説明

ひび割れを有する構造物の補修方法及びその補修装置

【目的】補修装置の設置が簡易で,一箇所での注入操作ができるため、補修工事のさらなる迅速化,省力化が図れるとの優れた利点を有するひび割れ構造物の補修方法及びその補修装置を提供することを目的とする。
【構成】ひび割れを有する構造物のひび割れ補修方法であり、ひび割れを有する構造物表面に、ひび割れ補修操作部を形成し、ひび割れ補修操作部を除いてひび割れを有する構造物をシーリングしてなり、ひび割れ補修操作部には、ひび割れ内部を真空状態に吸引する吸引孔と、真空状態にされたひび割れ部に補修材料を注入する注入孔とを設定し、吸引孔と注入孔とを同一の孔で共用した、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の補修方法及びその補修装置にかかり、特に内部にひび割れを有するコンクリート構造物の補修方法及びその補修装置に関するものである。

【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、表裏面あるいは左右、上下端面に貫通するひび割れを有するコンクリート構造物の補修方法及びその補修装置は各種存在している。
【0003】
例えば、特開平9-209577号公報には、コンクリートクラックの補修方法及びその装置が示されており、その内容としては、表裏に貫通したひび割れを対象とし、そしてひび割れ内を吸引する吸引部と補修材料供給部を表裏に装着する構造とされ、補修材料は液体状で供給部基材に含浸されており,補修材料を供給部からひび割れ空間内に吸引する構成が示されている。
【0004】
また、特開平10-102789号公報には、漏水コンクリートクラックの補修装置及びその施工方法が示され、表裏に貫通し水分が充満したひび割れ(漏水をともなう)を対象とし、該ひび割れ内を吸引により水分除去とひび割れ内部の減圧を行い、当該ひび割れ内部に補修材料(親和性ポリウレタン樹脂系)を加圧または負圧による自然流入で注入する構造が示されている。
【0005】
さらに、特開2002-4589号公報には、コンクリート構造物における止水剤の注入工法および装置が示され、ひび割れ等の間隙内の空気・水を真空発生装置で強制吸引し、該間隙に通じる他の部分から補修材を注入する構造が、そして吸引器具として半球状殻体,長尺箱形殻体,ベル形殻体を用いる構造が示されている。
【0006】
また、特開2002-357000号公報には、コンクリート構造物の補修方法および補修具が示され、マイクロスコープで欠陥検出を行い,その欠陥部周囲を気密シートでシールし、補修具の一方に真空吸引ノズルを、他方に補修材料(硬化樹脂)注入ノズルを取り付け、真空吸引とともに注入を行う構造が示されている。
【0007】
しかしながら、前記従来の技術は、いずれもひび割れ内を吸引する吸引部と、補修材料を供給する補修材料供給部とが分離されているため、全体として補修すべきコンクリート構造物に対する補修装置の設置が煩雑となるばかりでなく,複数箇所での注入操作を要するため,作業中の各種操作が複雑となるなどの課題があった。
【特許文献1】特開平9-209577号公報
【特許文献2】特開平10-102789号公報
【特許文献3】特開2002-4589号公報
【特許文献4】特開2002-357000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かくして、本発明は前記従来の課題に対処すべく創案されたものであり、ひび割れ内を吸引する吸引部と、補修材料を供給する補修材料供給部が分離されておらず、もって全体として補修装置の設置が簡単に出来るばかりでなく,従来のように複数箇所での注入操作を必要とせず,作業中の各種操作もきわめて簡単に行え、しかも、微細なひび割れに対しても確実な注入が可能となり,補修の大幅な品質向上が図られ、また加圧による注入を真空注入に代えることで,構造物への負荷を低減することも出来、かつ注入孔数を1箇所にすることにより、補修工事の迅速化や省力化が図られ、ひび割れ内もスムーズに乾燥するため,注入剤の浸透性,接着性もより向上し、さらに注入孔と吸引孔との共用により,補修装置の設置が簡易で,一箇所での注入操作ができるため、補修工事のさらなる迅速化,省力化が図れるとの優れた利点を有するひび割れ構造物の補修方法及びその補修装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による構造物の補修方法及びその補修装置は、
ひび割れを有する構造物のひび割れ補修方法であり、
前記ひび割れを有する構造物表面に、ひび割れ補修操作部を形成し、該ひび割れ補修操作部を除いて前記ひび割れを有する構造物をシーリングしてなり、
前記ひび割れ補修操作部には、ひび割れ内部を真空状態に吸引する吸引孔と、真空状態にされたひび割れ部に補修材料を注入する注入孔とを設定し、前記吸引孔と前記注入孔とを同一の孔で共用した、
ことを特徴とし、
または、
表裏面に貫通したひび割れを有する構造物のひび割れ補修方法であり、
前記ひび割れを有する構造物表面に、単一箇所のひび割れ補修操作部を形成し、該単一箇所のひび割れ補修操作部を除いて前記ひび割れを有する構造物表面をシーリングしてなり、
前記ひび割れ補修操作部には、ひび割れ内部を真空状態に吸引する単一の吸引孔と、真空状態にされたひび割れ部に補修材料を注入する単一の注入孔とを設定し、前記吸引孔と前記注入孔とを単一の同一孔で共用した、
ことを特徴とし、
ひび割れを有する構造物表面のひび割れ箇所に設置されるひび割れ補修操作部と、
前記設置されたひび割れ補修操作部を除いて、ひび割れを有する構造物をシーリングするシーリング部とを有し、
前記ひび割れ補修操作部は、
前記ひび割れ箇所を覆う覆い部と、覆い部内に形成された密閉操作空間部と、
該密閉操作空間部内に連通し、ひび割れ内を吸引して真空状態にする吸引部と、
真空状態にされたひび割れ内にひび割れ補修材料を注入する注入部とを備え、
前記密閉操作部内に位置する構造物のひび割れ開口は、前記吸引部と連通する吸引孔とひび割れ補修材料を注入する注入孔とを兼用する、
ことを特徴とし、
または、
ひび割れを有する構造物表面のひび割れ箇所に設置されるひび割れ補修操作部と、
前記設置されたひび割れ補修操作部を除いて、ひび割れを有する構造物をシーリングするシーリング部とを有し、
前記ひび割れ補修操作部は、
前記ひび割れ箇所を覆う覆い部と、覆い部内に形成された密閉操作空間部と、
該密閉操作空間部内に連通し、ひび割れ内を吸引して真空状態にする吸引部と、
前記ひび割れ内の真空状態を検知する圧力センサと、
真空状態にされたひび割れ内にひび割れ補修材料を注入する注入部とを備え、
前記密閉操作部内に位置する構造物のひび割れ開口は、前記吸引部と連通する吸引孔とひび割れ補修材料を注入する注入孔とを兼用する、
ことを特徴とし、
または、
前記ひび割れ補修操作部は、ひび割れ構造物の左右あるいは斜め方向の部位において取り付け部材を要することなく吸着して取り付け可能とされた、
ことを特徴とし、
または、
前記ひび割れ構造物は、コンクリート構造物である、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による構造物の補修方法及びその補修装置によれば、ひび割れ内を吸引する吸引部と、補修材料を供給する供給部(注入部)が分離されておらず、双方を共用することが出来、もって全体として補修装置の設置が簡単であるばかりでなく,複数箇所での注入操作を要せず,作業中の各種操作がきわめて簡単に行え、しかも、微細なひび割れにたいしても確実な注入が可能となり,補修の大幅な品質向上が図られ、また加圧による注入を真空注入に代えることで,構造物への負荷を低減することも出来、かつ前述のように、注入孔数を1箇所にすることにより、補修工事の迅速化や省力化が図られ、ひび割れ内もスムーズに乾燥するため,注入剤の浸透性,接着性もより向上し、さらに前記のごとく注入孔と吸引孔との共用により,補修装置の設置が簡易で,一箇所での注入操作ができるため、補修工事のさらなる迅速化,省力化が図れるとの優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図に示す実施例に基づいて説明する。
まず、本発明によるひび割れを有する構造物のひび割れ1の補修方法につき説明する。
例えば、表裏面の端面に貫通する複数のひび割れ1・・・を有するコンクリート構造物2において、ひび割れ1の内部を吸引し、かつひび割れ1の内部に補修部材を注入すべき適切なひび割れ箇所を一箇所選択する。
【0012】
ここで、該ひび割れ箇所の選択に関しては、何ら限定されるものではないが、通常は図1から理解されるように、コンクリート構造物2の上面部位に存する一箇所のひび割れ箇所が選択される。
なぜなら、後述する補修装置3の構成部材であるひび割れ補修操作部4の設置が上面に置くだけでよく比較的容易に行えるからである。
しかしながら、本発明では前記した上面部位のみならず、図2に示すように、コンクリート構造物2の左右側面部位、あるいはコンクリート構造物2の斜めに傾いた斜面部位でも後述するひび割れ補修操作部4の設置ができる特徴がある。
【0013】
なお、補修装置3の構成につき説明すると、該補修装置3は、ひび割れ補修操作部4と、該ひび割れ補修操作部4が設置されるコンクリート構造物2のひび割れ1の箇所を除いて、コンクリート構造物2を密閉、すなわちコンクリート構造物2のひび割れ開口を密閉してシーリングするシーリング部5とを有して構成される。
前記シーリング部5の構成については、何ら限定されず、いかなる構造で、いかなる方法でシーリングするのもよい。例えば、シート状のシーリング部材でコンクリート構造物の全体を密閉すべく被覆した構成でもよい。また、液体状のシーリング材を前記コンクリート構造物2のひび割れ開口に塗布し、もって密閉するタイプでも構わない。
【0014】
次に、ひび割れ補修操作部4は、図から理解されるように、所定箇所のひび割れ1を覆う、略ドーム状あるいは略方形状をなす覆い部6を有する。
この覆い部6の形状については略ドーム状あるいは略方形状をなすとしたが、この様な形状に限定されるものではなく、内部に後述する密閉操作空間部7が形成できるものであれば、その形状は問わない。
【0015】
また、覆い部6の材質についても何ら限定されるものではなく、耐久性があり、比較的軽量な部材であれば好ましい。
しかして、所定のひび割れ1の箇所は、覆い部6により覆われて、内部にひび割れ1の箇所と連通する密閉操作空間部7を有するものとなる。
【0016】
次に、図示するように、前記密閉操作空間部7には、いわゆる吸引部となる真空ポンプ8に連通する吸引管15が挿入されて内部のひび割れ1と連通しており、該真空ポンプ8を作動することにより、前記密閉操作空間部7内、さらにはその密閉操作空間部7の中に位置するひび割れ1に通ずる吸入孔9を介してコンクリート構造物2の内部に存する全てのひび割れ1内が真空状態とされるものとなる。
なお、覆い部6は、密閉操作空間部7が真空状態になると、強固にコンクリート構造物2に吸着する。よって覆い部6の取り付けについては何らの取り付け部材も要しない、あるいは取り付け部材が必要とされたとしても比較的簡単な取り付け部材ですむとのメリットがある。
【0017】
従って、前記したように、コンクリート構造物2の左右側面部位(図2参照)、あるいはコンクリート構造物2の斜めに傾いた斜面部位でもひび割れ補修操作部4の設置ができるとの効果を存する。
また、密閉操作空間部7内には、前記密閉操作空間部7及び密閉操作空間部7に連通するひび割れ1内の真空状態を検知する圧力センサ10が設けられている。
【0018】
該圧力センサ10の必要性は、前記密閉操作空間部7及び密閉操作空間部7に連通するひび割れ1内の真空状態をセンスすることにある。しかして、圧力センサ10で密閉操作空間部7及び密閉操作空間部7に連通するひび割れ1内をいわゆる中真空(10乃至10−1Pa)に達したことを検知するのである。
この様に、完全な真空状態でなくとも、前記のように中真空の状態で充分な吸引作業が出来るものである。従って、完全な真空状態にするための時間と労力が軽減できるものとなる。
【0019】
次に、符号11は、ひび割れ1内に注入されるひび割れ補修材料であり、例えば蛍光エポキシ樹脂などが用いられる。
該ひび割れ補修材料11は、所定のケース12内に収納されており、該ケース12内と前記密閉操作空間部7内とは注入管13で連通され、該注入管13を介して、ひび割れ補修材料11が密閉操作空間部7及びひび割れ1内に注入されるものとなる。
【0020】
前述のようにひび割れ補修操作部を設置した後、真空ポンプ8を作動させて、密閉操作空間部7及びこれに連通するコンクリート構造物2内に連通するひび割れ1内を真空状態とする。
真空状態について、何ら数値上の限定はないが、例えば、中真空(10乃至10−1Pa)程度で構わないことはすでに述べたとおりである。
かかる中真空状態を圧力センサ10で検知し、その状態が保持できるようにしておく。
【0021】
そして、密閉操作空間部7及びそれに連通するひび割れ1・・・が中真空状態になると、自動的にケース12内からひび割れ補修材料11を吸引し、密閉操作空間部7及びひび割れ1・・・内に注入されるものとなる。
そして、その注入動作は、真空状態にした吸入孔9によって行われるのである。すなわち、吸入孔9が注入孔14の機能も果たすことになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の構成を説明する構成説明図(その1)である。
【図2】本発明の構成を説明する構成説明図(その2)である。
【図3】本発明によるひび割れ補修操作部の概略構成を説明する概略構成説明図である。
【図4】従来例の構成を説明する構成説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ひび割れ
2 コンクリート構造物
3 補修装置
4 ひび割れ補修操作部
5 シーリング部
6 覆い部
7 密閉操作空間部
8 真空ポンプ
9 吸入孔
10 圧力センサ
11 ひび割れ補修材料
12 ケース
13 注入管
14 注入孔
15 吸引管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひび割れを有する構造物のひび割れ補修方法であり、
前記ひび割れを有する構造物表面に、ひび割れ補修操作部を形成し、該ひび割れ補修操作部を除いて前記ひび割れを有する構造物をシーリングしてなり、
前記ひび割れ補修操作部には、ひび割れ内部を真空状態に吸引する吸引孔と、真空状態にされたひび割れ部に補修材料を注入する注入孔とを設定し、前記吸引孔と前記注入孔とを同一の孔で共用した、
ことを特徴とするひび割れ構造物の補修方法。
【請求項2】
表裏面に貫通したひび割れを有する構造物のひび割れ補修方法であり、
前記ひび割れを有する構造物表面に、単一箇所のひび割れ補修操作部を形成し、該単一箇所のひび割れ補修操作部を除いて前記ひび割れを有する構造物表面をシーリングしてなり、
前記ひび割れ補修操作部には、ひび割れ内部を真空状態に吸引する単一の吸引孔と、真空状態にされたひび割れ部に補修材料を注入する単一の注入孔とを設定し、前記吸引孔と前記注入孔とを単一の同一孔で共用した、
ことを特徴とするひび割れ構造物の補修方法。
【請求項3】
前記ひび割れ構造物は、コンクリート構造物である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のひび割れ構造物の補修方法。
【請求項4】
ひび割れを有する構造物表面のひび割れ箇所に設置されるひび割れ補修操作部と、
前記設置されたひび割れ補修操作部を除いて、ひび割れを有する構造物をシーリングするシーリング部とを有し、
前記ひび割れ補修操作部は、
前記ひび割れ箇所を覆う覆い部と、覆い部内に形成された密閉操作空間部と、
該密閉操作空間部内に連通し、ひび割れ内を吸引して真空状態にする吸引部と、
真空状態にされたひび割れ内にひび割れ補修材料を注入する注入部とを備え、
前記密閉操作部内に位置する構造物のひび割れ開口は、前記吸引部と連通する吸引孔とひび割れ補修材料を注入する注入孔とを兼用する、
ことを特徴とするひび割れ構造物の補修装置。
【請求項5】
ひび割れを有する構造物表面のひび割れ箇所に設置されるひび割れ補修操作部と、
前記設置されたひび割れ補修操作部を除いて、ひび割れを有する構造物をシーリングするシーリング部とを有し、
前記ひび割れ補修操作部は、
前記ひび割れ箇所を覆う覆い部と、覆い部内に形成された密閉操作空間部と、
該密閉操作空間部内に連通し、ひび割れ内を吸引して真空状態にする吸引部と、
前記ひび割れ内の真空状態を検知する圧力センサと、
真空状態にされたひび割れ内にひび割れ補修材料を注入する注入部とを備え、
前記密閉操作部内に位置する構造物のひび割れ開口は、前記吸引部と連通する吸引孔とひび割れ補修材料を注入する注入孔とを兼用する、
ことを特徴とするひび割れ構造物の補修装置。
【請求項6】
前記ひび割れ補修操作部は、ひび割れ構造物の左右あるいは斜め方向の部位において取り付け部材を要することなく吸着して取り付け可能とされた、
ことを特徴とする請求項4または請求項5記載のひび割れ構造物の補修装置。
【請求項7】
前記ひび割れ構造物は、コンクリート構造物である、
ことを特徴とする請求項4、請求項5または請求項6記載のひび割れ構造物の補修装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−65488(P2010−65488A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234358(P2008−234358)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】