説明

めっき後処理剤組成物

【課題】リン酸ナトリウム溶液処理よりも有効な耐溶融接合性向上めっき後処理剤を開発し提供する。
【解決手段】ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物から選ばれる一種又は二種以上を含有する溶液、ならびに、当該溶液に複素環式含窒素化合物又はその塩、脂肪族又は芳香族のアミン、又は炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸又は該カルボン酸と前記アミンとの塩から選ばれる一種又は二種以上を含有させ、溶液pHが7以下の酸性領域に調整された耐溶融接合性向上めっき後処理組成物を用いることによって、極めて効果的にすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すず及びすず合金めっき皮膜の表面の変色を防止し、もってめっき皮膜のはんだ付け性等の溶融接合性を向上させるための組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
すず及びすず合金材料は溶融接合金属材料として古くから使用されており、鉄ならびに非鉄金属の接合ロウ材に用いられている。また、近年では、電気・電子製品の回路形成において、電気配線接合個所に予めすず又はすず合金のめっき皮膜が被覆され、溶融接合性の容易さや確実性を確保している。
【0003】
従来のすず又はすず−鉛合金めっき皮膜の溶融接合性の向上には、めっき処理後にリン酸ナトリウム溶液による後処理が行われてきた。ところが、鉛フリーはんだめっきに対してリン酸ナトリウム溶液による処理を行った場合に、その効果が十分でなかったり、場合によっては悪影響さえ出るケースがあった。このため、リン酸ナトリウム溶液処理に代わる鉛フリーめっき皮膜に対する有効な溶融接合性の向上を目的としためっき後処理剤の開発が望まれている。
【0004】
リン酸ナトリウム溶液以外のすず又はすず合金に対する処理剤としては、例えば、特開平7−188942には、「銅または銅合金表面にすずまたはすず合金をめっきしためっき材表面に、リン酸エステルを0.1g/L以上含む酸化防止液または亜リン酸エステルを0.1g/L以上含む酸化防止液またはこれらの混合酸化防止液を塗布し、これらの有機皮膜をめっき材表面に形成する」ことが開示されている。
特開2005−206860には「次の成分(a)および(b):(a)ホスホン酸、アミノアルキレンホスホン酸、ヒドロキシアルキルホスホン酸、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸またはそれらの塩から選ばれる酸成分の一種または二種以上、(b)チオ尿素、アルキルチオ尿素、フェニルチオ尿素およびアリルチオ尿素から選ばれるチオ尿素誘導体の一種または二種以上、を含有するスズまたはスズ合金めっきの変色除去・防止剤。」が開示されている。
特開2005−240093には「リン酸を含有し、所望により、有機スルホン酸を含有する水溶液にグリコールエーテルを添加してなる錫系合金めっき皮膜のリフロー後の変色防止剤。上記変色防止剤浴に錫系合金めっき皮膜を浸漬し、水洗後乾燥する処理を行うことにより、リフロー性の良好なめっき皮膜が得られ、かつリフロー後変色を起こさないめっき皮膜を得ることが可能となる。」ことが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−188942号公報
【特許文献2】特開2005−206860号公報
【特許文献3】特開2005−240093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの技術は一定の効果は示すけれども、従来のリン酸ナトリウム溶液処理よりも遙かに優れた溶融接合性、ひいては経時変化後でも良好な溶融接合性を確保するために十分に満足するものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物から選ばれる一種又は二種以上を含有する溶液のpHを7以下の酸性領域に調整した溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物を用いることによって、極めて効果的にすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明1は、下記成分(a):
(a)ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物及びそれらの塩から選ばれる一種又は二種以上を必須成分として含有し、溶液のpHが7以下の酸性領域に調整された、すず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0009】
本発明2は、上記本発明1において、更に、下記成分(b−1)〜(b−3):
(b−1)複素環式含窒素化合物又はその塩、
(b−2)脂肪族又は芳香族のアミン、
(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸又は該カルボン酸と前記(b−2)との塩
から選ばれる化合物の一種又は二種以上を必須の成分として含有するすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0010】
本発明3は、上記本発明2において、前記(b−1)複素環式含窒素化合物がイミダゾール類であるすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0011】
本発明4は、上記本発明2において、前記(b−1)複素環式含窒素化合物がピラゾール類又はインダゾール類であるすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0012】
本発明5は、上記本発明2において、前記(b−1)複素環式含窒素化合物がピリジン誘導体であるすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0013】
本発明6は、上記本発明2〜5において、前記(b−2)脂肪族又は芳香族のアミンがモノプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0014】
本発明7は、上記本発明2〜5において、前記(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸類がカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ドデカン二酸、安息香酸であるすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0015】
本発明8は、上記本発明1〜7において、更に、(c)アミンカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸及びそれらの塩の一種又は二種以上を含有するすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0016】
本発明9は、上記本発明8において前記(c)のアミンカルボン酸がニトリロトリ酢酸であるすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0017】
本発明10は、上記本発明8において前記(c)のヒドロキシカルボン酸がグルコン酸であるすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0018】
本発明11は、上記本発明1〜10において、更に、アルコール類、グリコール類、ケトン類、アルコールエーテル類又は界面活性剤の少なくとも一種を含有するすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【0019】
本発明12は、上記本発明1〜11において、前記すず合金めっき皮膜が銅、亜鉛、銀、インジウム、アンチモン、金、ビスマス、鉛から選ばれる金属の少なくとも一種とすずとの合金であるすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の、溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物溶液は、すず又はすず合金めっきの後処理として、めっき物を当該溶液に浸漬することによって、めっき表面に吸着するめっき添加剤等の溶融接合時に悪影響を及ぼす有機物を除去し、すず又はすず合金めっき表面の溶融接合性の向上に適用されると共に、該めっき表面の酸化の進行を抑制し、もって長期間に亙ってのすず又は錫合金めっき皮膜の溶融接合性の維持、経時劣化の防止のために適用できる効果的な組成物であって、工業的に広く利用しうるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のすず又はすず合金表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物について詳しく説明する。
本発明のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるためのめっき後処理剤組成物は、下記成分(a):
(a)ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物及びそれらの塩から選ばれる一種又は二種以上、
を必須成分として含有し、溶液のpHが7以下の酸性領域に調整された、めっき後処理剤組成物である。
【0022】
(a)ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物としては、例えば、次式:
(CH2−PO322NR
(式中、Rは
H、
低級アルキル基、
CH2−PO32
(CH2m−N(CH2−PO322基、又は
(CH2n−N(CH2−PO32)−(CH2m−N(CH2−PO322
を表わし、
m及びnはそれぞれ1〜3の整数である。)
で表わされるもの及びそれらの塩、例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。これらのうちでも、特に、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩類等が好適に用いられ、それらの中でも、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩が一層好適に用いられる。
【0023】
上記アミノ窒素を有する化合物は、1〜400g/Lの濃度範囲で好適に用いられる。10〜300g/Lの範囲で更に好適に用いられる。
【0024】
本発明のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるためのめっき後処理剤組成物には、更なる性能向上の複合剤として第2成分の(b−1)複素環式含窒素化合物又はその塩、(b−2)脂肪族又は芳香族のアミン、又は(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸又は該カルボン酸と前記(b−2)との塩、から選ばれる化合物の一種又は二種以上を含有させることが出来る。
【0025】
該(b−1)複素環式含窒素化合物としては、テトラゾール類、イミダゾール類、ベンズイミダゾール類、ピラゾール類、インダゾール類、チアゾール類、ベンゾチアゾール類、オキサゾール類、ベンゾオキサゾール類、ピロール類、又はインドール類、ピリジン類、トリアゾール類及びそれらの誘導体等が好適に用いられる。これらの中で、テトラゾール類、イミダゾール類、ベンズイミダゾール類、ピラゾール類、インダゾール類、チアゾール類、ベンゾチアゾール類、オキサゾール類、ベンゾオキサゾール類、ピロール類、又はインドール類、ピリジン類及びそれらの誘導体等が一層好適に用いられる。そのうちイミダゾール類、ピラゾール類、インダゾール類、ピリジン類が更に好適に用いられる。これらに含まれる化合物を更に具体的に下に示す。
【0026】
イミダゾール類の中では、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、2−アミノイミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、イミダゾール−4−カルボン酸、ベンズイミダゾール、1−メチルベンズイミダゾール、2−メチルベンズイミダゾール、2−エチルベンズイミダゾール、2−ブチルベンズイミダゾール、2−オクチルベンズイミダゾール、2−フェニルベンズイミダゾール、2−トリフルオロメチルベンズイミダゾール、4−メチルベンズイミダゾール、2−クロロベンズイミダゾール、2−ヒドロキシベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メチルチオベンズイミダゾール、5−ニトロベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール−5−カルボン酸、トリス(2−ベンズイミダゾリルメチル)アミン、2,2'−テトラ(又はオクタ)メチレン−ジベンズイミダゾール、等であり、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリス(2−ベンズイミダゾリルメチル)アミン、2,2'−テトラ(又はオクタ)メチレン−ジベンズイミダゾールが更に好適に用いられる。
【0027】
ピラゾール類又はインダゾール類の中では、ピラゾール、3−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−トリフルオロメチルピラゾール、3−アミノピラゾール、ピラゾール−4−カルボン酸、4−ブロモピラゾール、4−ヨードピラゾール、インダゾール、5−アミノインダゾール、6−アミノインダゾール、5−ニトロインダゾール、6−ニトロインダゾール等が好適に用いられ、ピラゾール、3−アミノピラゾールが一層好適に用いられる。
ピリジン類の中では、ニコチンアミド、ニコチン酸が挙げられ、極めて好適に用いられる。
【0028】
イミダゾール類、ピラゾール類、インダゾール類以外の上述の化合物類、即ち、テトラゾール類、チアゾール類、ベンゾチアゾール類、オキサゾール類、ベンゾオキサゾール類、ピロール類、又はインドール類等の具体例としては、テトラゾール及びその誘導体としては、テトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、5−メルカプト−1−フェニルテトラゾール等が、チアゾール又はベンゾチアゾール及びその誘導体としては、チアゾール、4−メチルチアゾール、5−メチルチアゾール、4,5−ジメチルチアゾール、2,4,5−トリメチルチアゾール、2−ブロモチアゾール、2−アミノチアゾール、ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2,5−ジメチルベンゾチアゾール、2−フェニルベンゾチアゾール、2−クロロベンゾチアゾール、2−ヒドロキシベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メチルチオベンゾチアゾール等が、オキサゾール又はベンゾオキサゾール及びその誘導体としては、イソオキサゾール、アントラニル、ベンゾオキサゾール、2−メチルベンゾオキサゾール、2−フェニルベンゾオキサゾール、2−クロロベンゾオキサゾール、2−ベンゾオキサゾリノン、2−メルカプトベンゾオキサゾール等が、ピロール又はインドール及びその誘導体としては、ピロール、2−エチルピロール、2,4−ジメチルピロール、2,5−ジメチルピロール、ピロール−2−カルボキシアルデヒド、ピロール−2−カルボン酸、4,5,6,7−テトラヒドロインドール、インドール、2−メチルインドール、3−メチルインドール、4−メチルインドール、5−メチルインドール、6−メチルインドール、7−メチルインドール、2,3−ジメチルインドール、2,5−ジメチルインドール、2−フェニルインドール、5−フロロインドール、4−クロロインドール、5−クロロインドール、6−クロロインドール、5−ブロモインドール、4−ヒドロキシインドール、5−ヒドロキシインドール、4−メトキシインドール、5−メトキシインドール、5−アミノインドール、4−ニトロインドール、5−ニトロインドール、インドール−3−カルボキシアルデヒド、インドール−2−カルボン酸、インドール−4−カルボン酸、インドール−5−カルボン酸、インドール−3−酢酸、3−シアノインドール、5−シアノインドール等が好適に用いられる。
【0029】
これらの化合物は、0.1〜50g/Lの範囲で好適に用いられ、1〜30g/Lの範囲で一層好適に用いられる。
【0030】
(b−2)脂肪族又は芳香族のアミンとしては、モノプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノ−2−エチルヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、2−ピペコリン、ピロリジン、3−メトキシプロピルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N−アミノプロピルモルホリン等が好適に用いられ、中でもモノプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等が一層好適に用いられる。
【0031】
(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、安息香酸、フタル酸等が好適に用いられる。中でもカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ドデカン二酸、安息香酸等が一層好適に用いられる。
上記カルボン酸、アミンあるいはそれらの塩の添加濃度は、0.1〜100g/Lが好適に用いられる。
【0032】
本発明のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物には、更に、(c)アミンカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸及びそれらの塩の一種又は二種以上を含有させることができる。これらのカルボン酸の添加によって、効果を高めることができる。作用の機構は明らかではないが、当該溶液に浸漬する時点ですず或いはすず合金めっき表面上に形成されている微量の酸化物を除去する作用が向上し、(a)ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物や(b−1)複素環式含窒素化合物又はその塩、(b−2)脂肪族又は芳香族のアミン、(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸又は該カルボン酸と前記(b−2)との塩等の金属表面への吸着を容易にし、また吸着量の増大に寄与しているのではないかと推測される。
【0033】
アミンカルボン酸としてはエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、イミノジプロピオン酸(IDP)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、エチレンジオキシビス(エチルアミン)−N,N,N′,N′−テトラ酢酸等が好適に用いられ、中でもニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)が一層好適に用いられる。
ヒドロキシカルボン酸としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、グルコン酸が好適に用いられる。中でも溶解度の点からグルコン酸が一層好適に用いられる。加水分解によって溶液中でヒドロキシカルボン酸を生成するグルコノラクトン等を用いることもできる。
これら上記の酸類は、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩の形で添加することもできる。
【0034】
これらアミンカルボン酸或いはヒドロキシカルボン酸は、1〜300g/Lの範囲で好適に用いられ、10〜200g/Lの範囲で一層好適に用いられる。
【0035】
本発明の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物溶液は、pH7以下の酸性領域で効果を発揮し、強酸性においても十分な効果を発揮するが、溶液のpHが7以上のアルカリ領域になると効果は小さくなる。一層好ましくはpH3〜0.5の領域である。当該ホスホン酸が酸性であるので、通常は調製した溶液は効果を発揮する酸性領域となるが、原料として当該ホスホン酸の塩を用いたり、他の化合物を添加することによって溶液がアルカリ領域になる場合には、酸を加えて酸性領域に調整することが必要である。pHメータで確認しながら添加すればよい。
また、一層好適なpH3以下の領域を保つために、pH緩衝作用のある成分を更に添加することもできる。前述の錯化作用のあるヒドロキシカルボン酸塩を添加することによってpH緩衝作用を持たせることもできるが、更に別の緩衝剤、例えばほう酸、リン酸、酢酸等の塩類等を利用することもできる。
【0036】
溶液pHが7以下の酸性領域を保つために添加する酸の種類としては、公知の硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸及びスルホン酸等の有機酸のいずれをも用いることができ、スルホン酸としてはアルカンスルホン酸及びアルカノールスルホン酸等の脂肪族スルホン酸が好適に用いられる。上記アルカンスルホン酸としては、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、2−ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などが挙げられる。上記アルカノールスルホン酸としては、具体的には、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸(イセチオン酸)、2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸(2−プロパノールスルホン酸)、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタン−1−スルホン酸などの外、1−ヒドロキシプロパン−2−スルホン酸、3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、4−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシヘキサン−1−スルホン酸などが挙げられる。
【0037】
本発明の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物には、更にアルコール類、グリコール類、ケトン類、アルコールエーテル類又は界面活性剤の少なくとも一種を含有させることができる。対象物を本発明の組成物用液に浸漬した際に、該対象物表面に微細な気泡が付着して処理ムラが生じることを防いだり、細かい隙間のある対象物の場合に、隙間まで浸透して未処理部分が生じることを防止することができる。また、界面活性剤を添加した場合に、泡の発生が作業上の妨げになることがあるので、そのような場合には消泡剤やアルコール類等の消泡性のある化合物を更に添加することもできる。
【0038】
アルコール類、グリコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキシルアルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール等が好適に用いられ、中でもエタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等が一層好適に用いられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトンが好適に用いられる。アルコールエーテル類としては、メチルセロソルブ、ブチルカルビトール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好適に用いられ、中でもメチルセロソルブ、ブチルカルビトールが一層好適に用いられる。
【0039】
界面活性剤は公知のものがいずれも利用でき、ノニオン、カチオン、アニオン、両性のいずれの界面活性剤であってもよい。アルコール類、グリコール類、ケトン類、アルコールエーテル類又は界面活性剤の濃度は0.1〜30g/lが好適に用いられる。
【0040】
本発明の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物は、すず及びすず合金の表面の変色を防止するために好適に用いられる。すず合金としては具体的には、銅、亜鉛、銀、インジウム、アンチモン、金、ビスマス、鉛から選ばれる金属の少なくとも一種とすずとの合金に好適に用いられる。
銅、亜鉛、銀、ビスマス、鉛から選ばれる金属の少なくとも一種とすずとの合金及びすずが一層好適に用いられる。本発明は鉛フリーはんだ付け皮膜用に発明されたものではあるが、すず−鉛系皮膜に対しても良好な効果を発揮するので、すず−鉛系皮膜に対しても極めて効果的に適用できる。
更に、めっきによって得られたそれらすず及びすず合金には一層好適に適用される。
【0041】
本発明の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物の使用方法は、下記に限定されるものではないが、一般的な使用方法としては、めっきを施したのち、中和・水洗等の通常の工程を経て、該組成物溶液に浸漬し、その後、水洗・乾燥を行う。通常、浴温15〜40℃、浸漬時間10〜120秒で行われる。
【0042】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得るものである。
【実施例】
【0043】
(溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物)
以下の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物を調合した。全て残部はイオン交換水である。
組成例1
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸) 15g/L
【0044】
組成例2
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸) 100g/L
ニトリロトリ酢酸 5g/L
メタンスルホン酸 1g/L
【0045】
組成例3
エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)ナトリウム 55g/L
インダゾール 0.1g/L
グルコン酸ナトリウム 5g/L
2−プロパノールスルホン酸にてpH3に調整。
【0046】
組成例4
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸) 170g/L
ニコチン酸 25g/L
グルコン酸ナトリウム 60g/L
リン酸(85%) 10g/L
【0047】
組成例5
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸) 70g/L
3−メチルピラゾール 0.3g/L
ニトリロトリ酢酸 5g/L
メタンスルホン酸 1g/L
【0048】
組成例6
エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸) 120g/L
酒石酸カリウムナトリウム 7g/L
2−プロパノールスルホン酸 3g/L
【0049】
組成例7
エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸) 18g/L
ベンズイミダゾール 0.2g/L
リン酸にてpH5に調整。
【0050】
組成例8
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸) 200g/L
カプリル酸 1g/L
クエン酸ナトリウム 8g/L
硫酸にてpH6に調整。
【0051】
組成例9
エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸) 220g/L
【0052】
組成例10
エチレンジアミンペンタ(メチレンホスホン酸) 80g/L
【0053】
比較組成例1
トリス(2−ベンズイミダゾリルメチル)アミン 5g/L
グルコン酸ナトリウム 50g/L
リン酸にてpH2に調整。
【0054】
比較組成例2
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸) 100g/L
オレイン酸のジシクロヘキシルアミン塩 5g/L
グルコン酸ナトリウム 50g/L
NaOHにてpH9に調整。
【0055】
比較組成例3
りん酸三ナトリウム 30g/L
処理液温度40℃にて、30秒間浸漬処理。
【0056】
(めっき浴)
以下のめっき浴を用いてめっき試験片を作成した。
めっき浴(1)
下記の組成ですずめっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
硫酸第一すず(Sn2+として) 10g/L
フェノールスルホン酸 60g/L
ポリエチレンポリプロピレングリコールエーテル 2g/L
α−ナフトール 0.5g/L
浴温 20℃
陰極電流密度 0.4A/dm2
【0057】
めっき浴(2)
下記の組成ですず−銀合金めっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
エタンジスルホン酸すず(Snとして) 8g/L
スルホコハク酸銀(Agとして) 0.2g/L
EDTA2Na・2H2 O 30g/L
ピロリン酸K 80g/L
ヨウ化カリ 100g/L
ポリプロピレングリコールノニルフェニルエーテル 5g/L
ベンザルアセトン 0.005g/L
pH 4
浴温 20℃
陰極電流密度 0.1A/dm2
【0058】
めっき浴(3)
下記の組成ですず−金合金めっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
スルホプロピレン酸すず(Snとして) 2g/L
メルカプトコハク酸金(Auとして) 3g/L
酒石酸カリウム 40g/L
クエン酸 80g/L
pH(KOHにて) 4.5
浴温 40℃
陰極電流密度 0.7A/dm2
【0059】
めっき浴(4)
下記の組成ですず−ビスマス合金めっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
硫酸第一すず(Snとして) 10g/L
硫酸ビスマス(Biとして) 2g/L
キシレンスルホン酸 100g/L
ラウリルアルコールポリエトキシレート 5g/L
浴温 20℃
陰極電流密度 0.5A/dm2
【0060】
めっき浴(5)
下記の組成ですず−銅合金めっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
スルホコハク酸 100g/L
硫酸銅(Cuとして) 5g/L
スルホプロピオン酸すず(Snとして) 24g/L
1837N[(CH2CH2O)4H]2 0.6g/L
浴温 25℃
陰極電流密度 1A/dm2
【0061】
めっき浴(6)
下記の組成ですず−インジウム合金めっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
メタンスルホン酸錫(Snとして) 5g/L
スルファミン酸インジウム(Inとして) 5g/L
スルホコハク酸ナトリウム 80g/L
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 3g/L
ベンズアルデヒド 0.05g/L
pH 2.7
浴温 30℃
陰極電流密度 0.75A/dm2
【0062】
めっき浴(7)
下記の組成ですず−亜鉛合金めっき浴を建浴した。めっき条件も同時に示した。
メタンスルホン酸錫(Snとして) 20g/L
スルホコハク酸亜鉛(Znとして) 6g/L
スルホコハク酸 300g/L
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー 15g/L
ブチルアルデヒドモルホリン縮合物 0.01g/L
ジアセチル 0.01g/L
pH 2.5
浴温 25℃
陰極電流密度 0.8A/dm2
【0063】
(溶融接合性試験)
試験試料は、厚さ0.3mm、10×30mmの銅板と直径550μmの銅球に上記めっき浴(1)〜(7)を用いて、銅板には5μm、銅球には15μmのめっきを施した後、所定の後処理を行い試験に供した。
溶融接合性向上のためのめっき後処理操作は、めっき後に水洗を行ない、30℃に加温した上記該組成物溶液に30秒間浸漬し、水洗・乾燥を行った。
溶融接合試験は、同等のめっき皮膜品種と後処理方法で作成した銅板上に銅球を搭載して、窒素ガス雰囲気550℃に設定した加熱炉に試料を挿入して溶融接合した。尚、接合に際しては市販のロジン系フラックスを使用した。次いで、接合した試料銅板を固定した後、銅球を治具に固定して引っ張る方法(デイジ社製プル強度試験機3000型)にて接合強度を測定した。
接合強度は、本測定から得られたプル強度で比較評価した。
また、本発明のめっき後処理該組成物溶液の処理効果が、経時後の接合強度に与える効果については、溶融接合試験前に、各試料を温度100℃、湿度100%RH、24時間の水蒸気エージング条件下に設置する加速経時を行った後に、溶融接合試験に供した。
【0064】
組成例及び比較組成例とめっき試料を組み合わせて接合強度を比較した結果を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
また、加速経時試験後の接合強度を比較した結果を表2に示した。
【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a):
(a)ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物及びそれらの塩から選ばれる一種又は二種以上、
を必須成分として含有し、溶液のpHが7以下の酸性領域に調整された、すず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項2】
更に下記成分(b−1)〜(b−3):
(b−1)複素環式含窒素化合物又はその塩、
(b−2)脂肪族又は芳香族のアミン、
(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸又は該カルボン酸と前記(b−2)との塩、
から選ばれる化合物の一種又は二種以上を必須の成分として含有する請求項1に記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項3】
前記(b−1)複素環式含窒素化合物がイミダゾール類である請求項2に記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項4】
前記(b−1)複素環式含窒素化合物がピラゾール類又はインダゾール類である請求項2に記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項5】
前記(b−1)複素環式含窒素化合物がピリジン誘導体である請求項2に記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項6】
前記(b−2)脂肪族又は芳香族のアミンがモノプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンである請求項2〜5のいずれかに記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項7】
前記(b−3)炭素数6〜24の直鎖又は分岐の脂肪族カルボン酸がカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ドデカン二酸、安息香酸である請求項2〜6のいずれかに記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項8】
更に、(c)アミンカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸及びそれらの塩の一種又は二種以上を含有する請求項1〜7のいずれかに記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項9】
前記(c)のアミンカルボン酸がニトリロトリ酢酸である請求項8に記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項10】
前記(c)のヒドロキシカルボン酸がグルコン酸である請求項8に記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項11】
更に、アルコール類、グリコール類、ケトン類、アルコールエーテル類又は界面活性剤の少なくとも一種を含有する請求項1〜10のいずれかに記載のすず又はすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。
【請求項12】
前記すず合金が、銅、亜鉛、銀、インジウム、アンチモン、金、ビスマス、鉛から選ばれる金属の少なくとも一種とすずとの合金である請求項1〜11のいずれかに記載のすず合金めっき表面の溶融接合性を向上させるめっき後処理剤組成物。