説明

ろ過装置およびろ過システム

【課題】大容量の懸濁水を高速で、かつ質の高いろ過処理を行うことができ、しかも除去した懸濁物質が付着したろ材を容易に、少ない洗浄水で再生することができるろ過装置、および洗浄用の付属設備が少ないろ過システムを提供する。
【解決手段】原水側Xとろ過水側Yとを区分する仕切り板11に、繊維織物からなるろ過袋17と支持体18とから構成されるろ過エレメント16を1個または複数個配設したろ過タンク10と、ろ過タンク10の原水側Xに連結される原水供給ライン40、逆洗排水排出ライン50、および表面撹乱用空気供給ライン60と、ろ過水側Yに連結されるろ過水排出ライン70、および逆洗用空気供給ライン80とを備えたろ過装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中の懸濁物質をろ過によって除去するためのろ過装置およびろ過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水中の懸濁物質をろ過する装置には、大別すると砂ろ過装置、膜ろ過装置、その他の装置がある。
【0003】
砂ろ過装置は、ろ材に硅砂等の細粒砂を用いてろ材層を形成し、ろ材層に下向き若しくは上向きに懸濁水を流して、水中の懸濁物質を除去するものである。しかし、該砂ろ過装置は、ろ過速度を大きくとることができず、しかも除去した懸濁物質がろ材層に蓄積して通水が困難となるため、定期的にろ材層の洗浄を実施する必要がある。ろ材層の洗浄には、大きな水量と高い圧力が必要であり、洗浄水を保有するタンクと洗浄用ポンプ等を設置することが必要となり、洗浄用の付属設備を含め砂ろ過装置全体が大きな設備になるという不具合があった。
【0004】
また、膜ろ過装置は、ろ材に微細な孔が均等に開設された有機膜等を用い、水中の懸濁物質を除去するものである。微細で均等な孔が開設されている有機膜を用いるので精密なろ過が行えるが、ろ過速度を大きくとることができず、多量の懸濁水の簡便な処理には不向きである。また、除去した懸濁物質が有機膜の内部に入り込み、逆洗等によっても除去することができず、ろ材を交換する必要があった。そのため、ろ材として用いられる有機膜の代替として容易に洗浄できる円筒状のフィルターの表面に多孔質の合成樹脂発泡体をコーティングしたものを用いることが提案されているが(下記特許文献1を参照)、ろ材を洗浄するための水量が大きく、また洗浄水を保有するタンクと洗浄用ポンプ等を設置することが必要となるため洗浄用の付属設備を含め装置全体が大きな設備になるという不具合があった。
【0005】
その他ろ布や糸巻きろ材を使用したろ過装置は、簡単な構造で広いろ過面積を確保でき精密なろ過を行えるが、ろ過を継続すると目詰まりが発生するため、適宜ろ材を洗浄し目詰まりを解消する逆洗操作を行う必要がある。ろ材の洗浄には大きな水量と高い圧力が必要であり、また洗浄水を保有するタンクと洗浄用ポンプ等を設置することが必要となるため洗浄用の付属設備を含め装置全体が大きな設備になるとの不具合があった。また、従来のろ布や糸巻きろ材は、洗浄を行っても目詰りを完全に解消することは困難であり、懸濁物質の濃度が高い場合等は、ろ材を交換しなければならないとの不具合があった。
【0006】
ろ材に金属網等を用い、原水の圧力や回転装置を使って、常時ろ材の一部の目詰まりを解消しながらろ過を継続する連続式ろ過装置もあるが(下記特許文献2を参照)、ろ材もしくは洗浄ノズルの回転機構を組み込む必要があり構造が複雑で装置全体が大きな設備になると共に消耗部材も多く、しかも装置の大きさの割にはろ過面積が小さく、ろ過水質も劣るとの不具合があった。
【0007】
【特許文献1】特開平7−251016号公報
【特許文献2】特開2004−105945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる上述の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、大容量の懸濁水を高速で、かつ質の高いろ過処理を行うことができ、しかも除去した懸濁物質が付着したろ材を容易に、少ない洗浄水で除去することができるろ過装置、および洗浄用の付属設備がない小規模な設備のろ過システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係るろ過装置は、原水側とろ過水側とを区分する仕切り板に、繊維織物からなるろ過袋とろ過水の水路を確保するために設けられた孔を有する支持体とから構成されるろ過エレメントを1個または複数個配設したろ過タンクと、前記ろ過タンクの原水側に連結される原水供給ライン、逆洗排水排出ライン、および逆洗時に前記ろ過エレメントの表面を撹乱洗浄するための表面撹乱用空気供給ラインと、前記ろ過タンクのろ過水側に連結されるろ過水排出ライン、および前記ろ過エレメント内を逆流して洗浄する逆洗水に空気を注入する逆洗用空気供給ラインと、を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るろ過装置は、前記ろ過袋が合成繊維織物からなり、繊維の太さは、ヨコ糸が0.1から10μmで、且つタテ糸が10から30μmであり、繊維織密度は、ヨコ糸が4000から50000本/cmで、且つタテ糸が1000から1500本/cmであることが好適である。
【0011】
また、本発明に係るろ過装置は、前記逆洗排水排出ラインを前記ろ過タンクの原水側の上部に配設すること、および空気噴出装置が直結されている前記表面撹乱用空気供給ラインを前記ろ過タンクの原水側の下部に配設することが好適である。
【0012】
更に、本発明に係るろ過システムは、流量制御手段が配設されている原水供給ラインおよび逆洗排水排出ラインと、ろ過水排出ラインと、を備えるろ過装置を複数並列に前記ろ過水排出ラインを介して接続し、前記ろ過水排出ラインを統合した総合ろ過水排出ラインに流量制御手段を配設したことを特徴とするものである。ここで、このろ過システムに用いるろ過装置として、本発明に係る上述のろ過装置を用いるのが好適である。
【0013】
また、本発明に係るろ過システムは、前記ろ過水排出ラインの逆洗水を増圧するための増圧ポンプを前記ろ過水排出ラインに配設することが好適である。
【0014】
更に、本発明に係るろ過システムは、前記ろ過水排出ラインに流量制御弁を配設し、前記総合ろ過水排出ラインに配設されている前記流量制御弁より前記ろ過タンク側で分岐した総合逆洗水増圧ラインに増圧ポンプを配設すると共に、前記増圧ポンプより前記ろ過タンク側で分岐した前記ろ過装置ごとの流量制御弁を有する逆洗水増圧ラインを前記ろ過水排出ラインに直結することが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0016】
本発明のろ過装置およびろ過システムによれば、逆洗用空気供給ラインを備えたことにより逆洗水に空気を注入することができ、この逆洗水がろ過エレメントの内部からろ過面を通過する際、逆洗水に注入されている気泡が閉塞物をろ過面から剥離させ、しかも気泡の総容積に比例して逆洗水の通過速度を増加させるため、洗浄効果を高めることができる。その結果ろ過袋を洗浄するのに必要なろ過水を逆流させて洗浄に用いる逆洗水量を削減することが可能となり、ろ過処理能力を向上させることができる。
【0017】
また、繊維素材を用いた織物ろ布は、金属、プラスチック、およびセラミック等の素材と異なり、糸自身に伸縮性があるので、タテ糸とヨコ糸とからなる織物ろ布の空隙の大きさは、比較的低圧力で狭くなったり広くなったりする。本発明ではこの特徴を生かしろ過袋を繊維織物で構成した。すなわち、ろ過時にはろ過袋に外部から圧力が掛かるので、空隙が狭くなり固形物の除去率が向上され、逆洗時には内部から圧力が掛かるので、ろ過袋は伸びて空隙が広がり洗浄を容易にすることができる。従って、本発明のろ過装置およびろ過システムは、固形物の除去率を高め質の高いろ過水を得ることができると共に、逆洗が容易でろ過袋の目詰まりが生じにくく長期間安定したろ過性能を保持することができる。本発明のろ過袋を構成する繊維織物の素材は、水中で腐食耐久性が高くかつ膨潤性の低い合成繊維、例えば、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリフルオロエチレン繊維、ポリアクリルニトリル繊維などであるのが好ましいが、なかでも水中で長期間(8000時間以上)寸法安定性が高いポリエステル繊維がより好ましく使用される。ポリエステル繊維は海水にも耐久性があり、赤潮、プランクトン等のろ過には好適である。
【0018】
更に、逆洗排水排出ラインをろ過タンクの原水側の上部に配設すると、逆洗時に、同時に実施された表面撹乱用空気洗浄によって剥離されたろ過袋の原水側表層面に付着していた固形物を、逆洗排水とともに系外に流出させるのに好適である。また、複数のろ過エレメントを備えたろ過タンクでは、空気噴出装置を直結させた表面撹乱用空気供給ラインをろ過タンクの原水側の下部に配設すると、逆洗時に各ろ過エレメントを構成するろ過袋の原水側表層面を表面撹乱用空気で均一に撹乱洗浄でき、洗浄効果を高くすることができ、より少ない空気量で同程度の洗浄効果を出すことができるので、空気量の噴出し量を減少させエネルギー効率を向上させるのに好適である。
【0019】
また、本発明に係るろ過システムは、原水供給ラインおよび逆洗排水排出ラインに流量制御手段が配設された各ろ過装置を複数並列にろ過水排出ラインを介して接続し、ろ過水排出ラインを統合した総合ろ過水排出ラインにも流量制御手段を配設したので、ろ過装置で処理されたろ過水を、流量制御手段にて流路を切り替えることで、他のろ過装置の洗浄水に使用することができ、洗浄水を貯留するタンクや洗浄用ポンプの設置を不要とすることができる。この場合に、上述した本発明に係るろ過装置を用いろ過システムを構築すると、短時間で洗浄できるとともに逆洗水量を減少させることができ、ろ過システムとして稼働時間に占めるろ過時間の割合および水の回収率を向上させるのに好適である。
【0020】
更に、ろ過水排出ラインの逆洗水を増圧するための増圧ポンプをろ過水排出ラインに配設したので、増圧した逆洗水で洗浄効果を高めることができる。特に、総合ろ過水排出ラインより分岐した総合逆洗水増圧ラインに増圧ポンプを配設すると共に、増圧ポンプよりろ過タンク側で分岐したろ過装置ごとの逆洗水増圧ラインに流量制御手段を配設してろ過水排出ラインに直結させたので、流量制御手段の切り替えにより逆洗水圧力を増加し、洗浄効果を高めるのにより好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。ただし、この発明の範囲は、特に限定的記載がないかぎりは、この実施の形態に記載されている内容に限定する趣旨のものではない。
【0022】
ろ過装置における第一実施形態:
図1は、本発明の第一実施形態に係るろ過装置の概略断面説明図である。
【0023】
図1に示す通り、本発明に係るろ過装置1は、仕切り板11と、ろ過エレメント16とを備えるろ過タンク10と、ろ過タンク10に連結される原水供給ライン40と、逆洗排水排出ライン50と、表面撹乱用空気供給ライン60と、ろ過水排出ライン70と、逆洗用空気供給ライン80とを備える。
【0024】
仕切り板11は、ろ過タンク10内を懸濁物質が混入している原水側Xと、原水をろ過したろ過水側Yとに区分している。
【0025】
ろ過エレメント16は、繊維織物からなるろ過袋17と、ろ過水の水路を確保するために設けられた多数の孔を有する支持体18とからなり、仕切り板11の原水側Xに配設されている。ろ過エレメント16の数は、ろ過条件により決定されるものであり、1個でもよく、また複数個であっても良い(図1は3個の場合を示している)。ろ過袋17は、合成繊維からなるろ布で形成された円筒状であり、織り方としては、朱子織が好適である。更に、支持体18は、多孔を有するプラスチック製の筒状体で成形されているが、金属などの棒を螺旋状にした筒状体であっても良い。
【0026】
ろ過タンク10の原水側Xには、原水供給ライン40と、逆洗排水排出ライン50と、表面撹乱用供給ライン60と、が連結されている。
【0027】
原水供給ライン40は、ろ過タンク10の下部側に配設されている。逆洗排水排出ライン50をろ過タンク10の下部側に配設する場合には、ろ過タンク10に直結する部分は原水供給ライン40との共用ライン41とし、共用ライン41の端部に設けた流路切り替え弁21により分岐させて逆洗排水排出ライン50を設ける。表面撹乱用空気供給ライン60は、ろ過タンク10内の原水側Xに空気を圧入し、ろ過袋17の表面に付着している懸濁物質を撹乱洗浄するものであって、表面撹乱用空気供給ライン60の先端(タンク側)に空気噴出装置61が直結されている場合には、ろ過タンク10の下部側に配設するのが好適である。
【0028】
ろ過タンク10のろ過水側Yには、ろ過水排出ライン70と、逆洗用空気供給ライン80と、が連結されている。
【0029】
ろ過水排出ライン70は、ろ過タンク10の上部側に配設されており、ろ過袋17を洗浄するためにろ過水を逆流させる逆洗水ラインとしても用いられる。逆洗水に空気を注入するための逆洗用空気供給ライン80は、ろ過水排出ライン70に直結されているのが好適であるが、ろ過タンク10のろ過水側Yに直結させ、ろ過タンク10内でろ過水に逆洗用空気を注入しても良い。
【0030】
以上のように構成された本発明に係るろ過装置1は、ろ過工程において、ポンプ等で懸濁物質を含む原水が原水供給ライン40よりろ過タンク10に供給され、合成繊維織物のろ布からなるろ過袋17の外表面に形成された緻密ろ過層で懸濁物質が捕捉され、浄化されたろ過水は支持体18の内部を通り仕切り板11を介しろ過タンク10のろ過水側Yに保留された後に、直結されたろ過水排出ライン70より排出される。
【0031】
一方逆洗工程において、ろ過水またはろ過水と同等以上に浄化された逆洗水を逆洗水ラインとして用いたろ過水排出ライン70よりろ過タンク10のろ過水側Yに流入させ、同時に逆洗用の空気をろ過水排出ライン70に直結している逆洗用空気供給ライン80よりろ過タンク10のろ過水側Yに供給する。
【0032】
ろ過タンク10のろ過水側Yに供給された逆洗水と逆洗用空気は、支持体18を経由してろ過袋17の内部から外向きに原水側Xに流出される。この逆洗工程において、ろ過袋17の緻密ろ過層に捕捉された懸濁物質は、ろ過タンク10の原水側X内に洗い落され、逆洗排水および逆洗用空気とともに原水供給ライン40との共用ライン41を経由して逆洗排水排出ライン50より排出される。この逆洗工程では、併せてろ過袋17の外部側から緻密ろ過層に付着している懸濁物質を対流により落し易くするため、洗浄用空気を表面撹乱用空気供給ライン60にてろ過タンク10の下部から空気噴出装置61を介して供給し、各ろ過エレメント(16p,16q,16r)の下部に噴出させ、ろ過袋17の緻密ろ過層に撹乱振動を与え洗浄効果を上げるようにしている。
【0033】
ろ過装置における第二実施形態:
本発明の第二実施形態に係るろ過装置1は、第一実施形態と異なり、ろ過タンク10に配設されている逆洗排水ライン50の位置が異なる。すなわち、ろ過タンク10の原水側X下部に配設されている原水供給ライン40との共用ライン41を経由して逆洗排水排出ライン50から逆洗排水を排出するのでなく、ろ過タンク10の原水側X上部に別途配設した逆洗排水排出ライン50αから排出させるようにしたものである。原水側X下部に配設された表面撹乱用空気供給ライン60より噴出された空気により、ろ過袋17の表面から剥離された浮遊性の懸濁物質は、上部に移動するのでろ過タンク10外に排出させるのに好適である。また、表面撹乱用空気供給ライン60を原水供給ライン40に接続し、原水供給ライン40から表面撹乱用空気を流入させてもよい。また、表面撹乱用空気供給ライン60を分岐して原水供給ライン40にも接続し、空気噴出装置61と原水供給ライン40の両方またはどちらか一方から表面撹乱用空気を流入させてもよい。原水供給ライン40から空気を流入させれば、ろ過タンク10の底部に沈降し易い沈降性の懸濁物質に対しても逆洗排水排出ライン50αから排出し易くできるのでより好適である。なお、ろ過袋17の外表面の緻密ろ過層に捕捉された懸濁物質が、比較的剥がれやすい場合には、表面撹乱用空気供給ライン60からの表面撹乱用空気の供給、および原水供給ライン40からの逆洗浄用空気の供給のどちらか一方または両者を省略することも可能である。
【0034】
次に第一実施形態および第二実施形態で用いられたろ過袋17に用いられるろ布について詳述する。分離対象物としては、ストレーナー等で粗取りされた後の原水に含まれる主として5から100μm程度の懸濁粒子の分離を目的とする。なお、本発明に係るろ過装置1は、ろ過工程と逆洗工程を交互に繰り返しながらろ過処理を行うことを目的にしている。
【0035】
従って、ろ過袋17に用いるろ布は、5から100μm程度の懸濁粒子を表面で効率よく捕捉し、かつ捕捉された懸濁粒子は逆に容易に剥離ができ、かつろ過速度を高く保持できる機能を持つことが必要である。また材質については水中で使うため耐水性に強く、同一分離性能を保持するため水中でも目開きが変化しない、即ち膨潤現象がおきない素材である必要がある。
【0036】
この要件を満たすろ布としては2層構造のポリエステルの極細繊維立毛ろ布が好ましく用いられる。例えば、特開昭59―115720号公報、特開昭60−031811号公報で開示されているのと同タイプのろ布を使用するのが好適である。具体例として、ヨコ糸をタテ糸に対し3から8本浮かせた朱子織で、しかも、主としてヨコ糸を起毛して懸濁物質を捕捉するのに適した緻密ろ過層を外表面に形成したものが挙げられる。上述の公報にて提案されたろ布の洗浄は、空気中で水スプレーにて残留する捕捉固形物を洗い落とす方式であるが、本発明に係るろ過装置1に用いられるろ過袋17のろ布の洗浄は水中で行う必要があり、驚くべきことに従来ろ布に比べろ布裏面からの水の透過性をより高く保つこと、即ち、タテ繊維織密度を粒子の除去率が低下しない範囲でできるかぎり粗くすることによりろ布の逆洗が極めて効率よくできることが判明した。
【0037】
さらに、従来の逆洗方法は、液体を通過させるのみの逆洗方法であったが、上述のろ布を用いた本発明に係るろ過装置1のろ過袋17の場合、逆洗水に空気を混合させることで、驚くべきことに飛躍的にその逆洗効果が高くなることが判明した。これは、ろ布が上述のごとく朱子織で、表面側に浮かせた細いヨコ糸を立毛させ緻密ろ過層部を形成させ、一方裏面側(地組織)は10から30μmの比較的太いタテ糸で多数の微細空隙を形成させた二層構造となっており、特に裏面側から逆洗水に混合されている逆洗用空気がその微細空隙を通過するとき空気が容易に微細気泡に分散し、ろ過袋17の緻密ろ過層部に捕捉された懸濁粒子の洗浄に効率よく働くためである。
【0038】
ろ過袋17の逆洗再生が短時間で容易にできるようになったのは、逆洗用空気の供給量に比例してろ過袋17を構成するろ布の各々の微細空隙を通過する逆洗水の線流速が早くなり、これにより表面側の緻密ろ過層部の撹乱振動の増大につながり、その相乗効果のためである。
【0039】
そこで発明者らは本発明のろ過装置のろ過袋17により好ましく使われるろ布として、表面側に緻密ろ過層を形成し、粒子を効率よく捕捉するため、表面側に出るヨコ糸の太さをできる限り細くし、一方裏面側は逆に逆洗時に逆洗水ならびに逆洗用空気が通過しやすく、逆洗効果を高く保つために、裏面側に出るタテ糸の太さをできる限り太くし、それぞれヨコ糸、タテ糸の繊維織密度を適切に保つことが最も重要である点に着目し、実験を繰り返した。その結果として、ヨコ糸に主として太さ0.1から10μmの好ましくは2から8μmの極細繊維を用いかつ繊維織密度を4000から50000本/cmの範囲、タテ糸に主として太さ10から30μmの繊維を用い、かつ繊維織密度を1000から1500本/cmとしたろ布が本発明のろ布にはより好ましいという結論に達した。
【0040】
ろ過システムにおける第一実施形態:
次に、前述した本発明に係るろ過装置1を使った第一実施形態に係るろ過システム100について、第2図および第3図に基づき説明する。
【0041】
第2図は本発明に係るろ過装置1を3基(1A、1B、1C)並列に原水供給ライン(40a,40b,40c)、およびろ過水排出ライン(70a,70b,70c)を介して接続し、原水を12,000m/d供給し、3基(1A、1B、1C)共にろ過工程で運転する場合の概略フロー図である。原水は、原水ポンプ110から総合原水供給ライン140を通り、そこから分岐している原水供給ライン(40a、40b、40c)に配設されている流量制御手段に該当する流路切り替え弁(21a、21b、21c)を介し各ろ過タンク(10a,10b,10c)に下部から上向きに供給される。ろ過されたろ過水は、ろ過水排出ライン(70a、70b、70c)並びにそれらが合流した総合ろ過水排出ライン170に配設されている流量制御手段に該当する流量制御弁131を経由して総合ろ過水排出ライン170より排出される。
【0042】
第3図は、並列に接続した3基(1A、1B、1C)のうち1基(図3では1A)を逆洗工程で運転する場合の概略フロー図である。この場合、残りの2基(1B、1C)はろ過工程であり、原水ポンプ110について供給量が一定である特性ポンプを選定した場合、ろ過水量は1基当り6,000m/dとなる。ここで、総合ろ過水排出ライン170に設けた流量制御弁131を全閉すると、ろ過装置1Aは逆洗工程で運転でき、ろ過工程時の3倍の流速で逆洗運転ができる。こうしたフローにより従来必要であった逆洗水の貯留水槽ならびに逆洗ポンプを設置する必要がなくなるといったメリットが得られる。一方総合ろ過水排出ライン170から必ず一定量以上のろ過水量が必要なケースには、流量制御弁131の開度を所望の値に調節し運転することも可能である。
【0043】
上記実施形態は、ろ過装置1を3基並列に接続した一例であるが、たとえば原水中に含まれる懸濁物質のろ布からの剥離が悪くろ過流速の5倍程度の逆洗速度が必要な場合には、ろ過装置1を5基以上並列に接続し所望の逆洗条件を確保することが可能となる。
【0044】
ろ過システムにおける第二実施形態:
第4図は、本発明の第二実施形態に係るろ過システムの概略フロー図である。
【0045】
第4図で示すろ過システム200において、第2図、第3図と同一記号は同一内容を示し、異なる部分について主に説明する。第4図は、ろ過装置1を3基(1A、1B、1C)並列に接続し、運転する状況を示す概略フロー図である。原水は、原水ポンプ110から総合原水供給ライン140を通り、そこから分岐している原水供給ライン(40a、40b、40c)に配設されている流量制御弁(33a、33b、33c)を介し各ろ過タンク(10a,10b,10c)に下部から上向きに供給される。ろ過されたろ過水は、ろ過水排出ライン(70a、70b、70c)並びにそれらが合流した総合ろ過水排出ライン170に配設されている流量制御手段に該当する流量制御弁131を経由して総合ろ過水排出ライン170より排出される。逆洗排水を排出する逆洗排水排出ライン(50a、50b、50c)は、各ろ過タンク(10a,10b,10c)の上部に流量制御弁(32a、32b、32c)を介し連結されており、下部より表面撹乱用空気供給ライン(60a,60b,60c)に直結されている空気噴出装置(61a,61b,61c)より噴射された表面撹乱用空気により、ろ過袋(17a,17b,17c)の表面から剥離された浮遊性の懸濁物質が上部に移動しろ過タンク(10a,10b,10c)外に排出させ易い。洗浄用空気は空気供給用コンプレッサー112により供給する。
【0046】
本第二実施形態は、流路切替弁(21a、21b、21c)の代替えとして、ろ過タンク(10a,10b,10c)へ連結している原水供給ライン(40a,40b,40c)および逆洗排水排出ライン(50a、50b、50c)に、流量制御弁(33a、33b、33c)および(32a、32b、32c)を配設したもので、ろ過装置1基(1A)の逆洗に他のろ過装置2基(1B、1C)のろ過水を用いることは、同じ考え方である。
【0047】
ろ過システムにおける第三実施形態:
第5図は、本発明の第三実施形態に係るろ過システムの概略フロー図である。
【0048】
第5図で示すろ過システム300において、第2図、第3図で示す第一実施形態、および第4図で示す第二実施形態と同一記号は同一内容を示し、異なる部分について主に説明する。第5図は、ろ過装置1を3基(1A、1B、1C)並列に接続し、運転する状況を示す概略フロー図である。原水は、原水ポンプ110から総合原水供給ライン140を通り、そこから分岐している原水供給ライン(40a、40b、40c)に配設されている流量制御弁(33a、33b、33c)を介し各ろ過タンク(10a,10b,10c)に下部から上向きに供給される。ろ過されたろ過水は、ろ過水排出ライン(70a、70b、70c)およびそれらに配設されている流量制御弁(34a、34b、34c)並びにそれらが合流した総合ろ過水排出ライン170およびそれらに配設されている流量制御弁131を経由して総合ろ過水排出ライン170より排出される。
【0049】
本第三実施形態は、第二実施形態と同様に流路切替弁(21a、21b、21c)の代替えとして、ろ過タンク(10a,10b,10c)へ連結している原水供給ライン(40a,40b,40c)および逆洗排水排出ライン(50a、50b、50c)に、流量制御弁(33a、33b、33c)および(32a、32b、32c)を配設したもので、ろ過装置1基(1A)の逆洗に他のろ過装置2基(1B、1C)のろ過水を用いることは、同じ考え方である。
【0050】
ここでは、各ろ過装置(1A、1B、1C)のろ過水排出ライン(70a、70b、70c)に流量制御弁(34a、34b、34c)を配設し、各ろ過水排出ライン(70a、70b、70c)を統合した総合ろ過水排出ライン170に配設された流量制御弁131よりろ過タンク側で分岐して設けられた総合逆洗水増圧ライン190に増圧ポンプ111を配設し、増圧ポンプ111よりろ過タンク側で分岐した各ろ過装置(1A、1B、1C)ごとの逆洗専用の逆洗水増圧ライン(90a,90b,90c)に流量制御弁(35a,35b,35c)を配設すると共に、各各ろ過装置(1A、1B、1C)ごとのろ過水排出ライン(70a、70b、70c)に直結させた。これにより、流路の切り替えにより増圧ポンプ1台で各ろ過装置(1A、1B、1C)の逆洗水の圧力を増圧することが可能となった。
【0051】
以下、本発明について具体的実施例により説明する。
【0052】
実施例1:
M市の公園池の原水を対象とし、第1図に示すろ過装置1を用い(逆洗排水排出ラインの位置は、50αで示すようにろ過タンク10の上部とした)、以下に示す実験条件1の条件においてろ過実験を行ない、ろ過エレメント16の洗浄は本発明に基づいて水逆洗、逆洗用空気供給ライン80からの空気供給による空気逆洗,および表面撹乱用空気供給ライン60からの空気供給による表面撹乱洗浄を同時に行った。また、比較のために、その他は同じ条件で、空気逆洗を行わない条件の実験(比較例1)および表面撹乱洗浄を行わない条件の実験(比較例2)を行った。その結果を第6図に示す。なお、表面撹乱用空気を噴出させるための空気噴出装置には通常使用されるスプレーノズルを使用した。
【0053】
第6図より、比較例1(第6図B)および比較例2(第6図C)に対し、本発明の実施例(第6図A)の方がろ過速度の低下ならびにろ過圧力損失の上昇がなく安定した能力が維持できることが明らかである。特に逆洗用空気供給ライン80からの空気供給をしない場合(比較例1)には圧力損失の上昇が速く、ろ過速度が低下することが明らかである。
【0054】
(実験条件1)
1.原水SS濃度:平均5mg/L
2.ろ過装置仕様
(1)ろ過タンク:直径100mm×高さ600mm
(2)ろ過エレメント:直径 25mm×高さ500mm×2本
(3)有効ろ過面積:0.023m2×2本=0.046m2
(4)ろ布の平均分離粒子径:20μm
(5)ろ布仕様
A.ろ布材質:ポリエステル極細繊維主体
B.ヨコ糸と布:繊維径=2.4μm、織密度=45,600本/cm
C.タテ糸と布:繊維径=22μm、繊密度=1,400本/cm
D.ろ布構造:朱子織式で、ヨコ糸のポリエステル極細繊維を立毛加工して表面側に緻密ろ過層を形成し、立毛加工していない裏面側と各々内部構造の異なる2層構造のろ布
3.運転条件
(1)初期ろ過速度:1000m/日
(2)洗浄間隔:ろ過5分間継続ごとに洗浄1分間
(3)水逆洗:逆洗速度2000m/日、1分間
(4)空気逆洗:供給空気量40L/分、1分間
(5)表面撹乱洗浄:供給空気量10L/分、1分間
(水逆洗、空気逆洗および表面撹乱洗浄は同時に実施し、逆洗用水はすべて本実験で得られたろ過水を用いた。)
【0055】
実施例2:
本発明の第1図に示すろ過装置1を用い、以下に示す実験条件2の条件でT川の水を用いてろ過袋のろ布の種類を替え連続実証試験を実施、ろ過性能を比較した。
【0056】
本ろ過装置1のろ過袋用ろ布として、表面の緻密ろ過層は懸濁微粒子を効率よく捕捉するためポリエステル極細繊維が好ましいが、同一ろ布を繰り返し再利用し高速ろ過運転を継続するためには、逆洗再生が効率よくできるろ布の構造とすることが不可欠である。本実証試験ではこの点に着目し、ろ布の裏面側地組織の織密度とろ過圧力(逆洗再生性が良好であればろ過圧力は低レベルで運転可能である)との関係を検討した。その結果を第7図に示す。
【0057】
第7図よりろ過袋用ろ布のタテ繊維の織密度を1000本/cmから1500本/cmの範囲にすることがろ過圧力を低く保つことができるとともに懸濁物質(SS)の除去率を高く保つことができ、本発明のろ過機には適していることが明らかであった。織密度が1500本/cm以上となるとろ過圧力が高くなるために好ましくなく、織密度が1000本/cm以下となると織密度が低すぎて懸濁物質(SS)除去率が50%以下に低下することより好ましくないとの結果となった。
【0058】
(実験条件2)
1.原水SS濃度:3〜8mg/L
2.ろ過装置仕様
(1)ろ過タンク :直径100mm×高さ600mm
(2)ろ過エレメント:直径25mm×高さ500mm×2本
(3)有効ろ過面積:0.023m2×2本=0.046m2
(4)ろ布仕様
・ろ布表面側(主として織物のヨコ糸が主体)に繊維径2.4μmのポリエステル極細繊維を用い、織り密度を45,600本/cmとし、裏面側地組織(主として織物のタテ糸が主体)に繊維径14μmの高強度ポリエステル繊維を用い、その織り密度を異にした各種のろ布(縦繊維織密度:700、900、1300、1500、1700本/cm)を用いてろ過性能を比較する。なお、表面側は上記極細繊維を立毛加工し、緻密ろ過層(厚み約0.5mm)を形成した構造である。
3.運転条件
(1)初期ろ過速度:1000m/日
(2)洗浄間隔:ろ過5分間継続ごとに洗浄1分間
(3)水逆洗:逆洗速度2000m/日、1分間
(4)空気逆洗:供給空気量40L/分、1分間
(5)表面撹乱:供給空気量10L/分、1分間
(水逆洗、空気逆洗および表面撹乱洗浄は同時に実施し、逆洗用水はすべて本実験で得られたろ過水を用いた。)
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るろ過装置の概略断面説明図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るろ過システムのろ過時における概略フロー図である。
【図3】図2のろ過システムの逆洗時における概略フロー図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係るろ過システムの概略フロー図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係るろ過システムの概略フロー図である。
【図6】実施例1および比較例についてのろ過速度および圧力損失に関するグラフである。
【図7】タテ繊維織密度を変化させたときの浮遊物除去率およびろ過圧力に関するグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 ろ過装置
10 ろ過タンク
11 仕切り板
16 ろ過エレメント
17 ろ過袋
18 支持体
21 流路切り替え弁
32,33,34,35,131 流量制御弁
40,140 原水供給ライン
50,50α 逆洗排水排出ライン
60 表面撹乱用空気供給ライン
61 空気噴出装置
70,170 ろ過水排出ライン
80 逆洗用空気供給ライン
90,190 逆洗水増圧ライン
110,111 ポンプ
112 空気供給用コンプレッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水側とろ過水側とを区分する仕切り板に、繊維織物からなるろ過袋とろ過水の水路を確保するために設けられた孔を有する支持体とから構成されるろ過エレメントを1個または複数個配設したろ過タンクと、
前記ろ過タンクの原水側に連結される原水供給ライン、逆洗排水排出ライン、および逆洗時に前記ろ過エレメントの表面を撹乱洗浄するための表面撹乱用空気供給ラインと、
前記ろ過タンクのろ過水側に連結されるろ過水排出ライン、および前記ろ過エレメント内を逆流して洗浄する逆洗水に空気を注入する逆洗用空気供給ラインと、
を備えたことを特徴とするろ過装置。
【請求項2】
請求項1に記載のろ過装置において、
前記ろ過袋は、合成繊維織物からなり、繊維の太さは、ヨコ糸が0.1から10μmで、且つタテ糸が10から30μmであり、繊維織密度は、ヨコ糸が4000から50000本/cmで、且つタテ糸が1000から1500本/cmであることを特徴とするろ過装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のろ過装置において、
前記逆洗排水排出ラインを前記ろ過タンクの原水側の上部に配設したことを特徴とするろ過装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のろ過装置において、
空気噴出装置が直結されている前記表面撹乱用空気供給ラインを前記ろ過タンクの原水側の下部に配設したことを特徴とするろ過装置。
【請求項5】
流量制御手段が配設されている原水供給ラインおよび逆洗排水排出ラインと、ろ過水排出ラインと、を備えるろ過装置を複数並列に前記ろ過水排出ラインを介して接続し、前記ろ過水排出ラインを統合した総合ろ過水排出ラインに流量制御手段を配設したことを特徴とするろ過システム。
【請求項6】
前記原水供給ラインおよび前記逆洗排水排出ラインに流量制御手段を配設した請求項1乃至4のいずれかに記載のろ過装置を複数並列に前記ろ過水排出ラインを介して接続し、前記ろ過水排出ラインを統合した総合ろ過水排出ラインに流量制御手段を配設したことを特徴とするろ過システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のろ過システムにおいて、
前記ろ過水排出ラインの逆洗水を増圧するための増圧ポンプを前記ろ過水排出ラインに配設したことを特徴とするろ過システム。
【請求項8】
請求項5または6に記載のろ過システムにおいて、
前記ろ過水排出ラインに流量制御弁を配設し、
前記総合ろ過水排出ラインに配設されている前記流量制御弁より前記ろ過タンク側で分岐した総合逆洗水増圧ラインに増圧ポンプを配設すると共に、
前記増圧ポンプより前記ろ過タンク側で分岐した前記ろ過装置ごとの流量制御弁を有する逆洗水増圧ラインを前記ろ過水排出ラインに直結したことを特徴とするろ過システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−93542(P2008−93542A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276651(P2006−276651)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】