説明

アクアポリン遺伝子発現促進剤

【課題】細胞のアクアポリン遺伝子発現を促進するアクアポリン遺伝子発現促進剤を提供する。また、アクアポリン遺伝子発現促進剤により、アクアポリン遺伝子産物の増加によって、水チャンネルの正常な働きを補い、アクアポリンの機能低下に伴う症状を改善する薬剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるホスファチジン酸を有効成分とするアクアポリン遺伝子発現促進剤。


(式中Rは、炭素数8〜22のアルキル基または炭素数8〜22のアシル基を示す。Xは、環状ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸およびそれらのアルカリ金属塩、置換アンモニウム基または無置換アンモニウム基からなる塩である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のアクアポリン(以下、AQPと省略することがある)の遺伝子発現を亢進することができるアクアポリン遺伝子発現促進剤に関する。より詳しくは、アクアポリンの活性低下に伴う組織の水分補給機能の改善を目的として、イオントフォレシス(イオン導入法)や注射による投与により外皮組織の水分輸送を担うアクアポリン遺伝子の発現増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アクアポリンは、リン脂質二重層からなる細胞膜によって細胞内外に隔てられた水分子を選択的に透過させる機能を担う膜たんぱく質である。100年以上前からその存在が予想されながら、実際の確認は、ノーベル賞の対象となった1992年のPeter Agreらによる赤血球からのクローニングによる研究により初めて行われた(非特許文献1)。
【0003】
アクアポリンは、原核生物から高等動物まで普遍的に存在し、哺乳類では現在までに10種類以上のアクアポリン遺伝子が報告されている。既に、アクアポリン遺伝子のノックアウト動物を用いた研究で、白内障、腎性尿崩症、難聴、聴力障害など様々な疾病が引き起こされることが判明しており、アクアポリン遺伝子の更に多様な役割が予想されている。既に、赤血球の形態変化能(非特許文献2)やドライアイの発生(非特許文献3)に関与することが知られている。
【0004】
アクアポリンの一種であるアクアポリン3のノックアウトマウスでは腎機能の低下や、皮膚の乾燥が引き起こされるが、この原因因子としてグリセリンの供給能の低下による保水能低下が指摘されている(非特許文献4)。
このようにアクアポリンは、水に対する選択的なチャンネル(水チャンネル)として発見されたが、グリセリンや尿素等の低分子化合物や、炭酸ガスのチャンネルとしても機能しており、水輸送を担う器官や血流の乏しい外皮などの組織においても重要な役割を果たしていると考えられる。
【0005】
現在、水分代謝機能の低下した組織機能の回復のため、アクアポリン遺伝子の発現促進や、産生促進を可能にする技術の完成が待たれている。
特許文献1では、過酸化脂質の生成を抑制し、アクアポリンの生成を促進するノウゼンハレン科植物が、皮膚において優れた保湿性、荒れ肌改善、老化防止および美白効果を有することが知られている。
特許文献2ではヒアルロン酸産生を高め、アクアポリンの生成を促進するアヤメ科クロッカス属サフラン(Crocus sativus)から得られる抽出物が、皮膚においてハリや潤いを維持して皺、乾燥肌、日焼け肌、老化肌を改善することが知られている。
【0006】
特許文献3では、トコフェリルレチノエートを有効成分とする細胞環境改善剤からなるアクアポリン発現促進剤が知られている。特許文献4では、リポカリンのリガンドからなることを特徴とするアクアポリン水チャンネルオープナー組成物による角膜上皮障害治療剤が知られている。
また、特許文献5では、アクアポリン5水チャンネル開口作用を有するペプチドによる、角結膜上皮障害治療剤が知られている。特許文献6では、水分代謝異常や、呼吸不全を伴う口渇、ドライアイや鼻腔乾燥に伴う出血、皮膚乾燥による掻痒感、気道乾燥による咳及び痰、又は肺水腫など、種々の疾患の治療に用いることができるレチノイン酸又はその塩によるアクアポリン5の発現亢進剤が示されている。
【0007】
特許文献7には、インターフェロンαの経口、吸引投与でアクアポリンの発現亢進により気道粘膜・肺機能不全を治療する方法が示されている。特許文献8では、Ajuga turkestanica抽出物を用い、外用することでアクアポリンの発現亢進を生じせしめ、基底膜細胞の水分輸送不全による皮膚疾患を改善する方法が開示されている。また、クレソンにもアクアポリン産生増強効果が知られており、化粧料として用いられている。(非特許文献5)
【0008】
一方で、真性粘菌(Physarum polycephalum)培養液から、環状リン酸エステルという物質が真核生物のDNAポリメラーゼα阻害活性を有する物質として見出された(非特許文献6)。この環状リン酸エステルは、構造解析の結果、グリセリン骨格の2位、3位間で自己環状エステルを有するユニークな構造のグリセロリン脂質であることが明らかにされた。
【0009】
現在、環状リン酸エステルは、哺乳類の血清中にも約10−7M程度存在することが明らかにされた(非特許文献7)。更に、ヒト血清やウサギ涙腺液中にも環状リン酸エステルが確認されるなど高等動物体液中に普遍的に存在することが明らかになり、その機能への関心が高まっている。
特許文献9や特許文献10では、環状リン酸エステルによるがん細胞浸潤の抑制効果に基づく抗がん剤が提案され、また、特許文献11および特許文献12では、ニューロンやグリア細胞の生存維持や、神経突起伸展作用を有する薬剤が提案されている。
【0010】
また、遊離のリン酸残基を有する環状リン酸エステルの構造異性体であるリゾホスファチジン酸(LPA)については、細胞増殖因子の本体の一つであることが明らかにされた(非特許文献8,9)。更に、アクチン細胞骨格の再構築やフォーカルアドヒージョン形成(非特許文献10)への関与が明らかにされた。
【0011】
今日、リゾホスファチジン酸は、組織損傷時において即効的に機能することが可能な治癒促進物質、あるいは局所ホルモン(オータコイド)として、細胞の情報伝達物質として機能することが判明している。しかしながら、環状リン酸エステルや、リゾホスファチジン酸によるアクアポリンの活性発現については、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−168732号公報
【特許文献2】特開2005−343882号公報
【特許文献3】特開2006−290873号公報
【特許文献4】特開2001−114698号公報
【特許文献5】特開平11−279194号公報
【特許文献6】特開2007−332048号公報
【特許文献7】米国特許第5863530号明細書
【特許文献8】米国特許第7060693号明細書
【特許文献9】特開平7−258278号公報
【特許文献10】特開平9−25235号公報
【特許文献11】特開2002−308778号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J. Biol. Chem.267,26,18267 (1992)
【非特許文献2】J. Biol. Chem. 276,1,624(20001)
【非特許文献3】(Invest. Ophthalmol.Vis. Sci. 45,12,4423 (2004)
【非特許文献4】J.Biol.Chem. 277,48,46616 (2002)
【非特許文献5】フレグランスジャーナル,10,19−23(2006)
【非特許文献6】The J. Biol.Chem.,267,30,21512−21517(1992)
【非特許文献7】Life Sciences,65,21,2185−2191(1999)
【非特許文献8】Cell. 59,1,45-54(1989)
【非特許文献9】Cell Growth Differ.,4,4,247-55.(1993)
【非特許文献10】ENBO J.13,11,2600−2610(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の第一の課題は、短時間に細胞のアクアポリン遺伝子発現を促進するアクアポリン遺伝子発現促進剤を提供することにある。また本発明の第二の課題は、アクアポリン遺伝子発現促進剤により、アクアポリン遺伝子産物の増加を促すことにある。本発明の第三の課題は、アクアポリン遺伝子産物の増加によって、水チャンネルの正常な働きを補い、アクアポリンの機能低下に伴う症状を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、次の[イ]、[ロ]である。
[イ]、式(1)で表されるホスファチジン酸を有効成分とするアクアポリン遺伝子発現促進剤。
【0016】
【化1】

(式中Rは、炭素数8〜22のアルキル基または炭素数8〜22のアシル基を示す。Xは、式(2)または式(3)で表される基を示す。Mは水素原子、アルカリ金属原子、置換アンモニウム基または無置換アンモニウム基を表す。)
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

[ロ]、前記[イ]項に記載のアクアポリン遺伝子発現促進剤を用いたアクアポリン産生促進剤。
【0019】
[ハ]、前記[イ]項に記載のアクアポリン遺伝子発現促進剤を用いたアクアポリン機能不全治療剤。
【0020】
[ニ]、前記[イ]項に記載のアクアポリン遺伝子発現促進剤を用いた外皮水分代謝異常治療剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤は、ホスファチジン酸を有効成分とするため安全性に優れ、細胞レベルで短時間にアクアポリン遺伝子の発現を引き起こすことができる。
また、本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤を外用することにより、アクアポリン機能不全に起因する、外皮の水分代謝異常を伴う疾患を効果的に治療でき、アクアポリン機能の回復・改善に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤は、式(1)で表されるホスファチジン酸を有効成分として含む。
【0023】
式(1)においてRは、炭素数8〜22のアルキル基または炭素数8〜22のアシル基を示す。
前記、炭素数8〜22のアルキル基としては、炭素数8〜22の直鎖状の飽和アルキル基、炭素数8〜22の分岐鎖状の飽和アルキル基、炭素数8〜22の直鎖状で1〜6個の不飽和結合を有する不飽和アルキル基が挙げられる。
【0024】
前記、炭素数8〜22のアシル基としては、炭素数8〜22の直鎖状の飽和アシル基、炭素数8〜22の分岐鎖状の飽和アシル基、炭素数8〜22の直鎖状で1〜6個の不飽和結合を有する不飽和アシル基が挙げられる。
【0025】
これら炭素数8〜22のアルキル基または炭素数8〜22のアシル基のうち、好ましい炭素数8〜22の炭素水素基としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸に由来する炭素水素残基が最も好ましく挙げられる。
【0026】
式(1)中Xは、上記式(2)または式(3)で表される基を示す。
式(2)または式(3)中Mは、水素原子、アルカリ金属原子、置換アンモニウム基もしくは無置換アンモニウム基を表す。
【0027】
前記アルカリ金属原子としてはナトリウム、カリウムが挙げられる。前記置換アンモニウム基としてはブチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、テトラメチルアンモニウム基が挙げられる。前記無置換アンモニウム基としては、アンモニウム基が挙げられる。これらのうち、Mとしては、入手のしやすさの点からナトリウム、カリウムが最も好ましい。
【0028】
本発明に用いる式(1)のホスファチジン酸には、式(1)のXが式(2)である環状ホスファチジン酸(以下、cPAと称することがある)と、式(1)のXが式(3)であるリゾホスファチジン酸(以下、LPAと称することがある)がある。
【0029】
上記式(1)のXが式(2)であるcPAのうち、Rが、炭素数8〜22のアシル基であるcPAの入手方法としては、市販品を用いることができる他、特開平6−228169号公報、特開平7−25827号公報、特開平9−25235号公報に示された、ジシクロヘキシルカルボジイミド存在下に脂肪酸と2,3−イソプロピリデン−sn−グリセロールから化学合成して得る方法により得ることができる。
【0030】
また、上記式(1)のXが式(2)であるcPAのうち、Rが、炭素数8〜22のアルキル基であるcPAの入手方法としては、市販品を用いることができる他、米国特許第5238965号明細書に示された、市販の1−O−アルキル−グリセロールをピリジン溶媒中でオキシ塩化リンと化学反応させる方法で得ることもできる。
【0031】
上記式(1)のXが式(3)であるLPAのうち、Rが、炭素数8〜22のアシル基であるLPAの入手方法としては、合成品もしくは市販品を用いることができる。
また、上記式(1)のXが式(3)であるLPAのうち、Rが、炭素数8〜22のアルキル基であるLPAの入手方法としては、合成品もしくは市販品を用いることができる。
【0032】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤は、アクアポリン遺伝子の発現を促進する薬剤である。
【0033】
ここで、アクアポリン遺伝子発現とは、生細胞においてDNA上のアクアポリンに関する遺伝情報が、アクアポリンmRNAに転写されることをいう。尚、アクアポリンとは、細菌から哺乳類まで広範な生物の細胞膜にあって水分子の選択的透過を担い、300前後のアミノ酸で構成されるタンパク質からなるチャンネルをいう。
【0034】
即ち、前記アクアポリン遺伝子の発現を促進する薬剤とは、DNA上のアクアポリンに関する遺伝情報を、アクアポリンmRNAに転写する過程を促進する薬剤のことである。
【0035】
ここで、アクアポリン遺伝子発現の促進の確認は、細胞からmRNAをIsogenなどの抽出用試薬を用いてRNAの分解を抑制しながら抽出し、得られたRNAをノーザンブロットやリアルタイムPCR等の生化学的な方法により評価することで行うことができる。即ち、例えばリアルタイムPCRで評価したときハウスキーピング遺伝子に対して発現量が増大したときに、アクアポリン遺伝子発現の促進が達成できたことを確認できる。
【0036】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤の使用対象となる細胞やその生体組織としては、例えば、皮膚や口腔、鼻粘膜、眼粘膜等の外皮、胃、食道、気管、肺、腸、腎臓などの消化器、血管や心臓などの循環器、気管や肺などの呼吸器あるいはそれら器官から得られた培養細胞が挙げられる。
【0037】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤は、経口的もしくは非経口的に投与することができる。その剤形としては、例えば液剤、ドリンク剤、散剤、顆粒剤、注射剤、点滴剤、点眼剤、点鼻薬、吸入剤、座剤、イオン導入剤などのいずれであっても良いが、局所適用が可能であるとの理由から、注射剤、点眼剤、点鼻剤あるいはイオン導入剤が好ましい。
【0038】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤の製剤化は、例えば有効成分である式(1)で表わされるホスファチジン酸と、公知の薬理的に許容される担体、賦形剤、崩壊剤、増量剤、希釈剤、可溶化剤等とを用いて公知の方法によって行なうことができる。この際、式(1)で表されるホスファチジン酸の製剤中の含有率は、通常0.01〜30質量%の範囲、好ましくは0.1〜10質量%の範囲、より好ましくは1〜5質量%の範囲である。
【0039】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤の投与量は、投与対象投与経路、症状等によっても著しく異なるが、経口的に投与する場合、式(1)で表されるホスファチジン酸として、通常1〜1000mg/Kg体重を1日1〜3回程度である。また、非経口的に投与する場合は、例えば、皮内注では式(1)であらわされるホスファチジン酸として約0.01〜100mg/Kg体重を1日1回程度、1週間に1〜7回繰り返して投与することが好ましい。
【0040】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤は、遺伝子発現促進の目的を達成するための医薬品として用いることができる他、その働きを利用した特殊な使用の方法として細胞試験のための試験試薬や皮膚疾患のための外用薬剤として用いることもできる。
【0041】
本発明のアクアポリン産生促進剤とは、アクアポリン遺伝子産物を増強する薬剤である。
【0042】
本発明のアクアポリン産生促進剤は、アクアポリン遺伝子発現により生成するmRNAが翻訳されて生じるアクアポリン遺伝子産物の量的な増強をする薬剤である。アクアポリン遺伝子産物の量的な増強をするということはアクアポリン遺伝子の発現により遺伝子産物であるアクアポリン遺伝子産物の量が増えるということであり、アクアポリン遺伝子産物産生促進についての評価は、細胞や組織からタンパク質の変性や分解を防ぎながらアクアポリン特異抗体によるELISA法や免疫組織法等の生化学的な方法により評価することで達成できる。具体的には、例えば免疫染色法により同一条件で顕微鏡観察した際に、染色強度が増大し、アクアポリン遺伝子産物の量的な増大が確認できたとき、アクアポリン遺伝子産物の産生促進がされたということができる。
【0043】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤をアクアポリン遺伝子産物産生促進剤として使用するには、本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤をアクアポリン遺伝子産物産生促進剤として、そのまま用いることができる。その際、アクアポリン遺伝子発現促進剤は、製剤化されていても、されていなくても良いが、好ましくは製剤化したものを用いることができる。
【0044】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤をアクアポリン遺伝子産物産生促進剤として使用する場合の投与量は、投与対象投与経路、症状等によっても著しく異なるが、経口的に投与する場合、式(1)で表されるホスファチジン酸として、通常1〜1000mg/Kg体重を1日1〜3回程度である。また、非経口的に投与する場合は、例えば、皮内注では式(1)であらわされるホスファチジン酸として約0.01〜100mg/Kg体重を1日1回程度、1週間に1〜7回繰り返して投与することが好ましい。
【0045】
本発明の外皮のアクアポリン遺伝子産物の機能不全治療剤とは、産生促進剤を有効成分とするアクアポリン遺伝子産物の機能不全の治療剤である。これは即ち、アクアポリン遺伝子産物の機能不全の治療あるいは予防のための薬剤をいう。アクアポリン遺伝子産物の機能不全とはアクアポリン遺伝子発現により生成するmRNAが翻訳されて生じるアクアポリン遺伝子産物の生体内での分解の促進、高次構造の変化や遺伝子発現量の低下によって生体組織のアクアポリン遺伝子産物の、水あるいはグリセロールのチャンネルとしての機能が低下している状態をいう。このような、アクアポリン遺伝子産物の機能不全が生じているかどうかは、生体組織の水分量を電気伝導度あるいは静電容量を機器測定することで確認できる。
【0046】
外皮のアクアポリン遺伝子産物の機能不全の測定には、静電容量の測定機器に装備されたプローブにより組織表面に3.5MHzの高周波電流を流し、組織深度20μm程度の電気伝導度を測定できる装置が用いられ、例えばSKICON(IBS社)が水分量を非侵襲的に計測できるため、好ましく用いられる。
【0047】
そして、被験者の組織に対して測定を行い、恒温恒湿条件下に被験者を安静に保った後、SKICONを用いて電気伝導度を測定したとき、電気伝導度の数値が健常者に比較し低下していれば、アクアポリン遺伝子産物に機能不全を生じていると想定され、このアクアポリン遺伝子産物の機能不全に陥った被験者は、アクアポリン遺伝子産物の機能不全治療剤の投与により改善する効果が期待できる。例えば、被験者の組織が皮膚である場合、皮膚の電気伝導度を測定したときその数値が50μS以下であるとき乾燥肌、100μS以上では健常肌といえることからその相対値が2倍近く上昇すれば、皮膚のアクアポリン機能不全が改善したとすることができる。
【0048】
外皮のアクアポリン遺伝子産物の機能不全による疾病としては、皮膚、鼻粘膜、眼粘膜、口腔粘膜、食道、気管、肺、筋肉、腎臓など生体組織における水代謝の機能低下が挙げられる。即ち、生体組織の水分代謝異常を伴う疾患の治療剤として、乾燥肌,ドライアイ、鼻粘膜、気管粘膜や口腔粘膜の、過度の乾燥の治療ないし予防をするためにアクアポリン遺伝子産物の機能不全治療剤が用いられる。
【0049】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤をアクアポリン遺伝子産物の機能不全治療剤として使用するには、本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤をアクアポリン遺伝子産物の機能不全治療剤として、そのまま用いることができる。その際、アクアポリン遺伝子発現促進剤は、製剤化されていても、されていなくても良いが、好ましくは製剤化したものを用いることができる。
【0050】
本発明のアクアポリン遺伝子産物の機能不全治療剤の投与量は、投与対象投与経路、症状等によっても著しく異なるが、経口的に投与する場合、式(1)で表されるホスファチジン酸として、通常1〜1000mg/Kg体重を1日1〜3回程度である。また、非経口的に投与する場合は、例えば、皮内注では式(1)であらわされるホスファチジン酸として約0.01〜100mg/Kg体重を1日1回程度、1週間に1〜7回繰り返して投与することが好ましい。
【0051】
本発明の外皮水分代謝異常治療剤とは、アクアポリン遺伝子産物の機能不全に起因する疾患が外皮の水分代謝異常を伴う疾患である治療剤のことである。即ち、外皮の水分代謝異常を治療あるいは予防する薬剤をいう。
【0052】
ここで、外皮である皮膚の水分代謝の異常とは、生体組織の水分量が減少し生理機能が低下した状態のことをいう。即ち、生体組織の水分量が減少し生理機能が低下した生体組織の水分量を回復できる薬剤は、外皮の水分代謝異常を治療あるいは予防する薬剤であるといえ、外皮水分代謝異常治療剤であるとすることができる。
【0053】
本発明における、外皮水分代謝異常とは、特に皮膚に生じるアクアポリン遺伝子産物の機能不全のことである。このアクアポリン遺伝子産物の機能不全は、前記したSKICONを用いて、アクアポリン遺伝子産物の機能不全と同様に診断することができる。
【0054】
本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤を外皮水分代謝異常治療剤として使用するには、本発明のアクアポリン遺伝子発現促進剤を外皮水分代謝異常治療剤として、そのまま用いることができる。その際、アクアポリン遺伝子発現促進剤は、製剤化されていても、されていなくても良いが、好ましくは製剤化したものを用いることができる。
【0055】
本発明の外皮水分代謝異常治療剤の投与量は、投与対象投与経路、症状等によっても著しく異なるが、経口的に投与する場合、式(1)で表されるホスファチジン酸として、通常1〜1000mg/Kg体重を1日1〜3回程度である。また、非経口的に投与する場合は、例えば、皮内注では式(1)であらわされるホスファチジン酸として約0.01〜100mg/Kg体重を1日1回程度、1週間に1〜7回繰り返して投与することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
尚、例中の31P-NMRの測定は、日本電子社製JNM AL-400、溶媒:重クロロホルム−重メタノール−重水(2:5:2 V/V/V)を用い、温度25℃の条件でおこなった。
【0057】
合成例1;C18:1−cPAの合成
C18:1−リゾホスファチジルコリン(LPC、アバンチポーラーリピッド社製)10gに水250gを加え十分に溶解させた。pH5.5の酢酸ナトリウム緩衝液1Mを100g、2M塩化ナトリウム10ml、ホスホリパーゼD(Actinomadura.sp.)100mg添加し、55℃で加温した。18時間後にクロロホルム650gとメタノール700gを添加し、激しく混合した。クロロホルム650gを加えて混合後、静置して下層を回収し溶媒を55℃で留去し、1−オレオイル−ホスファチジン酸(C18:1−cPA)を得た。
【0058】
合成例2;C10:0−cPAの合成
C10:0−リゾホスファチジルコリン(LPC、アバンチポーラーリピッド社製)を用いた以外合成例1と同様にしてC10:0−cPAを得た。得られた化合物は、31P−NMRによりリン酸環状構造を有し、開環したLPAや原料のLPCを含有しないことを確認した。
【0059】
合成例3;C16:0−cPAの合成
C16:0−リゾホスファチジルコリン(LPC、アバンチポーラーリピッド社製)を用いた以外合成例1と同様にしてC16:0−cPAを得た。得られた化合物は、31P−NMRによりリン酸環状構造を有し、開環したLPAや原料のLPCを含有しないことを確認した。
【0060】
合成例4;C16:0−O−cPAの合成
市販のリゾ血小板活性化因子(リゾPAF、アバンチポーラーリピッド社製)を用いた以外合成例1と同様にしてC16:0−O−cPAを得た。得られた化合物は、31P−NMRによりリン酸環状構造を有し、開環したLPAや原料のLPCをほとんど含有しないことを確認した。
【0061】
合成例5;C16:0−LPAの合成
市販のリゾ血小板活性化因子(リゾPAF、アバンチポーラーリピッド社製)とキャベツ由来のホスホリパーゼDを用いた以外合成例1と同様にしてC16:0−LPAを得た。
【0062】
合成例6;C6:0−cPAの合成
C6:0−リゾホスファチジルコリン(LPC、アバンチポーラーリピッド社製)を用いた以外合成例1と同様にしてC6:0−cPAを得た。得られた化合物は、31P−NMRによりリン酸環状構造を有し、開環したLPAや原料のLPCをほとんど含有しないことを確認した。
【0063】
I)AQP遺伝子発現促進試験
実施例1−1;合成例1のC18:1−cPA[(R=18、アシル)cPA]の試験
1.細胞培養
正常ヒト表皮角化細胞として新生児包皮角化細胞NHEK(凍結F)をクラボウ(株)より入手した。NHEK細胞をウシ脳下垂体抽出液0.4%、インスリン10μg/ml、ヒト組換え型上皮成長因子0.1ng/ml、ハイドロコーチゾン0.5μg/mlを含有するHuMedia―KG2培地(クラボウ)を用いて継代培養した。継代は、基本的にメーカーの手順書に順じて行なった。
【0064】
2.遺伝子発現促進評価
培養用ディシュ6cm(ファルコン社製)に細胞を懸濁したHuMedia−KG2に4mlを加え、37℃で3日間培養を行った。その後培地を無血清のDMEM−F12(1:1)4mlで置換し、更に2日間培養を継続した。ホスファチジン酸として合成例1で得たC18:1−cPA(式(1)中のRがC1833O−であり、Xが式(2)で示される基である化合物)20μM(9μg/mL)を添加し、37℃で培養を行い0,4,10時間目に培地を吸引除去し、Isogen(ニッポンジーン社製)を用いて細胞を溶解し全RNAを回収した。得られたRNAを1×TAE緩衝液で0.2〜20μg/μlとなるように希釈後、One Step SYBR RT−PCR Kit(TAKARA社製)を用いてリアルタイムRT−PCRを実施した。
【0065】
β−アクチンのプライマー配列として、5’’-GGCCACGGCTGCTTC-3’および5’-TGGGATTTCCATTGATGACAAG-3’を用い、AQPのプライマーとして、5’-CCCATCGTGTCCCCACTCおよび5’-GCCGATCATCAGCTGGTACA-3’を用いた。DNA Engine Opticon System (MJ Research社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。反応条件は、逆転写:42℃、15分、変性:95℃、5秒、アニーリング:60℃、20秒、鎖長延長:72℃、15秒とし、これを45回反復した。ハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチンの発現強度に対するAQPの相対発現強度を求めた。被験物質添加からRNA回収までの培養時間が10時間である場合のAQP遺伝子発現増強効果の評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1−2;合成例2のC10:0−cPA[(R=10、アシル)cPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、合成例2で合成したC10:0−cPA(式(1)中のRがC1019O−であり、Xが式(2)で示される基である化合物)を用いた以外実施例1−1と同様に、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間が10時間の場合のAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
実施例1−3;合成例3のC16:0−cPA[(R=16、アシル)cPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、合成例3で合成したC16:0−cPA(式(1)中のRがC1631O−であり、Xが式(2)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
実施例1−4;市販の大豆cPA[(R=14〜18、アシル)大豆cPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆cPA(商品名CyPATM溶液の減圧乾燥物、日油株式会社社製、式(1)中のRが主にC1421O〜C1835Oであり、Xが式(2)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
実施例1−5;合成例4のC16:0−O−cPA[(R=16、O−アルキル)cPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、合成例4で合成したC16:0−O−cPA(式(1)中のRがC1633O−であり、Xが式(2)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
実施例1−6;市販のC18:1のリゾホスファチジン酸[(R=18、アシル)LPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販のC18:1のリゾホスファチジン酸(LPA:Sigma社製)(式(1)中のRがC1833O−であり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
実施例1−7;市販のC10:0のリゾホスファチジン酸[(R=10、アシル)LPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販のC10:0のリゾホスファチジン酸(LPA:Sigma社製)(式(1)中のRがC1019O−であり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
実施例1−8;市販のC16:0のリゾホスファチジン酸[(R=16、アシル)LPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販のC16:0のリゾホスファチジン酸(LPA:Sigma社製)(式(1)中のRがC1631O−であり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
実施例1−9;市販の大豆リン脂質由来リゾホスファチジン酸[(R=14〜18、アシル)大豆LPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆リン脂質由来リゾホスファチジン酸(大豆LPA、Sigma社製)(式(1)中のRが主にC1421O〜C1835Oであり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
実施例1−10;合成例5のC16:0−LPA[(R=16、O−アルキル)LPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、合成例5で合成したC16:0−LPA(式(1)中のRがC1633O−であり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
比較例1−1;市販の大豆ジアシルホスファチジルコリン[(R=14〜18、ジアシル)大豆リン脂質]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆ジアシルホスファチジルコリン(大豆PC−70、辻製油社製)を用い被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
比較例1−2;市販の大豆ホスファチジン酸[(R=14〜18、ジアシル)大豆PA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆ホスファチジン酸(大豆PA、Sigma社製)を用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
比較例1−3;合成例6のC6:0−cPA[(C=6、アシル)cPA]の試験
C18:1−cPAの換わりに、合成例6で合成したC6:0−cPAを用い、被験物質添加から全RNA回収までの培養時間を10時間とした以外、実施例1−1と同様にしてAQP遺伝子発現促進効果について評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
II)AQP遺伝子産物産生促進試験
実施例2−1
(1)3次元表皮モデル
ヒトの表皮の代替として市販の表皮モデル(LabCyte、ジャパン・ティシュ・エンジニアリング社)EPI−MODEL12を用いた。添付のアッセイ培地を用いメーカーの手順書に従って培養を行った。培養開始直後に合成例1で得たC18:1−cPAの2mM(900μg/mL)水溶液を表皮表面に100μl滴下し、37℃で2日間培養を行った。培養した表皮モデルを取り出し、OTCコンパウンドに埋入してから液体窒素を用いて急速凍結し、AQP3タンパク質の検出に用いる試料とした。
【0080】
(2)AQP3遺伝子産物の検出
(1)で得た試料から、8μm厚の凍結切片を作成した後に風乾固定し、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル)でブロッキングした。ブロッキングした試料に、1次抗体として抗ヒトAQP3抗体(Santa Curz社)を室温で1時間試料と反応させた。反応させた試料を、TBSで十分洗浄し余分な1次抗体を除去後、FITC標識抗ヤギIgG(カッペル社)を2次抗体として用いて室温で1時間反応させた。このように試料を処理して得られた、染色切片の基底膜近傍を蛍光顕微鏡を用いて無作為に10回観察し、露出条件を一定に撮影した。撮影画像を目視により評価した。即ち、比較例1のPBSと不処理切片に比較して基底膜周辺が著しく濃染された場合は3、同等の場合は1、それらの中間の場合は2と評価し、その平均値を表2に示した。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例2−2
C18:1−cPAの換わりに、合成例4で合成したC16:0のO−アルキルcPA(式(1)中のRがC1633O−であり、Xが式(2)で示される基である化合物)を用いた以外、実施例2−1と同様にしてAQP遺伝子産物の産生増強効果について評価を行った。結果を表2に合わせて示す。
【0083】
実施例2−3
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆リン脂質由来のリゾホスファチジン酸(大豆LPA、Sigma社製)(式(1)中のRが主にC1421O〜C1835Oであり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用いた以外、実施例2−1と同様にしてAQP遺伝子産物の産生増強効果について評価を行った。結果を表2に合わせて示す。
【0084】
実施例2−4
C18:1−cPAの換わりに、C16:0のO−アルキルLPA(式(1)中のRがC1633O−であり、Xが式(3)で示される基である化合物)を用いた以外、実施例2−1と同様にしてAQP遺伝子産物の産生増強効果について評価を行った。結果を表2に合わせて示す。
【0085】
参考例1
C18:1−cPAの換わりに、生理食塩水を用いた以外,実施例2−1と同様にしてAQP遺伝子産物の産生増強効果について評価を行った。結果を表2に合わせて示す。
【0086】
比較例2−1
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆ジアシルホスファチジルコリン(大豆PC−70、辻製油社製)を用いた以外、実施例2−1と同様にしてAQP遺伝子産物の産生増強効果について評価を行った。結果を表2に合わせて示す。
【0087】
比較例2−2
C18:1−cPAの換わりに、市販の大豆ホスファチジン酸(大豆PA、Sigma社製)を用いた以外,実施例2−1と同様にしてAQP遺伝子産物の産生増強効果について評価を行った。結果を表2に合わせて示した。
【0088】
III)水分代謝機能改善試験
実施例3−1
a.皮膚連用試験
外皮組織の水分代謝機能への効果を検討するため市販の大豆cPA(商品名CyPATM溶液の減圧乾燥物、日油株式会社社製、式(1)中のRが主にC1421O〜C1835Oであり、Xが式(2)で示される基である化合物)を3%配合するローションを作成し、皮膚に連用して皮内水分量への影響を検討した。用いたローション組成は大豆cPA(CyPA溶液、日油社製)3%、フェノキシトール0.2%、メチルパラベン0.1%、エタノール4%とした。これを乾燥肌の被験者1名の上腕内側約2cm×2cmに2滴滴下し、被1日2回30日間連用した。尚、ローション滴下面は保護せずそのままとし、被験者は実験中、日常生活を継続する条件で連用試験を行った。
【0089】
b.表皮水分量の測定
連用開始前と連用終了日にSKICON−200(IBS社)を用いて、湿度%、室温25℃に被験者を30分以上安静に保った後に上腕内側皮膚の電気伝導度を測定した。10回繰り返して測定しその平均値を求め表3に示した。連用後の表皮の電気伝導度は3倍近く上昇し明らかに表皮の水分含量が増加したことから皮膚や口腔鼻粘膜、眼粘膜などの外皮に対して水分代謝能を改善する効果があることも期待できる。
【0090】
【表3】

【0091】
実施例3−2
市販の大豆cPAの換わりに、合成例1のC18:1−cPAを用いた以外は実施例3−1と同様にしてローションを作成して、連用試験を行い表皮水分量を測定した。その結果を表3に示した。連用後の表皮の電気伝導度は2倍近く上昇し表皮の水分含量が増加していることが分かる。
【0092】
参考例2
市販の大豆cPAを添加しない以外は、実施例3−1と同様にしてローションを作成して、連用試験を行い表皮水分量を測定した。その結果を表3に示した。
【0093】
以上の結果から、本発明に用いるホスファチジン酸は、細胞によるAQPの遺伝子発現を著しく亢進し、その遺伝子産物であり特異抗体によって認識されるタンパク質の相対量が増加することで、外皮である表皮や口腔粘膜、鼻粘膜などの水分代謝異常を伴う疾患を軽減することも期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるホスファチジン酸を有効成分とするアクアポリン遺伝子発現促進剤。
【化1】

(式中Rは、炭素数8〜22のアルキル基または炭素数8〜22のアシル基を示す。Xは、式(2)または式(3)で表される基を示す。Mは水素原子、アルカリ金属原子、置換アンモニウム基または無置換アンモニウム基を表す。)
【化2】

【化3】

【請求項2】
請求項1に記載のアクアポリン遺伝子発現促進剤を用いたアクアポリン産生促進剤。
【請求項3】
請求項1に記載のアクアポリン遺伝子発現促進剤を用いたアクアポリン機能不全治療剤。
【請求項4】
請求項1に記載のアクアポリン遺伝子発現促進剤を用いた外皮水分代謝異常治療剤。

【公開番号】特開2011−63515(P2011−63515A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212737(P2009−212737)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年4月15日 フレグランスジャーナル社発行の「FRAGRANCE JOURNAL(2009/April 4)」に発表
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】