説明

めっき用光沢剤の製造方法

【課題】高価な原料と入手困難になりつつある反応試薬を用いる従来のめっき用光沢剤としてのSPSの製造方法の課題を解決する。
【解決手段】めっき光沢剤としてめっき浴に添加される、下記化1に示される化合物を製造する際に、原料として用いる下記化2で示される化合物を、ヨウ素のみを酸化剤に用いて酸化処理し、ジスルフィド化することを特徴とする。
【化1】


【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はめっき用光沢剤の製造方法に関し、更に詳細にはめっき用光沢剤として用いられるジスルフィド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解銅めっき、特に基板に形成したヴィアやスルーホールを銅で充填する電解銅めっきでは、光沢剤として下記化1に示すSPS[ビス−(3−スルホプロピル)−ジスルフィド二ナトリウム(Bis-(3-sulfopropyl)-disulfide disodium salt)]が用いられている(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【0003】
【化1】

かかるSPSは、環状化合物である1,3−プロパンサルトンを、下記化2に示す反応で開環して合成することが知られている。
【0004】
【化2】

【特許文献1】特開2005−171347号公報
【特許文献2】特開2005−179736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記化2に示す反応で原料として用いる1,3−プロパンサルトンが高価であるため、得られるSPSの製造コストが高くなる。更に、反応試薬の二硫化ナトリウム(NaS)が入手困難になりつつある。
そこで、本発明は、高価な原料と入手困難になりつつある反応試薬を用いる従来のめっき用光沢剤としてのSPSの製造方法の課題を解決し、安価な原料と容易に入手できる反応試薬とを用い、SPSを安価に製造できるめっき用光沢剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するには、原料としてチオール又はメルカプト基(SH基)を有する直鎖状化合物を用い、この直鎖状化合物を酸化処理することによってジフルフィド化することが有効であると考えて検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、めっき光沢剤としてめっき浴に添加される、下記化1に示される化合物を製造する際に、原料として用いる下記化2で示される化合物を、ヨウ素のみを酸化剤に用いて酸化処理し、ジスルフィド化することを特徴とするめっき用光沢剤の製造方法にある。
【0007】
【化3】

【0008】
【化4】

かかる本発明において、ヨウ素が水に溶解するように、ヨウ化ナトリウムを添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原料として下記化5に示すMPS[3−メルカプト−1-プロパンスルホン酸ナトリウム(3-Mercapto-1-propanesulfonic acid sodium salt)]を用いる。このMPSは、従来のSPSの製造方法で原料として用いる1,3−プロパンサルトンに比較して安価である。
【0010】
【化5】

また、MPSは、直鎖状化合物であるため、1,3−プロパンサルトン等の環状化合物の開環に必要な反応試薬である二硫化ナトリウム(NaS)を用いることを要しない。このため、比較的弱い酸化剤であるヨウ素のみを用いてMPSを酸化処理し、ジフルフィド化できる。
その結果、原料としてMPSを用い、反応試薬として二硫化ナトリウム(NaS)等を用いる従来の製造方法に比較して、安価で且つ容易にめっき用光沢剤であるSPSを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、原料として下記化6に示すMPSを用いる。市販されており、容易に入手できるからである。
【0012】
【化6】

かかるMPSを、酸化剤としてヨウ素のみを用いて酸化処理し、ジフルフィド化する。この際に、酸化剤としてのヨウ素に硫酸や塩酸を併用すると、得られるSPS中に不純物として硫酸ナトリウムや塩酸ナトリウムの無機塩が生成するため、無機塩を除去する除去操作を必要とする。
この点、硫酸や塩酸等の酸を併用することなく、酸化剤としてヨウ素のみを用いる本発明の方法では、硫酸ナトリウムや塩酸ナトリウムの無機塩が生成せず、無機塩を除去する除去操作を要しない。このため、製造工程の簡易化を図ることができる。
かかるMPSを酸化剤としてヨウ素のみを用いて酸化処理し、ジフルフィド化する反応は、大気圧下で80℃程度の温度で行うことができる。
また、ヨウ素が水に溶解し易いように、ヨウ化ナトリウムを添加することが好ましい。かかるヨウ化ナトリウムの添加量は、ヨウ素/ヨウ化ナトリムのモル比率が1/1〜2/1となる範囲とすることが好ましい。
【0013】
この様に、MPSを酸化剤としてヨウ素のみを用いて酸化処理し、ジフルフィド化する反応の反応機構は、下記化7に示すものと考えられる。
【0014】
【化7】

上記化7の反応機構において、(1)の反応は、メルカプタン化合物のSH基とヨウ素とが反応して不安定中間体のSI基を有する化合物とヨウ酸(HI)を生成する。この(1)の反応は進行し難い反応であって、ここが律速段階であると考える。(1)の反応に続いて(2)の反応において、不安定中間体のSI基が未反応のメルカプタン化合物と反応してジスルフィドヨウ素水素付加体を生じる。更に、(3)の反応において、ジスルフィドヨウ素水素付加体からヨウ素が脱離してジスルフィドが生じる。(2)及び(3)の反応はスムーズに進行する。
尚、(1)〜(3)の全反応は可逆反応である。
【0015】
上記化7に示す様に、1モルのメルカプタンに対して、0.5モルのヨウ素が存在すれば反応は理論的に成立するが、ジスルフィド側に反応を進行させるためには、ヨウ素を理論値以上に加えることが好ましい。
この様に、酸化処理が施された反応溶液は、濃縮して析出してきた生成物中にSPSが含まれている。このため、得られた生成物を、エタノール等のアルコール溶媒を用いて溶解・再結晶を複数回行うことによって精製されたSPSを得ることができる。かかる溶解・再結晶の工程で、反応系中の過剰のヨウ素やヨウ化ナトリウムを、簡単に除去できる。
得られたSPSは、電解銅めっき等のめっきの光沢剤として用いることができる。
【実施例1】
【0016】
(1)ヨウ素溶液の調整
ビーカー(300ml)にヨウ素9.15g(36.1mmmol)、ヨウ化ナトリウム3.45g(23.0mmol)及び水180mlを加え、室温で攪拌してヨウ素溶液とした。
(2)SPSの合成
ビーカー(100ml)にMPS1.04g(5.84mmol)と水10mlとを加え攪拌してMPSを溶解した後、予め調整したヨウ素溶液70mlと沈殿していたヨウ素粉末とをビーカーに徐々に加えた。
引き続いて、ビーカー中の溶液を攪拌しつつ、浴温を80℃に保持して4時間30分間反応させた後、ビーカーを室温下で一晩放置した。
その後、ビーカー中の反応液を濃縮して得られた褐色の固体にジエチルエーテル約60mlを加え、固体を細かく砕きながら濾過した。
濾過して得られたケーキをビーカー(100ml)に移し、エタノール60mlを加えて室温で3時間攪拌してから濾過してケーキを得た。このケーキをビーカー(100ml)に移し、エタノール/水の混合比率が40ml/10mlの混合溶媒を加え、浴温70℃で溶解させた後、室温まで放冷して再結晶した。
更に、析出した結晶を濾過して得た白色固体を少量のエタノールで洗浄した後、ジエチルエーテルで洗浄し、減圧乾燥して白色粉末を得た。得られた白色粉末は496mgであって、収率は47.9%であった。
【実施例2】
【0017】
実施例1で得た白色粉末について、下記に示す方法で同定を試みた。
(1)鉛沈殿試験
実施例1で得た白色粉末について、メルカプト基(SH基)を有するか否かを確認すべく鉛沈殿試験を行った。
この鉛沈殿試験では、メルカプト基(SH基)を有する化合物は、下記化8に示す化学式によってSH基と鉛とが反応して生成した鉛メルカプチドが沈殿を生じさせる。
【0018】
【化8】

かかる鉛沈殿試験では、ビーカー(100ml)に酢酸鉛三水和物5gとエタノール50mlとを加えて室温下で1時間攪拌した後、しばらく放置してから上澄液を分取して酢酸鉛のエタノール飽和溶液とする。
一方、サンプル管(3ml)に、実施例1得た白色粉末10mgと水1mlとを加え、白色粉末を溶解した溶液を得た。次いで、サンプル管中の溶液に、酢酸鉛のエタノール飽和溶液を数滴加えて沈殿の有無を確認したが、沈殿は生じなかった。
【0019】
(2)赤外分光分析
実施例1で得た白色粉末について、Nicolet社製のフーリエ変換赤外分光分析器[Nexus670+Continuum(商品名)]を用いてフーリエ変換赤外分光分析を行った。この分光分析は、メルカプト基(SH基)の有無を定性的に確認するものであり、メルカプト基が残留していれば、2500〜2600cm−1付近にSH基の特性吸収が発現する。
実施例1で得た白色粉末の赤外吸収スペクトルを図1に示す。図1に示す吸収スペクトルでは、2500〜2600cm−1付近にSH基の特性吸収は見られず、実施例1で得た白色粉末にはメルカプト基を有していないことが判る。
(3)示差走査熱量分析
実施例1で得た白色粉末について示差走査熱量分析を行った。実施例1で得た白色粉末の重量減少が開始される温度は294℃であった。
MPSの重量減少が開始される温度は228℃であり、SPSの融点は265℃であるため、実施例1で得た白色粉末はSPSと考えられる。
【0020】
(4)液体クロマトグラフ質量分析
実施例1で得た白色粉末について、アジレント社製の液体クロマトグラフ質量分析装置[LC-MSD Trap(商品名)]を用いて液体クロマトグラフ質量分析を行い、そのチャートを図2に示す。
この液体クロマトグラフ質量分析では、SPSが得られていれば、質量数(m/z)331.0にピークが出現し、原料のMPSが残っていれば、質量数(m/z)154.9にピークが出現する。
図3に示すチャートでは、質量数(m/z)331.0に大きなピークが出現しており、質量数(m/z)154.9にはピークは出現しなかった。従って、実施例1で得た白色粉末は、SPSである。
【0021】
(5)誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)
実施例1で得た白色粉末について、日本ジャーレル・アッシュ(株)社製の誘導結合プラズマ発光分析装置[575 MarkII(商品名)]を用いて誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)を行った。このICP分析によって、得られた白色粉末中のSPSの純度を判断した。
実施例1で得た白色粉末を水に溶かして数十ppmの濃度とし、誘導結合プラズマ発光分析装置で測定した結果から、硫黄(S)とナトリウム(Na)との重量比(S/Na比)を求めたところ、3.05であった。
純粋なSPSでは、S/Na比は2.78であるため、実施例1で得た白色粉末中のSPSの純度は90%以上とすることができた。
【比較例1】
【0022】
実施例1のSPSの合成において、96%の硫酸4mlを添加した他は、実施例1と同様にして白色粉末を得た。
この白色粉末について、実施例2と同様に、誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)を行ったところ、S/Na比は1.62となった。この白色粉末中のSPSの純度は、58%程度であった。白色粉末中に、NaI等の不純物が多いためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で得た白色粉末の赤外吸収スペクトルを示すチャートである。
【図2】実施例1で得た白色粉末についての液体クロマトグラフ質量分析で得られたチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき光沢剤としてめっき浴に添加される、下記化1に示される化合物を製造する際に、
原料として用いる下記化2で示される化合物を、ヨウ素のみを酸化剤に用いて酸化処理し、ジスルフィド化することを特徴とするめっき用光沢剤の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
ヨウ素が水に溶解するように、ヨウ化ナトリウムを添加する請求項1記載のめっき用光沢剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297221(P2008−297221A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142458(P2007−142458)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】