説明

アイアンゴルフクラブ

【課題】打球の方向性、及び反発性が良く、弾き感のある打球音が得られるヘッド構造を有するアイアンゴルフクラブを提供する。
【解決手段】アイアンゴルフクラブは、打球が成されるフェース面6Fを具備したフェース部材6と、フェース部材6を所定のロフト角で止着する止着領域を具備すると共に、トップ部5d、ソール部5e、トウ部5f及びヒール部5gにより形成されるキャビティを具備したヘッド本体5と、このヘッド本体5に止着されるシャフト3とを有する。フェース部材6は、ソール側の端部において、後方に向けて屈曲する屈曲部6aを備えており、フェース部材6の裏面でフェース面6Fの有効打点領域Wの中央位置C以上の上方に、振動の伝達を抑制するリブ10を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアン型のゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイアン型のゴルフクラブのヘッドとして、打球がなされるフェース部材を板状に構成し、リング状のヘッド本体の前面側に止着したキャビティ構造が知られている。このようなキャビティ構造では、重量がフェース部の周辺に分散され、かつソール側の重量を大きくすることができるため、低重心化を図りながら、慣性モーメントを大きくすることができ、打球方向の安定化を図ることが可能となる。また、フェース部材を薄肉厚化することで反発性を高めることができ、飛距離の向上を図ることが可能となる。
【0003】
そして、上記したようなキャビティ構造では、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されているように、フェース部材の周囲を折り曲げることでフェース部材をより撓み易くし、さらに飛距離の向上を図る構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−143356号
【特許文献2】特開2004−358223号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1や特許文献2に開示された構造を有するヘッドでは、正面に露出するフェース面に加え、折り曲げられた部分も撓みを許容すると共に振動するようになる。このため、撓みの範囲が広がって高反発系のアイアンゴルフクラブが得られるものの、折り曲げられた部分によって、打球時の振動スパンが長くなることから、振動周期も長くなり、それにより、打球音が低くなってしまう。すなわち、波の伝わる速度(V)=Fλ(F;振動数、λ;波長)において、波の伝わる速度は一定であることから、振動スパンが長くなって波長λが大きくなると、振動数Fは小さくなり、結果として打球音が低音化することとなる。
【0006】
通常、高反発系のアイアンゴルフクラブを選択するゴルファーは、打球時に弾くような高音が生じることを好むが、上記したようなフェース部材の周囲を折り曲げたヘッド構造では、高反発化できるものの打球音が低くなってしまい、弾き感のある心地良い打球音(高音の反発音)が得られ難くなる。
【0007】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、打球の方向性、及び反発性が良く、弾き感のある打球音が得られるヘッド構造を有するアイアンゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、打球が成されるフェース面を具備したフェース部材と、このフェース部材を所定のロフト角で止着する止着領域を具備すると共に、トップ部、ソール部、トウ部及びヒール部により形成されるキャビティを具備したヘッド本体と、このヘッド本体に止着されるシャフトとを有するアイアンゴルフクラブであって、前記フェース部材は、ソール側の端部において、後方に向けて屈曲する屈曲部を備えており、前記フェース部材の裏面で前記フェース面の有効打点領域の中央位置以上の上方に、振動の伝達を抑制する振動伝達抑制部を形成したことを特徴とする。
【0009】
上記した構成のアイアンゴルフクラブは、キャビティ構造となっているため、低重心化を図りながら、慣性モーメントを大きくすることができ、打球方向の安定化を図ることが可能となる。また、フェース部材が、ソール側の端部において、後方に向けて屈曲形成されているため、フェース面で打球した際の撓みを効果的に許容することができ、反発性能の良いアイアンゴルフクラブとなる。この場合、フェース部材は、折り曲げられた部分も振動することから、フェース部材として見た場合、振動スパンが長くなってしまうが、上記したように、実際に打球がされる位置よりも上方(主に、フェース面の有効打点領域の中央位置以上の上方)に、振動の伝達を抑制する振動伝達抑制部を形成しているため、振動周期を短くして打球音を高めること(弾き感のある打球音)が可能となる。
【0010】
なお、上記した振動伝達抑制部は、打球時に振動が伝達するのを、フェース部材の裏面に形成される特定の境界部分で抑制できるような構造物であれば良く、例えば、トウ部側からヒール部側に亘って延出するリブを形成することで、そのリブの位置で振動伝達を抑制することが可能となる(振動スパンを短くすることが可能となる)。或いは、リブ以外にも、例えば、フェース面の有効打点領域の中央位置以上の上方を、厚肉化しておくことで、その厚肉部分で振動伝達を抑制し、これにより、振動周期を短くして打球音を高めること(弾き感のある打球音)も可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、打球の方向性、及び反発性が良く、弾き感のある打球音が得られるヘッド構造を有するアイアンゴルフクラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るアイアンゴルフクラブの第1の実施形態を示す正面図。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図。
【図3】フェース部材を裏面側から見た図。
【図4】フェース部材の止着領域を斜線で示したヘッド本体の正面図。
【図5】図3のB−B線に沿った断面図。
【図6】本発明に係るアイアンゴルフクラブの第2の実施形態を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【図7】本発明に係るアイアンゴルフクラブの第3の実施形態を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【図8】図7に示すフェース部材を取着したヘッドの断面図。
【図9】本発明に係るアイアンゴルフクラブの第4の実施形態を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図。
【図10】図9に示すフェース部材を取着したヘッドの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明に係るアイアンゴルフクラブの実施形態について説明する。
図1から図5は、本発明の第1の実施形態を示す図であり、図1は、アイアンゴルフクラブの正面図、図2は、図1のA−A線に沿った断面図、図3は、フェース部材を裏面側から見た図、図4は、フェース部材の止着領域を斜線で示したヘッド本体の正面図、そして、図5は、図3のB−B線に沿った断面図である。
【0014】
本実施形態に係るアイアンゴルフクラブ1は、シャフト3と、ヘッド本体5と、ヘッド本体5とは別体として形成されたフェース部材6とを備えており、前記シャフト3の先端にヘッド本体5を止着して構成されている。前記シャフト3とヘッド本体5は、ゴルフクラブ1を基準水平面Pに対して構えた際、シャフト3の軸線Xと基準水平面Pとの間が所定のライ角αとなるように設定されている。
【0015】
前記ヘッド本体5には、ソケット7を介してシャフト3を挿入して先端領域を止着するホーゼル5aが形成されており、前記フェース部材6は、打球が成される平坦状のフェース面6Fを具備し、リング状に形成されたヘッド本体5の開口5bの周囲に形成された段部(止着領域)5cに対して、所定のロフト角となるように、カシメ、溶着、接着、或いはこれらの組み合わせ等によって止着されている(止着領域5cを図4の斜線で示す)。
【0016】
前記ヘッド本体5およびフェース部材6は、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、炭素鋼、タングステン等の金属材料を用いて鋳造などによって一体形成することが可能であるが、フェース部材6については、高強度で薄肉化が図れるように、鍛造、或いはプレス成形によって形成することが好ましい。
【0017】
前記ヘッド本体5は、トップ部5d、ソール部5e、トウ部5f及びヒール部5gを具備しており、これらは開口5bの周囲に亘って形成される前記段部(止着領域)5cに対して止着されるフェース部材6の周縁に沿って後方に延設されている。この場合、前記トップ部5dは、後方側に延びてその先端が下方に垂下するように屈曲されると共に、前記ソール部5eは、後方側に延びながら上方に立ち上げられて、その先端がトウ部5f及びヒール部5gの略中間位置まで延びている(図2参照)。同様に、前記トウ部5f及びヒール部5gは、後方側に延びると共にその先端が中央に向けて屈曲されており、これにより、ヘッド本体5は、フェース部材6の後側が開口したキャビティ構造(キャビティを符号Rで示す)となっている。なお、ソール部5eについては、低重心化が図れるように、ヘッド本体5の構成材料よりも高比重の材料によって形成しても良いし、別途、ウエイト部材を取着したものであっても良い。
【0018】
前記ヘッド本体5およびフェース部材6は、ヒール側からトウ側に移行するに従い高さが高くなる形状を有しており、同様の形状を有するフェース部材6には、トウ・ヒール方向に沿ってスコアライン6Lが複数本形成されている。なお、図1に示すように、このスコアライン6Lが形成されている領域がフェース部材6の有効打点領域Wとなる。
【0019】
上記したように止着されるフェース部材6は、その周囲6fが段部5cに対して当て付けられて止着されており、その後方側がキャビティ構造となっているため、フェース部材全体として撓み易くなっている。この場合、フェース部材6のソール側の端部には、図2及び図3に示すように、後方に向けて屈曲する屈曲部6aが形成されており、その先端面6a´が段部5cに対して面接するように固定されている。
【0020】
このような屈曲部6aを形成しておくことで、フェース部材6をより撓み易くすることが可能となる。なお、屈曲部6aの長さdについては、フェース部材の撓み性の向上が図れるように、フェース部材6の肉厚よりも2倍以上あること(4.0〜10.0mm程度)が好ましい。また、フェース面6Fに対する屈曲角度θは、90°よりも大きくなると反発性の向上が図れ難くなることから、θ≦90°に形成されることが好ましい。
【0021】
上記のようなフェース部材6は、中央領域が最も撓み易い領域となるが、上記したように、アイアンゴルフクラブのヘッドのフェース部材6は、トップ・ソール方向で見ると、ヒール側の長さが短く、トウ側に移行するに連れて長くなる形状となっており、トップ部5dがトウ側に向けて次第に上昇する形状となっている。
【0022】
このため、フェース部材として大きく撓む領域は、有効打点領域Wで見た場合、その中央位置Cに対してトウ側となっている。なお、ここでの中央位置Cは、スコアライン6Lが形成される領域(有効打点領域W)のトウ・ヒール方向の中点C1から、基準水平線Pに対して垂線Lを引いた際、その垂線Lの長さ(トップ側のエッジ点P1からソール側の屈曲部6aの先端面の位置P2に至る長さ)の中間点で定義される。この場合、屈曲部がトップ側にも形成されているのであれば、その屈曲部の先端面の位置からソール側の屈曲部の先端面の位置の中間点で定義される。
【0023】
また、ヘッドのスイートスポットSは、フェース部材6が止着されたヘッド本体5の重心Gに依存するが、通常、ヘッド本体5は、図1に示すように、ヒール側にホーゼルを形成するなど、ヒール側に重量偏倚しており、かつ低重心化を図るようにソール部を重量化しているため、スイートスポットSは、中央位置Cと厳密に一致することはないが、中央位置Cの近傍に位置するのが好ましい。
【0024】
前記ヘッド本体5に止着されるフェース部材6は、ボールBを打球した際、折り曲げられた部分(屈曲部6a)も振動することから、フェース部材として見た場合、振動スパンが長くなってしまうが、図2に示すように、水平面に載置したボールBを打球する打点位置PB(この打点位置PBのトウ・ヒール方向線を図1においてラインL2で示す)よりも上方、好ましくは、フェース面6Fの有効打点領域Wの中央位置C以上の上方に、振動の伝達を抑制する振動伝達抑制部を形成することで振動スパンを短くしている。
【0025】
本実施形態では、このような振動伝達抑制部は、打球がトウ・ヒール方向にばらついても、効果的に振動伝達が抑制でき、かつフェース部材が重量化しないように、フェース部材の裏面に形成されるヒール部側からトウ部側に亘って延出するリブ10によって構成されている。すなわち、このようなリブ10を形成することで、打球時にフェース部材が振動しても、そのリブ10の位置で振動伝達を抑制して振動スパンを短くすることが可能となり、振動周期を短くして打球音を高めること(弾き感のある打球音)が可能となる。なお、このようなリブ10は、打点位置がトウ・ヒール方向にばらついても打球音のばらつきを抑制するとともに、撓みバランスの向上が図れるように、直線状に形成することが好ましい。
【0026】
また、リブ10は、図1で示すように、上記したラインL2に対してトップ側にあり、かつ、トウ・ヒール方向に延出するように形成されていれば良いが、フェース部は、トップ部が、トウ側に向けて次第に上昇する形状となっていることから、大きく撓むのは、前記中央位置Cから見てトウ側であり、かつ、トップ側となり易いので、本実施形態では、後述する最大厚肉部10Aをトウ側、かつ、トップ側に形成し、大きく撓む領域の撓みを抑制するようにして、効率的な撓みの抑制、及び撓みバランスの向上が図れるようにしている。
【0027】
具体的には、有効打点領域Wのトウ側のエッジW1及びヒール側のエッジW2と、上記したラインL2との交点をそれぞれP3,P4とし、また、トウ側のエッジW1のトップ側エッジとの交点をP5、ヒール側のエッジW2のトップ側エッジとの交点をP6とし、さらにP3とP5の中点をP7、P4とP6の中点をP8とした場合、中点P7,P8を結ぶラインL3上(ヒール部側からトウ部側に次第に上昇するライン)にリブ10が位置するように形成されている。すなわち、このような中点P7,P8同士を結ぶラインL3は、トウ・ヒールの幾何学的中央線に沿う方向となり、補強効果が高く、打点より上方(ヘッド本体5を基準水平面Pに対して規定のロフト角、ライ角に設置した際のボールBのトウ・ヒール方向の打点位置のラインL2より上方)となるため、このラインL3に沿ってリブ10を形成することで、打点がトウ・ヒール方向にばらついても、トップ側への振動伝達をトウ・ヒール方向で均一に抑制することができる。また、打球した際のボールの当たる位置がリブ10上になってしまう可能性が少なくなり、打感が低下するのを防止することができ、さらには、リブそのものを重量化することなく、効率的に強度向上及び撓みの抑制、並びに撓みバランスの向上が図れるようになる。なお、本実施形態では、図1に示すように、延出するリブ10の中心線が、上記したように定義されるラインL3と一致するように形成されているが、ラインL3にリブ10の一部が重なるように形成されていても良い。
【0028】
また、上記したように、フェース部材6は、その形状からヒール側が撓み難い構成となっているため、リブ10を形成するに当たり、同じ断面積にすると、ヒール側では、より撓み難くなってしまい、撓みバランスが低下してしまう。本実施形態では、図3に示すように、トウ側での幅をw1、ヒール側での幅をw2とした場合、w1>w2となるようにリブ10を形成しており、さらに、図5に示すように、リブ10の高さについても、トウ側での高さをh1、ヒール側での高さh2とした場合、h1>h2となるように形成しており、その断面積をヒール側よりもトウ側の方が大きくなるようにしている(フェース部材にリブを形成することで、その周辺領域では剛性が高まって撓みが抑制される効果が得られるが、その剛性については、リブの断面積によって変化させるようにしている)。
【0029】
このように、リブ10は、トウ側の断面積と比較してヒール側の断面積が減少しているため、リブによる撓み難さの度合いが、ヒール側に移行するに連れて緩和され、フェース部材のトウ・ヒール方向における撓みバランスを向上することが可能となり、ヒール側であっても反発性を向上することが可能となる。特に、フェース部材全体を薄肉厚化して撓み易い構造とした場合、上記したような断面積が減少するリブ10を形成しておくことで、撓みバランスの向上が図れるようになる。
【0030】
なお、そのようなリブ10については、図3及び図5に示すように、幅、及び高さが、ヒール側に移行するに連れて連続的に減少するように形成することが好ましく、これにより応力集中し難い構造にすることができる(勿論、段階的に変化させても良い)。また、リブ10は、その頂部のエッジがフェース部材の裏面に対して垂直に切り立つような形状であっても良いが、図3に示すように、テーパ部10aによって傾斜状に上昇するような形状とすることで、応力集中を防止することが可能となる。
【0031】
さらに、上記のリブ10は、前記ヘッド本体の段部(止着領域)5cから離間して形成されていることが好ましい。すなわち、本実施形態のように、トウ・ヒール方向に直線状に延出するリブであれば、その両端位置が段部5cから離間するように形成されていることが好ましい。具体的には、図3及び図5に示すように、リブ10のトウ側端部10c及びヒール側端部10dにリブなし領域を形成しておくことが好ましい。
これにより、撓みが抑制されることがなくなって、飛距離の低下を防止することが可能となる。
【0032】
そして、上記のように、フェース部材6の裏面に、トウ・ヒール方向に延出し、トウ部側に次第に高くなるリブ10を形成したことで、フェース部材6には、上記のように特定される中央位置Cよりもトウ側、かつトップ側に最大厚肉部10Aが形成されるようになる。この最大厚肉部10Aは、フェース部材全体で肉厚を考慮した際、最も肉厚が厚くなっている部分であり、このような厚肉部は、剛性を高めて撓みを抑制する機能を有している。上記したように、フェース部材6は、有効打点領域で見た場合、撓み易い部分は、中央位置Cに対してトウ側であるため、この領域に最大厚肉部10Aを形成したことで、大きく撓む領域の撓みが抑制されるようになる。
【0033】
この場合、最大厚肉部10Aは、上記のように形成されるリブ10の頂点(点)として特定されていても良いし、ある程度の範囲で形成されたもの(平坦面)であっても良い。また、最大厚肉部10Aは、中央位置Cよりもトウ側に位置していれば良いが、トウ・ヒール方向において、中央位置Cに近付き過ぎると全体の反発を抑制し過ぎる傾向が高まるため、有効打点領域Wの範囲の内、トウ側のエッジW1から1/4Wの範囲内に存在するように形成することがトウ側を軽量化でき、低重心化等、重量余力がでて好ましい。
なお、本実施形態のリブ10は、図1に示すように、その最大肉厚部10Aを有効打点領域Wよりもトウ側に形成しており、かつ、最大厚肉部10Aからヒール側(有効打点領域Wのヒール側のエッジW2の近傍)まで延出するように形成されている。この場合、リブ10の形成範囲は、振動伝達の抑制効果、及び、撓みの抑制効果が発揮されるように、少なくとも有効打点領域Wに対して、中央を含む1/2Wの範囲W3内に形成されていれば良い。
【0034】
上記した構成のアイアンゴルフクラブによれば、キャビティ構造となっているため、低重心化を図りながら、慣性モーメントを大きくすることができ、打球方向の安定化を図ることが可能となる。また、フェース部材6が、ソール側の端部において、後方に向けて屈曲形成されているため、フェース面で打球した際の撓みを効果的に許容することができ、スイートスポットSを外して打球しても、飛距離の低下を抑制した反発性能の良いアイアンゴルフクラブとなる。そして、打球する際、フェース部材6は、折り曲げられた部分も振動することから、フェース部材として見た場合、振動スパンが長くなって打球音が低音化してしまうが、上記したように、実際に打球がされる位置よりも上方(フェース面の有効打点領域の中央位置Cの上方)にリブ10を形成したことで、このリブの位置で振動の伝達を抑制することができ、振動周期を短くして、打球音を高めることが可能となる(弾き感のある打球音が得られる)。
【0035】
また、本実施形態では、上記したリブ10に関し、フェース部材6の有効打点領域Wの中央位置Cよりもトウ側に最大厚肉部10Aを形成したことで、大きく撓む領域の撓みが抑制されるようになる。また、リブ10は、最大厚肉部10Aからヒール側に向けて断面積が減少していることから、ヒール側に移行するにつれて、リブ10による撓み抑制の効果が減少し、フェース部材全体をトウ・ヒール方向で見た場合、バランスの良い撓み状態が得られ、これにより、トウ・ヒール方向で打点がばらついても、打点位置に応じて反発性が極端に相違することがなく、飛距離の安定化が図れるようになる。
【0036】
また、そのようなリブ10を形成したことで、強度を維持しながらフェース部材を薄肉厚化して反発性を高めることができ、さらには、フェース部材を軽量化することで、設計自由度の向上が図れるようになる。
【0037】
なお、上記した構成のフェース部材6は、上記したリブ10が形成される位置以外については同一の肉厚であっても良いが、リブ10を境にして、ソール側の領域よりもトップ側の領域の肉厚が薄く形成されることが好ましい。
【0038】
このように構成することで、打点位置付近(ラインL2付近)のソール側の必要強度が得られ、かつトップ側を軽量化することができるため、重量余力ができ、低重心化等、設計自由度が高くなる。また、ソール部が厚くなっても、トップ側に薄い領域が形成されているので、全体剛性が高くならず、飛距離低下し難くすることができる。
【0039】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
図6は、本発明に係るアイアンゴルフクラブの第2の実施形態を示す図であり、フェース部材を裏面側から見た図である。
【0040】
本実施形態では、フェース部材6の裏面に、上記したリブ10に加え、さらに、最大厚肉部10Aの領域から延出する2つのリブ20,30が形成されている。この内、リブ20は最大厚肉部10Aからトウ側上方に向けて延出するように形成されており、トップ部5dの端部位置で交差するように形成されている。また、リブ30は最大厚肉部10Aからトウ側下方に向けて延出し、トウ部5fの略中間位置より下方で交差するように形成されている。
【0041】
このように、上記したリブ10に加え、更に、最も撓み易い領域(最大厚肉部10A)から、フェース部材の形状に合わせてリブ20,30を形成したことで、リブ10,20,30による補強効果によって、フェース部材全体を薄肉厚化することが可能となり、軽量、高強度で高反発のフェース構造が得られるようになる。また、このようなリブ20,30についても、リブ10と同様、最大厚肉部10Aから周縁部に向けて、断面積が減少するように形成しておくことが好ましい。さらに、各リブ20,30には、応力集中が生じないようにテーパ20a,30aが形成されていることが好ましい。
上記したリブ10に加え、リブ20,30をこのように形成しても、上記したような振動伝達を抑制効果が得られ、打球音を高音化することが可能となる。
【0042】
なお、上記したようなリブ(略Y字状のリブ10,20,30)を形成したことで、フェース部材6の裏面は、3つの領域が形成されるようになる(ソール側の領域M1、トップ側の領域M2、及びトウ側の領域M3)。このような3つの領域M1〜M3については、ソール側の領域M1の肉厚>トップ側の領域M2の肉厚>トウ側の領域M3の肉厚となるように形成しておくことが好ましい。すなわち、トウ側の領域M3の肉厚を最も薄くなるように形成することで、上記したような低重心化等を図れることに加え、全体剛性を抑制することが可能となる。
【0043】
具体的な肉厚関係としては、最大厚肉部10Aの肉厚を2.5mmとして、ソール側の領域M1の肉厚を2.1mm、トップ側の領域M2の肉厚を1.8mm、トウ側の領域M3の肉厚を1.5mmに設定することが可能である。この場合、最大厚肉部10Aの肉厚、及び各領域M1〜M3の肉厚については、適宜変形することが可能であるが、各領域同士の肉厚差については、余り大きくし過ぎると、境界部分で応力集中したり撓みバランスが崩れることから、0.2〜0.5mm程度にしておくことが好ましい。また、各領域内では、必ずしも均一な肉厚にする必要はなく、例えば、周辺領域に移行するにしたがって次第に薄肉厚化するなど、肉厚変化させても良い。
【0044】
図7及び図8は、本発明に係るアイアンゴルフクラブの第3の実施形態を示す図であり、図7は、フェース部材を裏面側から見た図、図8は、図7に示すフェース部材を取着したヘッドの断面図である。
【0045】
上述した実施形態では、振動伝達抑制部はリブとして構成したが、所定の範囲に形成される厚肉部として構成しても良い。具体的には、フェース面6Fの有効打点領域Wの中央位置Cより上方を、中央位置の下方よりも厚肉に形成したものであれば良い。
図に示す構成では、厚肉領域60は、中央位置Cよりも上方でトウ・ヒール方向に亘って形成されており、このような厚肉領域60を形成することで、打球位置から伝わる振動を抑え、打球音が低くなることを抑制し、高反発音とすることが可能となる。
【0046】
この場合、効果的に振動の伝達を抑制するためには、中央位置Cよりも下方の薄肉厚の領域61と比較すると、その肉厚差を、0.2〜1.0mm程度にすることが好ましい。また、薄肉厚の領域61との境界ライン60aは、上述した実施形態のリブ10と同様、トウ・ヒール方向に沿った直線状にすることが好ましく、また、応力集中が抑制されるように、中央位置Cよりも上方でテーパ状に形成することが好ましい。さらに、厚肉領域60は、ヘッド本体の止着領域5cに対して離間して形成することで(離間部分を符号63で示す)、反発性を低下させることを防止することが可能となる。
【0047】
図9及び図10は、本発明に係るアイアンゴルフクラブの第4の実施形態を示す図であり、図9は、フェース部材を裏面側から見た図、図10は、図9に示すフェース部材を取着したヘッドの断面図である。
【0048】
本実施形態では、上記した厚肉領域60における止着領域5cに沿うように、溝65を形成している。
このような溝65を形成することで、上記した実施形態の効果に加え、フェース部材6を撓み易くしての反発性を高め、飛距離の低下を抑制することが可能となる。なお、溝65は、剛性が高くなっている厚肉領域60の部分の止着領域のみに形成しても良いが、フェース部材の周囲全体、或いは、図に示すように、屈曲部6aに沿うように形成することで、より反発性を向上することが可能となる。
【0049】
以上、本発明に係るアイアンゴルフクラブの実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることは無く、種々変形して実施することが可能である。
例えば、屈曲部については、トップ側、ヒール側、トウ側に形成した、いわゆるカップ状に構成されていても良い。このような構成によれば、撓み量域が拡大してより反発性を高めることが可能となる。
【0050】
また、振動伝達抑制部は、打球時に振動伝達する際の変曲点となって振動伝達を抑制できる構成であれば良く、上述した実施形態以外にも、リブの位置に異種金属を取着したり埋設するものであっても良い。また、上述したようなリブを形成する場合、そのリブの断面形状については、特別な形状に限定されることはなく、本実施形態のように、トウ・ヒール方向に亘って直線状に形成されたもの以外にも、多少、湾曲するような形状であっても良い。また、リブの表面は、上記したように平坦状にしたもの、尖った状態にしたもの以外に、湾曲状に形成されたものであっても良い。
【0051】
また、ヘッド本体は、キャビティ構造になっていれば良く、図に示した形状に限定されることはない。例えば、ヘッド本体は、一体形成することなく、異なる材料で複数のパーツを形成しておき、これらを溶接等することで一体化したものであっても良い。また、フェース部材については、ヘッド本体と共に一体形成された構成であっても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 アイアンゴルフクラブ
3 シャフト
5 ヘッド本体
6 フェース部材
6a 屈曲部
10,20,30 リブ
10A 最大厚肉部
60 厚肉領域
B ボール
C 中央位置
G 重心
P 基準水平面
S スイートスポット
W 有効打点領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球が成されるフェース面を具備したフェース部材と、このフェース部材を所定のロフト角で止着する止着領域を具備すると共に、トップ部、ソール部、トウ部及びヒール部により形成されるキャビティを具備したヘッド本体と、このヘッド本体に止着されるシャフトとを有するアイアンゴルフクラブであって、
前記フェース部材は、ソール側の端部において、後方に向けて屈曲する屈曲部を備えており、
前記フェース部材の裏面で前記フェース面の有効打点領域の中央位置以上の上方に、振動の伝達を抑制する振動伝達抑制部を形成したことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項2】
前記振動伝達抑制部は、ヒール部側からトウ部側に亘って延出するリブであることを特徴とする請求項1に記載のアイアンゴルフクラブ。
【請求項3】
前記リブは、前記止着領域から離間して形成されていることを特徴とする請求項2に記載のアイアンゴルフクラブ。
【請求項4】
前記リブは、前記ヒール部側からトウ部側に向かって次第に上昇すると共に、トウ部側の断面積が大きいことを特徴とする請求項2又は3に記載のアイアンゴルフクラブ。
【請求項5】
前記振動伝達抑制部は、前記フェース面の有効打点領域の中央位置より上方が、前記中央位置の下方よりも厚肉となる厚肉部で構成されることを特徴とする請求項1に記載のアイアンゴルフクラブ。
【請求項6】
前記フェース部材には、前記止着領域に沿って、少なくとも厚肉に形成された部分に溝を形成したことを特徴とする請求項5に記載のアイアンゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245080(P2012−245080A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117625(P2011−117625)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】