説明

ろ過材、その製造方法、ろ過処理装置およびろ過処理方法

【課題】耐ファウリング性に優れ、ファウリングを起こした際には簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できるろ過材、該ろ過材を簡易に製造できる製造方法、ろ過処理効率に優れるろ過処理装置およびろ過処理方法を提供する。
【解決手段】多孔質膜と、該多孔質膜の表面に配置された複数の微粒子とを有するろ過材であって、前記微粒子の平均粒子径が、多孔質膜の分画孔径よりも大きく、かつ0.1〜1000μmであるろ過材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過材、その製造方法、ろ過処理装置およびろ過処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化学工業、製薬工業、食品工業、バイオ、超純水製造、排水処理、メディカル等の様々な分野において、ろ過処理が必要とされており、様々な多孔質膜がろ過材として用いられている。ろ過処理における最も大きな問題は、ろ過原液中に含まれる物質(例えば、タンパク質、多糖類等。)が多孔質膜の膜面へ吸着、堆積することにより、多孔質膜の汚染(ファウリング)が起こり、多孔質膜の分画特性が低下することである。
【0003】
ファウリングを起こした多孔質膜の分画特性を復元させるためには、多孔質膜に逆通水する、または多孔質膜を取り出して洗浄する必要がある。しかし、逆通水または洗浄をしても、多孔質膜の処理能力が初期のレベルに復活しないという問題が発生する。そこで、ファウリングを起こしにくい多孔質膜が要求されている。
【0004】
以下、排水処理の分野について詳しく述べる。
従来、有機性の排水処理においては、微生物を用いた活性汚泥処理を行い、さらに、汚泥を固液分離して浄水を得る方法が広く用いられている。固液分離の方法としては、砂濾過、重力沈殿等が用いられる。しかし、該方法による固液分離には、得られる浄水の懸濁物質(SS)濃度が高くなりやすい、広大な敷地を要する、といった問題がある。
【0005】
該問題を解決する方法として、近年、精密ろ過膜、限外ろ過膜等の多孔質膜を配設した膜モジュールを用いて、汚泥の固液分離を行う方法が検討されている。該方法は、膜分離活性汚泥法と呼ばれている。多孔質膜を用いて汚泥のろ過処理を行うと、SSをほとんど含まない浄水を得ることができる。
【0006】
しかし、膜分離活性汚泥法においても、ろ過処理に伴い、多孔質膜がファウリングを起こす問題が発生する。ファウリングが起きると、膜間差圧が上昇し、多孔質膜の処理能力が低下する。特に、BOD(生物化学的酸素要求量)負荷が急激に増大した場合、冬季等の低温期にろ過処理を行う場合等、微生物に環境ストレスがかかる場合において、一時的に微生物による汚泥の分解が充分に行われず、多孔質膜のろ過阻害成分が残ったままとなり、汚泥の分離性が極端に悪化する場合がある。
【0007】
該問題は、多孔質膜の素材の疎水性に起因しているところが大きい。すなわち、排水処理に用いられる多孔質膜の素材としては、通常、セルロース、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン等が用いられている。これらのうち、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン等の疎水性高分子は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性等の物理的、化学的性質に優れ、製膜も比較的容易なことから、広く用いられている。
しかし、疎水性高分子からなる多孔質膜は、タンパク質等の吸着を起こしやすく、ファウリングを起こしやすい。
【0008】
該問題を解決する方法として、疎水性の多孔質膜に親水性を付与する方法が提案されている。
(1)疎水性高分子に親水性高分子を混合した原液を用いて製膜し、多孔質膜中に親水性高分子を残存させることにより親水性を持たせる方法(特許文献1)。
(2)製膜の際、凝固液等に親水性ポリマーを混合し、多孔質膜中に親水性高分子を残存させることにより親水性を持たせる方法(特許文献2)。
(3)製膜後、なんらかの方法で多孔質膜に親水基を導入する方法(特許文献3)。
(4)多孔質膜を親水性高分子の溶液中に含浸させて、多孔質膜中に親水性高分子を残存させることにより親水性を持たせる方法(特許文献4)。
【0009】
しかし、(1)〜(4)の方法では、新たに製造条件を構築する必要があったり、化学反応が必要であったりするため、簡易な方法とは言えない。また、タンパク質以外の物質に対する耐ファウリング性を向上させたい場合には、単に親水性を上げればよいとは限らないため、タンパク質以外の物質に対応できず汎用性が乏しい。さらに、(1)〜(4)の方法の方法で得られた多孔質膜は、いざファウリングを起こした場合に、通常の多孔質膜と同様に逆通液洗浄や薬液による洗浄等を行わなくてはならず、非効率である。
【特許文献1】特開昭61−93801号公報
【特許文献2】特開平4−166219号公報
【特許文献3】特開昭62−45303号公報
【特許文献4】特開昭61−161103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、本発明の目的は、耐ファウリング性に優れ、ファウリングを起こした際には簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できるろ過材、該ろ過材を簡易に製造できる製造方法、ろ過処理効率に優れるろ過処理装置およびろ過処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のろ過材は、多孔質膜と、該多孔質膜の表面に配置された複数の微粒子とを有するろ過材であって、前記微粒子の平均粒子径が、多孔質膜の分画孔径よりも大きく、かつ0.1〜1000μmであることを特徴とする。
本発明のろ過材の製造方法は、多孔質膜の一次側が微粒子の分散液側となるように、微粒子の分散液に多孔質膜を浸漬し、多孔質膜の二次側を減圧、または多孔質膜の一次側を加圧して多孔質膜の一次側の表面に微粒子を付着させることを特徴とする。
【0012】
本発明のろ過処理装置は、本発明のろ過材を具備するろ過処理装置であって、前記微粒子が多孔質膜よりもろ過原液側に存在するように、前記ろ過材が配置されていることを特徴とする。
本発明のろ過処理方法は、本発明のろ過材を用いるろ過処理方法であって、前記微粒子を多孔質膜よりもろ過原液側に存在させて、ろ過原液のろ過処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のろ過材は、耐ファウリング性に優れ、ファウリングを起こした際には簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できる。
本発明のろ過材の製造方法によれば、耐ファウリング性に優れ、ファウリングを起こした際には簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できるろ過材を簡易に製造できる。
本発明のろ過処理装置は、ろ過処理効率に優れる。
本発明のろ過処理方法は、ろ過処理効率に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<ろ過材>
本発明のろ過材は、多孔質膜と、該多孔質膜の表面に配置された複数の微粒子とを有するろ過材である。
【0015】
(多孔質膜)
多孔質膜としては、高分子膜、無機物質からなる膜、セラミックからなる膜、金属膜等が挙げられる。膜分離活性汚泥法においては、高い透水性能、製造のしやすさ等の点から、高分子膜が好ましく、耐薬品性の点から、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる膜がより好ましい。
多孔質膜の形態としては、中空糸膜、平膜等が挙げられ、単位体積あたりの膜表面が広い点から、中空糸膜が好ましい。
【0016】
多孔質膜の分画孔径は、特に限定にされないが、膜分離活性汚泥法においては、大腸菌等のリークを抑える点から、0.4μm以下が好ましい。
分画孔径とは、多孔質膜の中で実質的に最も小さい孔径であり、公知のバブルポイント法(JIS K 3832:1990)により求める。
【0017】
該分画孔径を有する層を分画層と言う。分画層は、多孔質膜の種類によって、多孔質膜の表面に位置する場合と、多孔質膜の内部に位置する場合とがある。本発明においてはどちらの場合でもよい。
多孔質膜は、分画層以外の他の層を有していてもよい。他の層としては、多孔質層、膜支持部材層等が挙げられる。多孔質層は、分画層よりも平均孔径が大きい層であり、膜厚方向に孔径分布が傾斜している高分子膜の一部、多孔質ガラス、多孔質セラミック等が挙げられる。膜支持部材層としては、不織布、織物等が挙げられる。
【0018】
(微粒子)
微粒子の平均粒子径は、多孔質膜の分画孔径よりも大きくする必要がある。微粒子の平均粒子径を多孔質膜の分画孔径よりも大きくすることにより、該微粒子によるファウリングを抑えることができる。
【0019】
微粒子の平均粒子径は、0.1〜1000μmであり、0.5〜100μmがより好ましい。微粒子の平均粒子径を0.1μm以上とすることにより、多孔質膜の表面に配置された微粒子間に、液体が透過できる充分な隙間が形成される。微粒子の平均粒子径を1000μm以下とすることにより、多孔質膜の表面に配置された微粒子間の隙間を、ファウリングの原因となる物質が通過して分画層まで達することを抑えることができる
【0020】
微粒子の粒子径は、微粒子が球状の場合はその直径であり、球状でない場合はその体積を球状に換算した際の直径である。微粒子の平均粒子径は、光散乱法によって測定される数平均粒子径である。なお、微粒子の粒子径が大きく、光散乱法による測定限界を超える場合には、電子顕微鏡写真から画像解析により測定する。
微粒子の形状は、微粒子の粒子径を制御しやすい点から、球状が好ましい。
【0021】
微粒子の材料としては、多孔質膜よりもファウリングを起こしにくい材料が好ましい。例えば、ろ過の対象物質がタンパク質の場合、微粒子の材料としては、多孔質膜よりも親水性が高い材料が好ましい。また、微粒子の材料としては、微粒子がろ過時の圧力により変形しない材料が好ましい。
微粒子としては、例えば、多孔質膜の材料がPVDFであり、たんぱく質に対する耐ファウリング性を向上させる場合は、架橋PMMAを用いることができる。
【0022】
微粒子は、多孔質膜の表面に配置されている。ファウリングは多孔質膜の表層で起こるため、微粒子は、多孔質膜の表面に位置することにより、耐ファウリング性が向上する。
分画層が内部にある多孔質膜の場合は、微粒子の一部が前記多孔質層等の表層に侵入していてもよい。なお、微粒子の平均粒子径は、分画層の分画孔径よりも大きいため、微粒子は、分画層に到達することはなく、常に分画層よりも外側(ろ過原液側)に位置することになる。
また、微粒子の一部は、多孔質膜を構成する材料中に埋没していてもよい。
【0023】
本発明のろ過材は、膜分離活性汚泥処理用に限定されず、化学工業、製薬工業、食品工業、バイオ、超純水製造、排水処理、人工臓器等の様々な分野にて用いられるろ過材として用いることができる。
【0024】
以上説明した本発明のろ過材にあっては、多孔質膜と、該多孔質膜の表面に配置された複数の微粒子とを有し、前記微粒子の平均粒子径が、多孔質膜の分画孔径よりも大きく、かつ0.1〜1000μmであるため、耐ファウリング性に優れ、ファウリングを起こした際には簡便に洗浄できる。この理由は以下の通りである。
【0025】
例えば、膜分離活性汚泥法により、汚泥をろ過処理すると、多孔質膜がファウリングを起こし、透過流速が低下してくることがある。この時の多孔質膜を取り出し、湿潤状態を保持させたまま凍結乾燥を行い、走査型電子顕微鏡を用いて多孔質膜の断面を観察すると、多孔質膜の孔を塞いでいるのは、多孔質膜のろ過原液側の表層のみである。すなわち、透過流速を悪化させるファウリングの大部分は多孔質膜の表層で起きていることがわかる。さらに、汚泥を遠心分離処理して固形分を取り除いた上澄み液、牛血清アルブミン(BSA)水溶液等、固形分がない液体をろ過した場合も同様に、多孔質膜の表層にのみファウリングが起こる。
【0026】
これらの現象は、つぎのように考えることができる。ろ過処理の際、多孔質膜の表面に濃度分極層が形成され、ろ過原液の濃縮が起こる。濃度分極層においては、透過流速やろ過原液の組成にもよるが、ろ過原液は、溶解成分が析出してくる濃度まで濃縮されることがある。その結果、多孔質膜の表面ではゲル成分が堆積し、いわゆるケーク層が形成される。よって、多孔質膜の内部でのファウリングはほとんど起こらない。汚泥等、固形分があるろ過原液についても同様である。
【0027】
そこで、耐ファウリング性を高めるためには多孔質膜の表面の状態が重要になる。本発明者らは鋭意検討を行った結果、平均粒子径が多孔質膜の分画孔径よりも大きく、かつ0.1〜1000μmである微粒子を多孔質膜の表面に配置することによって、簡易に多孔質膜の表面の物性を制御し、耐ファウリング性を向上させることができ、さらにはファウリングを起こした後の洗浄も簡便に行うことができることを見出した。
【0028】
本発明においては、多孔質膜の表面に微粒子を配置することによって、ファウリングを起こす物質の多孔質膜への吸着を抑制できる。しかし、それでも長期間ろ過処理を行うと、いずれはファウリングを起こす物質が多孔質膜に吸着し、透過流速が低下してくる。その場合、通常の多孔質膜においては、酸等の薬液を逆通水によって流す、または多孔質膜を取り出して酸等の溶液に浸漬させて洗浄する必要がある。一方、本発明のろ過材は、薬液を用いずに軽度の逆通水を行うことで、微粒子の上に堆積したファウリングを起こす物質と共に微粒子が剥がれ落ちるため、洗浄が非常に簡便である。また、洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できる。
【0029】
<ろ過材の製造方法>
本発明のろ過材を製造する方法としては、(i)多孔質膜の表面に直接、微粒子を並べる方法、(ii)微粒子の分散液をろ過して多孔質膜の表面に微粒子を付着させる方法等が挙げられ、均一かつ簡易に多孔質膜の表面に微粒子を配置できる点から、(ii)の方法が好ましい。
【0030】
(ii)の方法としては、具体的には、多孔質膜の一次側が微粒子の分散液側となるように、微粒子の分散液に多孔質膜を浸漬し、多孔質膜の二次側を減圧、または多孔質膜の一次側を加圧して多孔質膜の一次側の表面に微粒子を付着させる方法が挙げられる。ここで、多孔質膜の一次側と二次側とは、多孔質膜以外の箇所では液密に仕切られており、多孔質膜以外の箇所から一次側の分散液が二次側に侵入することはない。
【0031】
以上説明した本発明のろ過材の製造方法にあっては、多孔質膜の一次側が微粒子の分散液側となるように、微粒子の分散液に多孔質膜を浸漬し、多孔質膜の二次側を減圧、または多孔質膜の一次側を加圧して多孔質膜の一次側の表面に微粒子を付着させるため、耐ファウリング性に優れ、ファウリングを起こした際には簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できるろ過材を簡易に製造できる。
【0032】
<ろ過処理装置>
本発明のろ過処理装置は、本発明のろ過材を具備するろ過処理装置であって、微粒子が多孔質膜よりもろ過原液側に存在するように、ろ過材が配置されている装置である。
【0033】
該装置としては、膜分離活性汚泥処理装置、血液浄化装置等が挙げられる。
膜分離活性汚泥処理装置としては、汚泥槽と、該汚泥槽内に配置された膜モジュールと、該膜モジュールの二次側に接続されたポンプとを具備するものが挙げられる。ここで、膜モジュールは、ろ過材の一次側と二次側とがろ過材以外の箇所では液密に仕切られたものであり、ろ過材の微粒子が多孔質膜よりも一次側(汚泥側)に存在するように、汚泥槽内に配置されている。
【0034】
以上説明した本発明のろ過処理装置にあっては、本発明のろ過材を具備し、微粒子が多孔質膜よりもろ過原液側に存在するように、ろ過材が配置されているため、ろ過材においてファウリングが起こりにくい。その結果、ろ過材の透過流速が低下しにくくなり、ろ過効率が向上する。また、ファウリングを起こした際にはろ過材を簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できるため、さらにろ過効率が向上する。
【0035】
<ろ過処理方法>
本発明のろ過処理方法は、本発明のろ過材を用いるろ過処理方法であって、微粒子を多孔質膜よりもろ過原液側に存在させて、ろ過原液のろ過処理を行う方法である。
【0036】
多孔質膜の表面に微粒子を配置したろ過材では、微粒子間の隙間から水が透過するため、ファウリングを引き起こさない純水等をろ過処理した場合には、微粒子のない多孔質膜のみのろ過材と透過流速は変わらない。
一方、汚泥等、ファウリングを引き起こす物質を含むろ過原液をろ過処理した場合には、微粒子上に濃度分極層が生じてろ過原液の濃縮が起こり、微粒子の上にケーク層が形成される。
【0037】
さらに、長期間ろ過処理を行うと、いずれはファウリングを起こす物質が多孔質膜に吸着し、透過流速が低下してくる。その場合、薬液を用いずに軽度の逆通水を行うことで、微粒子の上に堆積したファウリングを起こす物質と共に微粒子が剥がれ落ちる。
洗浄後、ろ過材を再度用いる場合、前記ろ過材の製造方法を再度行うことによって、新たな微粒子を多孔質膜の表面に配置させてから用いることが好ましい。または、微粒子と多孔質膜とを極細繊維等で繋いでおけば、ろ過処理を開始した際に、微粒子が多孔質膜の表面に再度配置される。
【0038】
以上説明した本発明のろ過処理方法にあっては、本発明のろ過材を用い、微粒子を多孔質膜よりもろ過原液側に存在させて、ろ過原液のろ過処理を行うため、ろ過材においてファウリングが起こりにくい。その結果、ろ過材の透過流速が低下しにくくなり、ろ過効率が向上する。また、ファウリングを起こした際にはろ過材を簡便に洗浄でき、かつ洗浄によって処理能力がほぼ初期のレベルまで復活できるため、さらにろ過効率が向上する。
【実施例】
【0039】
ろ過処理装置としては、図1に示すような、ろ過原液12を入れた処理槽10と、処理槽10内のろ過原液12に浸漬された膜モジュール20と、膜モジュール20にチューブ32を介して接続されたチューブポンプ30と、チューブポンプ30によって吸引されたろ液を分取するフラクションコレクター40とを具備するものを用いた。
膜モジュール20としては、図2に示すような、中空糸膜22(多孔質膜)と、中空糸膜22を固定するコネクタ24と、中空糸膜22の上端に設けられた、チューブ32に接続する接合部26とを有するものを用いた。
【0040】
中空糸膜22としては、有効膜長3.7cm、分画孔径0.4μmの精密濾過用PVDF製中空糸膜(三菱レイヨン株式会社製、ステラポアーSADF)を用いた。中空糸膜22とコネクタ24との接着、および中空糸膜22の下端の封止には、日本ポリウレタン工業社製のポリウレタン樹脂(ニッポランとコロネートとを1:1の質量比で混合した樹脂)を用いた。
チューブポンプ30としては、東京理科器械社製のチューブポンプを用いた。
フラクションコレクター40としては、アドバンテック社製のフラクションコレクターCHF161RAを用いた。
【0041】
〔実施例1〕
(ろ過材の製造)
純水中に、光散乱法によって測定された数平均粒子径が5μmである架橋PMMA(積水化成品工業社製、MBX−5)を0.1g/Lの濃度で分散させた分散液を調製した。該分散液を、前記ろ過処理装置のろ過原液12として処理槽10に供給し、チューブポンプ30を作動させ、透過流速LV=32m/m/dayで30分間、分散液のろ過処理を行った。該ろ過処理の間、透過流速に変化は見られなかった。ろ過処理後、膜モジュール20を取り出し、中空糸膜22の表面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−6060A)で観察した。その結果、図3に示すように、中空糸膜の表面に複数の微粒子が配置されていることを確認した。
【0042】
(タンパク質水溶液のろ過処理)
分散液の入った処理槽10を、500ppmの牛血清アルブミン(和光純薬工業社製)水溶液の入った別の処理槽10に取り替えた後、中空糸膜22の表面に微粒子が配置された膜モジュール20を、微粒子が落ちないように処理槽10内の水溶液に浸漬し、チューブポンプ30を作動させ、透過流速LV=32m/m/dayで水溶液のろ過処理を行った。その結果を図4に示す。
【0043】
図4では、横軸はろ過時間、縦軸は初期の透過流速に対する透過流速の比率を示している。ファウリングが起きると、透過流速が低下するため縦軸の値が減少してくる。中空糸膜22の表面に微粒子を配置した膜モジュール20は、中空糸膜22の表面に微粒子を配置しない、後述の比較例1の膜モジュールに比べ、透過流速が低下しなかった。また、90分間ろ過処理した後に逆通水を3分実施し、純水をろ過処理してみたところ、初期の透過流速に戻った。その後、膜モジュール20を取り出し、乾燥させた後、中空糸膜22の表面の赤外吸収スペクトルを、Nicolet社製のMagna860を用い、ATR法にて測定した結果、タンパク質に起因する吸収(1550、1650cm−1付近)は観測されなかった。
【0044】
〔比較例1〕
架橋PMMAの分散液の代わりに純水を用いた以外は、実施例1と同様にしてろ過処理を行い、中空糸膜22の表面に微粒子を配置しない膜モジュール20を得た。
該膜モジュール20を用いた以外は、実施例1と同様にして牛血清アルブミン水溶液をろ過処理した。その結果を図5に示す。
【0045】
実施例1に比べ、透過流速の低下が大きく、90分間ろ過後に3分間逆通水を行っても、初期の透過流速には戻らなかった。その後、膜モジュール20を取り出し、乾燥させた後、中空糸膜22の表面の赤外吸収スペクトルをATR法にて測定した結果、タンパク質に起因する吸収(1550、1650cm−1付近)が観測された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のろ過材は、化学工業、製薬工業、食品工業、バイオ、超純水製造、排水処理、人工臓器等の様々な分野で用いられるろ過材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例で用いたろ過処理装置を示す概略構成図である。
【図2】実施例で用いた膜モジュールを示す斜視図である。
【図3】実施例1のろ過材の表面の様子を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例1におけるろ過時間に対する透過流速の変化を示すグラフである。
【図5】比較例1におけるろ過時間に対する透過流速の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
12 ろ過原液
22 中空糸膜(多孔質膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と、該多孔質膜の表面に配置された複数の微粒子とを有するろ過材であって、
前記微粒子の平均粒子径が、多孔質膜の分画孔径よりも大きく、かつ0.1〜1000μmである、ろ過材。
【請求項2】
請求項1に記載のろ過材の製造方法であって、
多孔質膜の一次側が微粒子の分散液側となるように、微粒子の分散液に多孔質膜を浸漬し、
多孔質膜の二次側を減圧、または多孔質膜の一次側を加圧して多孔質膜の一次側の表面に微粒子を付着させる、ろ過材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のろ過材を具備するろ過処理装置であって、
前記微粒子が多孔質膜よりもろ過原液側に存在するように、前記ろ過材が配置されている、ろ過処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載のろ過材を用いるろ過処理方法であって、
前記微粒子を多孔質膜よりもろ過原液側に存在させて、ろ過原液のろ過処理を行う、ろ過処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−62119(P2008−62119A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239509(P2006−239509)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】