説明

アイオノマー樹脂組成物

【課題】アイオノマー樹脂に特定の熱可塑性ポリアミドエラストマーを配合することにより、透明性および機械的性質(硬度、曲げ剛性、破断点抗張力、破断点伸びなど)に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アイオノマー樹脂(A)100重量部と、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体および/またはポリエステルアミドブロック共重合体からなる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)1〜20重量部とを含有し、かつ、該熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)の少なくとも一部が、末端にアミノ基及び/または水酸基の反応残基を有
するブロック共重合体であるアイオノマー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、シートなどの成形体に好適な透明性および機械的強度に優れたアイオノマー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アイオノマー樹脂は、エチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−アクリル酸共重合体の分子間を、ナトリウムや亜鉛などの金属のイオンで分子間結合した特殊な構造を有する樹脂であり、ヒートシール性、透明性、強靭性、耐摩耗性、耐低温性などに優れた樹脂である。
【0003】
このアイオノマー樹脂の性能を改良するために、従来からオレフィン系熱可塑性エラストマーなどを配合した種々の樹脂組成物が開発され、耐傷付き性、柔軟性、耐熱変形性などの諸性質を備えた樹脂組成物として自動車部品、ゴルフボール、靴底、シートなどの用途に好適に用いられている。しかしながら、アイオノマー樹脂の用途分野によってはアイオノマー樹脂の優れた特徴である高い透明性を維持しながら機械的性質(硬度、曲げ剛性、破断点抗張力、破断点伸びなど)をさらに改良した樹脂組成物を開発することが望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであって、透明性および機械的性質(硬度、曲げ剛性、破断点抗張力、破断点伸びなど)共に優れた樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記問題を解決するために研究した結果、アイオノマー樹脂に特定の熱可塑性ポリアミドエラストマーを配合することによって、アイオノマー樹脂の優れた加工性および透明性などの特徴を損なうことなく、前述した機械的性質に優れた樹脂組成物が得られることを見出し本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の事項を含む。
〔1〕アイオノマー樹脂(A)100重量部と(b1)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポリアミドオリゴマーとエーテルエステル成分と
の共重合により得られるポリエーテルエステルアミドブロック共重合体及び/または、(b2)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポリアミ
ドオリゴマーとポリエステル成分との共重合により得られるポリエステルアミドブロック共重合体からなる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)1〜20重量部とを含有してなるアイオノマー樹脂組成物。
〔2〕前記アイオノマー樹脂(A)が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーである〔1〕に記載のアイオノマー樹脂組成物。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のアイオノマー樹脂組成物から形成される成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、優れた透明性を有し、かつ機械的性質(硬度、曲げ剛性、破断点抗張力、破断点伸び)にも優れており、自動車部品、シートなどの成形体に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[アイオノマー樹脂(A)]
本発明で用いられるアイオノマー樹脂(A)はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体
をベースポリマーとし、これを金属(イオン)で中和したものである。発明で用いられるアイオノマー樹脂(A)のベースポリマーとしては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が好ましく用いられる。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、透明性と機械物性のバランスの点から、不飽和カルボン酸含量が1〜30重量%、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%の共重合体を用いるのが好ましい。このような共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸の二元共重合体のみならず、任意に他の単量体が共重合された三元共重合体であってもよい。しかしながら、他の単量体を多く含むものは一般に柔軟で融点が低く、組成物の耐傷付き性や耐熱変形性を損なうことがあるので、三元共重合体を使用する場合には、たとえば、他の単量体含量が30重量%以下、特に20重量%以下のものを使用するのが望ましい。このようなベースポリマーとなる共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸を高温、高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。
【0009】
上記共重合体における不飽和カルボン酸としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などが挙げられるが、アクリル酸またはメタクリル酸が特に好ましい。
【0010】
また上記他の単量体としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などが挙げられる。これら単量体の中では、不飽和カルボン酸エステル、特にアクリル酸またはメタクリル酸のエステルが好ましい。
【0011】
ベースポリマーの上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)が1〜1000g/10分、特に2〜800g/10分程度のものを使用するのが望ましい。
【0012】
本発明においてアイオノマー樹脂(A)としては、上記ベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の10%以上、好ましくは30〜90%より好ましくは50〜80%を金属イオンで中和したもの使用される。金属イオンとしては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価金属のイオン、マグネシウム、
カルシウムのようなアルカリ土類金属あるいは亜鉛などの2価金属のイオンなどが挙げられ、好ましくは2価金属イオン、特に好ましくは亜鉛イオンが挙げられる。これらのアイオノマー樹脂はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と上記金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩などとを反応させることによって得ることができる。
【0013】
アイオノマー樹脂としてはまた、加工性、機械的強度などを考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)が、0.01〜500g/10分、とくに0.1〜300g/10分程度のものを使用するのが好ましい。
[熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)]
本発明で用いられる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)は(b1)末端基の一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポリアミドオリゴマーとエーテルエステル
成分との共重合により得られるポリエーテルエステルアミドブロック共重合体及び/または、(b2)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポ
リアミドオリゴマーとポリエステル成分との共重合により得られるポリエステルアミドブロック共重合体からなる熱可塑性ポリアミドエラストマーである。本発明では上記の熱可塑性ポリアミドエラストマーを用いることにより、透明性および機械的性質の高いアイオノマー樹脂組成物が得られる。
【0014】
また、本発明で用いられる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)は、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体および/またはポリエステルアミドブロック共重合体からなり、該ブロック共重合体の少なくとも一部(一部または全部)の末端にアミノ基及び/または水酸基を有することを特徴とする。
【0015】
以下、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体およびポリエステルアミドブロック共重合体についてそれぞれ述べる。
ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体
ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体は、ポリアミドオリゴマーとエーテルエステル成分との共重合により得られる。
【0016】
<ポリアミドオリゴマー>
ポリアミドオリゴマーとしては、その末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または
水酸基を有するように反応停止されたものが用いられる。
【0017】
前記ポリアミドオリゴマーは、(1)炭素数6以上のアミノカルボン酸、(2)炭素数6以上のラクタム、(3)炭素数2〜12のジアミン、(4)炭素数6〜22の脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル誘導体および(5)炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を93%以上含有する高純度重合脂肪酸およびこれらのエステル誘導体の中から選ばれる少なくとも1種のポリアミド形成モノマーを用いたポリアミド化反応により得られる。
【0018】
ポリアミド形成モノマーについて以下に例を挙げる。
(1)炭素数6以上のアミノカルボン酸類としては、たとえば、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などが挙げられる。
(2)炭素数6以上のラクタム類としては、たとえば、ω−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。(3)炭素数2〜12のジアミン類としては、たとえば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの脂環族および芳香族ジアミンが挙げられる。
(4)炭素数6〜22の脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル誘導体としては、たとえば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、ジグリコール酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、キシレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸およびこれらのエステル誘導体などが挙げられる。
(5)炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を主成分とする重合脂肪酸およびその誘導体としては、主に炭素数10〜24の二重結合または三重結合を一個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸を重合して得た重合脂肪酸が挙げられる。具体的には、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸などの天然の獣植物油脂肪酸およびこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、エルカ酸などから重合した重合脂肪酸およびこれらのエステ
ル誘導体が挙げられる。
【0019】
市販されている重合脂肪酸は、通常ダイマー酸(二量体化脂肪酸)を主成分とし、他に原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸を含有するが、ダイマー酸(二量体化脂肪酸)含有量が70%以上のもの、好ましくはダイマー酸含有量が93%以上であり、かつ水素添加して不飽和度を下げたものが好ましい。特に、プリポール1009,プリポール1010(以上、ユニケマ社製)やエンポール1010(ヘンケル社製)などの市販品が好ましい。むろんこれらの混合物およびエステル誘導体を用いてもよい。
【0020】
<エーテルエステル成分>
エーテルエステル成分は、i)炭素数6〜12の脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸、ii)炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を93%以上含有する
高純度重合脂肪酸、およびiii)これらのエステル誘導体の中から選ばれる少なくとも1
種類又は2種類以上のものと、iv)数平均分子量が800〜3,000の範囲にある、
(I)ポリオキシアルキレングリコール、(II)芳香環含有ポリエーテルジオール、お
よび(III)前記(I)および/または(II)成分とα,ω−ジヒドロキシ炭化水素との
混合物の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上のものとのエステル化反応により得られる。
【0021】
エーテルエステル成分について以下に例を挙げる。
エーテルエステル成分は、ポリオキシアルキレングリコールおよび/または芳香環含有ポリエーテルジオール、またはそれとα,ω−ジヒドロキシ炭化水素との混合物と、定義
されているジカルボン酸および/またはそれらのエステル誘導体とのエステル化反応により得られるもので、具体的な原料としては次の化合物が挙げられる。
(I)のポリオキシアルキレングリコールおよび(II)の芳香環含有ポリエーテルジオ
ールとしては、たとえば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロックまたはランダム共重合体、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランとのブロックまたはランダム共重合体、および2価フェノール化合物と上記ポリオキシアルキレングリコールとの共重合体または2価フェノールと炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、たとえば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−もしくは1,4−ブチレンオキサイドおよびこれらの2種類以上の混合物との付加物などが挙げられる。
(III)のポリオキシアルキレングリコールおよび/または芳香環含有ポリエーテルジオ
ールと併用するα,ω−ジヒドロキシ炭化水素としては、たとえば、オレフィンやブタジエンを重合して末端を水酸基化し、かつその二重結合を水素添加して得られるポリオレフィングリコールや水素添加ポリブタジエングリコールなどが挙げられる。
【0022】
これらポリオキシアルキレングリコールおよび/または芳香環含有ポリエーテルジオールおよびα,ω−ジヒドロキシ炭化水素の数平均分子量は800〜3000の範囲内にあることが好ましい。より具体的には、数平均分子量1000〜2000の範囲にあるものがより好ましく用いられる。数平均分子量が800以下であると耐溶剤クラック性に劣り、数平均分子量が3000以上では、ポリアミドオリゴマーとの相溶性が悪く、良好なブロック共重合体が得られない。
【0023】
上記i)〜iii)としては、炭素数6〜12の脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン
酸、炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を93%以上含有する高純度重合脂肪酸およびこれらのエステル誘導体が好ましく、具体的には、前述のポリアミド形成モノマーの原料として例示した化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物が好適に用いられる。特に、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、重合脂肪酸、テレフタル酸、イソフタル酸が重合性および熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂組成物の物性および
耐薬品性、特に耐水性(耐加水分解性)、耐溶剤クラック性の点から好ましく用いられる。
【0024】
ポリエステルアミドブロック共重合体
ポリエステルアミドブロック共重合体は、ポリアミドオリゴマーとポリエステル成分との共重合により得られる。
【0025】
また、ポリアミドオリゴマーは、前述したポリエーテルエステルアミドブロック共重合体についてのポリアミドオリゴマーのところで例示した化合物が好適に用いられる。
<ポリエステル成分>
ポリエステル成分は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する化合物であっ
て、数平均分子量が800〜3,000であるものをいう。
【0026】
【化1】

【0027】
(式(1)中、R1は、炭素数2〜54の置換または非置換の脂肪族または脂環族ジオー
ルの1種または2種以上の混合物から選ばれるジオールの残基を表す。R2は、炭素数6
〜22の脂肪族または芳香族ジカルボン酸の1種または2種以上の混合物から選ばれるジカルボン酸残基および/または炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を93%以上含有する高純度重合脂肪酸およびこの誘導体の1種または2種以上の混合物から選ばれる重合脂肪酸の残基を表す。)
ポリエステル成分は、ジオール化合物とジカルボン酸およびこのエステル誘導体とのエステル化反応により得られる。
【0028】
ジオール化合物としては、炭素数2〜54の置換または非置換の脂肪族または脂環族ジオール化合物が好ましく、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどの脂肪族多価アルコール、シクロペンタジエン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどの脂環族多価アルコール、ダイマー酸(二量体化脂肪酸)を還元したダイマージオールなどが挙げられ、1種または2種以上の混合物であってもよい。特に、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ダイマージオールなどから選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましく用いられる。特に好ましく用いられる重合脂肪酸の誘導体であるダイマージオールとしては、Pripol2033(ユニケマ社製),SpeziolC36/2(コグニス社製)、ベスポールHP−1000(東亜合成製)などの市販品が挙げられる。
【0029】
ジカルボン酸およびエステル誘導体としては、炭素数6〜22の脂肪族または芳香族ジカルボン酸および/またはこれらのエステル誘導体、炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を主成分とする重合脂肪酸および/またはその誘導体が好ましく、具体的には、ポリアミドオリゴマーについてのポリアミド形成モノマーのところで、原料のジカルボン酸およびエステル誘導体として例示した化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物が好適に用いられる。
【0030】
ポリエステル成分としては、炭素数2〜12の置換または非置換の脂肪族ジオールおよび/または脂環式ジオールと、炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を主成分とする重合脂肪酸および/またはそのエステル誘導体とからつくられるポリエステル成分、または、炭素数6〜22の脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル誘導体と、炭素数20〜48のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を主成分とする重合脂肪酸から誘導されるダイマージオールとからつくられるポリエステル成分が特に好ましい。
【0031】
本発明で用いられるポリエステル成分の繰り返し単位の数平均分子量は、800〜3000の範囲内にあることが好ましく、1000〜2000の範囲にあることがより好ましい。数平均分子量が800以下であると、耐溶剤クラック性に劣り、逆に、数平均分子量が3000以上では、ポリアミド形成モノマーとの相溶性が悪く、良好なブロック共重合体が得られない。
【0032】
製造方法
熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)の製造方法としては、均一で高分子量の重合体が得られる方法であればどのような方法を用いてもよい。たとえば、まず上記ポリアミド形成モノマーのアミド化反応より得られる末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/
または水酸基で反応停止されたポリアミドオリゴマーを合成し、これにエーテルエステルおよび/またはポリエステル形成成分を配合し、減圧下、200〜300℃の反応条件で加熱し、エステル化触媒を用いてエステル化反応を進行させ、高重合度化させる方法により製造できる。
【0033】
ここで用いられるエステル化触媒としては、既知の触媒である、たとえばリン酸、メタリン酸、ポリリン酸などのリン酸系触媒、テトラブチルオルソチタネート、テトライソプロピルオルソチタネートなどのチタン系触媒、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズラウレート、モノブチルヒドロキシスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブトキシジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウムなどのジルコニウム系触媒などが用いられる。
【0034】
また、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)としては、市販品を用いてもよく、具体的には富士化成工業社製のTPAE−237CP−5A(ポリエーテルエステルアミド、アミノ基末端タイプ)、TPAE−617(ポリエステルアミド、水酸基末端タイプ)およびTPAE−617C(ポリエステルアミド、アミノ基末端タイプ)などを用いることができる。
【0035】
[その他の成分]
本発明のアイオノマー樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内において各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ワックス、耐候安定剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などが挙げられる。
【0036】
特に長期の屋外使用に耐えるためには、酸化防止剤、光安定剤および紫外線吸収剤の中から選ばれる少なくとも1種を配合することが望ましい。酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどで代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤、光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケートなどで代表されるヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどで代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤や2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどで代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好適に用いられる。これらの効果的な添加量は、アイオノマー樹脂(A)および熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)の合計100重量部に対し、それぞれ5重量部以下、特に0.1〜3重量部の範囲が好ましい。
【0037】
[アイオノマー樹脂組成物]
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂(A)と、熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)とを含有する。アイオノマー樹脂(A)と熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)との配合割合は、アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜18重量部、より好ましくは5〜15重量部の量である。これにより樹脂組成物の透明性を維持しながら、機械的性質が向上させることができるが、この配合割合が前記範囲を超えると、機械的性質が損なわれるので好ましくない。
また本発明のアイオノマー樹脂組成物のメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)は、使用するアイオノマー樹脂の種類や配合割合によっても異なるが、通常は0.01〜500g/10分、とくに0.1〜300g/10分程度の範囲にあることが好ましい。
【0038】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は上記アイオノマー樹脂(A)と熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)及び必要により他の添加剤を同時あるいは逐次的にメルトブレンドすることにより得られる。メルトブレンドする場合は1軸、あるいは2軸押出機、バンバリ
ーミキサー、ロール、ニーダーなどの混練装置を用い、220〜250℃程度の温度で溶融混練すればよい。
【0039】
[成形体およびその製造方法]
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、公知公用の成形法に適用できる好適な材料であり、得られる成形体は、特に制限はないが、たとえば自動車部品、シートなどの成形体が挙げられる。なかでも、透明性および機械的強度を要する透明意匠性部材、光学部材が特に好適な用途として挙げられる。
【0040】
本発明のアイオノマー樹脂組成物から形成される成形体の成形方法としては、射出成形法、ブロー成形法(射出延伸ブロー、押出し延伸ブロー、ダイレクトブロー)、バルーン法、インフレーション成形、共押出法、カレンダー法、ホットプレス法、溶媒キャスティング法、(延伸)押出し成形,異形押出し成形、真空(圧空)成形などの熱成形、溶融紡糸(モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンボンド法、メルトブローン法など)、解繊糸法、押出し発泡や型発泡などの発泡成形法、圧縮成形法などが挙げられ、いずれの方法も用いることができる。なかでも、射出成形などが好ましく用いられる。
【0041】
本発明のアイオノマー樹脂組成物から形成されるシートの厚みは、用途によって種々変更できるが、一般的にいうと、1〜500μm、好ましくは50〜200μmの範囲にあることが望ましい。また、前記シートは、従来公知のシートや通常用いられる種々の基材と、接着剤または接着性樹脂を用いて貼合せ、あるいは共押出により、積層体として使用することができる。
【0042】
〔実施例〕
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における物性評価方法は以下の通りである。
(1)メルトフローレート(MFR):JIS K−7210に準拠
荷重×温度:2,160g×190℃
(2)光学特性(0.5mm厚)
全光線透過率:JIS K−7105に準拠
ヘイズ:JIS K−7105に準拠
(3)硬度(ショアD):JIS K−7215に準拠
(4)曲げ剛性率(MPa):JIS K−7106に準拠
試験片:20×100×3(mm)
(5)引張特性:
JIS K6760に準拠して測定した。
【0043】
試験片:JIS K6301 2号ダンベル 2mm厚
本発明で用いられる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)は、(b1)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポリアミドオリゴマーとエー
テルエステル成分との共重合により得られるポリエーテルエステルアミドブロック共重合体または、(b2)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止さ
れたポリアミドオリゴマーとポリエステル成分との共重合により得られるポリエステルアミドブロック共重合体からなる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)であるが本実施例では、このうち、末端にアミノ基または水酸基を有するポリエーテルエステルアミドブロック共重合体またはポリエステルアミドブロック共重合体を用いた。
【0044】
[実施例1]
エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量15重量%;MFR 60g/10分)の亜鉛アイオノマー(中和度59%;MFR 0.9g/10分)を90質量%と、ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)を10質量%とを1軸押出機で220℃で溶融混合して、樹脂組成物を調製した。なお、ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)としては、商品名:TPAE−237CP−5A(富士化成工業社製;溶融粘度140Pa・S(250℃);融解温度=157/177℃;曲げ弾性率=92MPa;酸価=1.8;アミン価=4.2;表面固有抵抗値=1.37×109(Ω);飽和吸水率=42%)を用いた。
ここで、酸価とは、末端カルボキシル基濃度をさし、試料1gをベンジルアルコール50gに溶解し、フェノールフタレイン指示薬を用い、1/10NのKOHメタノール溶液で滴定したときのKOHのmg数を表した。アミン価とは、末端アミノ基濃度をさし、試料1gをフェノール/メタノール混合溶液50gに溶解し、ブロムフェノールブルー指示薬を用い、1/10Nの塩酸メタノール溶液で滴定したときの塩酸のmg数を表した。水酸基価とは、末端水酸基濃度をさし、試料1〜6gをアセチル化試薬(ピリジン25gに無
水酢酸を1%溶解させたもの)に加熱溶解させた後、1/2NのKOHイソプロパノール
溶液で滴定したときのKOHのmg数を表した。
【0045】
[実施例2]
ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)をポリエステルアミドブロック共重合体(水酸基末端タイプ)に替えた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。なお、本実施例2におけるポリエステルアミドブロック共重合体(水酸基末端タイプ)としては、商品名:TPAE−617(富士化成工業社製;溶融粘度43.7Pa・S(230℃);MFR(190℃×21.18N)=17g/10分;融解温度=ピークなし;曲げ弾性率=870MPa;酸価=0.4;水酸基価=16)を用いた。
【0046】
[実施例3]
ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)をポリエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)に替えた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。なお、ポリエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)としては、商品名:TPAE−617C(富士化成工業社製;MFR(190℃×21.18N)=17.9g/10分;曲げ弾性率=700MPa;酸価=0.6;アミン価=8.2;融解温度=ピークなし)を用いた。
【0047】
[比較例1]
エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量15重量%;MFR 60g/10分)の亜鉛アイオノマー(中和度59%;MFR 0.9g/10分)のみを用いて物性値の測定を行った。
【0048】
[比較例2]
ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)をダイマー酸と
短鎖二塩基酸との共重合タイプのポリアミド(末端にアミノ基や水酸基のないタイプ)に替えた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。なお、ポリアミドとしては、PA−30(富士化成工業社製;MFR(230℃×21.18N)=11g/10分;曲げ弾性率=950MPa;酸価=0.9;融解温度=200℃)を用いた。
【0049】
[比較例3]
ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)をポリエステルアミドブロック共重合体(末端にアミノ基や水酸基のないタイプ)に替えた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。なお、ポリエステルアミドブロック共重合体しては、TPAE−63(富士化成工業社製;MFR(190℃×21.18N)=5.4g/10分;融解温度=172℃;曲げ弾性率=250MPa;酸価=1.0)を用いた。
【0050】
[比較例4]
ポリエ−テルエステルアミドブロック共重合体(アミノ基末端タイプ)をポリエーテルエステルアミドブロック共重合体(末端にアミノ基や水酸基のないタイプ)に替えた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。なお、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体としては、TPAE−H151(富士化成工業社製;MFR(190℃×21.18N)=13.1g/10分;融解温度=152/173℃;曲げ弾性率=73MPa;酸価=0.6;表面固有抵抗値(Ω)=5.32×107;飽和吸水率=65%
)を用いた。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、透明性および機械的強度に優れ、自動車部品、シートなどの成形体を好適に形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマー樹脂(A)100重量部と、
(b1)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポリアミドオリゴマーとエーテルエステル成分との共重合により得られるポリエーテルエステルアミドブロック共重合体及び/または、(b2)末端基の少なくとも一部がアミノ基及び/または水酸基で反応停止されたポリアミドオリゴマーとポリエステル成分との共重合に
より得られるポリエステルアミドブロック共重合体からなる熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)1〜20重量部とを含有してなるアイオノマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記アイオノマー樹脂(A)が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーである請求項1に記載のアイオノマー樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアイオノマー樹脂組成物から形成される成形体。

【公開番号】特開2009−132767(P2009−132767A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308531(P2007−308531)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】