説明

アクティブ消音装置

【課題】リアルタイムな消音動作が可能であるとともに、アクティブ消音が騒音源収拾マイクに干渉することによる発振現象(ハウリング)を防止して必要なアクティブ消音レベルを確保することができるアクティブ消音装置を提供する。
【解決手段】音源からの音波を伝播させる音響路6と、音響路6を伝播する音波を検出する騒音源収拾マイク1と、音響路6内において騒音源収拾マイク1よりも下流側に設けられ、音源からの音波を消音するための逆位相の第1消音音波を発生させる打消し用スピーカ4aと、第1消音音波の発生タイミングと音量とを制御する第1制御部(第1信号遅延部7、周波数検出部9、第1音量制御部10)と、騒音源収拾マイク1と打消し用スピーカ4aとの間に設けられ、第1消音音波を消音するための逆位相の第2消音音波を発生させる打消し用スピーカ4bと、第2消音音波の発生タイミングと音量とを制御する第2制御部(第2信号遅延部8、周波数検出部9、第2音量制御部11)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば印刷機、自動車、エアコン等の騒音を発する機器・装置類において騒音と逆位相の音波を発生させることにより当該騒音を低減するアクティブ消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、騒音が発生する自動車やクーラー等の装置類に対し、騒音と逆位相の信号を生成し、当該信号に対応する音波をスピーカから出力することにより消音を行うアクティブ消音装置が適用されている。
【0003】
図7は、従来のアクティブ消音装置(アクティブノイズコントロール)の一般的な構成を示すブロック図である。図7に示すように、従来のアクティブ消音装置は、騒音源収拾マイク1と、誤差検出マイク2と、アクティブノイズ制御部3と、打ち消し用スピーカ4とにより構成される。
【0004】
騒音源収拾マイク1は、装置内で発生した騒音が通過する音響路の上流側(騒音源の近傍)に設置され、当該騒音を拾音するためのマイクロホンである。この騒音源収拾マイク1は、拾音した騒音に基づく騒音信号を生成し、後述するアクティブノイズ制御部3に出力する。
【0005】
誤差検出マイク2は、装置内で発生した騒音が通過する音響路の下流側(少なくとも打消し用スピーカ4より下流側)に設置され、当該騒音を拾音して消音結果を検出するためのマイクロホンである。この誤差検出マイク2は、拾音した騒音に基づく誤差検出信号を後述するアクティブノイズ制御部3に出力する。
【0006】
アクティブノイズ制御部3は、騒音源収拾マイク1により生成された騒音信号に基づいて、騒音と逆位相の消音信号を生成し、打消し用スピーカ4に出力する。
【0007】
打消し用スピーカ4は、アクティブノイズ制御部3により生成された消音信号に基づいて、騒音進行波が打消し用スピーカ4の設置位置に到達したタイミングで騒音と逆位相の音波を出力し、騒音の音圧を打ち消す。
【0008】
なお、打消し用スピーカ4が常に一定の固定された変換ゲインで消音用の音波を出力すると消音効果は少なくなる。そこで、アクティブノイズ制御部3は、誤差検出マイク2により生成された誤差検出信号に基づいて消音効果を検出し、適正なレベルに制御した消音信号を生成する。すなわち、アクティブノイズ制御部3は、誤差検出マイク2を介してフィードバックされた消音作用の結果をモニターし、より効率的な消音信号を生成して出力する。
【0009】
特許文献1には、突発的な外乱が存在する環境下においても安定した消音効果を得ることが可能であり、モータの回転騒音あるいは他の純音系騒音を発生する騒音源が複数個ある場合でも、これらの騒音を十分に消音する消音機能を備えることを課題とする画像形成装置の消音装置が記載されている。
【0010】
この消音装置は、駆動モータ、スキャナモータ等の回転音あるいは帯電ローラの交流電圧駆動の際に生じる帯電音等、純音系の騒音を発生する騒音源が複数個存在する場合でも、それぞれが発生している純音系騒音と相関のある信号を作成する騒音源に相当する数のそれぞれの信号作成手段を設け、この信号作成手段で得られた複数個の騒音源に対する信号を信号合成手段により合成して出力し、この合成した信号に基づいて純音系騒音と互いに打ち消し合う音波をスピーカから発生させているので、これら複数の純音系騒音について消音効果を得ることができる。
【0011】
特許文献2には、設置場所がオペレーターやサービスステーション等と離れていたとしても、異常箇所を容易に検知し、遠隔地に当該異常を知らせることを課題とするアクティブ消音装置が記載されている。
【0012】
このアクティブ消音装置は、騒音源側に配置されるダクトに第一の騒音検出手段と、該ダクトの下流側に配置されて消音信号を出力する手段と、第一の騒音検出手段にて検出した騒音信号に対して逆位相の消音信号を算出する演算手段、及び、出力手段よりも下流側に配置される第二の騒音検出手段を有し、さらに検出手段や出力手段の異常を検知して、これらを表示して警報を発する警報装置を備えているので、アクティブ消音装置に異常が発生した場合に異常箇所や故障した部品について離れた場所で容易に認識することができ、異常の発生を止めて部品が破損することを防止するとともに、故障部品の代替品を用意して修理したりする等の処置を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−197921号公報
【特許文献2】特開2001−222287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来のアクティブ消音装置は、消音効果を最良にするための適応型フィルタの収束性能(リアルタイム性)に課題がある。すなわち、図7に示すような従来のアクティブ消音装置は、誤差検出マイク2で拾音されてからアクティブノイズ制御部3にフィードバックされるまでの間にタイムラグが生ずるため、打消し用スピーカ4で消音しきれない騒音が発生する。
【0015】
また、図7に示す従来のアクティブ消音装置は、打消し用スピーカ4から出力された音圧が騒音源収拾マイク1にリターンしてハウリング現象を発生させるため、真の騒音を拾音することが困難になるという問題を有する。
【0016】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、リアルタイムな消音動作が可能であるとともに、アクティブ消音が騒音源収拾マイクに干渉することによる発振現象(ハウリング)を防止して必要なアクティブ消音レベルを確保することができるアクティブ消音装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るアクティブ消音装置は、上記課題を解決するために、音源からの音波を伝播させる音響路と、前記音響路内に設けられ、前記音響路を伝播する音波を検出する音波検出部と、前記音響路内において前記音波検出部よりも下流側に設けられ、前記音源からの音波を消音するための逆位相の第1消音音波を発生させる第1消音音波発生部と、前記音波検出部により検出された音波に基づいて、前記第1消音音波の発生タイミングと音量とを制御する第1制御部と、前記音響路内において前記音波検出部と前記第1消音音波発生部との間に設けられ、前記第1消音音波を消音するための逆位相の第2消音音波を発生させる第2消音音波発生部と、前記音波検出部により検出された音波に基づいて、前記第2消音音波の発生タイミングと音量とを制御する第2制御部とを備えることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明に係るアクティブ消音装置の第2の特徴は、前記第1制御部は、前記音波検出部により検出された音波の周波数に基づいて、前記第1消音音波の音量を制御することである。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明に係るアクティブ消音装置の第3の特徴は、前記第2制御部は、前記音波検出部により検出された音波の周波数に基づいて、前記第2消音音波の音量を制御することである。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明に係るアクティブ消音装置の第4の特徴は、前記音響路は、前記音源からの音波を外部に放出する他の開口部に比して音響インピーダンスが小さいことである。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明に係るアクティブ消音装置の第5の特徴は、前記音響路は、上流側から下流側に向かって断面積が漸増する形状を有することである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の発明によれば、リアルタイムな消音動作が可能であるとともに、アクティブ消音が音波検出部に干渉することによる発振現象(ハウリング)を防止して必要なアクティブ消音レベルを確保することができる。
【0023】
請求項2記載の発明によれば、第1制御部を備えていることで音源からの音波の周波数に対応した効果的な消音レベルに制御することができるとともに、従来のようなフィードバック制御による収束系を使用して音量制御を行う場合よりも、よりリアルタイムに消音動作を行うことができる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、第2制御部を備えていることで、第1消音音波を消音するための第2消音音波について、音源からの音波の周波数に対応した効果的な消音レベルに制御することができる。
【0025】
請求項4記載の発明によれば、密閉できない開口部よりも音響インピーダンスの小さな音響路を設けることにより、内部騒音を効果的に音響路に誘導し、アクティブ消音を行うことができる。
【0026】
請求項5記載の発明によれば、上流側から下流側に向かって断面積が漸増する形状(例えばラッパ形状)の音響路を備えることにより、音響インピーダンスを小さくし、内部騒音を効果的に音響路に誘導してアクティブ消音を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1の形態のアクティブ消音装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1の形態のアクティブ消音装置を印刷機に適用した場合の構成を示すイメージ図である。
【図3】本発明の実施例1の形態のアクティブ消音装置の動作を説明する図である。
【図4】本発明の実施例1の形態のアクティブ消音装置において騒音周波数に対し最も消音効果の得られる音量係数を第1消音音波と第2消音音波について示す図である。
【図5】本発明の実施例1の形態のアクティブ消音装置のスィープサイン波による音圧周波数特性を示す波形図である。
【図6】本発明の実施例1の形態のアクティブ消音装置のスィープサイン波による各部の音波波形を示す図である。
【図7】従来のアクティブ消音装置(アクティブノイズコントロール)の一般的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のアクティブ消音装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態の構成を説明する。図1は、本発明の実施例1のアクティブ消音装置の構成を示すブロック図である。また。図2は、本実施例のアクティブ消音装置を印刷機に適用した場合の構成を示すイメージ図である。本実施例において、アクティブ消音装置は、図2に示すように印刷機に適用されているものとして説明するが、必ずしも印刷機に限らず自動車やエアコンの室外機等の様々な機器に適用可能である。
【0030】
本実施例のアクティブ消音装置3は、図1に示すように、騒音源収拾マイク1、打消し用スピーカ4a,4b、開口部5、音響路6、第1信号遅延部7、第2信号遅延部8、周波数検出部9、第1音量制御部10、及び第2音量制御部11により構成されている。
【0031】
騒音源収拾マイク1は、本発明の音波検出部に対応し、音響路6内に設けられ、音響路6を伝播する音波を検出する。この騒音源収拾マイク1は、印刷機内で発生した騒音が通過する音響路6の上流側(騒音源の近傍)に設置され、当該騒音を拾音するためのマイクロホンである。この騒音源収拾マイク1は、拾音した騒音に基づく騒音信号を生成し、第1信号遅延部7と周波数検出部9に出力する。
【0032】
音響路6は、音源(ここでは印刷機内の騒音源)からの音波を伝播させる。また、音響路6は、密閉できない開口部5より音響負荷(インピーダンス)の軽い音の誘導路を構成する。ここで、開口部5は、アクティブ消音装置に必須の構成というものではなく、アクティブ消音装置を適用する機器の性質上、密閉できない(開けざるを得ない)部分をいう。例えば、図2に示すような印刷機は、装置内に用紙を給紙する給紙部や印刷された用紙を排出する排紙部を備えているため、用紙を通過させる部分を開口部5として設けざるをえない一方、印刷機内で発生した騒音が当該開口部5を介して外部に放出されてしまい、遮音が困難な構造を有している。
【0033】
本実施例のアクティブ消音装置は、このような開口部5を有する機器に適用した場合に、開口部5から外部に放出される騒音を低減する効果を有する。すなわち、音響路6は、音源からの音波を外部に放出する他の開口部5に比して音響インピーダンスが小さい。具体的には、音響路6は、上流側から下流側に向かって断面積が漸増する形状(例えばラッパ形状)を有する。これにより、音響路6は、音響インピーダンスを小さくすることができ、内部騒音を音響路6内に誘導することができる。
【0034】
言い換えれば、音響路6は、極力音響負荷を放射口に向かって誘導できるようなラッパ形状が望ましく、また騒音エネルギーを分散させるために、開口部5より十分に音響負荷を軽くすることが望ましい。
【0035】
ここで、A(z_o)を開口部5の音響インピーダンスとし、A(z_r)を音響路6の音響インピーダンスとし、E(in)を装置(ここでは印刷機)内騒音エネルギーとし、E(out_o)を開口部5より放出される騒音エネルギーとし、E(out_r)を音響路6放射口より放出されるエネルギーとすると、下記の式が成立する。
【0036】
E(in)=E(out_o)+E(out_r)…(1)
E(out_o)/E(out_r)=A(z_r)/A(z_o)…(2)
(1)式及び(2)式より、(3)式が得られる。
【0037】
E(out_o)=[A(z_r)/(A(z_o)+A(z_r))]・E(in)…(3)
すなわち、音響路6の音響インピーダンスを開口部5の音響インピーダンスより小さく(音響負荷を軽く)する(A(z_o)>A(z_r))ことで、開口部5より放出される騒音エネルギーE(out_o)を軽減することができる。より好適な形態は、A(z_o)>>A(z_r)とすることである。
【0038】
打消し用スピーカ4aは、本発明の第1消音音波発生部に対応し、音響路6内において騒音源収拾マイク1よりも下流側に設けられ、音源からの音波を消音するための逆位相の第1消音音波を発生させる。
【0039】
第1信号遅延部7と周波数検出部9と第1音量制御部10とは、本発明の第1制御部に対応し、騒音源収拾マイク1により検出された音波に基づいて、打消し用スピーカ4aによる第1消音音波の発生タイミングと音量とを制御する。
【0040】
具体的には、第1信号遅延部7は、騒音源収拾マイク1により検出された音波に基づく騒音信号を一定時間遅延させる。この第1信号遅延部7による遅延量は、打消し用スピーカ4aにより第1消音音波が放射される(音圧に変換される)までの時間と音響路6内を騒音が進行する時間とが一致するように予め設定されている。
【0041】
これにより、打消し用スピーカ4aは、騒音が打消し用スピーカ4aの位置に到達したときに、第1消音音波を発生させる。
【0042】
すなわち、本実施例のアクティブ消音装置における第1制御部は、第1信号遅延部7を有することにより、騒音源収拾マイク1により検出された音波に基づいて、打消し用スピーカ4aによる第1消音音波の発生タイミングを制御する。
【0043】
なお、第1信号遅延部7は、例えばFIRフィルタにより構成することができる。この場合において、第1信号遅延部7は、騒音信号を一定時間遅延させる機能のみならず、騒音源に含まれるアクティブ消音できない帯域を減衰させる機能を併せ持つことができる。
【0044】
また、周波数検出部9は、騒音源収拾マイク1により検出された音波の騒音信号に基づいて、騒音の周波数を検出し、検出結果を周波数信号として第1音量制御部10と第2音量制御部11とに出力する。
【0045】
第1音量制御部10は、周波数検出部9により出力された周波数信号に基づいて、騒音の周波数に応じた音量を設定し、打消し用スピーカ4aによる第1消音音波の音量を制御する。
【0046】
すなわち、本実施例のアクティブ消音装置における第1制御部は、周波数検出部9と第1音量制御部10とを有することにより、騒音源収拾マイク1により検出された音波の周波数に基づいて、打消し用スピーカ4aによる第1消音音波の音量を制御する。
【0047】
打消し用スピーカ4bは、本発明の第2消音音波発生部に対応し、音響路6内において騒音源収拾マイク1と打消し用スピーカ4aとの間に設けられ、打消し用スピーカ4aによる第1消音音波を消音するための逆位相の第2消音音波を発生させる。
【0048】
第2信号遅延部8と周波数検出部9と第2音量制御部11とは、本発明の第2制御部に対応し、騒音源収拾マイク1により検出された音波に基づいて、打消し用スピーカ4bによる第2消音音波の発生タイミングと音量とを制御する。
【0049】
具体的には、第2信号遅延部8は、第1信号遅延部7により遅延させられた騒音信号をさらに一定時間遅延させる。この第2信号遅延部8による遅延量は、打消し用スピーカ4bにより第2消音音波が放射されるまでの時間と、音響路6内を第1消音音波が下流から上流に向かって進行して打消し用スピーカ4bの位置に到達するまでの時間とが一致するように予め設定されている。
【0050】
これにより、打消し用スピーカ4bは、第1消音音波が打消し用スピーカ4bの位置に到達したときに、第2消音音波を発生させる。
【0051】
すなわち、本実施例のアクティブ消音装置における第2制御部は、第2信号遅延部8を有することにより、騒音源収拾マイク1により検出された音波に基づいて、打消し用スピーカ4bによる第2消音音波の発生タイミングを制御する。
【0052】
なお、第2信号遅延部8は、例えばFIFO遅延等の単純なメモリー遅延により構成することができる。
【0053】
第2音量制御部11は、周波数検出部9により出力された周波数信号に基づいて、騒音の周波数に応じた音量を設定し、打消し用スピーカ4bによる第2消音音波の音量を制御する。
【0054】
すなわち、本実施例のアクティブ消音装置における第2制御部は、周波数検出部9と第2音量制御部11とを有することにより、騒音源収拾マイク1により検出された音波の周波数に基づいて、打消し用スピーカ4bによる第2消音音波の音量を制御する。
【0055】
<アクティブ消音装置の作用>
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図3は、本実施例のアクティブ消音装置の動作を説明する図である。まず、騒音源収拾マイク1は、音響路6を伝播する音波を検出し、検出した音波に基づく騒音信号を生成し、第1信号遅延部7と周波数検出部9に出力する。
【0056】
第1信号遅延部7は、騒音源収拾マイク1により検出された音波に基づく騒音信号を一定時間遅延させる。この第1信号遅延部7による遅延量は、上述したように、打消し用スピーカ4aにより第1消音音波が放射される(音圧に変換される)までの時間と音響路6内を騒音が進行する時間とが一致するように予め設定されている。
【0057】
すなわち、騒音源収拾マイク1から打消し用スピーカ4aまでの距離をL_1とし、音の進行速度(約340m/sec)をCsとすると、第1信号遅延部7は、騒音源収拾マイク1が音波を拾音してからt1(=L_1/Cs)経過後に、打消し用スピーカ4aが第1消音音波を放射するように、騒音信号を遅延させる。
【0058】
一方、周波数検出部9は、騒音源収拾マイク1により検出された音波の騒音信号に基づいて、騒音の周波数を検出する。従来のアクティブ消音装置が図7に示すように誤差検出マイク2を使用して消音するための音波の音量を適切な値に収束させていたのに対し、本実施例のアクティブ消音装置は、応答性を改善してリアルタイムな消音動作を実現するために、周波数検出を行う必要がある。
【0059】
すなわち、本実施例のアクティブ消音装置は、騒音の周波数を検出し、周波数に応じた第1消音音波と第2消音音波の音量を設定し、リアルタイムな動作を可能としている。ここで、周波数検出部9は、周波数検出の方法として、例えばゼロクロス検出を行う。この場合に、周波数検出部9は、騒音信号から符号反転箇所を抽出し、この反転箇所の時間(サンプリング周期)をカウントし、カウント値を周波数信号として第1音量制御部10と第2音量制御部11とに出力する。第1音量制御部10は、周波数信号が示すカウント値に基づいて音量を設定するための音量係数を算出し、打消し用スピーカ4aによる第1消音音波の音量を制御する。
【0060】
図4は、本実施例のアクティブ消音装置において騒音周波数に対し最も消音効果の得られる音量係数を第1消音音波と第2消音音波について示す図である。ただし、図4中における「a波」は第1消音音波を示すものとし、「b波」は第2消音音波を示すものとする。
【0061】
本実施例のアクティブ消音装置を実現するに際し、アクティブ消音効果が最大になる音量係数値を予め実験的に求めておくことにより、図4に示すようなグラフを作成することができ、これに基づいて補正量を決定することもできる。
【0062】
なお、第1音量制御部10と第2音量制御部11とが音量係数の算出を行うものとして説明したが、周波数検出部9が周波数検出のみならず音量係数の算出まで行ってもよい。
【0063】
このように、第1信号遅延部7が第1消音音波の発生タイミングを制御し、周波数検出部9と第1音量制御部10とが第1消音音波の音量を制御することで、打消し用スピーカ4aは、音源からの音波を消音するための逆位相の第1消音音波を適切なタイミングと音量で発生させる。
【0064】
第2信号遅延部8は、第1信号遅延部7により遅延させられた騒音信号をさらに一定時間遅延させる。この第2信号遅延部8による遅延量は、上述したように、打消し用スピーカ4bにより第2消音音波が放射されるまでの時間と、音響路6内を第1消音音波が下流から上流に向かって進行して打消し用スピーカ4bの位置に到達するまでの時間とが一致するように予め設定されている。
【0065】
すなわち、打消し用スピーカ4aから打消し用スピーカ4bまでの距離をL_2とし、音の進行速度をCsとすると、第2信号遅延部8は、騒音源収拾マイク1が音波を拾音してからt2(=(L_1+L_2)/Cs)経過後(すなわち、打消し用スピーカ4aにより第1消音音波が放射されてからL_2/Cs経過後)に、打消し用スピーカ4bが第2消音音波を放射するように、騒音信号を遅延させる。
【0066】
これにより、打消し用スピーカ4bは、第1消音音波が打消し用スピーカ4bの位置に到達したときに、第2消音音波を発生させる。この第2消音音波は、第1消音音波と逆位相であり、騒音源からの音波と同位相である。
【0067】
第2音量制御部11は、周波数信号が示すカウント値に基づいて音量を設定するための音量係数を算出し、打消し用スピーカ4bによる第2消音音波の音量を制御する。
【0068】
このように、第2信号遅延部8が第2消音音波の発生タイミングを制御し、周波数検出部9と第2音量制御部11とが第2消音音波の音量を制御することで、打消し用スピーカ4bは、第1消音音波を消音するための逆位相の第2消音音波を適切なタイミングと音量で発生させる。
【0069】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係るアクティブ消音装置によれば、アクティブ消音が音波検出部(騒音源収拾マイク1)に干渉することによる発振現象(ハウリング)を防止することができる。これにより、本実施例のアクティブ消音装置は、ハウリングマージンが高いため、必要なアクティブ消音レベルを確保することができる。
【0070】
さらに、本実施例のアクティブ消音装置は、収束系を持たないためリアルタイムな消音動作が可能である。すなわち、本実施例のアクティブ消音装置は、単純なアルゴリズム(データ遅延と音量係数乗算)で処理可能であり、処理デバイスを安価に抑えることができる。
【0071】
図5は、本実施例のアクティブ消音装置のスィープサイン波による音圧周波数特性を示す波形図であり、騒音源収拾マイク1により拾音した音圧レベルと図示されない音響路6の放射口に設けた確認用マイクにより拾音した音圧レベルとをアクティブ消音装置を動作させた場合と動作させない場合のそれぞれについてFFT解析した様子を表している。
【0072】
なお、図5中におけるANCはアクティブノイズコントロールを示す。すなわち、ANC_Onはアクティブ消音装置を動作させた場合の波形であり、ANC_Offはアクティブ消音装置を動作させていない場合の波形である。
【0073】
図5に示すように、騒音源収拾マイク1により拾音される音圧レベルは、アクティブ消音装置をオンした場合とオフした場合とで周波数特性に大きな差異は無い。しかしながら、音響路6の放射口において確認される音圧は、アクティブ消音装置をオンした場合に消音効果帯域において明らかに音圧レベルが低下しており、消音効果が認められる。
【0074】
また、図6は、本実施例のアクティブ消音装置のスィープサイン波による各部の音波波形を示す図である。図6の左側に示す2つの波形は、アクティブ消音装置がオフ時(上側の波形)とオン時(下側の波形)の音源電流波形であり、オン時とオフ時において差異は無い。この音源は、騒音源として擬似騒音源スピーカを実験用に配置したものであり、電気的特性として190Hzあたりに共振周波数を有しているため、図6に示すような窪んだ形状の波形となっている。
【0075】
図6の真ん中に示す2つの波形は、アクティブ消音装置がオフ時(上側の波形)とオン時(下側の波形)の騒音源収拾マイク1により拾音される音波波形である。オン時の波形が示すように、発振現象(ハウリング)は生じていない。
【0076】
また、図6の右側に示す2つの波形は、アクティブ消音装置がオフ時(上側の波形)とオン時(下側の波形)の音響路6放射口における音波波形であり、オン時において音圧レベルが低減していることがわかる。
【0077】
さらに、本実施例のアクティブ消音装置は、第1制御部に周波数検出部9を備えていることで、音源からの音波の周波数に対応した効果的な消音レベルに制御することができるとともに、従来のようなフィードバック制御による収束系を使用して音量制御を行う場合よりも、よりリアルタイムに消音動作を行うことができる。
【0078】
また、本実施例のアクティブ消音装置は、第2制御部に周波数検出部9を備えていることで、第1消音音波を消音するための第2消音音波について、音源からの音波の周波数に対応した効果的な消音レベルに制御することができる。
【0079】
また、本実施例のアクティブ消音装置は、密閉できない開口部5よりも音響インピーダンスの小さな音響路6を設けることにより、内部騒音を効果的に音響路に誘導し、アクティブ消音を行うことができる。
【0080】
さらに、本実施例のアクティブ消音装置は、上流側から下流側に向かって断面積が漸増する形状(例えばラッパ形状)の音響路6を備えることで音響インピーダンスを小さくすることができ、内部騒音を効果的に音響路6に誘導してアクティブ消音を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るアクティブ消音装置は、例えば画像形成装置や孔版印刷装置等の印刷機、自動車、クーラー、エアコン等の騒音を発する機器・装置類に利用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 騒音源収拾マイク
2 誤差検出マイク
3 アクティブノイズ制御部
4,4a,4b 打消し用スピーカ
5 開口部
6 音響路
7 第1信号遅延部
8 第2信号遅延部
9 周波数検出部
10 第1音量制御部
11 第2音量制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの音波を伝播させる音響路と、
前記音響路内に設けられ、前記音響路を伝播する音波を検出する音波検出部と、
前記音響路内において前記音波検出部よりも下流側に設けられ、前記音源からの音波を消音するための逆位相の第1消音音波を発生させる第1消音音波発生部と、
前記音波検出部により検出された音波に基づいて、前記第1消音音波の発生タイミングと音量とを制御する第1制御部と、
前記音響路内において前記音波検出部と前記第1消音音波発生部との間に設けられ、前記第1消音音波を消音するための逆位相の第2消音音波を発生させる第2消音音波発生部と、
前記音波検出部により検出された音波に基づいて、前記第2消音音波の発生タイミングと音量とを制御する第2制御部と、
を備えることを特徴とするアクティブ消音装置。
【請求項2】
前記第1制御部は、前記音波検出部により検出された音波の周波数に基づいて、前記第1消音音波の音量を制御することを特徴とする請求項1記載のアクティブ消音装置。
【請求項3】
前記第2制御部は、前記音波検出部により検出された音波の周波数に基づいて、前記第2消音音波の音量を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアクティブ消音装置。
【請求項4】
前記音響路は、前記音源からの音波を外部に放出する他の開口部に比して音響インピーダンスが小さいことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のアクティブ消音装置。
【請求項5】
前記音響路は、上流側から下流側に向かって断面積が漸増する形状を有することを特徴とする請求項4記載のアクティブ消音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−163608(P2012−163608A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21666(P2011−21666)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】