説明

ろ過方法、ろ過装置およびろ過池

【課題】 格別に広いスペースを必要とせず、従来の浄水設備にも容易に適用できると共に生物層で処理して美味しい水を大量に得ることができるろ過方法を提供する。
【解決手段】砂(25、40)と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層で被処理水(28、48)をろ過するとき、被処理水に径が80μm以下の空気の気泡を混入した後に前記生物層でろ過する。また、ろ過するとき、必要に応じて被処理水(28、48)を加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼等から取水された水、汲み上げられた地下水等の原水を、所定の厚さの砂の層でろ過するとき、砂の層に形成されている微生物の層によって有機物を分解すると共に懸濁物質を捕捉して浄水を得るろ過方法、ろ過装置、およびろ過池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活用水、飲用水等に利用される水道水、いわゆる浄水は、河川、湖沼、ダム等から取水された水、あるいは地下から汲み上げられた地下水等の原水を浄化処理して得られる。原水には、微生物やごみがコロイド状に浮遊する懸濁物質が含まれているのでそのままでは飲用には不適である。そこで、原水は、所定のろ過方法によって懸濁物質が取り除かれ、有効塩素換算濃度が約1ppmになるように塩素が注入され、家庭、工場、学校等に水道水として配水される。原水から懸濁物質を取り除くろ過方法として、砂の層が設けられたろ過池でろ過する砂ろ過法が周知であり、砂ろ過法には緩速ろ過法と急速ろ過法とが知られている。
【0003】
緩速ろ過法は、バクテリア、微生物等の生物の作用によって水を浄化する方法である。緩速ろ過法では、まず原水を沈砂池に導いて水中に浮遊している砂やごみを沈めて、いわゆる緩速ろ過池に導く。緩速ろ過池には平均粒径0.8〜1.0mmの砂の層が設けられている。緩速ろ過法においては殺菌用の次亜塩素酸ナトリウムは注入しないので、微生物は死滅しない。従って、緩速ろ過池の砂の層には、砂と該砂に付着して繁殖したバクテリアとからなる所定の厚さの生物層が形成されることになる。このような生物層は層の厚さが薄いので生物膜とも呼ばれている。水が生物層を通るとき、水中の有機物が分解されるので、カビ臭が除去されて美味しい水を得ることができる。また、水が生物層を通るとき、水中に浮遊している微細なごみも十分に捕捉され、近年問題になっているクリプトスポリジウムもほぼ完全に除去することができる。クリプトスポリジウムは約5μmの大きさの原虫であり、塩素に対して耐性を有する。浄水にクリプトスポリジウムが混入して飲用されると、集団的な下痢が発生してしまうが、このようなクリプトスポリジウムも生物層によってほぼ完全に除去されるので安全な浄水を供給することができる。緩速ろ過池においては生物層は1〜2cmの厚さにしか形成されないので、水を生物層で十分に処理するためには、生物層を通る水の速度、すなわちろ過速度を制限しなければならない。従って、緩速ろ過池においてはろ過速度は最大でも8m/日程度である。
【0004】
急速ろ過法は、原水に薬品を添加して懸濁物質を取り除く水の浄化方法である。急速ろ過法では、原水に、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド等の凝集剤を添加して沈殿池に導く。そうすると、マイナスの電荷に帯電しているコロイド状の懸濁物質の大部分がフロック状に凝集して沈殿する。沈殿池の上澄み水に、次亜塩素酸ナトリウムを注入して殺菌し、いわゆる急速ろ過池に導く。急速ろ過池には、平均粒径1〜2mmの砂の層が設けられ、水が砂の層を通る間に残存している懸濁物質のほとんどが濾し取られることになる。急速ろ過池は塩素が溶存している水をろ過するので、生物層はほとんど形成されない。従って、ろ過速度を120〜150m/日にすることができ、大量の浄水を効率よく得ることができる。また、沈殿池において大部分の懸濁物質が沈殿するので、砂の層が目詰まりしてろ過できなくなる、いわゆるろ過閉塞が発生し難い。そして、ろ過閉塞してしまっても、急速ろ過池の砂の層の下方から浄水を噴出させる、いわゆる逆洗を実施すればろ過閉塞を容易に解消することができるので、メンテナンス性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−211804号公報
【0006】
特許文献1には、直列に接続された前段と後段とからなる2段のろ過池と、それらのろ過池によって原水を処理して浄水を得るろ過方法が記載されている。それぞれのろ過池には、粒径が50μm〜300μmの砂の層が設けられ、原水には薬品を注入しないので、各ろ過池の砂の層には生物層が形成されることになる。原水を、最初に、前段のろ過池においてろ過速度が30〜200m/日になるようにろ過して、濁質の大半と有機物の50%程度を除去する。引き続き、後段のろ過池においてろ過速度が10〜75m/日になるようにろ過して、残存している濁質と有機物を除去する。そして、これらのろ過池は所定の周期で逆洗してろ過閉塞を防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
緩速ろ過法によれば、生物層によって水を処理するので、カビ臭の原因になる有機物が分解されて美味しい水を得ることができる。また、急速ろ過法によれば、ろ過速度を大きくすることができるので、ろ過池の面積が小さくても大量の浄水を効率よく得ることができ、特に用地の確保が難しい都市部において有利なろ過方法である。しかしながら、これらの方法には問題が認められる。例えば、緩速ろ過法においては、前記したようにろ過速度を大きく上げることができないので、処理効率が低く、大量の浄水を得るには広大な緩速ろ過池が必要になってしまう。また、ろ過閉塞の問題もある。緩速ろ過法は、ろ過速度を小さくして運転する必要があるので、砂の層の表層と下層における水圧差を小さくする必要があり、一般的に緩速ろ過池の水深は浅い。そうすると、少しでも砂の層が目詰まりして水圧の圧力損失が生じてしまうと、十分な水圧差を確保することができなくなってろ過できなくなる。例えば、圧力損失を水柱の高さで表した、いわゆる損失水頭が約1.5mに達すると、緩速ろ過池ではろ過ができなくなってしまう。さらには、生物層が薄いので、比較的栄養分の高い原水を処理すると、薄い生物層に集中して大量の微生物が繁殖してしまい、早期に砂の層が目詰まりしてしまう。ろ過できなくなってしまった緩速ろ過池は、水を抜いて、目詰まりしてしまった砂の表面の層を掻き出すメンテナンスが必要になり、人件費が嵩む。従って、広大なろ過池の用地確保が難しく、近郊の河川の栄養分が高い都市部においては、緩速ろ過法は採用し難い。
【0008】
急速ろ過法にも問題が認められる。急速ろ過法においては、水中に溶存している有機物が分解されないので、カビ臭が分解されず美味しい水が得にくい。また、生物層が形成されていない砂の層だけでろ過するので、小さな粒子のクリプトスポリジウムが急速ろ過池から流出してしまい、浄水に混入してしまう危険がある。さらには、懸濁物質が沈殿した沈殿物には凝集剤が含まれているので、すなわち、薬品が含まれているので、そのまま河川に戻すことができず産業廃棄物として処理する必要がある。そうすると、処理費用が嵩んでしまうし環境にも影響を及ぼす。
【0009】
特許文献1に記載のろ過方法によると、緩速ろ過法の優れた点を活かしながら、ろ過速度を大きくすることができるので、優れたろ過方法になっている。すなわち、生物層によってろ過して美味しい水を得ることができると共にクリプトスポリジウムの流出の危険がなく、大量の浄水を得ることができる。しかしながら、改良すべき点も見受けられ、具体的には必要となる設備が大型化してしまう問題がある。つまり、特許文献1に記載のろ過方法によると、ろ過池が2段必要になるので、従来のろ過池を備えた浄水設備に適用しようとすると、新たにろ過池の設置が必要になってしまい、設備全体が大きくなってしまう。
【0010】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたもので、具体的には、格別に広いスペースを必要とせず、従来の浄水設備にも容易に適用でき、ろ過閉塞はし難く安定して大量の原水を処理でき、生物層で処理して有機物を分解して安全で美味しい水を得ることができるろ過方法と、この方法の実施に使用されるろ過装置、およびろ過池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、微細気泡発生装置と、砂の層が設けられている圧力容器とから、ろ過装置を構成する。そして、微細気泡発生装置によって被処理水に80μm以下の径の空気の気泡を混入して、0.05MPa以上の圧力で圧力容器に供給して、砂の層に形成されている所定の厚さの生物層でろ過する。また、他の発明においては、ろ過池に被処理水が流入する流入路に、被処理水に微細な空気の気泡を混入する微細気泡発生装置を設ける。そして、被処理水に、径が80μm以下の空気の気泡を混入してろ過池に導く。このように微細な空気の気泡を混入した被処理水を、ろ過池の砂の層に形成されている所定の厚さの生物層でろ過する。
【0012】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、被処理水を所定の砂の層でろ過して浄水を得るとき、前記砂の層に形成され、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定厚さの生物層で前記被処理水をろ過するろ過方法において、前記被処理水に、径が80μm以下の空気の気泡を混入した後に、前記生物層でろ過するように構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記被処理水に前記気泡を混入するとき、10〜80μmの径の気泡が200個/mL以上になるように構成され、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法において、前記被処理水に、0.05MPa以上の圧力をかけてろ過するように構成され、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法において、前記被処理水は、河川、湖沼、ダム等から取水され、または地下から汲み上げられた原水であるように構成され、請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法において、前記被処理水は、河川、湖沼、ダム等から取水された原水に、所定の凝集剤を添加して懸濁物質を凝集させて沈殿させた上澄み水であるように構成される。
【0013】
請求項6に記載の発明は、微細気泡発生装置と、被処理水が供給されてろ過されて浄水として排出されるようになっている圧力容器と、該圧力容器内に設けられている砂の層とから構成され、前記被処理水は、前記微細気泡発生装置によって、80μm以下の径の空気の気泡が混入されて、0.05MPa以上の圧力で前記圧力容器に供給され、前記砂の層でろ過されるように構成される。
そして、請求項7に記載の発明は、砂の層が設けられ、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層が前記砂の層に形成されているろ過池において、被処理水を前記ろ過池に供給する流入水路には、微細気泡発生装置が設けられ、前記被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるように構成され、請求項8に記載の発明は、砂の層が設けられ、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層が前記砂の層に形成されているろ過池において、前記ろ過池の上流には、微細気泡発生装置が設けられ所定容量の池が設けられ、前記池において被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入され、前記ろ過池に供給されるように構成され、請求項9に記載の発明は、砂の層が設けられ、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層が前記砂の層に形成されているろ過池において、前記ろ過池内には、微細気泡発生装置が設けられ、前記ろ過池内の被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるように構成される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によると、被処理水に、径が80μm以下の空気の気泡を混入するので、被処理水には大量の空気が溶解していると共に、微細な気泡が含まれることになる。このような被処理水を、所定の砂の層でろ過すると、水処理に適した好気性の微生物が効率よく繁殖して生物層の厚さが厚くなる。従って、このような厚い生物層で被処理水をろ過することができるので、ろ過速度を高速にしても十分に被処理水を処理することができ、被処理水中に含まれている有機物を分解できると共に、被処理水中に含まれている微細な懸濁物質を捕捉することができる。すなわち、美味しくて安全な浄水を大量に得ることができる。さらには、ろ過速度を高速にして運転することができるので、砂の層の上層と下層の水圧差を大きくして運転することができ、そうすると、砂の層が目詰まりして若干損失水頭が高くなっても、ろ過し続けることが可能になる。また、生物層が厚くなるので、微生物が厚い生物層に分散して繁殖し、ろ過閉塞し難くなる。すなわち、ろ過池の目詰まりを解消するメンテナンスの頻度が低下することになる。また、他の発明によると、被処理水に気泡を混入するとき、10〜80μmの径の気泡が200個/mL以上になるように混入するので、被処理水に大量の空気が溶解して微細な気泡が含まれることになり、前記したような効果が確実に得られることになる。さらには、被処理水に0.05MPa以上の圧力をかけてろ過する発明によると、ろ過速度を高速にできると共に、ほとんどろ過閉塞が発生しなくなり、メンテナンスの頻度がさらに低下して安価に大量の浄水を得ることができる。被処理水が、河川、湖沼、ダム等から取水され、または地下から汲み上げられた原水である発明、または、被処理水が、河川、湖沼、ダム等から取水された原水に、所定の凝集剤を添加して懸濁物質を凝集させて沈殿させた上澄み水である発明によると、被処理水として色々な水を適用することができ、ほとんどの浄水場において本発明を実施することが可能になる。
微細気泡発生装置と、圧力容器と、該圧力容器内に設けられている砂の層とからろ過装置が構成されている発明によると、狭いスペースであってもろ過装置を設置することができるし、安価にろ過装置を提供することができる。また、被処理水をろ過池に供給する流入水路に微細気泡発生装置が設けられている発明によると、またはろ過池内に微細気泡発泡装置が設けられている発明によると、従来の緩速ろ過池に単に微細気泡発生装置を備えるだけで済むので、格別に広いスペースを必要とするなく、安価に本発明を実施することができる。さらには、ろ過池の上流に、微細気泡発生装置が設けられて所定容量の池が設けられている発明によると、微細な空気の気泡を被処理水に効率よく混入することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るろ過装置を模式的に示す側面断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るろ過設備を模式的に示す図であり、その(ア)は第1の実施の形態に係るろ過設備を、その(イ)は第2の実施の形態に係るろ過設備を、それぞれ示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1によって、本実施の形態に係るろ過装置1を説明する。ろ過装置1は、河川、湖沼、ダム等から取水された原水、すなわち被処理水に空気の気泡を混入する微細気泡混入槽2、所定の形状の中空の圧力容器3、この圧力容器3内に設けられ被処理水をろ過するろ過材4、等から構成されている。圧力容器3は、所定の肉厚の鋼板からなり、円筒状の胴部6と、この胴部6の上部にボルトによって液密的に取り付けられているドーム状を呈するヘッド部7と、同様に胴部6の下部にボルトによって液密的に取り付けられているドーム状のボトム部8とから構成されている。胴部6の上部の所定の位置には流入管9が設けられ、圧力容器3内に微細気泡混入槽2内の被処理水が供給できるようになっている。本実施の形態においては、送水ポンプ11が微細気泡混入槽2内に水没した状態で設けられ、流入管9の上流側に接続されているので、被処理水は所定の水圧に加圧されて圧力容器3内に供給されることになる。流入管9には圧力計12が介装され、圧力容器3に供給する被処理水の水圧を監視するようになっている。流入管9は、先端の所定の長さが圧力容器2内に引き込まれ、先端には上方に開口した皿状を呈する噴出部13が設けられている。噴出部13は噴出方向に拡径しているので、圧送される被処理水は、噴出部13において減速し、上方に向かって緩やかに流出してろ過材4に到達することになる。従って、ろ過材4を構成しているろ過砂は圧力容器3内で舞い上がることはない。圧力容器3のボトム部8には、ろ過された水を外部に送水する流出管15が設けられている。また、圧力容器3のヘッド部6の頂部には空気抜き弁16が設けられ、フロート17によって、圧力容器3内の被処理水の水位の低下が検出されると、自動的に弁が開いて、圧力容器3の上部に溜まった空気が排気されるようになっている。
【0017】
圧力容器3の底部には、ろ過材4を支持する床、すなわちろ床19が設けられている。ろ床19は、上面が平面状を呈しており、ろ床19の内部には流路が設けられている。そして、上面には内部の流路に連通する小径の孔が多数明けられている。従って、ろ過された被処理水、すなわち浄水が流出管15に集水されることになる。ろ床19の上面の孔の径は、ろ過材4を構成しているろ過砂利よりも小径になっているので、流出管15からろ過砂利は流出しない。ろ過材4は複数層のろ過砂利層21〜24と、その上に設けられているろ過砂層25とから構成されている。第1のろ過砂利層21は、粒径が30〜60mmの砂利からなりろ床の上に厚さ12cm程度に設けられている。第2〜4のろ過砂利層22、23、24は、第1のろ過砂利層21の上に順番に重ねられ、粒径が20〜30mm、10〜20mm、3〜4mmの砂利が、それぞれ10cmの厚さになるように設けられている。ろ過砂層25は、平均粒径0.8〜1.0mmのけい砂からなる層であり、第4のろ過砂利層24の上に厚さ80cm程度になるように設けられている。
【0018】
本実施の形態に係るろ過装置1においては、微細気泡混入槽2の底部に微細気泡発生装置26が設けられている。微細気泡発生装置26は、キャビテーションによって気泡を発生させる方式のもの、所定の容器内で水を旋回させて空気の渦を形成して気泡を発生させる方式のもの等、色々な方式の装置が周知であり、例えば、特許第3397154号公報に記載されている旋回式微細気泡発生装置を採用することができる。微細気泡発生装置26を稼動すると、数μm〜500μmの微細な空気の気泡を発生させることができる。このような微細な気泡のうち小径の気泡、例えば数〜10μmの気泡は、数秒〜10数秒で被処理水に溶解して消滅してしまったり、径が小さくなって視認することができなくなる。一方、比較的大きな気泡、例えば400μm以上の気泡は互いに融合して大きな泡となって水面に浮かんでしまう。比較的小径の気泡、例えば10〜80μmの気泡は、一部が被処理水に溶解してしまうが、所定の割合の気泡はしばらく被処理水中に残存する。このような気泡には浮力が作用するが、水の粘性抵抗が大きいので数〜10μm/秒の速度でしか浮上せず、特に65μm以下の気泡は浮上し難く、10〜40μmの気泡は沈降することもある。従って、このような微細な径の気泡は、少しずつ被処理水に溶解しながら所定の時間原水中を漂って被処理水の流れと共に流動することになる。
【0019】
本実施の形態に係るろ過装置1の作用を説明する。河川、湖沼、ダム等から取水した原水を、沈砂池に導いて所定時間滞留させてごみや砂を沈殿させ、被処理水27として微細気泡混入層2に導く。図1には、沈砂池は示されていない。微細気泡発生装置26を起動して被処理水27に微細な空気の気泡を混入する。このような気泡は、例えば、10〜80μmの気泡が200個〜数千個/mlになるように被処理水27に混入することになるが、前記したように所定の割合の気泡は短時間に被処理水27に溶解し、所定の割合の気泡が残存する。このように微細な気泡が混入した被処理水27を、送水ポンプ11によって所定の水圧、例えば0.05MPa、0.1MPa等に加圧して、供給管9を経由して圧力容器3に圧送する。
【0020】
圧力容器3内に供給された被処理水28は、噴出部13で減速して緩やかにろ過砂層25に達する。このとき、微細な空気の気泡も被処理水28と共に流動してろ過砂層25に達する。このようにしてろ過砂層25に達した被処理水28中には、大量の空気が溶解していると共に、視認できない微細な気泡や10〜80μmの気泡が混入した状態になっている。ろ過砂層25で被処理水28をろ過する。そうすると、被処理水28に十分な空気が含まれているので、好気性のバクテリアが効率的に繁殖する。従って、ろ過砂層25には、砂と該砂に付着して繁殖したバクテリアからなる層、すなわち生物層が形成されることになり、生物層の厚さは十分に厚くなる。このように厚く形成された生物層によってろ過するので、ろ過速度を高速にしても被処理水28中の有機物を十分に分解でき、懸濁物質を捕捉することがことができる。すなわち、大量の浄水を効率よく得ることができる。ろ過砂層25をろ過した水を第1〜4のろ過砂利層22〜24を経由してろ床19で集水して、流出管15を経由して外部に送水する。送水した水に次亜塩素酸ナトリウムを所定の濃度になるように添加して、浄水池、あるいは配水池に送水し、家庭、工場等に水道水として配水する。
【0021】
次に、図2によって本発明の他の実施の形態に係るろ過設備について説明する。本実施の第1の形態に係るろ過設備31は、従来周知の緩速ろ過池と同様に構成されているろ過池32と、ろ過池32の上流に設けられ、空気の微細な気泡を原水に混入する微細気泡混入池33とから構成されている。ろ過池32の底部には、図2の(ア)には示されていないが、敷き詰められた素焼きのレンガからなり、ろ過材34を支持する床、すなわちろ床が設けられている。ろ床は、ろ過材34の流出を防ぐと共に、ろ過材34でろ過された水を集水できるようになっている。ろ過材34は第1〜4のろ過砂利層36〜39と、ろ過砂層40とから構成されている。第1のろ過砂利層36は、粒径が30〜60mmの砂利からなりろ床の上に厚さ12cm程度に設けられている。第2〜4のろ過砂利層37、38、39は、第1のろ過砂利層36の上に順番に重ねられ、粒径が20〜30mm、10〜20mm、3〜4mmの砂利が、それぞれ10cmの厚さになるように設けられている。ろ過砂層40は、平均粒径0.8〜1.0mmのけい砂からなる層であり、第4のろ過砂利層39の上に厚さ80cm程度になるように設けられている。このようなろ過材34でろ過されてろ床で集水された水は、浄水管42を経由して、図2の(ア)には示されていないが、浄水池、配水池等に送水されるようになっている。
【0022】
ろ過池32の上流側に設けられている微細気泡混入池33について説明する。微細気泡混入池33は、河川、ダム、湖沼等から取水された水、汲み上げられた地下水等の原水に、微細な空気の気泡を混入する池である。微細気泡混入池33には原水が流入する流入水路44が設けられ、微細気泡混入池33とろ過池32は供給水路45によって接続されている。微細気泡混入池33の底部には、微細気泡発生装置26が設けられている。微細気泡発生装置26は、本実施の形態に係るろ過装置1の微細気泡混入層2に設けられている装置と同様の装置である。
【0023】
本実施の形態に係るろ過設備31の作用を説明する。河川、湖沼、ダム等から取水した原水を、沈砂池に導いて所定時間滞留させてごみや砂を沈殿させ、着水井を経由して流入水路44によって微細気泡混入池33に導く。図2の(ア)には、沈砂池、着水井は示されていない。微細気泡発生装置26を起動して微細気泡混入池33内の原水47に微細な気泡を混入する。このような気泡は、例えば、10〜80μmの気泡が200個〜数千個/mlになるように原水47に混入することになるが、所定の割合の気泡は短時間に原水47に溶解し、所定の割合の気泡が残存する。このように微細な気泡が混入した原水47を供給水路45を経由してろ過池32に供給する。
【0024】
ろ過池32に供給された原水48は、ろ過池32内で水平方向に広がると共に下降してろ過砂層40に達する。このとき、微細な気泡も原水48と共に流動してろ過砂層40に達する。このようにしてろ過砂層40に達した原水48中には、大量の空気が溶解していると共に、視認できない微細な気泡や10〜80μmの気泡が混入した状態になっている。ろ過砂層40で原水48をろ過する。そうすると、原水48に十分な空気が含まれているので、好気性のバクテリアは効率的に繁殖して、ろ過砂層40に形成される、砂と該砂に付着して繁殖したバクテリアからなる生物層は、厚く形成されることになる。このように厚く形成された生物層によってろ過するので、ろ過速度を高速にしても原水48中の有機物を十分に分解でき、懸濁物質を捕捉することがことができる。すなわち、大量の浄水を効率よく得ることができる。ろ過速度を高速にするため、本実施の形態に係るろ過設備31においては、ろ過池32の水深hを例えば2〜10mにして、ろ過材34の上層と下層の水圧差を大きくして運転することができる。そうすると、損失水頭が1〜1.5m程度になっても、十分な水圧差を確保することができるのでろ過し続けることができる。ろ過砂層40をろ過した水を第1〜4のろ過砂利層36〜39を経由してろ床で集水して、浄水管42を経由して外部に送水する。送水した水に次亜塩素酸ナトリウムを所定の濃度になるように添加して、浄水池、あるいは配水池に送水し、家庭、工場等に水道水として配水する。
【0025】
図2の(イ)には、本実施の第2の形態に係るろ過設備31’が示されている。前記実施の形態に係るろ過設備31と同様の部材、装置には同じ符号を付して詳しく説明しない。第2の実施の形態に係るろ過設備31’においては、ろ過池32に原水を供給する流入水路49、49’の途中に微細気泡発生装置16’が設けられている。従って、流入水路49、49’を流れる原水に直接、微細な空気の気泡を混入することができる。第1の実施の形態に係るろ過設備31と同様に、ろ過池32内の原水48には、十分な空気が溶解すると共に、視認できない微細な気泡や10〜80μmの気泡が混入する。従って、本実施の形態に係るろ過設備31’も、第1の実施の形態に係るろ過設備31と同様の効果を奏する。また、図には示されていないが、微細気泡発生装置16’を流入水路49’の出口、すなわちろ過池32内に設けることもできる。このようにしても、原水48に空気の微細な気泡を混入することができるので、第1の実施の形態に係るろ過設備31と同様の効果を奏する。
【実施例1】
【0026】
微細な空気の気泡が混入した原水の、微生物の活性を調べるために、次の実験をした。
(1)実験方法:
河川から採取した原水を1Lずつ容器A、B、Cに入れた。容器Aはそのままとし、容器B、Cに微細気泡発泡装置を入れて微細気泡発泡装置を所定の時間稼動して微細な空気の気泡を混入した。容器Cにおいては容器Bよりも2倍の時間微細気泡発泡装置を稼動した。容器B内の微細な気泡は、10〜80μmの気泡が500個/mL以上、容器C内の微細な気泡は、10〜80μmの気泡が2000個/mL以上になった。3時間後、容器A、B、Cから1mlの原水を採取して、標準寒天培池に塗布し、コロニーカウントから一般細菌数を計測した。
(2)実験結果:
容器A、B、Cのそれぞれの一般細菌数は、約600、約1000、約2500であった。微細な気泡を混入すると、短時間で原水中の微生物が活性化することが分かった。
【実施例2】
【0027】
微細な空気の気泡が混入した原水を、ろ過砂層でろ過するときに、ろ過砂層に形成される生物層の厚さに及ぼす影響を調べるために、次の実験をした。
(1)実験方法:
河川から採取した原水を容器d、e、fに入れた。容器dはそのままとし、容器e、fに微細気泡発泡装置を入れて微細気泡発泡装置を所定の時間稼動して微細な空気の気泡を混入した。容器fにおいては容器eよりも2倍の時間微細気泡発泡装置を稼動した。容器e内の微細な気泡は、10〜80μmの気泡が500個/mL以上、容器f内の微細な気泡は、10〜80μmの気泡が2000個/mL以上になった。
所定の円筒容器D、E、Fを用意して、それぞれの容器内に粒径1.0mmのけい砂の層からなる厚さ300mmのろ過材を設けた。円筒容器D、E、Fのそれぞれに容器d、e、fの原水を供給して、4〜5m/日のろ過速度になるようにしてろ過させた。
ろ過開始24時間後に、円筒容器D、E、Fから、それぞれの表層のけい砂と表層から50mmの深さのけい砂を採取して、けい砂に付着している一般細菌数を調べた。ろ過開始48時間後に同様にして、各円筒容器D、E、Fからけい砂を採取して、けい砂に付着している一般細菌数を調べた。なお、一般細菌数の計測は、採取された15mlのけい砂を遠心管に入れて良く振り、得られた溶液の1mlを標準寒天培池に塗布し、コロニーカウントから計測するようにした。
(2)実験結果:
(ア)ろ過開始24時間後の一般細菌数:
円筒容器D:表層 5000 :50mm下層 5000
円筒容器E:表層 6000 :50mm下層 6000
円筒容器F:表層 13000 :50mm下層 12000
(イ)ろ過開始48時間後の一般細菌数:
円筒容器D:表層 5000 :50mm下層 10000
円筒容器E:表層 13000 :50mm下層 12000
円筒容器F:表層 20000 :50mm下層 62000
微細な空気の気泡が混入した原水をろ過砂層でろ過すると、気泡が混入していない原水に比べて、生物層の形成が促されることが分かった。特に、微細な空気の気泡が混入した原水をろ過すると、表層においてよりも表層から50mmの深さにおいて一般細菌数の増加が著しいことが分かった。従来の緩速ろ過池においては、ろ過砂層の表層部に生物層、いわゆる生物膜が形成されるだけであるが、本実施の形態に係るろ過池においては、ろ過砂層の比較的深い層においても生物層が形成されることが予想される。すなわち、生物層の厚さが厚くなることが予想される。
【0028】
本実施の形態に係るろ過装置、およびろ過設備は、色々な変形が可能である。例えば、原水は、沈砂池において滞留させてごみや砂を沈下させるように説明されているが、直接微細気泡混入槽2や微細気泡混入池33に導いても良い。特に懸濁物質が非常に少ない地下水を原水とする場合、沈砂池は必須ではない。さらには、原水にポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド等の凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させて沈殿池で沈殿させた後に、上澄み水を微細気泡混入槽2や微細気泡混入池33に導いても良い。このようにすると比較的懸濁物質が多く含まれている原水であっても、懸濁物質の大部分を除去することができるので、ろ過砂層25、40はろ過閉塞はし難くなり長時間運転することが可能になる。また、原水を砂利、粒径の大きい砂等のフィルタに通してから、微細気泡混入槽2や微細気泡混入池33に導いても良い。このようにしても原水中の懸濁物質のほとんどを除去することができるので、さらにろ過砂層25、40はろ過閉塞はし難くなる。
【0029】
微細気泡発生装置についても、変形が可能であり、旋回式以外の他の方式によって気泡を発生する装置を適用することもできる。さらには、設置される微細気泡発生装置の台数も1台ではなく複数台設けてもよく、このようにすると原水に効率よく微細な気泡を混入することができる。ろ過材のろ過砂層の厚さや砂の粒径、ろ過砂利層の厚さ等についても変形が可能であり、本実施の形態に限定されない。また、ろ過池のろ床は素焼きのレンガから形成されているように説明されているが、従来周知のレオポルド型のろ床を適用してもよい。このようにすると、ろ過砂層が目詰まりしてろ過閉塞が発生したときに、ろ過池の下方から浄水を噴出してろ過砂を洗浄する、いわゆる逆洗を実施することもでき、ろ過池のメンテナンスに要する費用をさらに節約することが可能になる。
【符号の説明】
【0030】
1 ろ過装置 2 微細気泡混入槽
3 圧力容器 4 ろ過材
9 流入管 11 送水ポンプ
13 噴出部 16 空気抜き弁
19 ろ床
21〜24 ろ過砂利層
25 ろ過砂層 26 微細気泡発生装置
27、28 被処理水
31 ろ過設備 32 ろ過池
33 微細気泡混入池 34 ろ過材
36〜39 第1〜4のろ過砂利層
40 ろ過砂層
47、48 原水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を所定の砂の層でろ過して浄水を得るとき、前記砂の層に形成され、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定厚さの生物層で前記被処理水をろ過するろ過方法において、
前記被処理水に、径が80μm以下の空気の気泡を混入した後に、前記生物層でろ過することを特徴とするろ過方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記被処理水に前記気泡を混入するとき、10〜80μmの径の気泡が200個/mL以上になるように混入することを特徴とするろ過方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記被処理水に、0.05MPa以上の圧力をかけてろ過することを特徴とするろ過方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法において、前記被処理水は、河川、湖沼、ダム等から取水され、または地下から汲み上げられた原水であることを特徴とするろ過方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法において、前記被処理水は、河川、湖沼、ダム等から取水された原水に、所定の凝集剤を添加して懸濁物質を凝集させて沈殿させた上澄み水であることを特徴とするろ過方法。
【請求項6】
微細気泡発生装置と、被処理水が供給されてろ過されて浄水として排出されるようになっている圧力容器と、該圧力容器内に設けられている砂の層とから構成され、
前記被処理水は、前記微細気泡発生装置によって、80μm以下の径の空気の気泡が混入されて、0.05MPa以上の圧力で前記圧力容器に供給され、前記砂の層でろ過されるようになっていることを特徴とするろ過装置。
【請求項7】
砂の層が設けられ、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層が前記砂の層に形成されているろ過池において、
被処理水を前記ろ過池に供給する流入水路には、微細気泡発生装置が設けられ、前記被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるようになっていることを特徴とするろ過池。
【請求項8】
砂の層が設けられ、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層が前記砂の層に形成されているろ過池において、
前記ろ過池の上流には、微細気泡発生装置が設けられ所定容量の池が設けられ、前記池において被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入され、前記ろ過池に供給されるようになっていることを特徴とするろ過池。
【請求項9】
砂の層が設けられ、砂と該砂に付着して繁殖した微生物とからなる所定の厚さの生物層が前記砂の層に形成されているろ過池において、
前記ろ過池内には、微細気泡発生装置が設けられ、前記ろ過池内の被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるようになっていることを特徴とするろ過池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−234324(P2010−234324A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87168(P2009−87168)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(509071127)
【Fターム(参考)】