説明

アクリル系繊維の製造方法

【課題】2000ホールを越える孔密度が高い、さらには紡糸口金と凝固浴液との気相部が20mm未満の乾湿式紡糸において、紡糸口金に結露の発生をおさえ、後工程でのローラ巻き付き、延伸工程での毛羽、糸切れによる品質低下を改善して、全体として大幅に生産性を改善し品質に優れた炭素繊維前駆体繊維束を提供する。
【解決手段】
アクリル系重合体溶液を凝固浴液上部に設けた紡糸口金から、一旦不活性雰囲気中に吐出させた後、凝固浴液中に導入する乾湿式紡糸によるアクリル系繊維の製造方法であって、凝固浴内の紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の湿度を10〜40%rhにコントロールすることを特徴とするアクリル系繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾湿式紡糸方法でアクリル系繊維を得るに際し、紡糸口金表面に結露または水滴を発生させることなく、糸条の走行性を著しく安定させて繊維を得ることができる繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリロニトリル等の溶融しにくい繊維形成性重合体を紡糸して繊維を得るためには、湿式紡糸法や乾湿式紡糸法が採用されている。これらのうち乾湿式紡糸法は、繊維形成性重合体が溶媒に溶解してなる紡糸原液を紡糸口金から吐出し、一旦不活性雰囲気中に吐出後、直ちに凝固浴液中に導き凝固させる方法であるが、湿式紡糸法に比べると浴液抵抗の少ない不活性雰囲気中においてドラフトが緩和されるために高速、あるいは、高ドラフトでの紡糸が可能であり、衣料用や産業用の繊維の製造に利用されている。また、乾湿式紡糸法によると繊維をより緻密化できるため、最近では高強度・高弾性率炭素繊維製造用のアクリル系前駆体繊維の製造に活用されている。特に、炭素繊維製造用のアクリル系前駆体繊維の製造プロセスにおいては乾湿式紡糸法で高速度紡糸や紡糸口金の多ホール化を行い、生産性を上げている。
【0003】
このような乾湿式紡糸法は、凝固浴液の上部に設置した紡糸口金から、紡糸原液であるアクリル系重合体溶液を押し出すため、口金面と凝固浴液との間に気相部が存在し、1つの紡糸口金における孔数を増大させる、いわゆる多ホール化を行うと、気相部で紡糸原液を構成する溶媒の蒸気量が増加するため、この蒸気が気相部に滞留しやすくなる。更に、凝固浴は紡糸原液から蒸発した気体を機外に出さないためスクリーンで囲い更に排気給気をすることで環境面を配慮する場合が多い。給気する気体は一般的に外気空気を用いることが多く、季節間で温度、湿度が大きく異なる。紡糸原液から蒸発した気体は低温、高湿度雰囲気中では紡糸口金吐出面孔に凝縮し、凝縮した結露液滴が、紡糸口金の吐出原液に接触あるいは孔を防ぎ繊維の接着や繊度斑、単糸切れ、さらには液滴が凝固液面と接触することにより口金浸漬となり、後工程でのローラ巻き付き、延伸工程での毛羽、糸切れの原因となり、操業性、品質を著しく低下させる。かかる問題は、特に生産性を上げるため紡糸口金の多ホール化を行うことにより顕著となっている。
【0004】
これらの問題を改善することを目的として、乾湿式紡糸における紡糸口金面と、凝固浴の気相部で一方向から気体を流通させ結露を防止する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、紡糸口金における用いる孔数が300ホール程度と少ない場合には、特許文献1で提案される技術でも、有効に結露を抑制することができるが、2000ホールを越える孔数で、孔密度を高くし、さらには乾湿式紡糸における紡糸口金と凝固浴液との距離が20mm未満という気相部に溶媒の蒸気が滞留しやすい条件においては、特許文献1で提案される技術をそのまま適用しても結露を解消できないという問題点があった。
【0005】
また、膜形成性樹脂溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する際にも、紡糸口金面発生する結露について検討されている(特許文献2,3参照)。この検討においては、紡糸口金と凝固浴液との距離を4〜6cm離し気相に調湿調温された空気を導入し、低湿低温雰囲気領域、低湿高温雰囲気領域、高湿高温雰囲気領域に分けることや、絶対湿度と気相部空走時間との積が0.04kg/m・S以上とすることが提案されている。しかしながら、生産性を上げるためには紡糸口金と凝固浴液との距離を短くし、繊維同士の接着を防ぐため例えば20mm未満とし、多ホール化、高速化を図る必要のある生産性の高い条件では、凝固浴液と凝固浴液上部に設置した紡糸口金間の気相部雰囲気をコントロールする、これらの技術は適用することは設備の増大及び設備費が増大するため実質的に困難であるのが実状である。
【0006】
さらに紡糸口金の吐出面と凝固浴との間に形成される気相部の期待を吐出面を挟む2方向から交互に吸引することにより溶媒蒸気の滞留を防ぐ方法について検討されている。(特許文献4)。しかしながらこの方法では多ホール化により孔密度が高い場合は気相部の吸引が充分でなく溶媒の蒸気が凝集してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−044104号公報
【特許文献2】特開2004−025066号公報
【特許文献3】特開2004−025067号公報
【特許文献4】特開2007−239170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、たとえば2000ホールを越えるような孔密度が高い、さらには乾湿式紡糸における紡糸口金と凝固浴液との距離が20mm未満という条件においても、紡糸口金における結露の発生をおさえ、後続する工程でのローラー巻き付き、延伸工程での毛羽、糸切れによる品質低下を改善して、全体として大幅に生産性と品質を高めることができる繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、アクリル系重合体溶液を凝固浴液上部に設けた紡糸口金から、一旦不活性雰囲気中に吐出させた後、凝固浴液中に導入する乾湿式紡糸によるアクリル系繊維の製造方法であって、凝固浴内の紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の湿度を10〜40%rhにコントロールすることを特徴とするアクリル系繊維の製造方法である。
【0010】
また、本発明のアクリル系繊維の製造方法においては、紡糸口金から吐出したアクリル系重合体溶液の温度と紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の雰囲気温度の差ΔTを、±10℃の範囲にコントロールすることが好ましい。
【0011】
また、その孔数が2000〜24000である紡糸口金に好ましく適用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乾湿式紡糸において、紡糸口金と凝固浴液との距離が20mm未満という条件下でも、紡糸口金における結露の発生をおさえ、後続する工程でのローラー巻き付き、延伸工程での毛羽、糸切れによる品質低下を改善でき、たとえば2000ホールを越えるような孔密度が高い条件下でも、全体として大幅に生産性と品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明において凝固浴室に供給する気体の温度、湿度を制御する装置の設置した紡糸領域の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアクリル系繊維の製造方法は、アクリル系重合体溶液を凝固浴液上部に設けた紡糸口金から、一旦不活性雰囲気中に吐出させた後、凝固浴液中に導入する乾湿式紡糸によるアクリル系繊維の製造方法であって、凝固浴内の紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の湿度を10〜40%rhにコントロールすることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、アクリル系繊維重合体が溶媒に溶解してなる紡糸原液(以降、単に「紡糸原液」と記すこともある)を用いる。アクリル系重合体とは、90重量%以上のアクリロニトリル及びそれと共重合可能なビニル系単量体で構成されるものをいう。アクリル系重合体を得るための重合法については、溶液重合、乳化懸濁重合、塊状重合等が用いられ、バッチ法でも連続法でもよい。
【0016】
アクリル系重合体を溶解する溶媒としては、ジメチルスルホキシド(以下DMSOとする。)、ジメチルホルムアミド(以下DMFとする)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、塩化亜鉛水溶液(以下ZnCl2aq)、チオ硫酸ナトリウム水溶液(NaSCNaq)等を使うことができるが、生産性の面、乾湿式紡糸法において、アクリル系重合体の凝固速度が早いDMSO,DMFあるいはDMAcが好ましく、凝固速度が特に早いDMSOが特に好ましい。
【0017】
かかるアクリル系重合体溶液(紡糸原液)を、凝固浴液の上に気相部を介して設置した紡糸口金の吐出面から一旦不活性雰囲気中に吐出させた後、凝固浴液中に導入することで凝固させて繊維を形成する。
【0018】
本発明において、凝固浴内の紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の気体の湿度を10〜40%rhに制御することが必要である。湿度が40%rhを超える場合、溶媒の蒸気が凝縮し結露しやすくなるためである。また、下限については、低ければ、低いほど良いが、多量の凝固浴液が存在する凝固浴室の調湿を行うのは大量の給排気設備が必要となり設備が巨大化するという点から下限は10%rhとするのが良い。
また、本発明においては、紡糸口金から吐出したアクリル系重合体溶液の温度[A℃]と紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の雰囲気温度[B℃]の差ΔT(ΔT=A−B)を、±10℃の範囲にコントロールすることにより、溶媒の蒸気が凝縮しにくくなるため好ましい。ΔTが10℃より高くなると溶媒中の蒸気が凝縮しやすくなり結露が発生しやすくなる。またΔTが−10℃より低くなると紡糸口金から吐出したアクリル系重合体溶液の温度コントロールが難しくなり製糸性が低下することがある。
【0019】
本発明において、湿度(及び温度)をコントロールする方法としては、たとえば、仕切られた凝固浴室内に間接的に温度、湿度を制御した気体を供給することで凝固浴液面と紡糸口金の吐出面の間の気相部の気体の温度、湿度を制御する方法が挙げられる。具体例としては凝固浴室に供給する外気給気ファンの入り側に調温機、及び調湿機を設け調温機で調温し、その後調湿機で湿度を40%rh以下に調湿した気体を凝固浴室内に供給する例を挙げることができる。この例において、凝固浴液と紡糸口金の吐出面との間の気相部の温度、湿度を制御するため調温機、調湿機を経由した外気を凝固浴室内に供給し、凝固浴室の上層部から下層部への気流を流すようにしているが、気体の供給位置によっては、気流の方向が逆となっても問題はない。ここで必要なことは気体を流動させ凝固浴内にある一定の気流を作る事であり、この気流を作り出すことで、凝固浴液と紡糸口金の吐出面の気相部の間の温度、湿度を制御することにある。
【0020】
図1を用いて更に詳細に説明する。
図1は具体例であるが、本発明はこれに限定されるものではない。図中の給気ファン3で外気を凝固浴室9に供給するが給気ファン3の吸引側に調温機1、及び調湿機2を設置し凝固浴内に供給する外気を調温機、調湿機を介して凝固浴室9の内部に供給する。また、紡糸口金5内部にアクリル系重合体溶液の温度測定用の測温体6を、凝固浴内の凝固浴液4の液面と紡糸口金の吐出面の気相部に温度計7、湿度計8を設置し、ここで検出した温度や湿度を基に、調温機1、調湿機2をコントロールして凝固浴内の温度、湿度を任意に変更することが可能となる。また、凝固浴内に気流を発生させるため、凝固浴室9の下部から強制排気を行う。
【0021】
紡糸口金5から吐出された重合溶液は紡糸口金5の吐出面と凝固浴液4の液面間の気相部を通過する際ミストを発生する。気相部に滞留したミスト及び気相部の気体の露点が雰囲気温度より低い場合は結露の発生はないが、露点が高い場合は吐出口金面に結露が発生する。また、一度付着した微少な結露は紡糸口金から定常的に発生するミストを吸収し更に成長し、強いては液滴になり紡出糸に接触したり、紡糸口金5の吐出面と凝固浴液面間の気相部を閉塞させる場合がある。このような現象は特に紡糸口金5のホール数が2000ホールを越え吐出溶液からのミスト霧が増加するにつれてより顕著に現れる。したがって凝固浴内の雰囲気露点を気相部の気体、及び発生するミストの露点以下にすることが重要である。また、供給する外気は、季節間差があるため場合によっては、夏は外気温が高いため、調湿機のみ使用、また、冬場は湿度が低いため調温機のみ使用で本発明の効果が得られる場合がある。なお、本発明においては、紡糸口金の形状については特に限定されることはない。
【0022】
アクリル系重合体溶液(紡糸原液)の温度としては、温度が低い方が溶媒の蒸発量は少ないため好ましく、アクリル系重合体溶液(紡糸原液)に用いられる溶媒の凝固点以上であればよいが、温度が低すぎるとアクリル系重合体溶液(紡糸原液)粘度が高くなり可紡性が悪くなり操業性を低下させてしまうため、凝固点以上、凝固点+20℃以下、さらに好ましくは凝固点+5℃以上、凝固点+15℃以下であることが好ましい。凝固浴液としては、通常、アクリル系重合体溶液(紡糸原液)に用いた溶媒と同じ溶媒の水溶液が用いられるが、特に有機溶媒系で結露が発生しやすいため、DMSO、DMF、DMAcの水溶液を凝固浴液として用いた場合に、特に本発明の効果が顕著に現れる。なお、凝固浴液の温度が高いと浴液の蒸気により結露が発生しやすいので、極力結露の発生を抑制する観点から凝固浴液の温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは7℃以下とする。しかしながら、かかる温度が低くなりすぎると可紡性が悪くなり操業性を低下させてしまうため、0℃以上、好ましくは1℃以上とするのが良い。
【0023】
紡糸口金として、生産性を考慮して、2000ホール以上、24000ホール以下の孔数のものを用い、1ホール当たりの口金占有面積(紡糸口金面積÷孔数)は5mm2以上10mm2 以下としたものを用いたような場合に、本発明の効果が最も発現しやすい。孔数が少ない場合や、1ホール当たりの口金占有面積が大きい場合は生産性が著しく低下するとともに、乾湿式紡糸を行う際の紡糸口金と凝固浴液との気相部に十分な空隙が確保できるため、特に結露の発生は起きないことが多い。
【0024】
本発明は、アクリル系重合体を用いてアクリル系繊維、特に炭素繊維前駆体であるアクリル系繊維を製造する際に特に効果を奏するが、その場合の特有の条件について、次に詳細に説明する。
【0025】
乾湿式紡糸を行う際のアクリル系重合体溶液(紡糸原液)は、アクリル系重合体の含有率が、18〜22重量%である溶液を用いる。アクリル系重合体におけるアクリロニトリルの使用量が少なすぎると、得られるアクリル系繊維を焼成して得られる炭素繊維の強度が低く、優れた機械的特性を有する炭素繊維を製造することが困難となることがある。また、アクリル系重合体溶液(紡糸原液)における重合体の含有率が少ない場合、溶媒の含有量が多いことになり、乾湿式紡糸における紡糸口金と凝固浴液との間の気相部で溶媒の蒸気量が多く結露を発生させる要因となる。また、逆に、重合体の含有量が多すぎる場合、溶媒の蒸気量は少ないが、アクリル系重合体を重合する際に、粘度の上昇、ゲル化の促進が進むため、乾湿式紡糸を行う際に、紡糸口金の吐出孔を防ぎ繊維の密着や繊度斑、単繊維切れを発生させ、後続する工程でのローラー巻き付き、延伸工程での毛羽、糸切れの原因となり、操業性、及び、品質を低下させる要因となる。
【0026】
本発明は、繊維束当たりのフィラメント数が、通常2000〜24000の範囲、またその単繊維繊度としては通常0.5〜3.3dtexの範囲のものを得る場合に好適に採用できる。凝固浴で繊維化された繊維束を直接延伸浴中で延伸しても良いし、また溶媒を水洗して除去した後に浴中延伸しても良い。浴中延伸は40〜98℃の浴中で約1.5〜6倍に延伸することが好ましい。
【0027】
さらに浴中延伸後、シリコーン油剤を付与することが好ましい。油剤の付与方法としては、具体的には浸漬法、キスローラー法、ガイド給油法などの手段が採用される。付与するシリコーン油剤の付着量は好ましくは0.01〜8重量%、より好ましくは0.02〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%とするのがよい。かかる付着量が少ないと、単繊維同士で融着が起こり得られる炭素繊維の品質品位が低下することがあり、多すぎると、製糸、焼成工程での油剤脱落量増加により、操業性悪化、製糸工程での油剤付着斑による品位低下を起こすことがある。
【0028】
油剤を付与された糸条は、少なくとも1つ以上のホットドラムなどで乾燥することにより、繊維束の乾燥緻密化を達成することができる。乾燥温度は高いほどシリコーン油剤の架橋反応が促進されるので好ましく、具体的には150℃以上が好ましく、さらには180℃以上が好ましい。
【0029】
さらに、乾燥緻密化後の繊維束は、必要に応じて加圧スチーム中などの高温環境で、更に延伸しながら熱処理することもできる。かかる熱処理により油剤が均一に拡がり単繊維間接着に由来する表面欠陥の発生を防ぐ効果が大きくなり、より好ましい繊度、結晶配向度を有する繊維束を得ることができる。延伸時のスチーム圧力、温度そして延伸倍率などは糸切れ、毛羽発生のない範囲で適宜選択して使用するのがよい。
【0030】
このようにして得られた繊維束は、用途、物性などに応じて適宜焼成条件を選定し焼成処理することにより経済性に優れた炭素繊維を製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本実施例で用いる口金面の結露の程度は次のようにして判定した。すなわち、1週間連続して紡糸を続けたときの紡糸口金面の、結露の大きさ、個数を測定し、次の規準で点数換算した。
【0032】
結露の直径〜2mm未満 :1点/個
結露の直径2mm以上5mm未満:5点/個
結露の直径5mm以上 :10点/個
(実施例1〜7)
アクリルニトリル99重量%、イタコン酸1重量%からなる極限粘度[η]が1.8のアクリル系重合体の20重量%DMSO溶液を溶液重合により調製した。
【0033】
得られたアクリル系重合体溶液(紡糸原液)を、原液吐出孔総数4000個有する口金を用い、紡糸口金の吐出面から一旦空気中に吐出し、約5mmの距離の気相部を通過させた後、DMSO35重量%/水65重量%からなる凝固浴液中に吐出し、凝固繊維を得た。
【0034】
ここで、実施例1〜6では凝固浴室内に供給する外気を調温機で表1に示す温度に昇温し更に調湿機で湿度を表1に示す湿度に制御した外気を500Nm/hrで供給した。また、凝固浴室内下部から排気ファンで500Nm/hr強制排気した。アクリル系重合体溶液(紡糸原液)の温度は、DMSOの凝固点より11.6℃高い30℃に、凝固浴液温度は、5℃に制御した。また、実施例では、原液吐出ホール総数が4000個の口金を使用し、アクリル系重合体溶液(紡糸原液)吐出量を単繊維繊度1.1dtexになるような原液を吐出し紡糸口金の吐出面の結露の程度を表1に合わせて示した。
【0035】
得られた凝固繊維を引き続き水洗した後、70℃の温水中で3倍に延伸し、さらに油剤浴中を通過させてシリコーン油剤を付与した。このシリコーン油剤成分はアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンおよびアルキレンオキサイド変性シリコーンを含む水エマルジョン系とした。油剤浴中の濃度は、純分2.0重量%となるように水で希釈して調整した。さらに180℃の加熱ローラーを用いて、接触時間40秒の乾燥処理を行った。得られた乾燥糸を、0.4MPa-Gの加圧スチーム中で約5倍延伸することにより、製糸全延伸倍率約13倍とし、アクリル系前駆体繊維を得た。
(比較例1〜2)
供給する外気を調温機で表1に示す温度に昇温し更に調湿機で湿度を表1に示す湿度(強制悪化条件)に制御し供給した以外は、実施例と同様にしてアクリル系前駆体繊維を得た。紡糸口金の吐出面の結露の程度を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示す通り、本発明により紡糸口金の吐出面での結露が抑制できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、炭素繊維前駆体繊維束の製造において口金面の結露の発生を抑制するに限らず、あらゆる乾湿式紡糸において結露抑制による生産性向上策として応用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 調温機
2 調湿機
3 給気ファン
4 凝固浴液
5 紡糸口金
6 測温体
7 温度計
8 湿度計
9 凝固浴室
10 アクリル系繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体溶液を凝固浴液上部に設けた紡糸口金から、一旦不活性雰囲気中に吐出させた後、凝固浴液中に導入する乾湿式紡糸によるアクリル系繊維の製造方法であって、凝固浴内の紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の湿度を10〜40%rhにコントロールすることを特徴とするアクリル系繊維の製造方法。
【請求項2】
紡糸口金から吐出したアクリル系重合体溶液の温度と紡糸口金の吐出面と凝固浴液との間に形成される気相部の雰囲気温度の差ΔTを、±10℃の範囲にコントロールする請求項1に記載のアクリル系繊維の製造方法。
【請求項3】
前記紡糸口金が、その孔数が2000〜24000である請求項1または2に記載のアクリル系繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−236139(P2010−236139A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85792(P2009−85792)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】