説明

アイアン型ゴルフクラブヘッド

【課題】打球の方向安定性に優れたアイアン型ゴルフクラブヘッドに関する。
【解決手段】ボールを打撃するフェース2と、このフェース2のヒール側に連設されかつシャフト差込孔7aを有する筒状部7とを有するヘッド本体1A、及びヘッド本体1Aよりも比重が大きい金属材料からなる錘部材1Bとを含むアイアン型ゴルフクラブヘッド1である。筒状部は、シャフト差込孔の下方に錘部材配置用の有底孔部が連設される。錘部材1Bは、有底孔部7bに配されたヒール側錘部材18を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打球の方向安定性に優れたアイアン型ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異なる金属材料からなる2種以上の部材を固着することにより、ヘッド重心の位置を改善したアイアン型ゴルフクラブヘッドが提案されている。図10には、このようなアイアン型ゴルフクラブヘッドaの一例を示す。該クラブヘッドaは、本体部bと、この本体部bのフェース部背面のトウ部t及びヒール部hの下方に配されかつ本体部bよりも比重の大きい錘部材ct、chとを含む。この種のクラブヘッドaでは、フェース部のトウ側及びヒール側に大きな質量が配分されるため、ヘッド重心Gを通る垂直軸周りの慣性モーメント(以下、このような慣性モーメントを「慣性モーメントIg」という場合がある。)が大きくなり、ボールがフェースのスイートスポットのトウ側又はヒール側で打撃された場合でも、フェースの向きが変わり難く、打球の方向安定性が向上する。
【0003】
しかしながら、上記のゴルフクラブヘッドでは、シャフトの軸中心線CL周りの慣性モーメント(以下、このような慣性モーメントを「慣性モーメントIc」という場合がある。)が大きくなる傾向がある。このような慣性モーメントIcの大きいゴルフクラブヘッドaは、そもそもスイング時にアドレスの状態までフェースが戻りきらず、スライスが生じ易いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−29380号公報
【特許文献2】特開2009−291488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、ヘッド本体のシャフト差込孔の下方に有底孔部を設け、この有底孔部にヒール側錘部材を配することを基本として、慣性モーメントIgを大きくしつつ、慣性モーメントIcの増加を抑えることにより、打球の方向安定性に優れたアイアン型ゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、ボールを打撃するフェースと、このフェースのヒール側に連設されかつシャフト差込孔を有する筒状部とを有するヘッド本体、及び該ヘッド本体よりも比重が大きい金属材料からなる錘部材とを含むアイアン型ゴルフクラブヘッドであって、前記筒状部は、前記シャフト差込孔の下方に錘部材配置用の有底孔部が設けられ、前記錘部材は、前記有底孔部に配されたヒール側錘部材を含むことを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記ヒール側錘部材は、下方に向かってテーパ状をなす請求項1記載のアイアン型ゴルフクラブヘッドである。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記ヘッド本体は、前記フェースの主要部を構成するフェース板と、前後に貫通する開口部を有しかつ該開口部の回りに前記フェース板の周縁部のみを支持するフェース受け枠部とを含み、前記フェース受け枠部には、前記開口部から該フェース受け枠部の内部をヒール側にのびることにより前後上下が閉じられたヒール側の空洞部を有する請求項1又は2記載のアイアン型ゴルフクラブヘッドである。
【0009】
また請求項4記載の発明は、前記空洞部は、空間のままである請求項3記載のアイアン型ゴルフクラブヘッドである。
【0010】
また請求項5記載の発明は、前記空洞部には、前記フェース受け枠部よりも大きい比重の金属材料からなる中間錘部材が配される請求項3記載のアイアン型ゴルフクラブヘッドである。
【0011】
また請求項6記載の発明は、前記空洞部には、ボール打撃時の振動を吸収する弾性体が配される請求項3又は5記載のアイアン型ゴルフクラブヘッドである。
【0012】
また請求項7記載の発明は、前記錘部材は、前記ヘッド本体のトウ側に配されるトウ側錘部材を含む請求項1乃至6のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッドである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアイアン型ゴルフクラブヘッドは、シャフト差込孔の下方に錘部材配置用の有底孔部が連設され、この有底孔部にヒール側錘部材が配される。従って、ヘッドのヒール側の下方に大きな質量を配分することができる。このようなアイアン型ゴルフクラブヘッドは、大きな慣性モーメントIgを得ることができる。また、シャフト差込孔の下方にヒール側錘部材が配されるため、シャフト軸中心線とヒール側錘部材の重心とが近接する。即ち、慣性モーメントIgを大きく確保しつつ慣性モーメントIcの増加を抑制できる。従って、本発明のクラブヘッドは、スイング時にフェースをアドレスした状態に戻し易くなるとともに、ミスショット時でもフェースの向きが変わり難いため、打球の方向安定性が向上する。さらに、ヘッドの下方にヒール錘部材を配するため、本発明のアイアン型ゴルフクラブヘッドは低重心となる。また、ヒール側錘部材は、シャフト差込孔の下方に設けられた有底孔部に配されるため、スイング中の遠心力が作用してもヘッド本体から外れることがない。さらに、有底孔部は、シャフト差込孔に連設されるため、加工性が良く、生産性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態のアイアン型ゴルフクラブヘッドの基準状態の正面図である。
【図2】その背面図である。
【図3】図2のX−X拡大端面図である。
【図4】図2のY−Y拡大端面図、
【図5】図2のZ−Z拡大端面図である。
【図6】フェース受け枠部の背面図である。
【図7】本実施形態のヘッド本体の斜視図である。
【図8】(a)、(b)及び(c)は、本発明の他の実施形態の背面図である。
【図9】比較例1のゴルフクラブヘッドの構造を表す図である。
【図10】従来の技術を説明するヘッドの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1及び2において、本実施形態のアイアン型ゴルフクラブヘッド(以下、単に「クラブヘッド」又は「ヘッド」ということがある。)1は、ボールを打撃する実質的に平面からなるフェース2と、このフェース2の上縁に連なりかつヘッド上部を形成するトップ面3と、フェース2の下縁に連なりヘッド底面を形成するソール面4と、前記トップ面3と前記ソール面4との間を滑らかに湾曲して継ぐトウ面5と、前記フェース2と反対側の面をなすバックフェース面6と、シャフトSが装着されるシャフト差込孔7aを有する筒状部7とを有する。なお、シャフトSが装着されていない場合、ヘッド1のライ角αは、前記シャフト差込孔7aの軸中心線CLを基準とすることができる。
【0016】
また、ヘッド1は、基準状態に置かれているものとする。該基準状態とは、当該ヘッドに定められたライ角及びロフト角に保持して水平面HPに接地させた状態とする。特に言及されていない場合、クラブヘッド1は、この基準状態に置かれているものとする。
【0017】
また、本実施形態のクラブヘッド1は、前記フェース2と、このフェース2のヒール側に連設される筒状部7とを一体に有するヘッド本体1A、及び、該ヘッド本体1Aよりも比重が大きい金属材料からなる錘部材1Bとを含んで構成される。
【0018】
ヘッド本体1Aは、例えば、フェース2の主要部を構成するフェース板8と、該フェース板8の周縁部のみを支持するフェース受け枠部9とを含んで構成される。ここで、フェース2の主要部とは、フェース2の少なくとも60%の面積を意味し、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上とする。
【0019】
フェース板8には、比強度が大きくかつ反発性能に優れた金属材料が望ましく、またフェース受け枠部9には、フェース板8とは異なる金属材料、とりわけフェース板8よりも高比重の金属材料が好適である。前記フェース板8及びフェース受け枠部9には、例えば、チタン、チタン合金、アルミニウム合金、ステンレス鋼又は軟鉄などの種々の金属材料が採用できる。
【0020】
本実施形態のように、ヘッド本体1Aが2種以上の材料から構成される場合、ヘッド本体1Aの比重は、平均比重とし、フェース板8の体積とフェース受け枠部9の体積とで夫々重み付けされて計算される。そして、このヘッド本体1Aの比重ρ1は、振り易さを確保しつつヘッド1に必要な体積を確保するために好ましくは5.0以上、より好ましくは6.0以上が望ましく、また好ましくは8.0以下、より好ましくは7.0以下が望ましい。
【0021】
また、本実施形態のように、ヘッド本体1Aが2種の金属材料で形成される場合、慣性モーメントやスイートエリアの大きいヘッド1を提供する観点より、フェース板8の比重ρ2は、好ましくは2.0以上、より好ましくは4.0以上が望ましく、また好ましくは5.0以下、より好ましくは4.7以下が望ましい。また、フェース受け枠部9の比重ρ3は、好ましくは7以上、より好ましくは7.5以上が望ましく、また好ましくは9.0以下、より好ましくは8.0以下が望ましい。
【0022】
本実施形態のフェース板8にはチタン合金が採用される一方、フェース受け枠部9には前記チタン合金よりも比重が大きいステンレス鋼が用いられる。これにより、フェース板8の周辺部により多くの重量が配分され、慣性モーメントやスイートエリアの大きいヘッド1が提供される。なお、フェース板8とフェース受け枠部9とにおいて、金属材料の組み合わせは、種々変更しうるのは言うまでもない。また、ヘッド本体1Aは、一種の金属材料で構成されても良い。
【0023】
図3乃至5に示されるように、本実施形態のフェース板8は、実質的に一定の厚さtで形成される。フェース板8の厚さtは、大きすぎるとヘッドの反発性が低下しやすく、小さすぎると強度が不足して耐久性を悪化させる傾向があるため、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは2.2mm以上が望ましく、また、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.8mm以下が望ましい。なお、フェース板8は、厚さが変化しても良く、例えば、中央部に向かって段階的に又は連続的に厚さが減少するものや、逆に増加するものでもよい。
【0024】
フェース板8の輪郭形状は、例えばフェース2の輪郭に合わせてヒール側からトウ側に向かって高さが徐々に大となるのが好ましい。なお、慣例に従い、フェース2には、ボールとの摩擦力を高める凹溝などのフェースラインFLが複数本隔設されている。
【0025】
図3乃至6に示されるように、前記フェース受け枠部9は、前側にフェース板8が装着されるフェース取付部10が設けられた外周枠11と、該外周枠11のヒール側に連設された前記筒状部7とを含んで構成される。
【0026】
前記外周枠11は、ヘッド上部をトウ側からヒール側に向かって斜め下方にのびるトップ部枠11aと、ヘッド底部をトウ、ヒール方向にのびるソール部枠11bと、トウ側でこれらの間を継ぐトウ部枠11cと、トップ部枠11aとソール部枠11bとの間をヒール側で継ぐヒール部枠11dと、前記トップ部枠11a、トウ部枠11c、ソール部枠11b及びヒール部枠11dで囲まれかつヘッド前後方向に貫通する開口部Oとを含んでいる。
【0027】
前記開口部Oの周りには、前記フェース取付部10が設けられる。図3及び4に示されるように、このフェース取付部10は、例えば、フェース板8の背面8aの周縁部8bのみを支持する環状の受け面10aと、この受け面10aの外周縁からフェース2側にのびかつフェース板8の外周面8cを保持する内周面10bとを含む略ステップ状で形成される。そして、フェース板8とフェース受け枠部9とは、例えば、溶接、ロウ付け、カシメ、接着剤及び/又はねじなどの接合手段により一体化される。なお、フェース取付部10にフェース板8が装着されると、開口部Oは閉じられ、フェース板8の背面には、外周枠11で囲まれるキャビティKが形成される。
【0028】
前記ソール部枠11bには、フェース取付部10の受け面10aの上端部からヘッド後方に小長さでのびる小壁部15と、この小壁部15の後端部から上方に立ち上がることにより、該小壁部15と背面8aとの間に小隙間Cを形成する背壁部16と、該背壁部16の上端部からヘッド後方にのびるソール壁部17を含む。このようなキャビティ構造は、ヘッド重心Gをより後方に位置させるのに役立つ。
【0029】
図1に示されるように、前記筒状部7には、前記シャフト差込孔7aと、該シャフト差込孔7aの下方に連設されかつ錘部材1Bが配置される錘部材配置用の有底孔部7bとが設けられる。
【0030】
前記シャフト差込孔7aは、例えば、断面が円形であり、かつ内径φがシャフト差込孔7aの軸中心線CLに沿って実質的に同一で連続する円柱状で形成される。
【0031】
前記有底孔部7bは、シャフト差込孔7aの下端7aeに連続して設けられている。また、本実施形態の有底孔部7bは、断面が円形であり、前記シャフト差込孔7aの下端7aeからソール面に向かってテーパ状でのびる内側面7bcと、ヒール枠部11dの内部で終端する底部面7beとを有するコーン状の空間をなす。さらに、本実施形態の有底孔部7bは、その軸中心線CKが、シャフトの軸中心線CLと同軸に形成されている。なお、有底孔部7bに配置される錘部材は、シャフト差込孔7aから挿入可能な外径を有する。従って、錘部材と有底孔部7bのガタツキを無くすために、有底孔部の最大径は、シャフト差込孔の内径と同一化それよりも小さく形成されるのが望ましい。
【0032】
上述のような有底孔部7bは、例えば、フェース受け枠部9を鋳造成形する際に形成されても良いし、また鋳造によりシャフト差込孔7aだけを形成し、後に、そこからドリル等を挿入して穿設されても良い。このような有底孔部7bは、加工性が良く、生産性に優れる。
【0033】
図1に示されるように、前記錘部材1Bは、有底孔部7bに配されるヒール側錘部材18を含む。このようなクラブヘッド1は、ヘッド1のヒール側の下方に大きな質量が配分されるため、慣性モーメントIgが大きい。従って、ミスショット時のフェースの動きを抑制し、打球の方向安定性が向上する。
【0034】
また、錘部材18は、シャフト差込孔7aの下方に配されるため、その重心Ghがシャフト差込孔7aの軸中心線CLと近接する。このようなクラブヘッド1は、慣性モーメントIgを大きくしつつ、シャフト軸回りの慣性モーメントIcの増加を抑制する。従って、本発明のクラブヘッド1は、ミスショット時でもフェースの向きが変わり難いという作用を維持しつつ、スイング時にフェースをアドレスした状態に戻し易くなるため、より一層、打球の方向安定性が向上する。
【0035】
本実施形態のヒール側錘部材18は、有底孔部7bの内側面7beに面する外周面18aと、有底孔部7bの底部面7beに面する下面18bとを有し、有底孔部7bの形状に略一致するコーン状をなす。従って、ヒール側錘部材18は、シャフト差込孔7aから容易に有底孔部7bに挿入することができ、かつ、挿入された後は、有底孔部7bとのガタツキを減じることができる。従って、本実施形態のゴルフクラブヘッド1は、生産性に優れるとともに、ヒール側錘部材18と有底孔部7bとのスイング時の衝突による音鳴りを防止できる。ヒール側錘部材18と有底孔部7bとは、例えば接着材またはろう付け等により、強固に固着されるのが好ましい。
【0036】
本実施形態のヒール側錘部材18の重心Ghは、シャフト差込孔7aの軸中心線CLの延長線上にある。このようなクラブヘッド1は、慣性モーメントIcの増加をさらに確実に抑制でき、打球の方向安定性がより一層向上する。このように、シャフト軸中心線CLとヒール側錘部材18の重心Ghとの最短の距離L1は、最も好ましい態様では、実質的に零(製造上の僅かな誤差は許容される)である。しかしながら、該距離L1は、1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下でも十分に上記作用を発揮できる。
【0037】
本実施形態では、ヒール側錘部材18が有底孔部7bに固着され、その後、シャフトSがシャフト差込孔7aに挿入されて固着される。本実施形態では、有底孔部7bは、シャフト差込孔7aよりも僅かに小径で形成されている。このため、シャフトSは、シャフト差込孔7aの下端7aeの段差部でその下方位置が規制されるとともに、該シャフトSの下端でヒール側錘部材18を抑えることが可能である。なお、シャフトSとヒール側錘部材18との間に、衝撃吸収用のブッシュなどを介在させることも好ましい。
【0038】
このようなヒール側錘部材18は、スイング中の遠心力が作用しても、ヘッド本体1Aから外れることがない。特に、本実施形態ヒール側錘部材18及び有底孔部17bは、ヘッド1のソール側に向かってテーパ状をなすコーン状で形成されるため、スイング時には、遠心力によりヒール側錘部材18が有底孔部17bにより食い込む方向の力を受け、ヘッド本体1Aからより外れにくくなる。また、ヒール側錘部材18は、ヘッド本体1A及びシャフトSによって覆われ、外部に露出しない。従って、プレーヤーに心理的な影響を与えることもない。
【0039】
なお、有底孔部7bは、例えば、円柱状や四角柱状でもよい。また、ヒール側錘部材18の外周面18aと有底孔部7bの内側面7bcとに互いに噛み合うネジ溝を形成し、両者をネジ対偶として結合することもできる。
【0040】
また、図3及び6に示されるように、本実施形態の錘部材1Bは、ヘッド本体のトウ側に配されるトウ側錘部材19を含む。本実施形態のヘッド1は、ソール部枠11bのトウ側に凹部13が設けられ、この凹部13にトウ側錘部材19が固着されている。
【0041】
前記凹部13は、完成されたクラブヘッド1の外面から凹むものであれば、その形状は何ら限定されるものではない。本実施形態の凹部13は、フェース2と実質的に平行な底面13eと、該底面13eに連なりかつ底面13eから実質的に直交してヘッド後方にのびる下向き面13iとからなる入隅状をなし、ソール面4及びバックフェース面で開口している。さらに、本実施形態の凹部13は、スイートスポットSSよりもトウ側かつヘッド底部側に設けられる。なお、前記スイートスポットSSは、図4に示されるように、ヘッド重心Gからフェース2に立てた法線Nとフェース2との交点とする。
【0042】
前記トウ側錘部材19は、凹部13の下向き面13iに固着される上面19aと、凹部13の底面13eに固着される前面19bと、ソール面4に露出する底面19cと、バックフェース面に露出する後面19dとを有する。本実施形態では、トウ側錘部材19と前記凹部13とは、例えば溶接により強固に固着される。このようなトウ側錘部材19は、スイートスポットSSよりもトウ側かつソール面側に設けられるため、ヘッド1を低重心化するとともに、前記ヒール側錘部材18と協同して慣性モーメントIgを大きくするのに役立つ。
【0043】
前記ヒール側錘部材18及びトウ側錘部材19の各比重ρ4は、特に限定されるものではないが、小さすぎるとトウ側及びヒール側に大きな質量を配分できないおそれがあり、逆に大きすぎると、製造コストが増加するおそれがある。このような観点により、前記比重ρ4は、好ましくは8以上、より好ましくは9以上が望ましく、また好ましくは19以下、より好ましくは18以下が望ましい。
【0044】
ヒール側錘部材18及びトウ側錘部材19の比重は、同一でも良いし異なっても良い。本実施形態では、形成位置の関係上、ヒール側錘部材18の体積が、トウ側錘部材19の体積に比して小さく形成される。両者の質量を近づけて慣性モーメントIgを大きくするためには、前記比重の範囲内において、ヒール側錘部材18の比重ρ4hが、トウ側錘部材19の比重ρ4tよりも大きいことが好ましい。このようなクラブヘッド1は、ヒール側及びトウ側の質量バランスがよく、前記慣性モーメントIgをより大きくできる。
【0045】
また、上記作用効果を有効に発揮させるために、ヒール側錘部材18の質量は、好ましくは7g以上、より好ましくは11g以上が望ましく、また好ましくは15g以下、より好ましくは13g以下が望ましい。同様に、トウ側錘部材19の質量は、好ましくは30g以上、より好ましくは40g以上が望ましく、また好ましくは70g以下、より好ましくは60g以下が望ましい。
【0046】
このような錘部材18、19としては、例えば、ステンレス、タングステン、タングステン合金、銅合金、ニッケル合金などの1種又は2種以上の金属材料が好適である。本実施形態の錘部材には、タングステン、ステンレス鋼及びニッケルを含むタングステン合金が採用される。
【0047】
本実施形態のクラブヘッド1の前記慣性モーメントIgは、過度に大きくなるとヘッド1の質量も大きくなり、スイングバランスが悪化する傾向があり、逆に過度に小さくなると、ミスショット時にフェースの向きが変わり易く、打球の方向安定性が悪化する傾向がある。このような観点より、前記慣性モーメントIgは、好ましくは2700g・cm2以上、より好ましくは2900g・cm2以上が望ましく、また好ましくは4000g・cm2以下、より好ましくは3500g・cm2以下が望ましい。
【0048】
同様に、前記慣性モーメントIcは、大きくなるとスイング時にアドレスの状態までフェースが戻りきらずスライスが生じ易い傾向があり、逆に小さくなると、ヘッドの返りが過度に向上し、アドレスの状態を超えてフェースが戻るためフックが生じ易い傾向がある。このような観点より、前記慣性モーメントIcは、好ましくは5800g・cm2以上、より好ましくは6100g・cm2以上が望ましく、また好ましくは6800g・cm2以下、より好ましくは6500g・cm以下が望ましい。
【0049】
また、図7に示されるように、本実施形態のヘッド1は、フェース受け枠部9に、前記開口部Oから該フェース受け枠部9の内部をヒール側にのびることにより前後上下が閉じられたヒール側の空洞部12が形成される。
【0050】
前記空洞部12は、ソール側の下面12a、トップ側の上面12b、ヒール側の底面12c、フェース側の前面12d及びバックフェース側の背面12eを有する横長の四角柱状の空間として形成されている。この空洞部12は、前記底面12cでフェース受け枠部9の内部で終端する。このようなフェース受け枠部9は、ヘッド本体を軽量化し、重量配分設計に必要な大きな重量マージンを捻出することができる。なお、空洞部12の形状は、円柱状や円錐状でヒール側にのびるものでも良く、種々の態様に変形しうるのは言うまでもない。
【0051】
前記空洞部12の体積V1は、好ましくは0.2cm3以上、より好ましくは0.4cm3以上が望ましい。これにより、ヘッド本体1Aのヒール側に十分な空間を形成し、大きな重量マージンを確保することができる。また、空洞部12の体積V1は、好ましくは1.0cm3以下、より好ましくは0.6cm3以下が望ましい。前記体積V1が、大きくなると、ヘッド本体1Aのヒール側の強度が低下し、耐久性が悪化するおそれがある。
【0052】
図1の実施形態では、空洞部12に、フェース受け枠部9よりも比重の大きい金属材料からなる中間錘部材20が配される。本実施形態の中間錘部材20は、空洞部12の下面12a、上面12b、底面12c、前面12d及び背面12eに面する外周面を有した四角柱状で形成されている。このようなヘッド1は、ヒール側にさらに重量物を配することができるため、慣性モーメントIcの増加を抑制しつつ、慣性モーメントIgをさらに大きくすることができる。また、空洞部12は、前後上下を閉じられているため、ヘッド本体の強度低下を防止しうる他、打球時でも、中間錘部材20が前後、上下に位置ズレするのを防止し、耐久性を向上できる。
【0053】
図2に示されるように、中間錘部材20の重心Gcとシャフト差込孔7aの軸中心線CLとの最短距離L2は、好ましくは10mm以上、より好ましくは12mm以上が望ましい。前記距離L2が過度に小さくなると、有底孔部7bと空洞部12とを仕切る壁部の肉厚が小さくなり、耐久性が悪化する傾向がある。逆に、前記距離L2が大きくなると、慣性モーメントIcが過度に大きくなり、打球の方向安定性が悪化するおそれがあるので、前記距離L2は、好ましくは15mm以下、より好ましくは14mm以下が望ましい。
【0054】
また、中間錘部材20は、前記錘部材1Bと同様の金属材料からなるものが好ましい。即ち、中間錘部材20の比重ρ5は、好ましくは9以上、より好ましくは15以上が望ましく、また好ましくは25以下、より好ましくは20以下が望ましい。また、中間錘部材20の質量は、好ましくは2g以上、より好ましくは4g以上が望ましく、また好ましくは15g以下、より好ましくは10g以下が望ましい。
【0055】
さらに、図1に示されるように、本実施形態のヘッド1は、空洞部12に、ボール打撃時の振動を吸収する弾性体21が配される。本実施形態の弾性体21は、空洞部12の内部かつ中間錘部材20のトウ側を覆うように配置される。このようなクラブヘッド1は、ボールを打撃することで生じるフェース板8の振動を弾性体21が素早く吸収するため、打球感が向上する。
【0056】
また、本実施形態の弾性体21は、空洞部12の下面12aと接触する下方面21aと、前記上面12bと接触する上方面21bと、前記前面12dと接触する前方面21dと、前記背面12eと接触する背方面21eとを含むことにより、その四周が空洞部12と連続して接触している。このような弾性体21は、フェース板8からの振動を確実に減衰できる。また、弾性体21のヒール側の底方面21cは、前記中間錘部材20を介してフェース受け枠部9に接触するため、さらに振動が減衰される。なお、弾性体21は、フェース受け枠部9に例えば接着材等を介して固着される。
【0057】
前記弾性体21は、例えばゴム、樹脂又はエラストマー等が好適であり、とりわけ、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー等のソフトセグメントとハードセグメントとからなる熱可塑性エラストマー又はナイロン等の熱可塑性エラストマー等が望ましい。
【0058】
また弾性体21の硬度は、特に限定されないが、大きすぎると、十分な衝撃吸収能力を発揮できない傾向があり、逆に小さすぎても耐久性が悪化する傾向がある。このような観点より前記弾性体21の硬度(JIS−D硬度)は、好ましくは40゜以上、より好ましくは50゜以上が望ましく、また、好ましくは90゜以下、より好ましくは80゜以下が望ましい。
【0059】
図8(a)乃至(c)には、本発明の他の実施形態が示される。図8(a)の実施形態では、空洞部12は、空間のままであり、その内部に何も設けられていない。このようなヘッド1は、軽量化を図るとともに、ヒール側の質量が削減されるため、慣性モーメントIcを大きくして、スイング時にフェースをアドレスした状態から過度に戻る状態を抑制し、ミスショットを抑制する。また、空洞部12の形成によって得られた重量マージンを他の部分に配分してヘッド質量を増大することなく、ヘッド重心の位置を調節することができる。
【0060】
また、図8(b)の実施形態では、前記空洞部12は、中間錘部材20のみが配されており、図8(c)の実施形態では、空洞部12に、弾性体21のみが配されている。このように、空洞部12は、種々の態様で利用され得る。
【0061】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定させることなく、必要に応じて種々の態様に変更しうる。
【実施例】
【0062】
本発明の効果を確認するために、図1〜4の基本構成を有しかつ表1の仕様に基づいたアイアン型ゴルフクラブヘッドが試作され、実打テストが行なわれた。各ヘッドは、SUS630(比重:7.78)をロストワックス精密鋳造法により成形された鋳造品からなる筒状部付のフェース受け枠部と、Ti−6Al−4Vのプレス成形品のフェース板(比重:4.5)とを接着剤及びかしめにより固着し成形した。また、空洞部、ヒール側錘部材及び中間錘部材の位置及び質量を変化させても、ヘッド本体の重心位置を変えないようにヘッド本体を製造した。さらに有底孔部の配設位置を各ヘッド同じ位置に設け、ヒール側錘部材の底部の配設位置も各ヘッド同じ位置とした。また、空洞部の配設位置は、距離L2により、各ヘッド適宜位置替えしている。表1に示すパラメータ以外はすべて同一であり、主な共通仕様は次の通りである。
【0063】
ヘッド重量:248g(5番アイアン)
ライ角:61°
ロフト角:24°
ヘッド本体の比重ρ1:7.78
フェース板の厚さt:3.3mm
ヒール側錘部材:タングステン−ニッケル合金(比重:18)
トウ側錘部材:タングステン−ニッケル合金(比重:9.8)
トウ側錘部材の質量:49g
中間錘部材:タングステン−ニッケル合金(比重:9.8又は18)
フェース板とフェース受け枠部との接合:圧入
ヒール錘部材とフェース受け枠部との接合:接着
トウ側錘部材とフェース受け枠部との接合:Tig溶接
中間錘部材とフェース受け枠部との接合:接着
弾性体:熱硬化性ポリウレタン(JIS−D硬度:60度)
比較例1の錘部材:50g
【0064】
実打テストは、各供試ヘッドに、同一のFRPシャフト(SRIスポーツ(株)製のMP−500、フレックスR)を装着して38インチのアイアンクラブが試作され、各テストクラブを用いてハンディキャップ5〜15のゴルファー5名で、SRIスポーツ製の市販3ピースゴルフボール「XXIO」(同社の登録商標)を打球することにより行なわれた。結果は、各ゴルファーが各テストクラブで5球ずつ打撃し、方向性、上がり易さ及び打球感が5点法で評価され、その平均値が計算された。数値が大きいほど良好である。
【0065】
なお、表1の「慣性モーメントIg」とは、前述の基準状態におけるヘッド重心Gを通る垂直軸周りの慣性モーメントである。また、表1の「慣性モーメントIc」とは、前記基準状態におけるシャフト差込孔の軸中心線CL周りの慣性モーメントである。
テストの結果等を表1に示す。
【0066】
【表1】


【0067】
テストの結果、実施例のアイアン型ゴルフクラブヘッドは、比較例に比べて方向性および上がり易さ等が有意に向上していることが確認できる。
【符号の説明】
【0068】
1 アイアン型ゴルフクラブヘッド
1A ヘッド本体
1B 錘部材
2 フェース
7 筒状部
7a シャフト差込孔
7b 有底孔部
18 ヒール側錘部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールを打撃するフェースと、このフェースのヒール側に連設されかつシャフト差込孔を有する筒状部とを有するヘッド本体、及び
該ヘッド本体よりも比重が大きい金属材料からなる錘部材とを含むアイアン型ゴルフクラブヘッドであって、
前記筒状部は、前記シャフト差込孔の下方に錘部材配置用の有底孔部が設けられ、
前記錘部材は、前記有底孔部に配されたヒール側錘部材を含むことを特徴とするアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記ヒール側錘部材は、下方に向かってテーパ状をなす請求項1記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記ヘッド本体は、前記フェースの主要部を構成するフェース板と、前後に貫通する開口部を有しかつ該開口部の回りに前記フェース板の周縁部のみを支持するフェース受け枠部とを含み、
前記フェース受け枠部には、前記開口部から該フェース受け枠部の内部をヒール側にのびることにより前後上下が閉じられたヒール側の空洞部を有する請求項1又は2記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記空洞部は、空間のままである請求項3記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記空洞部には、前記フェース受け枠部よりも大きい比重の金属材料からなる中間錘部材が配される請求項3記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記空洞部には、ボール打撃時の振動を吸収する弾性体が配される請求項3又は5記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記錘部材は、前記ヘッド本体のトウ側に配されるトウ側錘部材を含む請求項1乃至6のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−105821(P2012−105821A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257087(P2010−257087)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】