説明

アクリル系樹脂の製造方法

【課題】異物除去レベルを向上させ、異物が少ないアクリル系樹脂組成物およびその最適な製造方法を提供する。
【解決手段】(I)アクリル系樹脂を溶融押出で製造する工程、(II)工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程、(III)工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程、(IV)工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程、を含んだ一連の工程にてアクリル系樹脂を製造することで、異物の少ないアクリル系樹脂を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂組成物及びその製造方法に関する。より詳しくは、異物量の極めて少ない、アクリル系樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂などのアクリル系樹脂は、透明性が高く、コポリマーの置換基組成比や官能基の官能化率等をコントロールすることで、複屈折率を自在に調整できるなど優れた光学特性を示すことが知られている。特にメタクリル系樹脂は、低光弾性や低透湿性の特徴を有し、更に機械的強度や成型性、表面硬度のバランスが優れているため、液晶ディスプレイなどの光学関連用途に広く使用されている。
【0003】
上記アクリル系樹脂は、重合中に副生するゲルや製造過程で混入する埃などの異物を含有するため、これらを除去する必要がある。異物除去する方法としては、溶融ポリマーをフィルターを用いて濾過を行う方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−274187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近の液晶ディスプレイなどの大型化を鑑みると、更なる異物の除去レベルを向上させる必要性が見込まれ、フィルターの濾過精度が高い、即ち目開きのより小さいフィルターによる濾過を行う必要がある。例えば、特許文献1記載の濾過方法では、溶融樹脂の濾過を実施する為に樹脂の溶融粘度による制約を受け、濾過精度が3μm以下のフィルターによる濾過を実施しようとすると、処理量が低下して生産性が低下する為に改善の余地があった。また、生産量が180kg/Hr以上の生産を行う場合は、上記処理量低下のために、非常に高額な濾過設備を導入する必要があった。そのため、処理量を増大させることが可能であり、かつ、精度の高い異物濾過を実施する方法が求められていた。
本発明は、上記課題を解決する為に異物除去レベルを向上させ、異物が少ないアクリル系樹脂組成物およびその最適な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、溶融押出しで製造したアクリル系樹脂を有機溶媒に溶解して低粘度化することで、高額な濾過設備を使用せずとも、処理量の増加及び異物低減を達成できる方法を見出した。つまり、濾過精度の高い、即ち目開きのより小さいフィルターによる精密濾過を行い、異物を除去したアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮することで本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち本発明は、
下記(I)〜(IV)の工程を含むことを特徴とするアクリル系樹脂の製造方法(請求項1)、
(I)アクリル系樹脂を溶融押出で製造する工程、
(II)工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程、
(III)工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程、
(IV)工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程
アクリル系樹脂が溶融押出によって製造されることを特徴とする請求項1記載の製造方法(請求項2)、
工程(II)で得られるアクリル系樹脂溶液の樹脂濃度を20重量%〜90重量%とすることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法(請求項3)、
工程(II)において、攪拌槽または押出機を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法(請求項4)、
工程(III)において、濾過機としてリーフディスク型フィルター、カートリッジ型フィルター及びフィルタープレスからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法(請求項5)、工程(IV)において、溶媒を脱揮する装置として薄膜蒸発機及び/または二軸押出機を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法(請求項6)、
工程(IV)において、溶媒を脱揮した後にリーフディスク型フィルターで再度樹脂の濾過を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法(請求項7)、
工程(II)における有機溶媒がトルエン、メチルエチルケトン及び塩化メチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法(請求項8)、
アクリル系樹脂は、下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位と、下記一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位と、を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法(請求項9)、
上記アクリル系樹脂は、下記一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位をさらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法(請求項10)、
アクリル系樹脂100gに対して、粒子径10μm以上の固形異物が35個以下であるアクリル系樹脂組成物(請求項11)、であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融押出で製造したアクリル系樹脂を有機溶媒に溶解して低粘度化することで精密濾過を行い、異物を除去したアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮することにより、異物の少ないアクリル系樹脂を製造する方法を提供できる。
また、本発明によれば、光学材料や耐熱性材料として有用なアクリル系樹脂、特にメタクリル系樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明方法の実施に使用される工程の一例を示す構成図である。
【図2】本発明方法の実施に使用される工程の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、溶融押出で製造したアクリル系樹脂を有機溶媒に溶解して低粘度化することで精密濾過を行い、異物を除去したアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮することにより、異物の少ないアクリル系樹脂を製造することを特徴とする。
本発明は、下記(I)〜(IV)の工程を含むことを特徴とするアクリル系樹脂の製造方法である(図1、図2)。
(I)アクリル系樹脂を溶融押出で製造する工程、
(II)工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程、
(III)工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程、
(IV)工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程
【0017】
本発明におけるアクリル系樹脂を溶融押出で製造する方法として、溶融押出反応によってアクリル系樹脂をイミド化し、さらにエステル化を行うことで耐熱性や機械物性に優れたアクリル系樹脂を製造する公知の方法(例えば、特開2008−273140号公報に記載)をあげることができる(工程(I))。本工程においては、溶融押出の製造方法の中でも、タンデム型押出機を用いてアクリル系樹脂を製造する方法が好ましく用いられ、工業的な観点から、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)は40以上、さらに好ましくは50以上があげられる。
【0018】
工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程(工程(II))では、200Pa・s以下に低粘度化するために、アクリル系樹脂の重量濃度が20〜90%となるように有機溶剤に溶解する。樹脂濃度が低いと低粘度化が達成可能(例えば、24重量%、室温で1Pa・s程度)であるが、使用する有機溶媒量が多くなり、生産性が低下する。一方で、樹脂濃度を高くすると粘度が上昇する(例えば、50重量%、室温で900Pa・s程度)が、溶液温度を上げると低粘度化が可能(例えば、80重量%、250℃で90Pa・s程度)であり、生産性を向上させることができる。従って、次の濾過工程の目的に応じて樹脂濃度と溶液温度を設定することで溶液粘度を調整することが可能である。一例として、樹脂濃度を30重量%として溶液温度を60℃とすることで溶液粘度を約0.4Pa・sとすることが可能である。また、樹脂濃度を80重量%として溶液温度を240℃とすることで溶液粘度を約120Pa・sとすることが可能である。
【0019】
工程(II)において、樹脂を有機溶媒(図1、2、(11))に溶解する方法として、攪拌槽(図1、(5))または押出機(図2、(13))を使用し、樹脂濃度が概ね40重量%以下で溶液温度が概ね80℃以下の低粘度領域(概ね1Pa・s以下)での溶解条件では攪拌槽が有効であり、樹脂濃度が50重量%以上で溶液温度が概ね100℃以上の高粘度領域(概ね10Pa・s以上)での溶解条件では押出機が有効である。
【0020】
本発明における攪拌槽としては特に制限はなく、例えば、バッチ式では汎用の撹拌槽を用いることができ、低粘度領域(概ね0.1Pa・s以下)ではパドル翼やスクリュー翼、タービン翼などが使用できる。また、中粘度領域(概ね0.1Pa・sを超える領域)以上ではアンカー翼や大型格子翼などが使用できる。更に連続的に溶解する場合にはラインミキサーなどを用いることもできる。処理量によって攪拌回転数は適宜調整すればよい。
【0021】
本発明における押出機としては、単軸押出機、同方向噛合型二軸押出機、同方向非噛合型二軸押出機、異方向噛合型二軸押出機、異方向非噛合型二軸押出機、多軸押出機等各種押出機が適用出来る。その中でも、特に、混錬/分散能力が高い点で各種二軸押出機を適用するのが好ましく、混錬/分散能力、生産性が高い事から同方向噛合型二軸押出機が更に好ましい。また、出口温度の調整の為に、シリンダー温度と回転数を処理量によって適宜調整すればよい。
【0022】
工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程(工程(III))では、濾過機(図1、2、(7))としてリーフディスク型フィルター、カートリッジ型フィルター及びフィルタープレスからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用する。樹脂濃度が概ね50重量%以上で溶液温度が概ね100℃以上の高粘度領域(概ね10Pa・s以上)での濾過条件ではステンレス系カートリッジ型フィルター及びリーフディスク型フィルターが有効であり、特に濾過時の差圧が概ね1MPa以上となる場合は濾材の耐久性の観点からリーフディスク型フィルターが好ましい。一方、樹脂濃度が概ね40重量%以下で溶液温度が概ね80℃以下の低粘度領域(概ね1Pa・s以下)での濾過条件では金属系以外のカートリッジ型フィルター及びフィルタープレスが有効である。また、これらのフィルターは、単独で用いても良いが、フィルターの目詰まりによる交換頻度が高い場合や、多段濾過によって更なる精密濾過を実施する場合は、これら複数のフィルターを直列に配して使用しても良い。
【0023】
本発明におけるステンレス系カートリッジ型フィルター及びリーフディスク型フィルターは、5μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用し、3μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用することがより好ましい。従来技術では、1000Pa・s程度の高粘度の溶融樹脂を濾過する為、3μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用すると処理量が低下して生産性が低下すると共に、樹脂の滞留時間が長くなって樹脂の熱安定性の観点から品質の保持が懸念される場合があるが、本発明による低粘度化によって、生産性及び異物除去の観点から品質の向上が可能である。フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、或いはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。フィルターの前には必要に応じて、樹脂溶液を昇圧するためのギアポンプ(図2、(9))を設置しても良い。
【0024】
本発明における金属系以外のカートリッジ型フィルターは、1μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用し、0.5μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用することがより好ましい。本発明による低粘度化によって精密濾過が可能となったが、0.5μm以下の精密濾過を行う場合は、濾過抵抗が大きいためにより低粘度領域(1Pa・s以下)における濾過が必要となる。また、本フィルターを単独で使用した場合、目詰まりの頻度が高いため、濾過精度が5μm程度のプレフィルターを濾過精度1μm以下の高精度濾過用の本カートリッジフィルターの前に直列に設置することが好ましい。また、必要に応じて本カートリッジフィルターの後ろにフィルター繊維除去用のステンレス製カートリッジ型フィルターを設置しても良い。フィルターエレメントとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリプロピレン(PP)などの樹脂製、或いはセルロース製などの天然繊維を使用することが好ましい。濾過のための昇圧には、溶解用の攪拌槽を加圧するかポンプ(図1、(6))を使用する。
【0025】
本発明におけるフィルタープレスは、1μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用する。必要に応じてフィルタープレスの後ろにフィルター繊維除去用のステンレス製カートリッジ型フィルターを設置しても良い。フィルター濾材としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリプロピレン(PP)などの樹脂製、或いはセルロース製などの天然繊維を使用することが好ましい。濾過のための昇圧には、溶解用の攪拌槽を加圧するかポンプ(図1、(6))を使用することができる。
【0026】
工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程(工程(IV))では、溶媒を脱揮する装置として薄膜蒸発機(図1、(8))及び/または二軸押出機(図2、(14))を使用することができる。脱揮する装置は1台で処理可能であれば経済的であるが、処理量が大きい場合や有機溶媒の含有率が高い場合は、2台以上直列に連結して操作することも可能である。また、脱揮の効率を向上させる為に、装置の手前に予めアクリル系樹脂溶液を加熱するプレヒーターを設置することが好ましい。蒸発温度は、アクリル系樹脂の流動性と熱安定性の観点から、240℃以上330℃以下とし、好ましくは250℃以上320℃以下、より好ましくは260℃以上310℃以下とする。
【0027】
更に、真空ポンプにて装置内を減圧にすることが好ましいが、使用する有機溶媒の沸点との兼ね合いで適宜真空度を調整する必要がある。例えば、有機溶媒にトルエンを使用する場合は、沸点が110℃である為に減圧度を2.6×10PaABS程度としても10℃程度の冷却水で十分にトルエンを凝縮回収可能であるが、有機溶媒に塩化メチレンを使用する場合は、沸点が40℃である為に減圧度は25×10PaABS程度とすることで10℃程度の冷却水で塩化メチレンを凝縮回収することが可能となる。
【0028】
工程(IV)において、アクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する方法として、薄膜蒸発機および/または二軸押出機を使用し、樹脂濃度が概ね40重量%以下で有機溶媒量が多い領域での脱揮操作は薄膜蒸発機が特に有効であり、樹脂濃度が概ね70重量%以上の有機溶媒量が少ない領域では、どちらの装置を使用しても有効である。
【0029】
本発明における薄膜蒸発機としては特に制限はないが、高粘性流体用の傾斜翼を備え、高い軸動力に耐え得る強度を有したシャフトやモーターを備えたタイプが好ましい。
【0030】
本発明における二軸押出機としては、同方向噛合型二軸押出機、同方向非噛合型二軸押出機、異方向噛合型二軸押出機、異方向非噛合型二軸押出機、多軸押出機等各種押出機が適用出来る。その中でも、特に混錬/分散能力、生産性が高い事から同方向噛合型二軸押出機を使用することが好ましい。
【0031】
工程(IV)において、溶媒を脱揮した後に5μm以下の濾過精度を有するリーフディスク型フィルター(図1、2、(10))で再度樹脂の濾過を行ってもよい。リーフディスク型フィルターは、5μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用することがより好ましい。二軸押出機ではスクリューとバレルの接触等による磨耗による金属粉が発生する場合があり、薄膜蒸発機では樹脂の掻き取り用翼が作用しない部分やシャフトに付着した樹脂が劣化して異物となることがある為、脱揮後のアクリル系樹脂に混入する恐れがある。従って、高粘性樹脂濾過用のリーフディスク型フィルターを用いて再度樹脂を濾過することが好ましい。フィルターの前には樹脂を昇圧する為のギアポンプ(図1、2、(9))を設置した方が好ましい。フィルターエレメントはステンレス製のファイバータイプ、パウダータイプ、或いはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。
【0032】
本発明においては、工程(IV)から吐出される樹脂は溶融状態のままストランドダイに送られ、円柱状のストランドとして押し出される。このストランドは冷却ベルト(図1、2、(3))上をシャワー水を浴びながら冷却され、ペレタイザ(図1、2、(4))で粒状のペレットに細断される。
【0033】
工程(II)における有機溶媒は、樹脂と相溶して低粘度化が達成できるものであれば特に制限はないが、中でもトルエン、メチルエチルケトン及び塩化メチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。有機溶媒は単独で使用しても、混合溶媒として複数の溶媒種を用いてもよい。
【0034】
本発明におけるアクリル系樹脂は、特開2008−273140号等の公報に記載の公知の方法で、溶融押出反応によって製造したものを使用することが好ましいが、それ以外の製造方法で得られるアクリル系樹脂であってもよく、特に製造方法に制限はない。
【0035】
この場合、主原料となるアクリル系樹脂としては、無水マレイン酸等の酸無水物又はそれらと炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸等をあげることができる。例えば、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位及び/又は下記一般式(3)で表される単位とを有するものがあげられる。
【0036】
【化4】

【0037】
(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0038】
【化5】

【0039】
(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0040】
【化6】

【0041】
(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
本発明のアクリル系樹脂を構成する、第一の構成単位は、前記一般式(1)で表されるものであり、一般的にグルタルイミド単位と呼ばれる事が多い(以下、一般式(1)をグルタルイミド単位と省略して示す事がある。)。
【0042】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素又はメチル基であり、R3が水素、メチル基、ブチル基、又はシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0043】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0044】
尚、グルタルイミド単位は、特開2008−273140号等の公報に記載の公知の方法で、溶融押出反応によって形成する事が可能である。
【0045】
アクリル系樹脂を構成する、第二の構成単位は、前記一般式(2)で表されるものであり、一般的には(メタ)アクリル酸エステル単位と呼ばれる事が多い(ここで、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを示す。以下、一般式(2)を(メタ)アクリル酸エステル単位と省略して示す事がある。)。
【0046】
前記式(2)においてR4として好ましくは、水素原子であり、R5として好ましくはメチル基である。R6として好ましくはメチル基である。また、R7として好ましくは水素であり、R8として好ましくはフェニル基である。
【0047】
これら第二の構成単位は、単一の種類でもよく、R4、R5、R6が異なる複数の種類を含んでいても構わない。同様に、前記(メタ)アクリル酸エステル単位を残基として与える原料も複数の種類を混合して用いても構わない。
【0048】
本発明のアクリル系樹脂に必要に応じて含有させる第三の構成単位は、前記一般式(3)で表されるものであり、一般的には芳香族ビニル単位と呼ばれる事が多い(以下、一般式(3)を芳香族ビニル単位と省略して示す事がある。)
【0049】
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、R7が水素及びR8がフェニル基であるスチレン、R7がメチル基及びR8がフェニル基であるα−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0050】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R7、R8が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0051】
アクリル系樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えばR3の構造にも依存するが、アクリル系樹脂の1重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、1重量%から95重量%であり、より好ましくは2〜90重量%、更に好ましくは、3〜80重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれる事がある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性、溶融粘度が上がり、成形加工性が悪くなる他、得られるフィルムの機械的強度は極端に脆くなり、又、透明性が損なわれる事がある。
【0052】
本発明のアクリル系樹脂はさらに一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含有してもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含有する場合の含有量は、求められる特性に応じて適宜決定してやればよい(一般式(3)で表される芳香族ビニル単位は0重量%であってもよい)。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量の上限は特に制限されないが、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるアクリル系樹脂の耐熱性が不足する。
【0053】
主原料である、一般式(2)、(3)及び、副原料であるイミド化剤の割合を調整することで、一般式(1)で表される単位と、一般式(2)で表される単位及び/又は一般式(3)で表される単位とを任意の割合で含有するアクリル系樹脂を得ることができ、一般式(1)、(2)、(3)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整する事が可能である。例えば、本発明のアクリル系樹脂を、先ずメチルメタクリレート−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を重合した後にイミド化して形成する場合、例えば(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルの重合割合を調整することで一般式(3)の割合を決め(一般式(3)の割合を0とする事も可能)、更にイミド化時のイミド化剤の添加割合を調整する事で、更に一般式(1)、(2)の割合を調整する事ができる。
【0054】
アクリル系樹脂には、必要に応じ、更に、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いる事ができる。これらはアクリル系樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあっても構わない。第四の構成単位は、主原料中に含まれている事が好ましい。
【実施例】
【0055】
本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で測定した異物数や残存溶媒量の測定方法は次の通りである。
【0056】
<異物数の測定>
得られたペレット10gを200gの塩化メチレンに溶解し、パーティクルカウンター(Hach Ultra Analytics社 HIAC/ROYCO Model 8000A)を用いて測定した。尚、粒子径が10μm以上のものを異物としてカウントした。
【0057】
<残存溶媒量の測定>
アクリル系樹脂中に残存する溶媒量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−2010)を用いて測定した。
【0058】
(製造例1)
タンデム型反応押出機を用いて製造を実施した(図1及び2の(1)、(2)に相当)。具体的には、タンデム型反応押出機は、特開2008−273140記載の装置であり、特開2008−273140記載の実施例1と同様な方法で実施した。原料としては、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(スチレン含量11%)を用いて、モノメチルアミンでイミド化を実施した。
【0059】
得られたイミド化MS樹脂中の一般式(1):一般式(2):一般式(3)の重量比は73:19:8であった。
【0060】
(実施例1)
装置としては、図1に示すものと同等なものを使用した。製造例1で得られた樹脂を、工程(II)の100L攪拌槽(アンカー翼と二枚パドル翼を装備)で樹脂濃度が30重量%となる様にトルエンで溶解した。この際の溶解温度は60℃で、攪拌回転数は200rpm、溶解時間は2時間とした。
【0061】
得られた樹脂溶液を工程(III)の濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルターで濾過した(図1の(7)に相当)。この際の濾過温度は60℃で、工程(II)の100L攪拌槽を窒素で0.5MPaGに加圧して濾過を行った。
【0062】
濾過後の樹脂溶液を工程(IV)の薄膜蒸発機(伝熱面積0.16m)へフィードし、蒸発操作を行った。この際の蒸発温度は270℃で、供給量32.6kg/Hr、回転数100rpm、真空度3.3×10PaABSで実施し、蒸発後の樹脂はギアポンプで2.6MPaGに昇圧し、濾過精度3μmのリーフディスク型フィルターで濾過した(図1の(10))。フィルターを出た樹脂はストランドダイから押し出され、冷却ベルトで冷却した後に、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0063】
(実施例2)
工程(III)における濾過機(図1の(7)に相当)を濾過精度3μmのステンレス製カートリッジ型フィルターとした以外は、実施例1と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0064】
(実施例3)
アクリル系樹脂を溶解する溶媒をメチルエチルケトンとし、蒸発操作時の真空度を6.6×10PaABSとした以外は、実施例1と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0065】
(実施例4)
アクリル系樹脂濃度を20重量%とし、樹脂の溶解温度を80℃、濾過機(図1(7)に相当)として濾過精度0.5μmのPTFE製カートリッジ型フィルターを使用して濾過温度を80℃、濾過圧を0.3MPaGとし、薄膜蒸発機を2段直列に連結して1段目の蒸発条件を240℃、真空度52.8×10PaABS、2段目の蒸発条件を270℃、真空度3.3×10PaABSとした以外は、実施例1と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0066】
(実施例5)
アクリル系樹脂濃度を24重量%とし、溶媒を塩化メチレンとして樹脂の溶解温度を20℃、濾過機(図1(7)に相当)として安積濾紙#260を備えたフィルタープレスにて濾過温度を20℃、濾過圧を1MPaGとし、蒸発操作時の供給量を10kg/Hr、真空度を25×10PaABSとした以外は、実施例1と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0067】
(実施例6)
装置としては、図2に示すものと同等なものを使用した。製造例1で得られた樹脂を、工程(II)の二軸押出機(φ30mm、L/D=20)で樹脂濃度が75重量%となる様にトルエンで溶解した。この際の溶解温度は240℃で、スクリュー回転数は200rpmとした。
【0068】
得られた樹脂溶液を工程(III)の濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルター(図2の(7)に相当)で濾過した。この際の濾過温度は240℃で、ギアポンプにて0.5MPaGに加圧して濾過を行った。
【0069】
濾過後の樹脂溶液を工程(IV)の二軸押出機(φ26mm、L/D=40)へフィードし、蒸発操作を行った。この際の蒸発温度は270℃で、供給量20kg/Hr、回転数250rpm、真空度1.3×10PaABSで実施し、蒸発後の樹脂はギアポンプで2.6MPaGに昇圧し、濾過精度3μmのリーフディスク型フィルター(図2の(10)に相当)で濾過した。フィルターを出た樹脂はストランドダイから押し出され、冷却ベルトで冷却した後に、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0070】
(実施例7)
工程(III)における濾過機(図2の(7)に相当)を濾過精度3μmのステンレス製カートリッジ型フィルターとした以外は、実施例6と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0071】
(実施例8)
工程(III)における濾過機(図2の(7)に相当)を濾過精度1μmのリーフディスク型フィルターとし、ギアポンプで1.5MPaGに加圧した以外は、実施例6と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0072】
(実施例9)
アクリル系樹脂濃度を90重量%とし、濾過温度を270℃、ギアポンプで2MPaGに加圧した以外は、実施例8と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0073】
(比較例1)
製造例1において、第2押出機吐出後、濾過精度5μmのリーフディスク型フィルターで濾過した後、ストランドを得て、水槽で冷却した後、ペレタイザーでカッティングし、ペレットとした。
(装置としては、図1の工程(I)において、(2)と(3)の間にリーフディスク型フィルターを設置したもの)に示すものと同等なものを使用した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。
【0074】
(比較例2)
リーフディスク型フィルターの濾過精度を3μmとした以外は、比較例1と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
アクリル系樹脂濃度を10重量%とし、樹脂の溶解温度を80℃、濾過機(図1(7)に相当)として濾過精度0.5μmのPTFE製カートリッジ型フィルターを使用して濾過温度を80℃、濾過圧を0.3MPaGとした以外は、実施例1と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物、特にメタクリル系樹脂組成物は、低光弾性や低透湿性の特徴を有し、更に機械的強度や成型性、表面硬度のバランスが優れていると共に、異物数が少ないため、液晶ディスプレイなどの光学関連用途などに幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1.第1押出機
2.第2押出機
3.冷却ベルト
4.ペレタイザ
5.攪拌槽
6.ポンプ
7.濾過機
8.薄膜蒸発機
9.ギアポンプ
10.リーフディスク型フィルター
11.有機溶媒供給口
12.有機溶媒脱揮口
13.樹脂溶解押出機
14.有機溶媒脱揮二軸押出機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)〜(IV)の工程を含むことを特徴とするアクリル系樹脂の製造方法。
(I)アクリル系樹脂を溶融押出で製造する工程、
(II)工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程、
(III)工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程、
(IV)工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程
【請求項2】
アクリル系樹脂が溶融押出によって製造されることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(II)で得られるアクリル系樹脂溶液の樹脂濃度を20重量%〜90重量%とすることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
工程(II)において、攪拌槽または押出機を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(III)において、濾過機としてリーフディスク型フィルター、カートリッジ型フィルター及びフィルタープレスからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(IV)において、溶媒を脱揮する装置として薄膜蒸発機及び/または二軸押出機を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(IV)において、溶媒を脱揮した後にリーフディスク型フィルターで再度樹脂の濾過を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(II)における有機溶媒がトルエン、メチルエチルケトン及び塩化メチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
アクリル系樹脂は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位と、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位と、を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
上記アクリル系樹脂は、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位をさらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
アクリル系樹脂100gに対して、粒子径10μm以上の固形異物が35個以下であるアクリル系樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229237(P2010−229237A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76625(P2009−76625)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】