説明

アクチニドの配位子としての利用に適している化合物、その合成法および利用

本発明は、アクチニドの配位子として利用できる新規な化合物、これらの化合物の合成法、およびこれらの化合物の利用に関する。これらの化合物は、次の一般式(I):(式I)を有し、式中、R1およびR2は、同一または異なり、H、直鎖または分岐形の飽和または不飽和のC1からC12炭化水素基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニル基、またはトリル基であり、R3は、H、直鎖または分岐形の飽和または不飽和のC1からC12炭化水素基、フェニル基、トリル基、あるいは直鎖または分岐形のC1からC12アルコキシ基であり、R4は、H、直鎖または分岐形の飽和または不飽和のC1からC12炭化水素基、フェニル基、またはトリル基である。本発明は、以下の分野、すなわち使用済み核燃料の湿式冶金処理において利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチニドの配位子として有用な新規化合物に関する。
【0002】
本発明は、これらの化合物の合成法および利用にも関する。
【0003】
本発明による化合物は、ランタニドに対するよりアクチニドに対して強い親和力を有し、少なくとも2に等しいモル濃度を有する硝酸溶液などの強酸性水溶液からアクチニドを抽出することができ、特に、湿式冶金法経路による使用済み核燃料の処理の分野において、詳しくは、使用済み核燃料を溶解した溶液中に存在するランタニドからアクチニド(ウラン、プルトニウム、ネプツニウム、アメリシウムおよび/またはキュリウム)の全体をまとめて分離するために用いることができる。
【背景技術】
【0004】
使用済み核燃料を溶解した溶液中に存在するランタニドから、プルトニウム、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムおよび、おそらくはウランをまとめて分離するために2つの方法が最近提案された。これらの方法は、N,N’−ジメチル−N,N’−ジオクチルへキシル−エトキシマロンアミド(またはDMDOHEMA)などのマロンアミド、またはN,N,N’,N’−テトラオクチル−3−オキサペンタンジアミン(またはTODGA)などのジグリコールアミドを抽出剤として用いる。
【0005】
これらの方法は、国際公開第2007/118904号(参考文献[1])および国際公開第2008/049807号(参考文献[2])として公開されているPCT国際出願にそれぞれ記載されている。
【0006】
マロンアミドおよびジグリコールアミドなどのドナー酸素原子を有する抽出剤では、アクチニドとランタニドとの両方を含む酸性水溶液からランタニドを同時に抽出しないでアクチニドを抽出することはできないことが見いだされている。
【0007】
従って、上記参考文献に記載されている方法は、最初に、マロンアミドまたはジグリコールアミドを含む有機相を用いて、アクチニドおよびランタニドが存在する水溶液から両者を共抽出することを目的とするステップを含む。この共抽出ステップの後に、有機相からアクチニドを選択的に逆抽出することを目的とするステップが続く。このステップは弱酸性、すなわち2から3の間のpHであり、錯形成剤、例えばポリアミノカルボン酸を含む水相を用いて実現される。このとき、ランタニドは、この有機相にリン酸型の酸抽出剤を存在させる(参考文献[1])か、または弱酸性水相に硝酸塩イオンを存在させる(参考文献[2])ことによって有機相に保持させる。次に、一方では続いてガラス固化操作に付すことができる水相中にこれらのランタニドを回収するために有機相からランタニドを逆抽出すること、他方では有機相を再利用するために有機相から放射性元素を取り除くことを目的とするステップが続く。
【0008】
ここで、使用済み核燃料を処理するための新規な方法を開発するためには、使用済み核燃料を溶解した溶液中に存在するすべてのアクチニドをまとめて単離することが可能になる抽出剤があれば望ましいであろう。使用済み核燃料を処理するための方法は、著しく単純化され、従って利用するコストが低くなるであろう。
【0009】
ランタニドに対するよりアクチニドに対して、特にアクチニド(III)に対して大きな親和力を有する化合物が知られている。
【0010】
これらは、2,2’:6’,2”−テルピリジン、およびそのアルキル化誘導体の特定のものなどの窒素含有多環芳香族化合物、2,4,6−トリ(2−ピリジニル)−1,3,5−トリアジン(またはTPTZ)、2,6−ビス(ピリジン−2−イル)−4−アミノ−1,3,5−トリアジン(またはADPTZ)、および2,6−ビス(1,2,4−トリアジニル)ピリジン、ピコリンアミド、ジピコリンアミド、およびアミド置換基を有するビピリジンである。
【0011】
しかし、これらの化合物のどれも、使用済み核燃料を溶解した溶液中に存在するアクチニドの全体を、同じくこれらの溶液中に存在するランタニドからまとめて分離することを目的とする工業プロセスにおいて用いることはできそうにない。その理由は、これらの化合物が、きわめて単純に、強酸性水相からアクチニドだけを抽出することができない(これは、例えば、弱酸性において、および別の抽出剤、通常はα−ブロモデカン酸との相乗作用的な混合物中でしかアクチニドを抽出することができない2,2’:6’,2”−テルピリジンおよびそのアルキル化誘導体、TPTZ、ADPTZ、およびピコリンアミドの場合である)ためか、あるいは保持容量が低すぎる(これは、例えば2,6−ビス(1,2,4−トリアジニル)ピリジンの場合である)ためか、あるいは、さらに、クロロホルムまたはメタ−ニトロトリフルオロトルエンなどの極性、ハロゲン化および毒性の希釈剤の溶液中にあることが必要であり、従って、工業プロセスにおいてほとんど用いられることがない(これは、例えばジピコリンアミドの場合である)ためか、のいずれかである。
【0012】
本発明者らは、従って、ランタニドに対するよりアクチニドに対して大きな親和力を有するだけでなく、さらに強酸性水溶液からこの溶液中に存在するアクチニドの全体を抽出することもできる新規な化合物を提供することを目的とした。これらの化合物は、使用済み核燃料を溶解した溶液中にさまざまな酸化状態で存在するすべてのアクチニドをまとめて単離することを可能にする。
【0013】
さらに、本発明者らは、対象となる化合物が使用済み核燃料を処理するための工業プロセスにおいて用いることができる希釈剤の溶液中で用いられることを目的とした。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的およびさらにその他の目的は、本発明によって実現される。本発明は、第1に、次の一般式(I)と一致する化合物を提案する。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、
‐ R1およびR2は、同一または異なり、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニル基またはトリル基を表し、
‐ R3は、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基、フェニル基、トリル基、あるいはC1〜C12の直鎖または分岐形のアルコキシ基を表し、
‐ R4は、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基、フェニル基、またはトリル基を表す。
【0017】
従って、本発明による化合物は、テルピリジン単位と2つのアミド基との両方を含み、後者は、テルピリジン単位の左右ピリジン環の1つの上にそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0018】
上記において、および以下において、「C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基」は、少なくとも1つの炭素原子を含むが13以上の炭素原子を含まない直鎖または分岐鎖を有する任意のアルキル基、および少なくとも2の炭素原子を含むが13以上の炭素原子を含まない直鎖または分岐鎖を有する任意のアルケニルまたはアルキニル基を意味する。
【0019】
そのような炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル、sec−ブチルまたはイソブチルなどのブチル基、n−ペンチル、またはsec−ペンチルまたはイソペンチルなどのペンチル基、n−ヘキシルまたはイソヘキシルなどのヘキシル基、n−オクチルまたはイソオクチルなどのオクチル基、n−デシルまたはイソデシルなどのデシル基、ドデシル基、エチレニル基、プロピレニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、メチル−ペンテニル基、ブタ−1,3−ジエニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、デシニル基、ドデシニル基等である。
【0020】
さらに、「C1〜C12の直鎖または分岐形のアルコキシ基」は、アルキル基が直鎖または分岐鎖を有し、1から12の炭素原子を含む任意のO−アルキル基を意味する。
【0021】
そのようなアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ、sec−ブトキシまたはイソブトキシなどのブトキシ基、n−ペントキシ、sec−ペントキシまたはイソペントキシなどのペントキシ基、n−ヘキシルオキシまたはイソヘキシルオキシなどのヘキシルオキシ基、n−オクトキシまたはイソオクトキシなどのオクトキシ基、n−デシルオキシまたはイソデシルオキシなどのデシルオキシ基、ドデシルオキシ基等である。
【0022】
本発明によれば、本化合物は、好ましくは、一般式(I)と一致する。式中、
‐ R1およびR2は、同一または異なり、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル鎖またはフェニル基を表し、
‐ R3は、水素原子、あるいはC1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル基またはアルコキシ基を表し、
‐ R4は、水素原子、あるいはC1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル基を表す。
【0023】
さらに、一般式(I)において、R3およびR4は、水素原子を表すと好ましい。これは、テルピリジン単位の左右のピリジン環に限定される両方のアミド基以外の置換基を含まないテルピリジンの合成は、より多くの置換基を有するテルピリジンの合成より適用しやすいという簡単な理由からである。
【0024】
また、一般式(I)において、R1およびR2が同一であると好ましく、その場合、それらがC1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル鎖を表すと有利であり、偶数の炭素原子を有する鎖、すなわちC2鎖、C4鎖、C6鎖、C8鎖、C10鎖またはC12鎖を表すとさらに有利である。
【0025】
そのような化合物は、例えば、
‐ R1=R2=C25であり、R3=R4=Hである一般式(I)と一致するN,N,N’,N’−テトラエチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミド、
‐ R1=R2=C49であり、R3=R4=Hである一般式(I)と一致するN,N,N’,N’−テトラブチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミド、および
‐ R1=R2=C817であり、R3=R4=Hである一般式(I)の化合物と一致するN,N,N’,N’−テトラオクチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミド
である。
【0026】
しかし、例えばR1がフェニル基を表し、R2がエチル基を表す一般式(I)と一致するN,N’−ジエチル−N,N’−ジフェニル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミドなどのR1とR2とが同じ意味を有しない一般式(I)の化合物も非常に適切なことがある。
【0027】
本発明の目的は、既に定義された化合物を合成するための方法でもある。この方法は、次の一般式(II)の化合物であって、
【0028】
【化2】

【0029】
式中、R3およびR4は、同一または異なり、一般式(I)中と同じ意味を有する、化合物と、式HNR12のアミンであって、式中、R1およびR2は、同一または異なり、一般式(I)中と同じ意味を有する、アミンとの、ペプチドカップリング剤およびペプチドカップリング触媒の存在下での反応を含む。
【0030】
本発明によれば、この反応は、ペプチド合成のための使用が提案されたことがある任意のカップリング剤および任意のカップリング触媒を用いて行なうことができる。従って、特に、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩をカップリング剤として、N−ヒドロキシベンゾトリアゾールをカップリング触媒として、例えば無水ジメチルホルムアミドなどの双極性および非プロトン性有機溶媒の溶液中で用いることが可能である。
【0031】
一般式(II)の化合物は、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、2005年、第70巻6号、2274頁〜2284頁(参考文献[3])にC・ガラウプ(C.Galaup)らによって記載されているように、対応する2,2’:6’,2”−テルピリジン−6,6”−ジカルボニトリルを水−アルコール塩基性媒質中で加水分解し、加水分解から得られた生成物を硫酸と酢酸との溶液中の還流によって処理することによって得ることができる。
【0032】
2,2’:6’,2”−テルピリジン−6,6”−ジカルボニトリルは、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、1983年、第48巻8号、1375頁〜1377頁(参考文献[4])にW.K.ファイフ(W.K.Fife)によって記載されているように、対応する2,2’:6’,2”−テルピリジン−1,1”−ジオキシドとシアノトリメチルシランとを塩化ベンゾイルの存在下で反応させることによって得ることができ、2,2’:6’,2”−テルピリジン−1,1”−ジオキシドそれ自体は、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、1985年、第50巻19号、3635頁〜3636頁(参考文献[5])にR.P.サメル(R.P.Thummel)およびY.ヤン(Y.Jahng)によって記載されているように、対応する2,2’:6’,2”−テルピリジンの左右のピリジン環のそれぞれの窒素原子をメタ−クロロ過安息香酸によって酸化することによって得ることができる。
【0033】
前記の2,2’:6’,2”−テルピリジンが4、4’および4”−位において置換されているなら、すなわちR3およびR4が水素原子と異なり、R3がアルコキシ基と異なるなら、あるいは前記の2,2’:6’,2”−テルピリジンが4’−位においてのみ置換されているなら、すなわち、R3は水素原子と異なるがR4は水素原子であり、R3はアルコキシ基と異なるなら、この化合物は、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイティー(Journal of the American Chemical Society)、1956年、第78巻、5842頁〜5844頁(参考文献[6])にF.H.ケース(F.H.Case)およびT.J.カスパー(T.J.Kasper)によって記載されている方法、すなわち、所望の基R4によって4−位で官能化された2−アセチルピリジンを水溶液中、酢酸アンモニウムおよびアンモニアの存在下、所望の基R3で置換されたアルデヒドR3CHOと高温において反応させることによって得ることができる。
【0034】
前記の2,2’:6’,2”−テルピリジンが4’−位においてアルコキシ基で置換されているなら、すなわち、R3がアルコキシ基なら、この化合物は、ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサイティー(Journal of the Chemical Society)のケミカル・コミュニケーションズ(Chemical Communications)、1993年、925頁〜927頁(参考文献[7])にG.R.ニューカム(G.R.Newkome)らによって記載されているように、4および4”−位において所望の基R4によって官能化された4’−クロロ−2,2’:6’,2”−テルピリジンをジメチルスルホキシド中、水酸化カリウムの存在下で式R−OH(式中、Rは、C1〜C12アルキル鎖を表す)のアルコールと反応させることによって得ることができる。
【0035】
4および4”−位において所望の基R4によって官能化されている4’−クロロ−2,2’:6’,2”−テルピリジンそれ自体は、ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイティーのダルトン・トランザクションズ(Dalton Transactions)、1990年、1405頁〜1409頁(参考文献[8])にE.C.コンスタブル(E.C.Constable)らによって記載されている条件下、3段階で調製される。この場合、最初に、対応する1,3,5−トリオン中間体を得るために、アセトンを、所望の基R4によって4−位において官能化されている2−ピリジニル−カルボン酸エチルの過剰量と反応させる。次に、この中間体を酢酸アンモニウムと反応させることによって、所望の基R4によって4および4”−位において官能化されている4’−ヒドロキシ−2,2’:6’,2”−テルピリジンを得ることができる。この最後の化合物は、次に、五塩化リンまたはオキシ塩化リンで塩素化される。
【0036】
本発明による化合物は、アクチニドに対する親和力を有し、このことはそれらの酸化状態すなわちIII、IV、VまたはVIに関わらないことが見いだされた。さらに、この親和力は、ランタニドに対するものより大きい。
【0037】
さらに、本発明による化合物は、酸性水相の、特に2以上のモル濃度を有する硝酸溶液などの強酸性水相から、アクチニドの全体を抽出することができることが見いだされた。
【0038】
従って、本発明の目的は、さらに、既に定義されている化合物のアクチニドを、特に、酸性水溶液のアクチニド(単数または複数)を、液−液抽出技法によって抽出するための配位子としての利用である。
【0039】
この利用の範囲内で、本化合物は、特に、酸性水溶液中に存在するアクチニドをこの溶液中に同じく存在するランタニドから分離するために用いることができる。
【0040】
本発明によると、酸性水溶液は、好ましくは少なくとも2に等しいモル濃度を有する硝酸の溶液である。
【0041】
そのような水溶液は、例えば、使用済み核燃料の硝酸への溶解に由来する溶液である。
【0042】
しかし、これは、使用済み核燃料の硝酸への溶解に由来するが、含まれているウランを取り除いた後の水溶液であってもよい。
【0043】
いずれの場合にも、本化合物は、有機溶媒の溶液中で0.1から2モル/Lの量で利用すると有利である。有機溶媒は、好ましくはn−オクタノール、ニトロベンゼン、n−ドデカンおよび水素化テトラプロピレン(またはHTP)から選ばれる。
【0044】
通常、酸性水溶液中に存在するランタニドからアクチニドを分離するための本化合物の利用は、
‐ 水溶液を、既に記載されている種類の有機希釈剤中にこの化合物を含む有機相と接触させ、次に前記水溶液と前記有機相とを分離することによる、水溶液からのアクチニドの抽出、および、
‐ 抽出の終了時に得られる有機相に存在するアクチニドの逆抽出であって、当該相を、
好ましくは2から3の範囲のpHを有する、酸性水相と接触させることによる、逆抽出相を含む。
【0045】
本発明の他の特徴および利点は、以下の追加の記載を読めばさらに明らかになる。以下の追加の記載は、本発明による化合物の合成、および強酸性溶液からアクチニドを抽出するために、およびアクチニドを同じくこの溶液中に存在するランタニドから分離するために利用される本発明による化合物の能力の実証の実施例に関する。
【0046】
もちろん、これらの実施例は、本発明の目的の例示として提供されるものにすぎず、決してこの目的を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】X線回折によって分析された、本発明による第1の化合物の結晶構造のORTEP図に対応する。
【図2】X線回折によって分析された、図1の化合物とネオジム(III)とによって形成された錯体の結晶構造のORTEP図に対応する。
【図3】2つの有機相を用いてプルトニウム、アメリシウム、キュリウム、ユウロピウムおよびセリウムを含む硝酸の水相に対して行われた抽出時に得られた分離係数FSPu/Ce、FSPu/Eu、FSAm/Ce、FSAm/Eu、FSCm/CeおよびFSCm/Euを棒グラフの形で表す。第1の有機相は本発明による第2の化合物(塗りつぶした棒)、第2の有機相は本発明による第3の化合物(斜線の棒)をn−オクタノール中に含む。
【図4】本発明による第2の化合物をn−オクタノール中に含有する有機相を用いてプルトニウム、アメリシウム、キュリウム、ユウロピウムおよびセリウムを含む硝酸の水相に対して行われた抽出時に得られた、前記の有機相中のこの化合物の濃度に対するプルトニウム、アメリシウム、キュリウム、ユウロピウムおよびセリウムの分配係数(DM)の変化を例示する。
【図5】本発明による第3の化合物をニトロベンゼン中に含有する有機相を用いてプルトニウム、アメリシウム、キュリウム、ユウロピウムおよびセリウムを含む硝酸の水相に対して行われた抽出時に得られた分離係数FSPu/Ce、FSPu/Eu、FSAm/Ce、FSAm/Eu、FSCm/CeおよびFSCm/Euを棒グラフの形で例示する。
【発明を実施するための形態】
【0048】
実施例1:本発明による化合物の合成
本発明による化合物は、今後化合物4として示される2,2’:6’,2”−テルピリジン−6,6”−ジカルボン酸から合成される。2,2’:6’,2”−テルピリジン−6,6”−ジカルボン酸は、今後化合物1として示される2,2’:6’,2”−テルピリジンから次の反応スキームによってあらかじめ得られる。
【0049】
【化3】

【0050】
化合物1は、市販されている。
【0051】
まず、上記参考文献[5]に記載されている条件で、4当量のメタ−クロロ過安息香酸(またはm−CPBA)による化合物1の2つの左右のピリジン環の窒素原子の酸化によって化合物2が得られる(収率73%)。
【0052】
次に、上記参考文献[4]に記載されている条件で、4当量の塩化ベンゾイル(またはPhCOCl)の存在下、化合物2を10当量のシアノトリメチルシラン(またはMe3SiCN)と反応させることによって化合物3が得られる(収率:88%)。
【0053】
次に、水−アルコール塩基性媒質(KOH/エタノール/H2O)中で化合物3が加水分解された後、上記参考文献[3]に記載されているように硫酸および酢酸溶液の還流による処理に付される(収率:96%)。
【0054】
1.1. N,N,N’,N’−テトラエチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミドの合成
今後TETPYDAとして示される標題の化合物は、化合物4をN,N−ジエチルアミンと反応させることによって得られる。
【0055】
これを行うために、350mgの化合物4(1.1ミリモル)および100mgのN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(またはHOBt、0.7ミリモル)が3mLの無水DMFに溶解される。次に、この溶液に440mgの1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(またはEDC、2.3ミリモル)および237μLのN,N−ジエチルアミン(2.3ミリモル)が加えられ、得られた混合物がアルゴン雰囲気下室温で18時間撹拌される。溶媒を蒸発させた後、粗生成物はCH2Cl2に取り込まれ、蒸留水で3回洗浄される。有機相は、次にMgSO4上で乾燥され、溶媒は蒸発させられる。得られた残留物は、シリカゲル上のクロマトグラフィー(95:5のCH2Cl2/MeOH混合物による定比モードの溶離)によって精製される。
【0056】
溶媒を蒸発させた後、白色の粉体の形の300mgのTETPYDAが得られる(収率:64%)。TETPYDAは、それぞれがこの混合物の50質量%を表す2つの回転異性体の混合物からなる。
【0057】
実験式:C252952
モル質量:431g/mol
融点:132℃
1H MNR(300MHz、CDCl3):
回転異性体1:δppm:8.66(dd,3J=7.8,4J=0.9,2H,Hピリジン
),8.46(d,3J=7.8,2H,Hピリジン),7.97(t,3J=7.8,2H,Hピリジン),7.94(t,3J=7.8,1H,Hピリジン),7.66(dd,3J=7.8,4J=0.9,2H,Hピリジン),3.63(q,3J=7.0,8H,CH2),1.32(t,3J=7.0,12H,CH3
回転異性体2:3.47(q,3J=7.0,8H,CH2),1.27(t,3J=7.0,12H,CH3)の信号を除けばすべての信号は回転異性体1と同じである13C NMR(75MHz、CDCl3):
回転異性体1:δppm:168.5(2C=0),154.9(2Cq),154.5(4Cq),137.9(2CHピリジン),137.7(CHピリジン),123.4(2CHピリジン),121.4(2CHピリジン),121.3(2CHピリジン),40.3(4CH2),12.9(4CH3
回転異性体2:43.3(4CH2),14.5(4CH3)の信号を除けばすべての信号は回転異性体1の信号と同じである
質量分析(EI)、m/z(I%):431(M+,30%)、232(M+−2CONEt2,82%)、72(+NEt2,100%)
210nmにおけるHPLC純度:99.6%
【0058】
X線回折によってTETPYDAの結晶構造、ならびにこの化合物を1当量の硝酸ネオジム(III)と反応させた後に形成される錯体の結晶構造が分解された。図1および2にそれらの化合物のORTEP図が例示されている。
【0059】
TETPYDAの結晶、およびネオジム(III)とのその錯体の結晶は、低速蒸発法によってメタノール中で得られた。
【0060】
図1は、結晶状態において、s−トランス立体配座のTETPYDAは、ピリジン環の窒素原子が互いに反対の位置にあり、カルボニル官能基がこれらの環の平面に対して事実上垂直に配向しているので、錯体形成するようにあらかじめ配置されていないことを示している。一方、図2は、錯体形成後、TETPYDAは5座配位し、ネオジム(III)と1:1化学量論の錯体を形成することを示している。後者は、アミド基の(ハードな)酸素原子とピリジン環の窒素原子(ピアソン(Pearson)の理論によればよりソフト)との両方によって内圏として錯体形成している。
【0061】
1.2. N,N,N’,N’−テトラブチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミドの合成
以後TBTPYDAとして示される標題の化合物は、化合物4をN,N−ジブチルアミンと反応させることによって得られる。
【0062】
これを行うために、1.4gの化合物4(4.3ミリモル)および383mgのHOBT(2.5ミリモル)が13mLの無水DMFに溶解される。次に、この溶液に1.7gのEDC(9.0ミリモル)および1.5mLのN,N−ジブチルアミン(9.0ミリモル)が加えられ、得られた混合物はアルゴン雰囲気下室温で18時間撹拌される。溶媒を蒸発させた後、粗生成物はCH2Cl2に取り込まれ、1N HCl水溶液、次に5%重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄される。有機相は、次にMgSO4上で乾燥され、溶媒は蒸発させられる。得られた残留物は、シリカゲル上のクロマトグラフィー(溶離グラジエントモードのCH2Cl2/酢酸エチル混合物による溶離)によって精製され、石油エーテルから再結晶される。
【0063】
それによって、970mgのTBTPYDAが白色の粉体の形で得られる(収率:42%)。TBTPYDAは、それぞれがこの混合物の50質量%を表す2つの回転異性体の混合物からなる。
【0064】
実験式:C334552
モル質量:543g/モル
融点:105℃
1H MNR(400MHz、CDCl3):
回転異性体1:δppm:8.67(d,3J=8.1,2H,Hピリジン),8.45(d,3J=8.1,2H,Hピリジン),8.02〜7.85(m,3H,Hピリジン),7.64(d,3J=7.5,2H,Hピリジン),3.56(t,3J=7.5,8H,CH2),1.81〜1.59(m,8H,CH2),1.54〜1.36(m,8H,CH2),1.01(t,3J=7.2,12H,CH3
回転異性体2:3.40(t,3J=7.5,8H,CH2),1.81〜1.59(m,8H,CH2),1.21〜1.06(m,8H,CH2)および0.77(t,3J=7.2,12H,CH3)の信号を除けばすべての信号が回転異性体1の信号と同じである
質量分析(ESI)、m/z(I%):544(MH+,52%)、566(MNa+,36%)
210nmにおけるHPLC純度:99.9%
【0065】
1.3. N,N,N’,N’−テトラオクチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミドの合成
以後TOTPYDAとして示される標題の化合物は、化合物4をN,N−ジオクチルアミンと反応させることによって得られる。
【0066】
これを行うために、320mgの化合物4(1.0ミリモル)および92mgのHOBT(0.6ミリモル)が3mLの無水DMFに溶解される。次に、この溶液に642μLのN,N−ジオクチルアミン(2.1ミリモル)中の400mlのEDC(2.1ミリモル)が加えられ、得られた混合物はアルゴン雰囲気下室温で18時間撹拌される。溶媒を蒸発させた後、粗生成物はCH2Cl2に取り込まれ、蒸留水で3回洗浄される。有機相は、次にMgSO4上で乾燥され、溶媒は蒸発させられる。得られた残留物は、シリカゲル上のクロマトグラフィー(石油エーテル、次いで石油エーテル/酢酸エチルの80:20混合物による定比モードの溶離)によって精製される。
【0067】
溶媒を蒸発させた後、565mgのTOTPYDAが黄色の油の形で得られる(収率74%)。TOTPYDAは、それぞれがこの混合物の50質量%を表す2つの回転異性体の混合物からなる。
【0068】
実験式:C497752
モル質量:768g/モル
1H NMR(300MHz、CDCl3):
回転異性体1:δppm:8.66(dd,3J=7.8,4J=0.9,2H,Hピリジン),8.44(d,3J=7.8,2H,Hピリジン),7.94(t,3J=7.8,2H,Hピリジン),7.91(t,3J=7.8,1H,Hピリジン),7.62(dd,3J=7.8,4J=0.9,2H,Hピリジン),3.54(t,3J=7.8,8H,CH2),1.73〜1.68(m,8H,CH2),1.38〜1.12(m,40H,CH2),0.90(t,3J=6.6,12H,CH3
回転異性体2:3.39(t,3J=7.8,8H,CH2),1.12(m,40H,CH2)および0.79(t,3J=6.6,12H,CH3)の信号を除けばすべての信号が回転異性体1の信号と同じである
13C NMR(75MHz、CDCl3
回転異性体1:δppm:168.7(2C=O),154.8(2Cq),154.7(2Cq),154.4(2Cq),137.7(3CHピリジン),123.4(2CHピリジン),121.3(2CHピリジン),121.2(2CHピリジン),46.0(4CH2),31.8〜22.5(20CH2),27.6(4CH2),14.0(4CH3
回転異性体2:49.0(4CH2)および14.1(4CH3)の信号を除いてすべての信号が回転異性体1の信号と同じである
質量分析(CI)、m/z(I%):769(MH+,85%)
210nmにおけるHPLC純度:99.0%
【0069】
1.4. N,N’−ジエチル−N,N’−ジフェニル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミドの合成
以後DEDPTPYDAとして示される標題の化合物は、化合物4をN−エチル−N−フェニルアミンと反応させることによって得られる。
【0070】
これを行うために、1.2gの化合物5(3.8ミリモル)および355mgのHOBt(2.2ミリモル)が11mLの無水DMFに溶解される。次に、この溶液に1.5gのEDC(7.9ミリモル)および994μLのN−エチル−N−フェニルアミン(7.9ミリモル)が加えられ、得られた混合物はアルゴン雰囲気下室温で18時間撹拌される。溶媒を蒸発させた後、粗生成物はCH2Cl2に取り込まれ、1N塩酸水溶液、次いで5%重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄される。有機相は、次にMgSO4上で乾燥され、溶媒は蒸発させられる。得られた残留物は、次にシリカゲル上のクロマトグラフィー(グラジエントモードのCH2Cl2/酢酸エチル混合物による溶離)によって精製され、石油エーテルから再結晶される。
【0071】
上記によって、890mgのDEDPTPYDAが白色の粉体の形で得られる(収率:44%)。DEDPTPYDAは、それぞれがこの混合物の50質量%を表す2つの回転異性体の混合物からなる。
【0072】
実験式:C332952
モル質量:527g/モル
融点:168℃
1H NMR(400MHz、CDCl3):
δppm:8.36(d,3J=4.6,2H,Hピリジン),7.70(m,7H,Hピリジン),7.17(m,10H,Hフェニル),4.06(q,3J=7.2,4H,CH2),1.28(d,3J=7.2,6H,CH3
質量分析(ESI)、m/z(I%):528(MH+、28%)、550(MNa+、61%)
210nmにおけるHPLC純度:99.4%
【0073】
実施例2:本発明による化合物の抽出剤特性
2.1. 本発明による化合物の抽出剤特性の実証
‐ 有機相として:n−オクタノール中0.10モル/LのTOTPYDAまたはTBTPYDAのどちらかを含む溶液、
‐ 水相として:今後S1、S2、S3およびS4と指定され、
S1:すべて痕跡量(10-5〜10-6モル/L)の239-240Pu(IV)、244Cm(III)、241Am(III)、152Eu(III)および139Ce(III)と2.8または2.9モル/Lの硝酸との混合物、
S2:0.01モル/Lの238U(VI)および2.6モル/Lの硝酸、
S3:0.01モル/Lの237Np(V)、237Npの全質量を基準として6%の237Np(VI)および3.0モル/Lの硝酸、
S4:0.01モル/Lの237Np(VI)および硝酸の3.0モル/Lの硝酸
をそれぞれ含む4つの水溶液
を用いることにより抽出が行われた。
【0074】
水相S1〜S4のそれぞれは、試験管中で有機相の1つと、1体積の有機相に対して1体積の水相の量で接触させられ、それによって接触した両相は、25℃の一定の温度で1時間機械的攪拌される。
【0075】
この後、水相および有機相は、互いから分離され、これらの相の中の異なる金属元素の活性または濃度は場合に応じてα線分光分析、γ線分光分析またはX線蛍光法によって定量される。
【0076】
次の表1は、それぞれの抽出について、上記によって定量された活性または濃度から得られる分配係数を示し、一方、図3は、水相S1について行われた抽出に関し、分配係数から計算された分離係数FSPu/Ce、FSPu/Eu、FSAm/Ce、FSAm/Eu、FSCm/CeおよびFSCm/Euを示している。この図において、塗りつぶした棒はTOTPYDAを含有する有機相に関して行われた抽出について得られた分離係数に対応し、一方、斜線の棒はTBTPYDAを含有する有機相について行われた抽出について得られた分離係数に対応する。
【0077】
液−液抽出の分野において、DMとして示される元素Mの分配係数は、接触させた有機相および水相中のこの元素の濃度(または活性)の平衡比に対応すること、およびFSM1/M2として示されている2つの金属元素M1とM2との間の分離係数は、DM1/DM2、すなわち同じ抽出時に得られた金属元素M1およびM2の分配係数の比、に対応することに注意すること。
【0078】
【表1】

【0079】
表1および図3は、分配係数DPuが2より大きいので、TOTPYDAおよびTBTPYDAによって酸性水相からプルトニウムが特に良好に抽出されること、および分離係数FSPu/CeおよびFSPu/Euが500より大きいことを示している。
【0080】
VIの酸化度を有する元素(ウランおよびネプツニウム)は0.3から1.0の間に含まれる分配係数を有するので、これらの元素も効率よく抽出される。
【0081】
Np(V)に関しては、用いられた相S3が6%のNp(VI)を含んでいるので、得られた分配係数は、単独のNp(V)そのものを表してはいない。分配係数は、TOTPYDAおよびTBTPYDAが強酸性水溶液からNp(V)とNp(VI)との混合物を抽出することができることを示している。このことは、使用済み核燃料を溶解した溶液中にネプツニウムがVおよびVIの酸化度で存在するので、非常に重要である。従って、Np(VI)を、多くの場合に現状最高水準の抽出剤によってより良好に抽出される形であるNp(IV)に還元する必要はない。
【0082】
さらに、図3に示されているように、分離係数FSAm/Ce、FSAm/Eu、FSCm/CeおよびFSCm/Euはすべて2以上なので、TOTPYDAおよびTBTPYDAはランタニドに対するよりアクチニド(III)に対して大きな親和力を有する。
【0083】
従って、n−オクタノール中にTOTPYDAまたはTBTPYDAを0.10モル/L含有する有機相を用いると、強酸性水溶液中に存在するすべてのアクチニドをこの溶液中に同じく存在するランタニドから分離することが可能である。酸化度IV、VまたはVIを有する元素が特に良好に抽出されるということが本当であるなら、ランタニドからのアクチニド(III)の分離も確実である。
【0084】
2.2. 有機相中の本発明による化合物の濃度の影響
‐ 有機相として:n−オクタノール中にTOTPYDAを0.05、0.10、0.25、0.50および1モル/L含む溶液、ならびに
‐ 水相として:すべて痕跡量(10-5〜10-6モル/L)の239-240Pu(IV)、244Cm(III)、241Am(III)、152Eu(III)および139Ce(III)の混合物と2.9モル/Lの硝酸とを含む水溶液
を用いることによって抽出が行われる。
【0085】
前と同じように、各有機相は、試験管の中で水相の1つと、1体積の水相に対して1体積の有機相の量で接触させられ、それによって接触した両相は、25℃の一定の温度で1時間機械的攪拌される。
【0086】
この後、水相および有機相は互いから分離され、これらの相の中の異なる金属元素の活性または濃度は、場合に応じてα分光分析またはγ分光分析によって定量される。
【0087】
図4は、上記によって定量された活性または濃度から得られる分配係数の変化を、有機相中のTOTPYDAの濃度に対して例示している。
【0088】
有機相のTOTPYDA濃度が増加しているので、ランタニド(III)と比べてより良好なアクチニド(III)に対する親和力を保ったままアクチニド(III)の抽出を顕著に向上させる可能性が得られる。
【0089】
さらに、log(DM)=f(log[抽出剤])の外挿線の傾きは大体1に等しく、これは、抽出時に形成された錯体が、1つのアクチニドまたはランタニドカチオンに対して1つの配位子分子(1:1化学量論)を用いることが確認される。これは、X線回折によって結晶状態において観測されているものと同じである。
【0090】
2.3. 有機相の希釈剤の極性の影響
‐ 有機相として:n−オクタノールより極性の高い溶媒であるニトロベンゼン中に1モル/LのTBTPYDAを含む溶液、ならびに
‐ 水相として:すべて痕跡量(10-5〜10-6モル/L)の239-240Pu(IV)、244Cm(III)、241Am(III)、152Eu(III)および139Ce(III)の混合物と3.1モル/Lの硝酸とを含む水溶液
を用いることを除けば本明細書に既に記載されている2.1および2.2におけると同じように操作して抽出が行われる。
【0091】
これらの条件下で、得られた分配係数は、n−オクタノールの溶液中で0.1モル/LのTBTPYDAを用いることによって得られるものより、およびn−オクタノールの溶液中の1モル/LのTOTPYDAで得られるものより明らかに大きい。これらの係数がそれぞれプルトニウムについて121、アメリシウムについて3、キュリウムについて1.3、ユウロピウムについて0.25、およびセリウムについて0.36となるからである。
【0092】
さらに、これらの分配係数から計算された分離係数FSPu/Ce、FSPu/Eu、FSAm/Ce、FSAm/Eu、FSCm/CeおよびFSCm/Euを例示する図5に示されているように、分離係数FSAm/Ce、FSAm/Eu、FSCm/CeおよびFSCm/Euも明らかに大きくなる。
【0093】
従って、有機相の希釈剤の極性を増加させることによって、アクチニド(III)の抽出と、ランタニドからのそれらの分離とを顕著に向上させることが可能である。
【0094】
引用文献
[1]国際公開第2007/118904号
[2]国際公開第2008/049807号
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[8]E.C.コンスタブルら、ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイティーのダルトン・トランザクションズ、1990年、1405頁〜1409頁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の前記一般式(I)と一致する化合物であって、
【化1】

式中、
‐ R1およびR2は、同一または異なり、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニル基、またはトリル基を表し、
‐ R3は、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基、フェニル基、トリル基、あるいはC1〜C12の直鎖または分岐形のアルコキシ基を表し、
‐ R4は、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形の飽和または不飽和炭化水素基、フェニル基、またはトリル基を表す、
化合物。
【請求項2】
前記一般式(I)と一致し、
式中、
‐ R1およびR2は、同一または異なり、水素原子、C1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル鎖、またはフェニル基を表し、
‐ R3は、水素原子、あるいはC1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル基またはアルコキシ基を表し、
‐ R4は、水素原子、あるいはC1〜C12の直鎖または分岐形のアルキル基を表す、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
3およびR4が水素原子を表す一般式(I)と一致する、請求項1または請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
1およびR2が互いに同一である一般式(I)と一致する、先行する請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
1およびR2は、直鎖または分岐形のC1〜C12、より好ましくはC2、C4、C6、C8、C10またはC12のアルキル鎖を表す、一般式(I)と一致する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
‐ N,N,N’,N’−テトラエチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミド、
‐ N,N,N’,N’−テトラブチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミド、および
‐ N,N,N’,N’−テトラオクチル−6,6”−(2,2’:6’,2”−テルピリジン)ジアミド
から選ばれる、先行する請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
次の一般式(II)の化合物であって、
【化2】

式中、R3およびR4は、同一または異なり、前記一般式(I)中と同じ意味を有する、
化合物と、式HNR12のアミンであって、式中、R1およびR2は、同一または異なり、前記一般式(I)中と同じ意味を有する、アミンとの、ペプチドカップリング剤およびペプチドカップリング触媒の存在下での反応を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の化合物を合成するための方法。
【請求項8】
前記反応は、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩およびN−ヒドロキシベンゾトリアゾールの存在下、双極性および非プロトン性有機溶媒の溶液中で行なわれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アクチニドの配位子としての請求項1から6のいずれか1項に記載の化合物の利用。
【請求項10】
前記化合物は、液−液抽出の技法によってアクチニド(単数または複数)を酸性水溶液から抽出するために利用される、請求項9に記載の利用。
【請求項11】
前記化合物は、酸性水溶液中に存在する前記アクチニドを、同じくこの溶液中に存在する前記ランタニドから分離するために利用される、請求項9に記載の利用。
【請求項12】
前記酸性水溶液は、少なくとも2に等しいモル濃度を有する硝酸溶液である、請求項10または請求項11に記載の利用。
【請求項13】
前記酸性水溶液は、使用済み核燃料の硝酸への前記溶解に由来する溶液である、請求項12に記載の利用。
【請求項14】
前記酸性水溶液は、含有する前記ウランをあらかじめ除去された使用済み核燃料の硝酸への前記溶解に由来する溶液である、請求項12に記載の利用。
【請求項15】
前記化合物がn−オクタノール、ニトロベンゼン、n−ドデカンおよび水素化テトラプロピレンから選ばれる有機溶媒の溶液中で利用される、請求項10から14のいずれか1項に記載の利用。
【請求項16】
‐ 前記水溶液を、有機希釈剤中に前記化合物を含む有機相と接触させ、次に前記溶液と前記相とを分離することによる、前記水溶液からの前記アクチニドの抽出、および
‐ 前記抽出の終了時に得られる前記有機相に存在する前記アクチニドの逆抽出
であって、当該相を、好ましくは2から3の範囲のpHを有する、酸性水相と接触させることによる、逆抽出相を含む、請求項11から15のいずれか1項に記載の利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−533592(P2012−533592A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521003(P2012−521003)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060280
【国際公開番号】WO2011/009814
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(511063332)
【出願人】(512015998)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシェ シャンティフィク (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3, rue Michel Ange, F−75016 Paris FR
【出願人】(507421289)ユニヴェルシテ・ドゥ・ナント (6)
【Fターム(参考)】