、より好ましくは5.5〜7.5μmである。短径が3μmより短いと、樹脂組成物の製造時及びねじ部材成形時に繊維状強化材が折損しやすく、樹脂組成物及び成形品中の繊維長が短くなる傾向にあり、また、繊維状強化材自体の製造も困難になり、コスト高になる傾向がある。短径が8.5μmより長いと、ねじ部材に必要な、引き抜き強度、締め込み強度が低下する場合がある。長径については特に制約はないが、長径/短径で定義される扁平率が好ましくは1.2〜10、より好ましくは3〜7の範囲内であればよい。また、断面形状としては、形状が安定して製造しやすい点、得られる樹脂組成物の強度ばらつきが小さい点から、長円形断面が好ましい。
本発明の(B)繊維状強化材を配合した樹脂組成物は、ねじ山ピッチが1〜3mm、ねじ山高さが1〜3mmであるボルト螺合用の雌ねじに特に好適である。このようなねじ部材としては、例えば、M16サイズ(JIS B1180規格)のボルト螺合用雌ねじが挙げられる。
【0034】
円形断面形状の繊維状強化材の直径や、扁平断面形状の繊維状強化材の短径及び長径は、繊維状強化材の断面の顕微鏡写真を用い実寸を測定することにより求めることができる。市販されている繊維状強化材は、上記の値がカタログに記載されておれば、この値を使用することができる。
【0035】
(B)繊維状強化材は、その取り扱い及び樹脂との密着性の見地から、必要ならば表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤としては、例えば、γーメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γーアミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤や、チタネート系化合物、イソシアネート系化合物等が挙げられ、その付着量は、繊維状強化材重量の0.01重量%以上とすることが好ましいく、0.05重量%とすることがより好ましい。樹脂組成物製造時の取り扱い性を向上させるため、さらに必要に応じて、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウンム塩等の帯電防止剤、熱安定剤を上記の表面処理剤と併用することが好ましい。
【0036】
本発明においては、樹脂組成物中に存在する繊維状強化材の平均繊維長が100μm以上であることが好ましく、120〜800μmの範囲になるのがより好ましい。平均繊維長が100μmより短いと、ねじ部材に必要な引き抜き強度や締め込み強度が低下する傾向にある。また、過度に長い繊維状強化材が存在すると、シャルピー衝撃強度や引張強度は向上するが、ねじ構造部分の寸法精度が低下し、ねじの締め付けがスムーズではなくなったり、ねじ構造部分の機械的強度が低下する場合がある。
平均繊維長の測定は、樹脂組成物約5gを、温度600℃の電気炉中で2時間置いて灰化させた後、残った繊維状強化材に対して行うことができる。得られた繊維状強化材を折損しないように中性表面活性剤水溶液中に分散させ、その分散水溶液をピペットによってスライドグラス上に移し、顕微鏡で写真撮影を行う。この写真画像について、画像解析ソフトを用い、1000〜2000本の強化繊維について測定を行い、得られた繊維長の数平均値を本発明における平均繊維長とする。
【0037】
(B)繊維状強化材としては扁平断面形状の強化材を含むものがねじ締め込み強度の点で好ましい。
(B)繊維状強化材の含有量は、(A)ポリアミド樹脂及び(B)繊維状強化材の合計中の35〜70重量%であり、好ましくは40〜66重量%である。含有量が35重量%より少ないと、ねじ部分の機械的強度が低下し、引き抜き強度や締め込み強度が低下する。70重量%より多いと、樹脂組成物の流動性が低下しねじ部材の成形が難しくなり、さらには成形品表面が粗面になり、ねじの締め付けがスムーズに行われなくなる。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、結晶核剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、顔料及び染料等の着色剤、発泡剤、架橋剤、難燃剤、難燃助剤が挙げられる。
【0039】
本発明においては、上述の添加剤の中でも、結晶化速度を上げ成形性を改良するため、結晶核剤を配合することが好ましい。結晶核剤としては、通常、タルク、窒化ホウ素等の無機系の結晶核剤が挙げられるが、有機系の結晶核剤を配合してもよい。結晶核剤の含有量は、(A)ポリアミド樹脂及び(B)繊維状強化材の合計100重量部に対し0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜6重量部がより好ましい。含有量が0.01重量部未満であると結晶核剤としての効果を十分に発揮しにくい傾向にあり、含有量が10重量部を超えると、異物効果によって機械的強度や耐衝撃性が低下するのを防ぐことができ、低コストで好ましい。
【0040】
また、成形時の離型性を向上させるため、離型剤を配合することが好ましい。離型剤としては、本発明の組成物の難燃性を低下させ難いものが好ましく、例えば、カルボン酸アミド系ワックスやビスアミド系ワックス、長鎖脂肪酸金属塩等が挙げられる。
【0041】
カルボン酸アミド系ワックスは、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミン化合物との脱水反応によって得られる。
高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸及び、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸及び、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0042】
本発明におけるカルボン酸アミド系ワックスは、その製造に使用する高級脂肪族モノカルボン酸に対して、多塩基酸の混合割合を変えることにより、軟化点を任意に調整することができる。多塩基酸の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して、0.18〜1モルの範囲が好適である。また、ジアミン化合物の使用量は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して1.5〜2モルの範囲が好適であり、使用する多塩基酸の量に従っ
て変化する。
【0043】
ビスアミド系ワックスとしては、例えば、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド及びN,N’−エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミン化合物と脂肪酸の化合物、あるいはN,N’'−ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジオクタデシル二塩基酸アミドを挙げることができる。
【0044】
長鎖脂肪酸金属塩とは、炭素数16〜36の長鎖脂肪酸の金属塩で、例えば、ステアリン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等が挙げられる。
【0045】
離型剤の含有量は、(A)ポリアミド樹脂及び(B)繊維状強化材の合計100重量部に対し0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。含有量が0.01重量部未満であると、十分な離型効果を発揮しにくく成形性が低下する場合があり、5重量部が超えると、成形時にガスが発生したり、成形品の表面外観に悪影響を及ぼす場合がある。
【0046】
さらに、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、(A)ポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等を配合することができる。(A)ポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
これらの樹脂の配合量は、(A)ポリアミド樹脂の一部として使用することができ、その含有量は(A)ポリアミド樹脂中の50重量%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特定の方法に限定されないが、好ましくは溶融混練によるものであり、熱可塑性樹脂について通常使用されている混練方法が適用できる。混練方法としては、例えば、(1)(A)ポリアミド樹脂、(B)繊維状強化材及び必要に応じて配合されるその他の成分を、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等の混合機により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機のホッパーに一括で供給し溶融混練する方法、(2)(A)ポリアミド樹脂に必要に応じて配合されるその他の成分を所定の量より多い配合量で予め溶融混練しマスターペレットとした後、残りの希釈用ポリアミド樹脂と混合後溶融混練し、(B)繊維状強化材をサイドフィーダーにより供給し溶融混練する方法、(3)(A)ポリアミド樹脂及び必要に応じて配合されるその他の成分を混合機により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機のホッパーに供給し、繊維状強化材はサイドフィーダーで供給し溶融混練する方法等が挙げられるが、生産性、機械的強度の点で(3)の方法を採用することが好ましい。溶融混練にあたっては、繊維状強化材ができるだけ破砕しないように、具体的には、樹脂組成物中に存在する繊維状強化材の平均繊維長が100μmより短くならないように、過度な剪断応力をかけないようなスクリュー構成とすることが好ましい。
【0048】
本発明におけるねじ部材を製造する方法は、上記ポリアミド樹脂を用いて各種成形品法、好ましくは射出成形法が挙げられる。射出成形条件としては、溶融樹脂温度を好ましくは240℃〜300℃、より好ましくは260〜290℃の範囲とし、金型温度を好ましくは30〜150℃、より好ましくは90〜130℃の範囲として製造すると良い。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの例により何ら限定されるものではない。
【0050】
[原材料]
(1)ポリアミドMP6:下記記載の方法に従って製造した。
撹拌装置、温度計、還流冷却器、原料滴下装置、加熱装置等を装備した容量が3リットルのフラスコに、アジピン酸730gを仕込み、窒素雰囲気下、フラスコ内温を160℃に昇温してアジピン酸を溶融させた。フラスコ内に、パラキシリレンジアミンを30モル%、メタキシリレンジアミンを70モル%含有する混合キシリレンジアミン680gを、約2.5時間かけて逐次滴下した。この間、撹拌下、内温を生成物の融点を常に上回る温度に維持して反応を継続し、反応の終期には270℃に昇温した。反応によって発生する水は、分縮器によって反応系外に排出させた。滴下終了後、275℃の温度で攪拌し反応を続け、1時間後反応を終了した。生成物をフラスコより取り出し、水冷しペレット化した。得られたポリアミド樹脂は、融点が258℃、結晶化温度が216℃、相対粘度(96%硫酸中、濃度1g/100ml、温度23℃で測定して得られた値)2.08。
(2)ポリアミド樹脂MXD6: 三菱瓦斯化学(株)製「ポリアミドMXD6#6000」、融点243℃、相対粘度2 .14(上記(1)と同様の方法で測定)。
(3)ポリアミド66:デュポン社製「ザイテル101」、融点268℃、相対粘度3.0(上記(1)と同様の方法で測定)。
(4)ポリアミド6:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ノバミッド1013J」、融点225℃、相対粘度2.8(上記(1)と同様の方法で測定)。
【0051】
(5)長円形断面ガラス繊維(GFA):日東紡績社製チョップドストランド「CSG 3PA−820S」、短径7μm、長径28μm、扁平率4(メーカー公称値)、繊維長3mm、表面処理されてなるガラス繊維
(6)円形断面ガラス繊維(GFB):旭ファイバーグラス社製チョップドストランド「CS03DEFT2A」、直径7μm(メーカー公称値)、繊維長3mm
(7)繭形断面ガラス繊維(GFC):日東紡績社製チョップドストランド「CSG 3PA−870S」、短径10μm、長径20μm、扁平率2±0.3(メーカー公称値)、繊維長3mm、表面処理されてなるガラス繊維
(8)円形断面ガラス繊維(GFD):旭ファイバーグラス社製チョップドストランド「CS03JAFT2」、直径10μm(メーカー公称値)、繊維長3mm、表面処理されてなるガラス繊維
【0052】
(9)結晶核剤(タルク):林化成社製「ミクロンホワイト5000A」
(10)離型剤(モンタン酸エステルワックス):クラリアントジャパン社製「Licowax E」
【0053】
[実施例1〜6及び比較例1〜6]
表1に示す組成となるように、各成分を秤量し、ガラス繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製「TEM35B」、バレル10ブロック構成)のホッパーから投入して溶融した後、ガラス繊維をホッパーから数えて7番目のブロックからサイドフィードして樹脂組成物のペレットを製造した。押出機の設定温度は 、ホッパーからサイドフィード部までは280℃、サイドフィード部以降は260℃とした。
上記の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で12時間乾燥した後、射出成形機(ファナック社製「α100」)を使用し、シリンダー設定温度280℃、金型温調機設定温度130℃、射出速度200mm/sに設定し、95重量%充填時にVP切替となるように保圧に切り替え、保圧はバリの出ない範囲で高めの600kgf/cm×20秒の条件で、M16サイズ(JIS B1180規格)用の雌めじ(深さ:70mm、外径:32mm、片側封止)を射出成形した。
また、引張試験用ISO試験片は、射出成形機(ファナック社製「α100」)を使用し、シリンダー設定温度280℃、金型温調機設定温度130℃の条件で射出成形した。
【0054】
[評価方法]
平均繊維長測定:
上記の方法で得られた樹脂組成物ペレット5gを秤量し、電気炉(東洋製作所社製「電気マッフル炉KM−28」)にて、600℃にて2時間灰化した。得られたガラス繊維を折損しないようにやさしくピンセットで中性表面活性剤水溶液中に広げ、分散させた。分散水溶液をピペットでスライドグラス上に移し、顕微鏡で20倍と40倍の倍率で写真撮影を行った。得られた写真を、画像解析ソフト(プラネトロン社製「Image−Pro Plus」)を用いて、1000〜2000本のガラス繊維について測定を行い、繊維長の数平均値を平均繊維長とした。
【0055】
引き抜き試験:
上記の方法で得られたM16サイズの雌ねじを、23℃、湿度65%で7日間保管した後、その雌ねじに鉄製M16ボルト(長さ:100mm)を50mmねじ込み、ねじ込んだボルトを引き抜く際の破壊強度を測定した。
締め込み試験:
上記の方法で得られたM16サイズの雌ねじを、23℃、湿度65%で7日間保管した後、その雌ねじに鉄製M16ボルト(長さ:100mm)を締め込んでいった際の破壊トルクを測定した。
締め込み操作性:
上記の方法で得られたM16サイズの雌ねじを、水中で7日間放置後、その雌ねじに鉄製M16ボルト(長さ:100mm)を締め付けるときの操作性を手の感触で次のように評価した。なお、成形した後23℃、65%湿度に30日間保管しておいた雌ねじを金属製ボルトに締め付けるときはいずれの成形品ともスムーズ(○)な操作性であった。
○:スムーズ
△:やや力を入れないと締まらない
×:力を入れないと締まらない
【0056】
機械的強度試験:
上記の方法で得られた引張試験用ISO試験片を用いて、ISO527規格に従って引張試験を行った。
【0057】
耐薬品性:
上記の方法で得られた引張試験用ISO試験片を、23℃、湿度65%で2日間保管した後、試験片の重量を測定した。その試験片を10%水酸化ナトリウム水溶液に7日間浸漬させた後試験片を取り出し、表面の水溶液を布でふき取り重量を測定した。耐薬品性は、浸漬前の試験片に対する浸漬後の試験片の重量増加率で評価した。重量増加率が高いということは、水溶液のアルカリ性によって樹脂が分解し、より多くの溶媒を樹脂中に取り込んでいるということであり、重量増加率が耐薬品性を示す指標であると考えられる。
【0058】
【表1】

【0059】
表1より次のことがわかった。
1)本発明のポリアミド樹脂組成物からなる雌ねじは、優れたねじ引き抜き強度、締め込み強度、機械的強度及び耐薬品性を有し、かつ、ねじ締め込み操作性も優れていることがわかった(実施例1〜6)。
2)ガラス繊維の断面サイズが本発明の範囲外の場合は、引張強度は若干劣る程度であったにも関わらず、ねじ引き抜き強度、締め込み強度が大きく劣ることがわかった(比較例1〜4)。
3)芳香環を含有しない脂肪族ポリアミド樹脂を使用した場合は、ねじ引き抜き強度、締め込み強度が低い上に、吸水による寸法変化により、締め付け操作性も著しく低下し、耐薬品性も不十分であることがわかった(比較例5)。
4)ガラス繊維の含有量が本発明の範囲より少ない場合は、ねじ引き抜き強度、締め込み強度が低い上に、吸水による寸法変化により、締め付け操作性がやや低下することがわかった(比較例6)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、従来の直径9〜15μmの円形断面の繊維状強化材を配合したポリアミド樹脂組成物に比較し、引張強度、ねじ引き抜き強度、締め込み強度及び締め込み性に優れ、かつ、雰囲気の湿度変化による上記特性の低下が少ないポリアミド樹脂組成物を得ることができた。本発明の樹脂組成物は、上記のような特性を有しているため、屋外雰囲気下に長期間放置される場所でのめじ部材としての使用に好適であり、例えば、埋込栓、特に、荷重負担が大きいレール締結用埋込栓用の雌ねじ等、広範囲での使用が期待され、その利用価値は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】扁平な断面形状を有する繊維状強化材の例を示す斜視図で、(1)は楕円断面、(2)は長円形断面、(3)は繭形断面である。
【符号の説明】
【0062】
L:繊維長
D1:短径
D2:長径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂30〜65重量%、(B)繊維状強化材35〜70重量%を含有するポリアミド樹脂組成物であって、(A)ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有し、(B)繊維状強化材は、繊維長さ方向に垂直な断面の形状が扁平である場合にはその断面の短径が、断面の形状が円形である場合にはその断面の直径が3〜8.5μmであることを特徴とする、ねじ部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリアミド樹脂中の40重量%以上が、α,ω−直鎖脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸とキシリレンジアミンとの重縮合反応により得られるポリアミド樹脂である、請求項1に記載のねじ部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)繊維状強化材がガラス繊維である、請求項1又は2に記載のねじ部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のねじ部材用ポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とするねじ部材。
【請求項5】
ねじ部材が埋込栓用雌ねじである、請求項4に記載のねじ部材。
【請求項6】
レール締結用である、請求項5に記載の埋込栓用雌ねじ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269952(P2009−269952A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119460(P2008−119460)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】