説明

ろう付け用複合材及びろう付け方法並びにろう付け製品

【課題】 ろう付けによる母材の薄肉化(母材食われ)を低減し、かつ加工性と耐食性に優れ、製造コストが安価なろう付け用複合材を提供する。
【解決手段】 母材2とろう材部3とが複合一体化され、ろう材部3を介して他の部材にろう付け接合するために用いるろう付け用複合材1において、母材2がFeあるいはFe系合金であり、ろう材部3が上記母材側から順に、NiあるいはNi合金からなる層4と、TiあるいはTi合金からなる層5と、NiあるいはNi合金4からなる層とで構成され、ろう材部3に含まれるNiの重量aとTiの重量bとの和(a+b)に対するTiの重量bの比b/(a+b)が0.38以上のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け機能を有し、特に、ろう付けによる母材の薄肉化(母材食われ)の低減を図ったろう付け用複合材及びろう付け方法並びにろう付け製品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用オイルクーラの接合材として、ステンレス基クラッドろう材が使用されている。ステンレス基クラッドろう材は、ステンレス板の片面、あるいは両面にろう材としての機能を有するCuがクラッドされている。
【0003】
また、ステンレス鋼やNi基およびCo合金などの部品のろう付け材として、接合部の耐食性に優れる各種Niろうに、Ni、Cr、Ni−Cr合金のうち選ばれた金属粉末を4〜25wt.%添加して構成されるNiろう材が提案されている。
【0004】
また、自己ろう付け性複合材を作る方法として、Ni−Ti複合材の製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0006】
【特許文献1】特開平7−299592号公報
【特許文献2】特開2000−107883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車用オイルクーラの接合材にステンレス基クラッドろう材を使用した場合、ろう材としてのCuは使用上の耐熱性及び耐食性に全く問題はない。
【0008】
しかしながら、ステンレス基クラッドろう材を燃料電池用熱交換器、あるいはEGR(Exhaust Gas Recirculation:排ガス再循環装置)クーラ接合用など、耐食・耐熱環境下でろう材として使用した場合、耐熱性及び耐食性に著しい問題が生じる。
【0009】
すなわち、燃料電池用熱交換器やEGRクーラ内には、高温かつ腐食性の高い溶液あるいは排気ガスが循環されるため、従来のCuろう材では、耐熱性及び耐食性が十分でなく使用ができない。
【0010】
特許文献1に記載されているようなNi−Ti複合材は、ろう材として機能する合金の特定の組成範囲において、ろう付け時にろう材が母材を大幅に侵食し、母材の薄肉化が生じてしまう。その結果、ろう付け接合の強度低下が問題となる。
【0011】
特許文献2に記載されているNiろう材、及びJIS記載のNiろう材は、粉末状であるため、接合部毎に粉末ろう材を塗布する作業が必要になる。よって、多大な労力を費やし、製品の生産性が著しく悪く、高コストな製品とならざるを得ない。また、同じくJISに記載のアモルファスNiろう材は非常に脆いため、加工及びろう付け組み立て時の取り扱いが難しく、製造コストが高い。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ろう付けによる母材の薄肉化(母材食われ)を低減し、かつ加工性と耐食性に優れ、製造コストが安価なろう付け用複合材及びろう付け方法並びにろう付け製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、母材の侵食が少なく、かつ加工性と耐食性に優れ、さらにろう付け(ろう付)加工のコストを大幅に低減させるろう付け用複合材の構成について鋭意研究の上、種々検討した結果、ろう材としての材料を所定の構成に選定したろう付け用複合材に関する本発明を完成するに至った。
【0014】
また、本発明者らは、上記のろう付け用複合材を他の部材にろう付け接合する際、所定の温度プロファイルでろう付け作業を行うろう付け方法、並びにその方法を用いて組み立てたろう付け製品に関する本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、請求項1の発明は、母材とろう材部とが複合一体化され、ろう材部を介して他の部材にろう付け接合するために用いるろう付け用複合材において、上記母材がFeあるいはFe系合金であり、上記ろう材部が上記母材側から順に、NiあるいはNi合金からなる層と、TiあるいはTi合金からなる層と、NiあるいはNi合金からなる層とで構成され、上記ろう材部に含まれるNiの重量aとTiの重量bとの和に対するTiの重量の比b/(a+b)が0.38以上であるろう付け用複合材である。
【0016】
請求項2の発明は、母材とろう材部とが複合一体化され、ろう材部を介して他の部材にろう付け接合するために用いるろう付け用複合材において、上記母材がFeあるいはFe系合金であり、上記ろう材部が上記母材側から順に、NiあるいはNi合金からなる層と、TiあるいはTi合金からなる層と、FeあるいはFe系合金からなる層とで構成され、上記ろう材部に含まれるNiの重量aとTiの重量bとの和(a+b)に対するTiの重量bの比b/(a+b)が0.38以上であるろう付け用複合材である。
【0017】
請求項3の発明は、上記ろう材部を構成するFe系合金がNi、Crのうち選ばれた一種あるいは二種を含む請求項2記載のろう付け用複合材である。
【0018】
請求項4の発明は、上記ろう材部を構成するFe系合金がインバー合金である請求項2または3記載のろう付け用複合材である。
【0019】
請求項5の発明は、上記ろう材部を構成するFe系合金がステンレス鋼である請求項2または3記載のろう付け用複合材である。
【0020】
請求項6の発明は、上記ろう材部がPを0.02〜10重量%含む請求項1〜5いずれかに記載のろう付け用複合材である。
【0021】
請求項7の発明は、上記母材がステンレス鋼である請求項1〜6いずれかに記載のろう付け用複合材である。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1〜7いずれかに記載されたろう付け用複合材を、上記ろう材部を介して他の部材にろう付け接合する際、上記ろう材部の融点以上の温度t1で一旦上記ろう材部を溶融させた後、温度t1より5〜100℃低い温度t2で保持し、上記ろう付け用複合材と上記他の部材とをろう付け接合するろう付け方法である。
【0023】
請求項9の発明は、上記ろう材部の融点以上の温度t1を10〜600秒保持する請求項8記載のろう付け方法である。
【0024】
請求項10の発明は、請求項8または9に記載された方法を用いて組み立てたろう付け製品である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、特にろう付けによる母材の薄肉化(母材食われ)を低減し、かつ加工性と耐食性に優れ、製造コストが安価であるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0027】
図1は、本発明の好適な第1の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【0028】
図1に示すように、第1の実施の形態に係るろう付け用(ろう付け加工用)複合材1は、母材(基材)2とろう材部(ろう形成部、あるいはクラッドろう材)3とが複合一体化されて構成される。この複合材1は、ろう材部3を介して図示しない他の部材にろう付け接合(加工)するために用いられる。
【0029】
母材2は、FeあるいはFe系合金で板状に形成される。Fe系合金としては、例えば、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を用いる。
【0030】
ろう材部3は、母材2の表面から順に、NiあるいはNi合金からなる板状の層4と、TiあるいはTi合金からなる板状の層5と、NiあるいはNi合金からなる板状の層4とを積層して構成される3層構造である。
【0031】
ろう材部3に含まれるNiの重量aとTiの重量bとの和(a+b)に対するTiの重量bの比(ろう材部3中のTi重量比)b/(a+b)は、0.38以上、好ましくは0.38〜0.60、より好ましくは0.38〜0.55である。
【0032】
b/(a+b)を0.38以上にするのは、0.38未満であると、ろう材部3に含まれるTiが少ないため、ろう材部3の融点が必要以上に低くなり、ろう付け時にろう材部3が母材2を侵食し、母材2の薄肉化が生じる(母材2の食われが大きくなる)からである。
【0033】
次に、ろう付け用複合材1のろう付け方法を説明する。
【0034】
まず、ろう材部3の最外層であるNiあるいはNi合金からなる層4と、ろう付け接合したい他の部材とを接触させ、ろう付け時に、図7に示す温度プロファイルを有する熱処理(温度)パターン71にしたがい、ろう付け作業を実施する。
【0035】
熱処理パターン71は、昇温工程71aと、第1保温工程71bと、第1降温工程71cと、第2保温工程71dと、第2降温工程71eとからなる温度プロファイルを有する。
【0036】
昇温工程71aは、室温付近からろう材部3の融点以上の温度(初期保持温度)t1まで複合材1と他の部材を昇温する工程である。
【0037】
第1保温工程71bは、温度t1を10〜600秒、好ましくは10〜300秒、さらに好ましくは10〜180秒保持し、一旦ろう材部3を溶融させる工程である。温度t1を10〜600秒保持するのは、10秒未満であると、ろう材部3が十分に溶融せず、600秒を超えると、ろう材部3中に母材2が溶け出し、ろう付け後の母材2の残存率が低下するからである。
【0038】
第1降温工程71cは、温度t1から温度t1より低い温度(2次保持温度)t2まで複合材1と他の部材を降温する工程である。
【0039】
第2保温工程71dは、温度t1より5〜100℃、好ましくは10〜100℃、より好ましくは25〜100℃、さらに好ましくは40〜100℃低い温度t2で保持し、ろう材部3の各層4,5,4を固相拡散して合金化する工程である。温度t1,t2は、5℃≦(t1−t2)≦100℃を満たす。
【0040】
温度t1より5〜100℃低い温度t2で保持するのは、5℃以上低い温度であれば、ろう材部3中に母材2が溶け出すのを防止でき、ろう付け後の母材2の残存率が向上するからである。一般に、温度t2は1000℃以上の高温域となるため、実際(実用レベル)では、このような高温域で5℃以下の温度を制御するのが難しいためでもある。また、100℃よりも低い温度にすると、湯流れ性の低下が発生するからである。
【0041】
第2降温工程71eは、温度t2から室温付近まで複合材1と他の部材を降温する工程である。以上の各工程71a〜71eを終えると、複合材1と他の部材とがろう付け接合される。
【0042】
このろう付け方法を用いて、ろう付け用複合材1と他の部材とをろう付け接合し、所定の形状に加工するなどして組み立てれば、例えば、熱交換器(排ガス再循環装置(EGR)用クーラや燃料電池改質器用クーラなど)および燃料電池用部材などのろう付け製品が得られる。
【0043】
第1の実施の形態の作用を説明する。
【0044】
ろう付け用複合材1は、ろう材部3が母材2側から順にNiまたはNi合金層4,TiまたはTi合金層5,NiまたはNi合金層4で構成され、本来、高融点のNi、Ni合金、Ti、Ti合金を含む組成であるが、ろう付け時にろう材部3の融点が単体のNiやTiよりも下がるので、ろう付けが可能となる。
【0045】
複合材1は、ろう材部3中のTi重量比b/(a+b)を0.38以上に調整しているため、ろう材部3の融点が最適な温度になり、ろう付けによる母材2の薄肉化(母材食われ)を低減でき、ろう付け接合部の信頼性が向上する。
【0046】
複合材1は、従来のCuろう材に比べて耐熱性、耐食性に優れている。さらに、複合材1は、母材2とろう材部3とが複合一体化されているため、従来の粉末Niろう材に比べて、加工及びろう付け組み立て時の取り扱いが簡単であり、複合材1自体やろう付け製品の加工性、生産性に優れ、製造コストが安価である。
【0047】
また、ろう付け用複合材1のろう付け方法によれば、ろう材部3の融点以上の温度t1で一旦ろう材部3を溶融させることで、湯流れ性の低下を防止できる。さらに、ろう材部3の溶融後、温度t1より低い温度t2で保持することで、ろう材部3の各層4,5,4が固相拡散して合金化するため、ろう材部3中に母材2が溶け出すのを防止でき、ろう付け後の母材2の残存率を向上できる。
【0048】
第1の実施の形態では、母材2の表面にろう材部3を複合一体化した例で説明したが、図2に示す第2の実施の形態に係るろう付け用複合材21のように、母材2の両面にろう材部3,3をクラッドして複合一体化してもよい。
【0049】
また、図3に示す第3の実施の形態に係るろう付け用複合材31のように、棒状、あるいはワイヤ状の母材2の外周に、順に各層4,5,4をめっき、あるいは造管法によって複合一体化してもよい。
【0050】
次に、第4の実施の形態を説明する。
【0051】
図4に示すように、ろう付け用複合材41は、母材2とろう材部43とが複合一体化されて構成される。ろう材部43は、図1のろう材部3の最外層となるNiまたはNi合金からなる層4の代わりに、FeあるいはFe系合金からなる層44を用いたものである。
【0052】
ろう材部43を構成するFe系合金としては、例えば、インバー(登録商標)合金、ステンレス鋼を用いる。さらに、ろう材部43を構成するFe系合金がNi、Crのうち選ばれた一種あるいは二種を含むものでもよい。これは、Fe系合金がNiを含むと、ろう付けの際、ろう材部43の混合(溶融反応)が促進されることによって湯流れ性が向上するからである。また、Fe系合金がCrを含むと、ろう材部43の耐食性が向上するからである。
【0053】
ろう付け用複合材41のろう付け方法は、図7で説明したろう付け用複合材1のろう付け方法と同じである。
【0054】
一般に、ろう付け用複合材とろう付け接合される他の部材は、FeあるいはFe系合金であることが多い。ろう付け用複合材41は、最外層がFeあるいはFe系合金からなる層44なので、FeあるいはFe系合金などで構成される他の部材との接合性がよく、また、他の部材の食われを抑制できる。このろう付け用複合材41やそのろう付け方法によっても、上述と同じ作用効果が得られる。
【0055】
第4の実施の形態では、母材2の表面にろう材部43を複合一体化した例で説明したが、図5に示す第5の実施の形態に係るろう付け用複合材51のように、母材2の両面にろう材部43,43をクラッドして複合一体化してもよい。
【0056】
また、図6に示す第6の実施の形態に係るろう付け用複合材61のように、棒状、あるいはワイヤ状の母材2の外周に、順に各層4,5,44をめっき、あるいは造管法によって複合一体化してもよい。
【0057】
さらに、別の実施の形態として、上述したろう材部3,43にPを添加することで、ろう材部3,43がPを0.02〜10重量%、好ましくは0.02〜5.0重量%含むようにしてもよい。この場合、ろうの湯流れ性や耐酸化性がさらに向上する。ろう材部3,43がPを0.02〜10重量%含むようにするのは、Pの添加量が0.02重量未満であると、湯流れ性や耐酸化性の向上効果が十分に得られないからである。また、Pの添加量が10重量%を超えると、接合させる母材2の種類によっては、ろう付け後の強度低下が発生するからである。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
SUS304条の表面から順に、Ni条(厚さ0.23mm)、Ti条(厚さ1.0mm)、Ni条(厚さ0.23mm)を圧延法によりクラッドし、複合材1を作製した。さらに圧延を繰り返し、Ni、Ti、Ni層の合計の厚さを70μmとした。ろう材部3中のTi重量比b/(a+b)は0.53である。圧延後の複合材1を用い、図7に示す温度プロファイルを有する熱処理パターン71でろう付け作業を行い(t1:1250℃,t2:1200℃)、ろう付け特性を評価した。
【0059】
(実施例2)
t1を1250℃、t2を1150℃とする以外は、実施例1と同様にしてろう付け特性を評価した。
【0060】
(実施例3)
Ni条の厚さを0.42mmとする(b/(a+b):0.38)以外は、実施例2と同様にしてろう付け特性を評価した。
【0061】
(実施例4)
SUS304条の表面から順に、Ni条(厚さ0.46mm)、Ti条(厚さ1.0mm)、Fe条(厚さ0.12mm)を圧延法によりクラッドし、複合材1を作製した。さらに圧延を繰り返し、Ni、Ti、Fe層の合計の厚さを70μmとした。ろう材部43中のTi重量比b/(a+b)は0.53である。圧延後の複合材1を用い、図7に示す温度プロファイルを有する熱処理パターン71でろう付け作業を行い(t1:1250℃,t2:1150℃)、ろう付け特性を評価した。
【0062】
(比較例1)
図8に示す温度プロファイルを有する熱処理パターン81でろう付け作業を行う(t1:1250℃,t2:1100℃)以外は、実施例1と同様にしてろう付け特性を評価した。熱処理パターン81は、(t1−t2)>100℃である以外、図7の熱処理パターン71とほぼ同じである。
【0063】
(比較例2)
図9に示す温度プロファイルを有する通常の熱処理パターン91でろう付け作業を行う(t1=1250℃、t1=1150℃の2通り)以外は、実施例1と同様にしてろう付け特性を評価した。熱処理パターン91は、図7の熱処理パターン71や図8の熱処理パターン81のような第2保温工程がなく、温度t1,t2が等しい。
【0064】
(比較例3)
Ni条の厚さを0.47mm(b/(a+b):0.35)とする以外は、実施例2と同様にしてろう付け特性を評価した。
【0065】
(比較例4)
Ni条の厚さを0.455mm(b/(a+b):0.36)とする以外は、実施例2と同様にしてろう付け特性を評価した。
【0066】
(比較例5)
Ni条の厚さを0.44mm(b/(a+b):0.37)とする以外は、実施例2と同様にしてろう付け特性を評価した。
【0067】
(従来例1)
複合材の材料としてSUS304条、Cu条を用い、圧延法により2層構造のクラッドろう材を作製した。また、Cuの厚さは70μmになるように圧延加工を行った。圧延後の複合材を用い、図9の熱処理パターン91でろう付け作業を行い、ろう付け性を評価した。
【0068】
(従来例2)
SUS304条の片面に市販の粉末Niろう材(Ni−19wt%Cr−10wt%Si)を合成樹脂バインダで溶いたものを塗布し、複合材を作製した。この複合材を用い、図9に示す熱処理パターン91でろう付け作業を行い、ろう付け性を評価した。
【0069】
表1は、実施例1〜4、比較例1〜5、および従来例1,2の各複合材の構成、ろう付け時の熱処理パターン、温度t1,t2、ろう付け後の母材の残存率、腐食発生の有無、フィレット形成状態(湯流れ性)、ろう付け生産性を比較し、各複合材の総合評価を示したものである。表1中の○は良好、×は不良を示す。
【0070】
母材の残存率については、ろう付け前後の母材の板厚変化を断面観察によって測定し、板厚の平均減少率および最大減少率について評価した。湯流れ性については、ろう材部と母材を一体化した複合材の表面にSUS304パイプをのせ、各熱処理パターンでろう付けを行った際のろう付け接合部のフィレット形状およびフィレットの断面積により評価した。腐食試験は、塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオンを含んだ腐食性溶液中に試料を1000h浸漬し、取り出した後のろう付け接合部について詳細な観察を行い、腐食発生の有無を調査した。また、併せて試験後の溶液を分析し、浸漬試験によるろう材から試験液へ溶出した溶出物の定量比較を行い腐食の程度を判断した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示すように、実施例1,2は、同じろう材構造と組成(b/(a+b):0.53)であり、図7の熱処理パターン71(温度t1と温度t2の温度差Δがそれぞれ50,100℃)でろう付けを行っているので、ろう付けによる母材2の板厚減少が極めて少なく、それにより、ろう付け部接合部において十分な接合強度を得ることができた。
【0073】
一方、比較例1は、実施例1,2と同じろう材構造・組成でも、図8の熱処理パターン81(Δ:150℃)でろう付けを行っているので、湯流れ性が悪いという問題が生じることがわかった。
【0074】
また、比較例2のように、図9の通常の熱処理パターン91でろう付けを行うと、ろう付け温度t1が1150℃では十分にろうが溶融しない。また、ろう付け温度t1が1250℃の場合は、温度t1を保持する時間が図7の熱処理パターン71や図8の熱処理パターン81よりも長いので、母材2の食われが著しいことがわかった。
【0075】
実施例3のように、実施例1,2と同じろう材構造、実施例2と同じ熱処理パターン71(Δ:100℃)で、ろう材の組成を変化させた場合、b/(a+b)が0.38では、良好なろう付け特性が得られた。
【0076】
一方、比較例3〜5は、b/(a+b)がそれぞれ0.35,0.36,0.37なので、母材2の食われが大きいという問題が生じた。
【0077】
実施例4のように、Fe/Ti/Ni/SUSのろう材構造を有する場合も、良好な接合を得ることができた。
【0078】
従来例1は、湯流れ性に優れ、母材の食われも少なく、良好なろう付け性能が得られたものの、ろう材がCuなので耐食性が十分でなく、腐食が発生して高腐食環境での使用に耐えられないという結果となった。
【0079】
従来例2では、母材の食われが少なく、耐食性や湯流れ性も良好であるが、粉末ろう材であること、さらに有機物系のバインダを用いることなどから、ろう付け生産性が著しく低下してしまう。
【0080】
一方、実施例1〜4は複合材であるため、ろう付け生産性が著しく向上することは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【図6】本発明の第6の実施の形態を示すろう付け用複合材の横断面図である。
【図7】本実施の形態に係るろう付け用複合材を用いたろう付け時の熱処理パターンを示す図である。
【図8】比較例(比較例2を除く)のろう付け用複合材を用いたろう付け時の熱処理パターンを示す図である。
【図9】比較例2および従来例のろう付け用複合材を用いたろう付け時の熱処理パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ろう付け用複合材
2 母材
3 ろう材部
4 NiあるいはあるいはNi合金からなる層
5 TiあるいはTi合金からなる層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材とろう材部とが複合一体化され、ろう材部を介して他の部材にろう付け接合するために用いるろう付け用複合材において、上記母材がFeあるいはFe系合金であり、上記ろう材部が上記母材側から順に、NiあるいはNi合金からなる層と、TiあるいはTi合金からなる層と、NiあるいはNi合金からなる層とで構成され、上記ろう材部に含まれるNiの重量aとTiの重量bとの和(a+b)に対するTiの重量bの比b/(a+b)が0.38以上であることを特徴とするろう付け用複合材。
【請求項2】
母材とろう材部とが複合一体化され、ろう材部を介して他の部材にろう付け接合するために用いるろう付け用複合材において、上記母材がFeあるいはFe系合金であり、上記ろう材部が上記母材側から順に、NiあるいはNi合金からなる層と、TiあるいはTi合金からなる層と、FeあるいはFe系合金からなる層とで構成され、上記ろう材部に含まれるNiの重量aとTiの重量bとの和に対するTiの重量の比b/(a+b)が0.38以上であることを特徴とするろう付け用複合材。
【請求項3】
上記ろう材部を構成するFe系合金がNi、Crのうち選ばれた一種あるいは二種を含む請求項2記載のろう付け用複合材。
【請求項4】
上記ろう材部を構成するFe系合金がインバー合金である請求項2または3記載のろう付け用複合材。
【請求項5】
上記ろう材部を構成するFe系合金がステンレス鋼である請求項2または3記載のろう付け用複合材。
【請求項6】
上記ろう材部がPを0.02〜10重量%含む請求項1〜5いずれかに記載のろう付け用複合材。
【請求項7】
上記母材がステンレス鋼である請求項1〜6いずれかに記載のろう付け用複合材。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載されたろう付け用複合材を、上記ろう材部を介して他の部材にろう付け接合する際、上記ろう材部の融点以上の温度t1で一旦上記ろう材部を溶融させた後、温度t1より5〜100℃低い温度t2で保持し、上記ろう付け用複合材と上記他の部材とをろう付け接合することを特徴とするろう付け方法。
【請求項9】
上記ろう材部の融点以上の温度t1を10〜600秒保持する請求項8記載のろう付け方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載された方法を用いて組み立てたことを特徴とするろう付け製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−43749(P2006−43749A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230393(P2004−230393)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】