説明

アクリル系粘着剤組成物

【課題】本発明は、高い耐熱性を有し、特に高温雰囲気下におけるポリオレフィンや環状ポリオレフィンに対する高い固定性を有し、しかも耐候性、透明性に優れたアクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】アクリルポリマーに粘着付与樹脂として核水添テルペンフェノール樹脂を配合したものである。
また、更なる耐熱性が要求される場合は、アクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂に更に架橋剤を配合し、核水添テルペンフェノール樹脂由来のアルコール性の水酸基とアクリルポリマー鎖を反応させることによって達成することができる。
架橋剤としては、イソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、ポリカルボジイミド系から選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス分野に於ける各種シートやフィルムの貼り合わせ用粘着剤、両面粘着テープ、保護フィルム、反射防止フィルムや電磁波シールドフィルムなどの光学用粘着フィルム等に使用される新規な粘着剤組成物に関するものである。本発明のアクリル系粘着剤組成物は、良好な耐候性や透明性に加え、高い耐熱性と固定性が要求される用途、更に被着体または基材がポリオレフィンや環状ポリオレフィン等の低極性材料が対象となる用途に最適である。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、液晶テレビ、パソコン、記録メディア等のエレクトロニクス分野製品の製造過程において、種々の粘・接着剤、粘着フィルム、両面テープ等の粘接着剤製品が使用されるようになってきているが、その殆どが粘着物性の調整の容易さ、耐候性、透明性を重視してアクリル系粘着剤を使用するのが一般的である。一方でエレクトロニクス分野における高性能・高機能化、低コスト化、リサイクル化等の要求に対応するために、粘着剤として、更なる耐熱性や固定性の向上、薄膜化、再剥離性の付与、ポリオレフィンや環状ポリオレフィン等の難接着物に対する接着性向上が望まれてきている。ここで言う耐熱性、固定性は粘着試験において、高温での保持力、定荷重を測定して得られる値を参考にした性能である。
【0003】
これらの要求特性を満足させるために、アクリルモノマーの組成や架橋剤の検討が行われ、ある程度耐熱性の向上や再剥離性の調整は可能となっているが、未だ充分なものは得られておらず、特にポリオレフィン、環状ポリオレフィンに対する接着性、高温での固定性の面で不十分である。
【0004】
また、粘着付与樹脂による改質の検討も行われている。アクリル系粘着剤の改質用としてはロジンエステル、重合ロジンエステル、水添ロジンエステル、芳香族変性テルペン樹脂およびその水添物、テルペンフェノール樹脂、スチレン系樹脂、キシレン樹脂などが使用されるが、これらのアクリルポリマーに対して相溶系から部分相溶系であれば、ポリオレフィンや環状ポリオレフィンに対する濡れ性の改善がはかれ、難接着物に対しても耐熱性、固定性、粘着力の向上は達成される。しかしながら粘着付与樹脂の添加によってアクリル系粘着剤の特徴である耐候性、透明性の低下を招き、またUV硬化型粘着剤においては硬化阻害の問題があるため、上記要求特性を全て満足するには至っていない。(例えば特許文献1,2,3,4,5)
【特許文献1】特開平7−102229号公報
【特許文献2】特開平7−228851号公報
【特許文献3】特開平7−228852号公報
【特許文献4】特開平9−302322号公報
【特許文献5】特開2004−203920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い耐熱性を有し、特に高温雰囲気下におけるポリオレフィンや環状ポリオレフィンに対する高い固定性を有し、しかも耐候性、透明性に優れたアクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するため、アクリルポリマーに粘着付与樹脂として核水添テルペンフェノール樹脂を配合することによってアクリル系粘着剤の特徴である耐候性、透明性を維持したままで、高温での固定性を向上させることが出来る。
また、更なる耐熱性が要求される場合は、アクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂に更に架橋剤を配合し、核水添テルペンフェノール樹脂由来のアルコール性の水酸基とアクリルポリマー鎖を反応させることによって達成することができる。
架橋剤としては、イソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、ポリカルボジイミド系から選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、高い耐熱性、特に高温雰囲気下におけるポリオレフィンや環状ポリオレフィンに対する高い固定性を有し、しかも耐候性、透明性に優れているので、エレクトロニクス分野をはじめ、各種用途に使用可能である。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンとしては、ノルボルネン系モノマーをメタセシス重合触媒の存在で開環重合した後、開環重合体の二重結合を水添したシクロオレフィンポリマー、また、エチレンと環状オレフィンの一種であるテトラシクロドデセンをチーグラー触媒下で共重合したシクロオレフィンコポリマーなどが相当する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ここで、本発明のアクリル系粘着剤組成物について説明する。
まず、本発明で用いられる核水添テルペンフェノール樹脂ついて説明する。
本発明の核水添テルペンフェノール樹脂は、テルペンフェノール樹脂を水添(水素添加)して製造することが出来る。
原料である上記テルペンフェノール樹脂は、例えば、テルペン化合物1モルとフェノール類0.1〜50モルをフリーデルクラフト触媒のもとで、−10〜120℃の温度で0.5〜20時間、カチオン重合反応させて製造することが出来る。
テルペンとは一般に、イソプレン(C5H8)の重合体で、モノテルペン(C10H16)、セスキテルペン(C15H24)、ジテルペン(C20H32)等に分類される。テルペン化合物とは、これらを基本骨格とする化合物である。この中で、本発明では、モノテルペンが好ましく用いられる。
これらテルペン化合物の具体的な例として、例えば次のようなものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0009】
テルペンフェノール樹脂の原料の1つであるテルペン化合物について説明する。テルペン化合物としては、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、カンフェン、トリシクレン、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等が挙げられる。これらの化合物の中で、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、α−テルピネンが本発明では特に好ましく用いられる。
【0010】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0011】
フリーデルクラフト触媒としては、塩化亜鉛、四塩化チタン、塩化錫、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化鉄、三塩化アンチモン等々が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0012】
次に、本発明の水添反応について説明する。
本発明の核水添テルペンフェノール樹脂は、上記テルペンフェノール樹脂を水素添加(水添)することにより得られたものである。
水添する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどの貴金属またはそれらを活性炭素、活性アルミナ、珪藻土などの坦体上に担持したものを触媒として使用して行う方法が挙げられる。
この時、粉末状の触媒を懸濁攪拌しながら反応を行うバッチ方式にすることも、成形した触媒を充填した反応塔を用いた連続方式にすることも可能であり、反応形式に特に制限はない。
【0013】
触媒の使用量は、反応がバッチ方式の場合、原料であるテルペンフェノール樹脂に対し0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜20重量%である。触媒量が0.1重量%未満では、水素化反応速度が遅くなり、一方、50重量%を超えても経済的に不適なので好ましくない。
【0014】
水添の際、反応溶媒は用いなくてもよいが、通常、アルコール類、エーテル類、エステル類、飽和炭化水素類が使用される。
【0015】
水添の際の反応温度は、通常20〜300℃、好ましくは、50〜250℃である。反応温度が20℃未満であると、水素化速度が遅くなり、一方、300℃を超えると、水添物の分解が多くなる恐れがある。
【0016】
水添の際の水素圧は、通常5〜300kg/cm2(0.49〜29.40MPa)である。好ましくは、50〜250kg/cm2である。さらに好ましくは80〜240kg/cm2である。5kg/cm2未満であると、水素化速度が遅くなり、一方、300kg/cm2を超えると、水添物の分解が多くなる恐れがある。
【0017】
水添度合いは、臭素価(gBr2/100g)等で判断されることが多いが、本発明の核水添テルペンフェノール樹脂の場合、臭素価は、およそ、100.0〜0.1である。好ましくは50.0〜0.5、特に好ましくは、35.0〜1.0である。
【0018】
次に、本発明で使用される、アクリル系粘着剤を構成するポリマー鎖について説明する。
本発明において、アクリルポリマーはアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを重合して用いるが、その種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(アミル)(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチ(メタ)ルアクリレート、イソオクチ(メタ)ルアクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(ドデシル(メタ))アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。尚、ここで言う「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」もしくは「メタクリレート」を意味する。上記アルキル(メタ)アクリレートは単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0019】
また、アルキル(メタ)アクリレートの他に、任意成分として、共重合可能な極性基含有ビニルモノマーが更に含有されていてもよい。
この極性基含有ビニルモノマーは、後述する様に、例えばイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤及びアジリジン系架橋剤等、特定の官能基を有する架橋剤と効果的に架橋構造を形成して凝集力と耐反発性の両立を図ったり、更には、必要に応じて、共重合体のTgや粘接着性等を調整するために用いられる。
【0020】
具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のビニル基を含有するカルボン酸;前記ビニル基を有するカルボン酸の無水物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等の水酸基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート等の窒素含有ビニルモノマーが挙げられる。
上記、極性基含有ビニルモノマーは単独で用いられても良いし、2種類以上併用されても良い。
【0021】
さらに、本発明において、上記重合性組成物には、共重合性多官能(メタ)アクリレートを微量配合することによって、アクリル系共重合体の重合と同時に架橋を行わせることもできる。
このような多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、1、4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、ジビニルベンゼン、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いられても、2種類以上併用されても良い。
多官能(メタ)アクリレート化合物の配合量は、通常、アクリル系共重合体成分100重量部に対して0〜5重量部である。これら、アクリルモノマーは、通常の重合方法、例えば、有機溶剤中でアクリルモノマーを過酸化物、アゾ系の触媒を用いて重合する方法等で重合して使用すればよい。
【0022】
本発明に使用されるアクリル系粘着剤の形態としては溶剤型、エマルジョン型、ホットメルト型、UV硬化型等のいずれでも良く、核水添テルペンフェノール樹脂を含むアクリル系粘着剤組成物、あるいは更に架橋剤を加えた粘着剤組成物であれば、特にその形態は限定されない。
【0023】
本発明に使用される溶剤型アクリル系粘着剤には有機溶剤中でアクリルモノマーを過酸化物、アゾ系の触媒を用いて重合する方法等がある。また、エマルジョン型アクリル系粘着剤には水中でアクリルモノマーを水溶性過酸化物、レドックス系触媒等を用いて重合す方法等がある。ホットメルト型アクリル系粘着剤にはポリメチルメタクリレート/ブチルアクリレート/ポリメチルメタクリレート等を主成分とするブロックポリマーを用いる方法、メチルメタクリレートとブチルアクリレート等を主成分とする星型ブロックポリマーを用いる方法がある。UV硬化型アクリル系粘着剤にはアクリルオリゴマーおよびモノマーと光開始剤の混合物からなり、二重結合のラジカル重合により高分子化させる方法、アクリルポリマーの分子中に光反応基を組み込み、グラフト反応させる方法等があるが、いずれのアクリル系粘着剤を製造する方法においてもこの限りではない。
【0024】
核水添テルペンフェノール樹脂のアクリルポリマーへの添加方法は、溶剤型では有機溶剤に溶解して混合する方法、ホットメルト型ではアクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂をニーダーや押出機を使用して熱溶融混合する方法、エマルジョン型では核水添テルペンフェノール樹脂を乳化したものを混合するかアクリルモノマーに核水添テルペンフェノール樹脂を溶解した後乳化重合する方法、UV硬化型ではアクリルモノマーやアクリルオリゴマーに核水添テルペンフェノール樹脂を溶解させる方法等があるが核水添テルペンフェノール樹脂のアクリルポリマーへの添加方法は特に限定されない。
【0025】
本発明のアクリル系粘着剤組成物に用いられる架橋剤として、ポリイソシアネート、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド化合物、アジリジン化合物、多価金属塩、金属キレート等が挙げられる。これら官能基系架橋剤の少なくとも1種を使用することによって、アクリルポリマーの架橋とアクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂の結合により、高温時の保持力、定荷重を上昇させることが可能となる。
【0026】
このような架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン変成トリレンジイソシアネート、各種イソシアネートのエチレンオキサイド付加物やその他の水性イソシアネート化合物、水分散型イソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、ポリカルボジイミド化合物、水性ポリカルボジイミド化合物、水分散性ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。これらは単独で使用されても、二種以上が併用されてもよい。
【0027】
特に好ましいのは3官能のイソシアネート系化合物、又は3官能のエポキシ系化合物である。3官能のイソシアネート系化合物としてはトリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート及びこれらのトリメチロールプロパン付加体、またはビュレット結合体が挙げられる。3官能のエポキシ系化合物としてはジエチレントリアミン、トリグリシジルエーテルのトリメチロールプロパン付加体等が挙げられる。これらは単独で使用されても、二種以上併用されても良い。
【0028】
架橋剤の含有量は、その種類によっても変わるが、アクリル系共重合体成分100重量部に対して、通常、0.005〜10重量部の範囲であり、好ましくは1.0〜5重量部である。
添加量が0.005重量部より少ない場合はアクリルポリマー同士またアクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂の反応が不十分となる場合が多く、耐熱性の不足や、ポリオレフィンへの接着力の低下を引き起こす場合がある。また、10重量部を越える場合は、架橋が過剰となり易く、柔軟性が低下し、被着体への密着性が低下し、剥離力が不十分になり易い。また、余剰の架橋剤が粘接着物性を低下させることもある。
【0029】
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、架橋剤を用いた場合、架橋構造を形成するために加熱工程を経るのが好ましい。加熱工程は、被着体に貼付前であっても良く、貼付後であっても良い。基材上に粘着剤層が積層されたテープとして用いる場合は、基材上に粘着剤組成物を塗布後に加熱するのが、生産効率上好ましい。加熱温度は使用する架橋剤の種類によって適宜設定するものであるが、通常40℃から130℃の範囲であり、好ましくは50℃〜100℃である。加熱時間は30分から7日、好ましくは1時間から5日である。
【0030】
架橋剤を用いたアクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂との反応方法は、溶剤可溶型架橋剤、水可溶型架橋剤を用いて、有機溶媒中、水中で反応させる方法、予めアクリルポリマー、核水添テルペンフェノール樹脂、架橋剤を配合しておき塗工後、加熱、UVにより反応させる方法等あるが、アクリルポリマーと核水添テルペンフェノール樹脂との反応方法は特に限定されない。
【0031】
本発明のアクリル系粘着剤組成物には必要に応じて、各種の添加剤が添加されても良い。上記添加剤としては、例えば、可塑剤、軟化剤、無機充填剤(炭酸カルシウム、タルク、アルミニウム、シリカなど)、有機充填剤、顔料、染料などが挙げられる。また、充填剤として平均粒径5〜200μmの中空粒子の添加、発泡剤の添加、重合前の共重合成分にガスを攪拌混合した状態で重合を行うなどによって粘着剤組成物の体積を増加させてもよい。
【実施例】
【0032】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は、これらの実施例によって制限を受けるものではない。
合成例1
(テルペンフェノール樹脂の合成)
温度計、撹拌装置、滴下ロートおよび冷却管を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコを使用して、トルエン564g(約6モル相当)、触媒として塩化アルミニウム15gを仕込んだのち、75℃の温度に保持しながら攪拌し、α−ピネン(ヤスハラケミカル(株)製α−ピネン、純度95%)449g(約1モル相当)とフェノール(関東化学(株)製フェノール、純度99%)155g(約0.5モル相当)を2時間かけて滴下し、その後、4時間撹拌して反応させた。
次いで、該混合液を水洗し、触媒を除き、得られた反応液を蒸留水で2回洗浄したのち、5mmHgの減圧条件下、250℃でトルエン等を蒸留により留去し、淡黄色樹脂状物のテルペンフェノール樹脂、587gを得た。
このテルペンフェノール樹脂の軟化点は120℃、GPCによる数平均重量分子量は620、重量平均分子量は810、Z平均重量分子量は1030であり、臭素価は50.5gBr2/100gであった。またIR分析を行ったところ(パーキンエルマー社製Spectrum One システムB型)、1600cm−1、700cm−1付近に現れるフェノール由来の芳香環のピークが確認された(図1)。
【0033】
合成例2
(核水添テルペンフェノール樹脂Aの合成)
合成例1で得られたテルペンフェノール樹脂を100g、シクロヘキサンを400ml、および粉末状の5%パラジウム担持アルミナ触媒2.0gを仕込み、次いで、これを密閉し、雰囲気を窒素ガスで置換した後、水素ガス10kg/cm2の圧力をかけながら導入した。そして攪拌しながら加熱し250℃となったところで、水素の圧力を200kg/cm2とし、吸収された水素を補うことで圧力を200kg/cm2に保ちながら14時間反応させ、本発明の核水添テルペンフェノール樹脂A、100gを得た。
この核水添テルペンフェノール樹脂Aの軟化点は120℃、GPCによる数平均重量分子量は640、重量平均分子量は810、Z平均重量分子量は1000であり、臭素価は22.0gBf2/100gであった。また、IR分析を行ったところ(パーキンエルマー社製Spectrum One システムB型)、1600cm−1、700cm−1付近に現れるフェノール由来の芳香環のピークが消失していたことが確認された(図2)。
【0034】
(UV硬化型粘着剤用アクリル系ポリマーBの合成)
n−ブチルアクリレート100重量部および重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)0.2重量部を用い、60℃で6時間溶液重合してUV硬化型粘着剤用アクリル系ポリマーBを得た。
得られた溶液中のアクリルポリマーCはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は40万であった。
【0035】
(溶剤型アクリル系粘着剤用アクリル系ポリマーCの合成)
n−ブチルアクリレート100重量部、アクリル酸5重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.2重量部および重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)0.2重量部をトルエン/酢酸エチル=80/20(重量比)の合計200重量部の混合溶媒中に添加した。その後、60℃で6時間溶液重合して溶剤型アクリル系粘着剤用アクリル系ポリマーCを得た。
得られた溶液中のアクリルポリマーCはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は60万であった。
【0036】
(実施例1)上記アクリルポリマーB25重量部、n−ブチルアクリレート75重量部、アクリル酸5重量部、ヘキサンジオールジアクリレート0.3重量部、光開始剤としてダイロキュア1173(チバスペシャリティケミカルズ製)0.3重量部、および合成例2で得た核水添テルペンフェノール樹脂Aを10部重量部混合し、UV硬化型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0037】
(比較例1)実施例1において核水添テルペンフェノール樹脂Aに変え、ロジンエステルを用いた以外は実施例1と同様にしてUV硬化型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0038】
(比較例2)実施例1において核水添テルペンフェノール樹脂Aを用いず、それ以外は実施例1と同様にしてUV硬化型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0039】
上記実施例1および比較例1および2で得られたUV硬化型アクリル系粘着剤組成物を厚さ38μmのPETフィルムにハンドコーターを用いて粘着剤層の厚さを一定に合わせて塗工した。そのPETフィルムを窒素雰囲気下にてフュージョンUVシステムズ・ジャパン製Hバルブを用い2000mJ/cm2の照射強度でUV照射し、粘着剤層の厚さが25μmの粘着シートを得た。得られた粘着シートを幅25mmに切り取り試験片とした。
【0040】
(実施例2)上記アクリルポリマーC溶液の固形分100重量部に対し、核水添テルペンフェノール樹脂Aを20部、架橋剤としてコロネートL(イソシアネート系架橋剤:日本ポリウレタン工業社製)5部加え、溶剤型アクリル系粘着剤組成物(溶液)を得た。
【0041】
(比較例3)実施例2において核水添テルペンフェノール樹脂Aに変え、重合ロジンエステルを用いた以外は実施例2と同様にして溶剤型アクリル系粘着剤組成物(溶液)を得た。
【0042】
(比較例4)実施例2において核水添テルペンフェノール樹脂Aを用いず、それ以外は実施例2と同様にして溶剤型アクリル系粘着剤組成物(溶液)を得た。
【0043】
上記実施例2および比較例3および4で得られたアクリル系粘着剤組成物(溶液)を厚さ38μmのPETフィルムにハンドコーターを用いて粘着剤層の厚さを一定に合わせて塗工した。その後、トルエン、酢酸エチルを気化させた後、60℃のオーブンに3日間放置し、粘着層の厚さが25μmの粘着シートを得た。得られた粘着シートを幅25mmに切り取り試験片とした。
【0044】
UV硬化型アクリル系粘着剤における重合率を100℃の熱風乾燥機に粘着シートを1時間静置後、以下の式で算出した。
重合率(%)=〔(乾燥前の粘着シート質量−基材の質量)−(乾燥後の粘着シート質量−基材の質量)〕/〔(乾燥前の粘着シート質量−基材の質量)×アクリル系粘着剤中のモノマーの%/100〕×100
【0045】
粘着力試験として試験片をSUS、PE、およびCOP(シクロオレフィンポリマー)板に貼り付け、各被着体に対する180°剥離粘着力を測定した。
【0046】
保持力と定荷重を固定性の指標として測定し、保持力測定試験として試験片をSUS、PE、およびCOP(シクロオレフィンポリマー)板に25mm×25mmで貼り付け1kgの荷重をかけ、70℃下でのずれ(mm)、または1時間以内に落下する場合は落下する時間を調べた。
【0047】
定荷重試験として試験片をSUSに15mm×50mmで貼り付け、SUS版に対し試験片が90°の角度になるように100gの荷重をかけ、70℃下でのずれ(mm)、または1時間以内に落下する場合は落下する時間を調べた。
【0048】
得られた試験片のHAZE値を色差濁度計;日本電色工業(株)製COH−300Aを用いて、JIS規格のK3761に準拠して測定し、透明性を調べた。
【0049】
スガ試験機(株)製テーブルサンXT750を用い、50℃環境下で48000lxの光を試験片に100時間照射した前後のYI値を色差濁度計;日本電色工業(株)製COH−300Aを用いて測定した。(JIS規格のK3750、K3761準拠)照射試験前後のYI値の変化を比較し耐候性を調べた。
【0050】
表1に示した評価結果より、UV硬化型アクリル系粘着剤組成物に核水添テルペンフェノール樹脂Aを配合した本発明の粘着剤組成物は耐候性を低下させることなく70℃でのSUS、PE、COP(シクロオレフィンポリマー)に対する保持力が上昇していることが分かる。
【0051】
表2に示した評価結果より、溶剤型アクリル系粘着剤組成物に核水添テルペンフェノール樹脂Aを配合し、架橋剤を添加した本発明の粘着剤組成物は耐候性を低下させることなく70℃でのPE、COP(シクロオレフィンポリマー)に対する保持力、70℃でのSUSに対する90°定荷重が優れていることが分かる。一方、アクリルポリマーに対し部分相溶系である重合ロジンエステルは70℃の保持力が粘着付与樹脂未配合の場合と比べ上昇するが、透明性、耐候性が悪化していることが分かる。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のアクリル系粘着剤組成物は高い耐候性、透明性を維持したままポリオレフィン、環状ポリオレフィンに対し、高温での高い固定性を発現することが可能であることから、携帯電話、液晶テレビ、パソコン、記録メディアといったエレクトロニクス製品に使用される粘着剤として有用である。特に、保護フィルム、反射防止フィルム、位相差フィルム、偏向フィルム、電磁波シールドフィルムなどの光学用粘着フィルム等に使用される粘着剤において効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】テルペンフェノール樹脂のIRチャートである。
【図2】核水添テルペンフェノール樹脂AのIRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核水添テルペンフェノール樹脂を含むアクリル系粘着剤組成物。
【請求項2】
アクリル系粘着剤を構成するポリマー鎖と核水添テルペンフェノール樹脂が架橋剤を介して結合していることを特徴とする請求項1記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項3】
架橋剤がイソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、ポリカルボジイミド系から選ばれる少なくとも1種である請求項1および2記載のアクリル系粘着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−224258(P2007−224258A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84156(P2006−84156)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】