説明

アキュムレータのチャージ方法

【課題】 ダイカストマシンの射出シリンダを動作するアキュムレータの蓄圧方法であり、油圧ポンプを駆動する回転数可変型モータの特性、能力を効率的に利用し、畜圧に要する時間を短くする。
【解決手段】 回転数可変型モータにより油圧ポンプを駆動し、高圧の作動油を吐出してアキュムレータを畜圧する際、油圧ポンプからの吐出圧力が小さく回転数可変型モータの負荷トルクが小さい時は最大の回転速度で回転し、吐出圧力が大きくなるにともなって負荷トルクが大きくなると、回転数可変型モータの負荷特性に沿い回転速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製品を成形するダイカストマシンに設けられたアキュムレータを畜圧する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温で溶融状態のアルミニウム(溶湯)を、金型のキャビティ内に射出充填しアルミニウム製品を鋳造するダイカスト鋳造方法においては、キャビティに連通したスリーブ内に給湯機で溶湯を給湯し、射出シリンダと連結したプランジャで溶湯をキャビティ内に押し込み、冷却固化して製品を得る。射出充填する際、溶湯が低温のキャビティ表面に接して凝固を始める前に、キャビティ内に素早くフル充填することが、良品を得るために極めて重要であり、高速で短時間に射出充填を完了することが要求される。そのため、射出装置の射出シリンダを前進させる駆動源には、吐出量に限界がある油圧ポンプではなく、アキュムレータが用いられる。アキュムレータ内で高圧に圧縮されたガスに蓄えられるエネルギーを利用し、ガスの膨張力と膨張速度によって、高速の射出充填が実現できる。
【0003】
鋳造サイクル中に、アキュムレータに高圧のガスを畜圧(チャージ)するための一般的な油圧回路が、特許文献1に開示されている。この回路では、定回転のモータで油圧ポンプを常時回転駆動し、流量制御弁や圧力制御弁、方向切替弁を用いて各アクチュエータを動作する。そして、アキュムレータの作動油室にも高圧の作動油を送り込むことにより、高圧のガスをアキュムレータ内に畜圧することができる。
【0004】
近年、省エネ運転を図るため、回転数可変型のモータを用いて油圧ポンプを駆動し、回転数を自由に変化させることにより、必要な時に必要な流量のみの作動油を吐出して、アクチュエータに供給する油圧システムが、頻繁に採用されるようになった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−96594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、回転数可変型のモータは、高速回転でかつ大きなトルクを同時に発生することが困難であるという特性(負荷特性)を持つ。そのため、図2の斜線部分の領域内でしか動作させることができない。
【0007】
射出シリンダを駆動するアキュムレータの場合、高い圧力に畜圧する必要があるので、油圧ポンプを駆動するモータは、大きなトルクを発揮する必要がある。また、畜圧に要する時間が長くなると鋳造のサイクルタイムも長くなるので、モータを高速で回転させる必要がある。
しかし、上記したように回転数可変型のモータの特性のため、最大トルクが発揮できる領域まで回転数を下げるか、あるいは、容量(最大トルク)の大きなモータを採用する必要があった。
【0008】
本発明は、回転数可変型モータの特性を効率的に利用し、アキュムレータの畜圧に要する時間を、短くすることを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、本発明では、
回転数可変型モータにより油圧ポンプを駆動し、高圧の作動油を吐出してアキュムレータを畜圧する際、油圧ポンプからの吐出圧力が小さく回転数可変型モータの負荷トルクが小さい時は最大の回転速度で回転し、吐出圧力が大きくなるにともなって負荷トルクが大きくなると、回転数可変型モータの負荷特性に沿い回転速度を制御する。
また、負荷トルクは、回転数可変型モータの電流値より検知することも可能である。
【発明の効果】
【0010】
1.アキュムレータの畜圧時間さらには鋳造サイクルを短縮することにより、生産性の向上を実現できる。
2.回転数可変型モータの特性、能力を効率的に利用するため、小さな容量のモータを選定でき、コストダウンを図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面およびグラフに基づいて、本発明に係る実施例を説明する。
【実施例】
【0012】
ダイカストマシンの射出シリンダを作動する油圧回路の概略を図1に示す。油圧ポンプ1は、回転数可変型モータ2により回転駆動され、オイルタンク8の作動油を吸い込み、高い圧力で吐出することができる。吐出された作動油は、チェック弁3を介してアキュムレータ4に供給され、アキュムレータ4を畜圧することが可能となる。油圧ポンプ1から吐出された作動油は、チェック弁3の手前で分岐することにより、図示せぬ別回路のアクチュエータも作動することができる。アキュムレータ4は、ガス室4aと作動油室4bからなり、往復動作が可能なピストンによって隔てられている。ガス室4aは、ガスボトル5と配管接続され、大きい容量のガスを蓄えられるようになっている。また、作動油室4bは、前述したようにチェック弁3および油圧ポンプ1と回路接続されているが、途中で分岐し、流量制御弁6を介して射出シリンダ7のヘッド室にも接続されている。
【0013】
射出シリンダ7のロッド室はオイルタンク8と繋がっており、ピストンが前進(図1の左方向へ)した際に、ロッド室内の作動油をオイルタンク8に逃がす。
さらに、射出シリンダ7のロッドは、図示せぬプランジャと連結しており、アキュムレータ4から作動油が供給されると高速で前進し、スリーブ内に給湯された溶湯を金型内のキャビティに短時間で射出充填することができる。この時、流量制御弁6の開度を調整することにより、射出充填速度は適切に制御される。
【0014】
油圧ポンプ1から吐出される作動油の圧力をp、油圧ポンプ1の1回転当たりの吐出量をq(定数)、回転数可変型モータ2の負荷トルクをTとすると、
2π×T=p×q ・・・式(1)
という、関係式が成り立つ。よって、畜圧中にアキュムレータ4内の圧力が高くなると、油圧ポンプ1の吐出圧力も高くなり、それに比例して回転数可変型モータ2の負荷トルクも大きくなる。
【0015】
また、図1には示されていないが、射出シリンダ7のロッドの動作速度等を検知する位置センサ、回路内の圧力を検知する圧力センサなどが、適宜備え付けられている。さらに、図示せぬ制御装置が、回転数可変型モータ2や流量制御弁6等と電気的に繋がっており、制御信号や検知信号の授受を行なう。
【0016】
次に、上述した射出装置の油圧回路を用いて鋳造を行なうダイカストマシンにおける、一連の鋳造サイクルについて、説明する。
まず、型締装置により金型が閉じられ、型締力が負荷される。その後、スリーブ内に給湯装置により溶湯が給湯されると、直ちに流量制御弁6が開かれ、アキュムレータ4内の高圧の作動油が、射出シリンダ7のヘッド室に供給される。すると、射出シリンダ7のピストンおよびロッドの動作にともないプランジャが前進し、スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填される。射出充填時の速度および射出圧力は、制御装置が各センサの検知信号などに基き、流量制御弁6の開度を調整することによって制御される。
【0017】
射出充填の完了後、しばらくの間、保持圧力が負荷され、溶湯の凝固時の体積収縮分が補われる。
そして、キャビティ内の溶湯が完全に固化し取り外せる温度まで冷却されると、金型が開かれて、アルミニウム製品が取り出される。
【0018】
畜圧工程は、上述の冷却、金型開き、製品取り出し、および金型閉じ動作をしている間、それらと同時動作で行なわれる。
そのため、蓄圧時間が長くなり、同時動作時間を過ぎても蓄圧工程を行うことになると、鋳造のサイクルタイムはその分長くなってしまう。
また、この間に、射出シリンダ7のピストンおよびロッドは、図示せぬ油圧回路により後方(図1の右方向)へ移動され、射出充填の開始位置に戻る。
【0019】
畜圧工程における回転数可変型モータ2の制御方法を、図2を用いて説明する。
畜圧工程中、流量制御弁6は、閉じられた状態にある。射出充填工程において、アキュムレータ4の作動油は吐出されて圧力は下がっているので、畜圧工程開始時のトルク負荷は比較的小さく、およそ最高の回転数で開始できる(図2のa点)。
油圧ポンプ1から作動油が吐出され始めると、チェック弁3を介しアキュムレータ4の作動油室4bに作動油が供給され、ピストンが上側に動き出す。すると、ガス室4aの体積が小さくなりガスが圧縮されて、アキュムレータ4内の圧力は上がり、蓄圧される。
【0020】
油圧ポンプ1からの吐出圧力の上昇にともなって、回転数可変型モータ2の負荷トルクが上昇し、図2のb点まで達すると、最大負荷線に沿って回転数の制御を行なう。負荷トルクの上昇にともなって回転数を下げていく制御方法である。
そして、アキュムレータ4の圧力がオペレータにより設定された圧力まで上昇(図2のc点)すると、回転数可変型モータ2および油圧ポンプ1の回転を停止し、畜圧工程を完了する。
アキュムレータ4と油圧ポンプ1の間には、チェック弁3が設けられているので、回転数可変型モータ2を停止しても、作動油が逆流することはない。
【0021】
図3は、畜圧工程中におけるアキュムレータ4(ACC)の圧力、および回転数可変型モータ2の回転数の時間変化を表す。
畜圧工程の開始時(a点)における回転数可変型モータ2の回転数は、およそ最高である。その後、時間とともにアキュムレータ4の圧力(ACC圧力)は上昇していく。そして、圧力がb点まで達すると、モータの負荷特性に従いモータ回転数を徐々に落としていく。さらにACC圧力が上昇しチャージ圧力(設定圧力)まで達する(c点)と、畜圧工程は完了し、回転数可変型モータ2は停止される。
図2および図3の(a)、(b)、(c)の各点は、それぞれ対応している。
【0022】
回転数可変型モータ2の負荷トルクは、油圧ポンプ1の吐出圧力を圧力センサにより測定し、前述の式(1)を用いて換算することによって検知可能である。また、回転数可変型モータ2自体に流れる電流値を測定し、換算することによっても検知できる。
さらに、図2で示すような回転数可変型モータ2の負荷特性は、制御装置に記憶されており、制御装置はそれに基いて回転数を制御する。
【0023】
上記の実施の形態は本発明の例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係るダイカストマシンの射出装置の油圧回路を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係り、回転数可変型モータにおける最高回転数と最大負荷トルクならびに最大負荷線からなる負荷特性を示し、また畜圧工程中のモータ回転数及び負荷トルクの推移を表すグラフである。
【図3】本発明の実施例に係り、畜圧工程中におけるアキュムレータ(ACC)圧力とモータ回転数の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 油圧ポンプ
2 回転数可変型モータ
3 チェック弁
4 アキュムレータ(ピストン型)
4a ガス室
4b 作動油室
5 ガスボトル
6 流量制御弁
7 射出シリンダ
8 オイルタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数可変型モータにより油圧ポンプを駆動し、高圧の作動油を吐出してアキュムレータを畜圧する方法において、
前記油圧ポンプからの吐出圧力が小さく前記回転数可変型モータの負荷トルクが小さい時は最大の回転速度で回転し、吐出圧力が大きくなるにともない負荷トルクが大きくなると、前記回転数可変型モータの負荷特性に沿い回転速度を制御することを特徴とする、
ダイカストマシンにおけるアキュムレータの畜圧方法。
【請求項2】
前記負荷トルクは前記回転数可変型モータの電流値より検知することを特徴とする、
請求項1記載のダイカストマシンにおけるアキュムレータの畜圧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105014(P2010−105014A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278986(P2008−278986)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)