説明

めっき装置

【課題】装置構成を簡単にして、良好なめっきを行うことができるめっき装置を提供する。
【解決手段】混合分散部60には、CO2タンク21、分散促進剤タンク41及びめっき液タンク51が接続されている。混合分散部60は、めっき槽61に接続されている。このめっき槽61には、電解めっきを行うための一対の電極が設けられている。混合分散部60は、CO2タンク21からCO2、分散促進剤タンク41から分散促進剤及びめっき液タンク51からめっき液を混合させて分散状態にし、めっき分散体を生成する。このめっき分散体をめっき槽61に流し続ける。めっき槽61では、電極に通電するとともに、供給されためっき分散体を排出し続けてめっきを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば超臨界流体など、めっき液の拡散力を高める拡散流体を用いてめっきを行うめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、良好なめっきを行うために、超臨界流体を用いためっき方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1においては、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素は、一様かつ安定させた後、攪拌室に導いて攪拌し、供給系を介して反応槽へ流入させる。そして、反応槽内において、二酸化炭素と電解質溶液(めっき液)と界面活性剤とを攪拌、分散させ、乳濁状態を形成したところで、制御弁を閉弁し、反応槽を供給系から遮断する。すなわち、めっき時には、反応槽を周辺の管路から遮断して、前記乳濁状態の二酸化炭素と電解質溶液(めっき液)と界面活性剤の分散若しくは撹拌流体を反応槽内に閉じ込めて、めっき液中のニッケルを被処理物の表面に析出させる。この特許文献1では、粘度がほぼゼロの超臨界流体を用いるため、拡散性を向上させることができるとしている。
【特許文献1】特開2004−60032号公報(図1〜図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、反応槽内において、二酸化炭素とめっき液と界面活性剤との乳濁状態を長時間に亘って維持する必要がある。このため、使用可能な界面活性剤の種類が、乳化状態が安定な化合物に限定される。しかしながら、このような界面活性剤が必ずしも良好な皮膜特性を実現するとは限らない。
【0004】
また、特許文献1に記載の技術では、めっき時に供給系から反応槽を遮断しているため、十分な電解質溶液(めっき液)を反応槽内に蓄積しておく必要がある。特に、超臨界流体又は亜臨界流体を用いるために、反応槽内を高圧に維持することが必要であり、その分、装置構成が大きくなるという問題があった。
【0005】
また、めっきに伴う発熱を冷却し、温度圧力も制御する必要があった。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされ、その目的は、装置構成を簡単にして、良好なめっきを行うことができるめっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、めっき液を供給する第1供給手段と、前記めっき液に混合され、このめっき液の拡散力を高める拡散流体を供給する第2供給手段と、前記第1供給手段及び前記第2供給手段に接続され、前記拡散流体と前記めっき液と該めっき液の分散を促進する分散促進剤とを含有するめっき分散体を形成するための混合分散手段と、前記混合分散手段から供給されるめっき分散体を用いて、被めっき材にめっきを行うためのめっき槽と、めっき処理中に継続して、前記めっき槽に前記めっき分散体を供給する注入手段と、めっき処理中に継続して、前記めっき槽から前記めっき分散体を排出する排出手段とを備えていることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のめっき装置において、前記めっき分散体が、分散状態を維持可能な時間内で前記めっき槽を通過するように、前記めっき分散体の流速を調整するために前記注入手段、前記排出手段を制御する制御手段を設けたことを要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のめっき装置において、前記めっき槽が、着脱可能であることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載のめっき装置において、前記拡散流体は、超臨界流体又は亜臨界流体であることを要旨とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のめっき装置において、前記拡散流体は、二酸化炭素であることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1つに記載のめっき装置において、前記分散促進剤がフッ素系化合物であることを要旨とする。
【0010】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、めっき処理中において、めっき液の分散状態が良好なめっき分散体を、めっき槽に継続して注入することができる。従って、めっき槽内では、拡散流体に対するめっき液の分散状態が良好であり、かつ拡散流体によってめっき液の拡散力が高められためっき分散体によって、めっきが行われるため、付き回りがよい良好なめっき皮膜を形成することができる。このため、めっき分散体の分散安定性が維持される時間が短い場合であっても、めっき液の分散状態が良好なめっき分散体を、めっき槽に継続して注入することができるため、良好なめっきを行うことができる。
【0011】
また、めっき槽からめっき処理中にめっき分散体を継続して排出するため、被めっき材から剥離した不純物やめっき処理により発生したガスが、拡散流体に溶解して被めっき材に再付着せずに、めっき槽から排出される。従って、ピンホールの原因となるガスが迅速に排出されるので、ピンホールの生成が抑制されて、良好なめっきを行うことができる。また、めっきの剥離の原因となる不純物を迅速に排出することができ、めっき液の汚染が少ない状態でめっきを行うことができるので、より良好なめっきを行うことができる。ひいては、めっきの膜厚を更に薄くすることが可能となる。更に、めっき分散体がめっき槽から連続的に排出されるので、めっき処理において発生した熱が、めっき分散体とともに、めっき槽から速やかに放出される。従って、めっき処理の発熱に伴いめっき槽の温度を調整するための機構を不要にすることができる。また、めっき槽に、めっき分散体を攪拌するための装置を設ける必要がない。よって、めっき槽を簡単にして、小形にすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、制御手段は、超臨界流体とめっき液とのめっき分散体が、分散状態を維持したままめっき槽を通過するように、めっき分散体の流速を調整する。このため、めっき槽においては、安定した均一の分散状態のめっき分散体を用いて、めっきが行われる。従って、より均一なめっきを行うことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、被めっき材を収容しためっき槽が着脱可能である。このため、被めっき材に多層めっきを行う場合、めっき処理を行うめっき装置に、順次めっき槽を付け替えることにより、めっき槽の内圧を大気圧まで低下させずに、異なるめっきを連続的に施すことができる。従って、効率よく、異なるめっきを被めっき材に施すことができる。また、めっき槽は、被めっき材を治具で固定し、めっき分散体を連続で流しながらめっき可能なカートリッジ構造にすることができるので、被めっき材の大きさに合わせてデッドボリュームの小さいめっき槽にすることができる。従って、めっき槽を小さくできるので、耐圧設計を簡単にすることができ、安価なめっき槽にすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、拡散流体として超臨界流体及び亜臨界流体を用いる。このため、めっき液の拡散を効率よく行うことができる。
請求項5に記載の発明によれば、拡散流体は、二酸化炭素である。従って、拡散流体として用いるCO2は、めっきの副反応によって発生した水素を溶解するので、ピンホールの発生を更に抑えることができる。
【0015】
請求項6に記載の発明によれば、前記分散促進剤は、フッ素系化合物であるため、分散促進剤を用いない場合や炭化水素系界面活性剤を用いた場合に比べて、ピンホールの少ない良好なめっきを行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置構成を簡単にして、良好なめっきを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図2に基づいて説明する。本実施形態では、拡散流体を用いて電解めっきを行うめっき装置を想定して説明する。ここで、拡散流体としては、二酸化炭素(以下、「CO2」と記載する)を用いる。なお、CO2の臨界点は、31℃で7.4MPaである。
【0018】
まず、本実施形態のめっき装置の配管について、図1を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態のめっき装置は、液体のCO2を収容したCO2タンク21を有している。本実施形態では、このCO2タンク21が第2供給手段に相当する。このCO2タンク21は、CO2供給管を介して、混合分散手段としての後述する混合分散部60に接続されている。このCO2供給管には、液ポンプ22、加熱部23及び供給弁24が設けられている。液ポンプ22はCO2を加圧するために用いられる。加熱部23は、CO2を加熱するために用いられる。供給弁24は、開閉制御されることにより、CO2タンク21と混合分散部60との連通・遮断を行い、混合分散部60へのCO2の供給又は供給停止を制御する。
【0019】
また、本実施形態のめっき装置は、高純度の液体CO2を収容した高純度CO2タンク26を有している。高純度CO2タンク26には、CO2のリサイクルパスを設けない。そして、この高純度CO2タンク26は、CO2タンク21と並列に設けられ、液ポンプ22に接続されている。それぞれのCO2タンク21,高純度CO2タンク26と上述した液ポンプ22との間には、開閉弁27,28があり、ラインに供給するCO2を切り替えることができる。通常のめっき操作ではCO2タンク21から供給を行い、脱脂、洗浄、めっきなどめっき槽61へ供給する薬液を切り替える場合、また、めっき物やリサイクルライン全体をCO2で洗浄する場合、(液体CO2のみ)の高純度CO2タンク26側の開閉弁28を開き、他方のCO2タンク21の開閉弁27を閉じて高純度CO2を供給する。
【0020】
更に、本実施形態のめっき装置は、洗浄液タンク31を有している。この洗浄液タンク31には、被めっき材W、混合分散部60及びめっき槽61を洗浄するための洗浄液が収容されている。この洗浄液タンク31は、洗浄液供給管を介して混合分散部60に接続されている。この洗浄液供給管には、液ポンプ32、加熱部33及び供給弁34が設けられている。供給弁34は、洗浄液タンク31と混合分散部60との連通及び遮断を行う。従って、洗浄液タンク31からの洗浄液は、液ポンプ32により加圧され、加熱部33により加熱されて、混合分散部60又はめっき槽61に供給される。
【0021】
この混合分散部60には、分散促進剤タンク41が分散促進剤供給管を介して接続されている。分散促進剤タンク41は、分散促進剤を収容するタンクである。本実施形態では、分散促進剤としてフッ素系化合物を用いる。
【0022】
フッ素系化合物は、フッ素基と親水性基とを有する。本発明で使用されるフッ素系化合物として望ましい化合物には、非イオン性親水性基を有するフッ素系化合物が挙げられる。この非イオン性親水性基を有するフッ素系化合物は高圧CO2中で良好な分散促進機能を発現する。
【0023】
また、フッ素基としては、直鎖或いは枝分かれを有するペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロポリエーテル基を始めとした炭素鎖中にヘテロ原子を含むものが挙げられる。これらのうちでも炭素鎖長がペルフルオロアルキル基では3〜15程度、炭素鎖中にヘテロ原子を含むものでは3〜50程度のものが使用可能である。
【0024】
また、親水性基にはエーテル、エステル、アルコール、チオエーテル、チオエステル、アミド等の極性基が挙げられる。これらのうちでも本実施例で挙げたフッ素基がペルフルオロポリエーテル基であり、親水性基が短鎖のポリエチレングリコール基であるものが特に優れている。
【0025】
また、従来の分散促進剤である炭化水素系の界面活性剤は長鎖のポリエチレングリコール基を有しているため化学的な安定性に課題があった。これに比べて、フッ素系界面化合物はより安定なため、長期間の繰り返し使用に対する耐久性を期待できる。また炭化水素系界面活性剤の分解物に由来する異物混入の可能性も少なくなる。
【0026】
フッ素系分散促進剤は、疎水性のフッ素基を有しているため、CO2とめっき液とが安定した分散状態を維持している時間(分散保持時間)が短く、めっき液とCO2との分離が容易であり、操作性の面でも優れている。この分散促進剤を用いた場合、分散操作を停止すると例えば数秒〜数十秒程度で、めっき分散体はCO2とめっき液に分離する。
【0027】
分散促進剤供給管には、液ポンプ42、加熱部43及び供給弁44が設けられている。液ポンプ42は、供給する分散促進剤を加圧するために用いられる。加熱部43は、分散促進剤を加熱するために用いられる。供給弁44は、開閉制御されることにより、分散促進剤タンク41及び混合分散部60との連通・遮断を行い、混合分散部60への供給又は供給停止を制御する。
【0028】
また、混合分散部60には、めっき液タンク51がめっき液供給管を介して接続されている。本実施形態では、このめっき液タンク51が第1供給手段に相当する。このめっき液タンク51には、めっき皮膜となる金属原子を含む水溶液(めっき液)が収容されている。また、めっき液タンク51は、加熱・保温手段を備え、めっき液を所定の温度になるように加熱し保温する。めっき液供給管には、液ポンプ52及び供給弁54が設けられている。液ポンプ52は、供給するめっき液を加圧するために用いられる。また、供給弁54は、開閉制御されることにより、めっき液の混合分散部60への供給及び供給停止を行う。また、めっき液供給管においては、めっき液の成分が析出しない温度以上に常時保温されている。
【0029】
一方、混合分散部60は、めっき液、CO2及び分散促進剤を、CO2の臨界点以上の温度圧力条件で、めっき処理に適した比率で混合し、これを攪拌してめっき分散体を形成する。
【0030】
混合分散部60は、めっき槽61に接続されている。めっき槽61は、混合分散部60から供給されるめっき分散体を用いてめっきを行う。更に、このめっき槽61にはめっき液分離槽65に接続する排出管が設けられている。
【0031】
このめっき液分離槽65は、めっき分散体を、分散促進剤を含む超臨界〜亜臨界の状態にあるCO2とめっき液とを、これらの比重差を用いて分離する。ここで、めっき液の比重は、1.0〜1.3(g/cm)程度であり、分散促進剤を含むCO2よりも重くなっている。従って、めっき液分離槽65においては、上層に分散促進剤を含む超臨界〜亜臨界の状態にあるCO2が、下層にめっき液が分離する。また、めっき液分離槽65は、上部に設けられた配管を介してCO2を再生するCO2再生装置71に接続されているとともに、底部に設けられた配管を介してめっき液を排出するめっき液排出部66に接続されている。
【0032】
めっき液排出部66は、排出切換弁67を介して、めっき液再生装置68又は廃液タンク69に接続されている。排出切換弁67は、めっき液を再生する場合には、めっき液排出部66とめっき液再生装置68とを連通するように切り換えられ、めっき液を排出する場合には、めっき液排出部66と廃液タンク69とを連通するように切り換えられる。めっき液再生装置68は、排出しためっき液から固体の不純物を沈殿除去し、溶解した有機物などの不純物を除去する。更に、めっき液の各成分を調整し、めっき液を再び使用可能となるように再生する装置である。このめっき液再生装置68は、めっき液タンク51に接続されており、再生しためっき液をめっき液タンク51に供給する。なお、めっき液分離槽65からめっき液再生装置68を介してめっき液タンク51に到る配管は、めっき液の成分が析出しない温度で常時保温されている。
【0033】
一方、めっき液分離槽65からCO2再生装置71に接続される配管には冷却部70が設けられている。この冷却部70は、CO2を冷却し、臨界状態を脱した気液の2相状態にする。CO2再生装置71は、中央部に、CO2タンク21に連通する再生管が接続されており、この再生管を介して液体CO2がCO2タンク21に供給される。このCO2再生装置71は、底部が漏斗状になっており、CO2に溶解していた比重の重い不純物を底部に沈殿させてCO2から除去する。更に、CO2再生装置71は、上部から気体を排気できる構造になっており、水素ガスや酸素ガスなどの不純物のガスが溶解している気体のCO2を排気する。
【0034】
次に、図2を用いて、混合分散部60及びめっき槽61の構成を詳述する。
本実施形態の混合分散部60は、混合器60aと分散機60bとを有する。混合器60aは、CO2、分散促進剤及びめっき液を混合し、分散機60bは、混合したこれらを拡散させて、CO2とめっき液とを分散させためっき分散体を形成する。
【0035】
詳述すると、混合器60aは、上流側が四つに分岐した供給管に接続されている。この供給管の分岐した分岐部のそれぞれには、上述した供給弁24,34,44,54が接続されている。このため、供給弁24,34,44,54のそれぞれの弁が開くことにより、各弁に接続される分岐部を通過する各流体(CO2、洗浄液、分散促進剤及びめっき液)が、混合器60aに供給される。そして、混合器60aに供給された流体が下流の供給管を通過することにより混合される。
【0036】
例えば、めっきを行う場合には、供給弁34を閉じ、かつ供給弁24,44,54を開くと、CO2、分散促進剤及びめっき液が混合器60aに供給される。また、洗浄時には、供給弁44及び供給弁54を閉じ、かつ供給弁24,34を開くと、CO2及び洗浄液が混合器60aに供給される。
【0037】
分散機60bは、圧力容器構造をしており、その内部には、永久磁石に、メッシュのロータが取り付けられ、外部には、ステータにコイルが取り付けられている。このステータに流す電流が制御されることにより、内部のメッシュのロータの回転速度及び回転方向を制御する。この分散機60bは、混合器60aから供給されためっき分散体を、回転させたロータにより攪拌させて分散体を形成する。この分散機60bは、めっき槽61に接続されており、めっき分散体をめっき槽61に供給する。この分散機60bの容積は、超臨界CO2とめっき液とがめっきに適する分散体を作るために必要な超臨界域の温度圧力で操作して滞留時間を確保するように設計され、操作される。
【0038】
なお、この分散機60bとめっき槽61との間には、遮断弁601が設けられている。この遮断弁は、開弁時には、混合分散部60及びめっき槽61を連通し、混合分散部60からのめっき分散体をめっき槽61に供給する。また、めっき槽61とめっき液分離槽65との間には、遮断弁602が設けられている。更に、このめっき槽61は、めっき装置に着脱可能に取り付けられている。すなわち、めっき槽61は、遮断弁601を閉じて混合分散部60と遮断し、遮断弁602を介してめっき液分離槽65と遮断した状態で、流れを停止させて、めっき槽61を着脱する。
【0039】
めっき槽61は、分散機60bから供給されるめっき分散体を用いて、内部に収容される被めっき材Wの表面にめっき処理を行う。このめっき槽61には、図示しないブロックヒータが設けられており、めっき槽61内のめっき分散体に含まれるCO2を超臨界状態にし、更にめっきを行うために適する温度に維持する。また、めっき槽61の内部に一対の電極が配設されている。この電極の一方は、被めっき材Wとなっている。他方は、めっき毎に指定される材質で構成される電極で、電極のプラス側と接続される。なお、本実施形態では、被めっき材Wに金属を還元析出させるために、被めっき材Wは、電源のマイナス側が接続される。
【0040】
次に、上述しためっき装置を用いためっき方法について、図1及び図2を参照して説明する。
まず、遮断弁601及び遮断弁602を閉じた状態で、めっき装置に、被めっき材Wを挿入しためっき槽61を取り付ける。そして、めっき槽61に配設された一対の電極の一方を、挿入した被めっき材Wに取り付ける。この取り付けの完了後、遮断弁601と遮断弁602とを開く。
【0041】
次に、開閉弁27及び供給弁24,44,54を開く。これにより、CO2タンク21からのCO2、分散促進剤タンク41からの分散促進剤及びめっき液タンク51からのめっき液が所定の割合で混合器60aに供給される。
【0042】
ここでは、加熱部23,43において加熱するとともに、各液ポンプ22,42,52を駆動する。このとき、本実施形態では、分散促進剤を介してCO2とめっき液とが分散するめっき分散体の分散保持時間よりも短い時間となるように、各ポンプの駆動を制御する。すなわち、各液ポンプ22,42,52が、注入手段、排出手段及び制御手段を構成する。
【0043】
次に、分散機60bのステータに電流を流してロータを回転させる。これにより、混合器60aにおいて混合されたCO2、分散促進剤及びめっき液が、分散機60bにおいて、攪拌されて分散される。そして、分散機60bにおいて混合分散されためっき分散体がめっき槽61に供給される。
【0044】
そして、めっき槽61に配設された電極に通電を行い、めっき槽61に供給されためっき分散体を用いて、電解めっきを行う。
本実施形態では、めっき処理を行なっている間、各ポンプを駆動し続け、混合分散部60において混合分散されためっき分散体をめっき槽61に供給しながら、めっきを行う。これにより、めっき処理によりめっき分散体中に溶解した水素ガスや被めっき材Wの表面から剥離した不純物は速やかにめっき槽61から排出される。
【0045】
そして、めっき液分離槽65に至っためっき分散体は、比重によって、分散促進剤が含まれたCO2と、めっき液とに分離される。そして、CO2は、冷却部70を介してCO2再生装置71に供給される。このとき、CO2は、冷却部70において冷却されるため、気液2相となってCO2再生装置71に供給される。CO2再生装置71では、液体CO2に溶解している比重の重い不純物が沈殿除去され、水素ガス及び酸素ガス等が含まれた気体のCO2が排気される。そして、不純物の除去された液体CO2は、再生管を介してCO2タンク21に戻される。
【0046】
一方、めっき液分離槽65において分離されためっき液は、めっき液排出部66を介してめっき液再生装置68に供給される。めっき液再生装置68で各成分が調整されて再生されためっき液は、めっき液タンク51に戻される。
【0047】
その後、各ポンプを駆動して、混合分散させためっき分散体を、めっき槽61において供給・排出を継続し、所定のめっき膜を形成するための要する時間のめっき処理を継続する。この完了時には、液ポンプ42,52の駆動を停止し、開閉弁27及び供給弁44,54を閉じる。これにより、CO2タンク21、分散促進剤タンク41、めっき液タンク51からのCO2、分散促進剤及びめっき液の混合分散部60への供給が停止する。以上によりめっき処理が完了する。
【0048】
次に、後工程として洗浄を行う。まず、開閉弁28を開けて高純度CO2による置換工程を行った後、更に供給弁34を開けて、液ポンプ32及び加熱部33を駆動し、洗浄液タンク31から洗浄液を混合分散部60に供給する。これにより、CO2と洗浄液とが、混合分散部60において混合分散されて、めっき槽61に供給され、被めっき材Wが洗浄される。その後、被めっき材Wが十分に洗浄されると、供給弁24,34が閉じられる。そして、めっき槽61内を洗浄したCO2及び洗浄液の分散体は、めっき液分離槽65に排出され、CO2が洗浄液と分離される。洗浄液は、排出切換弁67を介して廃液タンク69に排出される。一方、分離されたCO2は、CO2再生装置71を介して再生されてCO2タンク21に供給される。以上により、めっき後の洗浄が完了する。
【0049】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
・ 本実施形態では、CO2、分散促進剤及びめっき液が混合分散部60の混合器60aにおいて混合され、混合分散部60の分散機60bで攪拌されて、めっき分散体となった後に、めっき槽61に供給される。めっき槽61では、電極に電圧を印加して、めっきを行う。本実施形態では、めっき分散体には、超臨界状態のCO2が混在しているため、この超臨界状態のCO2の拡散力により、めっき皮膜の付き回りがよくなる。
【0050】
更に、めっきが行われるときに発生する水素ガス等は、めっき槽61の内部が高圧であるために体積が小さくなるとともに、被めっき材Wの表面からめっき分散体中の超臨界状態のCO2に溶解する。
【0051】
また、本実施形態では、混合分散されためっき分散体を、めっき槽61に継続して供給しながらめっきを行う。このため、めっき中に発生した水素が溶解したCO2や被めっき材Wの表面から剥離した不純物は、速やかにめっき槽61から排出されるので、被めっき材Wの表面に再付着することを回避できる。従って、被めっき材Wに残留する水素が原因となっていたピンホールの発生を抑制し、ゴミや汚れ等の付着が起因するめっき皮膜の剥離、割れを低減するので、良好なめっきを被めっき材Wに形成できる。ひいては、めっきを更に薄く形成することも可能となる。
【0052】
また、めっき分散体を供給し続けるために、めっき槽61内での攪拌が不要になる。更に、めっき分散体がめっき槽61から連続的に排出されるので、めっき処理において発生した熱が、めっき分散体とともに、めっき槽61から速やかに放出される。従って、めっき処理に伴う発熱を排出し、めっき槽の温度を効率的に調整することができ、めっき槽61を簡単にして、小形にすることができる。従って、耐圧設計を簡単することができ、安価なめっき槽61にすることができる。
【0053】
また、めっき分散体は連続的に供給されるので、このめっき分散体を流し続ける処理時間を変更することにより、被めっき材Wに形成するめっきの厚さを容易に変更することができる。従って、めっき液をめっき槽61に蓄積してめっき処理を行なう従来法と異なり、めっき槽61を小さくしても、厚いめっきを行うことができる。
【0054】
・ 本実施形態では、CO2、分散促進剤及びめっき液のめっき分散体が、その分散保持時間内でめっき槽61を通過してめっき液分離槽65に到着するように、めっき分散体の流速が、液ポンプ22,42,52の駆動により制御される。すなわち、CO2、分散促進剤及びめっき液のめっき分散体が分散状態を維持したまま、めっき槽61を通過する。従って、分散促進剤の分散保持時間に左右されることなく、被めっき材Wの表面により均一なめっきを施すことができる分散促進剤を利用することができる。
【0055】
・ 本実施形態では、めっき槽61において超臨界状態のCO2とめっき液とを混合させためっき分散体を用いて、めっきを行った。超臨界状態のCO2は、めっき液を拡散する拡散流体として作用するだけでなく、水素ガスを溶解して、被めっき材Wの表面から除去する。このため、ピンホール発生の原因となる水素ガスを被めっき材Wから除去することが促進されるため、より良好なめっきを行うことができる。
【0056】
・ 本実施形態では、超臨界状態のCO2と、めっき液とを混合分散させるために、分散促進剤としてフッ素系化合物を用いる。分散促進剤にフッ素系化合物を用いてめっきを行なった場合、実験結果では、分散促進剤を用いない場合や従来の炭化水素系界面活性剤を用いた場合に比べてより平坦な皮膜を形成することができた。従って、より良好なめっきを行うことができる。
【0057】
・ 本実施形態では、めっき液とCO2とを混合し分散させる機能部分を、混合分散部60に持たせて、めっき槽61から分離した。このため、めっき槽61は、被めっき材Wの大きさに合わせて設計することができるので、デッドボリュームを小さくすることができ、耐圧などのめっき槽61自体の構成が簡便となるので、安価で製造できる。
【0058】
・ 本実施形態では、CO2とめっき液とは、分散操作後、均一な分散体を保持できる時間が短く、その後、速やかにめっき液とCO2とは分離しやすい分散状態となるめっき分散体を用いる。そして、めっき槽61において使用されたCO2及びめっき液は、めっき液分離槽65において比重差を利用して分離する。また、分離したCO2は、冷却部70において冷却されて気液2相となってCO2再生装置71に供給される。CO2再生装置71において不純物が除去された液体CO2は、CO2タンク21に戻される。このため、使用したCO2を、不純物を除去した上で回収して再利用することができる。
【0059】
また、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 本実施形態では、めっき槽61はめっき装置から着脱可能である。このため、例えば、めっき処理を行った被めっき材Wのめっき槽61を離脱させ、この代わりに、まだめっきを行っていない被めっき材Wのめっき槽61を取り付けて、めっきを行うようにしてもよい。すなわち、めっき槽61は、被めっき材Wを治具で固定し、めっき分散体を連続で流しながらめっき可能なカートリッジ構造にすることができるので、被めっき材Wの大きさに合わせてデッドボリュームの小さいめっき槽61にすることができる。従って、めっき槽61を小さくできる。また、電解めっきの場合には、このカートリッジ構造に通電を行なう手段を設ければよい。
【0060】
また、めっき装置から離脱させためっき槽61を、他の金属のめっきを施す同様なめっき装置に取り付けて、被めっき材Wに多層めっきを行ってもよい。この場合、めっき槽61から被めっき材Wを取り出すことがないので、めっき槽61の内圧を大気圧まで低下させる必要がなく、多層めっきを連続して効率よく行うことができる。また、めっき装置から離脱させる場合には、不活性なCO2と洗浄液とで洗浄した後であるので、これらが充填された状態でめっき槽61を搬送させてもよい。
【0061】
○ 上記実施形態においては、分散促進剤タンク41から分散促進剤が混合分散部60に供給されるように分散促進剤タンク41を混合分散部60に接続した。これに代えて、分散促進剤をめっき液又はCO2に混合した流体を用いてもよい。この場合には、分散促進剤タンク41、液ポンプ42、加熱部43及び供給弁44を省略することができる。
【0062】
○ 上記実施形態においては、めっき槽61に一対の電極を設け、めっき槽61内で電解めっきを行った。これに代えて、めっき槽61内で無電解めっきを行ってもよい。例えば、めっき液タンク51に、電解めっき液に代わりに無電解めっき液を収容して、めっき槽61の電極の配設を省略することができる。
【0063】
○ 上記実施形態においては、フッ素系化合物を介して、CO2とめっき液とは短い時間だけ分散状態となるめっき分散体を用いた。CO2とめっき液を混合分散させるために用いる分散促進剤は、これに限られない。例えば、他のフッ素系化合物や炭化水素系界面活性剤等の界面活性剤を分散促進剤として用いてもよいし、分散保持時間がもっと長い分散促進剤を用いてもよい。後者の場合には、めっきを行うめっき槽61を流れるめっき分散体の速度を上記実施形態よりも遅くすることもできる。また、分散促進剤を省略してもよい。
【0064】
○ 上記実施形態においては、混合器60aと分散機60bとを有する混合分散部60を用いた。これに限らず、混合分散部60に代えて、マイクロミキサを用いて、CO2、分散促進剤及びめっき液を混合してもよい。
【0065】
○ 上記実施形態においては、拡散流体として超臨界状態のCO2を用いた。これに限らず、亜臨界状態のCO2を用いてもよい。更に、CO2に限らず、超臨界状態又は亜臨界状態の他の流体(超臨界流体又は亜臨界流体)を用いてもよい。
【0066】
○ 上記実施形態においては、めっき槽61から排出されるめっき分散体の一部又は全部を、めっき液とCO2とを分離して循環させた。これに代えて、めっき槽61とめっき液分離槽65との間に循環ポンプを設置し、この循環ポンプを駆動させて、めっき槽61から排出されためっき分散液を、混合器60aと分散機60bの間に戻して、めっき液を循環使用してもよい。めっき槽61から排出されるめっき分散体の全部を循環する場合には、供給側の各タンク(21,41,51)と混合分散部60とを連通する供給弁を閉じ、液ポンプを停止してもよい。
【0067】
○ 上記実施形態においては、前洗浄(脱脂、酸・アルカリ洗浄、水洗等)を行ってもよい。この場合には、めっき槽61に接続され、前洗浄に必要な薬液を、このめっき槽61に供給するためのタンクを設置する。これにより、CO2と混合分散部への供給の組合せを変えることで、各工程で必要な溶液を含んだ流体をめっき槽61に供給することができる。従って、被めっき材Wをめっき槽61の外に取り出すことなく、すべての工程を実施することができる。
【0068】
○ 上記実施形態においては、めっき工程の他の一連の工程を、混合分散部60を介してのCO2を加えた分散体を形成して実施する。この場合に、CO2を必ずしも加えずに行うことも可能である。また、下地めっきと本めっきをおこなう場合でも、多様な形状の被めっき材Wにおいても、めっき槽61に収まるものであれば、無電解めっき工程後の電解めっき工程、あるいは多段のめっき工程(洗浄は都度必要)を、被めっき材Wをめっき槽61から取り出すことなく実施することができる。
【0069】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)前記めっき槽から排出されためっき分散体から、前記拡散流体を分離する分離槽を設け、この分離槽で分離しためっき液を再生して前記第1供給手段に供給するとともに、この分離槽で分離した拡散流体を再生して前記第2供給手段に供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のめっき装置。
【0070】
従って、この(a)に記載の発明によれば、使用しためっき液及び拡散流体を再生した第1又は第2供給手段に供給する。このため、めっき分散体を流しながらめっきを行っても、有効にめっき液及び拡散流体を使用することができる。
【実施例】
【0071】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
図1に示されるめっき装置を用いるとともに、陰極に真鍮板、陽極に白金がコーティングされたチタン板を用いて金めっきを行った。拡散流体にはCO2、めっき液には市販の酸性金めっき浴((株)高純度化学研究所 Auメッキ液 K−24EA10)を用いた。フッ素系化合物としては、ペルフルオロポリエーテル系界面活性剤(F(CF(CF3)CF2O)3 CF(CF3)COOCH2CH2OCH3)を用い、CO2に対して0.5重量%の濃度になるように加えた。分散機60bの内部及びめっき槽61の内部の温度を50℃、圧力を10MPaに設定し、電流密度0.5A/dmで200秒間通電することにより、めっき処理を完了した。この結果、真鍮板に形成された金めっき皮膜の厚さは、約1μmであった。
【0072】
(比較例1)
陰極に真鍮板、陽極に白金がコーティングされたチタン板を用い、通常の金めっきを行った。金めっき液には、市販のめっき浴((株)高純度化学研究所 Auメッキ液 K−24EA10)を用いた。このめっき浴の温度を50℃に設定し、電流密度0.5A/dmで200秒間通電することにより、めっき処理を完了した。この結果、真鍮板に形成された金めっき皮膜の厚さは、約1μmであった。
【0073】
各例によってめっき処理が施された真鍮板について、走査型電子顕微鏡で観察した。実施例1の真鍮板では、ピンホールが確認されなかった。これに対し、比較例1の真鍮板では、多数のピンホールが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施形態における電解めっきを行うめっき装置のシステム配管の概略図。
【図2】実施形態における混合分散部及びめっき槽の構造の概略図。
【符号の説明】
【0075】
W…被めっき材、21…第2供給手段としてのCO2タンク、22…注入手段、排出手段及び制御手段を構成する液ポンプ、42…注入手段、排出手段及び制御手段を構成する液ポンプ、52…注入手段、排出手段及び制御手段を構成する液ポンプ、51…第1供給手段としてのめっき液タンク、60…混合分散手段としての混合分散部、61…めっき槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液を供給する第1供給手段と、
前記めっき液に混合され、このめっき液の拡散力を高める拡散流体を供給する第2供給手段と、
前記第1供給手段及び前記第2供給手段に接続され、前記拡散流体と前記めっき液と該めっき液の分散を促進する分散促進剤とを含有するめっき分散体を形成するための混合分散手段と、
前記混合分散手段から供給されるめっき分散体を用いて、被めっき材にめっきを行うためのめっき槽と、
めっき処理中に継続して、前記めっき槽に前記めっき分散体を供給する注入手段と、
めっき処理中に継続して、前記めっき槽から前記めっき分散体を排出する排出手段と
を備えていることを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記めっき分散体が、分散状態を維持可能な時間内で前記めっき槽を通過するように、前記めっき分散体の流速を調整するために前記注入手段、前記排出手段を制御する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のめっき装置。
【請求項3】
前記めっき槽が、着脱可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のめっき装置。
【請求項4】
前記拡散流体は、超臨界流体又は亜臨界流体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のめっき装置。
【請求項5】
前記拡散流体は、二酸化炭素であることを特徴とする請求項4に記載のめっき装置。
【請求項6】
前記分散促進剤がフッ素系化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265730(P2006−265730A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47017(P2006−47017)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】