説明

もやし栽培装置

【課題】 向き及び長さを一定に揃えて生育させることができ、もやしの姿を損なわずに簡単に一括に根切りして収穫することを可能にし、且つ排水設備の無い家庭内の任意の場所に設置して、自家用のもやしを栽培することができ、しかもその成長過程を外部から観察できるもやし栽培装置を得る。
【解決手段】 もやし栽培室2と排水受けタンク収納室3からなる装置本体1と、もやし栽培用の種子から生育する根を通すことが可能な孔又はメッシュを全面に施した複数の栽培床体60との組合せからなり、もやし栽培室2は、外光の遮蔽、保温及び保湿を可能とする周壁で形成され、前面に扉7を有し、内部に栽培床体を設置する栽培ボックス15を形成し、栽培ボックスに複数の栽培床体60をそれぞれを互いに垂直に移動自在に収納可能とし、扉7を開くことによりもやしの成長状態を観察できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、もやしを栽培し、且つ根を切り揃えた状態で収穫できるもやし栽培装置、特に家庭の任意の場所に設置してもやしを栽培し、且つ成長段階を観察できる自家用・学習用として好適なもやし栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
もやしの栽培方法としてよく知られている最も単純な方法は、大型の容器(例えば40リットル広口容器や袋)に直接もやしの種子(豆)を入れ、給排水を行って水分を調節しながら容器中でもやしを成長させるという方法であるが、この方法では、成長後に収穫したもやしの根及び茎の長さや向きが不揃いであるので、もやしの見栄えを良くして商品価値を高めるために、根切りしてから袋詰めして出荷している。従来、向きや長さの不揃いのもやしの根切りを手作業で行うことは非常に作業効率が悪いため、それを解消する方法として自動的に値切りを行う装置が種々提案されている(例えば、特許文献1、2)。従来提案されている根切り装置は、もやしをベルトコンベヤやロールコンベヤで搬送中にもやしの向きを揃えてカッター等で根を切断除去するものであるが、装置が大掛かりで多額の設備投資が必要であり、小規模生産業者にとって採用することが困難である。一方、向きを揃えて一定の長さに生育させることによって、大型な根切り装置によらずに容易に値切りできるようにする方法も提案されている(例えば特許文献3)。
【0003】
もやし栽培は、暗所で且つ給排水が自由にできる水場でしか栽培することができないため、特別な培地を必要としないにも係らず、家庭内で手軽に栽培することはできなかった。しかも、栽培や収穫に熟練や大型の装置を必要とするため、専ら専門業者によって行なっており、家庭での消費は専ら購入に頼らざるをえなかった。したがって、家庭内で子供達等がもやしの成長過程を観察する機会はなかった。
【特許文献1】特開平8−56634号公報
【特許文献2】特開平10−136959号公報
【特許文献3】特開2001−320967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、先に従来のもやし栽培方法や栽培装置の欠点を解消するために、向き及び長さを一定に揃えて生育させることができ、もやしの姿を損なわずに簡単に一括に根切りして収穫することを可能にして、もやしの商品価値を高めることができ、しかも栽培装置を構成する要素をより簡単にして、作業にかかる手間を少なくし、種子の種類或いは生育条件等の違いにも柔軟に対応でき、さらにもやしへの給水を適正に行うことができ効率よくもやしを栽培することができるもやし栽培装置を提供した(特願2004−106666号)。しかしながら、該装置は、排水が自由な場所に設置してもやしを栽培する栽培業者用の栽培装置であって、排水設備の無い家庭内の任意の場所に設置して、家庭用のもやしを栽培し、又その成長過程を観察して楽しむあるい学習する等の用途には適するものではなかった。
【0005】
そこで、本発明は、栽培床体を多段に積重ねてもやしを栽培するもやし栽培装置において、向き及び長さを一定に揃えて生育させることができ、もやしの姿を損なわずに簡単に一括に根切りして収穫することを可能にし、しかも栽培装置を構成する要素をより簡単にして、作業にかかる手間を少なくし、種子の種類或いは生育条件等の違いにも柔軟に対応でき、さらに各段のもやしへの給水を適正に行うことができ効率よくもやしを栽培でき、且つ排水設備の無い家庭内の任意の場所に設置して、自家用のもやしを栽培することができ、しかもその成長過程を外部から観察して楽しむあるい学習することができるもやし栽培装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するための本発明のもやし栽培装置は、もやし栽培室と排水受けタンク収納室からなる装置本体と、もやし栽培用の種子から生育する根を通すことが可能な孔又はメッシュを全面に施した複数の栽培床体との組合せからなり、前記もやし栽培室は、周壁が外光の遮蔽、保温及び保湿を可能とする光遮蔽壁で構成され、少なくとも側壁の一側が開閉可能な扉となっており、内部に前記栽培床体を設置する栽培ボックスを形成し、該栽培ボックスに積み重ねた複数の前記栽培床体それぞれを互いに垂直に移動自在に収納可能とし、前記扉を開くことにより、前記栽培床体におけるもやしの成長状態を観察でき、且つ前記もやし栽培ボックスから排出される水を前記排水受けタンク収納室に設置される排水受けタンクに貯留可能にとなっていることを特徴とするものである。
【0007】
前記もやし栽培装置において、前記栽培ボックスは、前記扉に面する側をアクリル板等の合成樹脂板やガラス板などの透視壁で構成し、他の側壁及び底壁は前記栽培室の壁によって光遮蔽且つ水貯留構造に形成することによって、前記開閉扉を閉めることにより、前記栽培室が外光から遮蔽されてもやしの生育に好適な環境を形成し、前記開閉扉を開けることにより、前記透視壁を介して栽培ボックス内のもやしの生育状況を任意に観察できる。そして、前記透視壁を、前記開閉扉の遮蔽位置よりも所定の間隔を有してもやし栽培室内側に位置し、且つその高さが他の側壁よりも低く形成して、もやし栽培ボックスに給水した水がオーバーフローして、前記開閉扉との間の空間部に流出するようにすることによって、前記栽培ボックスに水を誤っていれ過ぎても外にこぼれ出るの防止できる。
【0008】
一方前記もやし栽培装置において、前記栽培ボックスを、別体に形成された少なくとも前面が内部を透視できる透視壁で構成された栽培ボックスで形成し、該栽培ボックスを前記もやし栽培室に設置可能にして構成することも可能である。その場合、もやし栽培ボックス全体を透明な合成樹脂板で形成してもよい。また、前記もやし栽培装置において、前記栽培室の天壁を、該栽培室に前記栽培床体を出入可能に開閉自在にし、且つ閉鎖した状態で栽培室への外光を遮蔽し、外気の流通を可能にすることによって、前記栽培床体の栽培ボックスへの出し入れが容易であり、且つ栽培ボックスにもやしの生育に必要な空気を十分に供給することができる。
【0009】
前記栽培床体を、その端部を周壁とすることによりトレー状とするとともに、該周壁に内外に水を通す流通口を設けて構成することにより、生育に必要な給水管理が容易にできる。さらに、前記周壁の一部を切り欠いて形成した根切り用の開口を備えることにより、収穫時に容易にもやしの根を一様に揃えた状態で切断することができる。また、前記栽培床体の端部に設けられた側壁に段差部を形成して側壁を下段部、段差部、前記下段部よりも外側に位置する上段部より構成し、前記段差部に上段の栽培床体の底面を受けるようにして複数段積み重ね可能にすることによって、初期段階は圧をかけずに成長させ、一定の長さに成長した後は上段の栽培床体により圧力を付与しながら成長させる管理が人手によらず自動的に制御可能としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のもやし栽培装置によると、従来家庭内で栽培することがなく専ら市販のを食するしかなかったもやしを、排水設備の無い家庭内の任意の場所に設置して、自家用のもやしを簡単に栽培することができ、しかもその成長過程を任意に外部から観察して楽しむあるいは学習することができ、観察しながら成長した自家製のもやしを食する楽しみを与えることができる。そして、本発明のもやし栽培装置は、もやし自身の成長により生じる力で上段にある栽培床体を押し上げ、垂直に移動させるような動作原理が働くようにしたので、使用時に必要になる装置の組み立て作業等にかかる手間が少なく、栽培管理も容易であり、効率良く且つ太さが太い高品質のもやしを栽培できる。さらに、もやしを向き及び長さを一定に揃えて生育させることができ、収穫のときにはもやしの姿を損なわずに簡単に一括に根切りすることを可能にし、しかも栽培装置の構成が簡単で、作業にかかる手間を少なくし、種子の種類或いは生育条件等の違いにも柔軟に対応でき、さらに各段のもやしへの給水を適正に行うことができ効率よくもやしを栽培できるという、従来のもやし栽培から予測できないような格別な効果を奏する。
【0011】
加えて、本発明のもやし栽培装置における段状に重ねた栽培床体の変位は、もやし自身の成長に任せる動作原理であり、もやしの特性への適応性を意味するので、種子の種類或いは生育条件等の違いにも柔軟に対応し得る装置を実現することが可能になる。また、浸水法による豆(もやし)への給水により、積み重ねた栽培床体の床体上面に播かれた各々の豆(もやし)を均等な給水条件に保つことが可能になる。さらに、栽培床体の側壁に水を通す流通口を備えたので、床体上面に播かれた各々の豆(もやし)を均等な給水条件に保つことが可能になる。そして、もやしへの適正な給水管理ができ、一様に太く育った良質なもやしが得られる。また、側壁に根切り用の開口を備えたことにより、開口から刃を挿入することにより、もやしの姿を損なわずに根切り作業を容易に行うことができ、収穫作業の短縮化及び歩留まりを高めることができる。また、側壁の途中に段差を設けて上段の栽培床体を該段差部指示することにより、所定長さに成長するまでは圧をかけずに成長させることができ、成長力が弱い初期段階での傷みを防止し、より歩留まりがよく且つ高品質のもやしを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。 図1は、本発明の実施形態に係るもやし栽培装置の斜視図である。
本発明のもやし栽培装置は、栽培の初期段階で豆を載せた栽培床体を積み重ねて栽培ボックスに収納してから収穫までの間には、温度や湿度を生育条件に保つ以外には外部からの操作は何もすることなく、もやし自身の成長により生じる力で上段にある栽培床体を押し上げ、垂直に移動させるようにして、床体面からの長さを均等に保ちながら生育させるようにすることにより、もやし栽培装置における構成要素をより簡単にして、栽培時の作業にかかる手間を少なくし、豆の種類或いは生育条件等の違いにも柔軟に対応し得るようにすると共に、もやし自体の成長に応じて上段の栽培床体を持ち上げるという自生圧が作用することによって、もやしを太くて一様な高さに成長させることができるものである。そして、従来、もやしの栽培は暗所で且つ給排水が自由にできる水場でしか栽培できなかったものを、本発明ではそのようなもやし栽培装置を、家庭内の任意の場所に設置して、その生育状態を観察しながら、手軽に栽培できるようにしたものである。
【0013】
本実施形態のもやし栽培装置は、本体1と栽培床体60の組み合わせからなり、本体1は、もやし栽培室2と排水受けタンク収納室3が上下に一体に形成されている。そして、もやし栽培室2と排水受けタンク収納室3の両側壁4、5及び背壁6は、光遮蔽性、保温性、保湿性の材質であれば特にその材質は限定されず、木板、樹脂板又は金属板等が採用でき上下一体に形成されている。また、前面壁は、それぞれ独立して蝶番等の適宜のヒンジ機構を介して側壁4に取り付けられた開閉扉7、8となっており、それぞれ光遮蔽性板で形成されているが、排水受けタンク収納室3の開閉扉8は体裁上設けられるものであり、必ずしも光遮蔽性に形成する必要はなく任意の材質が利用でき、場合によっては無くても良い。もやし栽培室2と排水受けタンク収納室3の間には隔壁10が設けられ、もやし栽培室の底壁を構成している。該隔壁10の前端縁寄りの位置には排水孔11(図2)が形成され、下方の排水受けタンク収納室3に収納されるタンク12に後述するように栽培ボックスから排出される水を流出できるようになっている。
【0014】
もやし栽培室2には、図2の平面図に明示するように、前縁から所定間隔隔てて栽培ボックスの前壁を形成する透視壁13が設けられている。該透視壁13は本実施形態ではアクリル板を採用しているが、それに限るものでなく、他の透明な合成樹脂板あるいはガラス板を採用してもよい。該透視壁13と隔壁10、側壁4、5、及び背壁6でもやし栽培ボックス15を形成し、後述する栽培床体60を収納して該空間内でもやしを栽培するようになっている。したがって、該栽培ボックス15は水貯留構造に形成され、該空間内に直接給水してもやし豆を浸漬できるようになっている。そして、前記透視壁13の下端部には栽培ボックスの水抜きを行なうバルブ17が設けられ、該バルブを開閉することにより任意に水抜きができ、栽培ボックスの給排水をコントロールすることができる。該バルブ17の排出口には図示しない適宜の連結管を介して、排水受けタンク収納室3に設置されたタンク12内に導水できるようになっている。透視壁13の高さは、側壁4、5よりも若干低く形成してあり、もし間違って栽培ボックス15に給水し過ぎた場合、該透視壁の上縁からオーバーフローして透視壁前方のスペース14内に落下して、排水孔11を介してタンク内に収納されるようにしている。そのため、隔壁10には前記連結管の通過孔を兼ねた排水孔11が形成されていると共に、隔壁の前端縁に水止めの突条18が形成されている。
【0015】
もやし栽培質の上部開口部には開閉自在に上蓋20が設けられており、該上蓋は、光遮蔽性、保温性、保湿性のある材質で形成するのが望ましく、閉じた状態で栽培ボックスへの光を遮蔽するが、空気の出入は自由にできるように、図示のように枠状に形成し、且つもやし栽培室本体と隙間を形成するためにその頂壁に適宜のスペーサ21を適宜設けてある。上蓋20は、もやし栽培装置本体1に直接嵌め込み式に脱着可能に形成してもよく、例えば背壁6に蝶番を介して開閉可能に取り付けても良い。以上のように、上蓋20は、空気を流通可能に開閉可能にし、給水することに利用することができるようにしておくが、それ以外は密閉状態(後述するように、栽培ボックスに水を溜め、収納された栽培床体30ごと豆を水に浸すために必要な状態)とする。また、栽培ボックスは外光を遮断することが望ましく、その効果を高めるためにボックス20の内側面を黒くする等反射率を低くするようにするとよい。
【0016】
図1に示す実施形態のもやし栽培装置では、栽培室を区画して栽培ボックスを形成し、本体1と栽培ボックスが一体となっていたが、栽培ボックスを別体に形成してもやし栽培室に出入自在に設置するようにしてもよい。図3は、栽培ボックスを本体とは別体に形成した場合の実施形態を示し、前記実施形態と同様な部分については、同一符号を付し、ことなる部分についてのみ説明する。
本実施形態のもやし栽培装置の本体23は、もやし栽培室2の隔壁25は、別体に形成されたもやし栽培ボックス24を受ける枠体に形成され、もやし栽培ボックス24を自由に着脱できるように形成されている。なお、本実施形態では隔壁は材料節約のため、枠状に形成してあるが、板状に形成してもよい。もやし栽培ボックス24は、水貯留可能に形成され、全体を透視可能なプラスチックで一体形成してもよく、少なくとも前面壁が内部が透視可能な壁であれば、その材質は特に限定されない。そして、前面壁26の下方にはバルブ27が形成され、外バルブを開閉することによって栽培ボックス内の水量を任意に調整することができる。その他の構成は、図1に示す場合と同様である。
【0017】
次に、以上のように構成された栽培装置の本体に収納してもやしを栽培する栽培床体の実施形態について説明する。
図4は栽培床体の実施例を示している。また、図4は説明のために、図1に示すもやし栽培室2内のもやし栽培ボックス15の部分を、透視壁13、上蓋20を省略した状態で、本実施例の栽培床体30を収納してもやしを生育する状態を模式的に図示したものである。なお、図1では、本実施例の栽培床体30ではなく、後述する図7に示す栽培床体60を設置した状態が示されている。
本実施例の栽培床体30は、床体を孔又はメッシュを全面に施した板状体(この例では、四角形)とし、この床32の上面に豆31が重ならないように均一に播かれる。なお、同図では、豆がすでに播かれた状態を表しているので、床32の孔又はメッシュが省略されているが、豆31から生育する根を通すことを可能にする程度の大きさの孔(例えば、3mm位)として形成される。また、この例では、床32の縁(端部)を側壁33とすることにより、栽培床体30を全体としてトレー状の構造となるようにし、載せられた豆31の安定を保ちながら栽培床体30の持ち運び、積み重ね等の作業を容易にする。また、この場合に側壁33の上端をフランジ部33fとして、この部分を手で掴むようにすれば、栽培床体30の扱いがさらに便利になる。
【0018】
栽培床体30は、トレー状の構造とした各床体を積み重ねて栽培室の栽培ボックス15又は24に収納し、収納したままで、外からの操作を加えることなく床体それぞれがもやし自身の成長によって成長方向(床32の板面の垂直方向に)に移動するメカニズムを作用するから、豆を播いた成長の初期に積み重ねた栽培床体30の床32は、図5の(A)に示すように平行を保ち、安定して垂直移動できるような構成にすることが当然必要になる。また、この例では、栽培床体30の側壁33の一部を切り欠いている。即ち、図4に示すように側壁33を床32の一縁には設けないようにするか、或いは低い高さの壁にすることにより、ここを根切り用の開口として、収穫時に根切りを行う際に用いる根切り刃を挿入するために用いるようにし、根切り作業を容易にする。さらに、栽培床体30の側壁33には、水の流通口34を一定の間隔をおいて壁を貫通させて設ける。この流通口34は、床32の上面から適当な高さに開け、ここを流通する水流により、豆(もやし)31への給・排水を安定化させ、積み重ねた栽培床体30の床体上面に播かれた各々の豆(もやし)31を均等な給水条件に保つことを可能にする。
上記のような構造を持つ栽培床体30は、木製、金属製、合成樹脂製とその材質は特に限定されないが、丈夫で耐久性のある例えば合成樹脂製の一体成型品とすることにより、安価に提供することが可能である。
【0019】
以上のように構成された栽培床体を用いて図1又は図3に示すような栽培装置本体でもやしを栽培する場合、栽培床体30にもやし豆を適度の密度で頒布し、栽培ボックス15又は24に複数の栽培床体30を積み重ねて収納し、収納してから収穫するまでの間には、温度や湿度を生育にとって最適な条件に保つための給水・排水等の処理が栽培室内の豆(もやし)に施される。給水は、実験的に予め求められた最適な水温、タイミングに従って繰り返される。ただし、栽培ボックス内に収納される栽培床体30に対しては、給水のような温度や湿度を生育条件に保つための処理以外には外からの操作を加えることなく、栽培室内で収納状態を保ちながら、栽培床体30それぞれがもやし自身の成長によって成長方向(床32の板面の垂直方向に)に移動するメカニズムが働くので、こうしたメカニズムが働く条件に適した構造を備える。
【0020】
温度や湿度を生育条件に保つために行う給水・排水等の処理をここでは、豆(もやし)を水に浸す方法(以下「浸水法」という)、即ち、栽培ボックス15に収納された栽培床体30ごと豆(もやし)31が没するまで水を注いで、水に浸す方法により行う。浸水法による場合、注いだ水により栽培ボックス15を満たし、積み重ねた栽培床体30の豆(もやし)31に給水する際に、栽培床体30の側壁33に一定の間隔をおいて設けた流通口34を通して水が流入(排水時には流出)するので、給・排水が具合よく行われ、安定した給水を行うことができる。
この浸水法は、全ての豆(もやし)に等しく給水を行うために有効な方法であり、この方法により浸水した後、排水をする工程をもって一回の給水工程の処理とする。
排水は、栽培ボックス15の前面の透視壁13に設けられたバルブ17で開閉自在とした排水孔を備えることにより、給水後にバルブを開くことにより排水を行う。
【0021】
次に、上記した実施形態のもやし栽培装置を用いて行うもやしの生産(栽培)工程を図5に示す模式図に基づいて説明する。
「工程1(播種・発芽)」
この工程は、栽培床体30上に豆を播き、発芽させるための工程である。栽培床体30上に豆を播く場合には、床体全面に施した孔又はメッシュに対応するような形で豆が重ならないように床32の上面に均一に播き、豆が播かれた栽培床体30を図5(A)に示すように、例えば6段に積み重ねた状態として、栽培ボックス30に収納し、上蓋20を閉め、且つ開閉扉7を閉め栽培ボックス15を光を遮蔽するが空気は流通可能に閉鎖して発芽をさせる。なお、栽培床体30上に播かれる豆は、発芽までに一般的に行う、豆の殺菌やぬるま湯に浸けて発芽を促進する処理の各工程は済ませたものである。
【0022】
「工程2(育成)」
この工程は、図5(B)に示すように、扉7を閉めて栽培室2を密閉状態にしたまま、栽培ボックス内でもやしを育成する工程である。このもやしを育成させる過程では、外光の遮断、保温及び保湿を可能とする栽培室内に積み重ねられた複数の栽培床体30上の豆(もやし)に対して、温度や湿度を生育にとって最適な条件に保つための給水が、収穫するまでの間、実験で確認された最適な水温、タイミングで繰り返される。この給水処理は、図5(B)に示すように、栽培ボックス15の上部開口から水密状態の栽培ボックス内の栽培床体30ごと豆(もやし)が没するまで注水し、その後、栽培ボックス15の前面下部に設けたバルブ17を開いて排水する。バルブ17からの排水は、排水受けタンク内のタンク12に貯留される。
この工程において、この給水処理以外には外からの操作を加えることはない。栽培ボックス内で収納状態を保ちながら、栽培床体30それぞれがもやし自身の成長によって上段の栽培床体を押し上げ、成長方向に平行移動するメカニズムの働きで、床体面からの長さを均等に保ちながら生育が進行する。その状況は、ときどき開閉扉7を開くことにより、もやし栽培ボックスの透視壁を介して外部から観察できる。したがって、子供のいる家庭では、もやしの成長を一緒に観察することができ、学習効果を上げることができる。
【0023】
なお、上記育成工程で、播種初日は、発芽を容易にするため、栽培ボックスに注入した水は7〜8時間後に排水することが望ましい。また、栽培ボックスの最上段の栽培床体の上に播種してない空の栽培床体を載せ、その中にタオル地布等の保水性の良い布を敷設しておくと、給水がし易く且つ湿度が保たれ、しかも空の栽培床体が後述する重しの役目も果たし、良好な栽培条件をもたらす。播種後4日目頃からは、給水後15〜20分程度もやしを浸し、その後排水すると太ったもやしが収穫できた。また他の方法として、栽培ボックスの上部をバスタオルのような厚手の布で覆い、排水後栓をすると、前記のように15〜20分程度水に浸さなくても、太ったもやしが収穫でき、単収も向上した。さらに、播種後3日目頃から根が伸びてくると、積重ねた栽培床体が一体となり、給水すると全体が一つの塊となって浮き上がる傾向にあるので、それを防ぐために、最上段の栽培床体に適度の重さ(例えば400〜500グラム)の錘をおいておくと効果的である。
【0024】
「工程3(収穫)」
この工程は、もやしの成長の最終段階でもやしを収穫する工程である。このときの工程は、上記した育成過程で床体面からの長さを均等に保つように生育したもやしが、図5(C)に示すように成長の最終段階にあることを確認して、栽培ボックス15から成長したもやしを栽培床体30ごと取り出す。この後、取り出した栽培床体30上で成長したもやし40の根切り、即ち床体面に沿って根の部分を切り離すことにより、収穫を行う。根切り作業は、図5(D)に示すように、栽培床体30の側壁33の一部を切り欠いて設けた根切り用の開口から根切り刃を挿入して、床32の上面に沿って(図中の矢示、参照)根切りを行う。こうした工程により、もやしの姿を損なわずに一定の長さに切り揃えた形でもやしを収穫することが可能になる。
【0025】
以上のように本発明の栽培方法で栽培したもやしは、栽培ボックス15から個々の栽培床体30を取出し、前記方法で根切りすることにより、容易且つ効果的にしかも体裁良く収穫できる。しかしながら、まれに上段の栽培床体のもやし40の根が下段の栽培床体のもやしの葉に絡まり、上段の栽培床体を持ち上げるとき、下段の栽培床体の一部のもやしが持ち上げられることがある。根に絡んで持ち上げられるもやしは、ごく少量であるが、値切りされた根と一緒に廃棄されるのでより歩留まりを高めるためには、根の絡みを確実に防止する必要がある。
【0026】
それを防止するために、本実施形態では、図6(a)に示すように、最上段の栽培床体を除き、各段の栽培床体30に播かれた豆の上に薄板状の仕切板36を落とし蓋状に重ね、その状態で栽培するようにした。このように、仕切板36を各栽培床体に播種した豆の上に落し蓋状に重ねることによって、もやしが発芽して成長するに応じてもやし自身の成長力により仕切板36を押上げると共に、仕切板36がその上段にある栽培床体30−1に生育するもやしの根41を受け、上段の栽培床体30−1のもやしの根41がその下段の栽培床体30−2のもやしの葉42に絡まることを防止する。その結果、収穫時には上段の栽培床体30−1を持ち上げると図6(b)に示すように、上段のもやしの根が下段のもやしの葉に絡まることを確実に防止でき、収穫作業をより歩留まりよく効果的に行うことができる。なお、仕切板36の材質は特に限定されるものでなく、また、剛性、可撓性何れでもよく、例えば合成樹脂シートやフィルム、金属薄板、木製薄板等任意の材質のものが採用できる。
【0027】
上記実施形態の栽培床体30は、発芽の段階から上段にある栽培床体30により負荷を与え、もやし自身の成長により生じる力で上段にある栽培床体を押し上げ垂直移動させることにより、一様の太さ及び長さのもやしを得ることができたものである。しかしながら、栽培床体30を多段に積み重ねた場合、特に下段の栽培床体30では発芽の段階での成長にムラや根腐れが生じ、一様な太さ長さのもやしが得られない場合が生じた。本発明はその問題を解決するために種々研究した結果、発芽から約2〜3cmに成長するまでは、負荷をかけずに自由状態で成長させ、その後一定の負荷を与え、自生圧で負荷を押し上げるようにすることによって、太い一様な長さのもやしを得ることができることを知得した。また、もやしの根切りを床面ぎりぎりでなく床面から5〜6mm上から切断することによって、より美麗に根切りをすることができ商品価値を高めることが知得された。
【0028】
図7(A)に示す実施形態の栽培床体60は、上記知見に基づくもので、簡単な構成で成長段階に応じて無負荷状態と負荷状態に切り替えて栽培管理を全く人手に寄らないで、自動的に行なって上記問題点を解決したものであると共に、根切りをその位置で床面に沿って切断する場合と同様にして切断できるように工夫した。
本実施形態の栽培床体60は、栽培ボックス15の形状に合わせて本実施形態では全体として四角箱状に形成され、床64、両側壁61a、61c、背壁61bとからなる。
床64は、孔又はメッシュを全面に施した板状体で形成されている。両側壁61a、61c及び背壁61bは、中間に段差部62を有して、それぞれ下段部と上段部の2段となっており、下段部が上段部よりも内側に位置しており、栽培床体を積重ねた場合、栽培床体の周縁部が段差部62面に載るように構成されている。しかしながら、段差は両側側壁のみに設け、後壁はテーパー状に傾斜させるかまたは直壁状態に形成することも可能である。但し後壁を直壁状態にすると、栽培床体を積み重ねた場合、後壁の板厚分だけ次第に前にずれた状態で重ねなければならない。
【0029】
段差部を設ける目的は、上記のように栽培床体を積重ねた場合、下段の栽培床体の床面とその上段の栽培床体の裏面との間に一定高さの空間を確保するためのものであり、それにより発芽したもやしは、その空間高さに達するまではその上段の栽培床体の加圧を受けず成長し、その後は成長に応じて栽培床体を自生圧により押上げて成長する。本発明者の実験によれば、発芽から約20〜40mm、好ましくは20〜30mmに達するまでは負荷をかけずに成長させ、その後は負荷をかけても成長が阻害されることがなく、上部から負荷をかけることによって太さが太くなり、一様高さに成長することが判明した。したがって、本実施形態の栽培床体60において段差部62までの下段部の高さaは、栽培床体に播種した豆が発芽して略2〜3cm程度まで成長するまでは、その上段に重ねた栽培床体によって負荷されずに自由に成長できる空間を確保するために、20〜40mm好ましくは20〜30mmの高さとするのが望ましい。
【0030】
一方、段差部62から上の上段部の高さbは、特に限定されるものではないが、図1に示すように栽培ボックス15に同軸的に積重ねるには、下段部高さaと段差部62の板厚の和よりも低いほうが望ましく、且つ収穫するもやしの最適長さより高い方が望ましい。また、本実施形態の栽培床体60は、収穫時にもやしを栽培床体の上面から根切りするために開口している開口壁面63の下端部には、板状床面から高さ4〜6mm程度の低壁65を形成してある。それと共に、図7(B)に示すように床面にカッターガイドとして低壁65と同じ高さの桟70を所定間隔(例えば5cm間隔)ごとに設けてある(なお、図7(A)には、図面が煩雑になるため、後述する押え桟と共に図示を省略してある)。このように、低壁65及び桟70を設けることによって、播種した豆が栽培床面からこぼれ落ちること、あるいは給水のときに豆が一方に片寄ることを防止すると共に、該低壁がもやし収穫時にもやしを根切りする際のカッターガイドとなり、該ガイド面に沿ってもやしを一様高さに容易に切断することができる。それにより、もやしを床面から4〜6mmの高さで切断することができ、根や豆が混じらないより純度の高い根切りができるという効果を奏する。
【0031】
また、各栽培床体60の床64の裏面には適宜間隔で高さ5mm程度の長尺状の支え桟71を複数個設けてある。それにより、もやしが成長して自生圧により上段の栽培床体を押上げるとき、下段のもやしの上に載っている仕切り板と栽培床体裏面との間に、もやしの根がうまい具合に縦横に走り易くなり、且つ保水性にもよく、もやしの生育に良好な条件を作り出す。また、支え桟71を設けることによって、栽培床体の穴に付着している根切りした根の除去が容易になるという効果もある。なお、側壁及び背壁の下段部には,図4に示す実施形態と同様に所定間隔ごとに水の流通口66が形成されている。
【0032】
本実施形態のもやし栽培60は、以上のように構成され、前記実施例と同様な栽培原理でもやしを栽培できるものであるが、本実施形態では、特に栽培床体60の周壁に段差部62を設けることによって、発芽から約3cmに成長するまでの間(通常3〜4日間)圧をかけないで成長させることができる。それにより、もやし発芽から初期段階に発生し易い傷みを完全に除去することができた。そして、3〜4cmに成長した段階以後は自動的に上段の栽培床体60による負荷がかかるが、その段階ではそれを押上げて成長する成長力を有しているので、一定の負荷の基で成長を続けることにより、高さ方向への成長を抑制されて太さが太く、且つ均一長さのもやしが得られる。また、本実施形態では、板状の床体上面に低壁及び桟を設けたので、床面から4〜6mmの高さでもやしの根切りを容易に均一高さに切断することができる。また、支え桟71と桟70を設けたので、根が下段のもやしと絡まることを防止できると共に、適度の空間を形成することにより根の成長を促進し、根腐れ等の発生を防止する効果も高い。
上記実施形態では、栽培床体を4角形に形成し、それに合わせて栽培装置本体も断面4角形に形成してあるが、栽培床体は4角形に限らず、円形、楕円形、その他の多角形に形成することができ、それにあわせて装置本体の形状も任意に形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のもやし栽培装置は、もやしの姿を損なわずに簡単に一定の長さに切り揃えて収穫することができ、且つ良質で歩留まり良く栽培でき、しかも安価な装置により手軽に簡単にもやしを栽培でき、しかも暗所や水場での栽培を必要としないから、家庭内の任意の場所に設置でき、且つ開閉扉を開けることによって成長段階も観測できるので、自家製もやし栽培装置や教育用もやし栽培装置として好適に適用できるばかりでなく、産業用のもやし栽培装置としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係わるもやし栽培装置の斜視図である。
【図2】図1に示すもやし栽培装置のA−A断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係わるもやし栽培装置の斜視図である。
【図4】もやし栽培装置の構成要素である栽培床体の実施形態の斜視図である。
【図5】本発明のもやし栽培装置を用いたもやしの生産(栽培)工程を説明するための図である。
【図6】(A)は本発明のもやし栽培装置において、落し蓋状に仕切り板を設けた場合の上段の栽培床体のもやしとその下段の栽培床体のもやしの関係を示す要部断面図であり、(B)は上段の栽培床体を持ち上げた際に下段の栽培床体との関係を示す要部断面図である。
【図7】本発明に係わるもやし栽培装置の他の実施形態の栽培床体を示し、(A)は栽培床体の斜視図、(B)はその詳細斜視図、(C)はそのC−C断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1、23 もやし栽培装置の本体
2 もやし栽培室
3 排水受けタンク収納室
4、5 側壁
6 背壁
7、8 開閉扉
10 隔壁
11 排水孔
12 タンク
13 透視壁
14 スペース
15、24 もやし栽培ボックス
17、27 バルブ
30、60 栽培床体
31 豆
32、64 床
33、61a、61c 側壁
33f フランジ部、
34、66 流通口
61b 背壁
62 段差部
65 低壁
70 桟
71 支え桟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
もやし栽培室と排水受けタンク収納室からなる装置本体と、もやし栽培用の種子から生育する根を通すことが可能な孔又はメッシュを全面に施した複数の栽培床体との組合せからなり、前記もやし栽培室は、周壁が外光の遮蔽、保温及び保湿を可能とする光遮蔽壁で構成され、少なくとも側壁の一側が開閉可能な扉となっており、内部に前記栽培床体を設置する栽培ボックスを形成し、該栽培ボックスに積み重ねた複数の前記栽培床体それぞれを互いに垂直に移動自在に収納可能とし、前記扉を開くことにより、前記栽培床体におけるもやしの成長状態を観察でき、且つ前記もやし栽培ボックスから排出される水を前記排水受けタンク収納室に設置される排水受けタンクに貯留可能にとなっていることを特徴とするもやし栽培装置。
【請求項2】
前記栽培ボックスは、前記扉に面する側が透視壁で構成され、他の側壁及び底壁は前記栽培室の壁によって構成されて水貯留構造に形成され、前記開閉扉を閉めることにより、前記栽培室が外光から遮蔽され、前記開閉扉を開けることにより、前記透視壁を介して栽培ボックス内のもやしを観察できる請求項1に記載のもやし栽培装置。
【請求項3】
前記透視壁は、前記開閉扉の遮蔽位置よりも所定の間隔を有してもやし栽培室内側に位置し、且つその高さが栽培室側壁よりも低く形成され、もやし栽培ボックスに給水した水がオーバーフローして、前記開閉扉との間の空間部に流出するようにしてなる請求項2に記載のもやし栽培装置。
【請求項4】
前記栽培ボックスは、別体に形成された少なくとも前面が透視壁で構成された頂部が開口した箱体に形成され、該栽培ボックスを前記もやし栽培室に設置可能にしてなる請求項1に記載のもやし栽培装置。
【請求項5】
前記栽培室の天壁は、該栽培室に前記栽培床体を出入可能に開閉自在となっており、且つ閉鎖した状態で栽培室への外光を遮蔽し、外気の流通が可能となっている請求項1〜4何れかに記載のもやし栽培装置。
【請求項6】
前記栽培床体は、周壁を有するトレー状とするとともに、該周壁に内外に水を通す流通口を備えたことを特徴とする請求項1〜5何れかに記載のもやし栽培装置。
【請求項7】
前記周壁の一部を切り欠いて形成した根切り用の開口を備えたことを特徴とする請求項4〜6何れかに記載のもやし栽培装置。
【請求項8】
前記栽培床体の端部に設けられた周壁に段差部を形成して周壁を下段部、段差部、前記下段部よりも外側に位置する上段部より構成し、前記段差部に上段の栽培床体の底面を受けるようにして複数段積み重ね可能にしたことを特徴とする請求項6又は7に記載のもやし栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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