説明

アクリレート及びアセトフェノンをベースとする水素用着臭剤

本発明は、少なくとも一つのアクリル酸C1-C6-アルキルエステル及びアセトフェノンを含む、水素ガス用の、窒素及び硫黄を含まない、水素ガスの臭気化のためのその使用、水素ガスの臭気化プロセス及び本発明の着臭剤を含む水素ガスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つのアクリル酸C1-C6-アルキルエステル及びアセトフェノン(CAS番号: 98-86-2)を含む、水素ガス(液体中あるいはガス状集合体のH2)のための、窒素及び硫黄を含まない着臭剤、水素ガスのためのその着臭剤の使用、水素ガスの臭気化方法、及び前記着臭剤を含む水素ガスに関する。
【背景技術】
【0002】
(燃料)ガスを含む系の漏出を適時に検出できないとすると、爆発性の(燃料)ガス/空気混合物の高い危険性が潜在的に生じる。
安全性の理由から、十分に強い臭気を有さない(燃料)ガスは、強力な臭気物質を添加することにより通常、臭気化される。
従って、ガスの臭気化とは、警告あるいは警報物質として作用する強力な臭気物質(着臭剤)を、顕著な臭気特性を持たないガス、すなわち、実質的にあるいは完全に無臭の(燃料)ガスへ、添加することである。
これらの着臭剤は、高度に希釈されても知覚することができ、その異常に不快な臭気のため、望ましい方法で人々に警告を連想させる。着臭剤は、不快であり明白なものであるだけでなく、それ以上に、警告する臭気であることを明確に意味するものでなければならない。着臭剤の臭気及び臭気化された(燃料)ガスはそのため、人々の日常生活、例えばキッチンや家において親しみ慣れたものであってはならない。
様々な一般的な燃料ガス及び/または特に水素のための着臭剤は既に報告されている。
【0003】
日本特許公開公報JP-A-55-104393には、アルキンと、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アリル、プロピオン酸エチル、n-酪酸メチル、イソ酪酸メチル及びプレニルアクリレートからなる群より選択される少なくとも二つの化合物、及び任意にtert-ブチルメルカプタンを含む着臭剤が、燃料ガスの臭気化に適することが記載されている。
アクリル酸エチル(70質量%)及びtert-ブチルメルカプタン(30質量%)からなる着臭剤は日本特許公告公報JP-B 51-021402に開示されている。
日本特許公開公報JP-A 50-126004には、C4-C7-アルデヒド類と硫黄化合物の混合物が、着臭剤として報告されている。1kgのプロパンの臭気化を、60質量%のバレアルデヒドと40質量%のn-ブチルメルカプタンの混合物50mgを用いて行ったことが記載されている。バレアルデヒドは、n-ブチルメルカプタンの臭気を強化することが記載されている。2-メチルバレアルデヒドも同様に使用されている。
【0004】
ドイツ国特許DE-A 19837066には、天然ガスの硫黄非含有ガスの臭気化の問題点を、少なくとも一つのアクリル酸C1-C12-アルキルエステルとアルキル-置換1,4-ピラジンを含む混合物により解決したことが記載されている。
米国特許US 2004/0197919は、水素等の燃料の臭気化、例えば、燃料電池における漏出を検出する目的のための臭気化に関する。アルデヒド類、ケトン類、エステル類、フラノン類及びピラジン類を含む化合物クラスからの、多数の有機物質が提案されている。特にエステル類としては、酢酸メチル、酢酸ブチル、酪酸エチル、酪酸メチル及び酪酸エチル-2-メチルが記載されている。
【0005】
ドイツ国特許DE 103 00 556(US 2003/0126796に対応する)では、燃料電池用の燃料ガスの着臭剤として、酢酸または酪酸のような脂肪酸類が提案されている。米国特許US 2004/0072050には、臭気化された水素の燃料電池システムが開示されており、酪酸が着臭剤として記載されている。
【0006】
日本特許JP 2002-060766には、燃料電池用の燃料ガス(ただし水素は開示されていない)のための着臭剤が記載されている。前記公報には、C4-C6-カルボン酸のアルキルエステル類をベースとする着臭剤であって、臭覚効果を強化するための、メルカプタン類、スルフィド類及びピラジド類のクラスから選ばれる一または二の化合物を更に好ましく含む着臭剤が提案されている。
日本特許JP 2003-155488には、非常に多数の悪臭のある化合物のリストを、水素のための着臭剤として開示しており、それらの化合物の幾つかは、窒素及び/または硫黄を含む。これらの化合物は、膜及び触媒適合性について試験が行われた。これらの中で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アセトフェノン、プロパノール及びブタノールが特に記載されている。混合物については開示されていない。多数の典型的な悪臭物質が開示されている。例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、リモネンまたは1,8-シネオール(ユーカリプトール)が挙げられている。これらは、警告効果が無く、この文献から、悪臭特性の観点から特に適切なあるいは改良された着集剤についての記載を選び出すことはできない。
【0007】
米国特許US 2004/0031314は、水素の臭気化のための着臭剤の選択方法について開示する。アクリル酸エチルが開示されているが、利点のある候補としては分類されていない。メチルアミンのようなアミン類、エチルメルカプタンのようなチオール類またはエチルセレノールのようなセレン化合物が好ましいものとして挙げられている。
米国特許US-A 2,430,050及びドイツ国特許DE-A 198 37 066には、抗酸化剤、特にフェノール誘導体類が、アクリル酸アルキルを含むガス着臭剤の安定化に適することが記載されている。
水素の臭気化のための(他の)窒素及び硫黄を含まない着臭剤が探索された。そのような着臭剤としては、従来知られている着臭剤よりも、特性、特に警告臭気としての特性が優れており、警告臭気としての品質が延長された(保存)期間にわたって確保されるように、警告臭気としての品質に加えて、着臭剤の保存安定性が優れていることが好ましい。更に、貴金属触媒と良好な適合性があることも利点である。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、第一に、下記からなる、あるいは下記を含む、窒素及び硫黄を含まない水素ガス用着臭剤を提供する。
A)一または複数のアクリル酸C1-C6-アルキルエステル;
B)アセトフェノン;
C)任意成分である、C3-C4-アルデヒドの群から選択される一または複数の化合物、
D)任意成分である、一または複数の抗酸化剤。
本発明はまた、水素ガスの臭気化のための本発明の着臭剤の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の着臭剤は、窒素及び硫黄を含まない。従って、特に、硫黄を含む化合物あるいは成分(例えば、メルカプタン類、スルフィド類またはジスルフィド類)、若しくは窒素を含む化合物あるいは成分(例えば、アミン類、アミド類、ピリジン類またはピラジン類)を含まない。好ましい実施態様において、本発明の着臭剤は、窒素、セレン及び硫黄を含まない。これらの好ましい着臭剤は、硫黄、窒素またはセレン(例えばセレノール類若しくはセレニド)を含む化合物若しくは成分を含まない。
【0010】
本発明は更に、対応する、少なくとも98質量%の水素含量を有する水素ガスの臭気化プロセスに関する。このプロセスにおいて、本発明の着臭剤を水素ガス中に添加する。
このプロセスにおいて、本発明の着臭剤を水素ガスに添加する。好ましい実施態様については、好ましい着臭剤と本発明の使用の詳細を参照されたい。
【0011】
本発明はまた、(i)少なくとも98質量%の水素含量を有する水素ガス、及び(ii)本発明の着臭剤を含む、臭気化された水素ガスを提供する。
望ましくは、臭気化される水素ガスは、少なくとも99質量%、好ましくは少なくとも99.9質量%、特に好ましくは少なくとも99.99質量%の水素含量を有する。水素ガスの好ましい実施態様において、臭気化されるべき水素ガス(本発明の成分(i)の臭気化された水素ガス)は、少なくとも99.99質量%の水素含量を有し、最大で2ppmの酸素(O2)、最大で3ppmの窒素(N2)、最大で5ppmの水及び最大で1ppmの炭化水素類を含む。
【0012】
本発明の着臭剤の成分A)のアクリル酸C1-C6-アルキルエステル類は、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸n-プロピルエステル、アクリル酸イソプロピルエステル、アクリル酸n-ブチルエステル、アクリル酸イソブチルエステル、アクリル酸tert-ブチルエステル、アクリル酸n-ペンチルエステル、アクリル酸イソペンチルエステル及びアクリル酸n-ヘキシルエステルからなる群より選択されることが有利である。
アクリル酸C1-C4-アルキルエステル類として、特にアクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸n-プロピルエステル、アクリル酸イソプロピルエステル、アクリル酸n-ブチルエステル及びアクリル酸イソブチルエステルが好ましい。アクリル酸C1-C4-アルキルエステル類として最も好ましくは、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル及びアクリル酸n-ブチルエステルである。本発明の着臭剤の成分A)は、好ましくはアクリル酸メチルエステル及びアクリル酸エチルエステルからなる。
【0013】
もし、本発明の着臭剤が、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル及びアクリル酸n-ブチルエステルを含む群から選択される二種類のアクリル酸C1-C4-アルキルエステル類を含む場合には、より低分子量のアクリル酸アルキルエステルとより高分子量のアクリル酸アルキルエステルの質量比(より高分子量のアクリル酸アルキルエステルに対するより低分子量のアクリル酸アルキルエステルの質量比)は、9:1〜1:9であり、好ましくは7:3〜3:7であり、特に3:1〜1:4である。より低分子量のアクリル酸アルキルエステルとより高分子量のアクリル酸アルキルエステルの質量比は、最も好ましくは1:1〜1:3である。
望ましくは、成分A)は、本発明の着臭剤が成分C)とD)を含まない場合には、本発明の着臭剤中に、着臭剤の全質量に対し、80〜97質量%、好ましくは85〜97質量%、より好ましくは90〜97質量%の割合で含まれる。
【0014】
もし、本発明の着臭剤が成分C)を含む場合には、成分A)は、着臭剤の全質量に対し、80〜97質量%、好ましくは85〜95質量%、より好ましくは85〜92質量%の割合で含まれる。
望ましくは、成分B)(アセトフェノン)は、本発明の着臭剤中に、着臭剤の全質量に対して、1〜15質量%、好ましくは2〜12質量%及び特に好ましくは3〜8質量%である。
【0015】
本発明の着臭剤中に任意に含まれる、成分C)のC3-C4アルデヒド類は、好ましくはプロピオンアルデヒド若しくはn-ブチルアルデヒドである。成分C)は、好ましくはプロピオンアルデヒドからなる。
【0016】
もし存在する場合には、成分C)は、好ましくは、本発明の着臭剤中に、着臭剤の全質量に対して、1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%含まれる。
もし、本発明の着臭剤が成分C)を含む場合には、成分B)と成分C)の質量比(成分C)に対する成分B)の質量比)は、好ましくは3:1〜1:3の範囲であり、より好ましくは2:1〜1:2であり、特に好ましくは1.2:1〜1:1.2である。
【0017】
本発明の着臭剤は、例えば安定性を向上させるために、一または複数の抗酸化剤を成分D)として含むことができる。成分C)が存在しない場合には、一または複数の抗酸化剤の添加は必要ではない。もし、成分C)が本発明の着臭剤の成分である場合には、成分D)の存在は、非常に有利である。特に、成分D)が存在すると、本発明の着臭剤において高い保存安定性(20℃若しくは40℃において6ヶ月を超える)が達成されると共に、本発明の臭気化された水素ガスの相当する保存安定性が得られる。
【0018】
下記の化合物(抗酸化剤)を、成分D)に使用する例示化合物として挙げることができる: ビタミンCとその誘導体(e.g. パルミチン酸アスコルビル、酢酸アスコルビル)、トコフェロール類及びその誘導体(e.g. ビタミンE、ビタミンEアセテート)、ビタミンA及びその誘導体(ビタミンAパルミテート)、フェノール性ベンジルアミン類、蟻酸、酢酸、安息香酸、ソルビン酸、ヘキサメチレンテトラミン、tert-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、tert-ブチルヒドロキシアニソール、α-ヒドロキシ酸(e.g. クエン酸、乳酸、リンゴ酸)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(4-メトキシフェノール)、2-エチルフェノール、4-エチルフェノール。本発明の着臭剤及び本発明の臭気化された水素ガスに対して、tert-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びハイドロキノンモノメチルエーテルが、特に有効であり、良好な安定化作用を有することが明らかになった。
望ましくは、着臭剤中の抗酸化剤(成分D)の全量(存在する場合には)は、0.01〜0.2質量%、好ましくは0.02〜0.15質量%、特に好ましくは0.05〜0.1質量%の範囲である。
【0019】
好ましい実施態様において、本発明は窒素及び硫黄を含まない、下記を含むあるいは下記からなる着臭剤(及び少なくとも98質量%の水素含量を有する水素ガスの臭気化のための使用)に関する。
A)二つの異なるアクリル酸C1-C4-アルキルエステル類;
B)アセトフェノン;
C)プロピオンアルデヒド及び/またはn-ブチルアルデヒド;
D)任意成分である、一または複数の抗酸化剤。
【0020】
特に好ましい実施態様において、本発明は、窒素及び硫黄を含まない、下記を含むあるいは下記からなる着臭剤(及び少なくとも98質量%の水素含量を有する水素ガスの臭気化のための使用)に関する。
A)アクリル酸メチルエステル及びアクリル酸エチルエステル;
B)アセトフェノン。
好ましくは、これらは上述した好ましい質量比で含まれる。
【0021】
望ましくは、特に好ましい実施態様に従う成分A)とB)の合計は、着臭剤の全質量に対して、85〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは95〜100質量%である。
最も好ましい着臭剤は、
A)60質量%のアクリル酸エチル及び35質量%のアクリル酸メチル;
B)5質量%のアセトフェノン
である。
【0022】
更に特に好ましい実施態様において、本発明は、窒素及び硫黄を含まない、下記を含むあるいは下記からなる着臭剤(及び少なくとも98質量%の水素含量を有する水素ガスの臭気化のための使用)に関する。
A)アクリル酸メチルエステル及びアクリル酸エチルエステル;
B)アセトフェノン;
C)プロピオンアルデヒド及び/またはn-ブチルアルデヒド;
D)一または複数の抗酸化剤、好ましくはtert-ブチルヒドロキシトルエン及び/またはハイドロキノンモノメチルエーテル。
好ましくは、これらは上述した好ましい質量比で含まれる。
【0023】
望ましくは、更に特に好ましい実施態様に従う成分A)からD)の合計は、着臭剤の全質量に対して、90〜100質量%、好ましくは95〜100質量%及び特に好ましくは98〜100質量%である。
【0024】
更に特に好ましい実施態様に従う最も好ましい着臭剤は、
A)59.9質量%のアクリル酸エチル及び30質量%アクリル酸メチル;
B)5質量%のアセトフェノン;
C)5質量%のプロピオンアルデヒド、及び
D)0.1質量%のtert-ブチルヒドロキシトルエン及び/またはハイドロキノンモノメチルエーテル、
からなる。
【0025】
本発明の着臭剤において、成分C)の存在により、成分A)及びB)のみを含む混合物と比較して、より良好な警告臭気を達成することができる(これに関連して実施例も参照されたい)。
【0026】
望ましくは、水素ガスに対する着臭剤の量は、水素ガス1kgに対し着臭剤が5〜100mg (5〜100 mg/kg、5〜100 ppmに相当する)、好ましくは10〜80 mg/kg、特に好ましくは15〜70 mg/kgであり、最も特に好ましくは20〜60 mg/kgである。
【0027】
臭気の検出限界は、それよりも高い濃度において媒体中あるいは媒体からの臭気物質の臭気が人により検出される濃度である。59.9質量%のアクリル酸エチル、30質量%のアクリル酸メチル、5質量%のアセトフェノン、5質量%のプロピオンアルデヒド及び0.1質量%ハイドロキノンモノメチルエーテル(4-メトキシフェノール)からなる(以下、混合物Aと呼ぶ)本発明の着臭剤の臭気検出限界は、試験者群(12人のトレーニングされた試験者)により、一連の希釈物に対して(希釈剤:合成空気またはガス状窒素)決定した。値は62.5 pg/l(ピコグラム/リットル)であった。
【0028】
50 mg/kgの混合物Aを含む、本発明の臭気化された水素ガス(水素含量>99質量%)の警告臭気を、水素を空気中に1:200〜1:2000の範囲で希釈して、試験者群(30名のトレーニングされた試験者、そのうち15名が女性で、15名が男性)により、臭気特性として明瞭であるか、強度が強いかについて試験した。1(完全になし)から5(非常に強い)のスケールで、下記臭気評価を得た。
攻撃的: 3.3
不快: 3.8
警告: 3.9
化学的: 3.6
フローラル、フルーティ: 1.8
フレッシュ: 1.7
【0029】
更に、本発明の混合物Aで臭気化した水素ガスの保存安定性を、1kgの水素に対して50mgの混合物Aを用いて試験した。本発明の臭気化した水素ガスをスチールチューブ中で、水素圧800バール、25℃または80℃で、3ヶ月間保存した。20℃に冷却し、圧力を1バールに低減した後、12人のトレーニングした試験者により臭気を評価したところ、両ケースとも臭気特性または臭気強度において有意な変化あるいは低下は無かった。
【0030】
着臭剤は、できる限り、触媒毒作用を示さないべきである。触媒毒作用を示す着臭剤を含む水素は、水素化反応または燃料電池における使用に不適切である。
この理由から、本発明の着臭剤は、触媒適合性についても試験を行った。試験系は下記に記載する系を使用した。
【0031】
α-及びβ-ピネンの混合物(以下、試験混合物と呼ぶ)を溶媒の酢酸エチルに溶解した。活性炭上のパラジウムまたはプラチナ(金属含量: 5質量%PdまたはPt、無水触媒に対して)を、水素化触媒として添加し、試験混合物を、6時間、水素圧力200バールで、かつ25℃において水素化を行った。ジヒドロピネンが、定量的に得られる。
【0032】

【0033】
試験する物質(物質の混合物であってもよい)を水素化の前に試験混合物に添加すれば、水素化の進行と、反応混合物の組成物から、触媒毒としての物質の効果についての結果が得られる。
【0034】
特に、もし、触媒毒として作用する物質(例えば、メルカプタンのような硫黄化合物、ピリジンのような芳香族窒素化合物)を試験混合物に、水素化の前に添加すると、顕著な不完全水素化が起こり、β-ピネンの環外二重結合の水素化が、α-ピネンの環内二重結合の水素化よりも早く進む。極端な場合には、水素化反応は、全く進まない。
【0035】
一方、もし触媒に許容性のある物質を添加した場合には、反応は、試験混合物のみの場合と全く同じように進む(完全な水素化が起こりジヒドロピネンを形成する)。
【0036】
本方法の利点は、試験する物質に依存せずに、水素化の完了におけるジヒドロピネンと、α-及びβ-ピネンの量(比率)の評価(GC、GC-MS)により、試験する物質から誘導される反応生成物を分析する必要なく、触媒毒としての物質の作用について、結論を得ることができることである。
本発明の着臭剤、例えば混合物Aを用いると、上述した試験系において、これらの着臭剤に対して触媒は許容性を示し、着臭剤は触媒毒として作用しない。ジヒドロピネンを形成する試験混合物の完全な水素化が起こった。アセトフェノンのみを添加した場合にも同じ結果が得られた。
【0037】
下記実施例は本発明を例示するものである。
特に述べない限り、全ての数値は質量に基づく。
略号(Key):
MeAcr: アクリル酸メチル; EtAcr: アクリル酸エチル; Acetph: アセトフェノン; C3-Ald: プロピオンアルデヒド; BHT: tert-ブチルヒドロキシトルエン; Hydr: ハイドロキノンモノメチルエーテル
【0038】
実施例1−成分A)、B)及びC)の各物質としての評価
本発明の着臭剤の成分A)、B)及びC)を、それぞれ各物質として、警告臭気に関する臭気として25及び50mg/kg水素ガスの濃度で試験した(詳細: 99.99質量%水素、最大で2 ppm酸素、最大で3 ppm窒素、最大で5 ppm水、及び最大で1 ppmアルカン及びアルケン)。臭気の警告強度を、非臭気化水素ガス(ブランク値)と比較した。
室温(約20℃)で、スチール若しくはアルミニウムフラスコ(200バール水素圧)から、試験する着臭剤で臭気化した水素ガスを大気圧へ減圧バルブにより減圧して、トレーニングされた試験者群により出現した臭気化水素ガスの臭気評価をすることにより、試験を行った。評価を、1(非常に弱い/警告なし)から10(非常に強い/強い警告効果)のスケールで評価した。記載された値は平均値である。
結果は、両濃度で実質的に同じであった(25及び50 mg/kg水素)。表1は、各物質として使用した場合において成分A)、B)及びC)を比較したものである(すなわち、本発明の着臭剤の形態ではない)。
【0039】
表1:

【0040】
表1から、それぞれ(すなわち混合しない場合)の成分A)、B)及びC)は、適切な臭気化効果を示さないことがわかる。
【0041】
実施例2−本発明の着臭剤の評価(成分A及びBの混合物):
表2は、成分A)型の二つの化合物と、成分B)のアセトフェノンを含む混合物の評価を示している。方法は、実施例1で述べたものと同じである。成分A)及びB)の欄の数値は、混合物中の各物質の質量パーセントに相当する。
【0042】
表2:

表2から、実施例1と比較して、成分A)型の二つの化合物と、成分B)のアセトフェノンとを含む混合物は、顕著に改良された臭気化特性を示すことがわかる。
【0043】
実施例3−本発明の着臭剤の評価(成分A、B及びCの混合物)
表3は、成分A)型の二つの化合物、成分B)のアセトフェノン、及び成分C)のC3-アルデヒド(プロピオンアルデヒド)を含む混合物の評価を示している。方法は実施例1に記載した方法と同じである。成分A)〜C)の欄の数値は、混合物中の各物質の質量パーセントに相当する。









【0044】
表3:

表3は、成分A)、B)及びC)を含む混合物(すなわち、成分C)を含む本発明の着臭剤)を使用することにより、顕著な臭気化特性を与えることを示している。成分C)としてプロピオンアルデヒドの代わりにn-ブチルアルデヒドを使用して得られる効果も実質的に同等であった。
【0045】
実施例4−保存安定性試験
保存安定性を評価するために、(i)成分D)を含まない、または(ii)成分D)として様々な抗酸化剤を含む、本発明の着臭剤に、水素ガスを添加し、得られた臭気化水素ガスの臭気特性を、40℃で所定試験期間保存した後、実施例1と同様に試験した。保存安定性の評価基準は、保存していない臭気化水素ガスと保存した臭気化水素ガスにおいて、臭気が有意に一致することである。
水素ガスに添加した着臭剤の量は、40 mg/kgであった。
LAG1型の着臭剤は、60%EtAcr、より少ないy%抗酸化剤、35%MeAcr及び5%アセトフェノンからなる(成分A及びB及び任意のD)。
LAG2型の着臭剤は、60%EtAcr、より少ないy%抗酸化剤、30%MeAcr、5%アセトフェノン及び5%C3-Aldからなる(成分A、B、C及び任意のD)。
表4は、比較結果を示す。
保存安定性の評価: a = 2ヶ月未満; b = 最大3ヶ月; c = 最大5ヶ月; d = 6ヶ月より長い。
【0046】
表4:

【0047】
成分C)が無い場合(着臭剤LAG1)、抗酸化剤(成分D)の添加は不要であり、6ヶ月より長い期間、40℃で保存した後において、臭気は依然として強く認知できた。しかし、抗酸化剤の添加は有害ではない。
成分C)が存在する場合(LAG2)、抗酸化剤の適切な選択及び量を用いて、6ヶ月より長い期間40℃で保存した後、警告臭気は依然として強く認知できた。
水素ガスと混合しなかった着臭剤LAG1とLAG2を用いた保存安定性試験においても、同じ結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)一または複数のアクリル酸のC1-C6-アルキルエステル;
B)アセトフェノン;
C)任意成分である、C3-C4-アルデヒドからなる群より選ばれる一または複数の化合物;
D)任意成分である、一または複数の抗酸化剤;
からなる、あるいはこれらを含む、水素ガス用の、窒素及び硫黄を含まない着臭剤。
【請求項2】
A)二つの異なるアクリル酸C1-C4-アルキルエステル;
B)アセトフェノン;
C)プロピオンアルデヒド及び/またはn-ブチルアルデヒド;
D)任意成分である、一または複数の抗酸化剤;
からなる、あるいはこれらを含む、請求項1記載の着臭剤。
【請求項3】
A)アクリル酸メチルエステル及びアクリル酸エチルエステル;
B)アセトフェノン
からなる、あるいはこれらを含む、請求項1記載の着臭剤。
【請求項4】
A)アクリル酸メチルエステル及びアクリル酸エチルエステル;
B)アセトフェノン;
C)プロピオンアルデヒド及び/またはn-ブチルアルデヒド;
D)一または複数の抗酸化剤;
からなる、あるいはこれらを含む、請求項1記載の着臭剤。
【請求項5】
80〜97質量%の成分A)及び/または
1〜15質量%の成分B)及び/または
1〜10質量%の成分C)及び/または
0.01〜0.2質量%の成分D)、
からなる、あるいはこれらを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の着臭剤。
【請求項6】
成分B)と成分C)の質量比が3:1〜1:3である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の着臭剤。
【請求項7】
水素ガスの臭気化のための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の着臭剤の使用。
【請求項8】
(i)少なくとも98質量%の水素を含む水素ガス、及び(ii)請求項1〜6のいずれか一項に記載の着臭剤を含む、臭気化された水素ガス。
【請求項9】
少なくとも98質量%の水素を含む水素ガスの臭気化方法であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の着臭剤を前記水素ガスに添加することを特徴とする方法。
【請求項10】
水素1kgあたり5〜100mgの着臭剤を添加することを特徴とする、請求項9記載の方法。

【公表番号】特表2008−524416(P2008−524416A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547475(P2007−547475)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056908
【国際公開番号】WO2006/067112
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(503236223)シムライズ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンジツト・ゲゼルシヤフト (51)
【Fターム(参考)】