アクスルケースの製造方法
【課題】断面四角形状を有するFCD材と鋼材とを増肉させつつ拡散接合する際に、接合部近傍の熱影響を低減し、接合継手の品質を向上できるアクスルケースの製造方法を提供する。
【解決手段】接合部12の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなるインダクター20を配置し、インダクター20で接合部12を誘導加熱すると共に、接合部12を軸方向に押付けて接合部12の板厚を増肉させるアプセット加工を施しつつ接合部12の1回目の拡散接合を行った後冷却し、しかる後、インダクター20の給電リード部41位置での低温加熱領域43を誘導加熱すべく、インダクター20を軸筒10,11周りに180度あるいは90度回転し再配置して接合部12の2回目の拡散接合を行うようにした。
【解決手段】接合部12の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなるインダクター20を配置し、インダクター20で接合部12を誘導加熱すると共に、接合部12を軸方向に押付けて接合部12の板厚を増肉させるアプセット加工を施しつつ接合部12の1回目の拡散接合を行った後冷却し、しかる後、インダクター20の給電リード部41位置での低温加熱領域43を誘導加熱すべく、インダクター20を軸筒10,11周りに180度あるいは90度回転し再配置して接合部12の2回目の拡散接合を行うようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差動歯車を収容するアクスルケースの製造方法に係り、特に、断面四角形状の鋼材とFCD材とを接合してなるアクスルケースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクスルケースは、鋼板をプレス加工して形成したプレス材を溶接組立したバンジョウー部品、または、球状黒鉛鋳鉄(Ferrum Casting Ductile;FCD)製バンジョウー部品、または、鋳鋼製バンジョウー部品と、熱間鍛造で成形したチューブを接合して製造されている。
【0003】
一般的に、鋼材とFCD材とを直接溶接接合することは困難であることから、鋼材とFCD材との健全な異材継手を得るべく、従来から様々な工夫が為されてきた。
【0004】
例えば、アクスルハウジング本体を形成するためFCD材を鋳型に鋳造する際に、鋳型内に耐酸化被膜を形成した鋼製リングをセットし、溶けたFCD材で鋼製リングを鋳ぐるみ、鋳ぐるまれた鋼製リングを切削加工によりFCD材から露出させ、その鋼製リングと鋼製チューブとをアーク溶接にて接合してアクスルケースを製造する技術がある(例えば、特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、この手法は、湯が流れてきたときの熱を利用するため、鋼製リング表面の耐酸化被膜とFCD、耐酸化被膜と鋼製リングとの接合界面との拡散が不十分となること、接合界面にボイドが発生することがまれにあり、品質維持のために、超音波検査による確認が必要である。また、接合部の強度を確保するためには接合部近傍の肉厚を厚くする必要があり、アクスルの重量増加となる。さらに、文献では、鋼製チューブが丸断面形状であり、旋盤で容易に切削、剥き出しにすることが可能であるが、接合部位が角断面になると、その切削は容易ではない。
【0005】
これに対し、鋼製リングとFCD材との間にアモルファス金属を挿入し、接合部を加熱して拡散接合を行うことが示された(例えば、非特許文献2)。アモルファス金属を接合部に介在させて拡散接合を行うことで、鋼材とFCD材とを直接に接合することができる。ただし、接合部に断面変化を伴わない(すなわち、接合部を増肉するためのアプセット加工を伴わない)接合であるため、接合部の強度を向上させることはできず、直接、強度が必要な部分への適用は難しい。増肉された接合部は、接合部に作用する応力を低減できるため、強度が必要な部分へ適用される接合部は、増肉されていることが望ましい。
【0006】
非特許文献3では、アモルファス金属を使わずにアモルファス金属に相当する金属を電気めっき法で鋼材側に塗着させ拡散接合させる方法が示されているが、基礎研究であり、工業量産製品への適用については、触れられていない。
【0007】
特許文献2および非特許文献4では、アモルファス金属シートやアモルファス粉末バインダを接合する面の間に挟み、拡散接合させ、さらに力を加え、接合部を増肉させる手法が提案された。しかし、この手法は丸断面パイプや中実丸棒に対してのみ適用され、また鋼同士の接合であり、断面四角形状を有するパイプ材の鋼材とFCD材との接合については検討されていない。
【0008】
また、非特許文献5では丸パイプ形状のS45C(炭素鋼)とFCD600のアモルファス金属シートを使った拡散接合の基礎実験結果について述べられており、断面四角形状を有するパイプ材同士の接合については検討されていない。加えて、接合後の界面近傍の硬さは500HV超で、アクスルケースの工業製品としての使用は難しい。
【0009】
特許文献3〜5には、拡散接合に使用するNiベースの合金粉末(あるいはアモルファス粉末)に関する塗布方法、その成分について述べている。
【0010】
つまり、以上の検討は何れも丸形状のパイプ材同士を接合する手法について示されており、断面四角形状のパイプ材同士の接合部の変形(増肉)を伴う接合は未検討である。さらに、融点の異なる金属同士(例えば、鋼材とFCD材)を接合して製造する量産品を、使用可能なレベルとする結果は得られていないのが現状である。
【0011】
近年では、特許文献6〜9に示されるように、軸筒部分が断面四角形状のアクスルケースが開発されつつある。このような構造のアクスルケースでは、アクスルケースの製造に係る部品点数・工程数を減少させ、製造コストを削減することができる。しかし特許文献6〜9では、その接合部が増肉形状にあることは示されておらず、接合部の強度を向上させることは示されていない。
【0012】
一方、本発明者は、断面四角形状で接合しつつ、その接合部を増肉したアクスルケースの構造を提案した(特許文献10)。
【0013】
図12は、提案したアクスルケースの構造を示す図であり、(a)は全体図、(b)は接合部近傍の拡大図である。
【0014】
このアクスルケース100は、アクスルハウジング101と異形チューブ103とからなる。
【0015】
アクスルハウジング101は、差動ギアを収容するための空洞を有する環状のバンジョウー105を有し、そのバンジョウー105から断面四角形状の軸筒102が軸方向に延出するように形成されている。このアクスルハウジング101は、鋼板(低合金鋼、高張力鋼など)をプレス加工して形成した断面コ字状の上部部材106と下部部材107とを、突き合わせ接合して形成される。
【0016】
また異形チューブ103は、断面四角形状の軸筒104と、円筒108と、軸筒104および円筒108との間で断面形状を四角形から円形に徐々に変化させる異形連結部109と、を有する。さらに異形チューブ103の軸筒104には、ブレーキ支持体110が設けられる。この異形チューブ103は、FCD材を鋳造して一体形成される。
【0017】
しかる後、アクスルハウジング101に形成された断面四角形状の軸筒102と、同じく異形チューブ103に形成された断面四角形状の軸筒104と、を接合して、アクスルケース100が製造される。
【0018】
この接合部111は増肉された増肉部112,113を有しており、接合部111に作用する応力を減少させることで、接合部111の強度を向上させている。
【0019】
また、増肉された接合部111は、接合前に予め形成した増肉部112,113との間にアモルファス金属114を挟み込み、これを加熱して拡散接合することで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2004−249881号公報
【特許文献2】特開2003−33884号公報
【特許文献3】独国特許出願公開第102006041901号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102006051718号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102007006039号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/024425号
【特許文献7】国際公開第2006/136317号
【特許文献8】独国特許出願公開第10255209号明細書
【特許文献9】特開2009−202848号公報
【特許文献10】特開2010−188924号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】黒木俊昭ほか,「鋳造同時拡散接合によるアクスルハウジングのFCD化」,自動車技術,第58巻,第9号,2004年,p.97−102
【非特許文献2】黒木俊昭ほか,「拡散接合による部品コストの削減」,自動車技術,第52巻,第12号,1998年,p.76−80
【非特許文献3】益本広久ほか,「球状黒鉛鋳鉄と鋼の拡散接合性に及ぼすニッケルめっき層の効果,−球状黒鉛鋳鉄の固相接合(第11報)−」,溶接学会全国大会講演概要,第58集,1996年4月,p.210−211
【非特許文献4】小溝裕一ほか,「アモルファス接合システム」,溶接学会誌,第66巻,第7号,1997年,p.10−13
【非特許文献5】竹之内優ほか,「鋳鉄/鋼液相拡散接合継手の機械的特性に及ぼす接合条件の影響」,電気製鋼,第67巻,第3号,1996年,p.161−170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところで、このアクスルケース100を製造する際には、断面四角形状の鋼材とFCD材との間にアモルファス金属(B,Si,Ni等を有する)を介在させ、これを高周波誘導加熱し、加熱された接合部材同士を拡散接合してアクスルケース100を製造することが行われる。
【0023】
拡散接合を行いつつ接合部を押付けて増肉すると、接合部を予め増肉しておくプロセスを省略できるため好適であるが、断面四角形状の鋼材とFCD材とを増肉しつつ接合する技術については未だ課題があり、アクスルケースに実用可能なレベルに達していないのが現状である。
【0024】
アクスルケースのような強度部材を接合する際には、接合部の強度を増肉して向上させることに加えて、接合中の入熱による金属組織や特性が変化する領域(熱影響部)を狭めることが求められる。そこで、1ターンコイルからなるインダクターを用いるが、図13に示すように、1ターンコイルは給電リードの出側と入り側を絶縁する必要があり、給電リード位置での接合部材(ワーク)では低温加熱領域となる。
【0025】
低温加熱領域では拡散接合後の強度が他の部分と比べて低下する虞があるため、丸断面を有する接合部材では、誘導加熱しつつ丸形状のコイル内で接合部材を回転させて低温加熱領域を解消することが行われる。
【0026】
しかしながら、角断面形状を有する軸筒と、これを均等に加熱すべく四角形状とされたコイルでは、誘導加熱しつつコイル内で接合部材を回転させることができないため、低温加熱領域の低強度を解消することができず、接合部の強度がアクスルケースに求められるレベルに達しない虞がある。
【0027】
また、鋼材およびFCD材を拡散接合した接合部の近傍では、FCD材中の黒鉛が片状となったり、金属組織に焼きが入って硬化したりするため、工業製品として使用できない場合がある。
【0028】
すなわち、より継手性能の高いアクスルケースを製造するためには、断面四角形状の鋼材とFCD材とを増肉接合する際に、入熱による接合部近傍への熱影響を低減しつつ、接合継手の品質(強度、延性、疲労強度など)を向上できる製造プロセスを開発する必要がある。
【0029】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、断面四角形状を有するFCD材と鋼材とを増肉させつつ拡散接合する際に、接合部近傍の熱影響を低減し、接合継手の品質を向上できるアクスルケースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成するために本発明は、鋼材からなるアクスルハウジングに形成された断面四角形状の軸筒とFCD材からなる異形チューブの断面四角形状の軸筒とを突き合わせ、その接合部にアモルファス金属を介在させ、その軸筒同士の接合部の板厚を増肉させつつ拡散接合するアクスルケースの製造方法において、前記接合部の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなるインダクターを配置し、そのインダクターで前記接合部を誘導加熱すると共に、その接合部を軸方向に押付けて前記接合部の板厚を増肉させるアプセット加工を施しつつ前記接合部の1回目の拡散接合を行った後冷却し、しかる後、インダクターの給電リード部位置での低温加熱領域を誘導加熱すべく、インダクターを前記軸筒周りに180度あるいは90度回転し再配置して前記接合部の2回目の拡散接合を行うようにしたアクスルケースの製造方法である。
【0031】
前記1回目の拡散接合を行う際に、インダクターの軸方向の配置位置を接合中心から前記アクスルハウジング側にずらして誘導加熱し、前記アクスルハウジングと前記異形チューブとの間に加熱温度差を設けて拡散接合するとよい。
【0032】
前記1回目の拡散接合の温度は、前記アモルファス金属のろう付け温度以上、前記FCD材の固相温度以下の範囲とするとよい。
【0033】
前記インダクターは、前記軸筒の軸方向に対するコイル長さが前記突き合わせた接合部の板厚の1.6〜2倍の長さを有し、前記アプセット加工は、前記軸筒の軸方向に対するアプセット量を前記板厚の30〜50%の範囲とするとよい。
【0034】
前記2回目の拡散接合の温度は、前記1回目の拡散接合の温度と同じであり、前記2回目の拡散接合を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して拡散接合するとよい。
【0035】
前記2回目の拡散接合を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷するとよい。
【0036】
前記2回目の拡散接合の後、前記接合部の前記FCD材中の黒鉛を球状化すべく、前記接合部をインダクターで誘導加熱して、後熱処理を行うとよい。
【0037】
前記後熱処理の温度は、前記FCD材のA1変態点を中心に700〜750℃の範囲とし、前記後熱処理を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して、後熱処理するとよい。
【0038】
前記後熱処理を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷するとよい。
【0039】
前記1回目の拡散接合を行う際に、前記1ターンコイルの内幅が前記アクスルハウジングに向けて小さくなるように5〜15°の範囲のテーパを設けて形成された前記インダクターを用いるとよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、断面四角形状を有するFCD材と鋼材とを増肉させつつ拡散接合する際に、接合部近傍の熱影響を低減し、接合継手の品質を向上できるアクスルケースの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るアクスルケースの製造方法の概念を模式的に示す図であり、(a)〜(f)は接合部断面を示している。
【図2】本発明に係るアクスルケースの製造方法を実施するための装置構成を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図3】接合中の温度曲線、変位曲線および荷重曲線を示す図である。
【図4】本発明で使用するインダクターを示す断面図である。
【図5】本発明に係る接合部とインダクターとの位置関係を示す断面図である。
【図6】本発明で使用するインダクターを示す断面図である。
【図7】本発明の実施例に係る接合部の断面写真を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る接合部の断面硬さ分布を示す図である。
【図9】本発明の比較例に係る接合部の荷重−変位曲線を示す図である。
【図10】本発明の比較例に係る接合部を示す図であり、(a)は断面写真、(b)は外観写真である。
【図11】本発明の比較例に係る接合部の外観写真を示す図である。
【図12】本発明が適用されるアクスルケースの構造を示す図である。
【図13】誘導加熱の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明の好適な実施の形態について図面に基づき説明する。
【0043】
本発明が適用されるアクスルケースの構造は、上述した図12に示すアクスルケースの構造と同じである。
【0044】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るアクスルケースの製造方法の概念を示す図であり、本発明者が断面四角形状の鋼材とFCD材との健全な接合継手を得るために使用した製造装置(実験装置)である。
【0045】
また、図2は、本実施の形態に係るアクスルケースを製造するための装置構成を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【0046】
図2に示すように、本実施の形態に係るアクスルケースの製造装置15bは、鋼材からなるアクスルハウジング21に形成された軸筒10と、FCD材からなる異形チューブ22の軸筒11とをアモルファス金属13を介し突き合わせた接合部材14の、接合部12を誘導加熱により接合してアクスルケースを製造するためのものである。
【0047】
製造装置15bは、接合部12の周囲に配されて接合部12を誘導加熱するインダクター20と、加熱圧接時に接合部およびその近傍をNガス雰囲気にするためにNガスを噴出される噴出孔を有しかつそれを囲むチャンバー装置17と、アクスルハウジング21を支持・固定するための荷重受治具19bと、異形チューブ22をアモルファス金属13を介してアクスルハウジング21側(図2中では下方向)に押付けるための押付け治具18bと、接合部12の周囲においてアクスルハウジング21および異形チューブ22に装着されて接合部12の周囲を冷却するための冷却ジャケット23と、を備える。
【0048】
四角形状の1ターンコイルからなるインダクター20が収納されたチャンバー装置17は、空冷用のエア吹付け孔を有すると共に、Nガスなどを用いて接合部12を非酸化雰囲気とするためのガスシールド治具を備える。
【0049】
荷重受治具19bは円柱状に形成され、アクスルハウジング21のバンジョウー24の空洞に挿入された荷重受治具19bはバンジョウー24の内側からアクスルハウジング21を載置して支持・固定できるようにしている。また、押付け治具18bは中実の直方体形状に形成され、異形チューブ22の円筒25に軸方向(図2では上下方向)から当接させた押付け治具18bが、異形チューブ22をアクスルハウジング21側に押圧できるようにしている。ただし、本発明は荷重受治具19bおよび押付け治具18bの形状などを特に限定するものではない。例えば、荷重受治具19bは、バンジョウー24を把持してアクスルハウジング21を固定するように保持部材を備えるなどしても良いし、押付け治具18bは、異形チューブ22を当接位置へ誘導するためのガイド棒を備えても良い。
【0050】
図1には、接合部12(すなわち、図2に示されるアクスルハウジング21の軸筒10、異形チューブ22の軸筒11、アモルファス金属13)近傍を抜き出して示しており、アクスルケースの製造プロセスを詳細に説明している。以下、鋼材からなるアクスルハウジングの軸筒10およびFCD材からなる異形チューブの軸筒11とを、単に鋼材10、FCD材11と略称する。
【0051】
図1に示した製造装置15aは、本発明者が断面四角形状の鋼材とFCD材との健全な接合継手を得るための実験に使用した実験装置である。この製造装置15aは、Nガスなどで接合環境を無酸化雰囲気状態にするためのカバー部材16からなるシールド治具と、接合部材14を載置すると共に上下動して接合部材に荷重を負荷するための荷重受治具19aと、接合部材14を押付けるための押付け治具18aと、接合部12を加熱するためのインダクター20と、を備える。ここでは便宜上、カバー部材16に押付け治具18aが固定されると共に荷重受治具19aが上下動して接合部材14を押付け加工するようにしているが、本実施の形態は、これに限られるものではなく、図2に示したように荷重受治具19bを固定して押付け治具18bを上下動するようにしてもよい。また、押付け治具、荷重受治具とも上下動するようにしてもよい。
【0052】
さて、本実施の形態に係るアクスルケースの製造方法においては、まず、断面四角形状の鋼材10をプレス加工・溶接により形成すると共に、断面四角形状のFCD材11を鋳造により形成する。その後、図1(a)に示すように、接合部12の接合表面(突き合わせ面)を機械加工または研磨し、研磨した鋼材10とFCD材11との間にアモルファス金属13を挟んで接合部材14として、この接合部材14を製造装置15a内にセットする。
【0053】
本発明は接合部12に介在させるアモルファス金属13を特に限定するものではなく、鋼材10およびFCD材11に拡散接合可能であり、FCD材11の融点よりもろう付け温度が低くなるものから適宜選択可能である。例えば、Ni−B系アモルファス金属からなるシート材を接合界面にスポット接合などで仮付けして使用できる。また、Ni−B−Si系アモルファス金属粉末をバインダ樹脂と混練したものを、接合界面に塗布・乾燥して使用してもよい。
【0054】
製造装置15a内に接合部材14をセットし、接合部12近傍の接合部材14の内外表面を、例えばNガスを用いて無酸化雰囲気状態にした後、図1(b)に示すように、荷重受治具19aを用いて接合部材14を軸方向(図1では上方向)に押圧し、接合界面に30MPa程度の圧縮応力が作用するように加圧する。図3に示すように、この設置時間p1における接合部材14では、加熱および加工を行っていないので温度および変位は一定値で推移すると共に、固定の際に接合部材14に付与した圧縮応力に応ずる荷重が発生している。なお、インダクター20は、接合部12がインダクター20のコイル内に位置するように、インダクター20と接合部12との位置関係を調節される。
【0055】
しかる後、接合界面において板厚方向(図1では左右方向)の温度分布が一様となるように、接合部材14の板厚に応じた発信器周波数で、インダクター20により、接合部12近傍を加熱する。図3に示す加熱時間p2では、加熱に伴う接合部材14の熱膨張により、接合界面の荷重(圧縮応力)が自然に増加しており、変位(荷重受治具19aのストローク長さ)は減少している。
【0056】
ここで、加熱に使用するインダクター20は、接合部12の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなることが望ましい。1ターンコイルからなるインダクター20を使用することで、接合部12近傍に発生する加熱領域を狭め、接合中の入熱による接合部材14の金属組織および特性が変化する領域を狭めることができる。
【0057】
本実施の形態で使用するインダクター20の形状を図4に示している。
【0058】
図4(a)に示すように、インダクター20は1ターンコイルであり、断面四角形状の接合部12を覆うように略四角形状に形成した導体40と、その導体40に給電する給電リード部41と、を有する。導体40には、通電中の導体40を冷却するための冷却水路(図示せず)が内部に形成されている。
【0059】
インダクター20の給電リード部41の出側と入り側の間では、電流のショートおよびスパークを防止するための絶縁体42が配される。また、給電リード部41間の絶縁体42の影響およびインダクターが折曲がる部分は入り側、出側でお互い磁束を打ち消すことになる(図13)ので、給電リード部41位置での接合部12では、加熱温度が他の部分と比べて低くなり、低温加熱領域43が生ずる。
【0060】
さて、このようなインダクター20を用いて接合部12を誘導加熱し、接合界面の拡散が進む温度に達した後、1分間その温度を保持する(図3、保持時間p3)。このとき、FCD材11の融点は鋼材10の融点に比べ低いため、FCD材11の溶損を防ぐべく、温度制御は接合部12近傍のFCD材11側の温度を特に厳密に管理し、実施することとする。接合部12の温度(以下、単に接合温度という)は、アモルファス金属13のろう付け温度(例えば、アモルファス金属がNi−B−Si系成分からなるときには、950℃程度)以上、FCD材11の固相温度(例えば、約1150℃)以下とする。
【0061】
ここで、インダクター20の軸方向の配置位置は、図5に示すように、接合部12の接合中心から鋼材10側(すなわち、アクスルハウジング側)にずらし、鋼材10側の加熱温度をFCD材11側の加熱温度より大きくすることが好ましい。
【0062】
接合部12を接合温度に1分間保持した後、図1(c)に示すように、荷重受治具19aを用いて軸方向(図1中では上下方向)からさらに圧縮負荷を加え接合部12をアプセット加工し、同部の増肉を図る(図3、増肉拡散時間p4)。
【0063】
アプセット加工では、接合部12の温度を接合温度に維持し、増肉部と非増肉部との連続形状が応力集中を受けるような形状とならないアプセット量(軸方向への押付け量)で、接合部12を押付けて増肉する。
【0064】
アプセット量と接合部12の増肉形状との関係には、接合部12の加熱領域、すなわちインダクター20の寸法が大きく影響する。この関係について本発明者が鋭意研究を行ったところ、アクスルケースにおける接合部12の板厚(例えば、12mm程度)においては、板厚方向に均等に熱を発生させるべく、図5に示すようにインダクター20の軸方向に対するコイル長さHを設置時間p1の際の板厚(すなわち、突き合わせた接合部の板厚)t0の1.6〜2倍の長さとし、かつ、アプセット量を板厚t0の30〜50%とすると、接合部12の増肉部と非増肉部との連続形状が緩やかとなり、応力集中を受けるような形状とならず、好適であることを見出した。
【0065】
なお、アプセット加工時に、インダクター20の軸方向の配置位置が接合中心となっている場合、比較的融点の低いFCD材11の変形が大きくなり、増肉部と非増肉部との連続形状が急峻となり、応力集中を受ける形状となるため、好ましくない。そのため、上述のようにインダクター20の軸方向の配置位置は、接合部12の接合中心から鋼材10側にずらされていると良い(図5)。より具体的には、インダクター20の配置位置は、接合中心からFCD材11側へのコイル長さh1と、接合中心から鋼材10側へのコイル長さh2との比が、h1:h2=1:3となるようにされることが望ましい。このようにすると、アプセット加工時の鋼材10とFCD材11の変形を均等とし、アプセット加工時にインダクター20の配置位置が設置時間p1の際の位置から変化しても、FCD材11が溶損するような加熱温度となることを防止することができる。
【0066】
アプセット加工後は接合部12を拡散温度に2分間保持し、アモルファス金属13の成分を接合部材14へ(鋼材10およびFCD材11へ)さらに拡散させる。2分保持後、高周波誘導加熱装置の電源を切り、加圧を止め、1回目の拡散接合を終了する。
【0067】
しかる後、図1(d)に示すように、接合されたアクスルケースは、次工程へと移り、エア吹付け孔(図示せず)から接合部12へエアを吹付けるなどして、接合部12を冷却する(図3、冷却時間p5)。
【0068】
ところで、1ターンコイルからなるインダクター20では、上述したように低温加熱領域43(すなわち、導体40の給電リード部41位置での接合部12)の加熱温度が他の部分と比べて低くなるため、1回目の拡散接合後では低温加熱領域43の接合強度が不十分である。
【0069】
接合部材14およびインダクター20の形状がともに円環状である場合には、誘導加熱しつつ接合部材14およびインダクター20を軸筒周りに相対回転させることで、導体40の給電リード部位置に起因する低温加熱領域43を解消し、一様な接合強度を得ることができるが、断面四角形状の接合部材14においては、誘導加熱しつつ接合部材14とインダクター20とを相対回転させることができない。
【0070】
加えて、アプセット加工による加工組織が接合部12に残留すると、金属組織が安定せず、特に接合部12のコーナー部では組織および特性の変化が顕著であり、接合部12近傍のFCD材11が低引張負荷で破断を示すなど、継手強度が低下する虞がある。
【0071】
そこで本実施の形態では、1回目の拡散接合の後、インダクター20の給電リード部位置を変更すべくインダクター20を軸筒周りに180度あるいは90度回転させて再配置し、接合部12を再加熱して2回目の拡散接合を行う(図1(e))。鋼材10およびFCD材11の断面形状が長方形である場合には、インダクター20の回転角度は180度とするが、断面形状が略正方形である場合には、インダクター20の回転角度を90度としてもよい。
【0072】
2回目の拡散接合の際の温度は、1回目の拡散接合温度(すなわち、アモルファス金属13のろう付け温度以上、FCD材11の固相温度以下)とされ、昇温後、3分間保持する。また、インダクター20の軸方向の配置位置は、接合部12の接合中心とする。
【0073】
このとき、鋼材10とFCD材11との接合界面は既に接合されており、接合界面の酸化による接合不良の虞がないことから、接合部12の表面にスケール防止剤を塗布する程度で、Nガスなどの無酸化雰囲気で加熱を行う必要はなく、図1(e)に示すように、シールド手段を不要とすることができる。また、アプセット加工を行わないので押付け治具18aおよび荷重受治具19aは不要であり、荷重受治具19aに替えて載置台を使用したり、別の製造ラインに移動することもできる。
【0074】
2回目の拡散接合の後、エア吹付け孔からエアを吹付けて接合部12を空冷(冷却)するが、この際の冷却速度は1〜3℃/secとするとよい。冷却速度が上記範囲よりも大きい場合、接合部12近傍の急速収縮により割れが発生しやすく、また冷却速度が上記範囲よりも小さい場合、接合部12近傍が過度に軟化することとなり、好ましくない。
【0075】
このように2回目の拡散接合を行うことで、1回目の拡散接合において低温加熱領域43となった接合部12の強度を向上させ、接合部12の継手強度を一様とすることができる。また、接合部12のコーナー部に増肉加工による加工組織が残留した場合には、金属組織の回復・再結晶(あるいは変態)による加工組織の解消を促進することができる。
【0076】
さらに本実施の形態では、2回目の拡散接合(および空冷)後、接合部12の調質を目的とした後熱処理を行うとよい。
【0077】
2回目の拡散接合(および空冷)を行ったままの接合部12では、FCD材11側の接合部12近傍において球状黒鉛が片状黒鉛となってFCD材11の延性が低下し、また、接合部12近傍の金属組織には焼きが入って硬化する(例えば、約500HV程度となる)ため、製品として使用する際に要求される特性を満足できない場合がある。
【0078】
そこで、FCD材11中の黒鉛を球状化し、接合部12近傍の硬化組織を焼戻すことを目的として、2回目の拡散接合(および空冷)を行った接合部材14に対し、インダクター20を用いて誘導加熱し3分間の後熱処理を行う(図1(f))。インダクター20の軸方向の配置位置は、接合中心とする。
【0079】
後熱処理の温度は、FCD材11のA1変態点(すなわち、共析変態の開始温度)を中心に、700〜750℃の範囲であればよい。温度を高くすると引張強さが低下するが伸びは向上し、逆に温度が低いと引張強さが向上するが伸びは低下する。要求される特性に応じて、後熱処理の温度を決定するとよい。
【0080】
なお、後熱処理を行った後、インダクター20に備えられたエア吹付け孔からエアを吹付け、接合部12を冷却速度1〜3℃/secで空冷するとよい。冷却速度が上記範囲よりも大きい場合、接合部12近傍の急速収縮により割れが発生しやすく、また冷却速度が上記範囲よりも小さい場合、接合部12近傍が過度に軟化することとなり、好ましくない。
【0081】
以上のように、本実施の形態に係るアクスルケースの製造方法は、断面四角形状の鋼材10およびFCD材11の接合部12にアモルファス金属13を介在させ、1ターンコイルからなるインダクター20を用いて拡散接合を行うことにより、接合部12近傍が硬化するなどの熱影響を低減でき、高品質の接合継手を有するアクスルケースを製造できる。
【0082】
また、アプセット加工と1回目の拡散接合を同時に行うため、突き合わせ時の接合界面の鋼材10、アモルファス金属13、およびFCD材11間に凹凸による間隙が存在した場合には、誘導加熱により軟化したアモルファス金属13がアプセット加工により間隙に充填されて、空隙などの接合欠陥が接合部12に形成されることを防止できる。
【0083】
拡散接合後に後熱処理を行った際には、製品に要求される特性に応じた接合継手を有するアクスルケースを提供できる。
【0084】
なお、この製造装置により製造されるアクスルケースの構造は、アクスルハウジング側をプレス加工・溶接により形成し、比較的複雑な形状を有する異形チューブ側を鋳造により一体化形成しているため、アクスルハウジングの組立製造コストを削減できる。さらに、軸筒の長さを変更するなど、異なる形状を有するアクスルケースを製造する場合、アクスルハウジング側の鋼板のブランク長さ(プレス加工・溶接により軸筒部となる部分)の変更、または異形チューブの部品形状の変更で対応できるため、型投資することなく、アクスルケースの形状変更を達成することが可能になり、製造コスト削減が図れる。
【0085】
本発明は上記実施の形態に限られるものではなく、種々の変更が可能である。
【0086】
例えば、1回目の拡散接合において使用するインダクター20の形状を、図6に示すように、1ターンコイルの内幅が鋼材10側(すなわち、アクスルハウジング側)に向けて小さくなるように、5〜15°の範囲のテーパ60を設けてもよい。これにより、鋼材10とFCD材11との加熱温度差がさらに大きくなり、接合品質をより向上させることができる。
【0087】
また、2回目の拡散接合および後熱処理を行うためのインダクターは、1回目の拡散接合を行う際に使用するインダクター20と同一である必要はなく、例えば1回目の拡散接合終了後、接合部材を別の製造ラインに移動し、低温加熱領域を解消するために給電リード部位置を変えた別のインダクターを用いて、2回目の拡散接合を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0088】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0089】
[実施例]
まず、鋼材(高張力鋼)をプレス加工・溶接して断面四角形状の軸筒を形成すると共に、FCD材を鋳造して断面四角形状の軸筒を形成した。鋼材およびFCD材の軸筒の板厚は、共に12mmであった。
【0090】
これら軸筒の突き合わせ面の初期酸化膜を研削加工で除去しておき、鋼材側にNi−B系アモルファスシートをスポット溶接で仮付けした。仮付けしたアモルファスシートを鋼材およびFCD材で挟み込み、接合部とした。
【0091】
この接合部を、図1に示したような製造装置内にセットし、接合界面に30MPa程度の応力が作用するように初期固定荷重を接合部材に加圧した。接合装置内にNガスを導入して1気圧の非酸化雰囲気とした。ここでは、FCD材の接合界面直近に熱電対を取り付け、接合温度を直接に測温・管理した。インダクターの軸方向の配置位置は、FCD材側の長さ:鋼材側の長さ=1:3となるようにした。
【0092】
この接合部を1ターンコイルからなるインダクターを用いて1100℃に加熱して1分間保持した後、アプセット量を5.4mm(初期板厚12mm×45%)にてアプセット加工し、接合部を増肉した。アプセット加工後、1100℃でさらに2分間保持して1回目の拡散接合を行った後、接合部を冷却した。
【0093】
その後、接合部周りにインダクターを180度回転させて再配置すると共に、接合部に酸化スケール防止剤を塗布しておき、これをインダクターで誘導加熱した。インダクターの軸方向の配置位置は、接合中心と同じとした。接合部を1100℃に3分間保持して2回目の拡散接合を行った後、接合品を拡散接合装置から取外し、エア吹付け孔からエアを吹付けて平均冷却速度1〜3℃/secで空冷した。
【0094】
冷却後、インダクターを用いて接合部をFCD材のA1変態点に誘導加熱し、3分間保持して後熱処理した。インダクターの軸方向の配置位置は、接合中心と同じとした。後熱処理を行った後、接合品を拡散接合装置から取外し、エア吹付け孔からエアを吹付けて平均冷却速度1〜3℃/secで空冷した。
【0095】
図7に、上記の手順により製造した接合部の断面形状および金属組織写真を示す。
【0096】
図7(a)に示すように、本実施例で製造した接合部の断面形状は、増肉部と非増肉部との連続形状が緩やかであり、応力集中を受けにくい形状となった。
【0097】
また、接合部近傍の断面組織は、空隙および接合不足などの接合欠陥が無く、健全に接合されていると共に、FCD側の金属組織では黒鉛の球状化が進んでいることが解る(図7(b))。
【0098】
この接合部に対してマイクロビッカース硬さ分布を測定したところ、接合界面の最大硬さは350HV以下の値を示し、アクスルケースの製品として使用に耐えうる硬さであった(図8)。また、鋼材側、FCD材側とも一様な硬さ分布を示しており、接合中の入熱による金属組織への熱影響が低減されていることが解る。
【0099】
さらに、接合部材に対して引張耐久および曲げ耐久試験を行った結果、接合部材の強度はFCD材の母材強度を満足した。
【0100】
[比較例1]
上記実施例と同じ手順で1回目の拡散接合を行った後、冷却し、2回目の拡散接合および後熱処理を省略した接合部材のコーナー部から引張試験片を作製し、引張試験を行った結果を図9に示す。
【0101】
この試験片は降伏後の塑性変形域がほとんど見られず、低引張強さのままFCD材側の接合部近傍で破壊した。
【0102】
つまり、本発明に係るアクスルケースの製造方法では、2回目の拡散接合を行うことで、接合継手の性能を向上できることが解る。
【0103】
[比較例2]
上記実施例と同じ手順で接合装置内にセットした接合部材を1ターンコイルからなるインダクターを用いて1100℃に加熱し、1分間保持した後、アプセット量8.7mm(初期板厚12mm×72%)にてアプセット加工し、接合部を増肉した。アプセット加工後、1100℃でさらに2分間保持して1回目の拡散接合を行った後、接合部を冷却した。
【0104】
以降、実施例と同じ手順で2回目の拡散接合および冷却、後熱処理および冷却を行った。
【0105】
この手順により製造した接合部の断面形状は、図10(a)に示すように、増肉部と非増肉部との連続形状が急峻であり、応力集中を受けやすい形状となった。
【0106】
また、この接合部材のコーナー部では、図10(b)に示すようにFCD材の変形限界による割れが観察された。
【0107】
つまり、本発明のアクスルケースの製造方法に係るアプセット量の範囲は、接合部の増肉部と非増肉部との連続形状を応力集中を受けにくい形状としつつ、強度を向上させる好適な範囲であり、かつ、加工性に乏しいFCD材に割れが発生することなく増肉接合できる範囲であることが解る。
【0108】
[比較例3]
上記実施例と同じ手順で接合装置内にセットした接合部材を1ターンコイルからなるインダクターを用いてFCD材の固相温度より高温に加熱し、1分間保持した後、アプセット量5.4mm(初期板厚12mm×45%)にてアプセット加工し、接合部を増肉した。アプセット加工後、さらにFCD材の固相温度より高温に2分間保持して1回目の拡散接合を行った後、接合部を冷却した。
【0109】
以降、実施例と同じ手順で2回目の拡散接合および冷却、後熱処理および冷却を行った。
【0110】
この手順により製造した接合部では、図11に示すように、FCD材の溶け落ちが発生しており、接合部の品質が低下した。
【0111】
つまり、1回目の拡散接合時の温度は、FCD材の固相温度以下の範囲とされることが好ましいことが解る。
【符号の説明】
【0112】
10 軸筒(鋼材)
11 軸筒(FCD材)
12 接合部
17 インダクター
41 給電リード部
43 低温加熱領域
【技術分野】
【0001】
本発明は差動歯車を収容するアクスルケースの製造方法に係り、特に、断面四角形状の鋼材とFCD材とを接合してなるアクスルケースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクスルケースは、鋼板をプレス加工して形成したプレス材を溶接組立したバンジョウー部品、または、球状黒鉛鋳鉄(Ferrum Casting Ductile;FCD)製バンジョウー部品、または、鋳鋼製バンジョウー部品と、熱間鍛造で成形したチューブを接合して製造されている。
【0003】
一般的に、鋼材とFCD材とを直接溶接接合することは困難であることから、鋼材とFCD材との健全な異材継手を得るべく、従来から様々な工夫が為されてきた。
【0004】
例えば、アクスルハウジング本体を形成するためFCD材を鋳型に鋳造する際に、鋳型内に耐酸化被膜を形成した鋼製リングをセットし、溶けたFCD材で鋼製リングを鋳ぐるみ、鋳ぐるまれた鋼製リングを切削加工によりFCD材から露出させ、その鋼製リングと鋼製チューブとをアーク溶接にて接合してアクスルケースを製造する技術がある(例えば、特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、この手法は、湯が流れてきたときの熱を利用するため、鋼製リング表面の耐酸化被膜とFCD、耐酸化被膜と鋼製リングとの接合界面との拡散が不十分となること、接合界面にボイドが発生することがまれにあり、品質維持のために、超音波検査による確認が必要である。また、接合部の強度を確保するためには接合部近傍の肉厚を厚くする必要があり、アクスルの重量増加となる。さらに、文献では、鋼製チューブが丸断面形状であり、旋盤で容易に切削、剥き出しにすることが可能であるが、接合部位が角断面になると、その切削は容易ではない。
【0005】
これに対し、鋼製リングとFCD材との間にアモルファス金属を挿入し、接合部を加熱して拡散接合を行うことが示された(例えば、非特許文献2)。アモルファス金属を接合部に介在させて拡散接合を行うことで、鋼材とFCD材とを直接に接合することができる。ただし、接合部に断面変化を伴わない(すなわち、接合部を増肉するためのアプセット加工を伴わない)接合であるため、接合部の強度を向上させることはできず、直接、強度が必要な部分への適用は難しい。増肉された接合部は、接合部に作用する応力を低減できるため、強度が必要な部分へ適用される接合部は、増肉されていることが望ましい。
【0006】
非特許文献3では、アモルファス金属を使わずにアモルファス金属に相当する金属を電気めっき法で鋼材側に塗着させ拡散接合させる方法が示されているが、基礎研究であり、工業量産製品への適用については、触れられていない。
【0007】
特許文献2および非特許文献4では、アモルファス金属シートやアモルファス粉末バインダを接合する面の間に挟み、拡散接合させ、さらに力を加え、接合部を増肉させる手法が提案された。しかし、この手法は丸断面パイプや中実丸棒に対してのみ適用され、また鋼同士の接合であり、断面四角形状を有するパイプ材の鋼材とFCD材との接合については検討されていない。
【0008】
また、非特許文献5では丸パイプ形状のS45C(炭素鋼)とFCD600のアモルファス金属シートを使った拡散接合の基礎実験結果について述べられており、断面四角形状を有するパイプ材同士の接合については検討されていない。加えて、接合後の界面近傍の硬さは500HV超で、アクスルケースの工業製品としての使用は難しい。
【0009】
特許文献3〜5には、拡散接合に使用するNiベースの合金粉末(あるいはアモルファス粉末)に関する塗布方法、その成分について述べている。
【0010】
つまり、以上の検討は何れも丸形状のパイプ材同士を接合する手法について示されており、断面四角形状のパイプ材同士の接合部の変形(増肉)を伴う接合は未検討である。さらに、融点の異なる金属同士(例えば、鋼材とFCD材)を接合して製造する量産品を、使用可能なレベルとする結果は得られていないのが現状である。
【0011】
近年では、特許文献6〜9に示されるように、軸筒部分が断面四角形状のアクスルケースが開発されつつある。このような構造のアクスルケースでは、アクスルケースの製造に係る部品点数・工程数を減少させ、製造コストを削減することができる。しかし特許文献6〜9では、その接合部が増肉形状にあることは示されておらず、接合部の強度を向上させることは示されていない。
【0012】
一方、本発明者は、断面四角形状で接合しつつ、その接合部を増肉したアクスルケースの構造を提案した(特許文献10)。
【0013】
図12は、提案したアクスルケースの構造を示す図であり、(a)は全体図、(b)は接合部近傍の拡大図である。
【0014】
このアクスルケース100は、アクスルハウジング101と異形チューブ103とからなる。
【0015】
アクスルハウジング101は、差動ギアを収容するための空洞を有する環状のバンジョウー105を有し、そのバンジョウー105から断面四角形状の軸筒102が軸方向に延出するように形成されている。このアクスルハウジング101は、鋼板(低合金鋼、高張力鋼など)をプレス加工して形成した断面コ字状の上部部材106と下部部材107とを、突き合わせ接合して形成される。
【0016】
また異形チューブ103は、断面四角形状の軸筒104と、円筒108と、軸筒104および円筒108との間で断面形状を四角形から円形に徐々に変化させる異形連結部109と、を有する。さらに異形チューブ103の軸筒104には、ブレーキ支持体110が設けられる。この異形チューブ103は、FCD材を鋳造して一体形成される。
【0017】
しかる後、アクスルハウジング101に形成された断面四角形状の軸筒102と、同じく異形チューブ103に形成された断面四角形状の軸筒104と、を接合して、アクスルケース100が製造される。
【0018】
この接合部111は増肉された増肉部112,113を有しており、接合部111に作用する応力を減少させることで、接合部111の強度を向上させている。
【0019】
また、増肉された接合部111は、接合前に予め形成した増肉部112,113との間にアモルファス金属114を挟み込み、これを加熱して拡散接合することで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2004−249881号公報
【特許文献2】特開2003−33884号公報
【特許文献3】独国特許出願公開第102006041901号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102006051718号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102007006039号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/024425号
【特許文献7】国際公開第2006/136317号
【特許文献8】独国特許出願公開第10255209号明細書
【特許文献9】特開2009−202848号公報
【特許文献10】特開2010−188924号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】黒木俊昭ほか,「鋳造同時拡散接合によるアクスルハウジングのFCD化」,自動車技術,第58巻,第9号,2004年,p.97−102
【非特許文献2】黒木俊昭ほか,「拡散接合による部品コストの削減」,自動車技術,第52巻,第12号,1998年,p.76−80
【非特許文献3】益本広久ほか,「球状黒鉛鋳鉄と鋼の拡散接合性に及ぼすニッケルめっき層の効果,−球状黒鉛鋳鉄の固相接合(第11報)−」,溶接学会全国大会講演概要,第58集,1996年4月,p.210−211
【非特許文献4】小溝裕一ほか,「アモルファス接合システム」,溶接学会誌,第66巻,第7号,1997年,p.10−13
【非特許文献5】竹之内優ほか,「鋳鉄/鋼液相拡散接合継手の機械的特性に及ぼす接合条件の影響」,電気製鋼,第67巻,第3号,1996年,p.161−170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところで、このアクスルケース100を製造する際には、断面四角形状の鋼材とFCD材との間にアモルファス金属(B,Si,Ni等を有する)を介在させ、これを高周波誘導加熱し、加熱された接合部材同士を拡散接合してアクスルケース100を製造することが行われる。
【0023】
拡散接合を行いつつ接合部を押付けて増肉すると、接合部を予め増肉しておくプロセスを省略できるため好適であるが、断面四角形状の鋼材とFCD材とを増肉しつつ接合する技術については未だ課題があり、アクスルケースに実用可能なレベルに達していないのが現状である。
【0024】
アクスルケースのような強度部材を接合する際には、接合部の強度を増肉して向上させることに加えて、接合中の入熱による金属組織や特性が変化する領域(熱影響部)を狭めることが求められる。そこで、1ターンコイルからなるインダクターを用いるが、図13に示すように、1ターンコイルは給電リードの出側と入り側を絶縁する必要があり、給電リード位置での接合部材(ワーク)では低温加熱領域となる。
【0025】
低温加熱領域では拡散接合後の強度が他の部分と比べて低下する虞があるため、丸断面を有する接合部材では、誘導加熱しつつ丸形状のコイル内で接合部材を回転させて低温加熱領域を解消することが行われる。
【0026】
しかしながら、角断面形状を有する軸筒と、これを均等に加熱すべく四角形状とされたコイルでは、誘導加熱しつつコイル内で接合部材を回転させることができないため、低温加熱領域の低強度を解消することができず、接合部の強度がアクスルケースに求められるレベルに達しない虞がある。
【0027】
また、鋼材およびFCD材を拡散接合した接合部の近傍では、FCD材中の黒鉛が片状となったり、金属組織に焼きが入って硬化したりするため、工業製品として使用できない場合がある。
【0028】
すなわち、より継手性能の高いアクスルケースを製造するためには、断面四角形状の鋼材とFCD材とを増肉接合する際に、入熱による接合部近傍への熱影響を低減しつつ、接合継手の品質(強度、延性、疲労強度など)を向上できる製造プロセスを開発する必要がある。
【0029】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、断面四角形状を有するFCD材と鋼材とを増肉させつつ拡散接合する際に、接合部近傍の熱影響を低減し、接合継手の品質を向上できるアクスルケースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成するために本発明は、鋼材からなるアクスルハウジングに形成された断面四角形状の軸筒とFCD材からなる異形チューブの断面四角形状の軸筒とを突き合わせ、その接合部にアモルファス金属を介在させ、その軸筒同士の接合部の板厚を増肉させつつ拡散接合するアクスルケースの製造方法において、前記接合部の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなるインダクターを配置し、そのインダクターで前記接合部を誘導加熱すると共に、その接合部を軸方向に押付けて前記接合部の板厚を増肉させるアプセット加工を施しつつ前記接合部の1回目の拡散接合を行った後冷却し、しかる後、インダクターの給電リード部位置での低温加熱領域を誘導加熱すべく、インダクターを前記軸筒周りに180度あるいは90度回転し再配置して前記接合部の2回目の拡散接合を行うようにしたアクスルケースの製造方法である。
【0031】
前記1回目の拡散接合を行う際に、インダクターの軸方向の配置位置を接合中心から前記アクスルハウジング側にずらして誘導加熱し、前記アクスルハウジングと前記異形チューブとの間に加熱温度差を設けて拡散接合するとよい。
【0032】
前記1回目の拡散接合の温度は、前記アモルファス金属のろう付け温度以上、前記FCD材の固相温度以下の範囲とするとよい。
【0033】
前記インダクターは、前記軸筒の軸方向に対するコイル長さが前記突き合わせた接合部の板厚の1.6〜2倍の長さを有し、前記アプセット加工は、前記軸筒の軸方向に対するアプセット量を前記板厚の30〜50%の範囲とするとよい。
【0034】
前記2回目の拡散接合の温度は、前記1回目の拡散接合の温度と同じであり、前記2回目の拡散接合を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して拡散接合するとよい。
【0035】
前記2回目の拡散接合を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷するとよい。
【0036】
前記2回目の拡散接合の後、前記接合部の前記FCD材中の黒鉛を球状化すべく、前記接合部をインダクターで誘導加熱して、後熱処理を行うとよい。
【0037】
前記後熱処理の温度は、前記FCD材のA1変態点を中心に700〜750℃の範囲とし、前記後熱処理を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して、後熱処理するとよい。
【0038】
前記後熱処理を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷するとよい。
【0039】
前記1回目の拡散接合を行う際に、前記1ターンコイルの内幅が前記アクスルハウジングに向けて小さくなるように5〜15°の範囲のテーパを設けて形成された前記インダクターを用いるとよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、断面四角形状を有するFCD材と鋼材とを増肉させつつ拡散接合する際に、接合部近傍の熱影響を低減し、接合継手の品質を向上できるアクスルケースの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るアクスルケースの製造方法の概念を模式的に示す図であり、(a)〜(f)は接合部断面を示している。
【図2】本発明に係るアクスルケースの製造方法を実施するための装置構成を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図3】接合中の温度曲線、変位曲線および荷重曲線を示す図である。
【図4】本発明で使用するインダクターを示す断面図である。
【図5】本発明に係る接合部とインダクターとの位置関係を示す断面図である。
【図6】本発明で使用するインダクターを示す断面図である。
【図7】本発明の実施例に係る接合部の断面写真を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る接合部の断面硬さ分布を示す図である。
【図9】本発明の比較例に係る接合部の荷重−変位曲線を示す図である。
【図10】本発明の比較例に係る接合部を示す図であり、(a)は断面写真、(b)は外観写真である。
【図11】本発明の比較例に係る接合部の外観写真を示す図である。
【図12】本発明が適用されるアクスルケースの構造を示す図である。
【図13】誘導加熱の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明の好適な実施の形態について図面に基づき説明する。
【0043】
本発明が適用されるアクスルケースの構造は、上述した図12に示すアクスルケースの構造と同じである。
【0044】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るアクスルケースの製造方法の概念を示す図であり、本発明者が断面四角形状の鋼材とFCD材との健全な接合継手を得るために使用した製造装置(実験装置)である。
【0045】
また、図2は、本実施の形態に係るアクスルケースを製造するための装置構成を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【0046】
図2に示すように、本実施の形態に係るアクスルケースの製造装置15bは、鋼材からなるアクスルハウジング21に形成された軸筒10と、FCD材からなる異形チューブ22の軸筒11とをアモルファス金属13を介し突き合わせた接合部材14の、接合部12を誘導加熱により接合してアクスルケースを製造するためのものである。
【0047】
製造装置15bは、接合部12の周囲に配されて接合部12を誘導加熱するインダクター20と、加熱圧接時に接合部およびその近傍をNガス雰囲気にするためにNガスを噴出される噴出孔を有しかつそれを囲むチャンバー装置17と、アクスルハウジング21を支持・固定するための荷重受治具19bと、異形チューブ22をアモルファス金属13を介してアクスルハウジング21側(図2中では下方向)に押付けるための押付け治具18bと、接合部12の周囲においてアクスルハウジング21および異形チューブ22に装着されて接合部12の周囲を冷却するための冷却ジャケット23と、を備える。
【0048】
四角形状の1ターンコイルからなるインダクター20が収納されたチャンバー装置17は、空冷用のエア吹付け孔を有すると共に、Nガスなどを用いて接合部12を非酸化雰囲気とするためのガスシールド治具を備える。
【0049】
荷重受治具19bは円柱状に形成され、アクスルハウジング21のバンジョウー24の空洞に挿入された荷重受治具19bはバンジョウー24の内側からアクスルハウジング21を載置して支持・固定できるようにしている。また、押付け治具18bは中実の直方体形状に形成され、異形チューブ22の円筒25に軸方向(図2では上下方向)から当接させた押付け治具18bが、異形チューブ22をアクスルハウジング21側に押圧できるようにしている。ただし、本発明は荷重受治具19bおよび押付け治具18bの形状などを特に限定するものではない。例えば、荷重受治具19bは、バンジョウー24を把持してアクスルハウジング21を固定するように保持部材を備えるなどしても良いし、押付け治具18bは、異形チューブ22を当接位置へ誘導するためのガイド棒を備えても良い。
【0050】
図1には、接合部12(すなわち、図2に示されるアクスルハウジング21の軸筒10、異形チューブ22の軸筒11、アモルファス金属13)近傍を抜き出して示しており、アクスルケースの製造プロセスを詳細に説明している。以下、鋼材からなるアクスルハウジングの軸筒10およびFCD材からなる異形チューブの軸筒11とを、単に鋼材10、FCD材11と略称する。
【0051】
図1に示した製造装置15aは、本発明者が断面四角形状の鋼材とFCD材との健全な接合継手を得るための実験に使用した実験装置である。この製造装置15aは、Nガスなどで接合環境を無酸化雰囲気状態にするためのカバー部材16からなるシールド治具と、接合部材14を載置すると共に上下動して接合部材に荷重を負荷するための荷重受治具19aと、接合部材14を押付けるための押付け治具18aと、接合部12を加熱するためのインダクター20と、を備える。ここでは便宜上、カバー部材16に押付け治具18aが固定されると共に荷重受治具19aが上下動して接合部材14を押付け加工するようにしているが、本実施の形態は、これに限られるものではなく、図2に示したように荷重受治具19bを固定して押付け治具18bを上下動するようにしてもよい。また、押付け治具、荷重受治具とも上下動するようにしてもよい。
【0052】
さて、本実施の形態に係るアクスルケースの製造方法においては、まず、断面四角形状の鋼材10をプレス加工・溶接により形成すると共に、断面四角形状のFCD材11を鋳造により形成する。その後、図1(a)に示すように、接合部12の接合表面(突き合わせ面)を機械加工または研磨し、研磨した鋼材10とFCD材11との間にアモルファス金属13を挟んで接合部材14として、この接合部材14を製造装置15a内にセットする。
【0053】
本発明は接合部12に介在させるアモルファス金属13を特に限定するものではなく、鋼材10およびFCD材11に拡散接合可能であり、FCD材11の融点よりもろう付け温度が低くなるものから適宜選択可能である。例えば、Ni−B系アモルファス金属からなるシート材を接合界面にスポット接合などで仮付けして使用できる。また、Ni−B−Si系アモルファス金属粉末をバインダ樹脂と混練したものを、接合界面に塗布・乾燥して使用してもよい。
【0054】
製造装置15a内に接合部材14をセットし、接合部12近傍の接合部材14の内外表面を、例えばNガスを用いて無酸化雰囲気状態にした後、図1(b)に示すように、荷重受治具19aを用いて接合部材14を軸方向(図1では上方向)に押圧し、接合界面に30MPa程度の圧縮応力が作用するように加圧する。図3に示すように、この設置時間p1における接合部材14では、加熱および加工を行っていないので温度および変位は一定値で推移すると共に、固定の際に接合部材14に付与した圧縮応力に応ずる荷重が発生している。なお、インダクター20は、接合部12がインダクター20のコイル内に位置するように、インダクター20と接合部12との位置関係を調節される。
【0055】
しかる後、接合界面において板厚方向(図1では左右方向)の温度分布が一様となるように、接合部材14の板厚に応じた発信器周波数で、インダクター20により、接合部12近傍を加熱する。図3に示す加熱時間p2では、加熱に伴う接合部材14の熱膨張により、接合界面の荷重(圧縮応力)が自然に増加しており、変位(荷重受治具19aのストローク長さ)は減少している。
【0056】
ここで、加熱に使用するインダクター20は、接合部12の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなることが望ましい。1ターンコイルからなるインダクター20を使用することで、接合部12近傍に発生する加熱領域を狭め、接合中の入熱による接合部材14の金属組織および特性が変化する領域を狭めることができる。
【0057】
本実施の形態で使用するインダクター20の形状を図4に示している。
【0058】
図4(a)に示すように、インダクター20は1ターンコイルであり、断面四角形状の接合部12を覆うように略四角形状に形成した導体40と、その導体40に給電する給電リード部41と、を有する。導体40には、通電中の導体40を冷却するための冷却水路(図示せず)が内部に形成されている。
【0059】
インダクター20の給電リード部41の出側と入り側の間では、電流のショートおよびスパークを防止するための絶縁体42が配される。また、給電リード部41間の絶縁体42の影響およびインダクターが折曲がる部分は入り側、出側でお互い磁束を打ち消すことになる(図13)ので、給電リード部41位置での接合部12では、加熱温度が他の部分と比べて低くなり、低温加熱領域43が生ずる。
【0060】
さて、このようなインダクター20を用いて接合部12を誘導加熱し、接合界面の拡散が進む温度に達した後、1分間その温度を保持する(図3、保持時間p3)。このとき、FCD材11の融点は鋼材10の融点に比べ低いため、FCD材11の溶損を防ぐべく、温度制御は接合部12近傍のFCD材11側の温度を特に厳密に管理し、実施することとする。接合部12の温度(以下、単に接合温度という)は、アモルファス金属13のろう付け温度(例えば、アモルファス金属がNi−B−Si系成分からなるときには、950℃程度)以上、FCD材11の固相温度(例えば、約1150℃)以下とする。
【0061】
ここで、インダクター20の軸方向の配置位置は、図5に示すように、接合部12の接合中心から鋼材10側(すなわち、アクスルハウジング側)にずらし、鋼材10側の加熱温度をFCD材11側の加熱温度より大きくすることが好ましい。
【0062】
接合部12を接合温度に1分間保持した後、図1(c)に示すように、荷重受治具19aを用いて軸方向(図1中では上下方向)からさらに圧縮負荷を加え接合部12をアプセット加工し、同部の増肉を図る(図3、増肉拡散時間p4)。
【0063】
アプセット加工では、接合部12の温度を接合温度に維持し、増肉部と非増肉部との連続形状が応力集中を受けるような形状とならないアプセット量(軸方向への押付け量)で、接合部12を押付けて増肉する。
【0064】
アプセット量と接合部12の増肉形状との関係には、接合部12の加熱領域、すなわちインダクター20の寸法が大きく影響する。この関係について本発明者が鋭意研究を行ったところ、アクスルケースにおける接合部12の板厚(例えば、12mm程度)においては、板厚方向に均等に熱を発生させるべく、図5に示すようにインダクター20の軸方向に対するコイル長さHを設置時間p1の際の板厚(すなわち、突き合わせた接合部の板厚)t0の1.6〜2倍の長さとし、かつ、アプセット量を板厚t0の30〜50%とすると、接合部12の増肉部と非増肉部との連続形状が緩やかとなり、応力集中を受けるような形状とならず、好適であることを見出した。
【0065】
なお、アプセット加工時に、インダクター20の軸方向の配置位置が接合中心となっている場合、比較的融点の低いFCD材11の変形が大きくなり、増肉部と非増肉部との連続形状が急峻となり、応力集中を受ける形状となるため、好ましくない。そのため、上述のようにインダクター20の軸方向の配置位置は、接合部12の接合中心から鋼材10側にずらされていると良い(図5)。より具体的には、インダクター20の配置位置は、接合中心からFCD材11側へのコイル長さh1と、接合中心から鋼材10側へのコイル長さh2との比が、h1:h2=1:3となるようにされることが望ましい。このようにすると、アプセット加工時の鋼材10とFCD材11の変形を均等とし、アプセット加工時にインダクター20の配置位置が設置時間p1の際の位置から変化しても、FCD材11が溶損するような加熱温度となることを防止することができる。
【0066】
アプセット加工後は接合部12を拡散温度に2分間保持し、アモルファス金属13の成分を接合部材14へ(鋼材10およびFCD材11へ)さらに拡散させる。2分保持後、高周波誘導加熱装置の電源を切り、加圧を止め、1回目の拡散接合を終了する。
【0067】
しかる後、図1(d)に示すように、接合されたアクスルケースは、次工程へと移り、エア吹付け孔(図示せず)から接合部12へエアを吹付けるなどして、接合部12を冷却する(図3、冷却時間p5)。
【0068】
ところで、1ターンコイルからなるインダクター20では、上述したように低温加熱領域43(すなわち、導体40の給電リード部41位置での接合部12)の加熱温度が他の部分と比べて低くなるため、1回目の拡散接合後では低温加熱領域43の接合強度が不十分である。
【0069】
接合部材14およびインダクター20の形状がともに円環状である場合には、誘導加熱しつつ接合部材14およびインダクター20を軸筒周りに相対回転させることで、導体40の給電リード部位置に起因する低温加熱領域43を解消し、一様な接合強度を得ることができるが、断面四角形状の接合部材14においては、誘導加熱しつつ接合部材14とインダクター20とを相対回転させることができない。
【0070】
加えて、アプセット加工による加工組織が接合部12に残留すると、金属組織が安定せず、特に接合部12のコーナー部では組織および特性の変化が顕著であり、接合部12近傍のFCD材11が低引張負荷で破断を示すなど、継手強度が低下する虞がある。
【0071】
そこで本実施の形態では、1回目の拡散接合の後、インダクター20の給電リード部位置を変更すべくインダクター20を軸筒周りに180度あるいは90度回転させて再配置し、接合部12を再加熱して2回目の拡散接合を行う(図1(e))。鋼材10およびFCD材11の断面形状が長方形である場合には、インダクター20の回転角度は180度とするが、断面形状が略正方形である場合には、インダクター20の回転角度を90度としてもよい。
【0072】
2回目の拡散接合の際の温度は、1回目の拡散接合温度(すなわち、アモルファス金属13のろう付け温度以上、FCD材11の固相温度以下)とされ、昇温後、3分間保持する。また、インダクター20の軸方向の配置位置は、接合部12の接合中心とする。
【0073】
このとき、鋼材10とFCD材11との接合界面は既に接合されており、接合界面の酸化による接合不良の虞がないことから、接合部12の表面にスケール防止剤を塗布する程度で、Nガスなどの無酸化雰囲気で加熱を行う必要はなく、図1(e)に示すように、シールド手段を不要とすることができる。また、アプセット加工を行わないので押付け治具18aおよび荷重受治具19aは不要であり、荷重受治具19aに替えて載置台を使用したり、別の製造ラインに移動することもできる。
【0074】
2回目の拡散接合の後、エア吹付け孔からエアを吹付けて接合部12を空冷(冷却)するが、この際の冷却速度は1〜3℃/secとするとよい。冷却速度が上記範囲よりも大きい場合、接合部12近傍の急速収縮により割れが発生しやすく、また冷却速度が上記範囲よりも小さい場合、接合部12近傍が過度に軟化することとなり、好ましくない。
【0075】
このように2回目の拡散接合を行うことで、1回目の拡散接合において低温加熱領域43となった接合部12の強度を向上させ、接合部12の継手強度を一様とすることができる。また、接合部12のコーナー部に増肉加工による加工組織が残留した場合には、金属組織の回復・再結晶(あるいは変態)による加工組織の解消を促進することができる。
【0076】
さらに本実施の形態では、2回目の拡散接合(および空冷)後、接合部12の調質を目的とした後熱処理を行うとよい。
【0077】
2回目の拡散接合(および空冷)を行ったままの接合部12では、FCD材11側の接合部12近傍において球状黒鉛が片状黒鉛となってFCD材11の延性が低下し、また、接合部12近傍の金属組織には焼きが入って硬化する(例えば、約500HV程度となる)ため、製品として使用する際に要求される特性を満足できない場合がある。
【0078】
そこで、FCD材11中の黒鉛を球状化し、接合部12近傍の硬化組織を焼戻すことを目的として、2回目の拡散接合(および空冷)を行った接合部材14に対し、インダクター20を用いて誘導加熱し3分間の後熱処理を行う(図1(f))。インダクター20の軸方向の配置位置は、接合中心とする。
【0079】
後熱処理の温度は、FCD材11のA1変態点(すなわち、共析変態の開始温度)を中心に、700〜750℃の範囲であればよい。温度を高くすると引張強さが低下するが伸びは向上し、逆に温度が低いと引張強さが向上するが伸びは低下する。要求される特性に応じて、後熱処理の温度を決定するとよい。
【0080】
なお、後熱処理を行った後、インダクター20に備えられたエア吹付け孔からエアを吹付け、接合部12を冷却速度1〜3℃/secで空冷するとよい。冷却速度が上記範囲よりも大きい場合、接合部12近傍の急速収縮により割れが発生しやすく、また冷却速度が上記範囲よりも小さい場合、接合部12近傍が過度に軟化することとなり、好ましくない。
【0081】
以上のように、本実施の形態に係るアクスルケースの製造方法は、断面四角形状の鋼材10およびFCD材11の接合部12にアモルファス金属13を介在させ、1ターンコイルからなるインダクター20を用いて拡散接合を行うことにより、接合部12近傍が硬化するなどの熱影響を低減でき、高品質の接合継手を有するアクスルケースを製造できる。
【0082】
また、アプセット加工と1回目の拡散接合を同時に行うため、突き合わせ時の接合界面の鋼材10、アモルファス金属13、およびFCD材11間に凹凸による間隙が存在した場合には、誘導加熱により軟化したアモルファス金属13がアプセット加工により間隙に充填されて、空隙などの接合欠陥が接合部12に形成されることを防止できる。
【0083】
拡散接合後に後熱処理を行った際には、製品に要求される特性に応じた接合継手を有するアクスルケースを提供できる。
【0084】
なお、この製造装置により製造されるアクスルケースの構造は、アクスルハウジング側をプレス加工・溶接により形成し、比較的複雑な形状を有する異形チューブ側を鋳造により一体化形成しているため、アクスルハウジングの組立製造コストを削減できる。さらに、軸筒の長さを変更するなど、異なる形状を有するアクスルケースを製造する場合、アクスルハウジング側の鋼板のブランク長さ(プレス加工・溶接により軸筒部となる部分)の変更、または異形チューブの部品形状の変更で対応できるため、型投資することなく、アクスルケースの形状変更を達成することが可能になり、製造コスト削減が図れる。
【0085】
本発明は上記実施の形態に限られるものではなく、種々の変更が可能である。
【0086】
例えば、1回目の拡散接合において使用するインダクター20の形状を、図6に示すように、1ターンコイルの内幅が鋼材10側(すなわち、アクスルハウジング側)に向けて小さくなるように、5〜15°の範囲のテーパ60を設けてもよい。これにより、鋼材10とFCD材11との加熱温度差がさらに大きくなり、接合品質をより向上させることができる。
【0087】
また、2回目の拡散接合および後熱処理を行うためのインダクターは、1回目の拡散接合を行う際に使用するインダクター20と同一である必要はなく、例えば1回目の拡散接合終了後、接合部材を別の製造ラインに移動し、低温加熱領域を解消するために給電リード部位置を変えた別のインダクターを用いて、2回目の拡散接合を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0088】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0089】
[実施例]
まず、鋼材(高張力鋼)をプレス加工・溶接して断面四角形状の軸筒を形成すると共に、FCD材を鋳造して断面四角形状の軸筒を形成した。鋼材およびFCD材の軸筒の板厚は、共に12mmであった。
【0090】
これら軸筒の突き合わせ面の初期酸化膜を研削加工で除去しておき、鋼材側にNi−B系アモルファスシートをスポット溶接で仮付けした。仮付けしたアモルファスシートを鋼材およびFCD材で挟み込み、接合部とした。
【0091】
この接合部を、図1に示したような製造装置内にセットし、接合界面に30MPa程度の応力が作用するように初期固定荷重を接合部材に加圧した。接合装置内にNガスを導入して1気圧の非酸化雰囲気とした。ここでは、FCD材の接合界面直近に熱電対を取り付け、接合温度を直接に測温・管理した。インダクターの軸方向の配置位置は、FCD材側の長さ:鋼材側の長さ=1:3となるようにした。
【0092】
この接合部を1ターンコイルからなるインダクターを用いて1100℃に加熱して1分間保持した後、アプセット量を5.4mm(初期板厚12mm×45%)にてアプセット加工し、接合部を増肉した。アプセット加工後、1100℃でさらに2分間保持して1回目の拡散接合を行った後、接合部を冷却した。
【0093】
その後、接合部周りにインダクターを180度回転させて再配置すると共に、接合部に酸化スケール防止剤を塗布しておき、これをインダクターで誘導加熱した。インダクターの軸方向の配置位置は、接合中心と同じとした。接合部を1100℃に3分間保持して2回目の拡散接合を行った後、接合品を拡散接合装置から取外し、エア吹付け孔からエアを吹付けて平均冷却速度1〜3℃/secで空冷した。
【0094】
冷却後、インダクターを用いて接合部をFCD材のA1変態点に誘導加熱し、3分間保持して後熱処理した。インダクターの軸方向の配置位置は、接合中心と同じとした。後熱処理を行った後、接合品を拡散接合装置から取外し、エア吹付け孔からエアを吹付けて平均冷却速度1〜3℃/secで空冷した。
【0095】
図7に、上記の手順により製造した接合部の断面形状および金属組織写真を示す。
【0096】
図7(a)に示すように、本実施例で製造した接合部の断面形状は、増肉部と非増肉部との連続形状が緩やかであり、応力集中を受けにくい形状となった。
【0097】
また、接合部近傍の断面組織は、空隙および接合不足などの接合欠陥が無く、健全に接合されていると共に、FCD側の金属組織では黒鉛の球状化が進んでいることが解る(図7(b))。
【0098】
この接合部に対してマイクロビッカース硬さ分布を測定したところ、接合界面の最大硬さは350HV以下の値を示し、アクスルケースの製品として使用に耐えうる硬さであった(図8)。また、鋼材側、FCD材側とも一様な硬さ分布を示しており、接合中の入熱による金属組織への熱影響が低減されていることが解る。
【0099】
さらに、接合部材に対して引張耐久および曲げ耐久試験を行った結果、接合部材の強度はFCD材の母材強度を満足した。
【0100】
[比較例1]
上記実施例と同じ手順で1回目の拡散接合を行った後、冷却し、2回目の拡散接合および後熱処理を省略した接合部材のコーナー部から引張試験片を作製し、引張試験を行った結果を図9に示す。
【0101】
この試験片は降伏後の塑性変形域がほとんど見られず、低引張強さのままFCD材側の接合部近傍で破壊した。
【0102】
つまり、本発明に係るアクスルケースの製造方法では、2回目の拡散接合を行うことで、接合継手の性能を向上できることが解る。
【0103】
[比較例2]
上記実施例と同じ手順で接合装置内にセットした接合部材を1ターンコイルからなるインダクターを用いて1100℃に加熱し、1分間保持した後、アプセット量8.7mm(初期板厚12mm×72%)にてアプセット加工し、接合部を増肉した。アプセット加工後、1100℃でさらに2分間保持して1回目の拡散接合を行った後、接合部を冷却した。
【0104】
以降、実施例と同じ手順で2回目の拡散接合および冷却、後熱処理および冷却を行った。
【0105】
この手順により製造した接合部の断面形状は、図10(a)に示すように、増肉部と非増肉部との連続形状が急峻であり、応力集中を受けやすい形状となった。
【0106】
また、この接合部材のコーナー部では、図10(b)に示すようにFCD材の変形限界による割れが観察された。
【0107】
つまり、本発明のアクスルケースの製造方法に係るアプセット量の範囲は、接合部の増肉部と非増肉部との連続形状を応力集中を受けにくい形状としつつ、強度を向上させる好適な範囲であり、かつ、加工性に乏しいFCD材に割れが発生することなく増肉接合できる範囲であることが解る。
【0108】
[比較例3]
上記実施例と同じ手順で接合装置内にセットした接合部材を1ターンコイルからなるインダクターを用いてFCD材の固相温度より高温に加熱し、1分間保持した後、アプセット量5.4mm(初期板厚12mm×45%)にてアプセット加工し、接合部を増肉した。アプセット加工後、さらにFCD材の固相温度より高温に2分間保持して1回目の拡散接合を行った後、接合部を冷却した。
【0109】
以降、実施例と同じ手順で2回目の拡散接合および冷却、後熱処理および冷却を行った。
【0110】
この手順により製造した接合部では、図11に示すように、FCD材の溶け落ちが発生しており、接合部の品質が低下した。
【0111】
つまり、1回目の拡散接合時の温度は、FCD材の固相温度以下の範囲とされることが好ましいことが解る。
【符号の説明】
【0112】
10 軸筒(鋼材)
11 軸筒(FCD材)
12 接合部
17 インダクター
41 給電リード部
43 低温加熱領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなるアクスルハウジングに形成された断面四角形状の軸筒とFCD材からなる異形チューブの断面四角形状の軸筒とを突き合わせ、その接合部にアモルファス金属を介在させ、その軸筒同士の接合部の板厚を増肉させつつ拡散接合するアクスルケースの製造方法において、
前記接合部の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなるインダクターを配置し、そのインダクターで前記接合部を誘導加熱すると共に、その接合部を軸方向に押付けて前記接合部の板厚を増肉させるアプセット加工を施しつつ前記接合部の1回目の拡散接合を行った後冷却し、
しかる後、インダクターの給電リード部位置での低温加熱領域を誘導加熱すべく、インダクターを前記軸筒周りに180度あるいは90度回転し再配置して前記接合部の2回目の拡散接合を行うようにしたことを特徴とするアクスルケースの製造方法。
【請求項2】
前記1回目の拡散接合を行う際に、インダクターの軸方向の配置位置を接合中心から前記アクスルハウジング側にずらして誘導加熱し、前記アクスルハウジングと前記異形チューブとの間に加熱温度差を設けて拡散接合する請求項1記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項3】
前記1回目の拡散接合の温度は、前記アモルファス金属のろう付け温度以上、前記FCD材の固相温度以下の範囲とした請求項1または2に記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項4】
前記インダクターは、前記軸筒の軸方向に対するコイル長さが前記突き合わせた接合部の板厚の1.6〜2倍の長さを有し、
前記アプセット加工は、前記軸筒の軸方向に対するアプセット量を前記板厚の30〜50%の範囲とした請求項1〜3いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項5】
前記2回目の拡散接合の温度は、前記1回目の拡散接合の温度と同じであり、
前記2回目の拡散接合を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して拡散接合する請求項1〜4いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項6】
前記2回目の拡散接合を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷する請求項1〜5いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項7】
前記2回目の拡散接合の後、前記接合部の前記FCD材中の黒鉛を球状化すべく、前記接合部をインダクターで誘導加熱して、後熱処理を行う請求項1〜6いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項8】
前記後熱処理の温度は、前記FCD材のA1変態点を中心に700〜750℃の範囲とし、
前記後熱処理を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して、後熱処理する請求項7記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項9】
前記後熱処理を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷する請求項7または8に記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項10】
前記1回目の拡散接合を行う際に、前記1ターンコイルの内幅が前記アクスルハウジングに向けて小さくなるように5〜15°の範囲のテーパを設けて形成された前記インダクターを用いる請求項1〜9いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項1】
鋼材からなるアクスルハウジングに形成された断面四角形状の軸筒とFCD材からなる異形チューブの断面四角形状の軸筒とを突き合わせ、その接合部にアモルファス金属を介在させ、その軸筒同士の接合部の板厚を増肉させつつ拡散接合するアクスルケースの製造方法において、
前記接合部の外周を覆うように四角形状に形成した1ターンコイルからなるインダクターを配置し、そのインダクターで前記接合部を誘導加熱すると共に、その接合部を軸方向に押付けて前記接合部の板厚を増肉させるアプセット加工を施しつつ前記接合部の1回目の拡散接合を行った後冷却し、
しかる後、インダクターの給電リード部位置での低温加熱領域を誘導加熱すべく、インダクターを前記軸筒周りに180度あるいは90度回転し再配置して前記接合部の2回目の拡散接合を行うようにしたことを特徴とするアクスルケースの製造方法。
【請求項2】
前記1回目の拡散接合を行う際に、インダクターの軸方向の配置位置を接合中心から前記アクスルハウジング側にずらして誘導加熱し、前記アクスルハウジングと前記異形チューブとの間に加熱温度差を設けて拡散接合する請求項1記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項3】
前記1回目の拡散接合の温度は、前記アモルファス金属のろう付け温度以上、前記FCD材の固相温度以下の範囲とした請求項1または2に記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項4】
前記インダクターは、前記軸筒の軸方向に対するコイル長さが前記突き合わせた接合部の板厚の1.6〜2倍の長さを有し、
前記アプセット加工は、前記軸筒の軸方向に対するアプセット量を前記板厚の30〜50%の範囲とした請求項1〜3いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項5】
前記2回目の拡散接合の温度は、前記1回目の拡散接合の温度と同じであり、
前記2回目の拡散接合を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して拡散接合する請求項1〜4いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項6】
前記2回目の拡散接合を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷する請求項1〜5いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項7】
前記2回目の拡散接合の後、前記接合部の前記FCD材中の黒鉛を球状化すべく、前記接合部をインダクターで誘導加熱して、後熱処理を行う請求項1〜6いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項8】
前記後熱処理の温度は、前記FCD材のA1変態点を中心に700〜750℃の範囲とし、
前記後熱処理を行う際に、前記インダクターの軸方向の配置位置を前記接合部の接合中心とし、前記インダクターを用いて前記接合部を誘導加熱して、後熱処理する請求項7記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項9】
前記後熱処理を行った後、前記接合部を冷却速度1〜3℃/secで空冷する請求項7または8に記載のアクスルケースの製造方法。
【請求項10】
前記1回目の拡散接合を行う際に、前記1ターンコイルの内幅が前記アクスルハウジングに向けて小さくなるように5〜15°の範囲のテーパを設けて形成された前記インダクターを用いる請求項1〜9いずれかに記載のアクスルケースの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−110920(P2012−110920A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261369(P2010−261369)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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