説明

へパラナーゼ活性を阻害する能力に関する物質のスクリーニング方法

【課題】へパラナーゼ活性を阻害する物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】固体支持体上に固定化したへパラナーゼ基質結合蛋白質を標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、物質の存在下で、へパラナーゼ酵素溶液を、固定化した標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、および固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階を含む方法を提供する。また、線維芽細胞成長因子(FGF)とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力に関して物質を試験する方法であって、固体支持体上に固定化したFGFを物質および標識ヘパラナーゼ基質と溶液中で相互作用させる段階、および固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階を含む方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、へパラナーゼ触媒活性を阻害する能力に関して物質を試験する方法を提供する。本発明の方法は、へパラナーゼ基質結合蛋白質を介してへパラナーゼ基質を固定することを含む。本方法は容易に行うことができ、HTS用のロボットシステムに首尾良く実装することができる。
【背景技術】
【0002】
ヘパラン硫酸(HS)およびヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、細胞外マトリックス(ECM)中および細胞表面に存在する。それらは、細胞の接着、遊走、分化、および増殖などの細胞工程の調節に重要な役割を果たしている(非特許文献1〜3参照)。さらに、それらは成長因子(例えば、線維芽細胞成長因子および血小板由来成長因子)、サイトカイン、細胞外マトリックス蛋白質、リポ蛋白質およびβ-アミロイド蛋白質を含む多くの分子と相互作用する(非特許文献4〜8参照)。プロテアーゼまたはグリコシダーゼによるこれらの蛋白質の遊離は、正常工程および疾患工程における細胞の増殖、走化性、および血管外漏出の誘導に関する調節機構をもたらす。
【0003】
へパラナーゼは、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)を特定の部位で分解するエンド-(-D)-グルクロニダーゼである。その活性はさまざまな細胞種で検出されている。ヒト血小板、線維芽細胞、好中球、活性化T-リンパ球、単球およびヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(非特許文献4〜11参照)。さらに、へパラナーゼレベルは黒色腫および他の型の腫瘍細胞でも上昇している(非特許文献12〜15)。へパラナーゼによるHSPGからのHS鎖の切断がECMの分解につながり、細胞の遊走を促進することを示唆する証拠が得られている。これは血行性の悪性腫瘍細胞および白血球による組織浸潤において重要な過程である(非特許文献16〜18参照)。実際に、実験動物にへパラナーゼ阻害剤を投与すると肺転移の発生率はかなり低下し(先行技術文献19〜21参照)、このことはへパラナーゼ阻害剤を腫瘍細胞の浸潤および転移の抑制に応用しうることを示している。
【0004】
活性化リンパ球、マクロファージ、および顆粒球がECMを通過して標的組織に遊走する能力はへパラナーゼ活性に依存することが明らかになっている(非特許文献22参照)。へパラナーゼは種々の活性化シグナル(例えば、免疫複合体、抗原、窒素)に反応して細胞内画分(例えば、リソソーム、特殊顆粒)から放出されることから、炎症反応および自己免疫反応への関与が示唆される。実験動物に対するへパラナーゼ阻害剤の投与により、T細胞性遅延型過敏症、実験的自己免疫性脳脊髄炎およびアジュバント関節炎の発生率が顕著に低下しており(非特許文献23参照)、このことはへパラナーゼを阻害する化合物を自己免疫疾患および炎症性疾患の抑制に用いうることを示している。
【0005】
このように、へパラナーゼは細胞外マトリックスの分解に重要な役割を果たしている。これは腫瘍の血管新生および転移に関係するとみられている。へパラナーゼが介入を行う治療標的として興味深いことを意味する所見はあるものの、物質に対してへパラナーゼ活性を阻害する能力を試験するためのハイスループットな方法がないことが薬剤開発の障害となっている。
【0006】
ECMに付随するHSPGを放射標識したものを用いるへパラナーゼアッセイ法が行われている(非特許文献13および24参照)。へパラナーゼ切断により、ECMから遊離した放射標識物質が検出される。この欠点としては、へパラナーゼ分解のためにHS鎖を露出させるためにプロテアーゼがしばしば必要になることが含まれる。ゲル濾過分析をハイスループット用途に採用することも困難である。また、放射標識物質を用いると物質を安全性基準に従って廃棄することも必要となる。
【0007】
サトウ(Satho)らは、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体(MMAC)をコーティングしたマイクロタイタープレートにオリゴ糖を共有結合させる方法を報告している(非特許文献25参照)。これらの方法は、MMACをコーティングしたプレートにオリゴ糖を結合させるために複数の化学反応が必要な点で面倒である。有機試薬および有機溶媒がマイクロタイタープレートを破損させる恐れもある。さらに、複数の化学反応工程の後には全体的な収率は極めて低くなると考えられる。
【0008】
フリーマン(Freeman)およびパリッシュ(Parish)は、へパラナーゼ活性を測定するための迅速な方法を報告している(非特許文献26参照)。ニワトリのヒスチジンリッチ糖蛋白質(cHRG)をセファロースと結合させ、これが未消化HSの単離のために使用された。この方法でへパラナーゼ切断産物がHS基質から単離されるが、この方法には反応混合物から未消化HSを定量的に減少させるために大量のcHRG-セファロースが必要である。また、セファロースビーズをカラムクロマトグラフィーおよび遠心法で取り扱うことはハイスループットスクリーニングには適していない。
【0009】
ベン-アーツィ(Ben-Artzi)らによる、哺乳類へパラナーゼをプローブとして用いる転移抑制剤および抗炎症剤のスクリーニング方法(Methods of screening for potential anti-metastatic and anti-inflammatory agents using mammalian heparanase as a probe(特許文献1参照)では、へパラナーゼ活性を測定するためのハイスループットアッセイ法が報告されている。HSまたはある種のヘパリン種を基質として用いて、へパラナーゼ反応を96ウェルマイクロタイタープレート内で行い、テトラゾリウムブルーの添加によって停止させる。テトラゾリウムブルーは、へパラナーゼ切断によって露出した糖の反応性末端と反応する。基質の切断数を比色分析によって測定する。このアッセイ法には、大量のHS(100μl当たり50μgのHS)を基質として用いること、および少なくとも2時間にわたるへパラナーゼとのインキュベーション時間(2〜24時間)が必要である。アッセイ法に対するこれらの必要条件は手順として最適ではないが、HS基質の糖の切断に有利な条件をもたらす。シグナル対バックグラウンドの比の低さをある程度補うために、比較的数多くの反応性糖を測定することが必要である。このアッセイ法の別の欠点は、多くの種類の基との反応性があるテトラゾリウム塩を用いるため、不正確な結果が生じる恐れがあることである。このため、アッセイ試薬および被験化合物の純度が問題となる。
【0010】
へパラナーゼの触媒活性は、へパラナーゼ基質と線維芽細胞成長因子(FGF)との結合を阻止または変更する物質によって間接的に阻害される可能性もある。このような物質はFGFを介した細胞シグナル伝達事象を遮断する可能性があるため、癌、および異常な血管新生によって引き起こされる疾患に対する治療薬の候補となりうる(非特許文献27参照)。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,190,875号明細書
【非特許文献1】Jackson, R. L.、Busch, S. J.およびCardin, A. L.、「グリコサミノグリカン:分子特性、蛋白質相互作用および生理的過程における役割(Glycosaminoglycans:Molecular properties, protein interactions and role in physiological processes)」、Physiol. Rev.、1991年、第71巻、p.481〜539
【非特許文献2】Kjellen, L.およびLindahl, U.、「プロテオグリカン:構造および相互作用(Proteoglycans:structures and interactions)」、Annu. Rev. Biochem.、1991年、第60巻、p.443〜475
【非特許文献3】Wight, T. N.、Kinsella, M. G.およびQwarnstromn、E. E.、「細胞の接着、遊走および増殖におけるプロテオグリカンの役割(The role of proteoglycans in cell adhesion, migration, and proliferation)」、Curr. Opin. Cell Biol.、1992年、第4巻、p.793〜801
【非特許文献4】Ishai-Michaeli, R.、Eldor, A.およびVlodavsky, I.、「血小板、好中球およびリンパ腫細胞により発現されるへパラナーゼ活性は細胞外マトリックスから活性のある線維芽細胞成長因子を遊離させる(Heparanase activity expressed by platelets, neutrophils and lymphoma cells releases active fibroblast growth factor from extracellular matrix)」、Cell Reg.、1990年、第1巻、p.833〜842
【非特許文献5】Schlessinger, J.、Lax, I.およびLemmon, M.、「プロテオグリカンによる成長因子活性化の調節:低親和性受容体の役割は何か?(Regulation of growth factor activation by proteoglycans: what is the role of the low affinity receptors?)」、Cell.、1995年、第83巻、p.357〜60
【非特許文献6】Najjam, S.、Gibbs, R. V.、Gordon, M. Y.およびRider, C. C.、「ヒト組換えインターロイキン2のヘパリンおよびヘパラン硫酸との結合に関するELISAの手法を用いた特徴分析(Characterization of human recombinant interleukin 2 binding to heparin and heparan sulfate using an ELISA approach)」、Cytokine.、1997年、第9巻、p.1013〜22
【非特許文献7】Eisenberg, S.、Sehayek, E.、Olivercrona, T.およびVlodavsky, I.、「リポ蛋白質リパーゼはリポ蛋白質の細胞表面および細胞外マトリックス上のヘパラン硫酸との結合を増強する(Lipoprotein, lipase enhances binding of lipoproteins to heparan sulfate on cell surfaces and extracellular matrix)」、J. Clin. Invest. 、1992年、第90巻、p.2013〜2021
【非特許文献8】Schulz, J. G.、Megow, D.、Reszka, R.、Villringer, A.、Einhaupl, K. M.およびDirnagl, U.、「グリピカンがPCl2細胞においてβ-アミロイド神経毒性を媒介する受容体であるという証拠(Evidence that glypican is a receptor mediating beta-amyloid neurotoxicity in PCl2 cells)」、Eur. J. Neurosci.、1998年、第10巻、p.2085〜93
【非特許文献9】Kosir, M. A.、Quinn, C. C.、Zukowski, K. L.、Grignon, D. J.およびLedbetter, S.、「ヒト前立腺癌細胞は細胞外へパラナーゼを産生する(Human prostate carcinoma cells produce extracellular heparanase)」、J. Surg. Res.、1997年、第67巻、p.98〜105
【非特許文献10】Godder, K.、Vlodavsky, I.、Eldor, A.、Weksler, B. B.、Haimovvitz-Friedman, A.およびFuks, Z.、「培養内皮細胞におけるへパラナーゼ活性(Heparanase activity in cultured endothelial cells)」、J. Cell Physiol.、1991年、第148巻、p.274〜280
【非特許文献11】Bam, K. J.、「チャイニーズハムスター卵巣細胞におけるプロテオグリカンからのヘパラン硫酸グリコサミノグリカンの遊離にコア蛋白質の分解は必要でない(Release of heparan sulfate glycosaminoglycans from proteoglycans in Chinese hamster ovary cells does not require proteolysis of the core protein)」、J. Biol. Chem.、1993年、第268巻、p.19956〜19964
【非特許文献12】Vlodavsky, I.、Fuks, Z.、Bar-Ner, M.、Ariav, Y.およびSchirrmacher, V.、「内皮細胞下細胞外マトリックスにおける硫酸化プロテオグリカンのリンパ腫細胞を介した分解と腫瘍細胞の転移との関連(Lymphoma cell mediated degradation of sulfated proteoglycans in the subendothelial extracellular matrix relationship to tumor cell metastasis)」、Cancer Res.、1983年、第43巻、p.2704〜2711
【非特許文献13】Vlodavsky, I.、Eldor, A.、Haimovitz-Friedman, A.、Metzner, Y.、Ishai-Michaeli, R.、Lider, O.、Naparstek, Y.、Cohen, I. R.およびFuks, Z.、「血小板および免疫系の循環細胞によるへパラナーゼの発現:血管外遊出および血管外漏出における関与の可能性(Expression of heparapase by platelets and circulating cells of the immune system: possible involvement in diapedesis and extravasation)」、Invasion Metastatis、1992年、第12巻、p.112〜127
【非特許文献14】Nakajima, M.、Irimura, T.、DiFerranta, D.、DiFerranta, N.およびNicholson, G. L.、「ヘパラン硫酸の分解:マウスB16黒色腫亜系統の腫瘍浸潤特性および転移特性との関連(Heparan sulfate degradation: relation to tumor invasion and metastatic properties of mouse B16 melanoma sublines)」、Science、1983年、第220巻、p.611〜613
【非特許文献15】Ikuta, M.、Podyma, K.A.、Maruyama, K.、Enomoto, S.、Yanagishita, M.、「口腔癌細胞株および口腔癌組織におけるへパラナーゼの発現(Expression of heparanase in oral cancer cell lines and oral cancer tissues)」、Oral Oncol、2001年、第37巻、p.177〜184
【非特許文献16】Hanahan, D.およびFolkman, J.、「腫瘍発生時における血管新生スイッチのパターンおよび出現機構(Patterns and Emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)」、Cell、1996年、第86巻、p.353〜364
【非特許文献17】Zetter, B. R.、「血管新生および腫瘍転移(Angiogenesis and tumor metastasis)」、Ann. Rev. Med.、1988年、第49巻、p.407〜424
【非特許文献18】Nakajima, M.、Irimura, T.およびNicholson, G. L.、「へパラナーゼおよび腫瘍転移(Heparanase and tumor metastasis)」、J. Cell Biochem.、1998年、第36巻、p.157〜167
【非特許文献19】Vlodavsky, I.、Mohsen, M.、Lider, O.、Svahn, C. M.、Ekre, H. P.、Vigoda, M.、Ishai-Michaeli, R.、Peretz, T.、「へパラナーゼ阻害性ヘパリン種による腫瘍転移抑制(Inhibition of tumor metastasis by heparanase inhibiting species of heparin)」、Invasion Metastatis、1995年、第14巻、p.290〜302
【非特許文献20】Parish, C.R.、Coombe, D.R.、Kakobsen, K. B.およびUnderwood, P.A.、「硫酸化多糖が腫瘍細胞由来のへパラナーゼの遮断によって腫瘍転移を抑制する証拠(Evidence that sulphated polysaccharides inhibit tumor metastasis by blocking tumor cell-derived heparanase)」、Int. J. Cancer、1987年、第40巻、p.511〜517
【非特許文献21】Parish, C. R.、Freeman, C.、Brown, K. J.、Francis, D. J.およびCowden, W. B.、「血管新生およびへパラナーゼ活性に関する新規インビトロアッセイ法を用いた、硫酸化オリゴ糖をベースとする腫瘍成長および転移の阻害剤の同定(Identification of sulfated oligosaccharide-based inhibitors of tumor growth and metastasis using novel in vitro assays for angiogenesis and heparanase activity)」、Cancer Res.、1999年、第59巻、p.3433〜3441
【非特許文献22】Lider, O.、Baharav, E.、Mekori, Y. A.、Miller, T.、Naparstek, Y.、Vlodavsky, I.およびCohen, I. R.、「低用量ヘパリンを動物へ投与することによる実験的自己免疫疾患の抑制および同種移植片の生存期間の延長(Suppression of experimental autommmune diseases and prolongation of allograft survival by treatment of animals with low doses of heparins)」、J. Clin. Invest.、1989年、第83巻、p.752〜756
【非特許文献23】Willenborg, D. O.およびParish, C. R.、「硫酸化多糖の投与によるラットにおけるアレルギー性脳脊髄炎の抑制(Inhibition of allerhic encephalomyelitis in rats by treatment with sulfated polysaccharides)」、J. Immunol.、1988年、第140巻、p.3401〜3405
【非特許文献24】Bartlettら、「白血球、内皮細胞および血小板が内皮下基底膜を分解する能力の比較分析:サイトカイン依存性の証拠およびおよび新規スルファターゼの検出(Comparative analysis of the ability of leukocytes, endothelial cells and platelets to degrade the subendothelial basement membrane: Evidence for cytokine dependence and detection of a novel sulfatase)」、Immunol. Cell Biol.、1995年、第73巻、p.113〜124
【非特許文献25】Satoh, A.ら、「糖鎖検出用の固相酵素免疫アッセイプレートに対する固定方法の比較(Comparison of methods of immobilization to enzyme-linked immunosorbent assay plates for the detection of sugar chains)」、Anal. Biochem.1999年、第275巻、p.231〜235
【非特許文献26】Freeman, C.およびParish, C.R.、「哺乳類へパラナーゼ活性の検出のための迅速定量アッセイ法(A rapid quantitative assay for the detection of mammalian heparanase activity)」、Biochem. J.、1997年、第325巻、p.229〜237
【非特許文献27】Folkman, J.、「癌、血管疾患、リウマチ性疾患および他の疾患における血管新生(Angiogenesis in cancer, vascular, rheumatoid and other diseases)」、Nat. Med.、1995年、第1巻、p.27〜31
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、へパラナーゼ活性を阻害する能力に関する物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、へパラナーゼ触媒活性を阻害する能力に関して物質を試験する方法であって、
固定化した標識ヘパラナーゼ基質を得るために、固体支持体上に固定化したへパラナーゼ基質結合蛋白質を標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、
物質の存在下で、へパラナーゼ酵素溶液を、固定化した標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、および
物質にへパラナーゼを阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階を含む方法を提供する。
【0014】
架橋部に固定化した標識ヘパラナーゼ基質を得るために、標識ヘパラナーゼ基質を、固体支持体上に固定化した分子と結合する固定化用の架橋部と結合させてもよい。
【0015】
本発明は、線維芽細胞成長因子(FGF)とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力に関して物質を試験する方法であって、
固体支持体上に固定化したFGFを物質および標識ヘパラナーゼ基質と溶液中で相互作用させる段階、および
物質に線維芽細胞成長因子とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階を含む方法も提供する。
【0016】
本発明に係る方法においては、(1)以下の段階を含む、へパラナーゼ触媒活性を阻害する能力に関して物質を試験する方法であることを特徴とする:
固定化した標識ヘパラナーゼ基質を得るために、固体支持体上に固定化したへパラナーゼ基質結合蛋白質を標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、
物質の存在下で、へパラナーゼ酵素溶液を、固定化した標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、および
物質にへパラナーゼを阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階。
【0017】
また、本発明に係る方法においては、(2)標識ヘパラナーゼ基質の標識が、蛍光性、放射性、化学発光性、および発色性分子から選択される少なくとも1つの分子である、上記(1)記載の方法であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る方法においては、(3)蛍光団が、フルオレセイン、ランタニド-キレート、およびEu(DPTA)-キレートを含む、上記(2)記載の方法であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る方法においては、(4)フルオレセインがFITCおよびFFITCから選択される、上記(3)記載の方法であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る方法においては、(5)ランタニド-キレートが、ユーロピウム-キレート(Eu-キレート)、サマリウム-キレート(Sm-キレート)、テルビウム-キレート(Tb-キレート)、およびジスプロシウム-キレート(Dy-キレート)から選択される、上記(3)記載の方法であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る方法においては、(6)ランタニド-キレートがEu-キレートである、上記(5)記載の方法であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る方法においては、(7)標識ヘパラナーゼ基質のへパラナーゼ基質が、ヘパラン硫酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびヘパラン硫酸類似体から選択される、上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の方法であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る方法においては、(8)へパラナーゼ基質がヘパラン硫酸である、上記(7)記載の方法であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る方法においては、(9)へパラナーゼ基質結合蛋白質が、線維芽細胞成長因子(FGF)、VEGF、およびPDGFから選択される、上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方法であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る方法においては、(10)へパラナーゼ基質結合蛋白質がFGFである、上記(9)記載の方法であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る方法においては、(11)以下の段階を含む、へパラナーゼ触媒活性を阻害する能力に関して物質を試験する方法であることを特徴とする:
架橋部に固定化した標識ヘパラナーゼ基質を得るために、固体支持体上に固定化した分子を、固定化用架橋部(immobilization bridge)と結合した標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させ、該固定化した分子を固定化用架橋部と結合させる段階、
物質の存在下で、へパラナーゼ酵素溶液を、架橋部に固定化した標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、および
物質にへパラナーゼを阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階。
【0027】
また、本発明に係る方法においては、(12)固定化用架橋部がビオチンであり、固定化した分子がストレプトアビジン分子、アビジン分子、およびそれらの混合物から選択される、上記(11)記載の方法であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る方法においては、(13)固定化した分子がストレプトアビジン分子である、上記(12)記載の方法であることを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係る方法においては、(14)以下の段階を含む、線維芽細胞成長因子(FGF)とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力に関して物質を試験する方法であることを特徴とする:
固体支持体上に固定化したFGFを物質および標識ヘパラナーゼ基質と溶液中で相互作用させる段階、および
物質に線維芽細胞成長因子とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階。
【0030】
また、本発明に係る使用においては、(15)へパラナーゼ触媒活性の阻害物質を同定するための、上記(1)〜(13)のいずれか一項に記載の方法の使用であることを特徴とする。
【0031】
また、本発明に係る使用においては、(16)FGFとへパラナーゼ基質との結合の阻害物質を同定するための、上記(14)記載の方法の使用であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明に係るキットにおいては、(17)固体支持体、固体支持体上に固定化されたまたは固定化されうるへパラナーゼ基質結合蛋白質、標識ヘパラナーゼ基質およびへパラナーゼを含む群より選択される、上記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の方法を行うために必要な成分を含むキットであることを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係るキットにおいては、(18)固体支持体、固体支持体上に固定化されたまたは固定化されうる分子であって固定化用架橋部と特異的に結合する分子、へパラナーゼ基質と結合しうる固定化用架橋部、標識ヘパラナーゼ基質、およびへパラナーゼを含む群より選択される、上記(11)〜(13)のいずれか一項に記載の方法を行うために必要な成分を含むキットであることを特徴とする。
【0034】
また、本発明に係る阻害物質においては、(19)上記(1)〜(13)のいずれか一項に記載の方法によって同定された、へパラナーゼ触媒活性の阻害物質であることを特徴とする。
【0035】
また、本発明に係る薬学的組成物においては、(20)薬学的に許容される担体、および上記(1)〜(13)のいずれか一項に記載の方法によって同定されたへパラナーゼ触媒活性の阻害物質、ならびにそれらの薬学的に許容される塩の治療的有効量を含む薬学的組成物であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る方法においては、(21)薬学的組成物の製造方法であって、上記(1)〜(14)のいずれか一項に記載の方法における段階、同定した物質を改変する段階、および得られた物質を薬学的に許容される担体または希釈剤とともに製剤化する段階を含む方法であることを特徴とする。
【0037】
また、本発明に係る使用においては、(22)自己免疫性および炎症性の疾患、ならびに癌、特に腫瘍の血管新生および転移の治療のための医薬品を調製するための、上記(1)〜(13)のいずれか一項に記載の方法によって同定されたへパラナーゼ触媒活性を阻害する物質の使用であることを特徴とする。
【0038】
また、本発明に係る使用においては、(23)癌および異常な血管新生によって引き起こされる疾患の治療のための医薬品を調製をするための、上記(14)記載の方法によって同定されたFGFとへパラナーゼ基質との結合を阻害する物質の使用であることを特徴とする。
【0039】
また、本発明に係る方法においては、(24)特に実施例の項に記載される、実質的に本明細書に記載の方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、へパラナーゼ触媒活性を阻害する能力に関して物質を試験する方法が提供された。本方法は、固定化した標識ヘパラナーゼ基質を得るために、固体支持体上に固定化したへパラナーゼ基質結合蛋白質を標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、物質の存在下で、へパラナーゼ酵素溶液を、固定化した標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させる段階、および物質にへパラナーゼを阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、へパラナーゼ活性を阻害する能力を決定することを目的として、へパラナーゼ活性を測定するため、および1つまたは複数の物質を試験するための方法を提供する。本発明の方法は容易に行うことができる。また、それらはハイスループットスクリーニング(HTS)用のロボットシステムに首尾良く実装することもできる。
【0042】
HSPGのHS成分は、インビボで、細胞表面の線維芽細胞成長因子(FGF)に対する低親和性受容体としての役割を果たす。へパラナーゼ切断により、FGF/HS複合体が細胞表面から遊離して細胞増殖を刺激する。血管新生、転移、および炎症の過程で、へパラナーゼ活性の上昇により、FGF/HS複合体が、細胞表面、細胞外マトリックス、および基底膜から放出される。本発明では、へパラナーゼ触媒活性の細胞表面FGF/へパラナーゼ基質複合体活性に対する生理的関連性を、へパラナーゼの触媒活性を阻害する能力に関する物質のスクリーニングに利用する。
【0043】
本発明は、へパラナーゼ基質をへパラナーゼ基質結合蛋白質を介して固定化するアッセイ法を含む。
【0044】
本発明は、固定化したへパラナーゼ基質結合蛋白質を標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させることを含む。へパラナーゼ基質結合蛋白質を固体支持体上に固定化する。固定化したへパラナーゼ基質結合蛋白質を標識ヘパラナーゼ基質と相互作用させることにより、標識ヘパラナーゼ基質が固定化へパラナーゼ基質結合蛋白質と結合し、へパラナーゼ基質結合蛋白質-固定化標識ヘパラナーゼ基質が生じる。このへパラナーゼ基質結合蛋白質-固定化標識ヘパラナーゼ基質をへパラナーゼ酵素溶液とともにインキュベートして、へパラナーゼに標識ヘパラナーゼ基質を酵素的に切断させる。酵素消化によって生じた切断断片は溶液中に放出される。へパラナーゼ触媒活性を決定することを目的として標識を測定するために、この酵素消化溶液を固体支持体から離して検査する。被験物質の非存在下でこのへパラナーゼとのインキュベーションを行えば、被験物質によるへパラナーゼ活性の阻害率を算出する元となる100%のへパラナーゼ触媒活性の値を設定するのに役立つ。
【0045】
へパラナーゼ触媒活性の阻害能力に関して物質を試験する際には、へパラナーゼ酵素およびへパラナーゼ基質結合蛋白質-固定化標識ヘパラナーゼ基質を物質の存在下でインキュベートする。物質にへパラナーゼを阻害する能力があるか否かを判定することを目的として標識を測定するために、この酵素消化溶液を固体支持体から離して検査する。任意の物質に関して、100%へパラナーゼ触媒活性の設定値に基づいてへパラナーゼ活性の阻害率を算出することができる。
【0046】
へパラナーゼ基質結合蛋白質は、へパラナーゼ基質と結合する任意の蛋白質、ペプチド、またはその断片であってよい。例としては、FGF、VEGF、およびPDGFが含まれる。
【0047】
FGFは天然のものであっても、合成したものであってもよい。FGFは例えば、プラッツ(Prats)ら(Prats H.ら(1989)、「高分子量型の塩基性線維芽細胞成長因子は選択的CUGコドンによって惹起される(High molecular mass forms of basic fibroblast growth factor are initiated by alternative CUG codons)」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86、1836〜40)に記載されたように、クローニングおよび発現によって安価に入手することができる。
【0048】
へパラナーゼ酵素は天然のものであっても、合成したものであってもよい。へパラナーゼは、例えば実施例2に記載したようにクローニングおよび発現によって入手可能である。
【0049】
標識ヘパラナーゼ基質は、へパラナーゼ基質およびへパラナーゼ基質と結合した少なくとも1つの標識を検出用に含む。本発明においてへパラナーゼ基質とは、へパラナーゼ酵素によって分解産物に切断可能であって、FGFとの結合能がある基質のことを指す。へパラナーゼ基質は、ヘパラン硫酸(HS)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、およびヘパラン硫酸類似体から選択してよい。本発明によるへパラナーゼ硫酸類似体は、へパラナーゼ酵素によって切断される類似体である。ヘパリンは一般にへパラナーゼ阻害剤とみなされているが、へパラナーゼ基質として振る舞うある種のヘパリン種(Ben-Artzi, H.ら、米国特許第6,190,875号)も本発明によるヘパラン硫酸類似体とみなす。しかし、FGF結合に必要なヘパリンの構造的特徴は、細胞表面およびECM上のHSと結合したβFGFの置換に十分なものとは異なることが示されている(Ben-Artzi, Hら、米国特許第6,190,875号、Ishai-Michaeli R.ら(1992)、「血管内皮および細胞外マトリックスからのβFGFの遊離におけるヘパリンのサイズおよび硫酸化の重要性(Importance of size and sulfation of heparin in release of βFGF from the vascular endothelium and extracellular matrix)」、Biochemistry 31:2080〜2088)。このため、βFGFをインビボで置換しないヘパリン種には、例えば、固定化したFGFをヘパラン硫酸として用いるアッセイ法において同じ生理的関連性はないと考えられる。
【0050】
へパラナーゼ基質に対する少なくとも1つの標識は、蛍光性、放射性、化学発光性、および発色性分子から選択してよい。へパラナーゼ基質には、1つまたは複数の標識による標識を行ってよい。必要であれば、へパラナーゼ基質に対する標識を、高感度なシグナル検出をもたらす能力によって選択することができる。
【0051】
蛍光性標識とは、蛍光団または蛍光団を含む基のことを指す。蛍光団は吸収した光を特徴的な波長として発光するため、蛍光標識したヘパラナーゼ基質は既知の蛍光検出手段を用いて検出することができる。蛍光標識は、例えば、フルオレセイン(例えば、フルオレセインイソチオシアネートFITCまたはFFITCとして)、ランタニドキレート、ローダミンなどであってよい。市販のランタニドには現在、ユーロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、およびジスプロシウム(Dy)がある。
【0052】
FITCを標識として用いることによって、蛍光強度を高感度で検出することが可能となり、これは多数の物質を試験するためには好都合である。FFITCはFITCよりも光安定性、蛍光の点で幾分優れており、必要な消光の程度も少ない。ランタニドキレートの一つであるEu-キレートは蛍光減衰時間が長い。Eu-キレートを用いるアッセイ法では、被験物質に起因する蛍光の影響をなくすことができる。
【0053】
最近、Eu-キレートを蛍光団として用いる時間分解蛍光定量(TRF)アッセイ法がHTSに広く用いられている(Hemmila, I.、Dakubu, S.、Mukkala, V.M.、Siitari, H.、Lovgren, T.(1984)、「時間分解免疫蛍光定量アッセイ法における標識としてのユーロピウム(Europium as a label in time-resolved immunofluorometric assays)」、Anal. Biochem. 137、335〜343;Hemmila, I.およびWebb, S.(1997)、「時間分解蛍光定量法:薬物スクリーニング用途のための標識および中核技術に関する概要(Time-resolved fluorometry: An overview of the labels and core technologies for drug screening applications)」、Drug Discovery Today 2、373〜381)。これらの蛍光団は、強力かつ寿命の長い蛍光を発するため、一定の遅延時間の後に蛍光を測定することが可能である。これにより、試料に付随する有機蛍光団からの寿命の短い蛍光によるバックグラウンドカウントは、検出時点の前に減衰すると考えられるために、除外される。この時間遅延型蛍光を大きなストークスシフト(340〜625nm)と組み合わせることにより、バックグラウンド発光が効果的に減少し、アッセイ感度が向上する。Euで標識したHSおよびEuで標識したビオチン-HSを用いて開発されたアッセイ法は、FITC標識を用いたものよりも高い感度を示す。Eu(DPTA)(ここでDPTAは1-(p-イソチオ-シアナトベンジル)ジエチレントリアミン-N1,N1,N2,N3,N3五酢酸である)も高感度であるが、へパラナーゼ消化を行う酸性条件(すなわち、pH 5.4)でこれはEu-キレートよりも安定している。
【0054】
蛍光標識を用いる場合には、酵素消化を行った試料を、蛍光団の励起波長を発光するレーザーなどの光源に通す。蛍光団の発光波長で放出された光子を測定することによって蛍光を測定する。例えば、フルオレセインに対する励起波長は約494nmであり、Euキレートでは約340nmである。例えば、フルオレセインに対する発光波長は約518nmであり、Eu-キレートでは約615nmである。
【0055】
放射性標識の一例はトリチウム(H)である。発色性標識の一例はp-ニトロフェニル(PNP)である。
【0056】
スクリーニングを行う1つまたは複数の物質はいかなる種類のものであってもよい。それらは天然に生じる物質であってもよく、人工の(合成)物質であってもよい。例えば、物質は低分子量化合物、ペプチド、蛋白質、または抗体のいずれでありうる。酵素の触媒活性は、活性部位に抗体を結合させることによって阻害しうることが知られている。本明細書で用いる「抗体」という用語は、任意のモノクローナル免疫グロブリン、ポリクローナル免疫グロブリン、またはFab 1もしくはFab 2などの免疫グロブリン断片のことを指す。免疫グロブリンが、領域の少なくとも1つがヒト抗体に由来する融合または接合した抗体領域を含む「ヒト化」抗体であってもよい。
【0057】
へパラナーゼ基質を、インビトロ試験の目的に適した固体支持体に固定化する。固体支持体の例には、マイクロタイタープレート、セファロースビーズ、およびポリマービーズが含まれる。
【0058】
本方法は感度が高い。FGFとの結合によって遮蔽されるのは、標識ヘパラナーゼ基質上の10個の切断部位のうち約1個の割合に過ぎない。
【0059】
FGF/標識ヘパラナーゼ基質アッセイ法のハイスループット能力は、それをロボットシステムに応用した際に実現することができる。例えば、ツァイス(Zeiss)uHTSシステムを用いたFGF/FITC-HSアッセイ法の場合には、1日当たり25,000種を上回る化合物スクリーニングのスループットが達成された。被験化合物に固有の蛍光に起因する陽性結果を除外する目的で、FGF/EU-HSアッセイ法を、例えば、FITC-HS/FGFアッセイ法の試験結果が陽性であった物質の再試験のために用いることができる。
【0060】
本発明のもう1つの局面では、へパラナーゼ基質を少なくとも1つの標識、および固定化用架橋部(immobilization bridge)と結合させる。本発明における固定化用架橋部は、(a)へパラナーゼ基質と結合可能である;(b)標識ヘパラナーゼ基質と結合した際に(i)標識ヘパラナーゼ基質のへパラナーゼ触媒活性を妨げない、(ii)少なくとも1つの標識の測定を妨げない、またはそれに外部シグナルを追加しない;および(c)固体支持体に固定化しうる分子と結合する、1つまたは複数の基である。固定化用架橋部と結合させた標識ヘパラナーゼ基質を、固定化用架橋部と特異的に結合する固定化した分子と相互作用させる。この結果生じた架橋部-固定化標識ヘパラナーゼ基質を次にへパラナーゼと反応させる。するとへパラナーゼ切断の産物が、標識された断片として溶液中に遊離する。固体支持体から分離した標識に関して溶液を測定する。
【0061】
例えば、固定化用架橋部および固体支持体上に固定化する対応する分子が、それぞれビオチンおよびストレプトアビジン(SA)またはアビジンであってもよい。
【0062】
本発明の1つの態様において、へパラナーゼ基質はHSであり、標識は蛍光性標識であり、固定化用架橋部および固体支持体上に固定化する対応する分子はそれぞれビオチンおよびストレプトアビジンである。ビオチンはへパラナーゼ切断部位ではなくHS鎖の末端糖と結合する。このため、蛍光標識したビオチン-HSとSAとの結合はへパラナーゼ触媒作用を妨げないと考えられる。
【0063】
少なくとも1つの標識および固定化用架橋部と結合させたへパラナーゼ基質を用いる代わりに、へパラナーゼ基質を標識していない固定化用架橋部と結合させてもよい。本発明のこの局面では、FGF-固定化標識ヘパラナーゼ基質を用いて物質を触媒活性の阻害能力に関して試験するアッセイ法を以前に示した通りに行う。また、固定化した架橋部と結合させたへパラナーゼ基質を用いて物質を試験するアッセイ法も実施する。固定化用架橋部と結合させたへパラナーゼ基質を用いるこのアッセイ法は、FGF/標識ヘパラナーゼ基質アッセイ法においてへパラナーゼ活性を阻害することが判明した被験物質に対してへパラナーゼ阻害活性が確認されるか否かを明らかにするために用いると好都合である。
【0064】
IC50は、特定の測定対象の活性を50%阻害するために必要な物質の濃度のことを指す。本発明において、特定の測定対象の活性とは、へパラナーゼ触媒活性のことを指す。IC50は各被験物質に関して得られる。IC50の決定に関するそれ以上の情報については実施例16に記載がある。
【0065】
酵素消化を行った溶液における標識の有無の検出は、固体支持体から離れた位置で行う。標識の測定が、固体支持体上に固定化されたままで残っているような標識によって歪曲されないように離れた位置で行う。固体支持体から離れた位置は、固体支持体から特定の距離である必要はない。標識の測定を固体支持体の近傍で行うことも、例えば、固体支持体上に残った標識の検出に対する遮蔽を用いれば可能であり、本発明による固体支持体から離れて行うこともできる。
【0066】
FGF/標識ヘパラナーゼ基質アッセイ法によってへパラナーゼ活性を阻害すると判定された物質に対する試験を、実施例17のように動態アッセイ法にて行った。その結果(本明細書には含めていない)から、これらの物質がへパラナーゼ酵素の活性部位でへパラナーゼを競合阻害または混合阻害する物質であることが示された。実施例18〜21にもFGF/標識ヘパラナーゼ基質アッセイ法の確証を示している。
【0067】
本発明は、物質がHS/FGF相互作用を妨げ、へパラナーゼの非存在下でも標識ヘパラナーゼ基質断片を遊離させうるか否かを明らかにするためのスクリーニング方法も含む。さらに、このような物質は、癌および異常な血管新生によって引き起こされる疾患の治療において治療薬として有用な可能性がある。FGFをコーティングしたプレートに対する標識ヘパラナーゼ基質の結合をモニターすることが可能である(図3および図11Aを参照)。FGFをコーティングしたプレートに対して、固定化したFGFと結合しうる量の標識ヘパラナーゼ基質を添加する。上清を固体支持体から離れて標識に関して測定する。これによってバックグラウンドの測定値が得られるはずである。物質の試験に際しては、物質および標識ヘパラナーゼ基質を、固定化したFGFと溶液中で相互作用させる。物質に線維芽細胞成長因子とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力があるか否かを明らかにする目的で、標識の有無を検出するために、上清を固体支持体から離して検査する。結合阻害能力のある物質であれば、上清中の標識の測定値がバックグラウンド測定値よりも高いと考えられる。
【0068】
したがって、本発明は、FGFとへパラナーゼ基質との結合に対する阻害物質を同定するための前記の方法の使用も提供する。加えて、癌および異常な血管新生によって引き起こされる疾患を治療するための医薬品を調製する目的で、FGFとへパラナーゼ基質との結合を阻害するこれらの物質の使用も提供する。
【0069】
もう1つの態様において、本発明は、へパラナーゼ触媒活性の阻害物質を同定するための、本発明の方法の使用に関する。
【0070】
さらにもう1つの態様において、本発明は、固体支持体、固体支持体上に固定化されたまたは固定化されうるへパラナーゼ基質結合蛋白質、標識ヘパラナーゼ基質、およびへパラナーゼを含む群より選択される、本発明の方法を行うために必要な成分を含むキットに関する。
【0071】
さらにもう1つの態様において、本発明は、固体支持体、固体支持体上に固定化されたまたは固定化されうる分子であって固定化用架橋部と特異的に結合する分子、へパラナーゼ基質と結合しうる固定化用架橋部、標識ヘパラナーゼ基質、およびへパラナーゼを含む群より選択される、本発明の方法を行うために必要な成分を含むキットに関する。
【0072】
さらに、本発明は、本発明の方法によって同定された、へパラナーゼ触媒活性の新規阻害物質、およびFGFとへパラナーゼ基質との結合の新規阻害物質にも関する。
【0073】
本発明はさらに、薬学的に許容される担体、および本発明の方法によって同定されたへパラナーゼ触媒活性の阻害物質、ならびにそれらの薬学的に許容される塩の治療的有効量を含む薬学的組成物を提供する。
【0074】
さらに、本発明は、薬学的組成物の製造方法であって、本発明の方法における段階、同定した物質を改変する段階、および得られた物質を薬学的に許容される担体または希釈剤とともに製剤化する段階を含む方法も提供する。
【0075】
「薬学的に許容される」という語句は、本明細書において、妥当な医学的判断の範囲に含まれ、ヒトおよび動物の組織と接触させて用いるのに適していて過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を引き起こさず、その恩典とリスクの比が妥当であるような、化合物、物質、組成物、および/または剤形のことを指す。
【0076】
本明細書で用いる「薬学的に許容される塩」とは、親物質をその酸または塩基の塩を作製することによって改変した、同定した物質の誘導体のことを指す。薬学的に許容される塩の例としては、アミンなどの塩基性残基の無機酸塩または有機酸塩;カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機酸塩などが含まれるが、これらに限定されることはない。薬学的に許容される塩には、例えば、毒性のない無機酸または有機酸から生成される、親化合物の通常の非毒性塩または第四アンモニウム塩親化合物が含まれる。例えば、このような通常の非毒性塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸に由来するもの;および酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などの有機酸から調製される塩が含まれる。
【0077】
本発明の薬学的に許容される塩は、塩基部分または酸部分を含む親物質から従来の化学的方法によって合成することができる。一般に、このような塩は、これらの化合物の遊離酸または遊離塩基の形態を、化学量論量の適切な塩基または酸と水中もしくは有機溶媒中またはこの2つの混合液中で反応させることによって調製可能である;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。適した塩の一覧は、「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、第17版、Mack Publishing Company、Easton、PA、1985、p.1418に記載されており、この開示内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0078】
本発明の方法によって同定された物質を、以下のことを実現するために改変してもよい:(i)作用部位、活性スペクトルの改変、ならびに/または(ii)効力の改善、ならびに/または(iii)毒性の軽減(治療指数の改善)、ならびに/または(iv)副作用の軽減、ならびに/または(v)作用開始、効果持続時間の改変、ならびに/または(vi)動態パラメーター(吸収、分布、代謝および排泄)の改変、ならびに/または(vii)物理化学的パラメーター(溶解性、吸湿性、色調、味、匂い、安定性、状態)の改変、ならびに/または(viii)一般的特異性、臓器/組織特異性の改善、ならびに/または、(ix)以下のいずれかによる適用形態および経路の最適化:(i)カルボキシル基のエステル化、もしくは(ii)炭素酸によるヒドロキシル基のエステル化 、もしくは(iii)ヒドロキシル基のリン酸エステル、ピロリン酸エステルもしくは硫酸エステルもしくはヘミコハク酸エステルへのエステル化、もしくは(iv)薬学的に許容される塩の生成、もしくは(v)薬学的に許容される複合体の生成、もしくは(vi)薬学的活性のあるポリマーの合成、もしくは(vii)親水性部分の導入、もしくは(viii)芳香環もしくは側鎖上の置換の導入/交換、置換基パターンの変更、もしくは(ix)等配電子性部分もしくは生物学的等価性部分の導入による修飾、もしくは(x)同族化合物の合成、もしくは(xi)分枝側鎖の導入、もしくは(xii)アルキル置換基の環状類似体への変換、もしくは(xiii)ヒドロキシル基のケタール、アセタールへの誘導体化、もしくは(xiv)アミド、フェニルカルバメートへのN-アセチル化、もしくは(xv)マンニッヒ塩基、イミンの合成、もしくは(xvi)ケトンもしくはアルデヒドのシッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル、オキサゾリジン、チオゾリジンもしくはそれらの組み合わせへの変換;ならびに(b)前記改変産物を、薬学的に許容される担体、または芳香性もしくは着香性の組成物もしくは生成物に対して許容される担体/希釈剤とともに製剤化してもよい。
【0079】
さらに、本発明は、自己免疫性および炎症性の疾患、ならびに癌、特に腫瘍の血管新生および転移の治療のための医薬品を調製するための、本発明の方法で同定されたへパラナーゼ触媒活性のこのような阻害物質の使用も提供する。
【0080】
本発明の一般的な説明を行ってきたが、これは具体的な実施例(これらは例示のみを目的として本明細書に含めるものであり、別に特記しない限り、制限を意図したものではない)を、以下の図面とともに参照することにより、さらに良く理解されると考えられる。
【実施例】
【0081】
以下の実施例に関して、ウシ腎臓由来のヘパラン硫酸は、生化学工業株式会社(Seikagaku Corp.)から入手した。フルオレセイン-5-イソチオシアネート(FITC「異性体I」)およびオレゴングリーン(Oregon Green)488イソチオシアネート(FFITC)は、モレキュラープローブス社(Molecular Probes)から入手した。DELFIA Eu-DTPA-ITCキレート、濃縮洗浄液(Wash Concentrate)、増強液(Enhancement Solution)は、パーキンエルマーライフサイエンス社(Perkin-Elmer Life Sciences)から入手した。ビオチン-LC-ヒドラジドは、ピアス(Pierce)社から入手した。N-アセチルマンノースアミンは、ランカスター(Lancaster)社から入手した。ウシ血清アルブミン(BSA)、Triton X 100およびTween 20は、ロシュモレキュラーバイオケミカル社(Roche Molecular Biochemicals)から入手した。
【0082】
実施例1:FGFのクローニング、発現、および精製
bFGFのクローニングおよび発現は以前の記載の通りに行った(Prats H.ら(1989)、「高分子量型の塩基性線維芽細胞成長因子は選択的CUGコドンによって惹起される(High molecular mass forms of basic fibroblast growth factor are initiated by alternative CUG codons)」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86、1836〜40)。bFGFを発現する大腸菌細胞を可溶化緩衝液(20mM NaPO4、5mM EDTA、pH 7.0)中に、細胞1g/可溶化緩衝液5mlの割合で懸濁化した。プロテアーゼ阻害剤混合物錠剤(EDTA非含有;Roche Molecular Biochemicals)およびリゾチーム(200μg/ml)を添加し、懸濁液を4℃で30分間攪拌した。試料を超音波処理して、RNアーゼおよびDNアーゼ(Roche Molecular Biochemicals)を添加し(1μg/ml)、試料をさらに30分間インキュベートした。試料を20,000×gで20分間遠心した後、上清を0.8μmフィルターで濾過し、20mM NaPO4、100mM NaCl、5mM EDTA、pH 7.0で平衡化したSPセファロースカラムにかけた。カラムを平衡化緩衝液で洗浄した後、20mM NaPO4、600mM NaCl、5mM EDTA、pH 7.0によってbFGFをカラムから溶出させた。溶出した画分を濃縮し、SPセファロース溶出緩衝液で平衡化しておいたヘパリンセファロースカラムにかけた。bFGFを20mM NaPO4、2M NaCl、5mM EDTA、pH 7.0によって溶出させた。試料に1mM DTTを添加した後に精製bFGFを濃縮した。オリゴマーの形成を誘導するために、濃縮したbFGFを透析緩衝液(50mM NHHCO、50mM NaCl、pH 8.0)に対して何回か交換しながら4℃で72時間透析した。
【0083】
実施例2:へパラナーゼのクローニング、発現、および精製
完全長ヒトへパラナーゼcDNAクローンをATCCから入手した。ジェンバンク(GenBank)(アクセッション番号AF152376)に公表されている配列を用いて、1632bpからなるオープンリーディングフレーム(ORF)をPCR増幅するためのオリゴ体を設計し、それと同時に(i)サブクローニング用の制限酵素切断部位(5' KpnI−3' NotI)を付加し、(ii)ORFのC末端に、6アミノ酸のエピトープタグ(「EE-タグ」、NH2-EFMPME-COOH)」を、その前方に柔軟な4アミノ酸リンカー(SGSG)があり、その後方に単一のAla残基に続いてSTOPコドンが来るような形で追加した。
【0084】
フォワードプライマー(配列番号:1)は、

とした。
【0085】
リバースプライマー(配列番号:2)は、

とした。
【0086】
プルーフリーディング用ポリメラーゼを用い、ATCC-プラスミドを鋳型として用いてアンプリコンを得た。この結果得られたアンプリコンをKpnIおよびNotIで消化した上で、哺乳類発現ベクターpEFBOS中にサブクローニングした。クローニングしたORFの配列を確認した後に、へパラナーゼ発現構築物およびNEO選択用プラスミドを用いてCHO細胞のトランスフェクションを行った。
【0087】
ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠失したチャイニーズハムスター細胞(CHOdhfr-)をトランスフェクション用の宿主として用いた。細胞(2×10個/ウェル)を、6ウェル組織培養プレート内で、10%(v/v)FBS+100μM Na-ヒポキサンチンおよび16μMチミジン(1×HT)を添加したDMEMにより増殖させた。トランスフェクションは、2μlのFuGene6試薬(Roche Molecular Biochemicals)の存在下で、へパラナーゼ遺伝子(pEF-BOS)、ネオマイシン耐性遺伝子(pRSVNeo)およびジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(pSV-dhfr)をそれぞれ15:1:1の比でコードするプラスミドDNA 0.5μgを培養物に添加することによって行った。37℃のCO2インキュベーター内で72時間インキュベートした後に、培地を、10%透析FBSを添加したHT非含有DMEMと交換した。3回/週の頻度で培地を交換しながらトランスフェクト培養物をさらに4〜8週間インキュベートした。選択培地に抗して生存した細胞を、10%透析FBSおよび0.1〜3.0μMの範囲の種々の濃度のメトトレキサート(MTX)を含むHT非含有DMEMを入れた150mm培養皿に1×10個/培養皿の播種密度で移した。CHOB3と命名したクローンを、ヘパラナーゼ活性を示した100個を上回るコロニーから選択した。クローンCHOB3によるへパラナーゼの発現は、トランスフェクションを行っていないCHO細胞のものの約4倍であった。
【0088】
クローンCHOB3を用いたへパラナーゼの生産を、以下の2つの方法によって行った:
a)回転瓶におけるへパラナーゼ生産:コーニング(Corning)850cm回転瓶を用いた。10%(v/v)透析FBS+3μM MTXおよび25mMのHepes緩衝液を添加した150mlのDMEM中にある細胞2.4×10個を各瓶に接種した。5回/分の速度で回転する回転瓶用ラックで5〜7日間にわたって瓶をインキュベートすることによって100本の瓶を一括して処理した。リン酸生理食塩緩衝液で洗浄した後に、トリプシン処理を行い、その後に遠心処理を行うことによって細胞ペレットを瓶から収集した。
b)懸濁培養におけるへパラナーゼ生産:5%透析FBS、3μM MTX、0.1%プルロニック酸、および25mM Hepesを添加した7Lのエクセル(Excel)301培地(JRH)を含む10LのバイオリアクターにCHOB3培養物を接種し、初期細胞濃度を5×10個/mlとした。この懸濁培養物を、細胞密度が3×10個に達するまで35℃で4〜5日間インキュベートした。へパラナーゼの単離および精製のために細胞を収集した。
【0089】
へパラナーゼを発現するCHO細胞を、可溶化緩衝液(50mM Tris、150mM NaCl、0.5%Triton X-100、pH 7.5)中に2×10個/mlとして懸濁化し、プロテアーゼ阻害剤混合物錠剤(Roche Molecular Biochemicals)を添加して、試料に短時間の超音波処理を行った。続いて試料を4℃で30分間攪拌した後、100,000×gの遠心処理を60分間行った。可溶性画分(「100kxg-sup」)を0.8μmおよび0.45μmのフィルターによって濾過し、酵素アッセイ法に用いた。「100kxg-sup」に認められた活性がへパラナーゼに起因することを確認するために、少量のへパラナーゼを、本質的には以前に記載された方法によって精製した(Prats H.ら(1989)、「高分子量型の塩基性線維芽細胞成長因子は選択的CUGコドンによって惹起される(High molecular mass forms of basic fibroblast growth factor are initiated by alternative CUG codons)」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86、1836〜40)。
【0090】
実施例3:フルオレセイン標識HS(FITC-HSまたはFFITC-HS)の調製
以前に記載された手順により、HSをオレゴングリーン(Oregon Green)488イソチオシアネート(FFITC)で標識し、他のHSをフルオレセイン-5-イソチオシアネート(FITC)で標識した。一般的には、ウシ腎臓由来のHS(60mg)を16mlの0.1M NaCO(pH 9.35)中に溶解した。0.8mlのDMSO中にあるFITC(94mg)またはFFITC(103mg)をHS溶液にゆっくりと添加(滴下)し、4℃で暗所下にて18時間攪拌した。反応を1M Tris-HCl、pH 8.0(0.5ml)によって停止させ、溶液を室温で20分間攪拌した。続いて、余分なFITC試薬を除去するために、試料をセファデックス(Sephadex)G-25カラム(2.5×30cm)(PBS中)にかけた。フルオレセイン標識HSを含む画分をプールした。フルオレセイン標識の程度は490nmの吸光度を読み取ることによって評価した(ε=72,000M-1)。一般的には、フルオレセインとHSとのモル比は0.6であった。
【0091】
実施例4:Eu-キレート標識HSの調製
HS(3.3mg)を0.2mlの0.2M NaCO(pH 9.35)中に溶解した。この溶液にDELFIA Eu-DTPA-ITCキレート(0.1ml HO中に1mg)を添加し、室温で1時間攪拌した後に、4℃で14時間攪拌した。続いて試料を、セファデックスG-50カラム(ファイングレード、1.5cm×50cm)(TBS(50mM Tris-HCl、pH 7.5、100mM NaCl)中)にかけた。試料をローディングする前に、カラムに10mgのBSA(非特異的な結合を飽和させるため)および20mlの20mM EDTAをローディングし、続いて60mlのTBSをローディングした。Eu標識HSを含む画分をプールした。標識の程度は既知の濃度のEu-キレート溶液による標準曲線を用いて評価した。一般的には、Eu-キレートとHSとのモル比は0.54であった。
【0092】
実施例5:ビオチン-HSの調製
HS(4.5mg)を0.2mlのHO中に溶解した後、0.6mlのメタノール中に溶解した。この溶液に5.0mgの固体ビオチン-LCヒドリジドを添加した後、4μlの0.5M NaHCO(10%メタノール中)を添加した。反応を50℃で1日間進行させた。続いてNaCNBH(25mg)を溶液に添加した。この溶液を0.2mlのHOの添加によって清澄化させた。この反応液を50℃で2日間インキュベートした。NaCNBHをさらに2回(各25mg)添加し、それぞれの添加後に反応液を50℃で2日間ずつインキュベートした。続いて試料を高速真空装置で0.3mlに濃縮し、HOで希釈して0.5mlにした上で、セファデックスG-25カラム(PBS中)にかけた。HSを含む画分をプールし、30μlの1M NaCOの添加によってpHを9.4に調整した。
【0093】
実施例6:フルオレセイン標識ビオチン-HS(FFITC-HS-ビオチン)の調製
FFITC(80μlのDMSO中に0.8mg)を実施例5のビオチン-HS溶液に攪拌しながら添加し、反応を4℃で暗所下にて一晩進行させた。試料をセファデックスG-25カラムにローディングし、PBSで溶出させた。FFITC標識ビオチン-HSを含む画分をプールした。フルオレセイン標識の程度は、490nmの吸光度を読み取ることによって評価した。フルオレセインとHSとのモル比は0.6であった。
【0094】
実施例7:Eu-キレート標識ビオチン-HS(Eu-HS-ビオチン)の調製
実施例5の記載の通りに調製したビオチン-HS溶液(0.34ml、4.5mg/ml、PBS中)に対して、6.5mg NaCOを添加してpHを9.4に調整した。Eu-DTPA-ITCキレート(1mg)を0.1mlの10mM酢酸ナトリウム(pH 4.8)中に溶解し、この溶液の50μlをビオチン-HS溶液に攪拌しながら添加した。この反応液を25℃で1時間振盪した後、4℃で15時間振盪し、さらに25℃で4時間振盪した。続いて試料をセファデックスG-50カラム(ファイングレード、1.5cm×50cm)(TBS中)にかけた。試料をローディングする前に、カラムに10mgのBSA(非特異的な結合を飽和させるため)および20mlの20mM EDTAをローディングし、続いて60mlのTBSをローディングした。Eu標識HSを含む画分をプールした。標識の程度は既知の濃度のEu-キレート溶液による標準曲線を用いて評価した。Eu-キレートとHSとのモル比は0.34であった。
【0095】
実施例8H標識HSの調製
H標識HSは以前の記載の通りに調製した(26)。一般的には、HS(10mg)を7.6mgの硫酸ヒドラジンを含む0.38mlのヒドラジン一水和物に溶解し、混合物を蓋をしたガラス容器に入れて100℃で2時間加熱した。この混合物を冷却し、アルゴン雰囲気下で乾燥させた。トルエン(0.4ml)を添加し、混合液をロータリー真空蒸発装置で乾燥させた。この手順を2回繰り返した。残渣を0.9mlの1M NaCl中に溶解し、セファデックスG-25カラム(水中)で脱塩を行った。脱塩した物質をダウエックス(Dowex)50(X-8、Na+1型)カラム(1.0cm×3.0cm)にローディングし、5mlの水で洗浄した。「フロースルー」および「洗浄」画分をプールして凍結乾燥した。この結果得られたN-脱アセチル化HSを、10%(V/V)メタノールを含む0.5mlの0.5M NaHCO中に溶解し、氷浴中で0℃に冷却して、30μlの[H]無水酢酸(3mCi、500mCi/mmole)(トルエン中)を添加した。この混合物を0℃で3時間激しく攪拌した。さらに0.5mlの0.5M NaCO、20μlのMeOH、および25μlの無水酢酸を0℃で攪拌しながら30分間かけて添加した。この手順をさらにもう1回繰り返した。混合物を室温まで加温した後に、トルエンをアルゴン気流下で除去し、セファデックスG-25カラム(20mM酢酸アンモニウム、pH 6.8中)で溶液の脱塩を行った。[H]標識HSをプールし、アリコートを-20℃で保存した。
【0096】
実施例9:FITC-HSまたはFFITC-HS、およびFGFコーティングプレートを用いたへパラナーゼアッセイ法(FITC-HS/FGFアッセイ法)
FGF(1.97mg/ml)をPBSで希釈して18.75μg/mlとし、コスター社(Costar)の384ウェルソリッドブラックハイボンディングプレート(40μl/ウェル)上へのコーティングを4℃で一晩かけて行った。プレートを1%BSA/PBS(60μl/ウェル)により37℃で1時間かけてブロッキングし、PBS/0.02%Tween 20で洗浄した(60μl/ウェル、4回)。FITC-HSまたはFFITC-HS(0.15μg/ウェル/40μl PBS中、1%BSA、0.02%Tween 20)を添加し、37℃で1〜1.5時間インキュベートした。プレートをPBS/0.02%Tween 20で洗浄した(60μl/ウェル、3回)。トランスフェクトCHO細胞から得た粗へパラナーゼ(可溶化緩衝液中に総蛋白質5μgを含む、実施例2の「100kxg-sup」1μl)および精製へパラナーゼ(20ng)をそれぞれ40μlのアッセイ用緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH 5.0、0.2mg/ml BSA、5mM N-アセチルマンノースアミン、0.05%Triton X 100)で希釈し、各ウェルに加えて、37℃で30分間インキュベートした。5μl/ウェルの1M Tris-HCl、pH 8.0を添加することによって酵素反応を停止させた。次に溶液(35μl/ウェル)をマイクロタイタープレートに移し、ビクター2(Victor 2)リーダー(Perkin Elmer Life Sciences)で蛍光読み取りを行った(励起485nmおよび発光535nm)。
【0097】
実施例10:FGFコーティングプレート上でのFITC-HSを用いたハイスループットスクリーニング(HTS)へパラナーゼアッセイ法
HTS FITC-HS/FGFへパラナーゼアッセイ法を、1つの384ウェル用ピペッター、3つの96ウェルピペッター、2つの洗浄機、2つのマルチドロップ(Multidrop)ディスペンサー、4つのサイビドロップ(Cybidrop)ディスペンサー、3つのインキュベーター、および2つのツァイス(Zeiss)HTSリーダーを含むツァイス(Zeiss)uHTSシステムに実装した。マイクロタイタープレート(384ウェル)をFGFでコーティングし、BSAでブロッキングして4℃で最大3週間保存した。プレートをPBS/0.02%Tween 20で洗浄した後にFITC-HSとともにインキュベートした。へパラナーゼ消化のためには、実施例2の「100kxg-sup」(1μl/ウェル)から得た粗酵素を用いた。プレートの移動、液体の移行、および蛍光測定に関するすべての工程はロボットにより行った。
【0098】
全体的なシグナルとバックグラウンドの比は7.5であり(図9)、平均Z'係数は0.32であった(図10)。25μMの濃度で活性の65%以上を阻害する、へパラナーゼ触媒活性の阻害能力のある複数の物質が同定された。これらの阻害物質候補のいくつかは蛍光性物質であるため、それらの試験をツァイスuHTSを用いたEu-HS/FGFアッセイ法(実施例11)でも行い、試験結果が陽性であった物質がへパラナーゼ阻害物質であることを確認した。
【0099】
実施例11:FGFコーティングプレート上でのEu(DTPA)標識HSを用いたへパラナーゼアッセイ法(Eu-HS/FGFアッセイ法)
実施例9のようにFGFを384ウェルマイクロタイタープレートに対してコーティングした。プレートを1%BSA/PBS(50μl/ウェル)により37℃で1時間かけてブロッキングし、TBSで洗浄した(60μl/ウェル、3回)。Eu標識HS(40μl/ウェル、0.375μg/ml、TBS中、0.5%BSA、0.02%Tween 20)をプレートに添加し、37℃で1時間インキュベートした。続いてプレートをTBSで洗浄した(60μl/ウェル、3回)。粗へパラナーゼ((可溶化緩衝液中に総蛋白質5μgを含む、実施例2の「100kxg-sup」1μl)または精製ヘパラナーゼ(20ng)を40μlのアッセイ用緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH 5.4、0.2mg/ml BSA、5mM N-アセチルマンノースアミン、0.025%Triton X 100)で希釈し、各ウェルに加えて、37℃で30分間インキュベートした。1.0M Tris-HCl、pH 8.0(5μl/ウェル)の添加によって反応を停止させた。溶液(8μl/ウェル)をマイクロタイタープレートに移し、60μl/ウェルの増強溶液と混合して室温で30分間おいた。ウォレスビクター2(Wallace Victor 2)リーダーを用いて、EX(340nm)/EM(615nm)の波長で時間分解蛍光(TRF)を読み取ることによってシグナルを定量化した。
【0100】
実施例12:FGFコーティングプレート上でのEu-HSを用いたHTSへパラナーゼアッセイ法
Eu-HSを基質として用いるへパラナーゼアッセイ法を、ツァイスuHTSシステムに実装した。プレートの移動および液体の移行はロボットによって行った。TRFの測定はビクター2(Victor 2)リーダーによりオフライン形式で行った。
【0101】
実施例13:ストレプトアビジン(SA)コーティングプレート上でのFITC-HS-ビオチン(またはFFITC-HS-ビオチン)を用いたへパラナーゼアッセイ法(FITC-HS-ビオチン/SAアッセイ法)
FITC-HS-ビオチンを調製するために、HSをまずビオチン-LC-ヒドラジドで処理し、ビオチン基をHSの末端糖に結合させた。この結果得られたイミンをNaCNBHによってアミンに還元した。次に標識物質(ビオチン-HS)をゲル濾過カラムに通して濾過し、「方法」の項に記載した通りにFITCで標識した。図12Aは、SAコーティングプレートに対するFFITC-HS-ビオチンの濃度依存的な結合を示している。結合は1μg/ウェルのFFITC-HSビオチンを用いた時点でプラトーに達した。へパラナーゼアッセイ法に対しては、0.5μg/ウェルのFFITC-HS-ビオチンを用いた。SAコーティングプレート上に結合したFFITC-HSのへパラナーゼ濃度依存的な消化が図12Bに示されている。
【0102】
ストレプトアビジン(10μg/ml、PBS中、40μl/ウェル)を、384ウェルソリッドブラック表面強化型(Enhancement Surface)マイクロタイタープレート(Becton Dickinson)に対して4℃で一晩かけてコーティングした。プレートを1%BSA(PBS中)(40μl/ウェル)により37℃で1時間(または4℃で一晩)かけてブロッキングし、TBSで洗浄した(50μl/ウェル、3回)。FFITC-HS-ビオチン(40μl/ウェル、12.5μg/ml)(1%BSA、TBS中)をプレートに添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをTBSで洗浄した。ビオチン/SA相互作用は極めて厳密であるため(Kd=10−16M)、非常にわずかな物質(例えば、ビオチン様物質)でも相互作用を阻止しうると考えられる。粗へパラナーゼ(可溶化緩衝液中に総蛋白質5μgを含む、実施例2の「100kxg-sup」1μl)または精製へパラナーゼ(20ng)を40μlのアッセイ用緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH 5.4、0.2mg/ml BSA、5mM N-アセチルマンノースアミン)で希釈し、各ウェルに加えて、37℃で25分間インキュベートした。1M Tris-HCl、pH 8.0(5μl/ウェル)を添加し、35μl/ウェルの溶液をマイクロタイタープレートに移して蛍光測定を行った(励起470nmおよび発光535nm)。
【0103】
実施例14:SAコーティングプレート上でのEu-HS-ビオチンを用いたへパラナーゼアッセイ法(Eu-HSビオチン/SAアッセイ法)
ビオチン-HSをEu(DTPA)ITCで標識した。SAコーティングプレートに対するEu-HS-ビオチンの結合を図13Aに示しているが、これはFFITC-HS-ビオチンのものと類似している。へパラナーゼ濃度依存的な消化もFFITC-HS-ビオチンのものと類似している(図13B)。
【0104】
プレートをストレプトアビジンでコーティングし、上記の通りにBSAでブロッキングした。Eu-HS-ビオチン(40μl/ウェル、7.5μg/ml)(1%BSA、TBS中)をプレートに添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをTBSで洗浄した。粗へパラナーゼ(可溶化緩衝液中に総蛋白質5μgを含む、実施例2の「100kxg-sup」1μl)または精製へパラナーゼ(20ng)を40μlのアッセイ用緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH 5.4、0.2mg/ml BSA、5mM N-アセチルマンノースアミン)で希釈し、各ウェルに加えて、37℃で25分間インキュベートした。1M Tris-HCl、pH 8.0(5μl/ウェル)を添加し、8μl/ウェルの溶液を、60μl/ウェルの「増強溶液」を含むマイクロタイタープレートに移した。時間分解蛍光をビクター2(Victor 2)リーダーによって測定した。
【0105】
Eu-HS/FGFスクリーニングアッセイ法によってへパラナーゼの阻害能力があるものとして同定された物質を本アッセイ法(Eu-HS-ビオチン/SA)において試験した。その結果、どちらのアッセイ法もIC50は同程度であることが示された(データは示していない)。
【0106】
実施例15:FGFコーティングプレート上でのEu-HSを基質として用いたTRFへパラナーゼアッセイ法
へパラナーゼに対するTRFアッセイ法を開発するために、HSをEu-キレート(DTPA)ITCで標識した。図11はFGFコーティングプレートに対するEu-HSの濃度依存的な結合を示している。結合は20ng/ウェルのEu-HSでプラトーに達する。Eu-HS(15ng/ウェル)をFGFコーティングプレートとインキュベートし、TBSで十分に洗浄した上で、結合したEu-HSをへパラナーゼで消化した。図11Bは精製へパラナーゼによるEu-HSの時間依存的な消化を示している。30分間後にシグナルとバックグラウンドの比は8.0に達した。
【0107】
実施例16:IC50の決定
へパラナーゼ阻害活性に関する試験を行った物質のIC50の決定のために、物質をDMSO中に溶解して濃度を10mMとした。アリコート(4μl)をさらにDMSO(16μl)で希釈して濃度を2mMとした。DMSOによる1:3の連続希釈を行って0.1μM〜2mMの濃度範囲を得た。各試料をアッセイ用緩衝液でさらに25倍に希釈した。続いてアリコート(30μl/ウェル)を、固定化した基質を含むアッセイプレートに添加した。続いて精製へパラナーゼのアリコート(20ng/10μl/ウェル)を添加し、プレートを37℃で20〜30分間インキュベートした。1.0M Tris-HCl、pH 8.0(5μl/ウェル)の添加によって反応を停止させた。蛍光またはTRFをビクター2(Victor 2)リーダーで読み取ることによってシグナルを定量化した。種々の濃度の物質によるへパラナーゼ触媒活性の阻害率を以下の式によって算出した:
阻害率(%)=100×[1−(F−F)/(F−F)]
式中、Fは物質を含む試料の蛍光シグナルであり、Fはへパラナーゼおよび物質の非存在下における蛍光シグナルであり、Fはヘパラナーゼの存在下かつ物質の非存在下における蛍光シグナルである。
【0108】
実施例17:動態解析
本発明のFGF/標識ヘパラナーゼ基質においてへパラナーゼ活性を阻害すると判定された物質の機構分析を、物質の存在下で種々の濃度の標識HSの下でのへパラナーゼ活性を測定することによって行った。一般的には、種々の濃度の標識HSをアッセイプレートに固定化した。次にへパラナーゼ溶液(物質の存在下および非存在下)を、種々の濃度の固定化した標識HSを含むウェル(40μl/ウェル)に加え、37℃で25分間インキュベートした。1.0M Tris-HCl、pH 8.0(5μl/ウェル)の添加によって反応を停止させ、離れて標識を測定した。続いて、物質を含まない反応溶液のへパラナーゼ活性、および物質のへパラナーゼ阻害活性を定量化した。
【0109】
阻害物質の非存在下および種々の濃度の阻害物質の存在下におけるへパラナーゼ活性は、1/vに対して1/sをプロットする二重逆数プロットによって分析した(式中、vは反応速度であり、sは基質濃度である)。次に、阻害物質の阻害機構(競合、非競合、不競合または混合阻害)を、種々の阻害濃度に対して示された曲線の勾配および切片(x軸およびy軸)によって決定した。
【0110】
実施例18:へパラナーゼの基質としてのFFITC-HS(またはFITC-HS)
FFITC-HS(またはFITC-HS)を基質として用いるFGFコーティングプレート上でのへパラナーゼアッセイ法(実施例9)において、消化産物をゲル濾過FPLC分析によって分析した。トヨシマ(Toyoshima)は、FITCとHSとのモル比が1.0未満であればFITC-HSが基質となることを報告している(26)。HSをモル比0.6のFFITCで標識した(FITCのモル比も同じと思われる)。これがへパラナーゼ基質であることを確かめるために、消化産物をゲル濾過(スーパーロース6)-FPLCによって分析した(図1A)。比較のために、[H]HSを基質として同じくへパラナーゼによって消化し、産物をFPLCにより分析した(図1B)。いずれの場合にも、消化産物はほぼ同じ位置で溶出し、このことからFITC-HSおよび[H]HSがどちらもへパラナーゼの基質であることが示された。
【0111】
実施例19:FGFコーティングプレートに対するFFITC-HSの結合
384ウェルマイクロタイタープレート上にコーティングした種々の濃度のFGF(オリゴマー型)に対するFFITC-HSの結合を検討した。図2は、プレート上にコーティングしたFGF濃度が18.75μg/ml(または0.75μg/40μl/ウェル)の場合に結合がプラトーに達したことを示している。この結果から、FGFをpH 9.5の代わりにpH 7.5でコーティングした方がFFITC-HSの結合が高度であることも示された。同じ実験を単量体FGF(DTTにより還元した形態)で行った場合には、結合は低下した。観察された結合低下がコーティング効率の低さによるものか、それとも単量体FGF(分子量が約16k)の親和性の低さによるものかは明らかでない。FFITC-HSの結合はFGFをコスター社(Costar)の「ハイボンディング」プレートにコーティングした場合の方が「通常」プレートの場合よりも高度であることが明らかになった。図3は、18.75μg/mlの濃度でコーティングしたFGFに対するFFITC-HSの濃度依存的な結合を示している。結合は0.1〜0.2μg/ウェルのFFITC-HSを用いた場合にプラトーに達した。
【0112】
実施例20:FGFコーティングプレート上でのFFITC-HSのへパラナーゼ消化
FFITC-HSをFGFコーティングプレートに結合させ、トランスフェクトしたCHO細胞から得た「100kxg-sup」によって消化した(実施例2)。図4に示す通り、培地の蛍光強度は可溶化緩衝液よりも高く、このことから、へパラナーゼ消化によってFFITC-HS断片が培地中に遊離されたことが示された。対照として結合型FFITC-HSを非トランスフェクト細胞由来の「100kxg-sup」とともにインキュベートした場合には、蛍光の明らかな増加は認められなかった。FFITC-HSのへパラナーゼ濃度依存的な消化を図5に示している。培地中に遊離された蛍光強度は、用いるへパラナーゼの量が増えるに伴って比例して増加した。
【0113】
実施例21:FFITC-HSのへパラナーゼ消化に起因する蛍光強度の測定
培地中に認められた蛍光強度がFFITC-HSのへパラナーゼ消化に起因することを確認するために、4組の実験を行った。第1に、へパラナーゼ消化後の培地中の切断産物をスーパーロース6-FPLCによって分析した(図6)。蛍光物質は未処理のFFITC-HSよりも遅く溶出し、このことからそれらがへパラナーゼ反応によって生じたFFITC-HS断片であることが示された。第2に、FFITC-HSの時間依存的なへパラナーゼ消化を行った。加水分解の程度は、培地中への消化断片の遊離およびプレート上に残った未消化物質によってモニタリングした。図7に示す通り、上清中の蛍光強度は消化後に上昇したが、プレートに付随する蛍光強度は低下し、このことから完全なFFITC-HSが分解されて培地中に遊離されたことが示された。第3に、「100kxg-sup」におけるへパラナーゼ活性をさまざまなpHで測定し、活性に関して最適なpHが5.1であることを明らかにした(図8)。これは文献による報告とも一致する(Freeman, C.およびParish, C.(1998)、「ヒト血小板へパラナーゼ:精製、特徴分析および触媒活性(Human platelet heparanase: purification, characterization and catalytic activity)」、Biochem. J. 330、1341〜1350)。第4に、FFITC-HSを精製へパラナーゼで消化した。図4に示したものと類似した濃度依存的な消化曲線が同じく観察された。
図面に関するそれ以外の情報を以下に示す。
【0114】
図1:スーパーロース6-FPLCによるへパラナーゼ消化産物の分析
(A)FFITC-HS(20μl、1.9mg/ml)を80μlの50mM酢酸ナトリウム、pH 5.0、0.1mg/ml BSA、および5mM N-アセチルマンノースアミンで希釈した。アリコート(20μl)を、トランスフェクトしたCHO細胞で発現したへパラナーゼ、すなわち「100kxg-sup」(5μl、「方法」の項に記載した可溶化緩衝液中)により37℃で20時間かけて消化した。続いて試料をPBSで希釈し、スーパーロース6-FPLC(PBS中)に流速0.25ml/分でローディングした。0.5ml/画分を収集した。各画分のアリコート(25μl)を採取し、384ウェルマイクロタイタープレートに移して蛍光計測を行った。
【0115】
(B)H標識HS(20μl、2.6mg/ml)を(A)に述べた緩衝液で希釈した。アリコート(20μl)をへパラナーゼで消化し、その産物を(A)の記載の通りにスーパーロース6-FPLCによって分析した。各画分における放射能をシンチレーションカウンターによって測定した。
【0116】
図2:2つの異なるpHでのFGF濃度依存的なコーティング
FGF(1.81mg/ml)をPBS(pH 7.5)、または50mM NaCO、および100mM NaCl(pH 9.5)で希釈してさまざまな濃度(2.5μg/ml〜50μg/ml)とした。アリコート(40μl/ウェル)を384ウェルマイクロタイタープレート(コスター(Costar)社のブラックソリッド「ハイボンディング」プレート)に対して4℃で一晩かけてコーティングした。プレートを1%BSA(PBS中)により37℃で1時間ブロッキングし、PBSで洗浄した。FFITC-HS(1.5μg/ウェル/40μl、PBS中、1%BSA、0.02%Tween 20)を添加して37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.02%Tween 20で洗浄した。続いて結合物質を0.1%SDS(PBS中)によりプレートから溶出させ、蛍光強度によって定量化した。FUはビクター2(Victor 2)リーダーによって測定した蛍光単位である。
【0117】
図3:FGFコーティングプレートに対するFFITC-HSの濃度依存的な結合
FGF(18.75μg/ml、PBS中)を384ウェルプレート(40μl/ウェル)に対して4℃で一晩かけてコーティングし、1%BSA/PBSでブロッキングした。種々の量(0.012〜0.375μg/40μl/ウェル)のFFITC-HS(PBS、1%BSA、0.02%Tween 20中)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.02%Tween 20で洗浄した。結合物質を0.1%SDS(PBS中)によりプレートから溶出させ、蛍光強度によって定量化した。
【0118】
図4:トランスフェクトしたCHO細胞の発現産物によるへパラナーゼ活性
前記の通りにFGFをマイクロタイタープレートに対してコーティングし、FFITC-HSとともにインキュベートした。結合したFFITC-HSを、トランスフェクトしたCHO細胞、またはトランスフェクトしていないCHO細胞に由来する「100kxg-sup」試料(各ウェル内で可溶化緩衝液中の1μl試料を40μlのアッセイ用緩衝液で希釈)によって37℃で30分間処理した。対照として、結合したFFITC-HSを同じく可溶化緩衝液で処理した(各ウェル内で1μlの可溶化緩衝液を40μlのアッセイ用緩衝液で希釈)。1.0M Tris-HCl、pH 8.0(5μl/ウェル)によって反応を停止させた。アリコート(35μl/ウェル)を採取して蛍光読み取りを行った。
【0119】
図5:FGFコーティングプレート上でのFFITC-HSのへパラナーゼ濃度依存的な消化
FFITC-HS/FGFアッセイ法を、トランスフェクトしたCHO細胞に由来する「100kxg-sup」中の種々の量のへパラナーゼを用いた点を除き、記載した通りに行った。
【0120】
図6:FFITC-HS/FGFアッセイ法における消化産物のスーパーロース6-FPLC分析
粗へパラナーゼを用いたFFITC-HS/FGFアッセイ法を記載した通りに行った。消化の後に、培地(4つのウェルを合わせた140μl)中の反応混合物をスーパーロース6-FPLC(PBS中)にローディングした。画分を収集し、各画分における蛍光強度を図1の説明の通りに計測した。対照として、未処理のFFITC-HSを同じくスーパーロース6-FPLCにローディングして分析した。
【0121】
図7:へパラナーゼ消化の経時的推移
粗へパラナーゼを用いたFFITC-HS/FGFアッセイ法を記載した通りに行った。種々の消化の時点で、1.0M Tris-HClをウェルに添加して(5μl/ウェル)、反応を停止させた。切断されたFFITC-HS断片を蛍光測定によって分析するために上清を採取した(丸印)。プレート上に残った未消化FFITC-HSを0.1%SDS(PBS中)によって抽出し、蛍光測定によって分析した(三角印)。
【0122】
図8:へパラナーゼ活性のpH依存性
記載した通りに、FGFをマイクロタイタープレートに対してコーティングし、FFITC-HSとともにインキュベートした。粗へパラナーゼを、0.2mg/ml BSAおよび5mM N-アセチル-マンノースアミンを含む種々のpH(3.6〜7.0)の50mMクエン酸-NaHPO緩衝液中に希釈した。続いてへパラナーゼ反応を種々のpHにおいて37℃で1時間行った。結合したFFITC-HSを同じく種々のpHの緩衝液(へパラナーゼは含まない)とともにインキュベートし、バックグラウンドとして用いた。バックグラウンド蛍光を差し引いた後にへパラナーゼ活性を算出した。
【0123】
図9:ツァイス(Zeiss)uHTSを用いたFFITC-HS/FGFアッセイ法のシグナルおよびバックグラウンド
阻害物質のスクリーニングのためにFFITC-HS/FGFアッセイ法をツァイスuHTSシステムで行った。各々の384ウェルアッセイプレートに対して、カラム1および2のウェルにはアッセイ用緩衝液のみを含めた(すなわち、へパラナーゼおよび被験化合物を含まない)。これらのウェルの平均蛍光強度を「バックグラウンド」として用いた。カラム3および4のウェルにはへパラナーゼを含めたが、被験化合物は含めなかった。これらのウェルの平均蛍光強度を「総シグナル」として用いた。これらの2つの値を、特定の化合物による阻害率の算出に用いた(被験化合物はカラム5〜24のウェルに入れた)。スクリーニングの質を確かめるために、スクリーニングしたプレートからの「総シグナル」および「バックグラウンド」をプロットした。X軸はプレートIDを表し、Y軸は蛍光強度を表す。特定のプレートに対する「総シグナル」が平均±2標準偏差(M+/-2σ)よりも大きいか小さい場合には、そのプレートを再試験した。
【0124】
図10:ツァイスuHTSを用いたFFITC-HS/FGFアッセイ法のZ'係数
Z'係数を各アッセイプレートから以下の式によって算出した:
Z'係数=1−3(σ+σ)/(m−m
式中、m=総シグナルの平均(カラム3および4のウェル)、m=バックグラウンドの平均(カラム1および2のウェル)、σ=総シグナルの標準偏差、およびσ=バックグラウンドの標準偏差。スクリーニングの質を確かめるために、プレートのZ'係数をプロットした。X軸はプレートIDを表し、Y軸はZ'係数を表す。特定のプレートに対する「Z'係数」が平均±2標準偏差(M+/-2σ)よりも大きいか小さい場合には、そのプレートを再試験した。Z'値は約0.3〜0.7の範囲であり、アッセイ法の一致性および再現性が示された。
【0125】
図11:
(A)FGFコーティングプレートに対するEu-HSの結合
記載した通りに、384ウェルプレートをFGF(0.75μg/40μl/ウェル)でコーティングし、BSAでブロッキングした。続いてプレートを種々の量のEu-HSとともに37℃で1時間インキュベートし、TBSで洗浄した。次に、結合したEu-HSを0.1%SDS/TBS(40μl/ウェル)によってプレートから溶出させた。TRF測定のためにアリコート(8μl)を採取し、60μlの「増強溶液」と混合した。
【0126】
(B)FGFコーティングプレート上でのEu-HSのへパラナーゼ濃度依存的な消化
種々の量の精製へパラナーゼを用いた点を除いて、Eu-HS/FGFアッセイ法を記載した通りに行った。
【0127】
図12:
(A)SAコーティングプレートに対するFFITC-HS-ビオチンの結合
記載の通りに、384ウェルプレートをSAでコーティングした後にBSAでブロッキングした。続いてプレートを種々の量のFFITC-HS-ビオチンとともに37℃で1時間インキュベートし、TBSで洗浄した。次に、結合したFFITC-HS-ビオチンを0.1%SDS/TBS(40μl/ウェル)によってプレートから溶出させ、蛍光を測定した。
【0128】
(B)SAコーティングプレート上でのFFITC-HS-ビオチンのへパラナーゼ濃度依存的な消化
種々の量の精製へパラナーゼを用いた点を除いて、FFITC-HS-ビオチン/SAアッセイ法を記載の通りに行った。
【0129】
図13:
(A)SAコーティングプレートに対するEu-HS-ビオチンの結合
記載の通りに、384ウェルプレートをSAでコーティングした後にBSAでブロッキングした。続いてプレートを種々の量のEu-HS-ビオチンとともに37℃で1時間インキュベートし、TBSで洗浄した。結合したEu-HS-ビオチンを0.1%SDS/TBS(40μl/ウェル)によってプレートから溶出させた。TRF測定のためにアリコート(8μl)を採取し、60μlの「増強溶液」と混合した。
【0130】
(B)SAコーティングプレート上でのEu-HS-ビオチンのへパラナーゼ濃度依存的な消化
種々の量の精製へパラナーゼを用いた点を除いて、Eu-HS-ビオチン/SAアッセイ法を記載の通りに行った。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】Aは、スーパーロース6(Superose 6)-FPLCから溶出したFFITC-HSのへパラナーゼ消化産物を示す図である。Bは、スーパーロース6-FPLCから溶出したH-HSのへパラナーゼ消化産物を示す図である。
【図2】pH 7.5およびpH 9.5でのマイクロタイタープレートに対するFGFの濃度依存的な結合を示す図である。
【図3】FGFコーティングプレートに対するFFITC-HSの濃度依存的な結合を示す図である。
【図4】トランスフェクトしたCHO細胞の発現産物によるへパラナーゼ活性を示す図である。
【図5】FGFコーティングプレート上でのFFITC-HSのへパラナーゼ濃度依存的な消化を示す図である。
【図6】FFITC-HS/FGFへパラナーゼアッセイ法によるへパラナーゼ消化物のスーパーロース6-FPLC溶出を示す図である。
【図7】へパラナーゼ消化の経時的推移を示す図である。
【図8】へパラナーゼ活性のpH依存性を示す図である。
【図9】FFITC-HS/FGFアッセイ法におけるプレートIDと蛍光単位(FU)との関係をみた散布図であり、総へパラナーゼ活性シグナル、すなわち潜在的阻害物質の非存在下におけるへパラナーゼ添加後の消化物の平均蛍光強度を示すともに、バックグラウンドシグナル、すなわちアッセイ緩衝液の平均蛍光強度を示している。
【図10】表記したプレートに対して算出されたZ'係数を示した散布図である。
【図11】Aは、FGFコーティングプレートに対するEU-HSの濃度依存的な結合を示す図である。Bは、へパラナーゼ濃度と時間分解蛍光定量単位(TRF)との関係をみたプロットであり、FGFコーティングプレート上でのEu-HSのへパラナーゼ濃度依存的な消化を示している。
【図12】Aは、SAコーティングプレートに対するFFITC-HS-ビオチンの濃度依存的な結合を示す図である。Bは、SAコーティングプレート上でのFFITC-HS-ビオチンのへパラナーゼ濃度依存的な消化を示す図である。
【図13】Aは、SAコーティングプレートに対するEu-HS-ビオチンの濃度依存的な結合を、濃度とTRF測定値との関係をみたプロットとして示す図である。Bは、SAコーティングプレート上でのEu-HS-ビオチンのへパラナーゼ濃度依存的な消化を、濃度とTRF測定値との関係をみたプロットとして示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、線維芽細胞成長因子(FGF)とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力に関して物質を試験する方法:
固体支持体上に固定化したFGFを物質および標識ヘパラナーゼ基質と溶液中で相互作用させる段階、および
物質に線維芽細胞成長因子とへパラナーゼ基質との結合を阻害する能力があるか否かを判定するために、固体支持体から離れた溶液中の標識の有無を検出する段階。
【請求項2】
FGFとへパラナーゼ基質との結合の阻害物質を同定するための、請求項1記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−49996(P2007−49996A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243627(P2006−243627)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【分割の表示】特願2005−187856(P2005−187856)の分割
【原出願日】平成14年12月18日(2002.12.18)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】