説明

めっき処理方法

【課題】樹脂基材の成形時に凸部があったとしても、めっき処理後の表面の平滑化を安価に図ることができるめっき処理方法を提供する。
【解決手段】不飽和結合を有する樹脂基材11の基材表面に酸化処理を行う工程S2と、該酸化処理後の基材表面に、5mol/L以上の水酸化物イオン濃度となるアルカリ溶液を接触させて前記基材表面を平滑化処理する工程S3と、該平滑化処理工程後の基材表面に、無電解めっき処理を行う工程S4と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面に無電解めっき処理を行うめっき処理方法に係り、特に、めっき表面を平滑化することができるめっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、部材の軽量を図りつつ、高導電性や金属光沢等の金属特性を付与することができることから、高分子樹脂からなる樹脂基材の表面に、金属被膜を被覆することがなされている。該金属めっき処理の一例として、無電解めっき処理や、ドライプレーティング処理などがなされている。
【0003】
無電解めっき処理は、溶液中の金属イオンを化学的に還元析出させることにより、電気絶縁体である高分子樹脂の樹脂基材の表面に金属被膜を形成する処理である。この処理では、前処理として、樹脂素材をオゾン水で処理した後、界面活性剤入りのアルカリ処理液で処理を行うことや(例えば、特許文献1参照)、クロム酸や過マンガン酸によりエッチング処理を行うことが提案されている。このような処理により、基材表面のめっき付着性の向上、被膜の付着強度の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−309377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した方法でめっき処理を行った場合には、めっき表面に、ざらつきのある幅が数十μm、高さが数μmの凸部が形成されることがある。例えば、図7(a)に示すように、樹脂基材91の成形時に、表面に凸部P1が発生することがある。しかし、オゾン水処理を行った場合であっても、凸部P1は酸化されるものの除去されず、樹脂基材91の凸部P1が金属被膜93の表面に残存し、金属被膜93の表面に凸部P3が形成されることになる。
【0006】
このような場合には、成形時の樹脂基材の表面を平滑化処理すればよいが、樹脂成形条件(原料、成形金型、成形速度など)を厳密に調整しなければならず、製造工数が多大となり、製造コストが高くなるおそれがある。
【0007】
また、図7(b)に示すように、成形時の樹脂基材91の表面に凸部がなかったとしても、成形時の樹脂基材91の表層に、脆弱層91aが形成される場合もある。そして、金属被膜の被覆時には、脆弱層91aに圧縮応力(めっき応力)が作用し、樹脂基材91に対して脆弱層91aの一部が膨れて凸部P2となり、この凸部P2により、金属被膜93の表面にも凸部P3が形成されることがある。
【0008】
また、図7(c)に示すように、成形後の樹脂基材91の表面に、オゾン水処理を行った場合には、オゾン処理時のラジカルによる劣化で脆弱層91bが形成される場合がある。この脆弱層91bにより、図7(b)に示したことと同様の理由で、金属被膜93の表面に凸部が形成されることがある。
【0009】
また、図7(d)に示すように、樹脂基材91の成形後に、エッチング処理を行えば、樹脂基材91の凸部は除去される。しかしながら、エッチングにより樹脂基材91の表面は粗化されるので、より平滑性の高い金属被膜を被覆しようとした場合には、レベリング剤を含有するめっき液を用いて、金属被膜の厚みを数十μmまで厚くしなければならず、工数が多大となり、コスト面で不利である。レベリング剤は、めっき処理と共に消費されるが、含有させるレベリング剤の管理幅は狭く、レベリング剤の補給も含め、その管理が容易ではない。また、エッチング液として、クロム酸や過マンガン酸を使用せねばならず、耐環境性を考慮した使用が必要となる。
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂基材に凸部や脆弱層があったとしても、金属被膜の表面の平滑化を安価に図ることができるめっき処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、樹脂基材の表面のめっき処理の前処理として、水酸化物イオン濃度の高い(pHが大きい)アルカリ溶液(強アルカリ溶液)を用いれば、樹脂基材の表面の凸部を優先的に除去することができるばかりではなく、樹脂基材の表面の凸部の起因となる脆弱層をも除去することができるとの新たな知見を得た。
【0012】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係るめっき処理方法は、不飽和結合を有する樹脂基材の基材表面に酸化処理を行う工程と、該酸化処理後の基材表面に、5mol/L以上の水酸化物イオン濃度となるアルカリ溶液を接触させて前記樹脂基材の表面を平滑化処理する工程と、該平滑化処理後の基材表面に、無電解めっき処理を行う工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、酸化処理後の樹脂基材の表面に、前記水酸化物イオン濃度となるアルカリ溶液を接触させることにより、成形後に形成される樹脂基材の凸部及び凸部の起因となる脆弱層を除去することができるばかりでなく、その後、酸化処理により形成される樹脂基材の表面の脆弱層までも除去することができる。これにより、無電解めっき処理により、平滑化処理された金属被膜(めっき被膜)の表面をえることができる。
【0014】
すなわち、水酸化物イオン濃度が、5mol/Lよりも小さい場合には、樹脂基材の凸部及び脆弱層を充分に除去することができず、この結果として、無電解めっき処理後の金属被膜の表面に凸部が形成されてしまう。なお、これまでの界面活性剤入りのアルカリ溶液は、基材表面の濡れ性を高めて、金属触媒を吸着させるための界面活性剤を付着させることを目的としているため、水酸化物イオン濃度は、平滑化処理の濃度よりも低いものであった。よって、樹脂基材の平滑化まで至らない。
【0015】
また、酸化処理としては、例えば、オゾン処理、紫外線処理、プラズマ処理、または、過マンガン酸やクロム酸などの各種酸化剤を用いた処理などを挙げることができ、基材表面層を酸化することができるのであれば、特に、限定されるものではないが、より好ましくは、前記酸化処理は、オゾン処理である。本発明によれば、オゾン処理は、他の酸化処理に比べて、樹脂基材の表面を粗化することなく、好適に樹脂基材の基材表面及び表面層を酸化することができる。
【0016】
前記オゾン処理としては、樹脂基材の基材表面をオゾン水に接触させるオゾン水処理、樹脂基材の基材表面をオゾンガスに接触させるオゾンガス処理などを挙げることができるが、このなかでも、オゾンガス処理がより好ましい。
【0017】
オゾン水処理の場合には、オゾンによる樹脂基材の酸化だけではなく、オゾン水に含まれるヒドロキシラジカルによる樹脂基材の酸化も誘発され、樹脂基材が劣化するおそれがあるが、オゾンガス処理を行った場合には、オゾンによる樹脂の酸化のみが発生するので、樹脂の劣化は発生しないと考えられる。
【0018】
また、アルカリ溶液としては、前記アルカリ溶液は、アルカリ金属水酸化物を含む溶液、又は、アルカリ土類金属水酸化物を含む溶液が好ましい。たとえば、アルカリ金属水酸化物を含む溶液、又はアルカリ土類金属を含む溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、水酸化カルシウム溶液、又は、水酸化マグネシウム溶液などを挙げることができ、前記水酸化物イオン濃度を満たすことができるものであれば、特に限定されるものではないが、本発明に係るめっき処理方法に用いるアルカリ溶液は、好ましくは、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、又は、炭酸ナトリウム溶液であり、このなかでもより好ましくは水酸化ナトリウム溶液である。
【0019】
本発明によれば、これらの溶液は、前記水酸化物イオン濃度のアルカリ溶液にすることができる。特に、水酸化ナトリウム溶液は、水酸化物イオンを前記濃度条件することが容易にできるので、より好適である。
【0020】
また、本発明に係るめっき処理方法に用いる樹脂基材は、不飽和結合を有する樹脂としては、例えばABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂、エポキシ樹脂、PMMA樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂などを挙げることができるが、より好ましくは、樹脂基材は、ABS樹脂からなることがより好ましい。
【0021】
ABS樹脂は、ブタジエン粒子と、このブタジエン粒子のマトリクス樹脂となるAS樹脂と、を含む樹脂であるが、本発明によれば、酸化処理において、基材表層に存在するブタジエン粒子が溶出して抜け出し、さらに、マトリクス樹脂であるAS樹脂が酸化される。そして、この基材表面の酸化したAS樹脂が、アルカリ溶液に接触することにより、膨潤して溶出するので、樹脂基材の凸部のみならず樹脂基材の脆弱層をも除去することができる。この結果として、樹脂基材の表面に平滑な金属被膜を形成することができる。
【0022】
さらに、本発明に係るめっき方法における無電解めっき処理の前処理として、前記平滑化処理後の処理表面に、界面活性剤を含むアルカリ溶液を接触させ、基材表面に界面活性剤を付着させる工程と、金属触媒を吸着させる触媒吸着処理を行う工程と、を含むことがより好ましい。
【0023】
本発明によれば、界面活性剤を含むアルカリ溶液を接触させることにより、樹脂基材の表面の濡れ性を向上させ、好適に界面活性剤を樹脂基材の表面に付着させることができる。ここで、アルカリ溶液の水酸化物イオンの濃度は、樹脂基材の界面活性剤を付着させるべく樹脂基材の表面の濡れ性を向上させる程度のものであれば、十分であり、先に示す平滑化処理におけるアルカリ溶液の水酸化物イオンの濃度よりも十分低いものである。
【0024】
また、このような無電解めっき処理を行うめっき材料としては、例えば銅、ニッケル等を挙げることができ、無電解めっきにより、樹脂基材の表面に金属被膜が形成されるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい金属触媒は、パラジウム触媒であり、無電解めっきを行うめっき材料は、ニッケルである。パラジウム触媒は、上述した樹脂に対して吸着性において優れ、かつ、汎用性に富んでおり、ニッケルを形成する場合には、密着性等の観点から好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、樹脂基材に凸部や脆弱層があったとしても、金属被膜の表面の平滑化を安価に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1(a)は、本実施形態に係るめっき処理方法の各工程を説明するためのフロー図であり、図1(b)は、図1(a)に示すめっき処理方法で製造された無電解めっき材の模式図。
【図2】図2(a)は、成型後の樹脂基材を示した図であり、図2(b)は、オゾン水処理後の樹脂基材を示した図であり、図2(c)は、平滑化処理後の樹脂基材を示した図。
【図3】図3(a)は、成形後の基材表面に凸部又は脆弱層が形成された樹脂基材を示した図であり、図3(b)は、オゾン水処理後の樹脂基材を示した図であり、図3(c)は、オゾン水処理後の基材表面に、アルカリ処理を行わずに無電解めっき処理をおこなった樹脂基材を示した図であり、図3(d)は、オゾン水処理後の基材表面に強アルカリによる平滑化処理を行った樹脂基材を示した図であり、図3(e)は、平滑化処理後の表面に無電解めっき処理を行った無電解めっき材を示した図。
【図4】実施例1及び比較例1における平滑化処理工程における水酸化物イオン濃度と、金属被膜に形成される凸部の密度との関係を示した図。
【図5】確認試験1における平滑化処理工程における水酸化ナトリウムの液温と、金属被膜に形成される凸部の密度との関係を示した図。
【図6】確認試験2における平滑化処理工程における水酸化ナトリウムの浸漬時間と、金属被膜に形成される凸部の密度との関係を示した図。
【図7】図7(a)は、従来のめっき処理を説明するための図であり、図7(b)は、基材の成形時に脆弱層が形成された場合のめっき処理を説明するための図であり、図7(c)は、オゾン水処理時に脆弱層が形成された場合のめっき処理を説明するための図であり、図7(d)は、エッチング後のめっき処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、模式的に示した図面を参照して、本発明に係る樹脂基材へのめっき処理方法の実施形態に基づいて説明する。図1(a)は、本実施形態に係るめっき処理方法の各工程を説明するためのフロー図であり、図1(b)は、図1(a)に示すめっき処理方法で製造された無電解めっき材を示している。図2(a)は、成型後の樹脂基材を示しており、図2(b)は、オゾン水処理後の樹脂基材を示しており、図2(c)は、平滑化処理後の樹脂基材を示している。
【0028】
まず、図1(a)に示すように、ステップS1において、ABS樹脂などの不飽和結合を有する樹脂から基材(樹脂基材)を成形する(成形工程)。基材の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出成形など各種成形方法を採用することができる。樹脂基材にABS樹脂を用いた場合には、図2(a)に示すように、樹脂基材11は、ブタジエン粒子11bと、このブタジエン粒子11bのマトリクス樹脂となるAS樹脂11aと、を含む構造となる。
【0029】
そして、ステップS2において、不飽和結合を有する樹脂基材の基材表面に酸化処理を行う。具体的には、少なくとも金属被膜を被覆する基材表面(処理表面)に、オゾン水を接触させる(酸化処理工程)。このオゾン水処理において、基材の表面層に存在するブタジエン粒子が溶出して抜け出し、マトリクス樹脂であるAS樹脂が酸化された酸化層12が形成される。その酸化層12の表層には、脆弱層が含まれる。
【0030】
ステップS3において、酸化処理後の基材表面に、5mol/L以上の水酸化物イオン濃度となる水酸化ナトリウム水溶液を接触させた強アルカリ処理により、樹脂基材11の表面を平滑化処理する(平滑化処理工程)。
【0031】
この際、図2(c)において、この基材表面の酸化層のAS樹脂が、強アルカリ溶液に接触することにより、膨潤して溶出するので、樹脂基材11の基材表面を好適に平滑化処理することができる。すなわち、後述するように、樹脂基材の凸部のみならず樹脂基材の酸化層12のうち表層の脆弱な層(脆弱層)をも除去することができる。なお、この平滑化処理工程において、樹脂基材の表面粗さは、目安として、中心線平均粗さRa0.05〜0.2μm、又は、十点平均粗さRz0.5〜2μmの範囲にすることが好ましい。
【0032】
その後、ステップS4に示すように、基材表面に、無電解めっき処理により金属被膜を被覆する(無電解めっき処理工程)。具体的には、まず、アルカリ処理を行う。このアルカリ処理において、平滑化処理工程後の表面に、界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させる。
【0033】
界面活性剤は、後述するパラジウム触媒の吸着性を高めるためのものであり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤を挙げることができる。アルカリ溶液のアルカリ成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどを挙げることができ、ナトリウムなどのアルカリ金属を処理表面に付与することができる。さらに、界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましく、水を代表的に用いることができるが、場合によってはアルコール系溶媒あるいは水−アルコール混合溶媒を用いてもよい。
【0034】
アルカリ処理により、後述する触媒吸着処理工程において、処理表面へのパラジウム触媒の吸着性を高めることができるが、所望の量のパラジウム触媒を吸着することができるのであれば、このアルカリ処理工程を省略してもよい。
【0035】
次に、触媒吸着処理において、アルカリ処理された処理表面を、塩酸水溶液に塩化パラジウム及び塩化錫が溶解した触媒溶液中(キャタライザー)に浸漬する。これにより、基材の処理表面にパラジウム触媒を吸着させる。そして、処理表面を酸性溶液に接触させて、パラジウム触媒の活性化を図る。
【0036】
その後、無電解めっき処理において、該触媒吸着処理後の処理表面に、ニッケルめっき液を浸漬させて、ニッケルを表面に析出させて、図1(b)に示すように、触媒吸着処理を行った処理表面に、無電解ニッケルの金属被膜13を形成する。
【0037】
以下に、成形後の樹脂基材の基材表面に凸部又は脆弱層が形成された場合にめっき処理方法について詳述する。図3(a)は、成形後の基材表面に凸部又は脆弱層が形成された樹脂基材を示した図であり、図3(b)は、オゾン水処理後の樹脂基材を示した図であり、図3(c)は、オゾン水処理後の処理表面に、アルカリ処理を行わずに無電解めっき処理を行った樹脂基材を示した図である。図3(d)は、オゾン水処理後の基材表面に強アルカリにより平滑化処理を行った樹脂基材を示した図であり、図3(e)は、平滑化処理後の表面に無電解めっき処理を行った樹脂基材を示した図である。
【0038】
具体的には、図3(a)に示すように、成型後の樹脂基材11の表面に、凸部P1が形成されたり、脆弱層11dが形成されたりする。次に、図3(b)に示すように、オゾン水処理を行った場合であっても、樹脂基材11に含有するブタジエン粒子11bは、溶出し、樹脂基材11の表面層が酸化されるが(酸化層12が形成されるが)、凸部P1及び脆弱層11dが残存する。
【0039】
そして、図3(c)に示すように、この状態の樹脂基材11の基材表面に、アルカリ処理、触媒吸着処理を経て、金属被膜を被覆した場合であっても、凸部P1及び脆弱層11dにより、金属被膜13には、凸部P3が形成される。
【0040】
しかしながら、図3(d)に示すように、本実施形態の如く、オゾン水処理後の基材表面に対して、強アルカリ溶液に接触することにより、膨潤して溶出する。この結果、樹脂基材の凸部P1及び脆弱層11dのみならず、樹脂基材の酸化層12のうち表層の脆弱層をも除去することができるので、樹脂基材11の基材表面を好適に平滑化することができる。このようにして得られた樹脂基材11の表面に対して、図3(e)に示すように、無電解めっき処理を行うことにより、金属被膜13の表面の平滑化を図ることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
まず、樹脂基材として、ABS樹脂(UMGABS社製、めっきクレード)の樹脂基材を準備した。次に、酸化処理として、成形した樹脂基材の基材表面に対して、オゾン濃度40ppm、処理温度20℃、浸漬時間8分の条件で、オゾン水処理を行った(酸化処理工程)。
【0042】
次に、水酸化ナトリウム濃度条件として図4に示す●の条件で、5mol/L以上の水酸化ナトリウム水溶液に50℃、10分間、樹脂基材を浸漬させて(強アルカリ処理)、基材表面の平滑化処理を行った(平滑化処理工程)。すなわち、水酸化ナトリウムは、電離度が1.0であるので、この水溶液に含まれる水酸化物イオン濃度は、5mol/L以上となる。
【0043】
次に、アルカリ処理として、NaOHを50g/L溶解するとともに、ラウリル硫酸ナトリウムを1g/L溶解した混合水溶液を60℃に加熱し、そこへ平滑化処理工程後の樹脂基材を2分間浸漬して陰イオン性界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を吸着させた。
【0044】
陰イオン界面活性剤が吸着した樹脂基材を引き上げ、水洗・乾燥後、3N塩酸水溶液に塩化パラジウムを0.1質量%溶解するとともに塩化錫を5質量%溶解し50℃に加熱された金属触媒溶液中に3分間浸漬し、次いでパラジウムを活性化するために、1N塩酸水溶液に3分間浸漬した。これにより基材表面に金属触媒が吸着させた。
【0045】
その後、40℃に保温されたNi−P化学めっき浴中に樹脂基材を浸漬し、10分間Ni−Pめっき被膜(金属被膜)を析出させた。析出したNi−Pめっき被膜の厚さは0.5μmである。さらに硫酸銅系Cu電気めっき浴にて、Ni−Pめっき被膜の表面に銅めっきを5μm析出させた。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同じように、樹脂基材にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、酸化処理工程において、オゾン水処理の代わりにオゾンガス処理を行った点である。具体的には、成形した樹脂基材の基材表面に対して、オゾンガス200g/m、接触時間8分の条件で、オゾンガス処理を行った。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同じように、樹脂基材にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、平滑化処理工程において、水酸化ナトリウム濃度条件として図4に示す○の条件で、5mol/L未満の水酸化ナトリウム水溶液に50℃、10分間、樹脂基材を浸漬させた点である。
【0048】
(比較例2)
実施例1と同じように、樹脂基材にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、平滑化処理工程において、オゾン水処理の処理条件として、3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に50℃、5分間、樹脂基材を浸漬させた点である。
【0049】
(比較例3)
実施例1と同じように、樹脂基材にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、強アルカリ処理を行わず、酸化処理後の基材表面に、以下に示すアルカリ処理を行った点である。具体的には、1mol/LのNaOHの水溶液に、ラウリル硫酸ナトリウムを1g/L溶解した混合水溶液を60℃に加熱し、そこへ平滑化処理工程後の樹脂基材を2分間浸漬して陰イオン性界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を吸着させた。
【0050】
(比較例4)
実施例1と同じようにして、樹脂基材にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、強アルカリ処理を行う代りに、クロム酸400g/L、硫酸200g/Lの溶液に、樹脂基材を浸漬させることにより、樹脂基材の表面をクロム酸エッチングし、表面が平滑化処理されるまで(被膜厚さ50μmまで)、銅めっきを行った点である。
【0051】
(比較例5)
実施例1と同じようにして、樹脂基材を準備した。次に、樹脂基材の基材表面に、アンダーコートを塗布した後、銅スパッタリングを行った。アンダーコート処理では、2液式のウレタン塗剤の第一剤および第二剤を混合し、基材表面に、この混合剤(アンダーコート剤)を塗布した。その後、70℃で、この塗布したアンダーコート剤を60分間硬化させた。ここで、ウレタン塗布剤の第一剤としては、日本ウレタン社製のポリオールを用い、第二剤としては、武田薬品社製のポリイソシアネートを用いた。
【0052】
そして、ドライプレーティングとして、到達真空度:0.02〜0.04Pa、スパッタリングガス圧(Ar+窒素):0.1〜0.5MPa、スパッタ電力:1.3〜3W/cmの条件で、基材表面(アンダーコートの表面)に銅スパッタリングにより銅被膜を被覆した。
[評価方法]
実施例1、2、比較例1〜5に示す被膜の被膜厚さ、および被膜表面の凸部の密度(凸密度)を測定した。この結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
[結果]
実施例1及び2に示すように、5mol/L以上のナトリウム水溶液、すなわち、水酸化物イオンが、5mol/L以上の場合には、オゾン水処理後の樹脂基材の表面が平滑化され、これにより、金属被膜の表面には、凸部が形成されなかったと考えられる。しかしながら、比較例4のようにクロム酸エッチングを行った場合には、エッチング時に表面が粗化されるため、被膜の厚さを大きくしなければ、被膜の表面の平滑化を図ることができない。
【0055】
(確認試験1)
実施例1と同じようにして、樹脂基材にめっき処理をおこなった。実施例1と相違する点は、平滑化処理における水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5mol/Lとし、図5に示す溶液の温度で、液温を一定として、10分間、樹脂基材を浸漬した点である。そして、これらの樹脂基材の表面に被覆された金属被膜の凸部の密度を測定した。この結果を、図5に示す。
【0056】
(結果2)
図5に示すように、水酸化ナトリウム水溶液の温度が、30℃以上であれば、確実に、被膜の凸部の発生を抑制することができる。
【0057】
(確認試験2)
実施例1と同じようにして、樹脂基材にめっき処理をおこなった。実施例1と相違する点は、平滑化処理における水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5mol/L、液温50℃一定とし、図6に示す浸漬時間で、樹脂基材を浸漬した点である。そして、これらの樹脂基材の表面に被覆された金属被膜の凸部の密度を測定した。この結果を、図6に示す。
【0058】
(結果3)
この結果より、水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間が、10分以上であれば、確実に、被膜の凸部の発生を抑制することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
11:樹脂基材、12:酸化層、13:金属被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する樹脂基材の基材表面に酸化処理を行う工程と、
該酸化処理後の基材表面に、5mol/L以上の水酸化物イオン濃度となるアルカリ溶液を接触させて前記基材表面を平滑化処理する工程と、
該平滑化処理後の基材表面に、無電解めっき処理を行う工程と、を含むめっき処理方法。
【請求項2】
前記酸化処理はオゾン処理であり、前記アルカリ溶液は、アルカリ金属水酸化物を含む溶液、又は、アルカリ土類金属水酸化物を含む溶液であることを特徴とする請求項1に記載のめっき処理方法。
【請求項3】
前記樹脂基材は、ABS樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−270389(P2010−270389A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125653(P2009−125653)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000157049)関東化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】