説明

アクチュエータ素子および変形量検出方法

【課題】 電圧の印加に伴う駆動によって生じる変形量を容易に検出することができるアクチュエータ素子を提供する。
【解決手段】 アクチュエータ素子は、電圧の印加によって変形を生じるとともに、変形を加えると電圧を発生するアクチュエータ本体と、アクチュエータ本体に電圧を印加する電源と、前記電源によるアクチュエータ本体への電圧の印加状態と電圧が印加されない遮断状態とを切り換えるスイッチと、アクチュエータ本体の変形によって発生した電圧を測定するための増幅回路とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ素子および変形量検出方法に関し、特に、駆動によって生じる変形量を検出することができるアクチュエータ素子およびその変形量検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用ロボット、福祉用ロボット、産業用ロボット、マイクロマシンなどの分野において、小型かつ軽量で、柔軟性に富むアクチュエータ素子の必要性が高まっている。
【0003】
アクチュエータ素子のサイズを小型化すると、重力・慣性力のような体積力よりも、摩擦力・粘性力のような面積力が支配的になってくる。このため、小型アクチュエータ素子の駆動原理として、静電力、圧電性、超音波、形状記憶合金、高分子の伸縮などを利用することが提案されている。
【0004】
特に、低電圧で駆動し、応答性が速く、柔軟性に富み、小型化および軽量化が容易で、しかも小電力で動作するアクチュエータ素子として、高分子アクチュエータ素子の研究・開発が行われている。この高分子アクチュエータ素子としては、ポリピロールおよびポリアニリンなどの電子導電性ポリマーの電解質中におけるレドックス伸縮を利用した電子導電性高分子アクチュエータ素子と、イオン交換膜と接合電極とを含んで構成され、イオン交換膜の含水状態において、該イオン交換膜に電圧を印加してイオン交換膜に湾曲および変形を生じさせることによって、アクチュエータ素子として機能を実現するイオン導電性高分子アクチュエータ素子という2種のものがよく知られている。
【0005】
また特許文献1には、低電圧で駆動し、空気中および真空中で安定に作動し、製造方法が極めて簡単であり、耐久性があり、柔軟性に富み、簡単な構造のため小型化が容易であり、応答性が速く、幅広い用途への実用化を可能にするアクチュエータ素子として、カーボンナノファイバとイオン性液体とのゲルを、導電性および伸縮性のある活性層として利用したアクチュエータ素子が開示されている。
【0006】
このようなアクチュエータ素子によって駆動される部品または装置などの被駆動体を、正確に高信頼度で駆動させるためには、アクチュエータ素子を正確に駆動することが要求される。このためには、アクチュエータ素子の変形状態を常時正確に知っている必要がある。
【0007】
たとえば特許文献2には、電圧を印加することによって変形するイオン導電性高分子の変形量を検出する方法として、複数の方法が開示されている。特許文献2における第1の方法によれば、イオン導電性高分子の一部が、対向して固定された2枚の電極板の間に配置され、イオン導電性高分子の変形に際して、前記2枚の電極板に平行に移動可能なように、更なる電極板を用意し、イオン導電性高分子に保持させている。そして、イオン導電性高分子の変形に伴って前記保持させた電極板が移動することを利用して、保持させた電極板と固定された一方の電極板とによって構成される平行平板電極によるキャパシタの静電容量、および/または、保持させた電極板と固定された他方の電極板とによって構成される平行平板電極によるキャパシタの静電容量を測定することによって、イオン導電性高分子の変形量を検出している。
【0008】
また、特許文献2における第2の方法によれば、イオン導電性高分子に光ファイバを固定し、該光ファイバの一端からレーザ光を入射させ、他端から出射するレーザ光を受光素子アレイにて検出するように構成している。そして、イオン導電性高分子の変形に伴って前記固定した光ファイバの他端が変位し、それに伴って他端から出射するレーザ光の方位が変化することを利用して、この方位の変化を受光素子アレイの受光素子の位置によって検出することによって、イオン導電性高分子の変形量を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−288040号公報
【特許文献2】特開2008−38660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載される変形量の検出方法は、変形量検出のために複数の電極板、または光ファイバ・光源・受光素子アレイなどを設ける必要があり、アクチュエータ素子の小型化を妨げるだけでなく、アクチュエータ素子の製造工程も複雑化させることになるという問題がある。また、変形するイオン導電性高分子自体に電極板または光ファイバを取り付けているため、変形を妨げるおそれがあり、さらに、変形の繰り返しに伴って検出精度が低下するおそれがあるという問題もある。
【0011】
本発明の目的は、電圧の印加に伴う駆動によって生じる変形量を容易に検出することができるアクチュエータ素子およびその変形量検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電圧の印加によって変形を生じる性質を有するとともに、変形を加えると電圧を発生する性質を有するアクチュエータ本体と、
アクチュエータ本体に電圧を印加する電源と、
前記電源によってアクチュエータ本体へ電圧が印加される印加状態と、電圧が印加されない遮断状態とを切り換えるスイッチと、
前記アクチュエータ本体の変形によって発生した電圧を測定するための増幅回路とを備えることを特徴とするアクチュエータ素子である。
【0013】
また本発明は、前記増幅回路は、
前記アクチュエータ本体に設けられる各電極の印加電圧の差分を出力する第1の演算増幅器と、
前記電源における各電極の印加電圧の差分を出力する第2の演算増幅器と、
前記第1の演算増幅器によって出力された電圧と、前記第2の演算増幅器によって出力された電圧との差分を出力する第3の演算増幅器とを備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記アクチュエータ本体は、
イオン性液体とポリマーとからなるイオン伝導層と、
前記イオン伝導層を挟み、相互に電気的に絶縁されて設けられる2つの電極層とからなることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記アクチュエータ本体は、
イオン交換樹脂からなるイオン導電性高分子層と、
前記イオン導電性高分子層を挟み、相互に電気的に絶縁されて設けられる2つの電極層とからなることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、電圧の印加によって変形を生じる性質を有するとともに、変形を加えると電圧を発生する性質を有するアクチュエータ本体に対して、電圧を印加したときの変形量を検出する変形量検出方法であって、
アクチュエータ本体に対して電圧を印加する第1工程と、
アクチュエータ本体に対する電圧の印加を停止する第2工程と、
電圧の印加が停止された後に、アクチュエータ本体に発生している電圧と、アクチュエータ本体に対して印加された電圧との差分を測定する第3工程と、
測定された差分に基づいて変形量を検出する第4工程とを含むことを特徴とする変形量検出方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アクチュエータ本体の変形量を容易に検出することができる。また検出のために複雑な装置を設ける必要がないので、アクチュエータ素子の小型化を妨げることがなく、製造工程も複雑化させることがない。また、変形によって発生する変形電圧に基づいて変形量を検出するように構成されているので、従来技術のように変形を妨げる可能性のある部材を取り付ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るアクチュエータ素子1を説明するための図である。
【図2】アクチュエータ素子1の構成要素であるアクチュエータ本体11について説明するための図である。図2(a)は、アクチュエータ本体11に対して電源Eによる電圧が印加されていないときのアクチュエータ本体11を示し、図2(b)は、アクチュエータ本体11に対して電源Eによる電圧が印加されたときのアクチュエータ本体11を示している。図2(c)は、図2(a)に示される回路の等価回路を示す図である。
【図3】アクチュエータ素子1の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】アクチュエータ本体11の変形量を検出する変形検出工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るアクチュエータ素子1を説明するための図である。アクチュエータ素子1は、電圧を印加することによって伸縮または屈曲などの変形を生じるアクチュエータ本体11と、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2と、駆動源であるアクチュエータ本体11に駆動電圧を印加するための電源12と、第1〜第3演算増幅器OP1,OP2,OP3を有する増幅回路13と、A/D(Analog/Digital)変換器14と、アクチュエータ素子1全体を制御する図示しない制御装置とを含んで構成される。また、アクチュエータ本体11は、詳細には後述するが、イオン伝導層21と、イオン伝導層21の一表面に形成される第1電極層22aと、イオン伝導層21の他表面に形成される第2電極層22bとを有する。
【0020】
以下、アクチュエータ素子1の構成について詳細に説明する。アクチュエータ本体11の第1および第2電極層22a,22bは、電源12の両極の各端子と第1および第2配線L1,L2によってそれぞれ接続され、各配線L1,L2には、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2が介在される。
【0021】
第1演算増幅器OP1は、一方の入力端子に第3配線L3によって第1電極層22aの印加電圧V1aが与えられ、他方の入力端子には第4配線L4によって第2電極層22bの印加電圧V1bが与えられ、これらの入力電圧V1a,V1bの差分が出力電圧V1outとして導出される。前記第3配線L3は、その一端部が前記第1配線L1における第1スイッチ素子SW1と第1電極層22aとの間に接続され、他端部は前記第1演算増幅器OP1の一方の入力端子に接続される。前記第4配線L4は、その一端部が前記第2配線L2における第2スイッチ素子SW2と第2電極層22bとの間に接続され、他端部は前記第1演算増幅器OP1の他方の入力端子に接続される。
【0022】
また、第2演算増幅器OP2は、一方の入力端子に第5配線L5によって電源12の一方の電極の印加電圧V2aが与えられ、他方の入力端子には第6配線L6によって電源12の他方の電極の印加電圧V2bが与えられ、これらの入力電圧V2a,V2bの差分が出力電圧V2outとして導出される。前記第5配線L5は、その一端部が前記第1配線L1における第1スイッチ素子SW1と電源12の一方の電極との間に接続され、他端部は前記第2演算増幅器OP2の一方の入力端子に接続される。前記第6配線L6は、その一端部が前記第2配線L2における第2スイッチ素子SW2と電源12の他方の電極との間に接続され、他端部は前記第2演算増幅器OP2の他方の入力端子に接続される。
【0023】
また、第3演算増幅器OP3は、一方の入力端子が第7配線L7によって第1演算増幅器OP1の出力電圧V1outが与えられ、他方の入力端子には第8配線L8によって第2演算増幅器OP2の出力電圧V2outが与えられ、これらの入力電圧V1out,V2outの差分が出力電圧V3outとして導出される。前記第7配線L7は、その一端部が第1演算増幅器OP1の出力端子に接続され、他端部は第3演算増幅器OP3の一方の入力端子に接続される。前記第8配線L8は、その一端部が第2演算増幅器OP2の出力端子に接続され、他端部は第3演算増幅器OP3の他方の入力端子に接続される。
【0024】
A/D変換器14は、第9配線L9によって第3演算増幅器OP3の出力電圧V3outが与えられる。A/D変換器14は、入力されたアナログデータである出力電圧V3outをデジタルデータに変換し、そのデジタルデータを制御装置へ出力する。第9配線L9は、その一端部が第3演算増幅器OP3の出力端子に接続され、他端部はA/D変換器14の入力端子に接続される。
【0025】
本実施形態に係るアクチュエータ素子1は、自己センシング機能を有するアクチュエータ素子として構成されている点において特徴を有する。ここでいう自己センシング機能とは、アクチュエータ本体11が駆動電圧を印加されて変形したとき、その変形に伴って変形とほぼ同時に、自己(すなわち、アクチュエータ本体11)において発生する微小な変形電圧(ここで、変形に伴って発生する電圧を「変形電圧」と称する)を測定することによって、自己(すなわち、アクチュエータ本体11)の変形量を検出する機能を指している。
【0026】
したがって、アクチュエータ素子1において自己センシング機能を実現するために、駆動源であるアクチュエータ本体11には、電圧を印加することによって変形を生ずる性質を有するとともに、外力が付与されるなどして変形すると電圧を発生する性質を有するものが用いられる。
【0027】
図2は、アクチュエータ素子1の構成要素であるアクチュエータ本体11について説明するための図である。図2(a)は、アクチュエータ本体11に対して電源Eによる電圧が印加されていないときのアクチュエータ本体11を示し、図2(b)は、アクチュエータ本体11に対して電源Eによる電圧が印加されたときのアクチュエータ本体11を示している。また、図2(c)は、図2(a)に示される回路の等価回路を示す図である。
【0028】
アクチュエータ本体11は、本実施形態においては、イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるイオン伝導層21を、カーボンナノファイバとイオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなる第1および第2電極層22a,22bで挟んだ3層構造として形成されている。なお、第1および第2電極層22a,22bは、相互に電気的に絶縁状態に形成されている。
【0029】
前記イオン性液体とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩である。イオン性液体は、従来より知られた各種のイオン性液体を使用することができるが、常温(室温)または可及的に常温に近い温度において液体状態を呈し安定なものが好ましい。
【0030】
好適なイオン性液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表されるカチオン(好
ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X-)よりなるものを例示することができる。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
[NRx4-x+ (III)
[PRx4-x+ (IV)
【0034】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは炭素数1〜12のアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12のアルキル基を示し、式(I)においてR1は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとR1とは同一ではないことが好ましい。式(III)および式(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。
【0035】
アニオン(X-)としては、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン、過塩素酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ジシアンアミドイオン、トリフルオロ酢酸イオン、有機カルボン酸イオン、およびハロゲンイオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。ただし、これらの組合せに限らず、常温溶融塩であって、導電率が0.1Sm-1以上のものであれば、使用可能である。
【0036】
また、カーボンナノファイバは、線径が1μm未満で、アスペクト比が100以上の炭素繊維である。代表的な製造法としては、溶融紡糸法が知られている。
【0037】
さらに、ゲル状組成物を得るのに用いることのできるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンーヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリー2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly−HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0038】
第1および第2電極層22a,22bを構成するゲル状組成物は、カーボンナノファイバとイオン性液体によりカーボンナノファイバゲルを得て、このゲルに、機械的な強度を保つためにポリマーを配合してゲル状組成物を得る。カーボンナノファイバとイオン性液体とのゲルは、イオン性液体の存在下でカーボンナノファイバにせん断力をかけることにより生成する。その際のカーボンナノファイバの配合割合は、カーボンナノファイバ/ゲル=1〜40重量%であるのが好ましい。
【0039】
機械的な強度を保つためにカーボンナノファイバゲルにポリマーを配合して、導電性があり電気応答伸縮活性のある電極層を得る際のカーボンナノファイバゲルとポリマーとの配合比(重量比)は、ゲル:ポリマー=1:2〜4:1であるのが好ましい。
【0040】
イオン伝導層21を構成するゲル状組成物は、イオン性液体とポリマーとからなる。このゲル状組成物を得る際のイオン性液体とポリマーの配合比(重量比)は、イオン性液体:ポリマー=1:4〜4:1であるのが好ましい。
【0041】
イオン伝導層21の表面に、第1および第2電極層22a,22bをそれぞれ形成して、アクチュエータ本体11を得るには、たとえば、各層の配合成分を含む分散液または溶液を、順次、展延法(キャスト法)により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させればよい。各層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましい。また、各層の製膜に当たっては、スピンコート法、印刷法、スプレー法なども用いることができる。さらに、押し出し法、射出法なども用いることができる。
【0042】
このようにして得られたアクチュエータ本体11は、図2(a)に示すように、スイッチ素子SW3がオフにされている状態、すなわち電源Eによる電圧が印加されていない状態では、変形が全く生じていない自然状態にある。この自然状態にあるアクチュエータ本体11に対し、図2(b)に示すように、スイッチ素子SW3をオンにして電圧を印加すると、印加された電圧に応じた変形量でアクチュエータ本体11を屈曲変形させることができる。このようにアクチュエータ本体11を屈曲変形させることで、アクチュエータ本体11を駆動源として機能させることができる。
【0043】
また、アクチュエータ本体11に対して外力などを付与することによって強制的に屈曲変形を生じさせた場合には、アクチュエータ本体11は、その変形量に応じた微小な変形電圧を発生する性質を有する。このとき、発生する変形電圧の大きさは、変形量の大きさによる。このようにアクチュエータ本体11に変形電圧が発生するので、この変形電圧を測定することによって、アクチュエータ本体11の変形量を検出することができる。なお、図2(a)の等価回路として図2(c)に示すように、アクチュエータ本体11は、電気的には大容量のコンデンサCと漏れ電流に相当する並列抵抗Rと考えることができる。
【0044】
以下では、アクチュエータ本体11の第1および第2電極層22a,22b間に駆動電圧Vdを印加すると、アクチュエータ本体11には屈曲変形が生じ、この屈曲変形に伴って微小な変形電圧Vtがアクチュエータ本体11に発生するものとして説明を行う。
【0045】
図1に戻って、この微小な変形電圧Vtを測定可能にするために、アクチュエータ素子1には、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2、ならびに増幅回路13が設けられている。なお、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2のオンおよびオフへの切り換えは、図示しない制御装置によって行われる。
【0046】
以下、アクチュエータ素子1の動作について具体的に説明する。図3は、アクチュエータ素子1の動作を説明するためのタイミングチャートである。図4は、アクチュエータ本体11の変形量を検出する変形検出工程を示すフローチャートである。
【0047】
図3(1)および(2)に示すように、時刻t0で、制御装置は、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2をいずれも同時にオン(導通状態)にする(ステップs1)。第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオンにされると、電源12によって駆動電圧Vdがアクチュエータ本体11に印加される。アクチュエータ本体11は、第1および第2電極層22a,22b間に駆動電圧Vdが印加されると、自然状態から駆動電圧Vdに応じた変形量Xだけ屈曲変形する。
【0048】
時刻t0から時間T1だけ経過した時刻t1で、制御装置は、駆動電圧Vdが印加されたときのアクチュエータ本体11の変形量Xを検出するために、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2をいずれも同時にオフ(遮断状態)にする(ステップs2)。第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオフにされると、電源12によるアクチュエータ本体11に対する駆動電圧Vdの印加を停止される。アクチュエータ本体11では、駆動電圧Vdの印加が停止されると、第1および第2電極層22a,22b間の電圧が、停止直前までの印加されていた電圧Vdから変形量Xに応じた変形電圧Vtだけ変化する。すなわち、第1および第2電極層22a,22b間の電圧は、Vd+Vtに変化する。この変形電圧Vtは、前述するように、アクチュエータ本体11への電圧印加による起電力に由来している。この起電力は、印加される駆動電圧Vdよりも微小であるため、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオンにされているときには、駆動電圧Vdに埋もれた状態である。
【0049】
このように第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオフにされると、第1演算増幅器OP1の各入力端子には第1および第2電極層22a,22bの各電圧が与えられ、第2演算増幅器OP2の各入力端子には電源12の電極の各電圧が与えられる。また、第3円演算増幅器OP3の各入力端子には、第1および第2電極層22a,22b間の電圧(Vd+Vt)および電源12の電極間の電圧Vdがそれぞれ与えられる。そして、第3演算増幅器OP3からは、両者の差分である変形電圧Vtが増幅されて、A/D変換器14へ出力される。なお、増幅後の変形電圧Vtを、電圧Vt’と表す。
【0050】
図3(4)に示すように、時刻t1から微小な待ち時間T2(たとえば、10μsec)だけ経過した時刻t2で、制御装置は、A/D変換器14によるA/D変換を開始させる(ステップs3)。図3(3)に示すように、この待ち時間T2は、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオフにされてからA/D変換を開始するまでの待ち時間であり、制御装置の遅延部によって計測される。なお、この待ち時間T2は、アクチュエータ本体11に印加された駆動電圧Vdと変形電圧Vtとを切り分けて、前記増幅後の電圧Vt’を精度良く測定するために必要な時間である。A/D変換器14は、A/D変換が開始されると、第3演算増幅器OP3から入力される電圧Vt’に対応するアナログデータを、16bitデジタルデータに変換する。
【0051】
時刻t2から測定時間T3(たとえば、40μsec)だけ経過した時刻t3で、制御装置は、A/D変換器14によるA/D変換を停止させる(ステップs4)。この測定時間T3は、A/D変換器14において電圧Vt’を測定する時間であり、制御装置のA/D変換部によって計測される。
【0052】
A/D変換器14によるA/D変換が停止されると、制御装置には、A/D変換器14において変換されたデジタルデータが入力される。制御装置では、入力されたデジタルデータに基づいて、アクチュエータ本体11の変形量Xが検出される(ステップs5)。
【0053】
制御装置には、アクチュエータ本体11の変形量Xと、その変形量Xに応じてアクチュエータ本体11に発生する変形電圧Vt(または、増幅後の変形電圧Vt’)との対応関係を示すデータが、予め格納されている。したがって、制御装置は、この対応関係を示すデータと、第3演算増幅器OP3から入力されたデジタルデータとに基づいて、アクチュエータ本体11の変形量Xを検出することができる。
【0054】
また、このようにアクチュエータ本体11の変形量Xを検出することによって、アクチュエータ本体11の変形状態を正確に知ることができる。したがって、電源12の駆動電圧Vdを制御することによって、アクチュエータ素子1の駆動を正確に制御することができる。
【0055】
時刻t3から所定の微小な時間T4(たとえば、100〜200μsec)だけ経過した時刻t4で、制御装置は、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2をいずれも同時にオンにする。第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオンにされると、前述するように、電源12によって駆動電圧Vdがアクチュエータ本体11に印加される。
【0056】
本実施形態によれば、駆動電圧Vdが印加されたときのアクチュエータ本体11の変形量Xを検出するために、第1および第2スイッチ素子SW1,SW2がオフにされている時間(T2+T3+T4)が極めて微少な時間である。したがって、アクチュエータ本体11に対する駆動電圧Vdの印加が停止されたとしても、駆動電圧Vdに応じた変形量Xでアクチュエータ本体11が変形したままの状態で、アクチュエータ本体11に対する駆動電圧Vdの印加が再開される。すなわち、アクチュエータ本体11の変形量Xに影響を与えずに、その変形量Xを検出することができる。
【0057】
上記の説明においては、アクチュエータ本体11として、イオン伝導層21と、イオン伝導層21を挟む2つの電極層22a,22bとを積層した3層構造のアクチュエータ本体を用いているが、アクチュエータ本体11の構成はこのような構成に限らない。
【0058】
たとえば、電圧の印加によって可動なイオンを含んでいるイオン導電性高分子を用いるIPMC(Ionic Polymer Metal Composites)アクチュエータまたはICPF(Ionic
Conducting Polymer Film)アクチュエータと呼ばれるタイプの高分子アクチュエータであっても良い。
【0059】
このような高分子アクチュエータは、陽イオン物質が含浸されたイオン導電性高分子層21と、このイオン導電性高分子層21の両面それぞれに設けられる電極層22a,22bとによって構成されたアクチュエータ本体11を用いることによって実現される。
【0060】
イオン導電性高分子層21は、フッ素樹脂、炭化水素系などを骨格としたイオン交換樹脂からなり、表裏2つの主面を持つ形状を呈している。また、イオン交換樹脂としては、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、両イオン交換樹脂のいずれでも良いが、このうち陽イオン交換樹脂が好適である。
【0061】
陽イオン交換樹脂としては、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基、カルボキシル基などの官能基が導入されたものが挙げられ、特にフッ素樹脂にスルホン酸基、カルボキシル基などの官能基が導入された陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0062】
電極層22a,22bは、たとえば、イオン導電性高分子層21に金属錯体(たとえば、金錯体、白金錯体)を水溶液中で吸着させ、吸着した金属錯体を還元剤により還元して、イオン導電性高分子層21表面に金属を析出させることによって形成する。
【0063】
また、電極層22a,22bは、カーボンブラックの微細粉末とイオン導電性樹脂(イオン導電性高分子層21を構成する材料と同じものでよい)を溶媒に分散させた塗料を、イオン導電性高分子層21に塗布し乾燥させて、所望の厚さでカーボン電極層として形成することもできる。
【0064】
なお、少なくともイオン導電性高分子層21に陽イオン物質が含浸されているが、この陽イオン物質とは、水および金属イオン、水および有機イオン、イオン液体のいずれかであることが好ましい。ここで、金属イオンとは、たとえば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオンなどが挙げられる。
【0065】
また、有機イオンとは、たとえば、アルキルアンモニウムイオンなどが挙げられる。これらのイオンは、イオン導電性高分子層21中において水和物として存在している。イオン導電性高分子層21が水および金属イオン、または水および有機イオンを含み、含水状態となっている場合には、高分子アクチュエータは中からこの水が揮発しないように、電極層22a,22bおよびイオン導電性高分子層21を封止しておくことが好ましい。
【0066】
また、イオン液体としては、イミダゾリウム環系化合物、ピリジニウム環系化合物、脂肪族系化合物のものを使用することができる。イオン導電性高分子層21にイオン液体を含浸させている場合には、揮発する心配なく高温あるいは真空中でも高分子アクチュエータを使用することができる。
【0067】
以上説明するように、本実施形態のアクチュエータ素子1によれば、アクチュエータ本体11の変形量を容易に検出することができる。また検出のために複雑な装置を設ける必要がないので、アクチュエータ素子1の小型化を妨げることがなく、製造工程も複雑化させることがない。また、変形によって発生する変形電圧に基づいて変形量を検出するように構成されているので、従来技術のように変形を妨げる可能性のある部材を取り付ける必要がない。
【符号の説明】
【0068】
1 アクチュエータ素子
11 アクチュエータ本体
12 電源
13 増幅回路
14 A/D変換器
21 イオン伝導層
22a,22b 電極層
SW1,SW2 スイッチ素子
OP1,OP2,OP3 演算増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加によって変形を生じる性質を有するとともに、変形を加えると電圧を発生する性質を有するアクチュエータ本体と、
アクチュエータ本体に電圧を印加する電源と、
前記電源によってアクチュエータ本体へ電圧が印加される印加状態と、電圧が印加されない遮断状態とを切り換えるスイッチと、
前記アクチュエータ本体の変形によって発生した電圧を測定するための増幅回路とを備えることを特徴とするアクチュエータ素子。
【請求項2】
前記増幅回路は、
前記アクチュエータ本体に設けられる各電極の印加電圧の差分を出力する第1の演算増幅器と、
前記電源における各電極の印加電圧の差分を出力する第2の演算増幅器と、
前記第1の演算増幅器によって出力された電圧と、前記第2の演算増幅器によって出力された電圧との差分を出力する第3の演算増幅器とを備えることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ素子。
【請求項3】
前記アクチュエータ本体は、
イオン性液体とポリマーとからなるイオン伝導層と、
前記イオン伝導層を挟み、相互に電気的に絶縁されて設けられる2つの電極層とからなることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ素子。
【請求項4】
前記アクチュエータ本体は、
イオン交換樹脂からなるイオン導電性高分子層と、
前記イオン導電性高分子層を挟み、相互に電気的に絶縁されて設けられる2つの電極層とからなることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ素子。
【請求項5】
電圧の印加によって変形を生じる性質を有するとともに、変形を加えると電圧を発生する性質を有するアクチュエータ本体に対して、電圧を印加したときの変形量を検出する変形量検出方法であって、
アクチュエータ本体に対して電圧を印加する第1工程と、
アクチュエータ本体に対する電圧の印加を停止する第2工程と、
電圧の印加が停止された後に、アクチュエータ本体に発生している電圧と、アクチュエータ本体に対して印加された電圧との差分を測定する第3工程と、
測定された差分に基づいて変形量を検出する第4工程とを含むことを特徴とする変形量検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−229881(P2010−229881A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77631(P2009−77631)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】